Dクラスによって報告されたSCP-2794-JPのイメージ図
アイテム番号: SCP-2794-JP
オブジェクトクラス: Safe Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-2794-JPはサイト-8172内の倉庫にて、専用の遮蔽容器に入れた状態で保管されます。月1回、定期的な点検を実施し、異常性の再発現の兆候が見られないかを確認してください。
説明: SCP-2794-JPは、これを視認した人物が思い描く、理想的な外見を表現した彫像(以下、理想像)として認識される彫像です。そのため、SCP-2794-JPが本来有する外見は明らかとなっていません。
SCP-2794-JPを視認した人物(以下、曝露者)に認識される理想像は、視認時点の曝露者の生物学的性別とは逆の性別の像で、かつ曝露者の身体的特徴と逆の特徴を示すものであると報告されます。既知のいかなる手段を用いても、曝露者の認識を正常化させること、また曝露者が認識する理想像を変化させる試みは全て失敗しています。
曝露者は理想像を視認した後、SCP-2794-JPから粘土状の物質(以下、SCP-2794-JP-A)を採取可能となります。SCP-2794-JP-AはSCP-2794-JPから無制限に採取可能ですが、曝露から約6時間が経過すると、採取は不可能となります。また、一度SCP-2794-JPに曝露し改変を完了した人物は、再曝露した場合でもSCP-2794-JP-Aを採取することが不可能となります。
SCP-2794-JP-Aは生物の身体に接合された場合、即座にその生物の一部として機能を開始します。この性質により、曝露者は適切な医療処置を経ることなく、自身の身体1を改変することが可能です。さらに、曝露者は自身の身体を失血や外傷反応を伴わずに素手で消去することが可能になります。SCP-2794-JPを視認した曝露者は例外なく自発的に自己の改変を開始し、その終了後、一貫して強い満足感を示します。
この改変行為の最中、SCP-2794-JPから人間の肉声に類似した音声が発されます。音声は曝露者以外の人物にも明瞭に聴取されます。音声の声質や内容には個人差がありますが、曝露者の大半はこれを「安心感のある声」や「信頼できる人物の声」であると認識します。発話内容は改変行為を推奨する物、またはそれを無条件に肯定する物です。
以下は、実験記録の一部抜粋です。完全なリストはSCP-2794-JP担当チームに問い合わせてください。
実験記録-2794-JP-1
対象: D-1092
結果: 曝露後、対象はSCP-2794-JPを「非常に華奢な女性像」として認識。これは対象自身の身体的特徴と顕著に乖離していた。対象はSCP-2794-JP-Aを両腕・胸部へ塗布、また他の部位を剥離させ、筋量の減少および二次性徴的形質の変容を生じさせた。
補足: D-1092は曝露以前、自身の筋組織を誇示する傾向が確認されていた。
備考: 対象は自身の外見に対する強い満足感を報告した。
実験記録-2794-JP-4
対象: D-3135
結果: 曝露後、対象は「性的魅力を強調する男性像」を認識したと報告した。対象はSCP-2794-JP-Aを腰部・体幹部に塗布し、骨盤構造の拡大および筋肉量の増加が確認された。
補足: D-3135は以前より先天性心疾患を患っており、医師から運動制限の指示を受けている。
備考: 「今まで一度も認めなかった衝動に形を与えられた」と述べ、解放感を表明した。
実験記録-2794-JP-8
対象: D-9021
結果: 曝露後、対象は「体格の大きい女性像」を認識。SCP-2794-JP-Aを全身に塗布し、骨格および筋肉が数十分かけて拡大。最終的に対象の体重は実験前の1.6倍に到達。
補足: D-9021の曝露時点のBMIは16であり、また自己卑下的態度が顕著であった。
備考: 身体変容後、対象の心理検査において抑うつ傾向の有意な低下が確認された。
補遺A: 実験-2794-JP-13ログ
実験記録-2794-JP-13
対象: D-7040
担当: 雨築研究員
«記録開始»
雨築研究員: 実験を開始します。D-7040、部屋中央にある彫像を見て下さい。
D-7040: ああ。
[D-7040がSCP-2794-JPを視認する。]
D-7040: これは
[D-7040がSCP-2794-JPに接近し、その全体を眺めるような仕草を取る。]
雨築研究員: D-7040、彫像の形状を説明して下さい。
D-7040: 女だな。誰かに似てる気もする。
雨築研究員: それは、誰でしょうか?
