クレジット
タイトル: SCP-2793-JP - ふつうの神様
著者: ©︎poppono032
作成年: 2022
アイテム番号: SCP-2793-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2793-JPの財団サイト内での収容は困難と判断されるため、SCP-2793-JPは発見場所である羽根橋村内にて収容状態を維持されます。羽根橋村の住民に対する居住先の移動の要請等は、本人らの希望がない限り行われません。担当者はその重要度に関わらず、SCP-2793-JPの行動、羽根橋村の住民の行動、羽根橋村内で発生した出来事、羽根橋村内に訪れた人物等の事柄をすべて随時記録してください。羽根橋村内に訪れた人物に関しては記憶処理等は行わず、追跡による経過観察を行ってください。不審な人物が確認された場合、ただちに財団上層部に報告し、指示を待ってください。現在、SCP-2793-JP及び羽根橋村保護のため、近隣の市町村との合併は延期するよう自治体等に働きかけられています。
説明: SCP-2793-JPは██県にある羽根橋村内に居住する、外見上は50代前半の日本人男性と判断される人型実体です。同年代の日本人男性との外見的差異はほとんど見受けられません。SCP-2793-JPを視認した人物(以下、対象)は、SCP-2793-JPが”この土地の神である”と瞬時に認識します。この認識に強制力等は確認されておらず、対象のSCP-2793-JPに対する反応は個人の価値観等によって異なりますが、総じて混乱や錯乱等を起こさないことが特徴として指摘されています。対象が羽根橋村外に出た場合、時間の経過によってSCP-2793-JPの認識に関する記憶のみが薄れ、やがて消失することが確認されています。また、SCP-2793-JPは限定的な空間転移能力、軽度の現実改変能力等を有していますが、SCP-2793-JPがそれらを積極的に使用する様子は確認されていません。
発見経緯: 2003/01/28、一部のオカルト系雑誌等に掲載されていた”本物の神様がいる村”の噂について調査を行っていたエージェントが羽根橋村を訪れ、SCP-2793-JPを発見、その異常性を感知し、財団へと報告しました。ただちに機動部隊が派遣され、SCP-2793-JPを確保、近隣に位置する財団サイトに搬送されました。しかし、コンテナ内に収容されていたSCP-2793-JPの消失が確認され、その後に羽根橋村に出現していることが確認されました。同様の措置が複数回行われましたが、どのケースにおいてもコンテナ内から消失、羽根橋村内に出現という結果になったため、財団サイトでの収容は困難と判断され、現在の特別収容プロトコルが制定されました。
インタビュー記録-1: 以下は初回収容失敗時にSCP-2793-JPに対して行われたインタビュー記録です。
対象: SCP-2793-JP
インタビュアー: エージェント永峰
付記: このインタビューはSCP-2793-JPの初回収容失敗時に行われました。SCP-2793-JPは収容を試みた際には一切の抵抗を示さず、また当インタビューにおいても落ち着いた様子を見せました。
<記録開始>
永峰: いくつか質問させていただきます。あなたは搬送コンテナの中から脱出していましたが、どのような手段を用いたのですか?
SCP-2793-JP: すまんな。逃げるつもりはなかったんだよ。気づいたら戻ってたんだ。今まで村の外になんか出たことなかったもんだからさ、こうなるとは知らなかったんだ。あんたらに手間かけさせて本当にすまん。
永峰: いえ、それは構いません。では自身の力で行ったことではないと?
SCP-2793-JP: わかんねえなあ。無意識にやったって言われりゃそうかもしれんし。
永峰: [約2秒間沈黙]あなたは自身が異常であるという認識はありますか?
SCP-2793-JP: そりゃまあ。テレビとか観てりゃあさ、最近はネットも見てるんだけども、神なんて呼ばれてるやつは大抵胡散臭い詐欺師ばっかでさ、俺も外の人間からすればまあそれでしかないわけよ。なのに外の人間も俺のことを神様って言うんだよな。さすがに変だと思うよ。そんでまあ、あんたらが来て、ああやっぱ俺って変だったんだなあって、改めて思ったんだよな。
永峰: [約2秒間沈黙]あなたは我々に対して抵抗しませんでしたが、それはなぜですか?
