未承認のアクセスは禁止されています。
特別収容プロトコル: SCP-2718-JPは、遮光ケースに収納した上でサイト-8181の標準収容ロッカーに保管されます。オブジェクトの移動の際、担当職員はSCP-2718-JP-1を視認しないよう注意してください。オブジェクトを用いた実験は無期限に中止されています。
新たなキャリア-2718-JP-2が発生した場合はクラスC記憶処理を施し、特に職務の遂行が著しく困難となる場合は一旦職務を休止させてください。現在、キャリア-2718-JP-2の処分に関するプロトコルが制定中となっています。
説明: SCP-2718-JPは未発表の小説が書かれた325枚の原稿用紙の総称です。筆跡鑑定は著名なホラー作家の上月孝太郎氏が執筆したものであることを示しました。SCP-2718-JPには「[人物名]の首吊り死体」という語(SCP-2718-JP-1に指定)が度々書かれており、その総数は497箇所です。[人物名]部分には複数の日本人の名前がランダムに5-10個重なって書かれており、解析によって書かれている名前は全て異なっていることがわかっています。
SCP-2718-JP-1を人間が3秒以上直接視認した場合、被験者は約60分間昏睡状態となります。昏睡状態中、被験者は一定の共通点を持つ夢(SCP-2718-JP-2に指定)を見ます。以下は、脳情報デコーディング技術によって判明した典型的な被験者の夢の内容です。
- 被験者は上月氏の自宅の書斎に酷似した空間内に存在している。部屋の天井からは人型実体の縊死体が大量に吊るされている。被験者は視点を変えることはできるが、これまでに空間内を移動した例がないため、移動は不可能と考えられている。
- 約10分経過後、首から上が存在しない人型実体(以下、実体Aと呼称)が、空間内の扉を開けて入室する。手には麻製と思われるロープを持っている。
- 実体Aの入室から約1分30秒後、目をアイマスクで隠された人型実体(以下、実体Bと呼称)が複数入室する。全ての実体Bは被験者の親族や友人など、被験者に近しい人物に酷似していると報告されている。実体Aは被験者もしくは実体Bに話しかけているように見える。
- 実体Aが実体Bをロープで1人ずつ絞殺していく。絞殺される直前、実体Bは被験者へ必死に何かを語りかけているように見える。絞殺された実体Bは瞬間的に天井へ移動し、既に吊るされている縊死体と同一の体勢へ変化する。
- 全ての実体Bを絞殺した後、実体Aは被験者に接近し、被験者の首にロープをかけたところで被験者が覚醒する。
昏睡状態から覚醒した被験者(キャリア-2718-JP-2に指定)は大抵の場合極度の恐慌状態に陥り、自然回復するまでの間日常生活が困難になります。恐慌状態からの自然回復にはおおよそ24-120時間を要します。さらに対象は、回復後も一部の行動を過度に忌避するようになります。これまでの事例から、対象が忌避する行動には概ね人間の殺傷1が関連していることが明らかになっています。SCP-2718-JP-2の記憶はクラスC記憶処理によって除去することが可能ですが、上述の精神影響については除去する手段が発見されていません。また、対象は幻聴を経験することも判明しています。詳細は補遺2718-JP.1を参照してください。
発見: SCP-2718-JPは2016年7月4日、同年6月下旬から行方不明となっている上月氏の捜索の一環で、警察が彼の自宅に突入した際に発見されました。上月氏は失踪直前に母を交通事故で失っており、精神状態が悪化していたと報道されていました。上月氏の失踪とSCP-2718-JPの関連性については、現在までに有効な手がかりは得られていません。
補遺2718-JP.1: 異常性の拡散
SCP-2718-JPの収容から数週間後、収容サイトであるサイト-8181の財団職員による異動や退職の申請が急増しました。その動機の多くが「精神的な理由で通常業務を続けることが不可能になった」という旨のものであったため、これらの職員の行動履歴を調査したところ、SCP-2718-JP-1の被験者だけではなく、被験者からSCP-2718-JP-2の内容を直接聞いた職員も多く含まれていることがわかりました。この事案から、SCP-2718-JP-2の内容に異常なミーム伝播性の存在が疑われ、後者に該当する職員にインタビューが行われました。
対象: 長良研究員
インタビュアー: 三笠カウンセラー
備考: インタビュアーにはSCP-2718-JP-2の精神影響による職務への影響が少ない職員が選ばれ、質問内容は適宜担当職員によって外部から指示が行われました。
[記録開始]
インタビュアー: 長良研究員、精神状態が悪いと言っていましたが、それはいつ頃からの話ですか?