D-7040: 分かんない、けど。俺もこうなれたらいいなって、そう思う。
SCP-2794-JP: そう、これがあなたの理想像。
[SCP-2794-JPの声質は成人女性に類似している。]
D-7040: 今、この像が喋ったのか? [小声] 綺麗な声だな。これが、俺の理想像、か。
雨築研究員: 声、ですか。
D-7040: ああ。ガキの頃からだよ。俺は声を変えたくて、仕方がねぇ。
雨築研究員: 声を変えたい、ですか。何か理由が?
D-7040: 他人がミスしたら揶揄う。そんな奴ら、いるだろ?
雨築研究員: ええ。
D-7040: 小学校の発表会で、詩の朗読をした時だ。普通に読んでたはずなのにな、笑いが起きた。そっからずっと、変なあだ名で呼ばれてた。あの頃は笑われたくらいで泣くことも、なかったけど。今でも大勢の人の前で声を出すたび、あの笑い声がフラッシュバックする。
[沈黙]
D-7040: なあ、彫像さんよ。俺は変われるのか?
SCP-2794-JP: 今こそ変わるべき時。あなたの理想像はここにあります。さあ、触れてください。
D-7040: 触れていいのか?
雨築研究員: ええ、どうぞ。
[D-7040が彫像に接近し、右手でSCP-2794-JPの表面に触れる。表面から微量のSCP-2794-JP-Aが剥離し、D-7040の指先に付着。]
D-7040: なんだ、これ。
SCP-2794-JP: あなたは変われる。あなたの望みの通りに。ですが、理想とは映し出すだけでは完成しない。揺らがぬ形として留まることこそ、完成なのです。
D-7040: どういうことだ?
SCP-2794-JP: 人は常に新たな理想を渇望する。真に理想と成るとは、変わらないことです。しかし、永続性は可塑性と両立しません。理想を完成させるためには、その揺らぎを断ち切らねばなりません。恐れることはありません。静かに、そして安らかに完成させましょう。
D-7040: よく分からんが、まあいいか。
[D-7040がSCP-2794-JP-Aを採取し、自身の胸部に塗布する。D-7040の胸部に乳房と推定される生体組織が出現する。]
D-7040: ははっ。こりゃいい。
[D-7040、SCP-2794-JP-Aを再度採取し、臀部及び腰部に塗布。脂肪組織の移動および骨盤幅の拡大が観察される。対象は笑みを浮かべる。]
D-7040: 俺が、俺じゃなくなるみたいだな。
SCP-2794-JP: 恐れる必要はありません。あなたは理想に近づいているのです。真に理想と成れば、形も、心も、揺らがない場所へ還るでしょう。
D-7040: 還る、か。
«中略»
[D-7040が自身の左上腕の組織を削除する。直後にD-7040が同部位へ新たなSCP-2794-JP-Aを塗布。陥没は補填される。]
D-7040: こんなのは、違う。もっと、柔らかくて、綺麗で。
[左上腕と同様の行動を四肢全体に拡大させる。剥離と再塗布を繰り返す過程で、四肢の生体組織のほぼ全てがSCP-2794-JP-Aに置換される。]
[D-7040が顔面部へのSCP-2794-JP-Aの塗布と生体組織の剥離を複数回実施。D-7040の顔面は徐々に女性的特徴を示すように変化する。]
D-7040: ああ、俺は、こうなりたかったんだ。
SCP-2794-JP: それでいい。他の誰もが否定しても、私が肯定する。
D-7040: そうか、ありがとう。あんたには分かってるんだな。俺のこと。
[対象は自らの顔面を両手で覆い、その後長時間静止。]
D-7040: でも、まだ、満足できねぇ。声が、まだ俺のままだ。
SCP-2794-JP: まだ、終わるのには早い。心ゆくまで、理想を追い求めましょう。
[D-7040が頸部をSCP-2794-JP-Aを用いて改変する。]
[D-7040が発声し、その音域は曝露前より顕著に高音であった。]
SCP-2794-JP: ああ、聞こえます。あなたの本当の声が。綺麗な声ですね。
D-7040: ああ。俺は、変われたんだな。[涙を流す。] 良かった。
SCP-2794-JP: その声は、あなたがずっと求めていた、理想。変わらず、傷つかず、永遠に保たれる、美しい姿なのです。もう、あなたは揺らがない。
D-7040: なんだか、彫像みてぇだな。まあ、とにかく。これで、俺は。いや、私は、満足だ。
«記録終了»
後記: 実験終了後の検査により、D-7040の生物学的性別が女性へと変化していたことが確認されている。
実験-2794-JP-13にて確認されたD-7040による声帯及び声質の改変は、これまでの実験では確認されていない事象でした。発生原因はD-7040によって実験映像内で言及された声に対するコンプレックスであると推定されていますが、明確な要因は特定されていません。そのため、詳細かつ正確な原因究明を目的として、D-7040に対してインタビューが行われました。
インタビュー記録-2794-JP-13
対象: D-7040
担当: 雨築研究員
<記録開始>
雨築研究員: では、インタビューを開始します。D-7040、今の気分はどうですか?
