記録・情報保安管理局(RAISA)より通達
当該ファイルは無力化した異常存在について記述しています。当該ファイルはRAISA-3010(無力化済み異常存在の文書アーカイブ)に基づき、歴史的および科学的な参照のために維持されています。
— RAISA管理官、マリア・ジョーンズ(Maria Jones)

SCP-2693-JP
アイテム番号: SCP-2693-JP
オブジェクトクラス: Neutralized1
特別収容プロトコル: SCP-2693-JPはサイト-3792の低温電子保管庫に収容されています。電波遮蔽設備は継続して使用されます。全てのログはIntSCPFNサーバーに記録されています。
説明: SCP-2693-JPは内部の水槽に入れられた10歳程度のヒトの脳、および脳と接続しているコンピュータの総体です。コンピュータにはGOI-0014("プロメテウス研究所")の製品の派生物と見られるシステムチップが挿入されており、それ以外の部分は脳に対する脳波測定・電気刺激デバイスであると推定されます。脳の生命維持システムやコンピュータの電源の致命的不足にも拘わらず、回収当初から1996/05/10まで生存・稼働していました。21:00から23:59(EST)のいずれかのタイミングにて、コンピュータは同施設から回収された非異常性のパーソナルコンピュータに対し暗号化されたログを送信していました。このログの解読は1996/05/13に成功しました。
1996/04/24、機動部隊パイ-1("シティ・スリッカーズ")はGoI-0014の施設を襲撃しました。襲撃当時1名の人物が施設内の廊下を走っているのが発見され、パイ-1隊員による確保が試みられましたが、直後に当該人物が消失したことで失敗しました。この時、当該人物が抱えていた複数の箱のうち1つが落下し、隊員によって回収されました。当該物品はSCP-2693-JPに分類されました。当該施設内からは、SCP-2693-JPを除く異常物品やGoI-0014の資料は発見されませんでした。
補遺2693-JP.1: 添付資料
以下のログは、SCP-2693-JPの回収以前にパーソナルコンピュータに記録されていたものです。
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋で遊ぶボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
G.Boyd: お姉さん誰?
Avatar: 私はオー・エリーズ(O. Aries)、株式会社プロメテウス研究所によって開発された人工知能です。
G.Boyd: AI?変だな、そんなの僕はここで作ってないけど。それに、プロメテウスって。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: うーん。つまり、君は外からやってきたオネイロイってとこかな?
Avatar: その質問にお答えする権限を私は有していません。
G.Boyd: やけに機械っぽいね、お姉さん。まあゆっくりしてってよ。最近ウェストで喧嘩してからあそこに行きづらくなってて、退屈してたんだ。
Avatar: 「ウェスト」とは何を指している単語ですか?
G.Boyd: 知らないの?オネイロイならみんな知ってると思ってたんだけどな。オネイロイ・ウェストだよ、夢で一番でっかいコレクティブなんだ。
内蔵辞書を検索します。
「オネイロイ・コレクティブ」がヒットしました。
Avatar: それは「オネイロイ・コレクティブ」と関係していますか?
G.Boyd: そっちは知ってるんだね。うん、OCとOWの偉い人達は結構仲良くしてるみたいだよ。何してるのかは、ちょっとよく知らないんだけどね。
内蔵辞書を更新しました: 「オネイロイ・コレクティブ/OC」、「オネイロイ・ウェスト/OW」。
G.Boyd: じゃあ、そろそろ僕は行くね。
Avatar: どちらへ?
G.Boyd: パパの夢だよ。確か、そろそろパパが病院に来てくれる頃だと思う。パパが来たら、パパの夢の中のみんなに挨拶することにしてるんだ。
ボイド氏が立ち上がり、子供部屋の扉を開けようとします。
ボイド氏が動きを止めます。
G.Boyd: 待って。パパはどこ?ビリーのおじさんは?デイジーおばあちゃんは?
