SCP-2755-JP
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俺は財団のデータベースの1つにたどり着く。内部はかなり荒らされていて、多くのねじ曲げられたピンク色のデータの断片が散らばっている。その多くからは甘い匂いが漂っていて、データベースの中をその匂いが満たしている。だが、そんなことはどうでもいい。今重要なのは、彼がどこにいるのか、ということだ。彼は知っているかもしれない。だから、早く彼からそれを聞き出さなければならないんだ。

データの瓦礫を掻き分けながら、その中心へと進む。そこには、RAISAの間抜けたちの必死の警告文だけが残っていた。瓦礫の1つに手を触れる。幸い、俺の力でもまだデータの復元はできるようだ。警告文を適当に改変しつつ、ファイルを開く。

SCP-2755-JP

財団記録・情報保安管理局より通達

当該ファイルは詳細不明な情報破壊事象によって破損しており、現在閲覧することができ:*[[*[/]#***ータの復元に成功しました。閲覧可能です。

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1975年当時のSCP-2755-JP

アイテム番号: SCP-2755-JP

収容クラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-2755-JPはサイト-77の収容ユニットに収容され、収容業務は標準人型実体収容規定に従います。

説明: SCP-2755-JPは、精神と肉体の年齢が変化するヒト(Homo Sapiens Sapiens)です。これまでの調査により、SCP-2755-JPは1975年度のカーク・ロンウッド高校生徒であったデイビッド・スミス(David Smith)であることが判明しています。

通常時のSCP-2755-JPは60代程度ですが、不定期に10代後半程度の年齢に若返ります。SCP-2755-JPの若返り事象は5分以上継続せず、発生から5分以内に老年期に戻ります。SCP-2755-JPの若返り事象は、クラスX記憶補強剤に類似する効果をもたらします — SCP-2755-JPは年齢が若返る度に当時の記憶を取り戻します。

デイビッドがここにいるのは何となくわかっていた。だが、デイビッドからは最早かつての面影は感じられず、全く別の何かに変わってしまったかのように思えた。だから、思い出させることもしてこなかった。だが、あの一瞬、あのときの一瞬だけは、そこにデイビッドがいた。SCP-2755-JPではなく、かつてのデイビッドが。俺はそれを信じてここに来たんだ。「忘れてしまったのかい?」と問う為に。

補遺2755-JP-1: インタビューログ

以下は、SCP-2755-JPが10代後半程度の状態に変化した際に実施されたインタビューの内容の書き起こしです。

インタビューログ2755-JP/0001 音声記録

対象: SCP-2755-JP

インタビュアー: テイラー研究員


<抜粋開始>

テイラー研究員: こんにちは、スミスさん。早速ですが、1975年にあったことについて教えてください。

SCP-2755-JP: 学校のことで構わないかい?

テイラー研究員: ええ、どうぞ。

SCP-2755-JP: 正直、学校のことで良いことはあまり思い出せない。思い出せるのは、デニスたちにいつも殴られたり、ランチトレーを頭からこぼされたり、笑い者にされたりしたことぐらいかな。特にシンディとちょっと話した後なんか、痣が残るぐらいにやられちゃったよ。…ああ、あと、マーチング・バンドのこともあるかな。

テイラー研究員: マーチング・バンド?

SCP-2755-JP: 僕の町はどこの高校もマーチング・バンドが盛んで、カーク・ロンウッドもその1つだった。僕はクラシックが好きだっていう理由でバンドに入ったんだけど、まあ実力はからっきしだった。みんなとどうしてもリズムが合わなかったんだ。自分のリズムで演奏してしまうから、どんどんずれていく。だから、バンドの中でもみんなから嫌われていったよ。同じクラスだったジェレミアになんか、会うたびにすごい睨まれてさ。バーチウッドと交流したときもひどい失敗をして、みんなからすごい責められた。自分のリズムを捨てようとしたけど、ダメだったからね。

テイラー研究員: なるほど。

SCP-2755-JP: だけど、ある日、僕はふと思ったんだ。僕は、みんなにリズムを合わせるんじゃなくて、別のリズムに合わせていくべきなんじゃないかって。そうして、僕はあの時それをはっきりと —

この時点でSCP-2755-JPの急激な老化が始まる。

SCP-2755-JP: 違う、僕は…ええと…。秋が、夏の終わり…。

テイラー研究員: スミスさん?

