アイテム番号: SCP-2811-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-2811-JPは専用ユニットにおいてナンバリングごとに保管されます。低ナンバリングのSCP-2811-JP使用許可については現在協議が続けられており、持ち出しには担当研究員2名以上の承認が必要です。
説明: SCP-2811-JPはCDなど複数の種類からなる音楽メディアの総称です。SCP-2811-JPは現在まで138種類が発見されており、いずれも既成品であることが確認されています。
SCP-2811-JPには手書きで数字が書き込まれており、後述の結果からナンバリング、もしくはロット番号としての用途を持っていると推測されます。現在までに確認されている最大の数字は7811です。
SCP-2811-JPには各個別ごとに楽曲が録音、収録されています。楽曲は御詠歌等の宗教歌謡からJ-POP等複数の種類が確認されています。これらの楽曲を何らかの方法で視聴した人物(以下、対象)の脳内においてβ-エンドルフィンが異常分泌され、強い多幸感と痛覚の鈍化を引き起こします。また、対象において複数の異常性災害に対する耐性を獲得する、という証言も存在しています。この証言に関しては有意な差が確認されていないため、上記の異常分泌によるプラセボ効果であるとの指摘もあり、研究が進められています。これらの楽曲を他の媒体に録音、ダビングした場合上記の異常性は発生しません。
上記の異常性はSCP-2811-JPに書き込まれた数字が若いほど顕著であり、2桁台のSCP-2811-JPにおいては非常に強い精神的、身体的な依存性があり、視聴は推奨されていません。
SCP-2811-JPは東京都を中心とした南関東一円において2017/12/17に発生した東京現実崩壊性広域災害(通称、東京事変)に付随して2031/01/31に発生した東京現実崩壊性広域災害における避難民の抗争(通称、第一次駅間戦争)への潜入調査の際、東京地下鉄駅内に存在する避難民のコミュニティ内で流通していることが確認されました。当初、発生経緯は不明でしたが財団と同様に東京地下部に侵入していた世界オカルト連合との情報交換により、SCP-2811-JPを頒布している存在が確認され、追跡が行われました。
2033/09/22に発生した異常性保持列車の偶発的同時爆発事件(通称、青心臓事象)の際、東京メトロ上野駅において負傷者に対しSCP-2811-JP及び再生機器を頒布している対象(以下、SCP-2811-JP-A)が発見され、確保作戦が行われましたが、同時に出現した4体の超常的知性存在による静止及び交渉を受け、後日、"新宿の目"前において事実確認が行われることに決定しました。
SCP-2811-JP-AはTシャツとジーンズを着用した男性であり、頭部が片牙の折れたアジアゾウに置換されています。SCP-2811-JP-Aは自身をインド神話におけるガネーシャ神であると自称しています。また、同時に出現した超常的知性存在は自身をトリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション社(以下、Ttt社)の一員として名乗り、SCP-2811-JP-Aを自社の顧客であると証言しています。
以下は後日行われた事実確認の音声記録です。
音声記録2811-JP-01 - 日付 20██/██/██
担当者
- 北条研究員
対象
- SCP-2811-JP-A
- SCP-1988-JP-A-2(Ttt社の副社長であり、古代エジプト神話におけるトートを自称している)
«再生開始»
(事実確認の為省略)
北条研究員: これまで様々な説明を受けさせていただきましたが、……とどのつまり、あなた方はあの地下で何を行っていたのですか?
SCP-1988-JP-A-2: ご説明した通りビジネスです。1998年から始まった世界規模の異常事案を受け、我々の業務も比較的それまでより迅速に、より大胆に行うことが可能となったのはそちらもご存じのことと思います。今回は我々はサラスヴァティ神より依頼を受け、この地下においてそれらの小売業務を担当しておりまして
北条研究員: サラスヴァティ、なるほど、芸術の神ですね。では何故、その、そちらのガネーシャ神が?
SCP-2811-JP-A: ああ、僕がいる理由ね、色々あるけどどこから話す? 理由の部分? 結果の部分? それとも過程の部分?
北条研究員: 全てをお願いします
SCP-2811-JP-A: 随分贅沢なお願いだこと。まあいいけど、僕は与える側の神だしね、じゃあとりあえず理由から、サラスヴァティが音楽の神であるように、あ、ホントは敬称をつけなくちゃいけないんだけど、身内だからお許しください、ビジネスマナーなのです。で、話を戻すと、サラスヴァティが音楽の神であるように、僕が何の神かってのは知ってる?
北条研究員: 私の記憶する限りでは富貴、仕事、あとは障害の神
SCP-2811-JP-A: [北条研究員の発話を遮るように]それが理由だ。僕は全ての障害を祓い富を与える神であり、全ての障害を司る神だ。だからここに来たのさ。神は死んだって横顔の哲学者が宣言して以来初めて君たちが経験するであろう、人の手の及ばない惨禍に。いわばアレだよね、チャリティー巡業みたいなもの。別に供物とかいらないから安心して? あ、でも信仰心はあるといいかな、そういうもんらしいし。父上にも了承を得て、この人類の障害の前に神の威光を示さんや、ってな感じで来たのさ。表向きはサラスヴァティのミュージックを販売して、その販売実績を調査するために出向した、とかそんな感じでね
SCP-1988-JP-A-2: 当社は関知していませんが
SCP-2811-JP-A: 言ってないからね。ほら、神様って傲慢なもんじゃないか、というよりトートもヘルメスもなんでそんなに人間の規範に従ってるのか、こっち来る前はよく分かってなかったんだよね。ああ、ごめんごめん、これは身内の話。続けて?