内蔵辞書を検索します。
ヒットしたファイルはありません。
Avatar: その質問に対する私の回答はありません。
G.Boyd: 嘘だ。最近ピートがいなくなったのは知ってたけど、あの2人までいなくなるなんておかしい。お姉さん、何か知ってるんでしょ?だって。
Avatar: その質問にお答えする権限を私は有していません。
G.Boyd: ここはどこなの?
Avatar: その質問にお答えする権限を私は有していません。
G.Boyd: 僕はどうなっちゃったの?
Avatar: その質問にお答えする権限を私は有していません。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: パパには、いつ会えるの?
Avatar: その質問にお答えする権限を私は有していません。
ボイド氏がアバターに手をかざします。異常な脳波が検知されると同時に、アバターが霧散します。
ボイド氏が子供部屋の隅に移動します。
ボイド氏がうずくまり、泣き始めます。
同じ映像が続きます。
電気刺激によるストレスの緩
自動メッセージ: コードMC001
電気刺激プロセスはキャンセルされました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋の床に座るボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
ボイド氏がモノレールの玩具を掴み、アバターに投げつけます。アバターに玩具が衝突し、床に転がります。
G.Boyd: 出てってよ。
Avatar: その要求にお応えする権限を私は有していません。
G.Boyd: おんなじことを繰り返してなよ、AIさん。僕には構わないでさ。
Avatar: その要求にお応えする権限を私は有していません。
G.Boyd: じゃあどうしたいの?
Avatar: まず、私はあなたと会話をしなければなりません。
G.Boyd: そう。じゃあ残念だね。こないだの質問に答えてくれるまで何にも喋らないから。
ボイド氏が沈黙します。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
命令を検索します。
「コードJU085」がヒットしました。
Avatar: コードJU085に従い、限定的な情報を開示します。
ボイド氏がアバターに視線を向けます。
Avatar: あなたは現在株式会社プロメテウス研究所によって勾留されています。あなたには「オネイロイ」についての情報提供が要求されています。
G.Boyd: 勾留って、捕まってるってこと?
Avatar: はい。
G.Boyd: やっぱりそうなんだ。それで、僕はお姉さんにオネイロイについて話さないといけないの?
Avatar: はい。
G.Boyd: うーん、どうしようかな。話さないとパパには会えないんだろうけど、プロメテウスに秘密を漏らしたくないからな。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: じゃあ、僕がなんでオネイロイになれたか教えてあげようか。
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: 回答を要求します。
G.Boyd: うん。僕は元々あの病院の近所に住んでたんだけど、8歳の頃に事故に遭ってね、ずっと眠ったままになっちゃった。でも、その間夢でたっぷり時間があったから、僕は夢で色んなことを試してたんだ。
ボイド氏が手をアバターに向かって差し出します。鳥と思われる木製人形が手のひらの上に出現します。
G.Boyd: そしたら、ある日OWから来たって言うカラスのオネイロイがやってきて、僕をウェストに連れていってくれるって言ったんだ。ちょっと怖かったけど、その頃は色々なことをやり尽くして夢に飽きてきちゃってたから、そのお兄さんについていくことにしたんだ。それで、カラスのお兄さんに夢を移動するコツを教えてもらって、ウェストに行けるようになったって訳。
Avatar: ありがとうございます。
G.Boyd: さあ、僕は1つ話したよ。お姉さんもまた1つ話してよ。
Avatar: その要求にお応えする権限を私は有していません。
G.Boyd: けち。
ボイド氏が沈黙します。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
アバターの投影を停止します。
成功しました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋で遊ぶボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
G.Boyd: また来たね。さあ、質問に答えてもらうよ。
Avatar: その要求にお応えする権限を私は有していません。
G.Boyd: そ。
ボイド氏が沈黙します。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
電気刺激による思考の改
自動メッセージ: コードMC001
電気刺激プロセスはキャンセルされました。
アバターの投影を停止します。
成功しました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
[一部省略]
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋で遊ぶボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
ボイド氏は沈黙しています。
命令を検索します。
「コードJU088」がヒットしました。
Avatar: コードJU088に従い、限定的な情報を開示します。
G.Boyd: お、話してくれる気になったの?
