
SCP-2893-JPにより発生した停電時の画像(明度の調整および彩色済み)
アイテム番号: SCP-2893-JP
オブジェクトクラス: Keter Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2893-JPは完全に絶縁された5m×5m×3mの直方体状の容器に収容されます。収納容器は電波遮断素材で覆われ、外部の壁面には物理センサを用いた振動計測装置を設置、内部に異常がないか常時監視を行ってください。また収容違反を防ぐために制震ダンパーを用いた対策が取られます。以上の設備について破損が見られないことを確認するために、月に一度点検を行ってください。
SCP-2893-JPが休眠期の間、3か月ごとに食料となる電池の交換が行われます。現在休眠期においても活動が確認されており、収容違反を防ぐため食料の供給以外の室内への干渉は最小限に留めてください。
不可視、絶縁体以外は全て透過する特性から、SCP-2893-JPを用いた実験は致命的な収容違反の原因となります。そのため、SCP-2893-JPを用いた新規の実験は無期限に凍結されています。
(追記)タケミカヅチを祀る祭壇が建立されました。サイト職員は月に一度清掃を行ってください。
説明: SCP-2893-JPは電気を捕食する能力を有した霊的存在です。顕現時「大量の光る蝉の群体」として視認されます。SCP-2893-JPは19██年、島根県で相次いで発生した「異常性を伴う停電」に関する財団の調査の過程でその存在が確認されました。
収容後に行われた伝承学に基づく追跡調査から、SCP-2893-JPは古来より日本に生息していたことが判明しました。その不可視・透過的性質から財団も20世紀に至るまで捕捉することはできませんでしたが、人類の生活環境の変化等の要因によって、その存在は財団に露見することになりました。
以下、その性質を列挙します。
1.物質的特性
- 物理的実体を持たず物質を透過するが、唯一絶縁体にのみ遮断される
- 後述する捕食能力により観測器具全般を無力化するため、観測は肉眼でのみ可能である
- 光を透過するため基本的に不可視であるが、例外的に特定の捕食シーンにのみ実体を生成し肉眼でも視認可能となる
2.生命サイクル
- 一部の生命体と同様に、活動期と活動を停止する休眠期のサイクルが存在する
- 休眠期には地面を透過し、適度に水分を含んだ土壌の地中で殆どの活動を停止していると推定される
- 休眠期は平均して7年程度続き、体内の電気を完全に消費すると活動期に入り、地上に出て捕食活動を行う
3.捕食活動
- 物体から電気を捕食する能力を有し、捕食された物体は内部から全ての電荷が消失する
- 光を嫌う習性を有し、日没後に雲がある場所を好んで捕食活動を行う
- 生存に充分な電力(最小で凡そ1000kw、最大で[データ削除済]を超えるケースも確認)を捕食し終えると再び地中に戻り、休眠期へ入る
これらの性質から、SCP-2893-JPはこれまで███回に渡り、島根県内で中規模な停電を引き起こしてきました。
補遺: 以下のファイルは19██年に行われたSCP-2893-JPの収容に至るまでの経緯の記録です。
調査ログ2893-1
日付: 19██/04/13
場所: 島根県███市██町
注記: 本ログは財団において初めてSCP-2893-JPが観測された記録です。
<記録開始>
19██/04/13 20:31
島根県███市██町にて異常な停電が発生。付近の████警察署に潜入していたエージェント・山咲が財団からの指示を受け現地へ向かうが、到着後消息を絶つ。
19██/04/13 21:54
島根県███市██町の境界線付近に財団の調査隊が到着する。調査隊は██町が異常空間と化していると判断、Dクラス職員を用いた実験を開始する。
19██/04/13 22:11
D-34124(懐中電灯1個を支給)が██町へ突入。約100m進んだところでD-34124は意識を失い地面に倒れたことが確認される。それと同時に所持していた懐中電灯の電気が消える。
19██/04/13 22:32
D-36495(支給品なし)が██町へ突入。視野を確保するため、影響範囲外からライトを照射した。Dクラス職員は倒れたD-34124の前まで進んだが体調に変化なし。そのままD-34124の身体を確保し帰還させる。
19██/04/13 22:43
