オブジェクトクラス: Euclid
機密

SCP-2894-JPの1例
特別収容プロトコル: 現在、SCP-2894-JPの内容を記録した複製品が各学校の年度別に1冊ずつ、サイト-8181の収容室内に設置された専用ケージに収容されています。回収された全てのSCP-2894-JPは内容を記録した後に焼却処分しなければいけません。SCP-2894-JPに関する実験は長期的及び倫理的観点を鑑み、サイト管理官を含めたセキュリティクリアランス・レベル4以上の職員3名以上及び倫理委員会の承認が必要です。実験の経過記録は定期的に倫理委員会へ報告する事が義務付けられます。
SCP-2894-JPが発見された場合、機動部隊を出動させ速やかに回収しなければいけません。回収後は適切なカバーストーリーを流布し、関係者にクラスA記憶処理を実施して下さい。回収作業は発見された学校で該当する年度のSCP-2894-JPを全て回収する、若しくはサイト管理官が回収作業の打ち切りを指示するまで継続する必要があります。財団が把握していない学校のSCP-2894-JPが発見された場合、同じ学校の別の年度でもSCP-2894-JPが発行されていないか確認して下さい。
2020/02/15追記: 捜査中の学校で発行された全てのSCP-2894-JPの回収が困難と判断された場合、当該学校のSCP-2894-JPに記載されているSCP-2894-JP-Aの動向を定期的に監視し、異常性の進行具合を把握する必要があります。異常性の進行具合が社会的に無視できない段階まで達したと判断された場合は速やかにSCP-2894-JP-Aを拘束し、恒久的な収容下に置いて下さい。
説明: SCP-2894-JPは対象となった卒業生にミーム災害を及ぼす卒業文集です。SCP-2894-JPの内容は概ね、学校名と卒業年度が記載された表紙、学校内での出来事の纏め、在校時の思い出、部活動での活動記録、卒業生の「将来の夢」といった項目から構成され、補遺で後述する要素を除き一般的な卒業文集と差異は見られません。また、SCP-2894-JPのサンプル解析結果からは有意な異常性を検出できませんでした。
SCP-2894-JPの異常性はSCP-2894-JPに「将来の夢」を記載した人物(SCP-2894-JP-A)が所属する学校を卒業した後から発現します。卒業後、SCP-2894-JP-Aは未知の原理によって、自身の行動の動機付けがSCP-2894-JPに記載された「将来の夢」に沿った行動を取るようになる永続的なミーム汚染を発症します。ミーム汚染発症後のSCP-2894-JP-Aは多くの場合、「将来の夢」を実現するための努力に日々の労力を費やすようになり、集中力や学習意欲が向上し、勉学・スポーツ・コミュニケーションに対する成績や能力が有意に上昇します。この状態はSCP-2894-JP-Aが成人した後も継続し、概ね「将来の夢」に沿う形で社会的に成功し相応の地位を築くに至ります。SCP-2894-JPに記載した「将来の夢」の内容とSCP-2894-JP-Aの資質のバランスによっては、必ずしもSCP-2894-JP-Aが本来望んでいた目標を達成するとは限りませんが、その場合でもSCP-2894-JP-Aは生存している限り「将来の夢」を実現するための途上にいると信じ続け、その考えに準じた行動を取り続けます。
一方で、大半のSCP-2894-JP-Aは年月が進行するにつれて、自身が抱く「将来の夢」の理想の実現又は維持のためには如何なる手段を講じてもやむを得ないと確信し、それと共に自身の人格が次第に変化するようになります。この人格の変化は不可逆的であり、SCP-2894-JP-Aはその変化に対して不審感を抱きません。これまでに確認されているSCP-2894-JP-Aの人格の変化の事例で特筆すべき主な点は以下の通りです。
- 利己的な行動や言動の増加
- 倫理的思考の欠如
- 「将来の夢」の動機付けにならない趣味の放棄
- 周囲の人物(主に家族)に対する粗暴な行動や言動の増加
