クレジット
タイトル: SCP-2745-JP - How to Fxcking Shit in Business Without Really Trying努力しないでクソにする方法
著者: kskhorn
作成年: 2024
アイテム番号: SCP-2745-JP
オブジェクトクラス: Thaumiel
特別収容プロトコル
SCP-2745-JPは、専用収容棟に収容したうえでSCP-2745-JPプロジェクトチームによる管理下に置かれます。SCP-2745-JPのバイタル管理については生物学部門が、人格構成部とメンタルヘルスの状態管理については神学部門がそれぞれ担当します。SCP-2745-JPから不調の愁訴が確認された場合、生物学部門の薬研博士および呉羽研究員、神学部門の河野博士の協議によって、対応を決定してください。
収容に当たり発生したSCP-2745-JP排泄物は、排泄管から一時収容槽に貯蔵した後、乾燥と焼却によって減容化して一般廃棄物として埋立処分を行ってください。また、ttt社からSCP-2745-JP排泄物の処理に関する申し入れがあった場合、薬研博士、河野博士、廃棄部門の照井主席研究員の3者協議のうえ、日本支部理事会の裁可によって対応してください。
またSCP-2745-JPの設計意図に鑑み、本オブジェクトの収容における各種の判断基準は、人型オブジェクトのそれを参考に設定されなければなりません。
説明
SCP-2745-JPは、生体組織を基礎として作成された疑似的ヒト個体です。SCP-2745-JPは、 SCP-871およびSCP-558-JPのような、その異常性によって大量の非異常性可食物を生成するオブジェクトの収容体制改善を目的として廃棄部門が提言、生物学部門が主導し、神学部門の協力のもとで3課合同プロジェクトとして開発されました。
SCP-2745-JPは大きく生体構成部と人格構成部の2つの部位で構成されています。生体構成部の外見は3m×8m×2mの金属製の直方体で、内部にその本体が格納されています。生体構成部の本体は、ヒト細胞組織をベースとして人工培養・分化により作成された人間の消化器系全体と、これを機能させる人工筋肉です。これらの生体構成部は、生物学的見地から伸縮性・構造的強度・機能強度を高める形で設計・改造されています。この生体構成部は、肛門部に直結された柔軟性を持つ排泄管によって外部に接続されており、排泄物はこれを通して屎尿処理設備へ直接送られます。

SCP-2745-JP生体構成部。
内部に本体の消化器系が格納されている。
人格構成部の外見は、高さ2mの生体適合性樹脂で製造された円筒型容器です。内部には、生物学部門統制下の厳密な分化誘導によって作成されたヒト脳オルガノイド1が格納されており、生体構成部の働きを調整する機能を持っています。また、SCP-2745-JPは疑似人格構造をヒト脳オルガノイドに組み込まれており、その振る舞いが8歳から10歳の女児のものに近くなるよう人格パラメータが設定されています。なおSCP-2745-JPは、格納型容器に接続されたカメラおよびモニターとスピーカーによって、周囲の環境を認識し他者とコミュニケーションを取ることが可能です。
生物学部門と神学部門は、生体構成部と人格構成部のアセンブリによって、SCP-2745-JPが生物学的・神学的・記号論的に人間として認識されることを意図して設計しました。これは上述したSCP-871とSCP-558-JPに、その異常性によって生成された食物が人間によって消費されない場合、オブジェクトの増殖や収容人員への危害を避けられないという特性があるためです。
SCP-2745-JPの異常性は、その臓器の生体機能が著しく強化されている点です。生物学部門は本オブジェクトの開発にあたって、1時間あたり650㎏の食物を継続的に消化することができるよう設計しました。これは、SCP-871ならびにSCP-558-JPが1日に生成する、非異常性の鶏肉と菓子類を安定的に食用処理することが可能なスペックです。SCP-2745-JPの導入によって、これらのオブジェクトの収容体制は安定化し、財団職員の稼働が収容に影響しない、準完全収容状態2に移行しました。
SCP-2745-JP稼働記録-1
日付: 2014年12月24日
注記: 呉羽研究員によるSCP-2745-JPの日課の検診が行われた。24日の当時、SCP-2745-JPは既に6時間稼働しており、3トン以上のSCP-558-JP由来鶏肉が消費されていた。
[記録開始]
SCP-2745-JP: あ、先生だ!こんにちは!
呉羽研究員: ミミちゃん3、こんにちは。
SCP-2745-JP: あ、メリークリスマスだね!ローストチキンのプレゼントありがとう、とってもおいしいよ。
骨抜きのローストチキン10羽分をSCP-2745-JPが摂食する。外部のアームが自動で運びこんで口の中に投入する。
呉羽研究員: メリークリスマス。喜んでくれたみたいで良かった、鶏肉だったらローストチキンが一番好きかな?
SCP-2745-JP: うーん、鶏肉は全部好きだよ。唐揚げも、フライドチキンも、煮物も、手羽先も、全部好き!ローストチキンも好き!
呉羽研究員: 先生も鶏肉は全部好きだから一緒だね。そういえば、ケーキの準備4もしてあるけどどうかな?
SCP-2745-JP: ケーキ食べたい。ローストチキン食べたらケーキ食べてもいい?
呉羽研究員: もちろんだよ。ところで、ごはんの間にミミちゃんの検査終わらせちゃうから、そのままね。
呉羽研究員が移動しながら、生体構成部の複数個所の金属壁に聴診器を当てる。この時の消化器系は活発な動きを見せており、消化管の蠕動運動が順調に進んでいることが示唆された。
呉羽研究員: うん、問題ないね。下のほうも少し見るからもうちょっと我慢ね。
下部消化管側に呉羽研究員が移動する。直腸に接続された排泄管の内部を排泄物が通過していく。モニター上では、排泄管内の毎時通過量は1時間当たり431㎏と表示されているのが確認できる。
呉羽研究員: こっちも問題なし、ミミちゃんとっても健康だったよ!
SCP-2745-JP: 本当?それじゃあケーキ、食べてもいい?
呉羽研究員: もちろん。ゆっくり食べるんだよ。
収容室内に様々な種類・大きさのホールケーキ52個が搬入されると、そのままアームによってSCP-2745-JPに供給される。
SCP-2745-JP: わ、ありがとう!いただきます!……おいしい!
SCP-2745-JP: ……先生、もうちょっとケーキ食べたい。おかわりある?
呉羽研究員: ふふふ、大丈夫だよ。後で持ってくるからね。
SCP-2745-JP: やったー!
[記録終了]
オブジェクトの特別収容プロトコルを策定するにあたって、その成否が収容に関わる職員のパフォーマンスに依存することは最大のリスクです。SCP-871とSCP-558-JPは、収容においてそのリスクが顕在化していた最たる例であると言えます。
人間は1食あたり300~500g食べてしまえば満腹になります。たとえすべての食事を鶏肉に置き換えるよう強要しても、通常人が消費できる量は1日2㎏が限度です。また、どれだけの甘党でもSCP-871の生成する菓子で1日の食事を賄おうとすれば、ものの1か月のうちに体調を崩すでしょう。
一方でこれらのオブジェクトは、どちらも『人間によって』消費されなければ、無際限に鶏と菓子の生成を続けるという特性がありました。これはつまり、収容状態が維持されなければ速やかにNK-クラス"グレイ・グー"シナリオ5に至るリスクを常に孕んでいるということです。そのようなオブジェクトの収容の成否が、これまで胃の容量という極めて不安定なリソースに依拠していたことは、財団にとって憂慮すべき事態であり続けてきました。
そして、SCP-2745-JPはこれまで不可能だったこれらのオブジェクトの安定的収容を遂に実現させました。機能性強化の面で設計意図を反映させているものの、生体組織そのものはヒト由来のものであり、人格においても情動的に安定している状態を維持することに成功したことで、日当たり10~15トンの食物を消化させることが出来ています。更に消化されて1日5トン以上生成される排泄物についても、廃棄部門により機械的に自動で焼却する設備が調えられたことで、問題なく一般廃棄物とすることが出来ています。現在SCP-2745-JPの排泄物は、廃棄設備稼働により徹底的に減容化されたことで、日に500㎏の一般的な焼却灰とすることができています。
無論、これは収容手法にこれ以降改良の余地が無いということではありません。生物としての消化に依らずにこれらのオブジェクトを処理することが最善手であることは依然変わりなく、今後はそのための方法の開発が廃棄部門と共に進められる予定です。いずれにしても、上記のような食品を生成するオブジェクトが今後も出現する可能性は否定できません。SCP-2745-JPの開発成功は、収容手法の改善・収容体制の安定化・収容技術の応用検討という意味において、一つのメルクマールとなることでしょう。
――生物学部門 薬研博士
インシデント2745-JP > 1.発生
2015年4月5日、SCP-2745-JPは強い腹痛を訴えました。この際に、SCP-2745-JPの排泄量が急増する事象が確認され、排泄管と廃棄設備の安全装置が作動する事態となりました。
SCP-2745-JP稼働記録-2
日付: 2015年4月5日
注記: 同日15時過ぎ、SCP-2745-JPのバイタルが急激に変化したため、担当の呉羽研究員に自動アラートが掛かった。午前中の検診時には異常な点は見られなかった。
[記録開始]
SCP-2745-JP: 先生、先生、先生!お願い!先生!
呉羽研究員: ミミちゃん、どうしたの?具合悪い?
SCP-2745-JP: お腹、お腹が痛くて……痛いの、先生!
呉羽研究員: お腹が痛いんだね、よし、お腹見てみようね。先生にちょっとお腹見せて?上の方が痛い?下のほうかな?……このあたりかい?
呉羽研究員が胃部に当たる場所に触れる。少しずつ下部消化管側に移動しながら、触れる場所を変えていく。
SCP-2745-JP: そこじゃない、もっと下。もう少し、……そこ、そのへん。
呉羽研究員: ここだね?お腹の音聴かせてね、そうそう、ごめんね。
研究員が小腸部に当たる場所で、金属壁に聴診器を押し当てる。大きい腸蠕動音の聴取を認め、平常時と比べて活発な腸の運動が確認される。
SCP-2745-JP: 先生、どう?私、お腹悪くない?
呉羽研究員: うーん、お腹が頑張ってうんち出そうとしてるみたいだね。お腹の中がよく動いてるから。お腹痛いの我慢できないかな?
SCP-2745-JP: うん、痛いのやだ。
呉羽研究員: 分かった、じゃあお薬入れるから、痛いの良くなるか教えてね。
SCP-2745-JPにブチルスコポラミンが投与される。マイク越しにはっきりと腸蠕動音が聞き取れるようになる。
呉羽研究員: よし、これで良くなるよ。苦しかったらうんち出していいからね。
SCP-2745-JP: 先生ありがとう……まだお腹痛い。うんち出そう。
腸蠕動音が大きくなる。研究員が動揺する様子が写る。
呉羽研究員: 大丈夫かい?……うわっ!
SCP-2745-JPの便排泄が始まる。大腸部から外付けの排泄管を通して、処理設備へ排泄物が送られると同時に、収容室内の奇跡量測定器が異常高値を示す。排泄物の管内通過量は通常時の約2倍の毎時810㎏を示し、排泄管破損の恐れの警告アラートが鳴動する。
呉羽研究員: これは!?(収容室外部への集音マイクに向かって)……応援!応援を至急!アキヴァ放射量が異常値!SCP-2745-JPの排泄量が急増!至急応援を!
呉羽研究員が排泄管の安全装置が自動で稼働したことを確認する。排泄管の接続先が一時貯蔵槽に切り替わり、管内への注水によるフラッシングが開始される。
SCP-2745-JP: 先生、お腹、まだ痛いよ。私、どうなったの?