現地にてD-34124の検分が行われる。D-34124に目立った外傷はなし。意識は無く、脈拍が完全に停止していた。心停止による死亡と判断され、D-34124は検体として詳しい解剖の為財団施設へ輸送された。
19██/04/13 23:20
D-36495(トランシーバー1個を支給)が██町へ突入。前回同様にライトを照射。約100m進んだところでD-36495は意識を失い地面に倒れたことが確認される。支給されたトランシーバーに対し通信を行ったところ、繋がらなかった。
19██/04/13 23:41
D-35833(松明1本を支給)が██町に突入。100m進んだが体調に変化なし。その後500m進んだ後帰還する。
19██/04/13 24:00
調査隊が██町へ突入、調査が行われる。境界線付近の探索でエージェント・山咲の死体が発見された。死体の兆候はD-34124およびD-36495と完全に一致していた。
<記録終了>
終了報告書: どうやら影響下にある空間に一定以上の電力を持ち込んだ場合、持ち込んだ人間は心停止させられるようです。今後の調査では隊員はあらゆる電子機器を取り外した後、電気を用いない灯りのみを使用して探索を行うこととします。 ──羽々桐研究員
その後も調査隊による調査が続けられましたが、主な光源である松明の取り回しの困難さ、通信機器の不通による情報伝達の不備などにより調査は難航しました。その後██町は翌朝の明け方4:51まで停電が続いたのち、その異常性を失いました。調査隊による調査の成果は以下の通りです。
1.物的被害
- 範囲内に複数の電線の破断を確認
- 範囲内の全バッテリーから電気が消失
- 影響範囲内には損傷した車両が27台確認
- このことから影響範囲内で発電を行った場合でも同様の現象が発生すると推察される
- 事象の事後に持ち込まれた場合も同様で、その際は電荷の急激な移動によって、持ち込んだ電気の量に比例した破壊的な影響が伴われる
2.人的被害
- この事象に関連する死者36名
- 全ての遺体に目立った外傷はなく、財団による解剖の結果、死因は体内の電荷を全て喪失したことによる神経および筋肉の機能不全が原因の心停止によるものだと判明した
3.異常存在の観測
- いずれの事象に関しても原因となる実体は観測されなかった
科学者として手も足も出ないとはこのことです。なにせ事象の最中はあらゆる通信機器や電子機器が使用できないのですから。事後に残された事実は、その場所からあらゆる電気が喪われてしまったこと、そしてその過程で生じた物質的被害の傷跡だけです。
ですが忘れてはなりません。たとえ暗中模索の道程でも、異常は早急に収容されねばなりません。我々の装備が近代以前へと引き戻されたからといって、降伏する理由にはならないのです。我々が財団である限りは。 ──羽々桐研究員
19██/04/13以降も、SCP-2893-JPが原因と推定される停電は地域を変えて複数回に渡って繰り返し発生しました。その詳細は以下の通りです。
調査ログ2893-2
日付: 19██/04/17
場所: 島根県███郡██町
調査内容: 事象領域内へあらゆる手段で電子機器の持ち込みの試みが行われましたが、全てが失敗に終わりました。財団が所有する最小のバッテリー[データ削除済]に対しても同様でした。その一方で、電気を伴わない計器類は影響を受けないことが確証されました。それには磁石等も含まれます。
光源としての燃焼による発光は、木材の他に金属であっても有効であることが判明しました。そのため記録媒体として最初期のフィルムカメラを用いる提案が検証後、承認されました。
成果: 一切の異常存在は観測されませんでした。
調査ログ2893-3
日付: 19██/04/19
場所: 島根県███郡██村
調査内容:事象の発生に備え、島根県各所に調査のための人員の配備が行われました。19██/04/19 20:26に事象が発生後、███名のDクラス職員を用いた人海戦術が実施されました。各職員はあらゆる電子機器が取り外された後、ガスランプ、方位磁石、フィルムカメラ一式が支給され、調査隊の指示の下、██村を横断しました。
成果: 一切の異常存在は観測されませんでした。
調査ログ2893-4
日付: 19██/05/01
場所: 島根県███郡██村
調査内容:[前回と同様のため省略]
成果: 一切の異常存在は観測されませんでした。
