認証が完了しました、O5-7
アイテム番号: SCP-2831-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: 現在SCP-2831-JPは存在しませんが、付随する認識災害は残存しています。関連する情報の重要性から、SCP-2831-JPの存在はセキュリティクリアランス4以下の職員に対し隠匿されます。
説明: SCP-2831-JPは、1956/7/13にサイト-47の空室となっていたオフィスのデスクに着座した状態で出現した、認識災害を有する死体です。SCP-2831-JPは40〜50歳のコーカソイド系男性であり、死因は複数の外傷に伴う出血多量によるものです。
SCP-2831-JPの有する認識災害は、「自身をサイト-47のサイト管理者"カール=ベイル"であると認識させる」ものと、「死亡した状態で出現したという事実を認識不能にする」ものの2種類に分類されます。留意すべき点として、権力と責任の一極集中によるリスクを回避する目的から、当時の財団にサイト管理者及びそれに類似した役職は設置されていませんでしたが、認識災害に曝露した全ての人間はサイト管理者を「サイト内における全ての権利と責任を持つ役職」であると認識していました。
SCP-2831-JPの出現した1956/7/13には、サイト-47において同時多発的な収容違反による大規模インシデント(以下、事案サイト-47と表記)が発生していました。これによりサイト-47は███名の死者・サイトの約8割の破壊など致命的な損害を出しています。SCP-2831-JPの出現したオフィスは破壊の対象外であり、また監視カメラ映像よりSCP-2831-JPの出現は事案サイト-47の沈静化後であった事、出現時点で既に外傷が存在し死亡していた事が確認されています。しかし前述の認識災害により、SCP-2831-JPは当事案の際に死亡したものとみなされていました。SCP-2831-JPはその後、事案サイト-47発生の責任を取り形式上セキュリティクリアランス1に降格された後、一般的な手順に乗っ取って火葬されています。
1966/2/19に他のミーマチックオブジェクトの研究において偶発的に対抗ミームが開発された事により、SCP-2831-JPの異常性は発見されました。以下は、事案サイト-47発生当時サイト-47に勤務していたレジナルド=ポーター博士に対し、SCP-2831-JP対抗ミーム摂取の後実施したインタビューの記録です。
インタビュー記録SCP-2831-JP
対象: レジナルド=ポーター博士
インタビュアー: サム=カスケン博士
<記録開始>
カスケン博士: それではまず、当時も話された事かとは思いますが、収容違反発生時のサイト-47の状況について今一度教えて下さい。
ポーター博士: あの時はサイトの各所で、様々な問題が同時に発生しました。オブジェクトの活性化、情報の誤伝達、実験における事故、どれも単体では大した事のないものでしたが、それらが重なり合った結果極めて重大で、悲惨な事態を生み出す事になりました。ほとんどの者は死に、生き残った我々も絶望していました。今でも夢に見るほどです。
カスケン博士: 分かりました。では次に、SCP-2831-JPの出現した原因について、何か心当たりはあるでしょうか。
ポーター博士: 心当たりといっていいのかは分からないですが、SCP-2831-JPの出現は当時の私にとって、救いになっていたと思います。
カスケン博士: 救い、ですか。
ポーター博士: 恐らく私に限った事じゃない、インシデントの後生き残った皆にとって、SCP-2831-JPは救いだったでしょう。対抗ミームを摂取した今なら思い出せます。誰のせいとも言えない、小さな失敗の積み重ねで起きた事案だったからあの時は誰もが責任と罪悪感を感じていたし、そのせいで今後受ける処分を恐れていました。私達にはそれらを委ねられる、大きな何かが必要でした。
カスケン博士: では、SCP-2831-JPがその役割を果たしたという事でしょうか。
ポーター博士: そうです。思うに彼は、私達の願いの集合体なのです。あの場にいた全員が彼を願った、自分達の責任と業を押し付けられる死体を。言い換えればあれは、責任を受け止めきれなかった私達の弱さなのでしょう。
<記録終了>
事案サイト-47発生当時のサイト-47職員の内、ポーター博士を含む生存者43名全員に対して、SCP-2831-JP対抗ミーム摂取の後インタビューは実施されました。その結果、SCP-2831-JPの出現に対し90%以上の人物がポーター博士の供述した様な「責任を転嫁出来る安心」を感じた事、またSCP-2831-JP出現前にそれに類する願望を抱いていた事を述べました。SCP-2831-JPの出現した正確な原因は不明ですが、事案サイト-47発生後の調査により確認された、収容違反した複数のオブジェクトの影響によるサイト-47のHm値の減少とこれらのインタビューの結果から、集団による現実改変が仮説として提唱されています。
補遺: サイト管理者の設置
上述された一連のインタビューの結果を受けて、サイト管理者という役職が規模に関わらず、失敗を犯した職員の精神状況に対して有用な働きを持つのではないかとの提言がなされました。複数の小規模サイトにおいてサイト管理者を設置しての観察を行った結果、いずれのサイトにおいても職員の精神疾患発生数が大幅に減少した事が確認されました。
これを受けて当時のO5評議会により、サイト管理者の役職を各サイトに設置する事が決定されました。権力と責任の一極集中によるリスクを回避するため、サイト管理者に与えられる業務は各種提案の最終的な許可のみとし、これはプログラムにより全て自動承認されます。このため、サイト管理者は実際には財団のシステムにおいていかなる権力・責任をも持つ事はありません。この事実はセキュリティクリアランス4以下の職員に対しては隠匿され、内部保安部門によりサイト管理者を演じる人材が派遣される他、定期的にダミーの申請が作成され却下されます。サイト内で問題が発生した場合の処分については、形式上その大部分をサイト管理者が受け、実際に原因となった職員への処分はこれと比較し軽微なものとします。このシステムで規律を維持するため、基準となる罰則規定はシステム移行以前に比べ厳格に設定されます。そのため、実質的な処分内容はシステム施行以前とほぼ同様のものに維持されます。システム上サイト管理者の判断がなくとも提案認可の安全性は保たれており、当システム移行後に収容違反件数の増大などは発生していません。当システムは現在まで、職員の精神疾患発症割合を施行以前の約40%程に抑える事に成功しています。