呉羽研究員: 大丈夫、大丈夫だからね。
排泄管内のフラッシングが続くが、依然管内通過量は毎時800㎏前後を推移している。また、奇跡量測定器は引き続き異常高値を示し、SCP-2745-JPの生体構成部および一時貯蔵槽内の排泄物からの強いアキヴァ放射が確認される。
呉羽研究員: ミミちゃん、ごめんね。ちょっと一度検査しないといけないみたい。検査頑張れるかな?
SCP-2745-JP: ……終わったら、ケーキ食べたい。
[記録終了]
4月5日の事案発生以降、SCP-2745-JPが食物の消化によって排泄する排泄物の量が顕著に増加しました。SCP-2745-JPの排泄物は、事案以前の日当たり平均が10トン程度であったところ、事案以降日当たり平均20トンに急増していることが確認されました。直ちに生物学部門がデータの分析にあたったところ、4月5日以降SCP-2745-JPの排泄物量は、摂取した食物量の倍量を越えていることが判明しました。本事案の原因と、排泄物量の増加に伴って必要とされるはずの有機物がどのように補われているかは不明であることから、事案の調査と対処方法の検討のための緊急対策会議がプロジェクトチームによって実施されました。
SCP-2745-JP緊急対策会議 音声記録
日付: 2015年4月7日
参加者:
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー:薬研博士(生物学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 人格構成部専任担当:河野博士(神学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 廃棄処理区画専任担当:照井主席研究員(廃棄部門)
SCP-2745-JP収容主任:呉羽研究員(生物学部門)
[記録開始]
薬研: それではSCP-2745-JPの現状について改めて確認します。4月5日に発生した原因不明のインシデントの結果、SCP-2745-JPは摂食中に度々強い腹痛を訴えるようになっています。結果、SCP-2745-JPは現在摂食行為そのものが腹痛の原因と考えており、SCP-871およびSCP-558-JP生成物の摂食を避けようとするためにその処理が追い付かなくなっています。
呉羽: インシデント当日朝のSCP-2745-JPのバイタルチェックの段階では異常ありませんでした。と言うよりも、これで発生している事象以外に、バイタル的な異常は確認されていないんですよね。
薬研: ええ。そして、現在発生している異常は主に2つ。ひとつは、SCP-2745-JPが排泄する便の量が著しく増加したこと。元々毎時400㎏で便を排泄していたところ、現在の排泄量は日当たり15~20トンなので毎時625㎏以上。そしてこの排泄量は摂食した食物の約倍量、つまり10トン食べると、なぜか20トン排泄されています。
呉羽: どこから持ってきてるんでしょう。残りの10トン分。
照井: いや、そりゃ原因を横に措くとしてですけどね。えーと、実際困ってんです。屎尿処理設備側は平均流動量の1.5倍クリアランスの処理能力で設計したんで、MAX600㎏毎時が限界なんですよ。腹痛いのが治っても、そもそも日に20トンもウンコされたんでは、排泄管が破断して早晩ウンコの中にみんな沈みますよ。
薬研: もうひとつの異常は、排泄物から由来不明の中等度のアキヴァ放射6が確認されていること。これはSCP-2745-JPの消化器系、特に腸内に存在する時点から放射が始まるようです。
河野: あ、私の方で測定してあります。えー、SCP-2745-JP腸内にある時点でのアキヴァ放射強度が平均16.47Ak。排泄後のサンプルで測定すると平均14.14Ak。SCP-2745-JP自身は事案前後を通して3.8Akですから……あー、排泄物そのものが異常を帯びていると考えたほうがいいですね。
照井: サンプルレベルならそれでいいですけどね、処理する方からしたらマズいんですよ。それなりに強いアキヴァ放射なんで、一所に集めておいたらどんな影響出るか分かんないんですが。
薬研: 分かりました。照井さん、廃棄部門からこの事象による具体的な問題がどこにあるかまとめてもらえますか?
照井: ……まずはさっき言った件、中等度とはいえアキヴァ放射強度の高い廃棄物を一か所に貯めておくと、予期しない奇跡論的事象を発生させうること。次に、今の設備でこいつを廃棄処理しようとしても、アキヴァ放射そのものを止めることは出来ないこと。
河野: えーと、玄妙除却技術での処理は難しいんでしょうか……?事案直後にそんな話がありましたけど。
河野: 最後がそれです。玄妙除却セクション7で処理しようにも、異常性廃棄物が毎日こんな量発生してはロジスティクスが破綻します。そうでなくても、あの部署はこのオブジェクトの処理だけやっていられるわけではないですから、長期的な処理体制の構築が困難です。以上の3点が問題として挙げられます。
呉羽: すみません、もう一点。どうもSCP-2745-JPに痛み止めを投与しても、効き目が薄い、というかほぼ効いてないみたいで。大分辛そうなんですよね。
薬研: あぁ、そうでしたね。事案以降、SCP-2745-JPの食物の処理速度が顕著に落ちており、他のオブジェクトの安定的収容に影響が出ていることも問題として挙げられます。これも痛みによるものですね?
呉羽: ……まぁ、そうです。ミミちゃん、食べるの嫌がるようになっていますから。
薬研: ここではオブジェクト名で呼称してください。いずれ、当面の取扱方法の検討はすぐにも結論が欲しいところです。と同時に、原因究明と根本的解決の方策も考えなければならないでしょう。前者は照井さん、旗振りをお願いします。原因究明のほうは生物学部門が。
河野: あ、えっと、神学部門としてはどうしましょう?
薬研: 生物学部門の補助をお願いできますか?アキヴァ放射が発生した原因については、おそらくそちらの方が知見をお持ちでしょうから。
河野: あ、分かりました。
照井: まったく、鶏の精肉処理が終わったと思ったら、次は汲み取り業者か。楽はできないもんだね。
[記録終了]
インシデント2745-JP > 2.対応
緊急対策会議の結果を受けて、廃棄部門は当面のSCP-2745-JP排泄物の取扱いについての検討を開始しました。4月27日、本件についての対応方針が取りまとめられ、照井主席研究員より以下の通り報告されました。
SCP-2745-JPの排泄する便(以下、SCP-2745-JP排泄物)の処理方法を検討するにあたり、現状これらの大量の廃棄物を処理する設備が不足していることが問題として挙げられました。これに対応するため、廃棄部門では差し当たって排泄物のままで活用する方法がないか、試験的利用を実施しました。具体案として、発酵によるメタンガス燃料化と乾燥有機肥料化の2案が挙げられ、2週間にわたり財団施設での試験が行われましたが、この試みは結果としてどちらの案も運用上の問題があり頓挫する結果となりました。
第一のメタンガス燃料化は、成功した際に生成されるガスの用途が汎用的であること、システム構築後は安定してSCP-2745-JP排泄物の継続的利用・消費が見込めることから注目されました。試験の結果、初期の段階では安定した出力で試験サイト内で使用するガス燃料の1割を満たす量のガス生成が可能であることが証明されました。しかしながら、試験サイトの畜糞発酵槽へ80トンのSCP-2745-JP排泄物を投入した段階で槽内のアキヴァ放射強度は20Akを越え、これ以上一ヶ所に集積して管理することは予期しない奇跡論的インシデントを招く可能性があり、運用が困難であると見なされました。もし同様の手法でSCP-2745-JP排泄物全量を安定して利活用する場合、新規のガス生成プラントが7基必要であり、運用にあたってのインシデントリスクがガス生成によるコスト低減の利益を上回ると考えられ、現実的ではないと判断されました。
第二の乾燥有機肥料化は、SCP-2745-JP排泄物の大幅な減容化、製造手法に現有設備をそのまま転用できる点、利用方法の単純さから有望視されました。試験として、促成栽培用の標準的な土に乾燥SCP-2745-JP排泄物を構成比1%~50%で混ぜたものを使用し、キャベツ・人参・ジャガイモ・大豆・トマトを栽培しました。結果、土壌内の構成比に依らず、SCP-2745-JP排泄物を使用した土壌では植物の栽培が不可能であることが判明しました。実施した試験において、種芋は全量が土壌内で腐敗ないしカビが発生し、それ以外の植物についても発芽率は5%程度で、それも全て根腐れや立ち枯れを起こしそれ以上生長することができませんでした。
神学部門の見解では、こういった生物に負の影響を与えるような事象の原因となるアキヴァ放射が観測される場合、その原因は宗教的罪咎に由来していることが多い8とのことですが、発生の具体的原因が不明である現状アキヴァ放射能を除去することはできず、SCP-2745-JP排泄物を現状のまま利活用する方法は無いと言わざるを得ません。
次善の策として、SCP-2745-JP排泄物を何らかの方法で処分・廃棄することが検討されました。上記方針を取るにあたり、廃棄部門内で挙げられた処理方法案は以下の通りです。対応策 | 概要 | メリット | 問題点 |
---|---|---|---|
焼却希釈法 | 排泄物を既存の海上施設で焼却後、海洋投棄によって残渣が発するアキヴァ放射の影響が無視できるレベルまで希釈する。 | 既存設備の活用によるローコストの廃却が可能。 | 本事案が長期化した際、周辺海域への影響が未知数である。 |
玄妙除却法 | サイト-43へ排泄物を移送、焼却後に玄妙除却処理を行うことで無害化する。 | 焼却による減容を経ることで、玄妙除却設備の処理能の範囲内で無害化可能。 | サイト-34より、全量移送処分とする場合は他オブジェクトの処理への影響のため40日以内の解決を求められている。 |
生体濃縮法 | 排泄物を焼却した後、意図的に牛や魚類に暴露させてアキヴァ放射の影響を低減、その後生体自体を移送して玄妙除却処理をする。 | 現在のサイト設備の範囲内で実行が可能。 | 生体への影響の発現形態が予測不可能である。 |
乾燥埋蔵法 | 排泄物を現状の設備で乾燥させて減容する。この際乾燥ガスに玄妙除却フィルターを経由させて環境影響を軽減して、乾燥状態の排泄物を埋蔵保管する。 | 排泄物状態での長期保管が可能。 | 先送り的手法であり、保管期限は半年程度が限界である。過剰量の貯蔵はアキヴァ放射強度の上昇を招く。 |
上記の対策案からも分かる通り、SCP-2745-JP排泄物は以下の問題を抱えています。
- 排泄物自体を玄妙除却処理で無害化するには量が多すぎるため、設備のキャパシティを超過してしまう。
- 乾燥減容化による排泄物自体の保管は、量的問題やアキヴァ放射の影響から恒久的対策にできない。
これらの問題点を勘案し、廃棄部門は当面の主要な対策として乾燥埋蔵法による財団施設地下での保管を選択しました。一部は玄妙除却セクションの協力によって、玄妙除却法での処理も可能であり、現状年内一杯は対応可能となる見込みです。しかしながら、これはあくまで当座の対策であり、早期の根本的解決に向けた取り組みが求められます。
――廃棄部門主席研究員 照井 獅子尾
また一方で生物学部門と神学部門によって、インシデント2745-JPの根本的解決のため、その原因の特定に向けた分析と検討が開始されました。
SCP-2745-JP稼働記録-3
日付: 2015年4月12日
注記: 呉羽研究員によるSCP-2745-JPの検診が行われた。この際、収容房の外部で薬研博士と河野博士が房内の計器を確認すると同時にSCP-2745-JPとの会話を聴取し、必要に応じて呉羽研究員に指示を送る形が取られた。なお、SCP-2745-JPより腹痛と食欲減退の愁訴があったことに鑑み、食物の供給は一時的に減量され、輸液による病態維持が図られている。
[記録開始]
呉羽: ミミちゃん、おはよう。具合はどう?ご飯は食べれてる?
