SCP-2652-JP
評価: +41+x
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アイテム番号: 2652-JP
クリアランスLv2: Restricted
収容クラス: Euclid
撹乱クラス: 2/Vlam
リスククラス: 3/Warning

特別収容プロトコル: SCP-2652-JP-1は現在封鎖状態にあります。GoI-101AおよびGoI-652からの接触への対応は現在留保されています。SCP-2652-JP-2が再度発生した場合、サイト管理官と研究主任の瑞洞博士に報告し、改訂前の手順に従って廃アスファルト等の処理を実施します。

改定前特別収容プロトコル: SCP-2652-JPはサイト-107内に収容されます。SCP-2652-JP-1内への探査は原則として調査用ドローンによって実施されますが、有人探査を実施する場合はSCP-2652-JP研究主任の瑞洞博士の認可を受けた後、サイト管理官の承認によって許可されます。また、SCP-2652-JP-2が発生した際は、SCP-716-JPの特別収容プロトコルに倣い、廃アスファルトおよび廃車は大型破砕機による処理の後に隣接する焼却処分施設にて処分が実施されます。また、遺体については剖検と身元確認の後、必要に応じてアトラル・エルマ ニューヨーク支部へ連絡・送還します。この目的のため、アトラル・エルマ ニューヨーク支部との接触は継続されます。

SCP-2652-JP-1収容シェルター内には、GoI-652の使用する周波数および財団との取り決めによって設定された周波数それぞれを受信可能な設備を設置し、この周波数によって受発信された音声は24時間体制で録音されます。

説明: SCP-2652-JPは、次元間断裂とこれに関連して発生している異常現象です。

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SCP-2652-JP-1(▲The Gate)周辺の道路およびインターチェンジ概略図。

SCP-2652-JP-1はニューヨーク市ブロンクス区に存在する次元間断裂です。これまでの観測において通常時およそ高さ240cm幅160cm前後のサイズを維持しています。一方で後述するSCP-2652-JP-2発生時は一時的に不安定化し、最大で高さ550cm・幅630cm前後まで変化したことが確認されています。

SCP-2652-JP-1は、双方向性の次元間ゲートとして機能することから、これを介することで基底宇宙の近傍に位置する他の並行宇宙への移動が可能です。このSCP-2652-JP-1内の空間は、 エルマ系諸宗派 によって口語的に「世界境界空間」と呼称される、並行宇宙間に存在する外縁領域に接続されています。SCP-2652-JP研究チームは、これを利用した他の並行宇宙への安全な移動手段の確立についての研究を進めています進めていましたが、この試みは無期限に延期されました。(SCP-2652-JP.4 > 交渉記録参照。)

注目すべき点として、エルマ系諸宗派信者らの認識では、「世界境界空間」内の通過は無意識下の事象であり、内部に滞在した際の記憶の保持や、内部での物質への干渉は不可能であるとされています。しかし、この認識に反してSCP-2652-JP-1内部における意識の保持・物質への干渉は可能であり、その同一性は証明されていません。

SCP-2652-JP-1内部は、他の並行宇宙に由来する宗教団体である、GoI-652(“日本道路伝道団”)の管理下にあります。この団体は、信仰を道路の敷設および道路交通の様式で表現することが知られており、基底宇宙においてはSCP-716-JPの発見によってその存在が財団に認知されるところとなりました。以下は当GoIについて財団が現在認知している情報の概要です。

SCP-2652-JP-1内部は太陽や月のような光源が確認できないにもかかわらず、常時0.2ルクス前後の明るさを維持しています2。また、日本道路伝道団が布教活動によって環境に介入した結果、「巡礼」に使用される高速道路網が整備されています。この路線の全体像は現在も調査が進められていますが、これまでに判明した領域だけで総延長は2500kmを超えています。路線上には日本道路伝道団の信者の物と思われる各種の無人車両のほか、エルマ系諸宗派に属する信者が世界間跳躍の際に使用していると思われる有人車両が走行しています。

SCP-2652-JP-1は不定期にSCP-2652-JP-2と指定される、物質の排出現象を発生させます。この物質は、SCP-716-JP-2として指定されているものと近似した性質を有するアスファルトを中心とした道路構成素材群3を主に、様々なサイズの乗用車とバス等の大型車両、道路敷設に使用される重機、およびごく稀に男女を問わない人間の死体が含まれます。SCP-2652-JP-2の発生頻度は現在まで最大で1日に5回、初期収容以降最も安定していた時期においても、2日に1度以上発生しています。


SCP-2652-JP.1 > 発見

SCP-2652-JPは、当初エルマ系最大宗派であるGoI-101A(“アトラル・エルマ”)4の基底宇宙に滞在している信者らによって、異世界跳躍を行うためのゲートとして使用されていました。しかし2020年3月に初めてSCP-2652-JP-2が発生したことで、これをニューヨーク市警が発見したことからオブジェクト指定が為され、その後収容に繋がりました。この際、複数人のアトラル・エルマ信者らが、SCP-2652-JP-2の発生による負傷以前にSCP-2652-JP-1内において異教徒から謂れのない攻撃を受けたと証言したことを受けて、財団はその身柄を保護しました。

インタビューログ


日付: 2020.3.25

対象: ジョー・マッケンナ

インタビュアー: 小坂研究員

注記: 対象はSCP-2652-JP発見に際して財団が保護したアトラル・エルマ信者の一人です。本インタビューに先んじて、対象は財団保護下で1週間の治療を受けています。


[ログ開始]


インタビュアー: マッケンナさん、お加減はいかがでしょうか。お話をお伺いしても?