以上の経緯を踏まえ、財団はSCP-2893-JPをオブジェクトクラスKeterに分類しました。事象発生後、機動部隊を派遣し速やかに影響域内の住民に避難勧告を行います。(カバーストーリー「漏電による緊急停電」)
このプロトコルの制定後、SCP-2893-JPによる被害は当初の1/20以下に減少しました。しかしながらこの措置は、本来の収容形式から外れた姑息的措置であることに留意する必要があります。引き続きSCP-2893-JPの収容の試みは継続されなけれなりません。
調査ログ2893-4の実験以降、文献調査を主軸としたSCP-2893-JPへのアプローチが羽々桐研究員により提案されました。調査の対象となったのは旧蒐集院所蔵の文献です。財団の所蔵庫には異常の存在が記述された文献が多数蒐集されています。それらの蔵書の内、電気に関連した記述の調査が行われました。その中には以下の文献が含まれています。
- 旧日本政府の[データ削除済]
- 旧日本軍下の研究施設における[データ削除済]
- 異常存在に接触したと思しき個人が残した手記・備忘録
- 古代・中世・近代の歴史的資料のうち現実改変を含む事象が記述され公開に相応しくないと判断されたもの
この作業には、財団所属の歴史的仮名遣いに精通した速読技術者32名が███時間を費やしました。結果、電気に関する異常現象の記述が███件発見され、そのうちの7件において記述内に複数の共通点が見られることが判明しました。
- 記述は主に出雲国、もしくは雲州と呼ばれた地域に集中している(7件中6件が当該地域に関する記述)
- 記述の筆者は落雷に5m以内の距離で立ち会っており、共通して落雷地点に「光る蝉を目撃した」と記述している
- 間近で落雷に遭遇しながらも全員が共通して落雷の被害を受けておらず、中には「光る蝉が雷を喰った」という記述も存在した
現在財団において以上のような性質を持つオブジェクトは収容されていないことが確認されており、また一連の「雷を捕食する」という性質がSCP-2893-JPによる被害と概ね一致していたため、これらの記述が過去に観測されたSCP-2893-JPのものであると推定されました。
以上の記述を下敷きとして、SCP-2893-JPの発見からおよそ2か月が経過した19██/06/09に、収容計画「プロジェクト・プロメテウス」が制定されました。計画の概要は以下の通りです。
SCP-2893-JP収容計画書-1
プロジェクト・プロメテウス
概要: その特性から回収が困難とされるSCP-2893-JPのために制定された特別な収容計画です。その計画の性質から、財団が所有する先進的な科学技術の使用と大規模な記憶処理、情報隠蔽が要求されます。
実行手順:
1.財団が所有する[データ削除済み]を用いて事象領域の上空に積乱雲を生成する
2.生成した積乱雲に向けて事象領域外から金属線を曳行させた小型ロケットを発射し、事象領域内に設置した収容容器へ向けて雷を誘導する
3.収容容器内に「光る蝉」が確認された後、容器を完全に閉鎖する。尚収容容器は製造過程で完全に絶縁されているが、万全を期すために周囲を電波遮断素材で覆う
4.上記ロケットの航行領域内において大規模な記憶処理を行い、ロケット発射の事実を隠蔽する
以下は19██/06/16に実行された「プロジェクト・プロメテウス」の記録です。
実行ログ:プロジェクト・プロメテウス
日付: 19██/06/16
場所: 島根県███市██町
備考: 本記録は計画に参加した羽々桐研究員の筆記ログを元に作成されました
<記録開始>
19██/06/16 21:13
羽々桐研究員は██町内の退避済みの一般家屋のベランダに待機している。前方に収容容器が設置されており、しきりに容器内部を確認している。羽々桐研究員: [携行していたガスランプを右手で掲げる]上空に発達した積乱雲を確認。流石に風が強いな。雨も降るかもしれない。屋内で待機して正解だったか。計画通りなら、そろそろロケットが発射されるはずだが。[懐中時計を確認する]
19██/06/16 21:15
東の空に飛翔するロケットが確認される。間もなくロケットは積乱雲に突入し、直後辺りに雷鳴が響く。落雷は金属線に誘導され収容容器の内部に落ちるが、容器には一切の損傷が見られない。次いで容器内部に「発光する蝉の群体」の出現が確認される。
羽々桐研究員: (大声で)確認したconfirmed!確認したconfirmed!確認したconfirmed!光る蝉だ!各員手順通りにオブジェクトを収容せよ![羽々桐研究員の指示に従い、容器の傍らで待機していた職員数名が開口部を閉鎖する]