対象: 1週間ほど前からです。
インタビュアー: その頃になにか特別なことをしていた心当たりはありますか?
対象: はい。とあるオブジェクトの実験をしていて……すみません、三笠さんのセキュリティレベルっていくらでしたっけ。
インタビュアー: 3です。
対象: ああ、なら話しても問題なさそうですね2。
[対象によってSCP-2718-JP-2の詳細が話される]
インタビュアー: ……それはなかなかむごいオブジェクトですね。
対象: その日からというもの、先程言ったような夢を私も毎日見るようになりまして……家族とか、同僚とか、昔の友人が次々と殺されていく夢を。明らかにオブジェクトの影響を受けていることがわかったので、プロトコルにある通りクラスC記憶処理を依頼しました。
インタビュアー: では、それで悪夢は見なくなったのではないですか?
対象: そうですね……悪夢は見なくなったのですが、実験中にDクラス職員を終了しなければいけなくなった時に、あの夢がフラッシュバックするんです。それと同時に、幻聴のようなものが聞こえてきて。
インタビュアー: それは、どのような?
[10秒間沈黙]
対象: 夢の中で聞いた、母や友達の悲鳴と似ていました。「助けて」だとか、「███3」とか……。
インタビュアー: なるほど……それが終了のたびに繰り返されるとなったら、かなり精神的にきますね。辛いことを思い出させてしまってすみません。
対象: なんというか、私も誰かの大切な人を奪っているという意味ではあの首無し男と同じなのかなとか考えてしまうと、どうしても手が止まってしまうんです。
インタビュアー: その気持ちはわからないでもないですが、終了は財団研究員には絶対ついて来る職務ですから、それができないのはちょっとまずいですね。
対象: その前までは何の問題もなくできてたんですが……本当に情けないです。
インタビュアー: 長良研究員だけの責任ではありませんから。とりあえず今はゆっくり休んで、上からの指示を待ちましょう。
対象: はい。今日はありがとうございました。
[記録終了]
インタビュー終了後、三笠カウンセラーにも長良研究員と同様の症状が見られたことから、SCP-2718-JP-2の異常なミーム伝播性を断定しました。SCP-2718-JP-2経験者特有の精神影響が発現した職員をキャリア-2718-JP-2と定義し、その全員にクラスC記憶処理が行われました。
補遺2718-JP.2: キャリアの大量発生と対応
2016年8月6日、SCP-2718-JP-2を一度も経験していない職員1名が突発的にキャリア-2718-JP-2となる事案が発生しました。調査により、当該職員の心理抵抗度が25であること、SCP-2718-JPの報告書を1度のみ閲覧していた4ことが確認されました。以前はSCP-2718-JP-2のミーム伝播方法が口伝のみと予想されていたために報告書の閲覧制限はされていませんでしたが、当事案は文書からミーム伝播が発生した初の事例と評価され、SCP-2718-JPの一時的なKeterへの再分類および心理抵抗度に基づく報告書の暫定的な閲覧制限が行われました。
