アイテム番号: SCP-2776-JP
オブジェクトクラス: Safe Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2776-JPはサイト-81██の低危険度収容ロッカーに収容されます。SCP-2776-JPの異常性拡大の観点から、 現在対象オブジェクトは内部に3台の監視カメラを設置した防音処理済みの専用収容区画にて管理・収容されています。無許可のSCP-2776-JPへの接触および電源ケーブルの接続は原則禁止されます。実験の際は防音用のヘッドセットを着用した上で作業してください。
確保したSCP-2776-JP-Aは各専用医療区画に収容し、声紋分析と経過状況の記録を行ってください。SCP-2776-JP-Aの容体が急変した場合は担当の医療従事者に報告し、死亡した場合はサンプルとして第3保管室に移送してください。
SCP-2776-JPから発せられるモーター音の分析データは主任研究員である大猟博士 加賀博士によって管理されています。声紋照合の際は加賀博士の許可を得た上で行ってください。
現在、大猟博士の捜索が継続されています。詳細情報を閲覧する場合はサイト-81██の調査部に申請してください。
説明: SCP-2776-JPはキリンホールディングス株式会社製(旧麒麟麦酒株式会社製)の冷蔵ケースです。対象は耐久実験においても通常の物品同様に損傷し、型番や製造年数からも正式に製造された物品である事が判明しています。
SCP-2776-JPの異常性は対象を中心とした半径約3m圏内に人間(以下、SCP-2776-JP-Aとする)が存在し、かつSCP-2776-JP-AがSCP-2776-JPを視認せずに対象から発せられるモーター音やそれによって発生する振動音を聞いた際に発現します。もしこの状況に至った場合、SCP-2776-JP-Aの感覚器官(主に触覚や聴覚)に付随するシナプス間隙での神経伝達物質の過剰分泌が誘発され、結果SCP-2776-JP-Aはあらゆる刺激に対して過敏に反応を示すようになります。特に背後からの反応が顕著であり、これらの変化は恒久的に発生し続けます。また、経過時間によって様々な症状を発生させます。
以下は日数経過毎に見られる症状のまとめです。
日数経過による症状の変化
初期段階(約1週間経過) |
環境認識の変化による精神疾患(背後に何者かがいるという発言を頻繁に行うようになる) |
中段階(約1か月経過) |
視神経への影響拡大による幻覚症状(共通して成人男性の存在を認識する) |
最終段階(約3か月経過) |
背面の皮膚上に炎症性皮膚疾患と類似する症状(重度の発疹や細胞の壊死に発展し、常に激痛を伴う。これが原因で大半のSCP-2776-JP-Aは自傷行為および自害等の手段を選択する傾向にある) |
これらの症状は外科的処置を行ったとしても完治はせず、治療をした段階ですぐさま変異が発生します。
SCP-2776-JPの異常性は電力の供給がされている時にのみ観測され、非稼働状態を維持させることで異常性の抑制が可能です。しかし、事案2776-JPの発生に伴い現在は収容プロトコルの改定が行われ、非接続時でも何らかの影響を及ぼす可能性が懸念されています。事案2776-JPの詳細は本報告書の補遺1を参照してください。
現在、SCP-2776-JPを由来としたモーター音やそれによって発生する周辺物品(家屋内ならば床や家具、屋外の場合はSCP-2776-JPが設置された地面やコンクリート等)全ての振動音が共通して████Hzで観測される事象が確認されています。しかし、オブジェクト自体や周辺物品の挙動に関しても本来観測されるべき数値とは大きく異なりかつ想定される音量や振動挙動よりも下回る状態で観測され、見た目上は常に静止状態を維持しています。2000年現在、この現象の分析が行われています。
補遺1: 以下は事案2776-JPによって失踪した大猟おおかる博士によるSCP-2776-JPに関する研究報告会の記録です。
報告記録2776-JP-005
対象: 大猟博士
インタビュアー: サイト-81██副サイト管理官██ ██
付記: この報告記録はサイト-81██の第4会議場にて行われました。