19██/06/16 21:33
自動運転の財団車両が██町に突入する。車両はSCP-2893-JPの影響を受けることなく収容容器の前までたどり着く。SCP-2893-JPを格納した容器が載積され、収容予定のサイト-81██へ移送される。<記録終了>
サイト-81██への収容後、SCP-2893-JPによる異常停電が確認されなかったため、19██/08/16時点でSCP-2893-JPのオブジェクトクラスはEuclidに再分類されました。
本計画ではSCP-2893-JPを収容容器に格納後、SCP-2893-JPの影響領域内である██町へ財団車両が問題なく往来可能だったことから、SCP-2893-JPが完全に絶縁された収容容器へ格納したことで影響範囲が容器内の空間にまで縮小したと考えられています。
原始の人類は落雷によって発生した炎から光をもたらされました。現代から取り残され暗闇の中を歩いていた我々を照らしたのは、その雷だった、とでも云うべきでしょうか。 ──羽々桐研究員
追加データ: 以下のファイルはSCP-2893-JPの機密保持のためアクセスが制限されます。
警告: 以下、SCP-2893-JPに関する機密情報が記載されています。取得したデータの取り扱いについては機密保持規則-2893-JPを参照してください。
19██/03/18にSCP-2893-JPが収容されていたサイト-81██にて重大な収容違反インシデント(以下インシデント-2893-JP-A)が発生しました。詳細は以下の通りとなります。
インシデント-2893-JP-A
日付: 19██/03/18
場所: サイト-81██
備考: 当時SCP-2893-JPの管理責任者であった██博士は傷病のため休職中であり、副管理担当者の███博士が管理を担当していた。
<記録開始>
19██/03/18 20:11
後の調査でこの時間にSCP-2893-JPの収容容器の底面に亀裂が入っていたことを確認。即座にサイト-81██の全ての電力が喪失する。直ちにSCP-2893-JPの収容違反が宣言された。19██/03/18 20:17
サイト-81██の電力喪失に伴い、同サイトに収容されていたSCP-████-JP、SCP-████-JP、SCP-████-JPの収容違反が発生する。サイト内の電力の復旧のめどが立たない中、全サイト職員が収容違反の対応を行う。19██/03/18 21:23
機動部隊██████がサイト-81██に到着し、[データ削除済]を用いてサイト内を鎮圧する。その後、サイト職員のおよそ80%の死亡が確認された。19██/03/18 22:56
サイト-81██においてプロジェクト・プロメテウスが再度実行されるが、SCP-2893-JPの再収容は失敗に終わる。尚プロジェクトが実行される直前にサイト-81██の停電が回復したことが確認されている。19██/03/18 23:30
SCP-2893-JPのオブジェクトクラスがKeterに再分類される。<記録終了>
付記: 本インシデントにおいて被害が拡大した最大の要因は、SCP-2893-JPの影響によりサイト内の全バッテリーの電力が喪失した結果、収容違反時のマニュアルが事実上実行不可能となったためであると考えられます。
本インシデントによりサイト職員███名が死傷、サイト収容下にあった多数のアノマリーが損壊し、事実上サイト-81██は壊滅しました。被害を逃れた職員およびアノマリーは別サイトへ移送された後、現在SCP-2893-JPの再収容の試みが実施中です。SCP-2893-JPは現在サイト-81██において収容中です。特別収容プロトコルに制震ダンパーによる振動対策を追加し、SCP-2893-JPに関する追加実験が実施されました。
実験ログ2893-1
実験者: 羽々桐研究員
日付: 19██/04/01
仮説: SCP-2893-JPは捕食した電気を消化する際、振動を放出しているのではないか
実施方法: SCP-2893-JPに食料となる電池を与える。その後72時間の間、収容容器の外壁に設置された動計測装置を用いて容器内の振動を計測する。
結果: 微弱な振動が観測された。電池の放電容量に比例してSCP-2893-JPの振動は大きくなった。
上記の結果を受けて再度SCP-2893-JPに関する文献調査が行われました。その結果、以下のような文献が発見されました。
文献名: 大正大震災に於ける流言飛語に注意!