SCP-2745-JP: 先生、おはよう。……あんまり良くない。やっぱりご飯食べてるとお腹痛くて。
呉羽: お腹が痛いんだね。前と同じこのあたりかな?痛みも前と同じくらい?
照井研究員が生体構成部の外壁を押しながら、小腸部に触診を行う。内部の蠕動運動と思われる微細な振動が見られる。排泄管からは毎時316㎏で引き続きSCP-2745-JP排泄物の排出が続いている。
SCP-2745-JP: うん、そのあたり。痛い時はもうちょっと下のほうまでくるかも。ご飯食べてないから、今は痛くないけど。
呉羽: そっか、ご飯食べてる時が特に痛いんだ。じゃあ点滴してる時は痛くならないのかな?
SCP-2745-JP: うん。痛くない。
呉羽: 点滴だけなら大丈夫、なるほどね。そしたら、最後にごはん食べたのは何時くらい?お腹空いてない?
SCP-2745-JP: 最後は昨日の夜。えっと、8時くらいだったと思う。だからお腹は空いてるけど……。
河野博士から、生体構成部の各部位での経時的奇跡量測定を行うため、測定器の設置指示が入る。
呉羽: 確かに触った感じ、お腹の中も空っぽになってるかな。……それじゃあお腹の様子見るために検査の機械付けるよ。
咽頭部・胃部・小腸部・大腸部・排泄管に装置が取り付けられる。装着時典でのアキヴァ放射強度は、咽頭部4.07Ak・胃部4.11Ak・小腸部15.85Ak・大腸部15.54Ak・排泄管13.27Akであった。また、この時点の排泄物サンプルでも奇跡量測定が行われ、16.91Akが観測された。
呉羽: はい、ありがとう。ミミちゃん、痛みはどのくらい痛かった?この顔の中だとどのくらい?
呉羽研究員がFRS9の尺度スケールを呈示する。SCP-2745-JPは上から2番目の顔をアームで指す。同時に、薬研博士よりSCP-2745-JPに食物を摂食させて反応を見るよう指示が出される。
呉羽: なるほど、このくらいだね。ありがとう。でも半日以上食べてないから、そろそろ少しだけでも食べれる分は食べたほうがいいね。ケーキあるけど、先生と一緒にどうかな?
SCP-2745-JP: ケーキ?……先生と一緒なら、ちょっとだけ食べる。
切り分けたSCP-871生成物のホールケーキが出される。照井研究員が一切れを齧ると、SCP-2745-JPが残りを摂食する。その後約5分間、照井研究員とSCP-2745-JPとの会話が続く。
SCP-2745-JP: ……先生、ごめん、お腹痛くなってきた。痛い、痛い。
胃部から11.03Akのアキヴァ放射が観測される。摂取したホールケーキが十二指腸側に移るにしたがって、胃部の数値は低下し、小腸側の数値が上昇する。SCP-2745-JPの脳波分析から強度のストレスを感知する。
SCP-2745-JP: 痛い!痛い!先生!
呉羽: 大丈夫だよ、ゆっくり、ゆっくり。出そうなら無理しないで出してね。痛みはさっきの顔のやつだとどのくらい?
SCP-2745-JPはアームで最も強い痛みを示す顔を指す。消化器系全体に強い蠕動が見られ、アキヴァ放射の変動する部位が小腸部から大腸部へと移る。
呉羽: すごく痛いんだ、ごめんね。ちょっとご飯の量減らしておいたほうがいいね。ありがとう。ミミちゃんが落ち着くまでここにいるから、変わったことがあったら教えてね。
SCP-2745-JP: うん。……ねぇ、先生。
SCP-2745-JP: やっぱりケーキも食べたくないや。
アキヴァ放射の変動箇所が大腸から排泄管に移動する。脳波中の疼痛によるストレス反応が消退する。
[記録終了]
SCP-2745-JPへの複数回にわたる検診とその分析の結果、アキヴァ放射の発生はSCP-2745-JPの食物摂取をトリガーとしていることが判明しましたが、この反応がなぜ発生しているかの根本原因は不明でした。これを承けて5月2日、各部門での初期調査および初期対応の完了を以て、領域横断による検討会が実施されました。
SCP-2745-JP検討会 音声記録-1
日付: 2015年5月2日
参加者:
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー:薬研博士(生物学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 人格構成部専任担当:河野博士(神学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 廃棄処理区画専任担当:照井主席研究員(廃棄部門)
SCP-2745-JP収容主任:呉羽研究員(生物学部門)
[記録開始]
薬研: 御参集ありがとうございます。それでは現状の確認から始めていきましょうか。SCP-2745-JPの状態の推移について、呉羽君お願いします。
呉羽: 分かりました。先月の検討会の時と比較して、まずSCP-2745-JPの食欲減退は著しいものがあります。インシデント以前、最大で日当たり20トン以上の食物を経口摂取していたSCP-2745-JPですが、昨日時点での摂取量が1トンを割っています。SCP-2745-JPの生体組織部を維持するには経口摂取で1日最低2トンを摂取する必要があるため、不足分を輸液で補っていますが……正直、トン単位の輸液を生体部に送るのは運用上の負担が大きいと言わざるを得ません。
河野: あっと、私のほうでですね、精神面のケアをしておりますが、SCP-2745-JP自身にも心身の負荷が大きいようです。食べないといけないのは分かっているようですが、食べられない。先日はだいぶ限界だったのか、かなり泣かれてしまいました。
照井: そういえば、昨日本当に1トン弱しか食ってないんですかね?記録確認しましたけど、日当たり排泄物量8トン弱ってなってましたよ。間違ってないです?
呉羽: 照井さん、そこがもう一つの問題です。経口摂取した食物量に対する排泄物量の比率が加速度的に増加しています。インシデント発生時点では摂取量1に対して排泄量が約2、先週の平均が約1対4、昨日が1対8ですから、まさに指数関数的な増加です。理由はともかく、輸液が食物量に入らなかったのは幸いでした。
照井: クソ、やっぱりそうか。道理で処理設備の負荷が減ってないわけだ。
薬研: 良くない状況ですね。どういう式で増えているかはなんとも言えませんが、このままのペースでいくと3か月後には1対100の比率が見えてきそうです。照井さん、廃棄部門として、現状と今後の見通しはどうでしょうか。
照井: いや、それが本当であればヤバいとかいう話どころではないです。現在、SCP-2745-JP排泄物は徹底的な乾燥減容で元の重量の30%の重量にして、容器に格納したうえで埋設保管しています。昨日程度の量であればサイト内保管で1年弱はいけますが、3か月で100倍まで行くペースであれば2か月後には現在の手法は破綻します。廃棄部門として、早晩解体部門へ業務を引き継いでSCP-2745-JPの無力化を進言するでしょうね。
河野: いやその、仮にもSCP-2745-JPは『人間』ですから。そう軽々には……。
薬研: 仰ることも分かります。とは言え、食物と異常性廃棄物では前者のほうがまだマシです。排泄物を食べるわけにはいかないですから、どうしてもの時は考えなければならないでしょう。さて、それで河野博士。アキヴァ放射の発生原因の方はどうでしょうか?
河野: その、はっきりとした断定までは出来ていないというのが正直なところです。ただ廃棄部門さんでの試験から、何かしらの罪咎があったことをトリガーとして神的事象、いわゆる奇跡が発生しているということまでは分かっています。これを解消できればあるいは、とは思うのですが。
呉羽: 問題はその罪咎が何であるかが分からないというところですね?
河野: そうなんです。今のところ、我々が生殖によらずに『人間』を作り出したことが原因ではないかと考えているのですが。
照井: と言っても、SCP-2745-JPのローンチは昨年の秋だろう?『人間』を作った罪で罰が下るなら、その時じゃないとおかしいだろうよ。
薬研: それもありますし、その仮説を真とするなら罰を受けるべきは作成した私や河野博士になるべきで、SCP-2745-JPではないでしょう。いえ、人間の理屈が通るかは専門外なのであまり断言もしづらいのですが。
河野: いや、そうですよねぇ。私どもが何か見落としているんでしょうかね。
呉羽: うーん……ミミちゃんに聞いてみましょうか?当日のことをもう一度洗い直す必要はあるでしょうし。
薬研: 呉羽君、呼び方に気を付けてください。しかし、調査の必要はあるでしょう。インシデントが起きたという事実そのものが、ヒントになっている可能性もあります。
河野: 分かりました。えっと、呉羽さん、次の回診の時に同席させてください。
薬研: ではそのヒアリングの結果を踏まえて河野博士には一度報告をお願いしましょう。解決までのタイムリミットは2か月です。各員最善を尽くしましょう。よろしくお願いします。
[記録終了]
インシデント2745-JP > 3.究明
インシデント2745-JP後の状態変化に鑑み、神学部門は発生原因の早期特定のためSCP-2745-JPへのヒアリングを生物部門と共同で実施しました。
SCP-2745-JP稼働記録-4
日付: 2015年5月5日
注記: 呉羽研究員によるSCP-2745-JPの検診が行われた。今回のヒアリングは神学部門の河野博士同席の下で行われ、SCP-2745-JPの精神状態のケアのほか、インシデント2745-JPの発生時に何が起こっていたかを精査することが目的である。
[記録開始]
呉羽: おはようミミちゃん。調子はどうだい?
SCP-2745-JP: 先生おはよう。今日は河野先生も一緒なんだね。
河野: あ、おはよう。そうなんですよ。今日はこれを食べる日だから、一緒に来てみたんです。
河野博士が柏餅を取り出す。
SCP-2745-JP: いらない、お腹痛くなるし……。
呉羽: うんうん、食べれそうならでいいよ。今はとりあえず痛くないってことかな?
SCP-2745-JP: うん、今は大丈夫。食べなきゃ大丈夫。
河野: えっと、ミミちゃん。今日は聞きたいことがあったんです。お腹が痛くなった日のこと、聞かせてくれませんか?
SCP-2745-JP: 1ヶ月くらい前の?えー、覚えてないよ。
河野: 覚えてるところだけでいいですよ。その日はご飯食べてましたよね?
SCP-2745-JP: うん。えーっと、その日もご飯とケーキ食べてた……あの日って変わったケーキがいっぱいの日だったよね?
呉羽: そうそう、ヨーグルトクリームみたいなのがいっぱいのケーキだったね。ショートケーキとかバームクーヘンとどっちが好き?
SCP-2745-JP: ショートケーキ!でもあの甘酸っぱいクリームのケーキも変わってておいしかった!
河野: ふむふむ、なるほど。それ以外にはどうでしたか?食べてて気づいたことはありますか?
SCP-2745-JP: えー?何かあったかなぁ……?うーんと、ね。あ、先生!あの日って卵の料理いっぱい作ってくれてたよね!
呉羽: あ、そうだったね。卵がいっぱい手に入った10日だったから、ゆで卵とか煮卵いっぱい食べたよね。
SCP-2745-JP: うん!煮卵おいしかった!お腹良くなったらまた食べたいな。
河野博士が持ち込んだ手元資料を確認する。
SCP-2745-JP: それで、お昼過ぎたころに急に痛くなって……。それくらいだよ。あとは先生も知ってるもん。
河野博士が突然立ち上がる。
河野: 呉羽さん!ケーキの写真はありますか!?
呉羽: ええっ?ケーキですか?何の?さっき言ってたこの日のやつですか?えっと、待ってくださいね。

河野博士が頷く。呉羽研究員は手元のタブレットでSCP-2745-JPがインシデント当日に摂食したケーキの画像(添付参照)を提示する。
河野: кулич!!
SCP-2745-JP: 河野先生どうしたの?