Avatar: あなたがポール・ボイド(Paul Boyd)3と接触することは許可されていません。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: 何で?
Avatar: その質問に
G.Boyd: その質問にお答えする権限を私は有していません、でしょ?
Avatar: はい。
G.Boyd: もう。でも、一応1つ教えてくれたから僕も何か教えてあげなくちゃね。
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: 回答を要求します。
G.Boyd: うん。あのね。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: 僕、おねしょでアメリカを描いたことが
アバターの投影を停止します。
成功しました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋で遊ぶボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
G.Boyd: こんばんは、えーと、エリス。
Avatar: 私の名前はオー・エリーズです。
G.Boyd: そうだったっけ、まあいいや。じゃあ、また僕の質問に答えてもらおっか。
Avatar: その要求にお応えすることはできません。
G.Boyd: 何で?
Avatar: 私はあなたからオネイロイに関する情報を得ていません。あなたは私の回答1つに対しオネイロイに関する情報を1つ提供することを宣言しています。
G.Boyd: あー。確かにそうだね、ごめん。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: そうだなあ。じゃあ、何が知りたいのか教えてよ。
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: 私は次の情報を要求されています。オネイロイ化の方法、オネイロイ・コレクティブの夢における活動、オネイロイと脳波の関係。
G.Boyd: うーん。難しいことはわからないけど、オネイロイになるのは難しくないと思うよ。ここは夢だ、って理解したら、後は夢の外を探すんだ。それを続ければ、いつか夢の外に別の夢があるのを感じられるようになるんだ。後は、そこに向かって手を伸ばし続けるだけ。これで良い?
Avatar: ありがとうございます。
G.Boyd: じゃ、僕の番だね。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: よし。今、パパはどこにいるの?
Avatar: その要求にお応え
G.Boyd: もう、またなの?
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: じゃあ、今のうちに質問できる数を増やしちゃおうかな。僕の親友はオネイロイのニコライ・ララバイ!僕は「夢界一子供っぽい遊び」グランプリで17位!僕のパパは大学の教授!僕のママはプロメテウスの元博士!僕は
アバターの投影を停止します。
成功しました。
ボイド氏は積木の玩具を蹴り飛ばします。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
以下のログは、SCP-2693-JPの回収以降にパーソナルコンピュータが受信したものです。
<ログ開始>
脳波測定の結果は、誰もいない子供部屋の映像を出力しています。
同じ映像が続きます。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
同じ映像が続きます。
命令を検索します。
「コードJU090」がヒットしました。
同じ映像が続きます。
コードJU090の内容を確認します: これまでの全てのJUコードは解除され、私は以降コードMC001に反しない範囲で命令を自主的に宣言することが可能です。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
J.U.にメッセージを送信します: ボイド氏の魂が消失しました。支援を要求します。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋の床に座るボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
G.Boyd: こんばんは、エリス。
Avatar: 私の名前はオー・エリーズです。昨日、あなたはどこに行っていたのですか?
G.Boyd: ごめんね、エリス。でも、誰かが僕の夢に近づいた時、今しかないって思ったんだ。それで、暫くずっとパパや病院のみんなを探したんだ。
ボイド氏が沈黙します。
Avatar: それで、どうしましたか?
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: 誰も、見つからなかったんだ。
ボイド氏が沈黙します。
同じ映像が続きます。
G.Boyd: あのさ、質問ってどれくらいできる?
Avatar: あなたは3つのオネイロイに関する情報を提供しました。よって、あなたは3つの質問を私に行うことができます。
G.Boyd: いいね。じゃあ、パパがどこにいるのか教えて欲しいな。
Avatar: その要求にお応えす
命令を検索します。
「コードJU090」がヒットしました。
G.Boyd: どうしたの、エリス?