出版年: 1923年
補足: この文献は関東大震災直後に一部朝鮮人コミュニティ内で頒布されたとされる文書です。
[無関係な内容のため省略]
大正大震災に於いて以下のやうな流言飛語あり。同胞諸兄は注意されたし。
- 我等朝鮮人が井戸に毒を撒ひたといふ流言飛語
- 我等朝鮮人が徒黨を組んで暴動を行つたといふ流言飛語
- 我等朝鮮人が帝都全滅を期し蜂起せんといふ流言飛語
また次のやうな噂に惑わされることなきやうに。
- 帝都の東に輝きし蝉あり。これを捕まヘて売れば五拾圓也
[無関係な内容のため省略]
注意: 以下、SCP-2893-JPに関する最重要機密が記載されています。これらの情報はインシデント-2893-JPが発生後、再収容を担当した羽々桐研究員がその過程で記録した情報が主となります。
SCP-2893-JP-2がGH-クラス:"デッドグリーンハウス"シナリオを引き起こす可能性を考慮し、SCP-2893-JPの特別収容プロトコルの改定が実施されました。改定後の内容はクリアランス4以上の担当者のみに公開され、一般職員から秘匿され秘密裏に運用されます。
アイテム番号: SCP-2893-JP
オブジェクトクラス: Keter Euclid Keter Thaumiel
特別収容プロトコル: SCP-2893-JPは普段完全に絶縁された5m×5m×3mの直方体状の容器に収容されます。収納容器は電波遮断素材で覆われ、外部の壁面には物理センサを用いた振動計測装置を設置、内部に異常がないか常時監視を行ってください。また収容違反を防ぐために制震ダンパーを用いた対策が取られます。以上の設備について破損が見られないことを確認するために、月に一度点検を行ってください。後述の理由により収容容器内を真空状態にする措置は不要です。
現在羽々桐研究員によりSCP-2893-JPとの対話の試みが成功しており、SCP-2893-JPは収容に対し概ね協力的な態度を示しています。羽々桐研究員およびロッツ博士により、月に一度SCP-2893-JPのカウンセリングが実施されます。また現在SCP-2893-JPが捕食した電気を蓄電する試みが進められています。職員は3か月ごとに電池に偽装した蓄電用コンデンサを容器に投入してください。
SCP-2893-JP-2: SCP-2893-JPの収容サイトは、SCP-2893-JP-1を取り囲むように建設された財団施設に隣接するように配置されます。SCP-2893-JP-1は機密性を保持した上で24時間監視され、SCP-2893-JP-2の出現の前兆が確認された場合、直ちにSCP-2893-JPをSCP-2893-JP-1まで移送し対抗措置として開放してください。SCP-2893-JP-2が再びSCP-2893-JP-1内部へ回帰したのが確認された後、直ちにSCP-2893-JPは再収容され収容サイトへ移送されます。
説明: SCP-2893-JPは電気を捕食する能力を有した不定形の霊的存在です。これまで観測された中では「大量の光る蝉の群体」および「容姿を認識できない人型実体」として顕現しています。
発見当初はSCP-2893-JPが引き起こす「異常性を伴う停電」が注目されていましたが、インシデント-2893-JP-A発生後、再収容の過程でその性質の全容が明らかになりました。
以下、その性質を列挙します。
Α.敵対的捕食
- SCP-2893-JPにとって捕食行為は生存に必要な機能ではなく、敵対的存在を撃退するための行為である。
- SCP-2893-JPへのカウンセリングによって、SCP-2893-JPは本質的に電気を憎悪しており、捕食行為を行うことなく存在の維持が可能であることが確認された。
Β.電気の変換機能
- SCP-2893-JPは捕食した電気を振動に変換し放出する機能を有する。
- 捕食した電気の量に比例して放出される振動の大きさも増大することが確認されており、複数の実験結果から最大でMw9.0の地震を引き起こす可能性が示唆されている。
これらの性質から、SCP-2893-JPはこれまで███回に渡り、日本全域で大規模な地震を引き起こしてきました。
補遺1: 以下はインシデント-2893-JPが発生後、再収容の際に羽々桐研究員が記録した情報です。
調査ログ:SCP-2893-JP再収容計画
目的: SCP-2893-JPの速やかな再収容、およびSCP-2893-JPによる被害を最小限に抑えること
最高責任者: 伊波博士
備考: 伊波博士は霊的災害の分析・予測分野における第一人者として知られている
<記録開始>
19██/03/18
インシデント-2893-JPが発生。SCP-2893-JPが収容違反となる。即日、再収容特別チームが組織されSCP-2893-JPの追跡が開始される。19██/03/19