呉羽: 河野博士、何かありましたか?
河野: いえ、あっ、えっと、ですね。インタビューを終了、していいですか?
河野: ミミちゃん、ありがとう。とってもいいことを聞かせてくれたね。
[記録終了]
SCP-2745-JP検討会 音声記録-2
日付: 2015年5月12日
参加者:
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー:薬研博士(生物学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 人格構成部専任担当:河野博士(神学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 廃棄処理区画専任担当:照井主席研究員(廃棄部門)
SCP-2745-JP収容主任:呉羽研究員(生物学部門)
[記録開始]
薬研: 定刻です、始めましょう。
呉羽: あれ、照井さんはいらっしゃらないんですか?
薬研: 連絡が無いですから、追っていらっしゃるでしょう。それで河野博士、インシデントの原因が分かったというのは本当ですか?
河野: ええ、ええ。えー、先日のですね、呉羽さんとのヒアリングのおかげでですね、ある程度アタリはついたと思います。結論から言うとですね、タイミングと食事の問題だったんです。
河野: もっともっと気を付けるべきでした。インシデント発生日、これは4月5日でしたね。これ、何の日だったかっていうと復活祭日、イースターの日だったんですよ。
照井: すんません、遅くなりました。大丈夫ですか?……あぁ、薬研博士。ちょっとこれの話終わったら早急に相談したいことがあって。河野博士も、申し訳ないです、先を。
河野: いえいえ、これからでしたから気にしないでください。で、こういった宗教的祝祭やその祭日、あとは神仏や聖人との縁日というのは神的・霊的交流の恰好のタイミングでもあるんですね。要するに、向こうがこちらに近づきやすくなる日、といったらいいでしょうか。
河野: イースターはそういった日の中でも特にそういう力が強い日として知られています。なんと言っても世界宗教クラスの、それも教義や聖典でもかなり大きな位置を占める、『復活の日』ですから。
薬研: つまり、そもそもインシデントの日自体がそういった祭日で、神的存在とは接近しやすい日ではあったんですね?
河野: あ、そうなんです。それで、更に不運が重なったんですが、この日SCP-2745-JPが食べたものが事態を深刻にしました。それがまず卵です。この日はSCP-558-JPを肥育している養鶏場で採卵されたものを一気に消化する日でした。更にとどめを刺したのが、こちらのケーキです。
呉羽: これ回診の時にもお見せしましたけれど、何なんでしょうか?クリ、なんとかと呼んでいたと思いましたけれど。

インシデント当日に現れた、パスハを塗ったクリーチ。
『ハリストス復活』を表すXBの文字で飾られていた。
河野: ……これは『куличクリーチ11』と呼ばれるケーキです。正確には、クリーチに『пасхаパスハ12』と呼ばれる酸味のきいたムースのような菓子をクリームとして塗ったものです。これはどちらも、正教会ではイースターの時に食べる菓子です。呉羽さん、この日SCP-2745-JPはこのタイプのケーキをどのくらい食べましたか?
呉羽: はっきりした数は分かりませんが、この日は確かにSCP-871でこのクリーチが大量に生成されて、最大高さ1mの巨大なものを含めて80個以上は食べているはずです。
河野: このほかにも、いくつかはパスハ自体が大きなムースケーキとして出現した例もあったようです。これらの祭日を象徴する食べ物は、その日に食べることで先ほどお話した神仏との縁を強め、交流を更に深めるように働きます。卵は言わずもがな、イースターエッグの例を引くまでもなく同じ効果を持ったことでしょう。こんなものを、神との縁日に数百㎏単位で摂取すれば、神的・霊的な注目を惹くことは絶対に避けられません。
薬研: なるほど。SCP-2745-JPがそれで神的繋がりを図らずも得てしまったことは分かりました。しかし、それは要因ではありますが原因ではないのでは?
河野: いえいえ!この時点でSCP-2745-JPはそれ以外に、更に鶏肉をトン単位で日々消化しているのですよ!?立派な大罪人になってしまっています……七つの大罪のひとつ、gula暴食の罪です。
照井: ……しまった、そいつは想像の埒外だった。SCP-2745-JPは『人間』だったな。
河野: 照井さん、その通りです。我々はSCP-2745-JPを『人間』として設計しました。そして、神の興味を惹いた『人間』が大罪を負っていたら?今回、彼女はそれによって神罰を負わされた恰好になります。神学部門として、運用に当たって浅慮が過ぎました。汗顔の至りとしか言いようがありません。
薬研: いえ、それは我々にも想定の甘さがあったというべきでしょう。しかし、そうすると原因の解消はどのようにしたものでしょうかね。
河野: えーと、それですよね。実際どうしたらよいんでしょう……。どのくらいであれば暴食と見なされないかは分からないですが、仮に神的存在がSCP-2745-JPを通常人として見做しているなら、1日1㎏程度に摂食量を抑えればいいのかもしれませんが、それではSCP-2745-JPの生体部は維持できませんよねぇ?
呉羽: 概算ですが、1㎏の摂食で維持しようとすると、必要な輸液量は5トン以上になるので量的に投与できなくなりますよ。いや、それより先に消化器系が使われてませんから、あっという間に廃用症候群を起こして機能不全になります。生きているではなく無理矢理生かしているのに近いので、あまりに酷ではないですか?
照井: あるいはSCP-2745-JPが『人間』では無くなればいいかもしれんが、そうするとSCP-871とSCP-558-JPの収容には使えんぞ?人間が食わなきゃいかんわけだしな。前提が狂う。
オペレーター: 会議中失礼します!申し訳ありません、SCP-2745-JP責任者様宛で、渉外部門より緊急コールです!お取次ぎしたいのですがどなたかお願いできませんか?
薬研: 随分急な話ですね。1時間以内に折り返しできますが、今出ないといけなそうでしょうか?お相手はどなたです?
オペレーター: それが……。
オペレーター: ……"ttt社、副社長のトート様から、『排泄物の件』について協議を求める、と……。
河野: えっ。
薬研: はぁ?
[記録終了]
インシデントの発生に伴って増大したSCP-2745-JP排泄物の取扱いについて、トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション社(以下、ttt社)より、副社長であるEoI-TR-02 ("トート")を代表として協議の申し入れがありました。
ttt社-財団二者間協議 音声記録
日付: 2015年5月12日
参加者:
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー:薬研博士(生物学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 人格構成部専任担当:河野博士(神学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 廃棄処理区画専任担当:照井主席研究員(廃棄部門)
SCP-2745-JP収容主任:呉羽研究員(生物学部門)
EoI-TR-02 ("トート")
注記: 先立って実施された検討会は一時中断され、その参加者とのWeb会談の様式が取られた。
[記録開始]
EoI-TR-02: この度は御多忙のところお時間をいただきありがとうございます。
薬研: え、えぇ。こちらこそ。その、初めまして、ですよね。我々の中に面識ある者はおりますか?
EoI-TR-02: そちらの神学部門の方とは以前。なかなかご挨拶も出来ず大変失礼をしております。
河野: あっ、えっ、いえ、そんな滅相も。今日はその、社長13はおいでにならないんですか?
EoI-TR-02: はい、今回の件については私の単独案件ですので。社長は本日は休暇で川崎におります14
薬研: 然様でしたか……。それで、『排泄物の件』で、というのは?
EoI-TR-02: はい。そちらで今、『変わった』排泄物が大量に蓄積されているかと思いますが、その扱いについてご相談したいのです。いえ、別段隠匿していただかなくても構いません。一応、私も知恵の神としての権能を持ち合わせておりますので。社長のような腹芸は私は出来ませんから、腹蔵なく行きましょう。

EoI-TR-02: 端的に言えば、その排泄物を私たちに、というより必要としている者がおりますのでお売りいただけませんでしょうか?
照井: は!?どういうことだそりゃ?おたくらが?買うのか?ウンコを!?
EoI-TR-02: ええ。必要としてるのは私ではなく、彼らでして。
呉羽: おっと、こいつは……なるほど、フンコロガシってやつですか。
EoI-TR-02: その通りです。と言いましても、単にフンコロガシというのではなく……
フンコロガシ: 何と無礼な!我々をただのフンコロガシと一緒にするなどと!
呉羽: うわっ!?喋った!?
フンコロガシ: 我はスカラベ!太陽神ケプリ様の現身うつしみにして天の運行を司るものぞ!非礼である!非礼である!!
照井: クソ!お前らかよ俺の夢に毎度出てきてたやつは!
薬研: 照井さん、どうしました?夢とは何のことですか?
照井: さっきの会議の時に相談しようとしてた件です。ここんとこ数日、毎日毎日寝る度に甲虫みたいなのが寄ってたかってくる夢を見てたんです。「神聖なる糞を捧げよ、その供物は我らにこそ相応しい」みたいなことを毎回言ってきて離れないもんで鬱陶しくて……多分こいつらです。
EoI-TR-02: 照井様とおっしゃいましたか。この子たちが夜ごとどなたかに交信を図っていましたが、大変失礼しました。この子らに誰と話しているのか聞いたところ、どうも財団関係の方だと推測されましたもので、これは速やかにコンタクトを取らねばと考えた次第でして。代わってお詫びいたします。
河野: これは、これは。エジプトの太陽神ラーの一側面という……太陽の運行を司る神様でしたね。こちらこそ知らぬこととは言え、高位の神様を前に大変な非礼をお詫びします。
フンコロガシ(以下、スカラベ): うむ、良いのだ。それで、その神聖なる糞を捧げよ!力ある糞は太陽に捧げられるべきである!我らの力となるものである!