SCP-2793-JP: 別に抵抗する意味なんてなかったからな。村のみんなに何かするようなら、さすがに怒ったけどさ。そもそもさ、俺なんかがあんたらに抵抗できるわけないと思うんだけどな。俺はただ周りから神なんて呼ばれてるだけの胡散臭いおっさんだぞ。
永峰: しかし、あなたは我々の収容から逃れました。それに、村の皆さんの証言からあなたが現実改変[約1秒間沈黙]魔法のような力を行使していたことも確認されています。
SCP-2793-JP: ああ、たまに村のじいさんばあさんの腰痛とかをマシにしたり、家のぼろいところちょっと直したり、猪とか熊とかを入りづらくしたりしてるけどさ、俺にできることなんてそんくらいだよ。あとは畑仕事を手伝ったりとか。それで村のみんなからは飯を食わせてもらってるんだよ。まったく有難い話だけどな。
永峰: [約2秒間沈黙]質問の傾向を変更します。あなたの名前を教えていただけますか?
SCP-2793-JP: 名前なあ、村のみんなからは神様って呼ばれてるんだけど、それは名前とは言わんよなあ。うーん、すまん、たぶんないと思う。
永峰: 自身の年齢や出生等もわかりませんか?
SCP-2793-JP: うーん、どう言えばいいかな。たぶんこの村に羽根橋って名前がついた頃から生きてると思うんだけどさ、歳とかは数えてなかったからなあ。親とかいるのかね、俺にも。気づいたらこの姿でこの村にいたもんだから。少なくとも子どもの頃の記憶というやつはないかね。とりあえず気づいたときには神様って村のみんなが呼んでたと思う。
永峰: [約3秒間沈黙]周囲があなたのことを神と呼ぶことに、あなた自身に何か違和感はありますか?
SCP-2793-JP: ないって言っていいのかなあ。というより慣れたって感じかね。村のみんなが俺のことを慕ってくれてんのは嬉しいしね。それはそれとして、やっぱり外からすれば変なんだろうな。
永峰: [約4秒間沈黙]我々の収容にご協力いただくことはできますか?
SCP-2793-JP: いいよ。村のみんなのことは大好きだけども、絶対に俺が必要なんてことはないだろうからな。俺はもう十分生きたと思うよ。殺されたとしても悔いはたぶんそんなにない。あ、でも死ぬ前くらいは村のみんなと連絡とか取らせてくれると嬉しいかな。
永峰: 現状ではあなたに危害を加える予定はありません。本日のインタビューはこれで終了します。
<記録終了>
終了報告書: インタビュー終了後、SCP-2793-JPは財団の収容に対して協力的な姿勢を継続しています。複数回の財団サイトへの収容の試みののち、財団サイトでの収容は困難であると判断されたため、SCP-2793-JPは羽根橋村内にて収容状態が維持されることが決定しました。
インタビュー記録-2: 以下は羽根橋村内に在住する、市川富夫氏に対して行われたインタビュー記録です。
対象: 市川富夫氏
インタビュアー: エージェント永峰
付記: インタビュー前、市川氏は自身が所持する畑にて作業を行っていました。インタビューを行うにあたり、SCP-2793-JPが代わりに作業を行うことを申し出、市川氏はそれを了承しました。
<記録開始>
永峰: 市川さんはこの村の産まれですか?
市川氏: ああ、はい。産まれも育ちもこの村ですよ。外に出たことなんてほとんどありませんねえ。一応息子が今東京にいますけど、お盆とか正月とかは息子の方が帰ってきてくれるんでね、仕事も畑を耕しているだけですしね。
永峰: 市川さんはあの方をどのように認識していますか?[畑内で作業を行うSCP-2793-JPを指し示す。]
市川氏: 神様ですね。この村の人間ならみんなそう認識していると思いますよ。
永峰: あの方は市川さんが幼い頃からいますか?
市川氏: 私が子どもの頃もあの姿でしたね、神様は。ずっと歳は変わらないんですよ。若くもなりませんし、老いもしません。子どもだった私はいつの間にか神様の外見を追い抜いてすっかりじいさんになってしまいました。不思議なもんですよねえ。
永峰: なぜ市川さんはあの方を神様と思うのですか?
市川氏: うーん、ひと目見て神様と思ったからとしか説明できませんね。外見は普通に中年男性ですけどね。でもね、神様といっても、みんな過剰に奉ったりなんかはしてませんよ。もちろん慕っていますけどね。ほら。[市川氏が作業中のSCP-2793-JPに目を向ける。近隣に在住する秋尾██氏が通りかかり、SCP-2793-JPに対して声をかける。SCP-2793-JPは笑顔で対応している。]いつもあんな感じなんですよ、神様は。威厳なんかまったくありません。なのに神様だなんて思うんです。なぜですかねえ。
永峰: [約3秒間沈黙]市川さんはあの方から何かされたことはありますか?