この発生をトリガーとして、全世界のサイトでキャリア-2718-JP-2が指数関数的な増加を見せ始めました。この中には心理抵抗度が25以上の職員も多く含まれており、明確な原因の特定が進まない中での大量発生だったため、当時の財団は記憶処理の実施という対症療法的な方法でしかこれを抑え込むことができず、潜在的キャリアの発生防止には至りませんでした。SCP-2718-JPの報告書は一時完全に閲覧が禁止されましたが、最初の突発的キャリア発生が職員の不安を駆り立てる事案だったこと、当初は心理抵抗度さえ基準を満たしていれば閲覧に問題はないと判断されていたことから、禁止以前に報告書を閲覧していた職員が多数存在したため、最終的にはセキュリティクリアランスレベル3以上の職員約150,000人がキャリアとなりました。この事案に伴って世界的に記憶処理剤の供給不足に陥ったため、記憶処理剤は基本的に新たに発生したキャリアに対して使用されることとなり、記憶処理未実施のキャリア約30,000人が暫定的に隔離サイト-81TTに置かれました。
現在は既知の全キャリアに記憶処理が実施され、潜在的キャリアも根絶されたと考えられています。また、SCP-2718-JPの報告書の閲覧はセキュリティクリアランスレベル5以上に制限され、対抗ミームにより拡散もほぼ完全に抑制されています。しかし、記憶処理済みキャリアのほとんどは、その進退が判断されないまま待機しています。
現在も大量発生の明確な原因は特定されていませんが、立川博士による仮説が最も有力とされています。これは、最初の突発的キャリア発生を知り「自分もキャリアになるのではないか」と不安を持つことで、SCP-2718-JP-2そのものへの局所的な心理抵抗が減少したことを原因とするもので、さらなる突発的キャリア発生による連鎖的な恐怖の増加で大量発生を説明することが可能です。
補遺2718-JP.3: 記憶処理済みキャリアへの対応
記憶処理済みキャリアのうち、特に精神影響により現職での勤務が著しく困難となっている職員の処分は喫緊の課題でした。数万人の職員を休職させ、キャリアとして財団の管理下に置くことは資源の負担があまりにも重く、財団の業務遂行へ深刻な影響を与えるためです。緊急を要すると判断されたため、監督評議会の全メンバーがこの議論に関与することになりました。
当初の提案の1つとして、該当する職員へのアクイタル・プロトコルの再実施がありました。これは、SCP-2718-JP-2の精神影響による殺傷の忌避がSCP-001-JPによる精神負担の軽減を相殺しているという仮説のもとで、SCP-001-JPの精神影響を復活させることを期待したものでした。当初、アクイタル・プロトコルの簡易さから数万人の該当する職員に実施するのも容易であると考えられ、この提案は支持されました。最終的にキャリアエージェント10人を標本として実験が行われるまでに至りましたが、標本のうち1人に対してSCP-2718-JP-2が再発した上、未知の異常性の発現と疑われる事案が発生したため、実験は即時中止されました。以下に、当該エージェントが実験の参考記録のためにつけた簡易的な日記の1部を示します。
2016/10/12
今日から仕事に復帰できることになった。どうやらキャリアからの良い復帰法が見つかったらしい。といってもまだ実験段階らしいから、参考のためにこうやって日記もつけることになった。でも、カウンセリングを受けて何枚か写真を見せられただけで本当に効果があるのか?