SCP-2755-JP: 名前は失われる。僕は…僕は、あのリズムを — リズムが —

テイラー研究員: …インタビューを終了しましょう。レコーダーを止めてください。

<抜粋終了>

デイビッドは、正直なところあまりみんなから好かれてはいなかった。独特だったし、みんなよりワンテンポ遅くて、合わせられない。だから、少しずつ少しずつクラスメイトたちから嫌われていった。俺も、正直彼のことは嫌いだった。いじめに加担こそしなかったけれど、彼を助けることもしなかった。

今回のこともそうだった。みんなは「彼は調和に値しない」と言った。だが、俺はそれでも会いに来た。彼もまた俺たちのクラスメイトだし、何より彼は彼女を覚えている筈だ — 彼が、まだ彼であるなら。

インタビューログ2755-JP/0004 音声記録

対象: SCP-2755-JP

インタビュアー: テイラー研究員


<抜粋開始>

テイラー研究員: スミスさん、この間の続きをお願いします。

SCP-2755-JP: うん。1975年の秋、校外学習があった。僕はいつもみたいにレイリーとアーサーに頭をひっぱたかれながら、スケッチブックを片手に歩いていったんだ。そして、僕たちは冷たい湖のほとりに行って、そこで…何かがあった。記憶がどうしてもそこで一旦途切れるんだ。まるで、虫にでも食われてしまったみたいに。

テイラー研究員: 虫に?

SCP-2755-JP: とにかく、次のシーンは水の中だった。冷たい水の中、何か底知れないものが幾つも渦巻く中で、僕は溺れていた。助けを求めて、僅かな光に手を伸ばした。息ができない。水が鼻にどんどん入ってくる。そして、やがて光さえ見えなくなる。そして、僕は独り、水中に取り残されたんだ。

テイラー研究員: その後どうなりましたか?

SCP-2755-JP: 僕は、暗い水の底で、何か…何か、震えているものを見た。それは、怒っているようだったし、恐怖しているようだった。…それが何だったか思い出そうとすることができない。ただ、少し眩しかった気がするんだ。

テイラー研究員: 眩しかった。

SCP-2755-JP: うん。視界がピンク色にぼやけて、そして —

この時点でSCP-2755-JPの急激な老化が始まる。

SCP-2755-JP: 僕、太陽の揺らめき、キャンプ —

SCP-2755-JPの呻き声が記録される。

テイラー研究員: レコーダーを止めましょう。インタビューはまた次の機会に。

<抜粋終了>

デイビッドは湖の底に行き、そこで光を見てしまった。俺たちが失神した一方で、デイビッドは目覚めた。でも、彼の異常な身体がそれから彼自身を遠ざけた。彼はそれに近づいては離れ、近づいては離れを繰り返したらしい。しかし、今日、彼は初めてその何かに触れたんだ。次の項目にその原因が簡潔に書かれていた。

補遺2755-JP-2: 投与実験

現在、10代程度のSCP-2755-JPにクラスY記憶補強剤の投与を行う実験が計画されています。サイト-77管理官の許可が得られ次第、実験が実施される予定です。

ファイルはここで終わっている。どうやら、もう彼は行ってしまったのかもしれない。一足遅かっただろうか。…いや、俺の感覚が、まだ彼が近くにいると言っている。そうだ、カメラ。俺は急いで監視カメラの映像に走る。しばらくして、カメラの映像のデータまでたどり着く。幸運なことに、カメラはまだ生きているようだった。俺は映像を確認する。誰もいない。そこに残っているのは、血飛沫と、ピンク色の煙だけだった。俺は落胆する。やはり、間に合わなかったのか。そう思った瞬間、俺は背後に何者かの気配を感じる。振り向くと、そこには俺と同じくらいの男が立っていた。

デイビッド・スミス。カーク・ロンウッド高校マーチング・バンド所属の男子生徒。いや、もう —

どこへ行くんだ、デイビッド。

僕は、あるべきところへ帰るだけさ。シグナルが鈍く僕に届くのを感じるよ。

俺たちを忘れるのか?

君にはあの、空の向こうから発せられるメロディーが聞こえないのかい?どのフォークソングよりも素敵で、どのクラシックよりも快適だ。僕は、すろんの一員になる。

俺は忘れない。お前がいたこと、デニスがいたこと、ハリソンがいたこと。そして、彼女がいたこと。例え、お前がもうデイビッドでなくなってしまっているとしても。

君もすふぁいるといい。湖じゃなくて、水仙が咲く霧の海に漂おう。

俺はまた、彼女を探しに戻る。お前も、あっちで元気にやれるといいな。

どの口が言うんだい?

………。

嗚呼、もう星が近い。そろそろ、振動も最大限になりそうだ。それじゃあ、また。

ああ、さようなら。

俺は、人のような何かに成り果てたかつてのクラスメイトを見送って、データベースを後にする。湖に戻れば、やることは1つだけだ。彼女を探すこと。彼女は必ず戻ってくると信じていた。だが — デイビッドは、もう戻ってこない。なら、彼女が戻ってくるだなんて、どうすれば信じられるだろう?

懐かしい冷たい水が俺を迎える。俺は結局、その答えを見つけられないまま、今までのことを再開するしかなかった。

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