市川氏: 特にはないと思いますよ。私も歳ですからね、たまに腰をやらかすんですが、そのときに痛みを少しマシにしてもらう程度ですかね。神様は手をかざすだけでそこの痛みを和らげることができるんですけど、本人はあくまで痛みをマシにするだけだから身体はちゃんと労わるようよく言っていてね。私としてはお医者にかかる金が浮いて有難いんですが、本人があまり頼って欲しくなさそうなので、どうしても我慢できないときだけ頼んでいるんですよ。その代わり、畑仕事や家事の手伝いとかは快く引き受けてくれますけどね。
永峰: [約2秒間沈黙]他に、市川さんが印象に残っていることはありますか?
市川氏: そうですね、神様はよく泣く方ということですかね。
永峰: よく泣くとは?
市川氏: 私の家内が死んだときにね、まあ家内が死んだときに限らないんですが。家内は重い病気を患っていましてね、お医者からはもう治らないと言われていまして、家内の希望で病院じゃなくてうちで最期を迎えたんですよ。そうしたら家内の遺体のそばにいつの間にか神様がいまして、ぼろぼろと泣いていたんです。号泣ってやつですよ。もうぐちゃぐちゃに顔を歪ませてね、泣いていました。私は嬉しかったですね。もちろん家内が死んだことは悲しかったですし、私も泣きましたけど、こんなに一緒に泣いてくれる方がいることが有難いとは思いませんでした。私と神様は家内の遺体のそばで泣きに泣いて、それから弔いをしました。家内の骨を壺に入れて墓に収めるまで、神様は見届けてくれました。私だけじゃありませんよ。村の中で誰かが死ぬと神様は必ずその家へと行って、家人と一緒に泣くんです。それだけなんですよ、それだけなんですけどね。あのときが一番神様がこの村にいてくれて良かったと思いました。[市川氏が目を細める。作業を終えたSCP-2793-JPが片手を上げながら戻ってくる。]
SCP-2793-JP: 市川さん、なんか変なことは訊かれなかったかい?
市川氏: [笑って]神様、この方は別に悪い人じゃありませんよ。そんな心配しなくても大丈夫です。
SCP-2793-JP [永峰の方に目を向け、腰を折る仕草をする。]ああ、すまん。あんたらが悪い人らじゃないのは俺も知ってるんだが、どうしても心配でな。
永峰: いえ、別に構いませんよ。
市川氏: ああ、そうだ。神様、今日の昼食は私のうちで食べますか? 息子が東京の菓子を送ってくれましてね、食後に一緒に食べましょう。
SCP-2793-JP: おお、東京の。そんな贅沢なもんを食わせてもらって本当にいいのかい?
市川氏: 私一人で甘いものなんかろくに食えませんよ。永峰さんもいかがですか?
永峰: いえ、私はこのあたりでお暇させていただきます。
<記録終了>
終了報告書: インタビュー終了後、経過観察が行われました。SCP-2793-JPは市川氏の住居にて昼食をとった後、他の住民の作業を手伝う様子が確認されました。特筆すべき行動は確認されていません。
インタビュー記録-3: 以下は上記インタビューを行った市川富夫氏の子息である、市川祐也氏に対して行われたインタビュー記録です。
対象: 市川祐也氏
インタビュアー: エージェント永峰
付記: 「羽根橋村の神様についてインタビューしたい」と祐也氏にコンタクトをとったところ、祐也氏は軽度の記憶の混濁を示しました。この記憶の混濁はインタビュー開始時点において解消されました。
<記録開始>
永峰: 市川さん、神様のことについては思い出されましたか?
祐也氏: あ、はい。永峰さんから電話来たときは宗教の勧誘かなと思ったんですが、よくよく思い返してみたらそういえば近所にやけに優しいおじさんがいたなあと思いまして、あの人の名前なんだったかなと考えてたら、ああ確か神様だって感じで思い出しましたね。
永峰: [約1秒間沈黙]自身の出身地に神と呼ばれる人物がいることは、かなり記憶に残ることではないかと思うのですが、なぜ忘れていたと思いますか?