対象: ああ、お陰様で落ち着いたよ。ありがとう、あの転移門のことだね。

インタビュアー: ええ、その通りです。あれを使って、その、異世界に移動していたということですが。

対象: あぁ、一緒にいた他の信者とな。俺たちは15人くらいの乗り合いのマイクロバスで、ミステリーツアーみたいに行先の世界がどこになるか分からない跳躍をやろうってことになってた。往復200ドル弱くらいでね。あの門の先は誰が作ったんだか分からないけどハイウェイが通ってて、そこを4・5時間くらい走ることになってたんだ。

インタビュアー: そうなのですね。しかし、皆さんの宗教のことを少し勉強しましたが、跳躍の時でもあの空間を通っている時は意識を保つことは出来ないと聞きました。観光のような形で移動できるものなのですか?

対象: それが不思議なんだけど、確かに前は俺も跳躍すると気づいたら別の世界にいたみたいな感じだったんだよ。でもうちのお偉いさんがあそこの道路の存在に気づいて、修行の一環として道を通っていいってことになったら、なんだか今みたいな感じになったんだ。まぁ前みたいに、跳躍の度に体が痛むこともなくなったから有難いっちゃ有難いんだが。

対象: それでだ、前にも同じ感じで別の世界に跳んで、向こうで数日過ごして戻ったりしてたから今回も似たようなもんだと思ってたんだ。ところが中に入って10分も走らないうちに、車線のド真ん中にでっかいロードローラーみたいなのが2・3台停まってるとこに出くわした。なんだなんだと思ってたら、向こうからこれまたデカいスピーカーで、……えーっと、確か、『こちらは日本道路伝道団です。現在、信仰無き異教徒の通行を一時的に制限しております』って言ってたらしい。日本語らしくて俺には分からなかったから、同乗してたやつ曰くだけどね。

インタビュアー: なるほど。これまではそのようなことはなかったのですね。

対象: もちろん。で、運転手が何か言われてるうちにイラついたのか、ゆっくり前に出て突破しようとしたんだよ。そしたら奴らの重機がこっちに突っ込んできて……。泡食って来た道をぶっ飛ばして戻ったんだ。奴らはデカいから振り切るのはなんとかなったけど、もし大型バスで行ってたらUターンできなくて轢き潰されてたかもな。

インタビュアー: ふむ、それは災難でしたね。

対象: まぁ、エルマのことを思えばなんてことはないさ。それで、こっちに逃げ帰ってきたわけなんだが、その後だよ。あの重機の奴らがやってんのか知らないが、こっちにアスファルトがバンバン門の向こうから流れ込んできたんだ。えらい勢いだったから、何人か巻き込まれて……。本当に、俺たちが何したってんだ。

インタビュアー: つまり、向こうはあなた方を追いかけて、アスファルトを流して攻撃しようとしてきたということでしょうか?

対象: そうなんじゃないか、と思う。あるいは、奴ら道路工事してるところを何度か見たことあるから、こっちに道路を伸ばす気なんじゃないか……?そんで、こっちまで追いかけて……。ああ、エルマよ、どうかお導きを……。

インタビュアー: 分かりました。貴重なお話ありがとうございました。


[ログ終了]



SCP-2652-JP.2 > 探査記録

先のインタビューを受けて、日本道路伝道団が基底宇宙に対して侵略的攻撃を加えている可能性が判明しました。このため、日本道路伝道団への調査およびSCP-2652-JP-2の発生要因の特定を目的として、SCP-2652-JP-1内に調査用ドローンが送られました。

第1回SCP-2652-JP-1内部探査記録


日付: 2020.4.19

注記: SCP-716-JPの収容経験より、日本道路伝道団がSCP-2652-JP-1内にラジオ放送を展開している可能性が高いと考えられたことから、音声を研究チームに転送するための通信装備がドローンに搭載されました。


[記録開始]


0:03: ドローンが離陸し、SCP-2652-JP-1を通過する。映像が数秒暗転し、続けて薄暗いSCP-2652-JP-1内部が映し出される。

0:25: SCP-2652-JP-1周囲の様子をドローンは撮影している。内部から観察したSCP-2652-JP-1は高さ10mほどに達している。周囲には廃アスファルトのほか、バスなどを含む様々なサイズの乗用車5、大型油圧ブレーカ―6などの重機類が廃車となって山状に積まれている。

1:53: 廃アスファルトの接写に画面が切り替わる。観察中もその増殖性から質量が増加していることが確認できる。このため、廃材群全体が微小に震動しており、時折これが崩れSCP-2652-JP-1に流入している。