SCP-2894-JP-Aのミーム汚染は対象の学校・年度のSCP-2894-JPを全て処分することによって除去することが可能です。しかし、記憶処理で除去することは不可能であり、1度変化した人格が元に戻ることもありません。現時点で、SCP-2894-JPのミーム汚染を除去できたのは、SCP-2894-JP-Aとなった曝露者の内、30%以下に留まっています。一方で、SCP-2894-JPの異常性はSCP-2894-JPに記載されている卒業生にのみ発現し、それ以外の人物に影響を及ぼした事例はこれまでに確認されておらず、SCP-2894-JPを複製・記録した場合でも影響は存在しない事が明らかとなっています。このため、SCP-2894-JPの焼却処分を含めた現在の特別収容プロトコルが制定されることとなりました。これまでに発生が確認された全種類のSCP-2894-JPのリストはRAISA-情報参照用データベースを参照して下さい。
実験記録: 以下はSCP-2894-JPによる異常性発現の詳細を調査するために実施された実験記録の一部を記録したものです。実験はSCP-2894-JPが発生した学校の卒業生を追跡調査する形式で実施されました。実験の実施に当たり、対象学校のSCP-2894-JPを実験期間中は敢えて処分しないという方針を事前に決定しています。倫理委員会は実験の観察期間を5年以内に留める事を条件に承認しました。
実験記録2894-JP-1 - 日付20██/03/██~20██/03/██
対象: 小学校・中学校・高校から1名ずつ指定された3名のSCP-2894-JP-A。
観察期間: SCP-2894-JPの曝露から5年間。
「将来の夢」の要旨: 記載せず。
結果: いずれの対象も身体能力や人格に有意な変化は確認できなかった。
分析: SCP-2894-JPに名前が載っていたとしても「将来の夢」に何も記載していなければ、どの教育機関においても異常性は発現しないと考えられる。
実験記録2894-JP-2 - 日付20██/03/██~20██/03/██
対象: 中学校を卒業したSCP-2894-JP-A。卒業前の成績は全国平均並。
観察期間: SCP-2894-JPの曝露から5年間。
「将来の夢」の要旨: 「医者になりたい」と記載。
結果: 卒業直後から、対象は国立大学医学部への進学を希望するようになり、学習意欲の大幅な向上が確認された。塾や予備校にも熱心に通うようになり、成績も大きく上昇した。その後、受験に2度失敗するが、先述の学習意欲はその後も維持され、2年間の浪人生活の末に志望校に合格した。
分析: 学習意欲の有意な向上はSCP-2894-JPの異常性が発現した典型的な事例と目される。対象が入試に2度失敗している事から、SCP-2894-JPの影響を受けたからといってSCP-2894-JP-Aの行動が全て順調に進行するとは限らないと考えられる。また、対象が受けた効果は「将来の夢」を目指す過程での挫折によって左右されないものと推測される。
実験記録2894-JP-3 - 日付~20██/03/██~20██/03/██
対象: 小学校を卒業したSCP-2894-JP-A。実験前の体育成績は平均的な水準。
観察期間: SCP-2894-JPの曝露から5年間。
「将来の夢」の要旨: 「サッカー選手になりたい」と記載。
結果: 実験開始直後からすぐにトレーニングを連日行うようになる。実験前より集中力や身体能力が大幅に上昇し学力も有意な向上が確認された。対象が大会の際に所属チームの活躍に大きく貢献したとして表彰された事も明らかとなっている。また、実験前と比較して若干はあるが、対象の人格に粗暴さが増した可能性があると報告された。
分析: SCP-2894-JPにスポーツ関係の夢を記載した場合は、集中力と身体能力の向上が顕著となる傾向にある事が明らかとなった。SCP-2894-JP-Aは曝露時期が成長期に当たるため、より強く影響を受けるものと考えられる。また、SCP-2894-JP-Aの人格変化は曝露から数年後には始まる可能性が示唆されたのは注目すべき点である。
実験記録2894-JP-4 - 日付20██/03/██~20██/03/██
対象: 高校を卒業したSCP-2894-JP-A。自宅に高性能コンピューターが存在せず、最新機種とは異なるスマートフォン型携帯電話を所持している。
観察期間: SCP-2894-JPの曝露から5年間。
「将来の夢」の要旨: 「インターネット上で有名になりたい」と記載。
結果: 対象は高価な高性能デスクトップ型パソコン及び所持していたスマートフォン型携帯電話の最新モデルへの機種変更を、仕送り・バイト賃金の貯蓄といった方法で購入・実行した。その後、動画制作や各種SNSでの活動方法を独学で学んだ上で本格的に活動を始める。各種サイトでの活動内容は「SNSのアカウント宣伝」「ビデオゲームの実況動画配信」「自作イラストの公開」「撮影した写真のSNS掲載」と多岐に渡り、集中力やコミュニケーション能力に有意な向上が見られた。また、徐々に休日時間の多くをネット活動に費やす傾向が見られ、対象の状況を危惧する家族との間で口論となる場面が有意に増加した事が確認された。家族との軋轢が増しても、対象の行動に変化は見られなかった。