祐也氏: うん? なんでだろうな。実家に帰ったときは毎度思い出すんですけどね。神様もよく歓迎してくれますしね。こっちにいるときはなぜか忘れてること多いんですよね。
永峰: 神と呼ばれる人物の存在が、本来珍しいものであるという認識はありますか?
祐也氏: そりゃもちろん。こっちは当然ですけど、近くの村とか町とかでも生きた神様なんていないらしいですし、うちの村が変なんでしょうね。でも、だからどうしたって気持ちもあるんですよ。神様は確かに神様ですけど、僕からすれば、親戚のおじさんとなんら変わりはありませんから。未だにお年玉くれますしね。
永峰: [約2秒間沈黙]市川さんはそれを周囲に漏らしたりはしましたか? うちの村には生きた神様がいるんだみたいな。
祐也氏: そういえば言ったことないですね。別に隠そうって気持ちがあるわけじゃないんですけどね。こっちに戻ってくる頃にはだいたい忘れてる感じなので、ぱっと話が出てこないんでしょうかね。でも、これでも僕は憶えてる方なんじゃないかなと思いますよ。僕の友達に、同じ村の産まれの岡谷ってやつがいるんですけど、あいつはもう神様のことをまったく思い出せないみたいですから。たぶん、岡谷に関しては父親との折り合いがあんまり良くなくて、こっち来てから村に全然帰ってないからじゃないかなって思います。ちょいちょい実家に帰る僕と違って、神様のことを思い出す必要がないんじゃないでしょうかね。
永峰: [約1秒間沈黙]市川さんは上京して、自身の出身地以外の場所を知っているわけですが、それでも神様の存在に何か違和感や恐怖のようなものを感じることはありませんか?
祐也氏: ないですよ。さっきも言いましたけど、あの人はね、神様は神様でも親戚のおじさんみたいな神様なんですよ。物心ついた頃からそんな感じなら、怖いと思うところなんてないですよ。
永峰: そうですか。[約1秒間沈黙]本日のインタビューはこのあたりで切り上げさせていただきます。
祐也氏: あ、最後に一ついいですか?
永峰: 何でしょう?
祐也氏: あんまり神様のこと傷つけないであげてくださいね。ああ見えて繊細な人なので。
永峰: [約1秒間沈黙]了解しました。本日はありがとうございました。
<記録終了>
終了報告書: インタビュー終了後、祐也氏に対して経過観察が行われました。インタビュー翌日時点で、SCP-2793-JPに関する記憶の希薄化が確認されました。また、上記インタビューにて祐也氏が言及した岡谷氏にもインタビューが実施されました。岡谷氏は羽根橋村についての記憶や自身の出生についての記憶は保持していましたが、SCP-2793-JPに関する記憶のみ保持しておらず、記憶を想起する様子も確認されませんでした。
補遺-1: 2005/04/22、SCP-2793-JP及び羽根橋村に以下のような変化が生じました。
- SCP-2793-JPの実体の透明化。霊的実体に近い状態に変化し、物理的接触が困難になった。
- 羽根橋村内の住民のSCP-2793-JPに対する認識及び記憶の希薄化。SCP-2793-JPが直接接触しない限り、羽根橋村内の住民はSCP-2793-JPを認識及び想起しなくなった。
- 羽根橋村外の人物のSCP-2793-JPへの視認及び認知が困難になった。これはクラスW記憶補強薬の接種により対処可能。
上記の変化に伴い、SCP-2793-JPに対して再度インタビューが実施されました。以下はその記録です。
対象: SCP-2793-JP
インタビュアー: エージェント永峰
<記録開始>
永峰: インタビューを開始します。まず自身及び羽根橋村の変化について認識はありますか?
SCP-2793-JP: わかってるよ。みんな俺のこと思い出しづらくなってるみたいだね。それに俺の身体もなんか薄くなってるしな。幽霊みたいだな。まあ俺なんかは本当に生きてるかどうかも怪しいやつだから、むしろこの方が正しいのかもしんないな。
永峰: [約2秒間沈黙]随分落ち着いているように見受けられますが。
SCP-2793-JP: 前も言ったけど、俺はもう十分生かしてもらったからなあ。今更この世に残っていたいなんて未練はないよ。このまま消えちまっても、まあそれが俺の寿命なんだろう。そんだけだよ。
永峰: 自身が消失するとしても、それに対して恐怖はないと?