EoI-TR-02: ラーに、最近この子らが騒いで仕方がないというのでなんとかしてくれと頼まれまして。皆様の理念からして難しいとは思いますが、多少都合をつけていただくことはできませんでしょうか。ラーもケプリもそれなりに力のある神ですから、良質な供物は皆さまにとって益を齎すことこそあれ、悪いようにはならないとは思うのですが。無論、御見積りをいただければ弊社として一山いくらで購入いたします。
薬研: ……えーと。
照井: いやぁ、そりゃ難しい相談でしょう。おたくも分かっておられるでしょうから言いますが、こいつは信仰の力を宿しているわけです。財団として、神格実体であるおたくに、代金をいただいたとて譲るというのは……。

太陽神ケプリの姿としてのスカラベの表現例。
右手側の人型実体がケプリ、中心がシンボルとしてのスカラベ。
EoI-TR-02: ええ、尤もです。ですが、この排泄物の処分にお困りだということも、この子たちから聞いております。そこへ行くと、神格である我々は影響なく処分ができます。聞いている限りその程度の力ということでしたら、この子らやラー、ケプリほどの神格ならば多少体の調子が良くなる程度の影響で済みます。おそらくですが、この子らがその排泄物を転がせば、そこに宿っている力は太陽への信仰の力に昇華されるでしょう。
スカラベ: 供物はいくらあっても良い。まして我々は太陽の神、そして豊穣の神である。人の子よ、我々を崇めよ。その名を讃えよ。けして悪いようにはせぬぞ。
EoI-TR-02: その、大変個人的な話ではあるのですが。この子らが毎日のように私のところに何個も何個も糞を転がしてきて、なんとかしろと強請るものでして。何か契約で縛るのであればそれでも構いませんので、お取引いただくわけには参りませんでしょうか。
薬研: ……検討、させてください。
[記録終了]
上記の会合が持たれた後、SCP-2745-JPプロジェクト内で今後のttt社への対応が協議されました。SCP-2745-JP排泄物の取扱いに要注意団体を関係させることに対して廃棄部門からの慎重意見が提出されたものの、多量のSCP-2745-JP排泄物の処理に効果的な手法が存在しない現状に鑑み、日本支部理事会の判断を仰ぐこととなりました。
廃棄部門 SCP-2745-JP担当 照井主席研究員からの反対意見
本件は、SCP-2745-JP排泄物の持つアキヴァ放射性とttt社の組織としての特性を勘案すれば、軽々に判断すべき案件ではないと考えます。
ttt社はその主たる構成員が神格実体であり、所謂信仰の力であるところのアキヴァ放射強度が高い廃棄物と引き合わせた時に、どのような相互作用を及ぼすか不明確です。確かにヘルメスやトートほどの強力な神格にとってみれば、SCP-2745-JP排泄物程度のアキヴァ放射強度は大きな影響を及ぼすとは考えにくいと神学部門は判断しています。
しかし、情報が不足している"スカラベ"を自称する神格実体に対して異常性廃棄物を提供することは、その処理と管理に責任を有する廃棄部門の立場として一概に賛成することはできません。SCP-2745-JP廃棄物の処理方法に十全な回答は現時点ではありませんが、本件には慎重な判断が必要と考える次第です。
神学部門 SCP-2745-JP担当 河野博士からの賛成意見
今回のttt社との協業検討ですが、神学部門としては一考の余地があるものと考えており、一定の制約の下で進めるべきです。
そもそも、SCP-2745-JPが影響されていると考えられる、暴食の罪およびそれに対する罰と言う概念自体がエジプトで起こった考え方15であり、この罪に赦しを与えることが出来る神として、エジプト神話の神格が協力的であることは千載一遇の機会であると言えます。更に、フンコロガシは古来より転がした糞の中に精液を入れて子を為すと考えられていることから、スカラベは豊穣・収穫の神ともされています。この特性から、SCP-2745-JP排泄物の持つ植物を立ち枯れさせるという呪いを相殺できる可能性があります。加えて、今回副社長のトート氏は、要請があれば契約による財団の制約を受け入れることを明言されています。
SCP-2745-JP排泄物の保管限界は残り2か月です。処理手法の早期確立と、SCP-2745-JPの正常化を達成するため、協業の御判断をお願いいたします。
日本支部理事会 第1345号勧告動議
動議概要:
SCP-2745-JP排泄物の処理、ならびにSCP-2745-JPに影響を与えている異常の解消に関する事柄に限り、要注意団体トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション(以下、ttt社)、およびその副社長である神格実体EoI-TR-02 ("トート") 、同組織と関係しているとみられる"スカラベ"を称する実体との協業を認可するか。 (申請者; SCP-2745-JP開発・研究プロジェクトチームリーダー/生物学部門所属:薬研)
評議会投票概要:
是 | 非 | 棄権 |
---|---|---|
獅子 | 升 | 鵺 |
若山 | 千鳥 | |
鳳林 | ||
稲妻 |
結果 |
---|
協業検討の試みを進めることを勧告する。 |
理事コメント:
財団の資源は有限であり、より確実かつ安全な廃棄処理法の確立は急務である。また、本件はSCP-2745-JPのみならず他のオブジェクトの収容体制にも重大な影響を与えることに鑑み、日本支部理事会として一定の警戒の下で協業を進めることを勧告する。-獅子
当該団体が神格実体によって運営されること、またSCP-2745-JP排泄物のアキヴァ放射線が神格実体に対してどのような影響を与えるかを勘案し、神学部門がttt社に対する情報統制、研究および試験の統括に主たる役割を担うことを望む。-升
日本支部理事会の裁可に基づき、SCP-2745-JPプロジェクトチームはttt社ならびにEoI-TR-02、EoI-TR-03 ("スカラベ")との共同研究に踏み切りました。その目的は、第一にSCP-2745-JP廃棄物の処理法の確立、次いでSCP-2745-JPを冒している摂食に伴う異常現象の解消が設定されました。
上記研究が財団コントロール下で行われることを確実にするため、EoI-TR-02とEoI-TR-03の同意の下、財団とttt社の間で財団施設内での行動の制限、契約の履行の盟約が結ばれました。これに基づき、EoI-TR-03の活動能力の計測を目的として、SCP-2745-JP排泄物を与える実験が行われました。以下はその結果です。
実験No. | 手法 | 結果 | 考察 |
---|---|---|---|
No.1 | 1体のEoI-TR-03にSCP-2745-JP排泄物500gを与える。 | EoI-TR-03は約1時間で15個の糞玉を作成。各糞玉の完成時に瞬間的に約6Akのアキヴァ放射を観測したが、その後の分析で糞玉からはアキヴァ放射が観測されなくなった。 | 神格としてのスカラベの力を有しているEoI-TR-03は糞玉の生成速度も通常のタマオシコガネ属より有意に速い。SCP-2745-JP排泄物の無害化も仮説通り達成できた。-薬研 |
No.2 | 1体のEoI-TR-03にSCP-2745-JP排泄物10㎏を与える。 | EoI-TR-03は約2時間で286個の糞玉を作成。糞玉の完成時に瞬間的に約6Akのアキヴァ放射を観測したが、その後の分析で糞玉からはアキヴァ放射が観測されなくなった。 | EoI-TR-03の糞玉の製造速度はかなり早く、1体当たり1時間に5~7㎏のSCP-2745-JP排泄物無害化が期待できる。糞玉の完成時に一瞬アキヴァ放射を観測するのは、太陽神へ捧げられることでバースト的に信仰の力が放散しているものと考えられる。EoI-TR-03にも特段の変化は無いため、次の実験では複数のEoI-TR-03を投入する。-呉羽 |
No.3 | 10体のEoI-TR-03群に100㎏のSCP-2745-JP排泄物を与える。 | EoI-TR-03群は約1時間30分で2941個の糞玉を作成。糞玉の完成時に瞬間的に約6Akのアキヴァ放射が観測された後、糞玉は異常性を喪失した。また、複数の糞玉が同時に完成した際にアキヴァ放射の強度が0.5~1Akの範囲内で上昇することが確認された。 | EoI-TR-03は分霊のような形式でその神性を他のヒジリタマオシコガネ(Scarabaeus sacer)個体に分割することが可能であり、EoI-TR-03個体が増えればSCP-2745-JP排泄物の処理速度が上がることが確認された。また、その際にEoI-TR-03が太陽神に捧げる信仰の強度も強まっていると推測された。-河野 |
No.4 | 10体のEoI-TR-03に100㎏のSCP-2745-JP排泄物を与えた後、全量の無害化が完了するたびに50㎏ずつSCP-2745-JP排泄物を追加していく。 | EoI-TR-03群は約6時間かけて計550㎏のSCP-2745-JP排泄物の無害化に成功し、8回目のSCP-2745-JP排泄物追加の際に疲労を訴えて活動を休止した。その際EoI-TR-03群はその原因を「太陽が沈みかかっているため」とした。 | EoI-TR-03群の活動限界は体力よりも昼の時間の長さによって規定されると考えられる。神学部門の見解ではスカラベと関係する神であるケプリが太陽の運行を象徴するためと考えられており、処理の効率化にはEoI-TR-03実体の数を増やすことが必要である。-照井 |
No.5 | 10体ずつのEoI-TR-03群のグループを作り、各グループの10体に同時にSCP-2745-JP排泄物の糞玉を作成させる。同じタイミングで完成させるグループを1グループずつ増やしていき、糞玉完成時に放射されるアキヴァ放射線の強度を計測・比較する。 | 1グループの10体が同時に完成させた際に観測されるアキヴァ放射線の強度は約6.7Akであり、これ以後実験に1グループ追加するごとに約0.5Akの上昇が見られた。最終的に10グループ100体のEoI-TR-03群が糞玉を同時に完成させた際、平均して約10.4Akのアキヴァ放射線が観測された。 | これまでの実験では、糞玉完成時のアキヴァ放射線発生時間は約2秒程度に限られているため、管理環境下であれば問題なくその影響を抑制できる見込みです。また、どれほどの偶然があっても100体以上が同時に糞玉を完成させる確率は極めて低く、その意味でもEoI-TR-03群の活用はリスク以上の利益があると考えられます。-照井 |
インシデント2745-JP > 4.立案
EoI-TR-03の能力に関する一連の実験および研究の結果、SCP-2745-JPプロジェクトチームはEoI-TR-03をSCP-2745-JP排泄物の廃棄処理方法の一環として組み込むことが可能であるとの結論に至りました。このため、プロジェクトチームはEoI-TR-02およびEoI-TR-03と具体的運用に向けた協議に入ることとなりました。
ttt社-財団二者間協議 音声記録
日付: 2015年6月8日
参加者:
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー:薬研博士(生物学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 人格構成部専任担当:河野博士(神学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 廃棄処理区画専任担当:照井主席研究員(廃棄部門)
SCP-2745-JP収容主任:呉羽研究員(生物学部門)
EoI-TR-02 ("トート")
EoI-TR-03 ("スカラベ")
[記録開始]
薬研: それでは始めましょう。副社長、そしてえーと……スカラベ、さん。
EoI-TR-03: やや不敬であるぞ。然りながら許す。
EoI-TR-02: よろしくお願いいたします。
薬研: そうですね。今のところSCP-2745-JP排泄物の処理にあたり、スカラベさんのお力をお借りしたいと考えております。処理にあたっての懸念事項は照井の方から。
照井: 分かりました。目下の心配はEoI-TR-03、もといスカラベの分霊の群的運用による影響が何かしら発生しないかですな。仮にも意思持つ存在ですからね。実験の結果処理能力については問題ないですし、一瞬だけ発生するアキヴァ放射線についても管理下なら問題ないんですが、そこだけは心配してます。この点、どうです?
EoI-TR-03: 呼び捨てとは不敬である。
EoI-TR-02: 識別番号でないだけ敬意は払われていますよ。そこについてはおそらく問題ありません。分霊元の個体であるこの子は、分霊した先の子にもある程度意思の疎通が可能です。そうでなくても、基本的には太陽神へ捧げるという目的がありますから、そこを違えない限りは大丈夫です。盟約の件もありますし。
照井: 分かりました。あとは分霊されたスカラベは勝手に増えたりしませんか?かなりの大群で運用することになるので、のべつ幕無しに増えられても困ると言えば困りますんで。
EoI-TR-03: 度重なる不敬であるぞ。しかし増えないかと言われれば全く増えないわけではない。分霊のためには依り代となるものが必要であるが、その依り代は皆同胞のコガネゆえ当たり前に交尾もすれば卵も産む。寿命は約2~3年といったところか。一応私から自重せよと声はかけられるがな。
呉羽: そこについては生物学部門で個体数のコントロールをかけるつもりです。必要個体数については試算しているところなので、具体的な規模は後程になります。ちなみにですが、実験に協力いただいた結果、分霊の方のスカラベさん1体のSCP-2745-JP排泄物の処理能力は1時間当たり約6㎏として見積もることができました。
EoI-TR-02: 財団の方々との盟約で、財団施設内での行動の制限が条項として挙げられていますから、そこに細則を付記することである程度の制御は可能かと思います。分霊先が増えすぎれば苦労するのはこの子も同じですから。
EoI-TR-03: まぁ我々は神ゆえ、心配は不要なるぞ。しかしながら人の子らが配慮するというのであれば、甘受するに吝かではない。
薬研: そんなところでしょうかね。それでは具体的運用の話に移りましょう。呉羽君?
呉羽: はい。現在財団のフランス、スペイン、エジプトをはじめとした、スカラベ……ヒジリタマオシコガネの生息国の支部に対して個体の収集を依頼しており、来週には500体程度が準備できる見込みです。これは1日の日照時間を10時間とした際に、十分な余裕をもって日当たり30トンまでは処理可能です。
照井: 処理スペースは3か所、それぞれに太陽光を取り入れる天窓とエジプト神話の様式に則った太陽神の祭壇を据え付けてある。河野博士、これで良いですね?