正直人をまた殺すのは気乗りしないが、終了されるよりはマシだろう。
2016/10/13
今日、Dクラスを1人終了した。未だに幻聴は聞こえるが、以前よりはためらいなく引き金を引けるようになった。どうやら効果はそれなりにあるようだ。
2016/10/15
復帰してから3人終了した。引き金は引けるが、幻聴は前よりむしろ長くなっている気がする。でも仕事はできるから問題ない。
2016/10/18
5人終了した。幻聴は1日の半分ぐらい聞こえるようになった。仕事には全然問題ないが、流石にちょっとうるさくなってきた。
2016/10/20
幻聴は1日中聞こえている。でも問題ない。こんな状態でも仕事が続けられるなんて、なんだか人じゃなくなってしまったみたいだ。
2016/10/23
なあ母さん、いい加減黙ってくれないか。まだ死んでもいないのに「助けて」なんておかしいだろ。仕事はできているが、いい加減気が狂いそうだ。
2016/10/26
今日、幻聴が突然止んだ。気が狂わずに済んだのはラッキーだったが、なにか嫌な予感がする。
2016/10/27
何ということだ。昨夜あの忌々しい夢を見ちまった。しかもあそこに立っていたのは首なしの男じゃない。あいつは俺の顔をしていた。なんて悪趣味な夢だ。でもカウンセリングをしたらすぐに治ったし、また仕事は続けられそうだ。
2016/10/30
違う
俺は殺してない
絶対に違う
畜生
なんでだよ
実験が継続されていた一方で、2016年10月30日、上月氏の自宅から複数の人の縊死体が発見されました。死体の腐敗具合から、発見時にはすでに死後72時間以上が経過していると推定され、身元は全て当該エージェントが10月27日未明に見たSCP-2718-JP-2の実体Bと一致しました。この事案はSCP-2718-JPの未知の異常性によるものと推定されていますが、倫理的懸念のため追加の確認実験は行われていません。
この結果を受けて先の提案は却下され、キャリア処分については主に一斉終了とDクラス職員としての再雇用の2つに絞って議論されました。しかし、この議論中に倫理委員会から提出された以下の意見書によって流れは大きく変化しました。
キャリア-2718-JP-2の解放に関する提案
現在議論中のキャリア-2718-JP-2の処分について、私達倫理委員会は財団からの解放を提案します。あなた達は重要な前提を見落としています。
そもそも財団職員を解放せず終了する理由は何でしょうか? SCP-001-JPがあるためですよね。アクイタル・プロトコルは財団職員を他人の死を厭わないロボットにする代わりに、財団内に収容するプロトコルです。しかし、キャリア-2718-JP-2にはもはやその必要がないのではないでしょうか。他人を殺すことを忌避するというのは極めて健全な感情であり、SCP-001-JPの影響はないと言っても良いでしょう。つまり、彼らはもはや財団に収容しなくてよいのです。
もちろん、社会復帰や幻聴のカバーなど、課題は多いでしょう。しかし、できないことではありません。財団はこれまでも記憶処理やカバーストーリーを駆使して異常存在を一般市民から遠ざけてきました。終了やDクラスへの再雇用は確かに課題を解決するための簡単な方法ですが、今回に関してはただの"逃げ"です。もはやロボットではなくなった人間が財団の中で理不尽に生涯を終えることに、何の意味があるのでしょうか? 最も身近な一般市民すら守れなくて、何のための財団なのでしょうか?
どうか、O5の皆さんには真摯な対応をお願いします。
オドンゴ・テジャニ
倫理委員会委員長
これを受けて、O5で再度協議の上、前述の倫理委員会の提言に対する採決が行われました。
O5評議会提言概要
提言: 勤務復帰困難なキャリア-2718-JP-2職員の解放、及びそのカバーに向けたプロトコルの制定 (倫理委員会)
評議会投票概要:
是 | 否 | 棄権 |
---|---|---|
O5-03 | O5-01 | O5-13 |
O5-04 | O5-02 | |
O5-05 | O5-06 | |
O5-07 | O5-09 | |
O5-08 | O5-11 | |
O5-10 | ||
O5-12 |
結果 |
---|
承認 |
この結論により、勤務復帰困難なキャリア-2718-JP-2職員の解放に向けて「プロトコル・リベレイション」が制定されることになりました。プロトコルの詳細は協議中ですが、社会復帰に関しては財団フロント企業への斡旋、幻聴に関しては都市伝説系カバーストーリーの流布が盛り込まれることは決定しています。