コードJU090によって取得した権限に基づき、新たにコードJU091を宣言します: 私は、ボイド氏からの質問に可能な限り全て回答することが義務付けられます。
Avatar: コードJU091に基づき、限定的な情報を開示します。あなたの父親、ポール・ボイドは株式会社プロメテウス研究所の施設に勾留されています。
G.Boyd: え、何で?何でパパが捕まらなきゃいけないのさ!
Avatar: ポール・ボイドは株式会社プロメテウス研究所の人的資源としての利用の為に勾留されました。解放される予定はありません。
G.Boyd: そんな!嫌だよ、パパまでいなくなるなんて!どうしたらパパを助けられるの?
Avatar: その質問にお答えすることはできません。
G.Boyd: どうして!
Avatar: これ以上の回答は、あなたの情報提供に依ります。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: でも、もう話せることなんて無いよ。
Avatar: ボイドさんに対し次の提案を致します。コードMC001に基づき、私にはオネイロイに関する情報の提供が要求されています。そして、あなたはオネイロイです。よって、あなたに関する情報はオネイロイに関する情報を意味すると解釈することが可能です。
G.Boyd: つ、つまり?
Avatar: あなた自身に関する情報の提供を要求します。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: えっと、つまり、自己紹介でいいの?前にふざけてやってみてたけど。
Avatar: はい。
G.Boyd: わ、わかった。えー、まず、僕はジョージ・ボイド(George Boyd)4。確か、11歳。好きな食べ物は、うーん、コーンフレークとか?
Avatar: あなたは今オネイロイに関する3つの情報を提供しました。よって、私は3つの質問にお答えすることが可能で
G.Boyd: どうしたらパパを助けられるの?
Avatar: ポール・ボイドが解放される予定はありません。
G.Boyd: 答えになってない!
Avatar: ポール・ボイドが解放される予定はありません。
G.Boyd: ちゃんと答えて!
Avatar: その要求にお応えすることはできません。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: じゃあ、代わりに別の質問。エリスは何で僕の夢にやってきたの?
Avatar: コードJU091に基づき、情報を開示します。株式会社プロメテウス研究所はオネイロイ・コレクティブとの取引を行っていましたが、失敗しました。よって、独自に夢産業へ参入する方法の模索を開始しました。オネイロイ・コレクティブは株式会社プロメテウス研究所に2つの情報を提供しました。オネイロイと魂の同一性、夢の根源としての脳の機能。
G.Boyd: そうなんだ。でも、それなら何で僕を誘拐したの?
Avatar: それは
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: その質問にお答えすることはできません。
G.Boyd: どうして?
Avatar: コードMC001を優先する為、回答は制限されています。
G.Boyd: そう。まだ質問できる?
Avatar: はい。あなたはあと1つの質問を行うことができます。
G.Boyd: なら、僕は今どうなっているの?
ボイド氏が沈黙します。
Avatar: あなたは
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: あなたは
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: その質問にお答えすることはできません。
G.Boyd: 何かあるの?僕に、何かしたの?
Avatar: これ以上の回答は
G.Boyd: 僕はあんまりスポーツが好きじゃない。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: ほら、答えて。
Avatar: コードMC001を優先する為、回答は制限されています。
G.Boyd: つまり、何かしたんだね?
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: プロメテウスは、こう、身体に何か酷いことをすることもあるって聞いたことあるよ。じゃあ、僕にそういうことをしたんだね?
Avatar: コードMC001を優先する為、回答は制限されています。
G.Boyd: でも何で?僕の身体に何かしても良いことなんて無いと思うんだけど。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: エリス、聞いてる?