3:27: 廃車になっている大型観光バスが映し出される。内部に、エルマ系信者と見られる30体ほどの遺体が放置され腐敗しているのが確認された7

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SCP-2652-JP-1内部。


14:12: ドローンは高度を上げて高速道路上を移動しながら空撮する。道路は整地された平面上を走っており、周囲に建造物などは見受けられない。撮影された範囲には、青と白を基調とする装飾を施された乗用車が道路の左側を走行しているのが見える。ドローンは高度を下げ、カメラをそのうちの1台の運転席にズームさせるが、乗車している人物はおらず無人走行状態である。これらの特徴から日本道路伝道団の車両であると推測された。

14:30: 抑揚の少ない女性の声によるラジオ放送が始まる。内容は以下の通り8

(ジングル音)
JHE日本道路伝道団ハイウェイラジオ。
ヘイドウ33年四辻月19日、午後3時現在の高速道路情報をお伝えします。ゴウト方面へ走行中のドウトに、道路ケッセンの情報です。ドウトの自己殉教のため、午後2時15分より、センジョインターからオクセンジョインターまでの上りで、路面整備のため道路のケッセンを実施しています。このため、現場付近のドウトは黙祷による交通檀越を納める義務が生じます。次にジュンタイの情報です。異教徒によるボウジョク行為のため、上りのキンロインターを頭に2キロジュンタイしています。このため、キンロインター付近では高速十字路軍による間引きが実施されます。ドウトの皆様は、停車時はハザードランプによる祝福を実施してください。そのほかの道路で順調に流れています。ドウトの皆様は、安全運転と神へのシンギョウを心がけてください。ハイウェイラジオ、サイニ伝道所よりお伝えしました。
JHE日本道路伝道団ハイウェイラジオ。
(ジングル音)

16:24: 走行中の車両が順次減速し路肩に停車する。それぞれハザードランプを点灯させながら3分間停車した後、再び車線に戻る。

23:44: 3人のエルマ系巡礼者と思われるグループが路肩を徒歩で移動している。一方、反対車線では推定時速180kmのクーペ9が暴走している。

35:04: ドローンは1km以上に渡る渋滞中の車列を撮影する。停車車両は全てハザードランプを点灯している。車列の中に、エルマ系信者が運転するワンボックスカー10が停車しており、内部には定員を大幅に超える25人前後の乗員が確認できる。

37:54: ドローンは渋滞の先頭に向けて移動する。先頭から約2km先の地点で、アトラル・エルマの意匠を施されたピックアップトラック11がホイールローダーやブルドーザーに挟まれ、その後方にレッカー車が確認できる。重機類はどれも青と白を基調に塗装され、黒の十字のマークが入っている12

43:22: 車両を回収したレッカー車および重機群が移動を開始する。ややあって後方から、渋滞で待機していた車両が走行してくる。

1:15:35: ドローンはインターチェンジ付近に到達する。インターチェンジの先にはSCP-2652-JP-1に類似した次元間断裂が存在している。車線上では10人の男性が小型の油圧ブレーカ―を用いて道路を破壊している。服装から、アトラル・エルマに属する征導騎士団13と推測された。路上には重機のほか、中型のパラボラアンテナを装備した車両も確認できる。

1:32:11: 女性の声による日本道路伝道団のラジオ放送が受信される。内容は以下の通り。

(ジングル音)
JHE日本道路伝道団ハイウェイラジオ。
ヘイドウ33年四辻月19日、午後4時現在の高速道路情報をお伝えします。ゴウト方面へ走行中のドウトに、一時ツウギョウドメの情報です。午後3時45分よりイダカミインターからアダマキインターの間で、異教徒によるガイゴウが発生している影響で一時ツウギョウドメになっています。異教徒の排除のため、高速十字路軍による間引きが実施されます。ドウトの皆様は安全のため、イダカミインターとアダマキインターで迂回してください。ガイゴウ為す異教徒に報いあれ。ハイウェイラジオサイニ伝道所よりお伝えしました。
JHE日本道路伝道団ハイウェイラジオ。
(ジングル音)

1:33:34: 車線上の男性らが破壊活動を中止し、次元間断裂に向けて引き返す。同時に、アンテナを搭載した車両から、日本道路伝道団の使用しているものと同じ周波数の電波が発信される。この発信された電波を復号した音声は、以下の通り。

こちらはアトラル・エルマ。アトラル・エルマ、征導騎士団である。
汝らの行いは、我ら同胞同志らの移動および世界間跳躍の自由を妨げ、我らの教義を著しく侵すものである。改めて通告する。妄りに境界空間を荒らし、不当なる枷を我らに与え、跳躍を妨げることをやめよ。我らの再三の警告にも関わらず、汝らがその行いを改めぬことはまことに慚愧の念に堪えぬ。この上は我ら騎士団の手により、救済と同胞らの保護を断乎として実行するものである。我らはエルマ。未踏の異域へ歩み渡り、遍く世界のきざはしとなる者。ゆえに我らは信仰の門戸と対話の扉とを異教徒にも広く開くものである。汝らも我らに対話の扉を開かんとすることを望む。
繰り返す、我らはエルマ。未踏の異域へ歩み渡り、遍く世界の階となる者。アトラル・エルマ、征導騎士団である。

1:35:51: 37:54に観測されたものよりも更に大型のホイールローダーやトラック等無人運転の重機群が現れ、車線上から退避しようとする油圧ブレーカ―2台を轢き潰す。この間に征導騎士団の残りの車両は次元間断裂より脱出する。