SCP-2793-JP: ないない。
永峰: [約3秒間沈黙]では今の自身及び羽根橋村の状態について、何か心当たりはありますか?
SCP-2793-JP: うーん? 確かこの村も近くの村とかと合併するって話があるけど、それかね。
永峰: なぜそれが関係していると思うのですか?
SCP-2793-JP: 上手く言えんけども、俺の存在がいらなくなるからかね。俺は羽根橋村の神だからな。羽根橋村がなくなるなら、俺なんて必要ないよ。
永峰: [約1秒間沈黙]それに対して、何か思うところはありますか?
SCP-2793-JP: いや、特にないな。強いていうなら、こうなったら早く消えてやりたいなあと思うことくらいかな。
永峰: なぜですか?
SCP-2793-JP: 村のみんなが悲しそうだからだよ。そうだな、あんたが知っている人だと市川さんか。つい昨日も市川さんに声かけてみたらさ、最初きょとんとした顔してぼんやりとしてたんだけど、急に泣きだしちゃったんだよな。
永峰: 泣き出した?
SCP-2793-JP: 俺のことを忘れてたことが悲しいってさ。今まであんなに一緒に泣いたり笑ったりしてくれたのに薄情者だって、自分を責めるもんで。それが俺も辛くてなあ。市川さんはちょっと大袈裟だけど、だいたいの村のみんなが俺を忘れかけていることを悲しんでた。俺はそんなのは嫌なんだよ。だからいっそのことさっさと消えちまいたいんだ。神様なんてな、もうとうの昔からいらなくなってるんだよ。俺はただの遺物だ。いない方が普通なんだよ。
永峰: [約5秒間沈黙]あなた自身はそれで良いと?
SCP-2793-JP: 村のみんながこれからも幸せならそれでいいんだ。場所や名前なんか重要じゃないんだよ。
永峰: [約3秒間沈黙]本日のインタビューはこれで終了します。
<記録終了>
上記インタビューより、羽根橋村の近隣市町村との合併はSCP-2793-JPの消失を招く恐れがあると危惧されました。そのため、保護の観点から羽根橋村の近隣市町村との合併を阻止するよう特別収容プロトコルが改訂されました。現時点で、SCP-2793-JP及び羽根橋村において上記以外の変化は確認されていません。
補遺-2: 2015/11/27、SCP-2793-JPがエージェント永峰に接触し、財団に対して提案を行いました。以下はそのインタビュー記録です。
対象: SCP-2793-JP
インタビュアー: エージェント永峰
<記録開始>
永峰: 何か提案があるとのことですが、どうしたのでしょうか?
SCP-2793-JP: ああ、そのさ、これはあんたらにまた手間かけさせるだけもしれないんだけどさ、俺、もう村のみんなとは会わないようにしようと思うんだ。
永峰: [約2秒間沈黙]それは隠れて暮らすということですか?
SCP-2793-JP: まあ遅すぎる隠居ってわけなんだけどさ。本当はこの村から離れてやりたいんだが、俺はどうやらこの村からは離れられないらしいし、前にも言ったようにさっさとどこかの村と合併して消えちまえればそれでもいいんだが、あんたらの仕事としてはまだ俺に消えられたら困るんだろ?
永峰: [約3秒間沈黙]はい。我々の目的はあなたのような存在を確保し、収容し、保護することなので。
SCP-2793-JP: そうだよな。ならもうこれしかない。俺はもうみんなに悲しんで欲しくないからな。俺のことはきっちりと忘れて欲しいんだ。俺のことはそういう方向で取り扱うようにはしてもらえないかい?
永峰: [約6秒間沈黙]本当にそれでよろしいですか?
SCP-2793-JP: [約4秒間沈黙]寂しいよ。でもな、村のみんなの方が寂しいんだ。
永峰: [約3秒間沈黙]わかりました。検討いたします。
<記録終了>
協議の結果、上記の提案はSCP-2793-JPの収容の観点からは問題ないと判断され、承認されました。現在、SCP-2793-JPは財団職員以外の人物との接触を行っていません。この措置を行って以降、羽根橋村住民のSCP-2793-JPに対する認識及び記憶の希薄化の急激な進行が確認され、現時点で羽根橋村住民の全員のSCP-2793-JPに対する認識及び記憶は消失したと推定されています。SCP-2793-JP自身の様子に変化はなく、財団への協力的な態度を維持しています。羽根橋村の近隣市町村との合併は依然として阻止される見通しです。