<再生>
[冒頭部分は本報告書では編集済]
大猟博士: ……よって、実験に参加させたDクラス職員の経過観察の記録や人体検査の結果から、このオブジェクトの異常性の原因は固有で発生させる音であり、これが人間の身体構造、特に神経系の構造を変化させている事が判明しました。
インタビュアー: ……なるほど。
大猟博士: X線調査および使用されている材質の成分分析の結果も非異常性物品と同様、全く差異はありません。収容自体も収容ロッカーでの隔離収容で事足りると思います。ですが、どの様にしてこの物品がこの異常な振動を維持しているのかは未だ不明です。満足な結果を出せず、申し訳ありません。
インタビュアー: いえ、十分な成果です。一先ずはお疲れ様でした。収容スペシャリストとセキュリティー部門との擦り合わせ、人員の配置は管理部門の方で指示を出しておきます。
大猟博士: はい。ありがとうございます。現在はこの振動音の、特にモーター音の解析を行っています。結果は5日後に提出する予定です。
インタビュアー: 分かりました。報告ありがとうございます。
[5秒間の沈黙]
インタビュアー: どうかしましたか。
大猟博士: ……いえ、その……。
[2秒間の沈黙]
大猟博士: ……ここからは私個人の意見で、オブジェクトとはあまり関わりのない内容なのですが……。
インタビュアー: 貴方にしては珍しい。
大猟博士: ……すいません。
インタビュアー: 構いませんよ。どうぞ、話してみてください。
大猟博士: ……ありがとうございます。
[機械をいじる音]
インタビュアー: それで? どういった内容ですか?
大猟博士: ……最近の、特に私の周囲にいる職員に関して思うところがあるんです。
インタビュアー: と、言いますと。
大猟博士: ……調査部門から上がってきた報告書には目を通していただけたでしょうか。
インタビュアー: ええ勿論です。非常に興味深い内容でした。
大猟博士: ……これに関して話す各職員、エージェントの会話が、私には大変疑問でかつ苦痛なのです。オブジェクトに関連があると思われる事案の調査は、要注意団体の関与も視野に入れた活動であることは重々承知しています。……ですが、私達が扱うのはあくまで科学です。魔法と謳われていた現象も、高次元物理学の分野の開拓を切っ掛けに少しづつ解明されつつあります。私達はその最前線で未知を打ち破らんと奮闘している。……それなのにあの人達は、未だに前時代的な感性に捕らわれて、尚且つそれを面白半分で話題の種にしている。私はそれが、非常に腹立たしいのです。
インタビュアー: ……祟りや呪い、まじないの類については、よくオカルト部門でも話題には上がりますね。
大猟博士: だとしてもです。各部門での研究対象には多少の偏りはあります。ですが、あくまでも我々はそれらの合理化を進め、解明し、異常とされてきたものを既知の領域にまで引っ張り出す。それが我々の最大の目的の筈です。あのオブジェクトに限って言えば、基本は異常性を有するモーター音とそれに付随する変異を発生させるだけ。そう、ただそれだけです。収容手順も明らかとなりました。後はあの音声の分析を残すだけ。あれにはもう、今あるデータから分析できるだけの未知を既に克服しています。なのに何故、彼らはその先の憶測を常に想定しているのでしょうか? あまりにも根拠に乏しい、特に初期発見時に見られた男性の死亡事案についての関連性を実しやかに語っている。私には理解できません。この世界の真理を究明しているという自覚が彼らにはないのでしょうか。もしくは、これは何かの共通認識なのですか? 副監理官。私はーー。
インタビュアー: 大猟博士。それに関して私から言えるのはただ一点のみです。あらゆる可能性を考慮し、それを解明し収容するのが我々の使命。確かに我々は主に科学を用いてそれらを行いますが、あくまでそれもただの一手段でしかありません。この組織はもっと多様的で、広大です。貴方の知らない世界もまだまだあります。それを、もう全て究明したなどとはあまりにも烏滸がましい発言です。貴方自身が科学を主立って用いるプロである事も重々承知していますが、貴方の主張を優先させるほど我々も視野が狭いわけではありません。
大猟博士: ですが!