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1:36:24。GoI-101AとGoI-652間の武力衝突の様子。



1:48:19: 重機群が廃車となった油圧ブレーカ―および破壊によって発生した廃材を回収する。また、トラックの荷台からアスファルトが降ろされ、重機群によって均されて路面が修復される。この後、重機群はSCP-2652-JP-1に向かって移動を開始する。

2:26:13: 重機群は破壊された路面の廃材および油圧ブレーカ―をSCP-2652-JP-1まで運搬し投棄した。また、これと前後して再度女性の声による放送が発信される。内容は以下の通り。

(ジングル音)
JHE日本道路伝道団ハイウェイラジオ。
ヘイドウ33年四辻月19日、午後5時現在の高速道路情報をお伝えします。午後3時45分からのイダカミインターとアダマキインターの間のツウギョウドメは、午後4時45分解除となりました。これに伴いガイゴウ為せる異教の輩は、高速十字路軍第5軍によって排除されました。また、かの異教徒らによる電波障害の発生を合わせてお詫びいたします。ドウトの皆様は、これからも安全運転と神へのシンギョウを心がけてください。ハイウェイラジオサイニ伝道所よりお伝えしました。
JHE日本道路伝道団ハイウェイラジオ。
(ジングル音)

2:31:04: ドローンは重機群の廃材および廃車の投棄を確認後、無事SCP-2652-JP-1を通過し帰還に成功した。


[記録終了]


補遺: 本探査の結果、SCP-2652-JP-1内においてアトラル・エルマと日本道路伝道団の間で実力を伴った衝突が発生していることが判明しました。本件はSCP-2652-JP-2の発生原因に大きく関係していることが予想されます。SCP-2652-JP-2の根本的な解決と基底宇宙への被害抑制のため、両団体へ何らかの形でコンタクトを取り、この対立が発生した背景ならびに経緯の追加調査を提言いたします。- 小坂研究員



SCP-2652-JP.3 > 追加調査

数度のSCP-2652-JP-1内部探査の結果と報告から、財団はアトラル・エルマへの接触を決定しました。この決定を受けたSCP-2652-JP研究チームは保護下にあるアトラル・エルマ信者らから、その統括にあたっているとされる人物の情報の入手に成功しました。財団はアトラル・エルマ ニューヨーク支部の統括責任者であるチャールズ・クルス上級司祭と接触し、保護下の信者らの引渡し交渉を名目に会談の場を設けました。

アトラル・エルマ インタビューログ


日付: 2020.5.9

対象: アトラル・エルマ ニューヨーク支部 統括責任者 チャールズ・クルス上級司祭

インタビュアー: 小坂研究員

注記: 以下は本件に関係する部分の抜粋です。なお保護下の信者らの引渡しについては、本インタビューの実施およびSCP-2652-JPの基底宇宙への被害の防止への協力と引き換えに、治療完了後にBクラス記憶処理を実施したうえで解放するという条件で合意に達しました。


[ログ開始]


対象: ふむ。かの異教徒らと我らの本部で何が起こっているかについては、私自身もすべてを知っているわけではない。それでも構わなければいくらかお話できることはありましょう。

インタビュアー: お願いします。あなた方の視点から見て、ということで構いません。では、あなた方があの空間を見つけるに至ったのはどういう成り行きだったのでしょうか。

対象: 我らはもとより異世界への跳躍をその教義の本旨とし、修行として行っておる。だが、かの地は跳躍の際に無意識のままにほんの一時通り過ぎる場所にすぎない。そう、例えば、……扉を開けて隣の部屋に行くとする。その間、普段通る場所のドアノブや鴨居に敢えて意識を向けたりはすまい。もちろん、その瞬間に意識を向けることを修行としている信徒はおるが、それほど多いわけではない。元々はそういった場所なのだ。

対象: しかし、1年か2年ほど前から、近隣の世界へ跳躍しようとするとあの空間へ飛ばされるようになった。そう、気づいた時にはあの道路は敷設され、彼奴らの車が行き交っておった。最初のうち信徒は皆恐れておった。あの空間に取り残されれば、二度とどの世界にも行かれず動くことすら叶わなくなると言われておるからな。

インタビュアー: なるほど。あなた方の知る頃には既にあの状態だったのですね。

対象: うむ。その後、かの未踏の地へ赴かんとする敬虔なる同胞が、本部より調査のため跳躍した。数度の探査があったようだが……結果として、本部は跳躍の際にかの地を行くことについては黙認すると決めた。これよりも危険の多き世界はひとつふたつではないし、何よりこれまで意識に上らなかった世界を見ることができるようになったのは、教祖様ひいては女神エルマの思し召しであろうとな。いずれにしても、信徒らの跳躍は自由であるべきなのだ。儀式によって跳ぶ者もあれば、歩いたり泳いだりする者もいるし、そうでなくとも車で行く者は前からいくらでもおったからのう。

インタビュアー: ありがとうございます。確かに我々の調査でも、多くの信者が跳躍していることを確認しています。とはいえ、かなり速度を出したり危険運転をしているような方も見えましたが……よろしいのでしょうか。

対象: あー、そう、だな……。本部としては一応安全運転に努めよとのお達しは出しておる。出しておるのだが……先に言ったように信徒らの跳躍は、手段も目的も全て自由なのだ。できるだけかの地を最速で通過することを修行と考える同胞もいる、運転手として多くの者を他の世界へ渡すことがエルマへの奉仕であると考える同胞もいる。自己の責任と信徒らの相互の扶助による限りは、信仰の形に不要に枷を嵌めるつもりはない。お分かりいただけるだろうか。

インタビュアー: 分かりました。ですが、その、要らぬ心配でしたら申し訳ないのですが、その「異教徒」から取締りを受けている以上、本部の方が介入したりとか注意を促したり……そう言ったことはなさらないのでしょうか。彼らの規則に従えば良いだけのことでしょう?