北条研究員: それが理由だとして、結果はどういったものなのでしょう
SCP-2811-JP-A: 見ての通りだ。僕は障害をそんなに祓わず、適当にサラスヴァティのミュージックにちょっと細工をして配り回ってる。ああ、サラスヴァティからも許可は得てるから安心だね。こっちの人はちょっと短慮なとこがあるからさ、僕の首刎ねた父上も見つからないからって象の首くっつける? と、話が逸れた。ごめんね、どうにも人に親しいってことで話し続けなくちゃならないような感じみたいでさ。で、何の話だっけ?
北条研究員: 理由、結果は分かりました。過程の部分を聞けていないかと
SCP-2811-JP-A: それは一番簡単だよね。人間が思ったより強かったからだ
北条研究員: 詳しく説明していただいても?
SCP-2811-JP-A: 説明といわれるとね。とりあえず、理由としては言ってしまえば人間を甘やかすために僕は来たわけ。だからサラスヴァティのミュージックをさらに官能的にして、人間の脳味噌を蕩かしてたんだよね。蕩けた頭なら障害のことなんて考えなくっていいでしょ? でも、それやってるうちに色んな人間とか君たちの活動視てるとね、思ったんだね、人間は思ったよりも強いし、まだ僕たちが出張る場面でもないかな、ってさ。もちろんダメな人間や僕にすがるしかない人間の方が多いよ? ただ、それでも生きていこうとするのは偉いよね。あ、傲慢に聞こえちゃったらゴメンね、こういうのってナチュラルに出ちゃうからさ。まあ、そんなわけで今は上手く調整して、全ての障害を撥ね退ける元気が出るくらいにしてんの
北条研究員: あなたは我々を認めたという解釈でいいのでしょうか?
SCP-2811-JP-A: その言い方は良くないね。僕は神様だけど、それにすがりつかないから良しとしたんだよ。認めるとか認めないとかそういう話じゃない。僕らだって人間の一部だし、人間は僕らの一部だ。究極的に言えばそれは宇宙の一部でもある、だが、水に溶けた塩のありかが分からないように、そんなことは探る必要のないことだ。だからそっちも、僕がこうしてることを良しとすればいい、それだけのことじゃないかなと思うのさ。神がいようがいまいが人間が考えるのは当たり前だ
北条研究員: 少々具体的な話に欠けますね
SCP-2811-JP-A: まあね、実は端から煙に巻こうとしてるし。このチャリティーもそろそろ潮時かなって感じだし。やっぱりミュージックはいいね、実は途中から僕が選曲してたんだよ、イワシが土から生えるってなんだろうね? アイデアがぶっ飛んでるよ。ただ、サラスヴァティはあんまりいい顔しなかったけど。というか隣にいるブラフマーがめっちゃ怖い顔するのね、まあ、うちの父が首切り落としちゃったし仕方ないんだけど。あ、また話が逸れたね。じゃあ、とりあえずトート、これで契約終了ってことで
SCP-1988-JP-A-2: ? は? ですが、まだ契約の期間が
SCP-2811-JP-A: 大丈夫大丈夫、そこらへんの違約金とかは僕がポケットマネーで払うから安心してよ。なんたって僕は富の神だし、ついでに障害の神だ。祈ってくれたまえ
«再生停止»
このインタビュー直後、SCP-2811-JP-Aは消失し、SCP-1988-JP-A-2を始めとするTtt社の招集にも反応はありません。また、同様に販売及び在庫のデータなどが消失しており、SCP-2811-JPの総数及び保持者の総数等詳細な情報は不明です。
現在、Ttt社との協定により回収したSCP-2811-JP及び、在庫として保有されていたSCP-2811-JPの所有権は一定の金額交渉の上財団に移譲され、管理されることが決定しました。これらSCP-2811-JPを官民含む対異常組織に頒布する提案が行われていますが、現在結論は出ていません。
補遺: 2037/08/19、長野県警察本部の壁面に全長約3mのスプレーアートが描き込まれました。このスプレーアートには、視認した人物の共感性を僅かに高める効果が確認されています。スプレーアートの題材は非異常形質の人物と動物特徴保持者の人物が互いに銃口を突きつけながらも握手をする、といったものであり、先述の異常性も踏まえて先月に発生した長野市AFC殺傷事件に対する風刺であると認識されています。
このスプレーアートは要注意団体である異常芸術集団"Are We Cool Yet?"の関与が推測され、財団による調査が行われました。その過程でTtt社からの指摘によりスプレーアートに"7822"のナンバリングが確認され、同様にスプレーアート内に発見された書き込みの筆跡がSCP-2811-JP-Aと一致することが確認されました。以下はその書き込みの書き起こしです。
ミュージックもいいけどグラフィックもいいねえ
スプレーって煙みたいだし?
さあ、人間の可能性を嗤っていこう
この事案以降、"Are We Cool Yet?"を始めとした複数の異常芸術団体に対して、Ttt社と協力する形でSCP-2811-JP-Aに対する調査が進められています。