インタビュアー: 確かに職員間で行われる無意味な憶測や噂は研究のノイズになります。それに関しては各監督官にも注意するよう伝えておきましょう。しかし、Dクラス職員の発言している実体と言う懸念点もあります。これも我々が想定し研究しなければならない要素の1つであることに変わりはありません。先程も言いましたが、我々は多様的です。貴方の一存で、各職員の言論を弾圧するような事は到底推奨できません。ご了承ください。
大猟博士: ……そんな……私はただ……!
インタビュアー: 大猟博士。
[2秒間の沈黙]
インタビュアー: 貴方はまだ若い。
[3秒間の沈黙]
インタビュアー: 話が以上なら、私はここで失礼します。次の研究報告会もよろしくお願いします。では。
<停止>
<終了報告書> この記録の3時間後、事案2776-JPが発生しました。以下は事案2776-JPの概要です。
概要: 事案2776-JPは200█年██月█日に発生したSCP-2776-JPの異常性拡大に伴う大猟博士の失踪事案です。当時、サイト-81██の第8実験区画ではSCP-2776-JPとDクラス職員を起用いた臨床試験が行われており、その際、突如該当区画周辺の電力供給が一時的に停止するという事案が発生しました。これにより実験区画の照明が一斉に消灯し、約1分後に電力は回復。ですが、その時点で大猟博士の消失が確認されました。大猟博士の安否は未だ不明であり捜索活動が継続されています。なお、この時点でSCP-2776-JPの扉部分が開放されていた事も確認されています。
補遺2: SCP-2776-JPは2000年██月█日の██県██市にて発生した死亡事案を切っ掛けに発見されました。当時、██市では特定地区に所属する自治体職員4名と警察関係者7名が相次いで自殺するという事案が発生しており、これを不審に思った財団調査部が現地調査を開始。結果、死亡した人物ら全員が死亡事案の約3か月前に近隣住民から異臭がするとして通報されていた家屋を訪問していた事が判明しました。
なお、死亡した人物らが訪問した家屋内では死後2週間以上経過していた身元不明の男性の死体が発見されており、冷蔵ケース(後のSCP-2776-JP)の扉部分を開放しかつ内部に頭部を突っ込んでいる状態であった事も明らかとなりました。これらの報告を受け財団は現地に機動部隊と研究班を派遣。共通条件を絞ることでSCP-2776-JPの発見に至りました。
現在、該当家屋に居住していた本来の住人の行方は未だ判明しておらず、SCP-2776-JPの明確な入手経路も明らかとなっていません。
追記: 以下は現在消息不明となっている大猟博士によって記録されたテープレコーダー内の音声記録です。この記録は大猟博士の失踪後にSCP-2776-JPの内部から発見され、収録された日時は大猟博士が失踪した翌日の██月██日であると記録されています。現在、大猟博士が報告会で行った発言が失踪に起因しているかは未だ関連は確認されていません。
<再生>
大猟博士: ……寒い……暗い……! 誰か……!
[荒い息]
大猟博士: [早い呼吸音]私が間違ってたんだ……! ただの、思い上がりだったんだ……! 真理なんて無い……! 真実なんて、何処にも無い!
[何かが軋む音]
大猟博士: 寒い……! 誰か、誰か助けて……!
[ノイズ]
大猟博士: あるのは恐怖だけ……! この暗闇と、恐怖だけなんだ! [叫び声]頼む、誰か! 誰か助けてくれ! お願いだ! 全て謝る! 私が間違っていた! 全て分かったんだ! やっと、やっと分かったんだ! だからもう……! 頼む……! [嗚咽] すぐ後ろにいるんだ……!
[男性の笑い声]
大猟博士: あの男が来る!
<停止>
現在、SCP-2776-JPから発生するモーター音を分析した結果、重低音化した複数人の人間の叫び声で構成されている事が判明しました。また、それらの音声の内3件が実験に参加したDクラス職員(内2名は未だ生存)、内1件が大猟博士の声紋と一致しました。これにより、SCP-2776-JPの影響により死亡した人物の声紋照合が継続されています。