分析: 「将来の夢」に職業以外の夢を記載した場合でも、SCP-2894-JPの影響を受ける事が明らかとなった他、SCP-2894-JPの異常性は成人後も継続すると確認された。また、家族との関係が悪化しているにも関わらず対象の行動が変化しなかった事から、SCP-2894-JP-Aは家族との関係よりも「将来の夢」を優先する可能性が高いと考えられる。
補遺1: SCP-2894-JPの存在は20██/03/15、財団が運営するプリチャード学院中学・高等学校でGoI-8150(‘‘夢見テクノロジー’’)が送付したと見られる文書が発見された事から明らかになりました。文書には夢見テクノロジーが学院の卒業文集に対して意図的な超常的改変を施した事が仄めかされており、SCP-2894-JPの発見・回収に繋がりました。
以下は文書の詳細を記録したものです。
平成██年3月15日
プリチャード学院中学・高等学校の皆様へ
株式会社 夢見テクノロジー
卒業文集発行の業務完了に関するお知らせ
プリチャード学院中学・高等学校の皆様、 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。この度、貴校における卒業文集の発行業務を弊社が担当した件について、弊社の作業が完了した事をお知らせすると共に業務受注について厚く御礼申し上げます。当該品は間もなく貴校へ届く手筈になっておりますので御了承下さい。
貴校は既にご存知かと存じますが、弊社では人々の「夢を叶える」ことを重要視しており、既に多くのお客様の御支持を得ている次第であります。本事業も多くの学校で多大な実績を挙げ、現在も続々と発注が入っており嬉しい悲鳴を上げているところです。
貴校ではSCP財団様の幹部候補生を養成しているとお聞き致しております。そんな貴校の卒業生様が描く「将来の夢」に弊社が関わることができ、大変光栄です。今後も貴校と良き関係をお築きしたいので、よろしくお願い致します。
謹白
上記の文書が発見された直後から、プリチャード学院の封鎖措置が速やかに実施され、全てのSCP-2894-JPが学院の卒業生達や関係者に渡る前に回収されました。回収されたSCP-2894-JPの巻末部分からは「発行:株式会社 夢見テクノロジー」という記述が確認されています。その後、学院関係者に対する尋問が実施されましたが、なぜプリチャード学院から夢見テクノロジーに対してSCP-2894-JPの発行を委託するに至ったのかは現在も不明なままです。財団は内通者が存在する可能性も視野に調査すると共に、プリチャード学院の存在及び機密が外部に漏洩した可能性があるとして夢見テクノロジーに対する脅威度の引き上げを決定しました。
また、文書中の記述から、他の学校においてもSCP-2894-JPが広まっている可能性が示唆されたため、全国の学校に対する調査を実施しました。その結果、複数の学校からSCP-2894-JPが発見され、SCP-2894-JPの異常性が判明しました。SCP-2894-JPは現在までに日本国内の小学校から高校までの███校分が確認されており、██████名の卒業生がSCP-2894-JPの異常性に曝露したものと考えられています。SCP-2894-JPの発行を委託した全ての学校と夢見テクノロジーとの関係も調査されましたが、いずれも特別な手掛かりを得られることはできていません。調査は現在も継続中です。
補遺2: 20██/██/██、██県██市に在住する新戸 忠司氏(50歳)が同居する両親を殺害した容疑で警察に逮捕される事件が発生しました。新戸氏の自宅からSCP-2894-JPが発見・回収されたため、新戸氏にSCP-2894-JPの内容を確認させたところ、夢見テクノロジーが執筆したと見られる寄稿文がSCP-2894-JPの巻末部分に掲載されていた事が判明しました。巻末部分の内容はこれまで別の文章が記載されていると認識されており、財団の調査でも特に異常な痕跡は確認されていませんでした。この事からSCP-2894-JP-AはSCP-2894-JPを閲覧した場合に、本来の内容とは異なる文章を認識させる認識改変が発生するのではないかと推測されています。
以下は新戸氏の証言を元に、寄稿文の詳細を書き起こしたものです。
