SCP-2806
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D-133113に接続されたSCP-2806-5。この実体は、回収時に他の実体には存在していたアラミド繊維に覆われていないことが特徴である。

アイテム番号: SCP-2806

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 個々のSCP-2806実体は、サイト-64保管棟の高セキュリティ電子機器保管コンテナに保管されます。SCP-2806に関わる全ての実験はサイト司令部の事前承認が必要です。さらに、SCP-2806-6を用いた実験はサイト倫理委員会による追加承認が必要です。実験の後、SCP-2806実体はホストの残存物を清掃し、除菌して損傷を検査した後に保管庫に戻してください。

稼働中のSCP-2806実体を保有する個人が発見された場合はスカイウォーカー・プロトコルに従って拘束し、実体を外科的に除去し非異常性の代替物で置換した後に記憶処理を施して解放してください。

説明: SCP-2806は7本の義手、6個の義眼、3本の義足、4個の義耳の集合に対して与えられた指定です。全ての実体はアルミニウム、アクリル樹脂、ポリカーボネート外皮、SCP-1360-1と似た組成を持つ黒いアラミド繊維から構成されています。

全てのSCP-2806実体は、それぞれの実体が適合するように設計された身体部位を喪失した個人(以下、ホストと指定)の側に置かれるまでは不活性状態を維持します。この状態で適切なコマンド語句1を口に出すと、補装具から細いコバルトクロム合金繊維の束が出現し、ホストの失われた身体部位に進入します。これらの繊維は数分をかけてホストの末梢神経系に接続されます。これ以降のSCP-2806実体は完全な稼動状態となり、ホスト本来の身体部位と同様に機能します。SCP-2806実体が全ての身体部位の揃った個人に統合されることはありません。現在、SCP-2806実体がこれを区別している手段に関する研究が進行中です。

SCP-2806の1実体が一旦ホストに統合されるとアラミド繊維はある化学物質を放出し始め、実体の上に真皮層と上皮層の成長を促します23。この成長はホストと実体の統合部から始まり、補装具全体が覆われるまで急速に拡大します。

全てのSCP-2806実体は統合後の稼働中に欠陥を示しています。これらの欠陥はただ不便なものから非常に危険なものにまで渡り、SCP-2806実体を長期使用に不向きなものとしています4。現在、SCP-2806実体をホストから取り外すのに有効な手段は外科手術のみです。このような外科的除去はホストの末梢神経系に頻繁に重度の損傷を与え、複数例において中枢神経系にも大きな損傷を与えています。現在、SCP-2806の完全な機能を持つバージョンが存在するかどうかは不明です。機動部隊ガンマ-13による調査が進行中です。(補遺2806-Cを参照)。

補遺2806-A: SCP-2806実体の一覧
SCP-2806実体 タイプ
2806-1 義手 SCP-2806-1は、保持した物体を常に2000ニュートンの一定の力で握りしめる。
2806-2 義手 指はホストの制御を離れ、常にランダムに動き続ける。
2806-3 義手 手は1キログラムを超える物体を自動的に放す。
2806-4 義手 常に50℃の温度を維持している。
2806-5 義手 加えることを意図した力をおよそ10倍に増幅する。
2806-6 義手 アラミド被覆はホストの皮膚を侵食し始め、その体全体の所々にアラミド繊維を発生させる。
2806-7 義手 指の制御がホストに戻る前に、同じ動作を3から5回繰り返す。
2806-8 義眼 焦点距離が本来の眼の10メートル先に固定される。
2806-9 義眼 全ての映像が100倍に拡大される。
2806-10 義眼 本来の眼の反対方向を向く。
2806-11 義眼 2分毎に脳への信号伝達を一時的に停止する。
2806-12 義眼 眼窩内で動かすことができない。
2806-13 義眼 赤と緑を区別できない不完全な映像を生成する。
2806-14 義足 100ニュートンを超える力を伝達できない。
2806-15 義足 常に4000ニュートンの力を伝達する。
2806-16 義足 全ての動きを本来の足の3倍速で行う。
2806-17 義耳 全ての音が常に115デシベルに増幅される。
2806-18 義耳 全ての音が常に30デシベルに抑制される。
2806-19 義耳 常に50デシベルのホワイトノイズが混じる。
2806-20 義耳 100デシベルを超える全ての音を消去する。

補遺2806-B: 回収

SCP-2806は2015年7月17日、オレゴン州ベンド近郊のGoI-1115 (アンダーソン・ロボティクス) のオフィスに対する機動部隊ガンマ-13 (アシモフ三原則の番人) による手入れの際に回収されました。次に示す映像の転写記録は、全てのSCP-2806実体が回収された作業場内のコンピュータから回収されたものです。

<記録開始>

PoI45543(フィニアス)と特定された個人が部屋中央の作業台でSCP-2806実体を製作しているところが確認できる。数分後、PoI53412(アイザック)と特定された個人が部屋に入る。

アイザック: 進捗は?