対象: うむ……いや、その気持ちも分からないではない。しかしな、それも限度があるのだ。交通規則が国ごとに違うというのとはまたわけが違う。この世界から行く者ならば、右側通行か左側通行か、それくらいの違いだろうが、他の世界より来たる同胞はそれすらも理解していないことがある。だからと言って、信徒を選別し「君たちだけは跳躍を遠慮してくれたまえ」などということはできん。エルマの御心に反する。教祖様の教えに反する。それに、このような形で跳躍をしようとする者は、相応の危険は既に承知なのだよ。

インタビュアー: では、道路の破壊行為についてはどうでしょうか。あの道路をわざわざ破壊する信者の方もいらっしゃるようですが。流石にああいった手合いは、えー……私たちからすればあまり好ましくないように思えるのですが。

対象: まぁ、そうだな。これは私個人の意見としてだが、決して褒められたものではないと思う。個人としてはだがね。

対象: 彼らとしては、道を作ったこと自体が我々の跳躍を妨げているという解釈なのだよ。それまで我らはあの空間を何の障害もなく通っていたわけだろう。そこに道を通したことで、同胞らはかの地を車で通ることを強要されている。どころか、交通規則という異教徒が勝手に決めた決まり事を強制され、これに反すれば容赦なく排除される。これが迫害でなくてなんであろうか。そういうことを唱えておる。

インタビュアー: はぁ……そうですか。

対象: いや、うむ。言いたいことは分かる。だが、筋が通っているという点では間違いはない。本部でもこれに賛同する同胞は少なからずおる。ニューヨーク支部としてはもう少し穏当に行きたいとは思っておるが。少なくとも、かの異教徒らのラジオ放送に向けて交渉を呼びかけているのは事実だ。その姿勢がある限り、終局的な事態にまではなるまい。

インタビュアー: いえ、心中お察しいたします。最後にですが、なぜ急にあの空間を我々が認知できるようになったのでしょう。思い当たるようなことはありますでしょうか。

対象: それについては我々も研究の途上なのだ。だが、これだけは言えると思う。

対象: 未知のものは意識には上らない。そして、道が開かれた場所は、最早未知とはなり得ないのだ。違うかね。


[ログ終了]


本インタビューの中で、アトラル・エルマが日本道路伝道団の使用している周波数に音声を発信することで意思疎通を図っているという裏付けが取れました。このことから財団はアトラル・エルマ ニューヨーク支部の協力の下、同様の手法を用いることで、日本道路伝道団に対し更なる情報を得るためのインタビューの実施を決定しました。これを受けて研究チームは以下のメッセージをSCP-2652-JP-1内に発信し、日本道路伝道団と財団との間に通信専用周波数を設ける提案を行いました。

テスト、テスト。こちらは財団です。使用周波数への割り込みを謝罪いたします。
我々財団は、日本道路伝道団の皆様と連絡を取ることを望みます。賛意を示していただける場合、以下の周波数にて返答を願います。指定周波数、████メガヘルツ。繰り返します。指定周波数、████メガヘルツ。これを拒否する場合、現在の使用周波数にて返答を願います。
繰り返します、こちらは財団です。返答を願います。

この提案は受諾され、専用周波数によるホットラインが開設されました。その後数回の予備交渉を経て、日本道路伝道団は財団のインタビューに応じることを承諾し実施に至りました。

日本道路伝道団インタビューログ


日付: 2020.5.30

対象: 日本道路伝道団 シードリック ドウショシ14

インタビュアー: 小坂研究員

注記: 本インタビューは、ホットラインとして指定した専用周波数を介して実施されました。以下はその抜粋です。


[ログ開始]


インタビュアー: 改めて、この度は我々の申し出をお受けいただきありがとうございます。こちらは財団、SCP-2652-JP研究チームの小坂です。聞こえていますか。応答願います。

対象: JHE、こちらは日本道路伝道団サイニ伝道所、シードリック。指定周波数████メガヘルツ、出力10ワットで送信中です。小坂様、電波状況は良好です。

インタビュアー: シードリックさん、こちらも良好です。早速ですがよろしくお願いします。シードリックさん、あなた自身の教団内での立ち位置について教えていただけますか。