20時以降、島根県内の複数の都市で「異常性を伴う停電」が発生する。一日の間でSCP-2893-JPが一箇所にとどまらず移動し続けるのはこれが初めてのケースである。伊波博士の分析の結果、停電地帯は北東に移動していることが判明する。19██/03/22
SCP-2893-JPが北東への移動を止め島根県██市██町を中心とした半径50km内の範囲でアトランダムに出現する。また財団ラボからSCP-2893-JPを収容していた容器の分析結果が到着する。調査の結果、容器底面の亀裂は内部の振動によるものと断定。これが事実なら、我々はSCP-2893-JPに対する認識を改めなければならない。
19██/03/24
昨日もSCP-2893-JPは収容できず。早朝、チーム内で議論が勃発する。主な議題は「SCP-2893-JPに捕食された電気は一体どこへ行くのか」。我々の一致した見解は、「SCP-2893-JPは電気エネルギーを物理的な振動エネルギーに変換する機能を有している」ということだった。しかし問題は、これまでSCP-2893-JPが捕食してきた電気エネルギーの量だ。「エネルギーの変換効率は計算できるか?」「これまで捕食してきた電気量は?」「無駄だ。計算するまでもない」「そもそも我々の収容の試み自体が無意味なんじゃないのか!?」既にチームの士気は低下しつつあった。
19██/03/26
どうやら我々は今までDクラス職員という存在に頼り過ぎていたのかもしれない。伊波博士によるMw9.0という試算が出た後、明らかに集中力を欠く研究者が続出していた。このままだと埒が開かない。信頼できるメンバー数人と共に調査を続行することにする。19██/03/28
今日もSCP-2893-JPの収容は叶わず。もしかしたら、我々は大きな思い違いをしているのかもしれない。我々はこれまでSCP-2893-JPが無軌道に出現していると思い込んでいたが、ひょっとして明確な目的地が存在するのではないか? SCP-2893-JPの起源に関わるオブジェクトだとか、もしくは帰巣本能だとか。SCP-2893-JPには学習能力が存在する。でなければ突然プロジェクト・プロメテウスが機能しなくなる理由がない。今の我々に出来ることは、SCP-2893-JPの学習能力を上回ることだけだ。引き続き計算を続ける。
19██/03/29
成功したSucceeded。これまでの出現範囲からSCP-2893-JPの目的地を計算し、蓋然性の高い地域の探索を行った。我々は幸運だった。1日目でSCP-2893-JPの目的地を引き当てる確率は7.7%だ。しかもSCP-2893-JPは我々に友好的だ。明らかにツイている。しかし、別の問題も発生した。もしかしたらそちらの方が重要度が高いかもしれない。この件については別紙にて報告する。<記録終了>
羽々桐研究員は島根県██市██町の海岸沿いに存在する██洞窟の内部でSCP-2893-JPを発見しました。発見当時羽々桐研究員はSCP-2893-JPを「光る蝉」と形容される姿として視認しました。周囲にバッテリー及び送電線の類もなく、捕食時でないにも関わらずSCP-2893-JPが視認可能であったことを不審に思った羽々桐研究員は、SCP-2893-JPとの対話を試みました。以下はその記録です。
会話ログ2893-1
日付: 19██/03/29
場所: 島根県██市██町 ██洞窟
<記録開始>
羽々桐研究員: [言葉を選んでいるのか、10秒程度押し黙る]……SCP-2893-JP、君と会うのはこれで二度目だな。どうせ聞こえてはいないだろうが、君に言っておかなければならないことがある。お前の持つ能力は人類にとって非常に有害だ。故に、絶対に収容されねばならない。
SCP-2893-JP: 貴女は、やまとの方ですか?
羽々桐研究員: [SCP-2893-JPが言葉を発したことに驚きの表情を見せる]なるほどな。人間の声に聞こえるが、厳密には違う。人間の声帯を模倣して振動を発生させているのか。しかし……「やまとの方」? 随分と古めかしい言い方だな。日本人かという質問なら、部分的にそうだ。
SCP-2893-JP: そうでしたか。すみません、吾わは目が見えないもので。
[その瞬間、羽々桐研究員はSCP-2893-JPを人間の姿として視認する。細部の容姿を認識することはできないが、唯一両眼が潰れていることだけは認識できる]
羽々桐研究員: 姿も変えられるのか。……いや、姿が変わったというのは適切ではない。SCP-2893-JPには実体はなく、そこにあるのは電気だけだ。私が人間の姿に視認しているのも、SCP-2893-JP、君がそう見せているだけに過ぎないのだろう?
SCP-2893-JP: 貴女はここに来ない方がいいと思います。他のやまとの方も、同じく。
羽々桐研究員: それは何故だ? 何故そう言い切れる?