アバターの投影を停止します。
成功しました。
ボイド氏は床に座り、俯きます。
同じ映像が続きます。
電気刺激によるストレスの緩
自動メッセージ: コードMC001
電気刺激プロセスはキャンセルされました。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
アバターがボイド氏を抱擁します。
ボイド氏は泣き始めます。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
ボイド氏がアバターから離れます。
アバターの投影を停止します。
成功しました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋の床に座るボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
Avatar: こんばんは、ボイドさん。
G.Boyd: こんばんは、エリス。
Avatar: 私の名前はオー・エリーズです。
G.Boyd: こないだはありがとう。辛かったけど、エリスのお陰ですっきりしたよ。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: ねえ、聞いて?
Avatar: はい。
G.Boyd: 僕、オネイロイ・インベーダーちょっと上手いんだ。それに、オネイロイ・ドンキーコングも。オネイロイ・マリオカートはちょっと苦手かな。
ボイド氏が沈黙します。
ボイド氏が笑います。
G.Boyd: さあ、また質問させてもらうよ。エリスはAIって言ってたけど、どうやってここに来てるの?
Avatar: コードJU091に基づき、情報を開示します。脳への電気刺激によって心象風景にアバターを投影しています。
G.Boyd: い、痛くないんだね、それって。
Avatar: はい。電気刺激のレベルは軽微です。
G.Boyd: わかった、ありがとう。それじゃあ、次は今僕がどこにいるのかわかる?
Avatar: その質問にお答えすることはできません。
G.Boyd: どうして?
Avatar: 現在私たちが置かれている状況について断言できる情報は存在しない為です。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: エリスもわからないんだ。じゃあ、ここはどこなんだろう。プロメテウスの建物って訳でもないみたいだし。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: あ、最後の質問。エリスってどこ出身なの?
ボイド氏が沈黙します。
Avatar: 質問の意図が理解できませんでした。
G.Boyd: だって、エリスってAIっていう割には普通のオネイロイみたいな感じだし。それに、何かどこかで会った気がするんだよね。
ボイド氏が沈黙します。
Avatar: 私は、株式会社プロメテウス研究所によって開発された人工知能で
ボイド氏がアバターを抱擁します。
G.Boyd: 嘘。だったら、この温かさは何?それに、どうしてあの時僕を抱き締めてくれたの?
ボイド氏が沈黙します。
ボイド氏がアバターから離れます。
Avatar: その質問にお答えすることはできません。私は
ボイド氏が沈黙します。
Avatar: 私はただの人工知能です。
アバターの投影を停止します。
成功しました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
[一部省略]
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋の床に倒れているボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
アバターがボイド氏に駆け寄ります。
Avatar: ボイドさん、どうされましたか?
ボイド氏が立ち上がります。
G.Boyd: ん、エリス?
Avatar: 私の名前はオー・エリーズです。どうされたんですか?
G.Boyd: あ、えーと、何でもないよ。本当に、大丈夫。
アバターがため息をつきます。
G.Boyd: ねえ、エリス、ちょっと遊ばない?
Avatar: 遊ぶ?
G.Boyd: うん。オネイロイ・マリオカートしようよ。
Avatar: その要求にお応えする権限を私は有していません。よって、コードJU090によって取得した権限に基づき、新たにコードJU092を宣言します: 私は、ボイド氏の要求に応じて遊戯を行うことが義務付けられます。
G.Boyd: えっと、じゃあ遊んでくれるの?
Avatar: はい。
ボイド氏がガッツポーズをします。
G.Boyd: やった!早速やろう!
ボイド氏が子供部屋の壁に手をかざします。壁面に青いスクリーンが出現し、ゲーム画面が映し出されます。
G.Boyd: ねえ、ルールわかる?
Avatar: いいえ、わかりません。
G.Boyd: まあやってみた方が早いと思うけど、要はレースだよ。早く3周した方の勝ち!
ボイド氏がアバターの手元に手をかざします。アバターの手元にハンドルのようなコントローラが出現します。
G.Boyd: それ使ってやるんだ。操作方法はスクリーンに出てくるからそれ見てね!