D-7040: 悪くない、いや、むしろ良い。最高だ。
雨築研究員: 体の方は、どうでしょうか?
D-7040: 全部、これが理想で、最高だ。誰に見せても恥ずかしくないし、自分でも誇れる。
雨築研究員: そうですか、声の調子も良さそうですね。違和感などは?
D-7040: 違和感なんてないさ。喉も軽い。まるで機械みたいに整った声だろ?
雨築研究員: 言われてみれば、そのようにも聴こえますね。
D-7040: まあ、いいんだ。他人にどう聴こえようと。私の声は、望んだ通りになったんだ。
雨築研究員: 望んでた通り、というのは?
D-7040: あの彫像の声みたいな。何でかは上手く言えないが、あれが理想だと思った。
雨築研究員: その声で話す自分を、本当の自分だと感じますか?
D-7040: ああ、感じるさ。でも、これが理想のはずなのに、少し違う気もするんだ。声が、あまりにも無機質で、人間味が無い。彫像みたいに。
雨築研究員: あなた自身は、それを理想として望んでいたのでは?
D-7040: ああ。雑音みたいな声が嫌で、笑われるのも嫌で。だから、綺麗な声が欲しかった。けれど、この声はまるで、死んでるみたいだ。
[沈黙。]
雨築研究員: あなたは、理想を叶えた今に満足していますか?
D-7040: もちろん、するべきだ。
[6秒間の沈黙。呼吸音のみが記録される。]
[D-7040が両手で顔を覆う。]
[D-7040が喉に手を当てる。]
D-7040: やっぱり。
[ため息。]
D-7040: あの声のほうが、ずっと私っぽかった。そんな気がする。
[D-7040が何か言いかけて口を閉じる。]
[11秒間の沈黙。]
D-7040: この声が、私の理想だったはずなのに。理想なんて、変わらないで欲しいのに。気が付けば、満足できなくなっていた。
[8秒間の沈黙。]
D-7040: 理想が、私を置いてけぼりにしてどこかへ行ってしまった。
D-7040: でも、私は理想を完成させたい。
<記録終了>
補遺B: 実験-2794-JP-13の終了から2日後、D-7040は頸部の刺創を原因とする失血によって死亡しました。監視カメラの映像から、死亡する直前のD-7040はフォークで頸部を突き刺しながら、「俺の声を取り戻すんだ」「それでやっと完成だ」などと繰り返し発言していたことが判明しています。
D-7040が死亡した直後、死体が変容し、アセンブリング的な彫刻に類似した外観の構造物が出現しました。これは死亡直前のD-7040の身体輪郭を概ね保持していました。また、この変容と同時刻に、実験-2794-JP-13においてD-7040が曝露したSCP-2794-JP個体から以下の発言が観測されました。
ああ、なんて美しい。理想は、声なき骸となり、今ここで真に完成したのです。
またこの実験の終了後より、SCP-2794-JP視認時の異常性の発現が途絶しました。これを受け、SCP-2794-JPはNeutralizedクラスに再分類されました。
SCP-2794-JP研究チームはこの一連の現象について、SCP-2794-JPの異常性が"理想像を追及する"ものである事、実験ログ、及び上記のSCP-2794-JPの発言を根拠とし、その完遂をもって異常性が自己終息したとの仮説を提唱しました。本仮説において、SCP-2794-JPの異常性による理想像の追及は、変化を否定し、最終的に変化の終端としての静止へと収束する過程であると考えられています。そのため、SCP-2794-JPが定義する"完成"とは、いかなる変化も許容しない完全性の達成であり、それは実質的に死と同義の停止状態を指すものと推測されます。