フィニアス: 順調だ。

アイザック: 「順調」だと?納期には間に合うんだろうな?

フィニアスは作業の手を止める。

フィニアス: あの馬鹿げた予定表に合わせる気はないといつも言ってるはずだ。ジャーファルコン・シリーズは仕上がる時にしか仕上がらん。

アイザック: お前には9ヶ月も与えたんだ!ペレグリン・シリーズはたった4ヶ月で仕上がったし、お前は総力を挙げて取り組んできた。知ってるだろ?フエンテス女史は、発売を待つ顧客を最低でも4組も抱えてるんだ。納期を守れないってことは、俺達のプロとしての信頼に疑問符が付くってことなんだぞ。

フィニアス: おや、私にプロ意識について講義するのか。我々にとって、 ハウエルの子供に提供したようなカスタム品と、その量産品とは別物だ。つまり、だ。畜生。このプロジェクトがどれほど入り組んでいるか理解しているのか?

アイザック: 大体のところは……

フィニアス: 本当か?本当にそう思っているのか?

アイザック: ああ、分かった。認めるよ。俺には分からない。そのくだらん魔法はお前の領分だ。だから、頼む。なぜ納期までに仕上がらないのか教えてくれ。

フィニアス: 喜んで。この補装具を動かすのは、ペレグリン・シリーズやアムールを動かすのとはわけが違う。少なくとも、あれらはゼロから作り始めるものだった。だが、この補装具は数十億年の試行錯誤を経た自然のシステムを乗っ取らなければならない。統合プロセスでは、文字通り百万箇所で誤りが発生する可能性がある。長期運用においても言うまでもない。予期せぬバグを含んだままこの製品を発売したとしたら、幾人かの裕福な嗣女はその手で娘の頭を握り潰してしまうだろう。そうなったら我々は製品の一つを失うだけでなく、マーシャルとその友人達も怒らせてしまう。あの連中と関わり合うことさえも嫌だったのに、絶対に仲間になったりなぞ……

アイザック: フィニアス。おい!親方!また取り留めのない話か?つまりどういうことなんだ?

フィニアス: 若造よ。要点はな、エジソンは電球を一千回も試作したが、彼は己の権限で使える研究室を丸ごと1つ保有していた、ということなのだ。私が保有しているのは、私自身、ジェイソン、メデア、そして電球よりも遥かに難解なプロジェクトだ。私は、9ヶ月を超える開発期間というのは長すぎるものではないと考えている。我々が動作する製品を提供したら、どれだけの金が入ってくるか想像してみてくれ。

アイザック: じゃあ、もう5ヶ月あったとして、それでも完成しなかったらどうするんだ?契約をいつまでも引き延ばすつもりはない。この人々が求めるものを提供できる企業は他にもあるんだ。現時点で俺達が主張している優位は、それを最低価格で提供できるという点だけだ。もう一度聞くが、もう5ヶ月経っても完成しなかったらどうするんだ?俺に同じ熱弁を振るうのか?

フィニアス: 全く以てそのつもりだ。我々は完全に準備が整うまでこの製品を表には出さないし、納得できないならアンダーソンに直談判してもらっても構わない。ヴィンセントは私と同じことを言うだろう。

アイザック: 自分がかけがえのない人物であることに相当の自信があるようだな。

フィニアス: 私は自分がどう見られているか分かっている。ヴィンセントは体のいい会計係ならばいくらでも見つけられるが、彼にとって私は一人だけだ。

アイザックは頭を振り、踵を返す。

アイザック: では、5ヶ月後にまた会おう。

アイザックは去る。しばらくするとフィニアスはコンピュータに近づき、カメラに直接話し始める。

フィニアス: 見ただろう、ヴィンス。君が悪魔と取引した時に受け入れたのは、こういう類のことなのだ。

フィニアスは記録を停止する。

<記録終了>

さらに、同じコンピュータから次のメールが回収されました。

From: Phineas@AndersonRobotics

To: VincentA@AndersonRobotics

件名: プロメテウスは縛られたままに

ヴィンスへ

君は多分驚かないだろうが、私はフエンテス女史のプロジェクトを降りることにした。このプロジェクトが完了したなら、私が関わりたくない巨大な問題の蓋が開くことになるだろう。人々が手足を取り戻すことを助けるというアイデアは好きだ。素晴らしいアイデアだ。支持できるものだ。