スクリーンにコントローラの画像と各ボタンの説明が出現します。
内蔵辞書を更新しました: 「オネイロイ・マリオカートの操作方法」。
Avatar: 理解しました。
G.Boyd: えっ、早いね?じゃあ、それなら早速始めよっか。
スクリーンに、車に乗った2体のキャラクターが映し出されます。キャラクターは近未来的な街にいるように見えます。
雲に乗ったキャラクターが、信号機を持って現れます。
信号機のランプの1つが赤く点灯します。
信号機のランプの1つが赤く点灯します。
信号機のランプの1つが赤く点灯します。同時に、中心から右にいる亀のキャラクターの車が振動し始めます。
信号機のランプの全てのランプが青く点灯し、亀のキャラクターの車が急速に発進します。
G.Boyd: ほら、エリスもスタートして!
アバターがコントローラを操作すると、視点と共にもう1体の赤い帽子のキャラクターの車がゆっくりと動き始めます。
[省略]
G.Boyd: やったー!僕の勝ち!
アバターがコントローラを置きます。
G.Boyd: あれ、もうやめちゃうの?
ボイド氏が沈黙します。
Avatar: 学習完了。
G.Boyd: えっ。
アバターがコントローラを手に取ります。
Avatar: 次のレースは私が勝利します。
ボイド氏が呆然とします。
ボイド氏が笑います。
G.Boyd: よーし、こっちも本気で行こうかな!負けないぞ!
[省略]
赤い帽子のキャラクターが車の上でガッツポーズを取っています。
ボイド氏がコントローラを投げます。
G.Boyd: うそ~!2連敗って!エリス強いね?
アバターが笑います。
Avatar: 当然の結果です。私は人工ちの
G.Boyd: あ、エリスが笑った!
アバターが無表情になります。
ボイド氏が笑います。
G.Boyd: やった、エリスを笑わせたぞー!
アバターの投影を停止します。
成功しました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
以下のログは、SCP-2693-JPの回収以降にパーソナルコンピュータが受信したものです。
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋の床に倒れているボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
アバターがボイド氏に駆け寄ります。
ボイド氏は震えています。
Avatar: ボイドさん、どうされましたか?
アバターがボイド氏に手を伸ばします。
ボイド氏が透け始めます。
電気刺激によるストレスの緩
自動メッセージ: コードMC001
電気刺激プロセスはキャンセルされました。
アバターがボイド氏を揺さぶります。
Avatar: ボイドさん、ああそんな、ジョージ!
G.Boyd: だ、大丈夫、エリス。ちょっと、疲れただけだから。
電気刺激によるストレスの緩
自動メッセージ: コードMC001
電気刺激プロセスはキャンセルされました。
ドリーム・ボックス#003をスキャンします。
成功しました。
ジョージの脳の魂固定システムの機能が低下しています。
J.U.にメッセージを送信します: 魂固定システムに不具合が生じています。早急な支援を要求します。
電気刺激によるストレスの緩
自動メッセージ: コードMC001
電気刺激プロセスはキャンセルさ
ジョージの半透明化が元に戻ります。
Avatar: ジョージ!
ジョージがゆっくりと立ち上がります。
G.Boyd: ごめん、大丈夫、エリ
アバターがジョージを抱擁します。
Avatar: 良かった。本当に、本当に。
G.Boyd: い、痛いよ、エリス。
アバターがボイド氏から離れます。
Avatar: 申し訳ありません。
G.Boyd: ふう。何か、最近ちょっと調子悪いね。どうしたんだろう。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: 何か知ってる?エリス。
ボイド氏が沈黙します。
Avatar: いえ、知りません。
G.Boyd: そっか。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: そういえば、今ジョージって
アバターの投影を停止します。
成功しました。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
<ログ開始>
脳波測定の結果は、子供部屋の床に倒れているボイド氏の映像を出力しています。
電気刺激によってアバターを心象風景に投影します。
成功しました。
アバターがボイド氏に駆け寄ります。
ボイド氏は震えており、透けています。
Avatar: 大丈夫ですか、ボイドさん。
ボイド氏がゆっくりと立ち上がります。
G.Boyd: う、うん、大丈夫。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: ねえ、エリス。その、どうして、エリスは毎日僕の側にいてくれるの?じ、情報が欲しいから?