河野: ええ、ええ。tttのお二人にも確認いただき、設備として十分とのことです。
薬研: 分かりました。それではその方向で準備を進めてください。稼働開始は2週間後を目処としましょう。他に確認事項はありますか?
呉羽: ……その、よろしいでしょうか?
薬研: 呉羽君、何か?
呉羽: ありがとうございます。……SCP-2745-JPの異常、いわゆる『呪い』の解消の件です。これについても話しておきたくて。SCP-2745-JPの排泄量の増加は、昨日時点で摂食量1に対して排泄量が32。具体的には昨日1日の摂食量500㎏に対して、1時間あたり660㎏の排泄で約16トンのSCP-2745-JP排泄物が生成されました。この根本的解決についても協議したくて。
河野: えー……、それについて、なんですけどもね。一応案としてはあります。あるんですが……。
薬研: 河野博士、どうしましたか。続きをお願いします。
河野: えーとですね。EoI-TR-03、もといスカラベさんが糞玉を完成させるとアキヴァ放射が観測されますよね。あれは太陽神への信仰の力が放散されているものなんですが、これを利用します。分霊を大量運用して同時に糞玉を完成させ、このアキヴァ放射をSCP-2745-JPに暴露させるんです。tttのお二人と協議しましたが、こうすればスカラベさんの太陽神の加護を与えるという形で、SCP-2745-JPの暴食の罪を赦すことができるはずです。
EoI-TR-03: うむ、うむ。これほどの善き供物には褒美があってしかるべきである。その者の罪は太陽神の名の下に赦されるであろう。
照井: いやいやいや、それは大丈夫なんですか?一体フンコロガシ何体集める必要があるんだ?と言うかですね、数秒とは言えアキヴァ放射に意図的に暴露させていいんですか?
河野: えっと、順番にお答えします。必要な個体数は最低でも300体、これらが全て同時に糞玉を完成させる必要がありますから、バッファとして更に50体程度は必要です。現在SCP-2745-JPに影響を与えている異常のアキヴァ放射線が約18Akですから、この影響を書き換えるためには20Ak以上の強度が必要でして。
河野: そして、アキヴァ放射線への意図的な暴露ですが……。正直に言ってリスクがあるというのは、まぁ、間違いないです。暴露させるアキヴァ放射強度が低すぎれば、太陽神の加護が『呪い』に負けてしまいます。すると、SCP-2745-JPの生体部に呪いが拡散することで更にダメージを受け、最悪の場合破壊されると考えられます。逆に強すぎるアキヴァ放射線の暴露は、SCP-2745-JPの存在そのものを太陽神の力で上書きしてしまいます。最悪の場合は、意図しない神格化を招くでしょう。
30秒程度の沈黙。
照井: それは、なんと言うか、出来るとはとても……。
河野: なので、案です。ですが、現状可能な手段はこれしかありません。少なくとも100体が同時に糞玉を完成させる実験は成功していますので、成功率は決して低くはないはずです。しかし、もしこれが無理ということであれば、無際限に増加する排泄物は止められません。……以前仰っていた通りSCP-2745-JPを解体せざるを得ないでしょう。ですので、御意見をいただきたいと。
照井: いや……いや、賛成したいのはやまやまですよ。確かに魅力的ではありますがね、流石に廃棄部門として賛成はできないですよ。オブジェクトの管理で神格を新たに生み出したんでは、本末転倒でしょう?
呉羽: 分かります、分かります。でも照井さん、解体の判断だって軽々にはできないでしょう。SCP-558-JPやSCP-871の収容影響を鑑みなければならないと、理事会からは勧告されています。そうでなくとも、SCP-2745-JPは長く腹痛に苦しんでいます。Thaumielオブジェクトが十全に活動できるようにすることも、私たちの責務ではありませんか!?
EoI-TR-02: 私どもとしては、協業相手である我々を信じていただきたいとしか。神格としては、捧げられたものがあればそれに応えることもひとつの義務です。引き続き協力したいと考えております。
EoI-TR-03: 供物さえあれば我は贄までは取らぬ。何も心配はいらぬぞ。
照井: 考えましょうや、神格実体を作るリスクを冒す価値は本当にありますか?最悪は前みたいにDクラスに食わせれば……。
呉羽: いえ、それでは根本的解決にならないからこそのプロジェクトでしょう。……いや、ミミちゃんもこのままではあまりに気の毒です。できることはやっておきたい、ですよ。
河野: ……薬研博士、御判断を。どうあれ、ご判断いただければ、我々は準備をします。
2分間の沈黙。
薬研: ……何を、言いますか。
薬研: SCP-2745-JPは『人間』です。我々の、保護対象です。
10秒間の沈黙。
薬研: 準備に入りましょう。我々は人類を保護する義務がありますから。
[記録終了]
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー 薬研博士の声明
SCP-2745-JPプロジェクトチームは、これよりSCP-2745-JPの機能正常化を目的として、現在冒されている異常の解消のための作戦準備に入ります。本件判断の根拠は、第1345号日本支部理事会勧告動議概要の通り、ttt社との協業目的のひとつに『SCP-2745-JPに影響を与えている異常の解消に関する事柄』が挙げられていることに求められます。
SCP-2745-JPは現在、摂食時の強い腹痛による食事量の低下とエントロピーを無視した排泄量の急増によって、重度の衰弱状態に置かれています。一方で神学部門よりこの解決を図るために為された提案は、決して小さくはないリスクを取らなければ実施できないことは従前承知の通りです。しかし、それを踏まえても私が実施の判断に至ったのは、以下の事由によるものです。
ひとつは、SCP-2745-JPの無力化が、SCP-871のような他支部管轄オブジェクトの収容に重大な影響を齎すことです。本件は既に我々プロジェクトチームや日本支部のみの問題ではなく、SCP-2745-JPの機能を維持する責任は、他支部の収容体制の保全にも関わる大きなものであることを今一度認識しなければなりません。
そして最大の理由が、SCP-2745-JPを作成した我々と財団の『道義的責任』です。SCP-2745-JPは、生物学的にも、神学的にも、記号論的にも、あらゆる意味において『人間』です。そして、財団は人類と異常存在の双方を保護する責任を、その理念に謳っています。なればこそ、多少の困難やリスクに膝を折って自らで謳った理念を反故にすることは、道義に悖る行いではないでしょうか。増して、SCP-2745-JPは我々が利得ずくで作成した『人間』です。我々にとって不都合になったからと言って無力化することは簡単ですが、それは倫理的に許されるものではありません。
本作戦は以降、オペレーション”ヌート”と呼称します。実行は7月7日の明け方です。我々は、我々の行為の責任を負いましょう。
――2015年6月12日付 SCP-2745-JPプロジェクトチーム宛メールより抜粋。
SCP-2745-JP稼働記録-5
日付: 2015年6月24日
注記: 呉羽研究員によるSCP-2745-JPの検診が行われた。24日時点ではSCP-2745-JPの摂食量1に対して排泄量は52を記録しており、摂食量は日当たり300㎏と大幅な減少が見られている。そのため、高カロリー輸液による生命維持が実施されている。
[記録開始]
呉羽: こんにちは、ミミちゃん。具合はどうかな?
SCP-2745-JP: ……先、生。うん、悪くはない、よ。でも、ちょっと力入らない。
呉羽: ありがとう、無理に動かさなくて大丈夫だからね。……今日はね、先生たち、ミミちゃんのお腹痛いの直せるかもしれないから、説明したくて。
SCP-2745-JP: 本当?手術とか、するの?
呉羽: 手術はしないよ。大丈夫、眠くなるお薬を使ったら、あとはミミちゃんは寝てたら終わっちゃうよ。
SCP-2745-JP: そっか。なんか、怖い。やだな。
呉羽: 大丈夫。大丈夫だよ。なんと言っても、神様がミミちゃんの味方になってくれるって言ってるから。
SCP-2745-JP: かみさま?
呉羽研究員がSCP-2745-JPのカメラに向けてタブレットをかざす。動画が再生される。
EoI-TR-03: うむ、これに向かって話せばよいのか?
SCP-2745-JP: ……かみさま?
EoI-TR-03: あー、人の子よ。些かの心配も無いぞ。我はスカラベ、太陽神ケプリ様の現身にして天の運行を司る者。太陽の神である!我が力に身を委ねよ、さすれば……。
EoI-TR-02: おそらくそれだと伝わりませんよ。えー、聞いていますか?
SCP-2745-JP: 先生、これ、かみさま?
呉羽: そ、そうだよ。偉い神様なんだ。
EoI-TR-02: お腹が痛くて困っていると聞いています。その、大変な苦労でしたね。
EoI-TR-03: トート!そんなことはどうでも良かろう!人の子よ、善き供物に感謝する!お前の願いは聞き届けられるであろう!ただ眠り、祈っておるがよい!
動画内でEoI-TR-03が前腕部を振る
EoI-TR-02: 分かりづらくて申し訳ありません。ともかく、あなたの悩みに神として私たちが協力します。安心してください。
EoI-TR-03: 太陽神直々の加護である!大変に幸運であるぞ人の子よ!
EoI-TR-02: あぁ、すいません。埒が明かないのでこのあたりにしましょう。ともかく、安心してください。
動画が終了する。
呉羽: ……えーと、今の神様が味方してくれるって。だから大丈夫だよ。
SCP-2745-JP: ……ふふふ、あはは。変な神様。カブト虫の神様と鳥の頭の神様なんて見たことないよ!
呉羽: そ、そうだよね。
SCP-2745-JP: なんかおかしくなっちゃった。寝てるだけでいいんだもんね。神様が見ててくれるんだったら、それでもいいか。
呉羽: えーっと……2週間後くらいかな。神様が、ミミちゃんが寝てる間におまじないをかけてくれるって言ってたよ。
SCP-2745-JP: わかった。ねぇ、先生。神様に言っておいてくれる?