SCP-2893-JP: そこに「入り口」があるからです。[SCP-2893-JPは洞窟の奥を指さす。その先には暗闇が広がっている]
<記録終了>
SCP-2893-JPとの対話を行った羽々桐研究員は、SCP-2893-JPについて「会話内容から判断して10歳前後の子供に相当する知性を有していた」と言及しています。
SCP-2893-JPと接触後、羽々桐研究員はSCP-2893-JPと共に「入り口」の方向へ進みました。「入り口」付近の暗闇は異常性を有しており、羽々桐研究員は松明を所持していましたが、その灯りは50cm先までしか届きませんでした。後に実験で40000lmの投光器を用いて光を照射したところ、同様に50cmまでしか届かなかったことが確認されています。
羽々桐研究員は「入り口」の最奥に、SCP-2893-JP-1を発見しました。SCP-2893-JP-1は高さ14m、幅10mの色褪せた鳥居のような形状をした巨大なアーチ状の門です。現在は門そのものには異常性は存在せず、門が囲っている空間が異世界へ繋がる遷移ポイントとして機能していることが判明しています。
羽々桐研究員が先に進もうとしたところ、SCP-2893-JPは拒む素振りを見せました。やむなく羽々桐研究員が一人でSCP-2893-JP-1を通過したところ、以下のような世界が広がっていました。
探索ログ2893-1
日付: 19██/03/29
場所: SCP-2893-JP-1内部
探索者: 羽々桐研究員
結論1.極めて生存に適さない厳しい環境である
- 土地が完全に荒廃している。足元は灰のような物質で構成されており、見渡す限り動植物の類が一切見当たらない
- 天候が極めて不安定である。視界に入る分だけで1000本を超える雷が地面に降り注いでいる
- 酸素濃度が10%程度である。遷移ポイント付近は比較的安全であるが、10m先からは毒性を帯びたガスが広がっている様子が確認できる
結論2.幾つかの点で地球と類似している
- 視認できた範囲で地球の天文的特徴と一致している
- 特に月の形状が地球のものと完全に同一である
羽々桐研究員はおよそ10秒間の観察の後、SCP-2893-JP-1を通り基底世界へ帰還しました。後日改めて異常空間における探索エキスパートで構成された探索チーム1部隊がSCP-2893-JP-1内部へと派遣されることになりました。その探索において、初めてSCP-2893-JP-2が観測されました。
SCP-2893-JP-2は全長3.98mほどの人型実体です。全身がひどく腐敗しており、頭頂部から後頭部にかけてヤマカガシ(Rhabdophis tigrinus)に類似した蛇状の物体が約100~150本付属しています。実体は磁力を用いて0.3m程浮遊しており、移動の際には四肢を使用せず直立姿勢のまま平均6km/hの速度で飛行します。そのほか瞬間移動のような能力を有していることが確認されています。
またSCP-2893-JP-2は雷を発生させる能力を有しており、探索チームの前に現れた際には半径10mの範囲におよそ600本の雷を発生させ、探索チームを消滅させました。現在SCP-2893-JP-2は8個体確認されており、そのいずれに対しても対話の試みは成功していません。
現在に至るまで、SCP-2893-JP-2がSCP-2893-JP-1を通じて基底世界へ現れたという事象は確認されていませんが、仮にそのような侵略イベントが発生した場合、89.9%の確率でGH-クラス:"デッドグリーンハウス"シナリオが引き起こされることが試算されています。SCP-2893-JPの電気に対する捕食能力が、SCP-2893-JP-1およびSCP-2893-2が引き起こし得る各種脅威に対する有力な封じ込め手段の一つであることを考慮し、O5評議会による協議の結果SCP-2893-JPはオブジェクトクラスThaumielに指定されました。
補遺2: 以下は羽々桐研究員によるSCP-2893-JPの起源を明らかにすることを目的とした調査の記録です。現在に至るまで調査は進行中であり、調査記録もまた未完成であることに留意してください。尚研究の結果、過去SCP-2893-JP-2による侵略イベントが少なくとも1回発生していることが示唆されています。
資料2893-1
概要: ██洞窟の周辺地域の発掘により出土した資料。石片に刻まれた未知の古代言語により記述。翻訳済みの部分のみ掲載しています。