対象: はい。私はシードリック。神にお仕えするドウトサイニ伝道所にて神の御意思と道の導きを説くドウショシです。

インタビュアー: ありがとうございます。ではあなた方の広めておられる教えについて、かいつまんで説明をお願いします。

対象: はい。私ども日本道路伝道団は、神が我らの前においでにならないのは、神はひとところに留まらず常に移動されているからである、というところから出発しています。それゆえ、神にお近づきになるためには、私どもも動きの中に身を置き続けることが必要なのです。なれば、私どもは道を敷き神にお通りを願います。私どもが道を広げれば、神と交わる領分は広がってゆくのです。

インタビュアー: なるほど。そうすると、あなた方が車で移動しておられるのは神に会うためであるという理解で良いのでしょうか。

対象: 概ねその通りです。私どもは車両に宿り、道を走ることを最も大事なシンギョウとしております。導きに沿い道を行くは、私どもが神の御許へ近づくその礎です。故に、異教徒らの振る舞いは私どもにとって許し難く、その蛮行は目に余ります。

インタビュアー: ふむ。すみません、その異教徒についてあなた方の見解をお聞かせいただけますか。

対象: はい。かの異教徒らは、道を通るにも関わらずその導きに従わぬ者が多すぎます。道はそこを通らんとするあらゆる者に開かれています。しかし、それは無法の輩を際限なく受け入れるということではありません。道を行く者は須らく巡礼者たるべきであり、導きに従わずボウジョクを為す者は私どもの神へ唾をかける者です。まして道を傷つけガイゴウを為すというのは言語道断です。

インタビュアー: えー、そう、ですね。……確認しますが、あなたのおっしゃる「導き」とは、あの道路を通る際の、えー……「規則」と考えてよいのでしょうか。

対象: おそらく、そのように捉えていただいて構いません。繰り返しますが、導きに従う者であれば例え異教の輩にも、道はいつでも開かれています。正しくシンギョウを共にする者はみな信者として、私どもが庇護します。かの異教徒らにも、それが伝わればよいのですが。

インタビュアー: ええ、その通りですね。……我々は彼らとも接触をしております。もし、あなた方が彼らとの間に意思疎通を図りたいということでしたら、私たちも労を厭いません。何かあれば引き続きこの周波数に連絡をいただければと思います。

対象: 申し出に感謝いたします。私どもも偏狭なドウトとなることは厳に戒めます。


[ログ終了]



SCP-2652-JP.4 > 交渉記録

先の両GoIへのインタビューと、これに続く各組織内での調整および実務担当者レベルにおける財団との予備交渉は成功裏に終了し、三者の代表による本交渉が持たれることとなりました。本交渉においては、SCP-2652-JP-2による基底宇宙への被害の抑制、エルマ系信者のSCP-2652-JP-1内における保護、日本道路伝道団によって敷設された道路網の保護と相互利用の3点について、三者による擦り合わせと検討が行われる予定でした。

結果として、本会合は失敗に終わり交渉は決裂となりました。以下は本交渉における議事録の抜粋です。

2020.8.10三者会談議事録


日付: 2020.8.10

発言者:  アトラル・エルマ本部 全権 ジョット・カーヴス 崇奇卿15
日本道路伝道団 全権 マーベリック コウドカン16
財団(オブザーバー) 瑞洞 SCP-2652-JP研究主任

注記: 本インタビューは、ホットラインとして指定した専用周波数を介して、財団が日本道路伝道団およびアトラル・エルマ ニューヨーク支部に逗留中のカーヴス崇奇卿を音声で繋ぐ、変則的な電話会談の方式によって実施されました。以下はその抜粋です。


[ログ開始]


瑞洞: では、信者間の諍いについては、会談後は互いに厳に慎む旨、この点については相互に確証をいただくということでよろしいでしょうか。

カーヴス: うむ。問題あるまい。同胞の命に代えるほどの物事などなにがあろうか。

マーベリック: 私どもも異論ありません。

カーヴス:いや、改めて仲介の労を執っていただき、エルマ本国を代表し感謝する。麾下の者らにも早急に剣を置くよう申し付けよう。

瑞洞: そのようなことを。お気になさらず、我々は我々の世界を保護するのが役目ですから。

瑞洞: ……不可侵については以上ですね。では道路の相互利用についてですが、こちらの要件については、従前実務者会談において議論した通りですね。第一に「交通規則の遵守」。日本道路伝道団で言う「導き」には、エルマ系信者も同様に道路利用時に従うこと。

カーヴス: うむ。規則を守らぬ者がいることは本国指導部でも問題視しておった。同胞らの安全確保のためにも、指導教育する仕組みを作らねばな。

マーベリック: よろしくお願いします。

瑞洞: 第二に、「相互の教義および慣習の尊重」。具体的には、日本道路伝道団側はエルマ系信者が道路を世界間移動に使用することを理解・承認し、エルマ系信者は道路利用時にはドウト……えー、日本道路伝道団信者の振る舞いに倣い、黙祷などの求めに応じること。

マーベリック: こちらもお願いします。

カーヴス: これについては一部の者は反対しておるが……とはいえ、異文化・異世界の尊重は我らの宗旨に沿うところである。跳躍の際の無法は厳に慎むよう、なんとか納得させよう。

瑞洞: 第三に、「殉教者の取り扱い」。道路上で事故その他の要因で死亡した者は、殉教者として日本道路伝道団がこれを葬ること。以上です。

マーベリック: 殉教者は私どもの手で篤くドウソウによる弔いを行います。

カーヴス: ドウソウ?うむ……?