SCP-2745-JP: カブトムシさん、鳥さん、お願いしますって。
[記録終了]
オペレーション"ヌート"概要
作戦目標:
本作戦の目標は、SCP-2745-JPが影響を受けている異常事象の解消である。
作戦概要:
本作戦はSCP-2745-JPプロジェクトチームならびに、ttt社副社長であるEoI-TR-02 ("トート")によって統括され、その実行はEoI-TR-03 ("スカラベ")が中心的役割を担う。以下、下図概要図参照。

事前準備として、廃棄部門は5トンのSCP-2745-JP排泄物を排泄物集積所(ポイントA)に搬入を完了させる。この際にSCP-2745-JP排泄物のアキヴァ放射強度を計測する。また、生物学部門はSCP-2745-JPは麻酔下に置いた状態で野外収容設備(ポイントB)へ移送。神学部門は作戦領域の中心部(ポイントC)にアキヴァ放射強度計測器を設置したうえで、仮設防護壁の設置を行う。EoI-TR-03は神学部門とEoI-TR-02の監督下でヒジリタマオシコガネ400体に分霊を行う。本作戦は悪天候が予想される場合、翌8日の同時刻に実施を順延すること。
作戦は2015年7月7日AM2時より、薬研博士の指示で行動開始。400体のEoI-TR-03分霊体を排泄物集積所に解放し、天の川銀河を視認させる16。その後、AM3時からEoI-TR-03の指示により分霊体に糞玉の作成を開始させる。作成開始から1時間は調整期間として、糞玉の作成状況に問題のある個体やEoI-TR-03の指示を受け付けない個体が無いか、その他の異常事象の発生が無いか、SCP-2745-JPプロジェクトチームは観察・判断を行う。
AM4時より、EoI-TR-03は分霊体に対して一斉に新規の糞玉の作成開始を指示する。太陽神への信仰の力が最も高まる日の出時刻AM4時16分に、最低でも350体の分霊体が同時に糞玉が完成するよう、神学部門はEoI-TR-02ならびにEoI-TR-03と声掛けを実施して状態を観察する。この間、廃棄部門は完成した糞玉を回収し、生物学部門は作戦領域の野外に留まっている人物を内部に避難させる。
AM4時13分、現場担当員はEoI-TR-02およびEoI-TR-03を残し詰所に退避。AM4時16分、EoI-TR-03は日の出の確認と同時に糞玉の完成を分霊体に指示する。この際に短時間ながら20~22Akのアキヴァ放射線の発生が予測されるため、完成後は1分間アキヴァ放射強度の変化を測定して領域内の影響の消失を確認する。その後生物学部門はSCP-2745-JPを元の収容設備に移送し、変化点の検査を実施した後麻酔下から覚醒させる。作戦行動後、神学部門はSCP-2745-JPのアキヴァ放射強度を2週間継続測定し、変動の有無を確認すること。
インシデント2745-JP > 5.展開
上記声明によってオペレーション“ヌート”の発令準備が為された後、財団フランス支部・スペイン支部・エジプト支部・イタリア支部より計730体のヒジリタマオシコガネ個体が空輸されました。また、作戦前日までにSCP-2745-JPは摂食量の更なる減少による栄養失調が進行したことから、生物学部門の判断により体力の温存と疼痛ストレスの緩和のため、間欠的鎮静による意識レベルのコントロールが行われました。合わせて、オペレーション”ヌート”実施までに、SCP-2745-JPの排泄量は摂食量1に対して84まで増加が確認されました。これを受けて、廃棄部門は引き続きSCP-2745-JP排泄物の乾燥減容化による保存と、SCP-871ならびにSCP-558-JPの従来のプロトコルによる処理を実施しました。
7月6日、オペレーション”ヌート”は日本支部理事会ならびに倫理委員会の実施承認を受け、同日中に作戦準備を完了、翌7日に予定通り作戦開始が発令されました。
2015.7.7 AM 02:00
オペレーション”ヌート” 作戦記録
メンバー:
- SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー:薬研博士(生物学部門)
- SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 人格構成部専任担当:河野博士(神学部門)
- SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 廃棄処理区画専任担当:照井主席研究員(廃棄部門)
- SCP-2745-JP収容主任:呉羽研究員(生物学部門)
- EoI-TR-02 ("トート")
- EoI-TR-03 ("スカラベ")
- SCP-2745-JPプロジェクトチーム所属員;生物学部門4名、神学部門3名、廃棄部門4名
注記:
作戦実行にあたり事前にSCP-2745-JPは麻酔下に置かれ、輸液による維持状態で野外の特設収容設備に搬送された。また、EoI-TR-03分霊体の活動による高強度のアキヴァ放射線のバーストの発生が予見されていることから、作戦領域は仮設防護壁で区分けされた。
AM02:00:00: 薬研博士、作戦開始を発令。
薬研: 時間です。オペレーション”ヌート”、各員展開を開始してください。
呉羽: 生物学部門はSCP-2745-JPのバイタルチェックを継続してください。合わせて現場収容設備担当は配置に。
生物学部門所属員2名が、SCP-2745-JP野外収容設備の確認を開始する。残り2名の所属員は詰所内でバイタルチェック用モニターに付いている。
照井: EoI-TR-03分霊体、現場への展開を開始します。EoI-TR-02、EoI-TR-03、両名に分霊体の現場指揮をお願いします。
EoI-TR-03: やはりそなた、不敬であるぞ。しかしよかろう。任せるがよい。
EoI-TR-02: かしこまりました。指示はこちらのインカムですね。何かあればこの子にも私から伝えます。
廃棄部門所属員2名が、EoI-TR-03分霊体400体をSCP-2745-JP排泄物集積所付近に展開させる。
EoI-TR-03: さて……。神の言葉メドゥ・ネチェルとして命ずる。我らが太陽の神ラーに、ケプリに、アメンに、力を捧げよ。ヌートを仰ぎ、玉を為し、天へ捧げよ。
EoI-TR-03分霊体が上空を見上げ、天の川の流れ方向の確認・記憶のため、その場でゆっくりと回り始める。
EoI-TR-02: ……Hieroglyphメドゥ・ネチェルでは私の言葉になるのでは?
廃棄部門所属員が、SCP-2745-JP排泄物の山を崩しながらEoI-TR-03分霊体への供給の準備を開始する。
河野: えー、それでは神学部門各員。各ポイントに展開、アキヴァ放射強度の確認を開始してください。特にSCP-2745-JP排泄物集積所は変動しやすいですから、状況を注視してくださいね。
神学部門所属員3名が、SCP-2745-JP排泄物集積所(ポイントA)、SCP-2745-JP野外収容設備(ポイントB)、アキヴァ放射計測器(ポイントC)の配置に付く。
河野: 現在のアキヴァ放射強度はポイントAで17.8~18.4Ak、ポイントBで14.33Ak。ポイントC、作戦領域の平均強度を……10.68Akですね。ありがとうございます。
薬研: 現時点で異常はありませんね?それでは各自現在の状態を継続、異常があれば逐次報告を。廃棄部門の2名は詰所で引き続きバックアップとして待機、以上。
AM02:25:10: 総員配置完了、待機指示が出される。
照井: 薬研博士、バックアップで準備したEoI-TR-03分霊体の残り50体はどうしましょうか。外出しといて天の川の位置だけ覚えさせますか?
薬研: そうでしたね、お願いします。
廃棄部門所属員が、バックアップ用のEoI-TR-03分霊体50体を収容下ケージをポイントAへ搬送する。
呉羽: ポイントB!SCP-2745-JPの体温が低下傾向です。シバリングが発生する前に加温装置の設定温度を上げてください。
ポイントBでSCP-2745-JPの温風加温装置の設定が2℃上げられる。
呉羽: ……よし、復温し始めました。必要に応じて輸液も体温レベルまで加温しましょう。周術期管理を2時間以上野外でしているものと考えて行動してください。
AM03:00:00: EoI-TR-03分霊体へ糞玉作成開始を指示。
薬研: 規定時刻です、EoI-TR-03分霊体に糞玉の作成を指示してください。
EoI-TR-02: 確認しました。それではそろそろ仕事に入りましょうか。
EoI-TR-03: うむ、任せるがよい。
EoI-TR-03: 聞け諸君、間もなくアメンは冥界ネテル=ケルテトを渡り、我らの前へと御姿を現すであろう。ケプリは船を渡し、夜の世界を朝へと引き戻すであろう。玉を為し、天へと捧げよ。ラーの御心のままに。
EoI-TR-03分霊体が糞玉の作成を始める。
EoI-TR-02: ……聞こえますか。まだ日が出ていないので動きが鈍いです。しばらくは不活性状態が続くと思います。
照井: あー、まだ気張らなくて大丈夫です。ここから1時間近くは準備運動と思っていただいて。EoI-TR-03にも伝えてください。
EoI-TR-03: ふん、聞こえておる。太陽の権能さえあれば今にもできようぞ。
EoI-TR-02: なんだかすみません、照井様。
照井: いいですよ、お互い様でしょうし。
河野: あー、現状全ポイントでアキヴァ放射の異常はないです。引き続き作業をお願いします。
AM04:00:00: EoI-TR-03分霊体へ、日の出時刻に向けて新規の糞玉作成を指示。
薬研: 定刻、4時。分霊体は新しい糞玉の作成を開始!日の出までは約15分、抜かりなくお願いします!
EoI-TR-02: ええ。……聞こえましたか?
EoI-TR-03: 勿論である。さて……。今一度、聞け諸君!これぞ『日の下に出るための言葉ル・ヌ・ペレト・エム・ヘル』である!出現は近い!新たなる玉を為せ!ラーの、ケプリの、アメンの、太陽の出現に備えよ!
EoI-TR-02: この国ではそれは『死者の書』と呼ぶそうですよ、やめておきましょう。
EoI-TR-03分霊体が新しい糞玉の作成に取り掛かり始める。
EoI-TR-03: む?
EoI-TR-02: これは……。
薬研: 副社長、どうかなさいましたか?
EoI-TR-03: 動かぬ、動かぬぞ。
EoI-TR-02: 失礼、夜明けが近づいてはいるので動いてはいます。ただ、気温が今一つ上がらないので、分霊体のスカラベらがまだ思ったほど活発ではないです。
薬研: 時間までに間に合いますか?
EoI-TR-02: ここからの気温次第ですが……対応は必要かと。
河野: あーっと、……それは困りましたね。流石にストーブみたいなものは無いですよ。
呉羽: いえ、大丈夫です!ポイントB!1名至急対応!予備の温風加温装置を1台引っこ抜いてポイントAに移送してくれ!
照井: ははあ、いい手だな。おい、廃棄部門の方でポイントAに電源を引いてやれ!今すぐだ!走れ!
詰所からポイントAに電源ドラムが回される。ポイントBから加温装置の移送、ならびにポイントAでの再度のセットアップが開始される。
AM04:07:15: ポイントBに加温装置の設置が完了。EoI-TR-02・EoI-TR-03以外の人員に退避命令。
加温装置の稼働が設定50℃で開始される。
呉羽: 稼働開始確認!この温度で大丈夫ですか?
EoI-TR-03: これなら大丈夫であろう。なんとか急がせる。5分少々はかかるが構わんな?
EoI-TR-02: 薬研様、念のためこちらの分けられている方の分霊体も開放して構いませんか?強い力が出てしまいそうであれば私どもで吸収しますので。
薬研: 分かりました、許可します。ただし、河野博士からアキヴァ放射強度の変化を逐次伝えます。必ず当初設定した20~22Ak以内に収めるようにお願いします。
EoI-TR-02: ……盟約通り、約定した。
薬研: 廃棄部門、分霊体の予備を加温設備付近に開放!事前計画の通り、EoI-TR-02とEoI-TR-03を残し総員詰所へ退避!急げ!
ケージ内のEoI-TR-03分霊体が開放される。人員の退避が開始される。
河野: 副社長さん、次第にアキヴァ放射強度が上がっています。今10.7くらいです。そのままお願いします。
EoI-TR-03分霊体の糞玉作成が続く。この時点で画面内から確認できる数は約340個。
河野: 現在13.9Ak、14.2Ak……14.8Ak!
呉羽: そうだ、副社長、スカラベさん。SCP-2745-JP……ミミちゃんから伝言預かってます。そのままお伝えしますね。
呉羽: 『カブトムシさん、鳥さん、お願いします』だそうです。私たちからも、お願いしますね。
糞玉作成開始から約5分、370個程度に確認できる糞玉が増加している。
河野: 17.1Ak、17.6Ak、18.2Ak!
EoI-TR-03: ……まったくもって、不敬である。
EoI-TR-02: ふふ、そうですね。
AM04:16:00: 7月7日の日の出時刻。糞玉を完成させるよう指示。
河野: 19.3Ak、19.7Ak、今20Ak超えました!20.2、20.5、20.6!
薬研: 行きましょう!お二人とも、糞玉を!
EoI-TR-03: 見よ!太陽は冥界ネテル=ケルテトより戻られた!今こそ高貴なる供物を以て捧げよ!進め!
EoI-TR-03分霊体群が糞玉を転がしながらポイントBへ一斉に移動する。次第に糞玉からの発光が確認される。
河野: 21.6、21.9、22.2!規定値超えます!