未来へ羽ばたく卒業生の皆様へ
株式会社 夢見テクノロジー
卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。私達は今回、皆様の卒業文集発行を担当させて頂くことになりました、夢見テクノロジーと申します。この度、皆様の貴重な夢や思い出に関わる仕事をすることが出来て大変光栄に存じます。
昨今、この世の中は非常に暗い話題が多く、夢を真剣に追い求める者がまるで愚かであるような風潮すら存在するのではないかと感じる程、夢を持てない人で溢れています。もしかしたら、こんな「将来の夢」もどうせ叶うことなく終わってしまうと内心考えている人もいるかもしれません。それは大変悲しい話です。夢見テクノロジーはそんな社会の状況を憂いる人達によって創業されました。私達は可能な限り「夢」を追い求める人を応援する次第であります。
さて、この度の卒業文集発行の過程において、皆様の「将来の夢」を拝見させて頂きました。皆様1人1人が素晴らしい夢をしっかりとお持ちになっていることを知ることができ、弊社一同大変感動致しております。
私達はこの度、夢を追い求め続ける事は決して愚かではなく、その努力はいずれ報われ絶対に裏切らない事を皆様に何とか伝えたいと考えました。そこで私達は皆様の「将来の夢」の実現に少しでも貢献できるよう、今回の卒業文集発行に当たって弊社独自の技術を生かした工夫を加えさせて頂きました。その「将来の夢」が如何なるものだとしても、私達は必ず実現できるよう努力する次第です。
人は誰しも若い頃に将来における自身の姿について考えます。それは未来における「人生の変遷」を真剣に描く事に他なりません。私達のお手伝いが皆様の夢を実現するために少しでも貢献できたのなら、これ以上の栄誉はございません。皆様の「将来の夢」が実現する事を願って締めの言葉とさせて頂きます。
夢見テクノロジーは「未来ある若者」が描く「将来の夢」を実現するために全力を尽くします!
皆様の今後一層のご活躍を心より祈念申し上げます。
謹白
上記文書を新戸氏が発見した事により、新戸氏はSCP-2894-JPの異常性に曝露している可能性が高いと判断され、事件との関連性が浮上しました。しかし、新戸氏はSCP-2894-JPの「将来の夢」に「特に無し」という旨の記述をしていたため、この事件が本当にSCP-2894-JPの異常性によるものなのかを疑問視する意見が出されました。そこで、事件がSCP-2894-JPの異常性に起因しているかを見極める事、及び新戸氏の異常性がどのような形で発現しているか調査する事を目的としたインタビューが実施されました。
以下はインタビューの詳細を記録したものです。
対象: 新戸 忠司
インタビュアー: 梅田綾
付記: このインタビューは梅田が警察関係者を装い、警察による取り調べの一環として行われた。
<録音開始>
インタビュアー: では取り調べを始めます。まず改めて確認しますが、新戸さんにはご両親を包丁で刺して殺害した容疑が掛けられています。新戸さんはこの事を事実として認めますか?
新戸: …そうだよ。俺がやったよ。
インタビュアー: ご両親を殺害するに至った動機について教えて下さい。
新戸: …オヤジが突然部屋に入ってきて「30年以上耐え続けてきたが限界だ。もう面倒を見切れないから出ていってほしい」とか言い出したんだよ。それから喧嘩になってオヤジを殴ったら、オフクロに「中学まではあんなに活発で明るい子だったのにどうしてこうなってしまったの…」とか言われてさ。それからもう我を忘れて…気が付いたら警察に捕まってたよ。
インタビュアー: ということは決定的な動機は母親の発言であって、父親との争いでは無かったということですか?
新戸: オヤジとの喧嘩は別にこれが初めてじゃ無かった。ここ最近はずっとこんな感じだったよ。「出ていけ」とまで言われた事は無かったけどな。…オフクロは今までずっと傍観してたんだけど、こんな事言われたのはあの時が初めてだった。俺は35年間ずっと気にしていたことをはっきり言われて動揺したんだと思う。
インタビュアー: 気にしていたこと?
新戸: 自分で言うのもなんだがオフクロの言う通り中学までの俺は普通に友達もいたし、付き合っていた彼女もいた。将来への希望も持ってたと思う。…でも、中学を卒業して高校生になってから「目標を立てて」行動するって事が出来なくなっちまったんだ。それもたった翌日の事ですらな。
インタビュアー: それは具体的にどのような状態なのですか?