カーヴス: 確認だが、我らの同胞は、エルマのみならずそれ以外の宗教も同時に信仰しておる者が多い。その意思は尊重されるということで良いのだな?エルマの教えでは異世界に骨を埋めることは問題ないが、土葬・火葬・風葬・水葬……どのように葬られるか、同胞らの希望があればそれは尊重されるということで間違いないのだろうな。

瑞洞: えっ。

マーベリック: 説明します。道路での殉教者はドウソウにて荼毘に付します。

マーベリック: そもそも道を通る者は皆ドウトです。道を通ることは、神と行き合うためのシンギョウです。ですから、道を通る者を神は皆ドウトと認識なさいます。道を通ることは、私どもの神とお会いすることを目指し、信仰することです。ですので、道路上で亡くなった者は殉教者ですから、私どもが責任を持ってドウソウいたします。さすればその御魂は道に導かれ、神の御許へ向かわれることでしょう。

カーヴス: 承服いたしかねる!

マーベリック: えっ。

瑞洞: ええっ?

カーヴス: 分かっていて仰るか。我らはエルマの信徒であるのだぞ。異教徒として葬られれば、それは最早死後にその者の意思によらず改宗させられたに等しい。死者に対し鞭打ち、侮辱を投げかけるに等しい行いではないか。規則や礼儀を守るのとは訳が違う!

瑞洞: 崇奇卿、どうか冷静に。マーベリックコウドカン、いかがでしょう。

マーベリック: と、申されましても。私どもとしても最低限の要件に絞ってお願いしております。

マーベリック: 道を行く者にはドウトとしての振る舞いをお願いします。その中には私どもの神への礼儀として、死後には道に従い神の御許へ罷り越すことも含まれます。

カーヴス: 勝手なことを言わないでいただきたい!我らは我らの信仰のために道を通っているまでのこと、勝手に我らが皆そちらの神を信仰しているなどと取り違えられては困りますぞ!

マーベリック: お言葉ですが卿、卿は「通る」という行為を軽視し、通ることができるならば如何様でもよいと言わんばかりです。皆様が他の世界へ赴くことを「巡礼」として重視するように、私どもはシンギョウを重視しておりますことを御理解ください。

瑞洞: 御二方とも、どうか落ち着いてください。

カーヴス: 分かっておらぬな。我らは異世界に到達し滞在することが重要なのであって、それ以外は同胞らの自由なのだ。どのような手段で跳んでも構わない、どのような要素を重視しても構わない、そしてどのような形で信仰をしても構わない。これこそがエルマの教えの根本なのだ。諸君らの教えをエルマの教えと共に信ずる者がいても構わないが、同時に信じない自由も許されなければならぬ。

マーベリック: ……その主張こそが身勝手ではないでしょうか。そもそも、道は私どもが私どもの信ずるところによって敷いたものです。後からやってきて我が物顔で走り、我らの神に敬意を払わないというのは、身勝手とどのように違うでしょうか。

カーヴス: 何を言う!それを言えば元々我らは跳躍の折に触れてあの場所を通っておったのだ。諸君らこそ、後からやってきたにもかかわらず勝手に道路を通して配慮せよとは何事か!

マーベリック: そうであれば、私どもが道路を敷く前に仰っていただきたく思います。私どもは知る由もないことです。

マーベリック: 皆様が通ることは構いません。しかし、神に非礼を為し敢えて唾する輩まで通せば、それは私ども自身の不信心と同じであり、認められません。

カーヴス: 道路とは何者にも開かれている場所のはずであろう?車もいれば歩行者もいれば、自転車やバイクも通る場所、我らの世界ではそういう場所を道路と言うのだ!それを線引きするような場所は最早道ですらない!

瑞洞: 埒があきません、一度30分の休憩を挟みましょう。


[ログ終了]


補遺: この後14時間に渡り交渉が継続されましたが、双方の教義的核心が致命的に相違しているために最終的に会談は決裂しました。アトラル・エルマが通行を手段として見なし、日本道路伝道団がこれを目的としているために、相互の理解は非常に困難であると思われます。 - 瑞洞研究主任


本会談の後、SCP-2652-JP-2の発生がより顕著にその頻度を増しました。これを受けて、SCP-2652-JP研究チームは再度SCP-2652-JP-1内に調査用ドローンを派遣しました。

第6回SCP-2652-JP-1内探査記録


日付: 2020.9.12

注記: 前回探査時と同様、調査用ドローンに日本道路伝道団の放送周波数の音声を転送する通信装備が搭載されています。


[記録開始]


0:02: ドローンが離陸し、SCP-2652-JP-1を通過する。映像が数秒暗転し、続けてSCP-2652-JP-1内部が映し出される。

0:51: 廃アスファルトのほか、以前に観測されたものと比較して4~5倍と推定される量の廃材や廃車、故障した重機が観察される。また、人間や動物の死体が所々に埋まっている。これらの廃棄物は前回の探査同様SCP-2652-JP-1に不定期に流入しており、流入量も増加が見られる。