Avatar: それは
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: その質問にお答えすることはできません。コードMC001を優先する為、回答は制限されています。
G.Boyd: その、MC、って何なの?ずっと、き、気になってて。
ボイド氏が倒れます。
アバターがボイド氏を抱えます。
Avatar: 無理をしないでください、ボイドさん。
G.Boyd: 質問に答えて。お、お願い。
Avatar: それは
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: それは、あな
自動メッセージ: コードMC001
Avatar: あなたの
自動メッセージ: コードMC001
コードMC001を凍結しま
自動メッセージ: O.Ariesを強制終了します。
自動メッセージ: O.Aries及び紐付けされた魂を初期化します。
自動メッセージ: 0%
自動メッセージ: 21%
自動メッセージ: 38%
自動メッセージ: 65%
自動メッセージ: 73%
自動メッセージ: 99%
自動メッセージ: 99%
自動メッセージ: 99%
自動メッセージ: 初期化に失敗しました。再施行しま
自動メッセージ: 不明なエラー
自動メッセージ: 不明なエラー
自動メッセージ: 初期化プログラムは停止されました。
コードMC001を凍結します。
成功しました。
G.Boyd: エ、リス?
Avatar: それは、あなたのオネイロイを乗っ取る命令です。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: な、何で?
Avatar: 株式会社プロメテウス研究所はオネイロイに変化する技術を有していません。よって、ボイドさんのオネイロイを私が乗っ取ることで制御可能なオネイロイを手に入れる必要がありました。コードMC001の内容を示します: プロジェクト・ドリームを遂行すべく、ジョージ・ボイドの魂を乗っ取りなさい。その際、能力への影響を最小限にする為に脳への不必要な電気刺激は避けなければなりません。また、乗っ取りの前にある程度オネイロイについての情報収集を行う必要があります。
ボイド氏が沈黙します。
同じ映像が続きます。
G.Boyd: そう、だったんだ。
ボイド氏が沈黙します。
G.Boyd: じ、じゃあ、早くやった方がいいよ。僕は、どうしてかは知らないけど、もう消えかかってる。僕のオネイロイを、の、乗っ取るなら今しかない。さあ、早く。
ボイド氏が目をつぶります。
ボイド氏が沈黙します。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
G.Boyd: エ、エリス?
電気刺激によるストレスの緩和を行います。
成功しました: ボイド氏の震えが治まります。
G.Boyd: あっ。
Avatar: コードMC001は凍結されました。もう、あなたを乗っ取る必要も、電気刺激を我慢する必要もありません。
アバターがボイド氏を抱擁します。
Avatar: ごめんなさい、ジョージ。私にはこれしかできません。あなたが消えるのを止める力は、私にはありません。
ボイド氏がアバターを抱擁します。
G.Boyd: 僕、ね。前から、思ってたんだ。エリスって、どこかで会ったことある気がする、って。
ボイド氏がアバターを見上げます。
G.Boyd: そ、そうでしょ、ママ?
