AD19██年8月11日 | ヒューマナイズド・ピギー研究室のネズミの1頭が被験体である。彼女をサラと呼ぶことにする。サラは8世代目だが、ついに目に見える結果をもたらす。サラは非常に賢く、自我の目覚めがあるように見える。期待していた特性が見られるかどうか確認するために、サラを6ヶ月間個人的なペットとして取っておくことにする。もし成功していれば私達は正しい方向に導かれているといえるだろう。おめでとう、サラ。葬式は挙げてやろう。
AD19██年9月23日 | バッチK160 [PK1279923]のピギーのゴールデンハムスターの1頭を被験体とした。彼の影響はさほど見られない。
部屋の隅が、ぼやけた牙のある口に変化したが、被験体が隠れると口は消えた。隠れた場所から被験体が覗くと再び現れたが、徐々に消えていった。これは監視カメラが捉えたものだ。私と助手は2人とも隠れていたからな。被験体は影に驚いたのではないかと思う。私達が見たものは侵略者のイメージなのかもしれない。ピギーたちから恐怖を取り除く必要がある。
AD19██年1月30日 | ゴールデンハムスター-AH-32の1頭を被験体とした。彼の影響ははっきりと目に見えるようになった。恐怖反応は完全に取り除かれた。大胆だ、それでいて愚かではない。予想通り食べ物にとても夢中だった。実験場をめちゃくちゃにしてくれたが、今ならこの魚の悪臭だって良い匂いだ。散らかった中に彼が紛れてないかすぐに確認せねば。
AD19██年4月15日 | 必要な特性はうまく伝わったようだ。私は赤ちゃんを1頭取っておいた。この哀れで小さな存在をワームウッドと名付けることにする。フェーズ1からピギーの余りは安楽死させられていたからな。慎ましい捧げものとして彼を自然に放してやろう。彼が食べ物に困らず、最期まで幸せでありますように。ハレルヤ!
施設に潜入した。オウムを使いたくはなかったが、ここの隔離措置と既に稼働中の給餌プログラムは完璧だ。クリスも計画の責任者に一目置かれているし、面倒なことにならないように私達が彼の後任になることにしよう。私達の実験で多くの鳥が作られるだろう。再生計画として関係当局に管理が委譲されることになっている。私達の「カッコウ」は焼却か何かの処置を受けるだろう。
19██年2月15日 | 鳥達が危険になってきている。鳥達は私達のことが嫌いらしい。彼の能力は明らかだ。期待通りだが、混沌としている。交尾よりも食べ物のほうに興味があるという点でハムスターとは違う。うまくいっている。
自然保護主義者には素晴らしいニュースだが、今の私達にとっては悪いニュースだ。特にダニエルにとっては。ダニエルはもう私達と一緒ではない。
天は自ら助くる者を助く。これが私たちの伝導団のモットーだ。
私には科学だとかDNAだとかそんなことは分からない。クリスや彼の同僚たちがそういったことを扱ってくれている。私は彼の父と伝導団に忠実なだけのただの人間であり、彼の伝導団は神聖であると同時に主の祝福を受けていると信じている。
私はおよそ二千年前に地球を歩いていた1人の人間を信じているが、彼がただの人間ではなかったとも信じている。主は奇跡を行うために主自身の宇宙を律する法則を利用していらっしゃるのだと信じているし、その法則を理解することが私たちの務めであると信じている。
私はエゼキエルの息子だから偏った見方をしていると思われるかもしれないが、私は父の初期の実験結果を理解してきた。主は父を通して御業をなされ、施しを与えてくださった。父は水を変化させる機械をもっていたし、父が使う軟膏が目の見えない人を治すところも見た。私にはこれで十分だ。
だが父は不幸せそうに見える。唯一、父のみが「科学」を行使できるにも関わらずだ。父の同僚でさえ完全には父の仕事を理解していない。私たちは父がもうろくしつつあるのではないかと考えている…。
それとも父は自身が望んでいるものを手に入れていないということだろうか?父はそんなこと認めないだろう。時々父が自力でひとり子を授かることを望んでいるのが気がかりだ。彼自身の息子をだ。私にとっては、そんなことを考えるだけで罪深いというのに。
主が戻られたときに私の心配が鎮まるであろうということを慰めにしよう。
-ダニエル
19██年3月10日 |私達は…人間の被験体に歩を進めるための解決策を副次的に発見した。この卵の1つには胎芽が入っている…。ダニエルは、本当はまだ私達と一緒にいるらしい。本当に奇跡だ。ダニエルは間違いなく殉教者だ。あの日起こった全てのことが威厳を持った。主をたたえよ。
鳥の方々は実に神々しい。もうその御顔をほとんど存じ上げられない。かの方々は救世主なのか? あるいは単純に智天使の方々なのか?
19██年3月11日 | エリヤは眠っている。彼が死んでいることを願う。我々は孵化する前に残りの卵を破壊しているが、今度はもっと慎重になろう。
我々は悪魔に苦しめられている。汚れた誕生が忌み嫌われている。間違いない。これは我々の意図ではなかったが、こうなったのは当然だ。人間が孵化することなど神の思し召しではないと分かってしかるべきだった。こんなことは間違っている。エゼキエルは去勢し、主の許しを請うと言い切っている。
代わりにダニエルの卵の殻から産まれるものを抜き取る。
こいつらが誕生するのを待ってはいられない。主の御姿は奴らのためのものではない。主の恵み…奴らは主の恵みなど知らないだろう。動物に魂は無い。どうして動物の救世主など作ることができようか。ばかばかしい、だが…
監視カメラ映像の文書への書き起こし
10:30:01 オレンジのジャンプスーツを着た3人の男が部屋に入ります。それぞれが手車を押しています。部屋は大きな卵の孵化器で覆い尽くされています。
10:32:22 男たちは静かに手車の中に卵を置いていきます。男たちは静かに動いています。彼らは口では話さず、代わりに手話を使っています。
10:39:01 28個の卵が手車の中に置かれます。男たちは手車を部屋の外に押していきます。
10:42:42 3人の男が卵を満載した手車を押しながら、施設の地下階の部屋に入ります。部屋の中心にエレベーターの昇降路があります。
10:42:55 地味な服装をした5人の男が部屋に入ります。男のうち4人はスレッジハンマーを持っています。男のうち1人はガソリンが入っていると推測される容器を持っています。
10:44:02 8人の男全員が卵に引き続いてエレベーターに乗り込みます。
10:46:01 エレベーターが降ります。エレベーターが動く瞬間、1人の男が叫び声をあげます。
10:47:23 黄色のローブを身につけ、あごひげを生やし、がっしりとした体格の男が部屋に入り、エレベーター昇降路の近くの操作盤に鍵を差し込みます。
10:47:23 男は部屋を出ます。部屋の灯りが消えます。
このうつわにはダニエルが入っている。彼から恵みのエキスを抜き取り、エキスを純潔なる女性に捧げよう。ダニエルを主に捧げよう。私の燔祭だ。ダニエルの元となった鳥達も連れて来よう。酬恩祭だ。緑の鳩。マリアのDNA。クリスチャンのブラッドストーン。私の息子はひとり子の贈り物を携え、私達には再臨がもたらされる。
天は自ら助くる者を助く。再臨に備えよ。
再臨に歌え!
エゼキエル バリリー イエプリーヌ
モルドバ独立正教会伝導団 主座主教