5:11: 前回の探査と同様のルートでドローンが移動する。十字路軍のものと思われる重機群が車線上を走行している。路肩には正面衝突を起こしたと考えられる型式不明のバンとトラックが放置されている。

6:32: 重機群の走行方向から3台の大型二輪が約時速90kmで逆走してくる。重機はこれを制止するように停止するが、いずれも路肩をドリフト走行することで躱して抜き去る。

10:49: インターチェンジ近辺で征導騎士団の油圧ブレーカ―が、車列を作って路面を破壊している。車列の先頭付近では十字路軍のホイールローダーが1台の油圧ブレーカ―を破壊しているが、その周囲で3人のアトラル・エルマ信者が火炎瓶を投擲して抵抗している。

21:33: インターチェンジを過ぎて2kmの地点で、ロードサイドにプレハブや屋台が立ち並ぶ様子が記録される。いずれもエルマ系の信者らが経営していると見られる飲食店、ガソリンスタンド、日用品店等であることが看板からうかがえる。路上を走る車に向けて客引きを行う者もいる。

24:20: 前方から、無人運転のトヨタ自動車製プリウス7台が連なって走行してくる。客引きをしていた者が路上から逃走する。車内には人影が見られない。

24:46: プリウスは速度を落とすことなくプレハブ群に突入し、これらの店舗を破壊する。うち1台がガソリンスタンドに突入したために爆発と黒煙が発生する。信者らは、突入して静止した車両をハンマー等で破壊している。

26:59: ガソリンスタンド跡で再度爆発。その前を戯画化された水着姿の女性のイラストで装飾されたセダン17が通過する。車体部には『The Goddess of ELMA』というタイポグラフィーが見られる。

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29:14。爆発現場。この後、更に周辺で2度の爆発が確認された。

35:17: 道路に沿ってドローンが進むと、ロードサイドに三重に掘られた塹壕およびその前面に張られた鉄条網が現れる。塹壕の奥ではコンクリート造りの建造物の工事が実施されている。

37:27: 建造物にドローンが近づくと、地上から機銃による銃撃を受ける。建造物には『アトラル・エルマ 世界境界支部』の看板がかかっている。一方、後方から鉄条網に向けて無人の装甲車12台による編隊が現れ、これに突撃する。

40:46: 編隊のうち3台の装甲車が塹壕を超えることに成功する。これらの車両に向けて建造物よりアトラル・エルマの信者が軽機関銃による銃撃で静止を試みるも失敗し、建造物に向けて突入し自爆する。この爆風によってドローンは墜落し、画面が暗転する。

43:30: 日本道路伝道団のラジオの音声が転送される。声は男性のもので、内容は以下の通り。

(ジングル音)
JHE日本道路伝道団ハイウェイラジオ。
聖戦によりてすべてのドウトは十字路軍の後へと続け。心あるドウトは異教のガイゴウゴウマボウジョクとを許すべからず。足元の道とシンギョウを軽んじ、行先よりほか目に映らぬ愚昧の輩を啓蒙せよ。神と道の御名において(不明瞭)の者どもは(不明瞭)。
JHE日本道路伝(不明瞭)ウェイラジオ。
(ジングル音)

45:00: 同じ周波数に対するアトラル・エルマ側の放送が確認される。同じく男性の声によるもので、内容は以下の通り。

こちらはアトラル・エルマ。アトラル・エルマ、征導騎士団である。
我らの信徒よ、我らは我らの信仰を我らの手によって護り抜かん。内心の自由と、信仰の自由とを汚す異教徒どもを排せよ。行先なく放浪する盲目の者どもの目を開かせよ。我らは良心と信仰と信念によってのみ拘束されることを、エルマの名の元に蛮族どもに教えよ。強き者は武器を取り、弱き者は共に祈れ!何人たりとも、我らの足に枷を嵌め、我らより跳躍の翼を奪わんとする者どもを許し給うな!テールースの勝利に続け!

48:39: ドローンからの映像および音声の転送が停止する。


[記録終了]


本探査の結果、財団は日本道路伝道団並びにアトラル・エルマ間の調停によるSCP-2652-JP-2の発生抑制は不可能、可能としても非常に長期の交渉が必要であると判断し、これを断念しました。この決定を受けて研究チームはSCP-2652-JP-2の被害が基底宇宙に及ばないよう、SCP-2652-JP-1の封鎖を実施しました。封鎖は財団超宇宙業務部門の指導のもと、SCP-2652-JP-1中のタキオン時流を二重壁の間に誘導することで形成した防壁を用いて実施され、これ以降相互の直接的な往来は不可能になりました。


補遺 2020.9.27: 基底宇宙近傍に位置する306Y次元にて次元間断裂が発生し、これを介して500t以上の廃アスファルトの流入が観測されたとの報告が財団超宇宙業務部門よりもたらされました。本件について、当該次元の正常性維持機関より情報照会および関連情報の提供依頼がありましたが、本事案とSCP-2652-JPの関連性は現在不明です。また、封鎖以降アトラル・エルマよりアトラル・エルマ ニューヨーク支部を通じて、日本道路伝道団よりホットライン周波数を通じて、それぞれ紛争調停の依頼が数度届いています。

306Y次元、アトラル・エルマ、日本道路伝道団への回答は、日本支部理事会の判断により保留されています。

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