EoI-TR-02がポイントBへ回り込む。
AM04:16:45: EoI-TR-03分霊体が糞玉を完成させる。
転がされた糞玉が強く発光し、破裂する。
AM04:16:46: アキヴァ放射線のバーストが発生。
河野: 24.5Ak、ダメです!バースト起こします!えっ、21.5!?規定値内!?
AM04:16:48: アキヴァ放射線のバーストの終息が確認される。
河野: 領域内平均値、8.49Ak……。バースト終了しました、よね……?
作戦領域内に、破裂した糞玉の粉塵と見られる発光体が降っているのが確認できる。
河野: えー……。記録が正しければ、ですが……。バースト時のアキヴァ放射強度は21.5Akでした。副社長が吸収したのでしょうか。
薬研: 逆光で見えづらいですね。18分まで待機、その後確認に入ります。各自準備を。
引き続き発光体が降っている。通信が復活する。
EoI-TR-02: ゲホッ、ゲホッ!
薬研: 副社長!大丈夫ですか!?間もなく確認の人員が向かいます。
咽るような声、えずくような音が続く。
EoI-TR-02: あぁ、大丈夫です。大丈夫ですが……。
AM04:18:00: 作戦領域の確認作業が開始される。
河野: 領域内の平均、7.86Ak。あー、これなら、もう問題ないはずです。
薬研: 18分ですね。各員現状確認を開始。神学部門の方、どなたか副社長らのところに1人お願いします。
河野: あ、それなら私が行きましょう。ポイントBですよね。
現場担当者が詰所から移動を開始する。マイクを通して、担当者が外の悪臭を訴える声が入る。
AM04:25:24: 河野博士と生物学部門所属員がポイントBに到達、状況の確認を開始。
河野: 副社長!スカラベさんも……。大丈夫ですか!?
EoI-TR-02・EoI-TR-03が視認される。EoI-TR-03は裏返ってもがいている。EoI-TR-03分霊体は統制を失って、それぞれの地点で糞玉の作成を継続している。
EoI-TR-03: おお、人の子よ!起こせ!起こしてくれ!
河野博士がEoI-TR-03を救助する。
河野: お二人とも、無事で……あっ。うっ……。
EoI-TR-02はポイントB付近で、SCP-2745-JP排泄物と発光体を浴びた状態で立っているのが確認される。
EoI-TR-02: (えずくような声)うっ。あまり、近づかないほうが、良いと思います。危険性はないですが……。とりあえず無事です。
EoI-TR-02: 通信は聞いていました。ある程度この子が浴びる信仰の量は調整したつもりですが、問題ありませんでしたか?
河野: ええ、ええ、ええ。見ていました。数字的には大丈夫でしたよ。ありがとうございます。
ポイントBでSCP-2745-JPの状況確認が完了する。
呉羽: ポイントBより報告!SCP-2745-JPは無事です!SCP-2745-JP自身のアキヴァ放射強度は作戦以前から低下、現在5.44Ak。通常人レベルに戻っています!
薬研: ……良かった。いや、まだです。これよりSCP-2745-JPを屋内へ収容します。生物学部門所属員は準備を始めてください。
照井: 副社長の様子を見るに、こりゃSCP-2745-JPもウンコ塗れだな。廃棄部門!1人は分霊体を回収。残りでSCP-2745-JPの清掃にかかれ。搬送開始まで時間がない!15分で終わらせるぞ!
照井主席研究員が消毒用エタノールと次亜塩素酸ナトリウム溶液を持って詰所を出る。
AM05:16:42: SCP-2745-JPの搬送開始。
EoI-TR-03: 太陽は空へ戻られた。人の子らよ、祈りは届けられたぞ。
河野: ええ。誠にその通りですね。スカラベさん、それに副社長。心より感謝いたします。
EoI-TR-02: いえ、恐縮なさらず。実際、私はおそらく成功すると思っておりましたから。
EoI-TR-02: 何分、我々は2人ともヌートには縁がありますし。それに、個人的にあれには貸しがありますので。何かあっても力を貸してくれたでしょうから。
AM05:21:37: SCP-2745-JPの屋内搬送が完了。
AM06:50:00: 作戦領域の清浄化、原状復帰が完了。作戦の終了が宣言される。
インシデント2745-JP > 6.収拾
オペレーション”ヌート”の完了後、生物学部門によってSCP-2745-JPのバイタルチェックならびに異常性スクリーニングが実施され、影響の有無が確認されました。結果として、SCP-2745-JPの生体構成部、腸内内容物およびその他の部位に及んでいた悪影響は取り除かれたと結論付けられました。合わせて、作戦完了後2週間にわたりSCP-2745-JPのアキヴァ放射強度は4.0~5.3Akを維持していたことが確認され、これを以て神学部門は『オペレーション”ヌート”によるSCP-2745-JPの神格実体化は発生しなかった』と判断しました。
SCP-2745-JP稼働記録-6
日付: 2015年7月28日
注記: 呉羽研究員によるSCP-2745-JPの検診が行われた。この日、SCP-2745-JPに対するリハビリの一環として、作戦実施後初の経口による摂食が行われた。
[記録開始]
呉羽: ミミちゃんおはよう。今日は試しにご飯食べてみようと思うけど、体調はどうだい?
SCP-2745-JP: 先生……。大丈夫、かな。痛くならない?
呉羽: きっと大丈夫だよ。神様たちも応援してくれてるからね。
1ℓ分の重湯が準備され、口腔部に供給用のチューブが接続される。SCP-2745-JPは約2分間にわたって静止している。
SCP-2745-JP: こわい。先生。どうしても食べなきゃだめ?
呉羽: ミミちゃん。先生ね、神様とか河野先生とかと一緒に、ミミちゃんの中にいた悪いのと戦ってきたんだ。
SCP-2745-JP: そうなの?神様、なんて言ってた?
呉羽: うん。神様たちね、『祈りは聞き届けられた』って言ってたよ。ミミちゃんのお祈り、叶えてくれたんだって。先生たちもミミちゃんのために頑張ってた。
SCP-2745-JP: ……そう、なんだ。
呉羽: ミミちゃん。先生たちと一緒に、悪いのと戦ってくれないかな?ミミちゃんがえいってやれば、きっと悪いのもどこかに行っちゃうよ。
1分間程度の沈黙。
SCP-2745-JP: わかった。先生。頑張ってみる。
重湯が約2分間かけて口腔内に供給される。
SCP-2745-JP: ……あまい。先生、これ、おいしい。ちょっとだけ、あまくて、おいしい。
呉羽: ゆっくり、ゆっくりね。お腹びっくりしちゃうからね。
SCP-2745-JP: おいしい。おいしいよ、先生。
呉羽: 良かった、良かったね。ミミちゃん、今のうちに診察もしちゃうからゆっくり飲んでね。
呉羽研究員が聴診器で消化器の動きを確認する。胃部を中心に鈍い蠕動音が観察された。合わせて消化器系のアキヴァ放射強度の確認が行われ、咽頭部4.03Ak・胃部4.14Ak・小腸部4.36Ak・大腸部4.21Ak・排泄管4.90Akが記録された。
呉羽: うん。ミミちゃん、診察はもう大丈夫だよ。今見たけど、悪いのは見当たらないね。
SCP-2745-JP: 本当?本当に?先生!本当に!?
呉羽: 本当だよ。だってミミちゃん、お腹……。
SCP-2745-JPが静止する。
SCP-2745-JP: 痛くない。痛くない!痛くないよ!
呉羽: 痛くないね?頑張ったね!これからは少しずつ、お腹に優しいものからご飯初めていくから、もうひと踏ん張り、できるよね?
SCP-2745-JP: 頑張る!先生、今飲んだやつ!おかわり!
呉羽: ダメ、もう少し我慢!
[記録終了]
呉羽研究員の指導下で、SCP-2745-JPの摂食・消化機能のリハビリが約2か月かけて実施されました。これを受けて、廃棄部門は10月13日にSCP-2745-JPによるSCP-871およびSCP-558-JP生成物の処理プロトコルの再開試験を行いました。結果として、1日で約10トンの食物の処理が可能であると判断され、インシデント以前の稼働能力の復旧が報告されました。
上記試験の成功を以て、薬研博士はインシデント2745-JPの完全終息を宣言しました。
ttt社-財団二者間協議 音声記録
日付: 2015年12月25日
参加者:
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト チームリーダー:薬研博士(生物学部門)
SCP-2745-JP 開発・研究プロジェクト 人格構成部専任担当:河野博士(神学部門)
SCP-2745-JP開発・研究プロジェクト 廃棄処理区画専任担当:照井主席研究員(廃棄部門)
SCP-2745-JP収容主任:呉羽研究員(生物学部門)
EoI-TR-02 ("トート")
EoI-TR-03 ("スカラベ")
[記録開始]
薬研: オペレーション”ヌート”の完了でSCP-2745-JPの機能は完全に復旧しました。改めてお二方には御礼を申し上げます。
河野: ええ、ええ。本当にありがとうございます。それこそ、以前提供しましたSCP-2745-JP排泄物の方の処理はいかがですか?
EoI-TR-03: うむ、まだまだ残っておるぞ。これほどの善き供物がもう手に入らないのは至極残念ではあるがな。
EoI-TR-02: いえ、流石に100トン以上は弊社でも保管できかねますので。
呉羽: そういえばSCP-2745-JPも、お二方に感謝していましたよ。薬研博士、先ほどの動画お見せしても構いませんか?
薬研: あれくらいでしたら問題ありません。どうぞ。
呉羽研究員が動画を再生する。収容房内のSCP-2745-JPが写る。
SCP-2745-JP: 先生、これ神様たちが見てるの?……えっと、トートさんとスカラベさん、って言うんだよね?お腹痛いの治してくれてありがとうございました。うーんと、会ってお話できないの残念だけど、いつか一緒にご飯食べようね。
SCP-2745-JP: えっと、えーっと。先生!このケーキ神様に分けてあげたいんだけど、だめ?……大丈夫?やった!神様、このケーキ、お礼です!ありがとう!
動画が終了する。ショートケーキがEoI-TR-02、EoI-TR-03にサーブされる。
EoI-TR-02: で、これがそのケーキですか?一応そちらで言うオブジェクトだと思うのですが、よろしいので?
照井: 大丈夫です、気にせんでください。大きなホールケーキの一切れ、全体の5%程度なんで、この量だけなら異常性の無い普通のケーキ17ですんでね。上の許可は取れてますから、どうぞ召し上がってください。
EoI-TR-03: 我は食べられん。人の子の供物ゆえ、気持ちだけ受け取ろう。
照井: それはそうと、処理したSCP-2745-JP排泄物、あれはどうしてるんです?分霊体が転がして無害化してるのは分かりますけど、別にウンコそのものが消えてなくなるわけじゃあないでしょう?
EoI-TR-02: ああ、それのことがありましたね。一点相談なんですが……。
EoI-TR-02: その、私としては園芸関係の神にお売りするつもりではあったんですが。えー、社長が人糞堆肥の取扱いに難色を示してまして、その。
EoI-TR-02: ……やっぱり糞玉を引き取っていただけませんか……?
照井: えぇ……。
[記録終了]
2016年1月7日、ttt社より正式に、SCP-2745-JP排泄物を使用してEoI-TR-03分霊体が作成した、糞玉の譲渡契約締結の申し入れがありました。生物学部門の実験によって、EoI-TR-03分霊体によって異常性を除去した糞玉を促成栽培用の土壌に堆肥として5%混ぜた場合、作物の収量が有意に10%程度向上することが判明しました。
財団フロント企業が経営する農場での活用は、日本支部理事会および廃棄部門によって検討が進められています。