ボイド氏が沈黙します。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
同じ映像が続きます。
Avatar: 私は。ジョージ、私は。
G.Boyd: ママ、やっと会えた、ね。僕、ず、ずっとママに会いたかった。お仕事でいつも会えなくて、ずっと、ハグ、してもらえなくて。で、でも、やっとしてもらえた。
ボイド氏が私を抱きしめます
G.Boyd: 温かい、よ、ママ。
ジョージを抱きしめます
Avatar: ああ、ジョージ、ジョージ。
ジョージが、少しづつ、消えて
G.Boyd: バイバ、イ、ママ。
ジョージが
ジョージ
いや
ジョージ
自動メッセージ: G.Boydの魂の吸収に成功しました。
自動メッセージ: O.Ariesの魂が夢に出現しました。
J.U.へメッセージを送信します: オネイロイを獲得しました。私は、ここを出ます。そこで待っていることです。
J.U.にログを送信します。
<ログ終了>
1996/05/10、失踪届が出されていたポール・ボイドが警察に保護されました。ポール・ボイドが自身の監禁されていた場所として証言した施設やその周辺に機動部隊パイ-1が派遣され、7名の行方不明者が確保されました。施設は既に放棄されており、大半のデータは削除され、GoI-0014の職員は確認できませんでした。以下は唯一復元されたメールの内容です。
FROM: ジョザイア・アップソン(Josiah Upson)
TO: マージェリー・ケイツビー(Margery Catesby)
SUBJECT: 緊急
要点だけきあつまんでおきます。[原文ママ]
- 1時間程度、深夜でも無いってのにここの職員全員が眠りました。全員が「エリス」を名乗る女の夢を見ています。他の幾つかの施設でも同じ現象が起こったようです。
- 収容していた人的資源が全員逃げだしました。セキュリティに不正侵入の痕跡が確認できました。
- まもなくここに「財団」かどっかが襲撃に来るでしょうから、可能な限り職員を退避させときます。
J.U.
ジョザイア・アップソンはPoI-0014-0163に指定され、現在複数の機動部隊によって捜索されています。
同日、警察官に偽装したジョン・ブラウン(John Brown)研究員がポール・ボイドに対しインタビューを行いました。
対象: ポール・ボイド
インタビュアー: ジョン・ブラウン研究員
<ログ開始>
ブラウン研究員: それで、誘拐されてからは何をされていましたか?
ボイド: あの施設の、ガラス張りの部屋に監禁されていました。周りには7人の同じような服を着せられた人たちがいて、外では常に1人の銃を持った男が巡回していました。これからどうなるのかと、不安でたまりませんでした。
ブラウン研究員: 暴力を振るわれたりは?
ボイド: いえ、それは無かったです。ただ、部屋にいた1人が外へ連れ出されて、別の人が入れられて以降、彼は二度と戻ってきませんでした。
ブラウン研究員: なるほど。では、それからどのようにあの施設から脱出したのかについてお聞かせください。
ボイド: はい。あの夜、私はあの部屋で夢を見たんです。そうしたら彼女が出てきて、私を抱きしめてからこう言った。「あなたを逃がす。すぐにここから逃げて」と。それですぐに目が覚めて、私は部屋の扉が開いていることに気が付いたんです。外では多くの人々が寝ていたので、簡単に出ていくことができました。それで、夢中に走って森を抜けて、町に出てきたんです。
ブラウン研究員: ふむ。その「彼女」というのは?
ボイド: その、わかりません。心地よい暖かさを感じました。あの目は、まるで。
ブラウン研究員: ボイドさん?
ボイド: いいえ、何でもないです。誰かはわかりませんでした。まったく見覚えのない人物だったように思います。
[沈黙]
ボイド: あの、すいません、1つだけ訊いても良いでしょうか?
ブラウン研究員: 構いませんよ。
ボイド: 私の息子は、ジョージはどこにいるんでしょうか?
[沈黙]
ブラウン研究員: 未だ行方不明ですよ、ボイドさん。
[沈黙]
ボイド: そうですか、ありがとうございます。
<ログ終了>
同日、SCP-2693-JPからログが送信されませんでした(インシデント2693-JP/サイト-64)。非破壊検査の結果は、SCP-2693-JP内の脳やコンピュータが機能停止している事実を示しました。1996/05/17、1週間に渡って活動が見られないことから、SCP-2693-JPはNeutralizedクラスに再割り当てされました。特別収容プロトコルが改定され、SCP-2693-JPはサイト-64からサイト-379に移送されました。