しかし、一旦ジャーファルコン・シリーズが発売されたならば、我々の新しい顧客基盤は我々が正確には何を提供しているのかに気付き、我々にそれ以上のことを要求するだろう。手足に超人的な力を。壁を見通せる眼を。1マイル先の音を聴き取れる耳を。ウサギの穴に底はない。

更に悪いことだが、裕福で、狂った、クソ野郎共が、我々の製品で息子をスポーツ選手とするためにその手足を切断し、自身のボディガードを生ける兵器に作り変えるまでにどれくらいかかると思う?君も私も、このような技術の悪用がいかに容易か直接的に経験している。一旦アップグレードが始まったら、もう終わることはない。ロボットならば、少なくとも遠隔操作でシャットダウンすることができる。だがこの補装具はホストの生命力で駆動されるから、我々はそのような贅沢は望めない。この怪物が世界に持ち込まれたら、我々にそれを制御する手段はない。

ジェイソンとメデアは全ての記録、回路図、呪文にアクセスできる。君がまだプロジェクトを進めたいなら、私がいなくとも彼らが簡単に終わらせてくれるだろう。私個人としては中止をお願いしたい。だが、最終的な決定権は君の手にある。

君の最も古くからの友人、フィニアスより

From: VincentA@AndersonRobotics

To: Phineas@AndersonRobotics

件名: RE: プロメテウスは縛られたままに

フィニアスへ

自身を根本的にT-800に改造した男が補装具ラインでの仕事を鈍化させる必要があると説く、という皮肉を称賛するのに時間を割くというのは失礼にあたるだろうか。

フエンテス女史が我々に提供する市場は広大で、その美的価値だけでなく、我々のモデルが電源を必要としないという事実のために我々の製品は容易に優れたものと見なされるだろう。私の目には、この機会は人々に危害を加えるよりも癒やす方により大きな可能性を秘めていると映っているのだが、このような絶好の機会を逃すのは我が社に対する酷い仕打ちであるように思う。顧客が我々を使って自身を通常の人間を超えた高みに引き上げたいと望むなら、その是非を判断するのは我々ではない。殺人ロボットと自動砲台を売り出した時に、我々は高いモラルの基準を捨てたんだ。

君の懸念は分かるし、なぜプロジェクトから抜けようとするのかも分かる。君の意志に反して引き止めるつもりはない。君は自分の原則に従って生きる男だ。だが、我々に理想を現実に優先させる余裕はない。ジェイソンとメデアは予定通りにジャーファルコン・シリーズを完成させるだろう。その間、君と私はタイタ・シリーズに取り組むことにしよう。

アンダーソンより

補遺2806-C: 2016年3月31日更新

次の文書は、機動部隊カッパ-10 (スカイネット) 工作員による偵察任務中にMC&D社のイントラネットから取得されたものです。

重要: 捨てないでください
リッチモンド様

ジャーファルコン™・シリーズ補装具をお買い上げいただきありがとうございます。他社製品の中に、あなたの身体を100%に戻し、それ以上の機能を付加できるほど高品質の製品は存在しません。補装具を取り付け位置に置き、ご指定いただいたコマンド語句を口に出すだけで統合プロセスは自動的に進行します。あっという間にあなたは五体満足に戻るでしょう。

ジャーファルコン™・シリーズ補装具はあなたの身体の自然な延長部分だとお感じいただけるのみならず、3日間の統合の後には外見も本物と遜色ないものとなります。私共の技術は、あなたの身体と区別のつかない外見をオーダーメイドで作り出すことが可能となっております。新品同様だとお感じいただけることを完全に保証いたします。

ご要望に応じて、お客様の補装具には次の機能も追加されております。

  • HERCULEANパッケージ (オプション3)
  • I SPYパッケージ (オプション1)

今後ともよろしくお願いいたします。

アンダーソン

その後、カッパ-10はMC&Dの顧客データベースから合計で247部の類似した文書を回収しました。カッパ-10と連携したガンマ-13によってこれらの顧客を特定する試みが進行中であり、2016年5月15日までに合計で50名の顧客が特定されています。彼らの拘束時に取得された全てのSCP-2806実体は完全に動作するもので、複数の実体には常人の身体以上の性能が備わっていました。

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