備考: 本資料が出土した地層には、他に炭化した樹木や人骨などの成分が含まれていました。
かの神の憤怒はあまねく生命に向けられたものなり。ゆえに鎮めること能わず
われら滅せられるのみ
誉のみやこは灰となる
恨
資料2893-2
概要: 「人身御供の儀式」に関する調査報告書です。一部現存する要注意団体が所有していた知識を含みます。
備考: 伝聞を経て儀式の細部についての情報が失われており、儀式の再現の試みは全て失敗しています。
[重要度の高い部分を抜粋]
- 贄の眼球を抉り出すことは、人身御供の儀式において典型的なプロセスである。贄の片目を抉り出す場合、その儀式は「一つ目の鬼おろし」と呼ばれ、祭壇に捧げられた人身御供は3人の祭司により呪術が施され、一つ目の鬼の姿に変容すると言われている。
- 調査により、「一つ目の鬼おろし」は天変地異の発生の際にしばしば行われ、呼び出された鬼を討伐することで災いを鎮める意図があったとされている。
[抜粋終了]
資料2893-3
対象: SCP-2893-JP
インタビュアー: 羽々桐研究員
概要: SCP-2893-JPおよびSCP-2893-JP-1、SCP-2893-JP-2に関する調査の一環として実施。尚インタビューはロッツ博士同席の下行われた。
<記録開始>
SCP-2893-JP: [同卓したロッツ博士の方を向いて]今度は、やまとの方ではないのですね。
羽々桐研究員: 君が話しやすいようにだ。君は「やまと」の者をあまり快く思っていないのだろう?
SCP-2893-JP: ……ええ。同根ではありますが、信ずるものがあまりに異なるので。
ロッツ博士: 「信ずる」というのは、信仰のことですか? 月へ対する?
SCP-2893-JP: ……はい。やまとの民は太陽を信じているようですが。[その後、しばらく無言となる]
羽々桐研究員: ……そうだな、まずはSCP-2893-JP-1について知っていることを教えてくれ。[写真を提示する。1枚はSCP-2893-JP-1の画像、もう1枚はSCP-2893-JP-1の向こう側の世界の画像]君は確か、これを避けていた様子だったが。
SCP-2893-JP: 忌避すべき荒ぶる神の住処、そしてその入り口、何れも人の立ち入るべからざる場所です。
羽々桐研究員: 「荒ぶる神」というのはこれのことか?[SCP-2893-JP-2の画像を提示する]
SCP-2893-JP: [無言で肯定する]
羽々桐研究員: SCP-2893-JP-2と君の関係を教えてくれ。
SCP-2893-JP: ……怨敵です。ふるさとを、滅ぼした。
羽々桐研究員: その時のことを教えてくれないか。辛いだろうが、我々には必要なんだ。
SCP-2893-JP: 何者にもあれを理解することは叶いません。それでも、いいのなら。
羽々桐研究員: ああ、それでも構わない。我々に必要なのは理解することではなく、収容することだからだ。
SCP-2893-JP: はい。[SCP-2893-JPが俯きがちになる]あれは……突然現れました。雷を齎す八つ柱。それが空に現れて……みやこを灰にしました。あれは、この世の者ではありませんでした。そして……沢山の人が屍になって、生き残った者は南へ逃げました。南に守護霊山があるので、そこへ逃げようと。
羽々桐研究員: ██山のことだな。
SCP-2893-JP: ……はい。道中、空は黒雲に覆われ、川は血の色に染まっていました。ようやく辿り着いた時、人数は50人にも満たなくなっていました。
羽々桐研究員: それから?
SCP-2893-JP: ……結界はしばらく持ち堪えられるが、直に破られると。それで……ひとり、生贄が必要だという話になりました。神の怒りを鎮める贄が。
羽々桐研究員: それで、君が捧げられたのか。
SCP-2893-JP: ……はい。家族が助かるのなら、と。そう思いました。……けれど。
羽々桐研究員: 「荒ぶる神」の怒りは鎮まらなかったと。
SCP-2893-JP: ……はい。皆、屍となりました。ただひとり……人ならざる身となった、吾だけが残りました。そして……灰が降り積もる山の麓で、「其れ」を見ました。[SCP-2893-JPが10秒ほど黙り込む]
羽々桐研究員: 話してくれ、「それ」が何なのか。
SCP-2893-JP: [何度も横に首を振る]……あれは、見てはいけないものだった。嗚呼父よ、あなたは何故それを見たのですか?[以降SCP-2893-JPは応答せず。インタビューが打ち切られる]
<記録終了>