新戸: 全ての行動や発言が行き当たりばったりになった。翌日に提出しなければならないレポート、友達との約束、彼女とのデート、期末試験に向けた勉強、どれも事前に目標を立てて準備しないといけない事が全くできなくなっちまったんだ。その後は坂を転げ落ちるように、何もかも失って高校を中退する羽目になった。それでも働かなきゃと思ってバイトしようとしたりもした。でも何も計画を立てられなくて全部ダメだった… そうこうしている内にもうこんな歳になっちまった。あとはあんたらが知ってる通りだよ。
インタビュアー: 先程、「将来への希望もあった」と言いましたが、中学卒業時の卒業文集には将来の夢に「特にありません」と書いていますね。
新戸: 確かに俺はその卒業文集に「将来の夢」が無いと書いた。だけど、それはあの時点で自分の未来を特別に決めたくないと何となく思っていただけであって、やりたい事が無かった訳じゃない。大学でキャンパスライフを送ったり、大人になったら親孝行したり、家庭を築いたり、他の人でも考えそうな普通の事を何となく考えてたよ。「将来の夢」はその時々で何度も変化するものだし、一時の感情だけで決めて良いものじゃないとも思ってたしな。…今思えば、俺が明らかにおかしくなったのは、あの卒業文集が出来てからだったと思う。
インタビュアー: なぜそのように言えるのですか?
新戸: 卒業文集を製作する時に担任の先生に言われたんだ。「今年の卒業文集は今までとは違う特別な企業に発行を依頼するから卒業文集に書く‘‘将来の夢’’は真剣に書いて下さい、適当に書いたら後で大変な事になりますよ」ってね。皆は真剣に受け止めてたようだけど、俺は胡散臭さを感じて真面目に聞いていなかった。その結果がこの様さ。だから思うんだ。俺はあの卒業文集に書いた「将来の夢」に書いた通りの人生を送っているんじゃないかって。俺は「将来の夢」に「特に無い」と書いた。だから夢が「特に無い」状態を叶えるために、俺は少し先の未来の事を何も考えられなくなった。死ぬまでその「夢」を実現するために生き続けるんじゃないかと考えただけで気が狂いそうになってくるよ… なあ、1つお願いがあるんだが良いか?
インタビュアー: 何でしょうか?
新戸: あの卒業文集を作った連中を捕まえてほしい!俺はこのまま「将来の夢」に縛られ続けたまま死にたくないんだ!
<録音終了>
上記のインタビュー後、新戸氏の親戚や学生時代の同級生に対して聞き取り調査が実施されました。その結果、新戸氏の証言は概ね事実である事が証明された事から、事件が新戸氏のSCP-2894-JPへの異常性曝露に起因している可能性が極めて高いと判断されました。現在、SCP-2894-JPは「将来の夢」に記載した事項は「夢」として分不相応だったり、明らかに適切とは言えないものだったとしても、記述に合わせて自身の人格や能力を改変するという説が支持されています。
補遺3: 近年、SCP-2894-JP-Aが犯罪や不適切行為に及んで逮捕・糾弾されたり、社会的地位の喪失や家庭の崩壊に至る事例が相次いでいます。上記の状態に至ったSCP-2894-JP-Aの多くは「将来の夢」の理想の実現又は維持を動機に挙げている事が明らかとなっており、SCP-2894-JP-Aによる社会的な混乱の発生が危惧された事から対応が協議されました。
以下はSCP-2894-JP-Aによって引き起こされた事件の一部を抜粋したものです。
SCP-2894-JP-A | 「将来の夢」要旨 | SCP-2894-JP-Aが卒業後に引き起こした事件 | |
---|---|---|---|
事例1 | 48歳女性 | 将来は生花店に就職して、人々をお花で笑顔にしたい。 | 自身が経営するフラワーショップで大麻草を栽培・販売した容疑で逮捕される。警察の取り調べに対し「経営不振が続いて借金が嵩んだため、店舗の運転資金を稼ぐために栽培した」と供述。 |
事例2 | 56歳男性 | 学校の教員となり、子供達に勉強の楽しさを教えたい。 | 勤務していた中学校の生徒を暴行した容疑で逮捕される。警察の取り調べに対し「勉強の楽しさを分かってくれず、授業の邪魔ばかりしていたから」と供述。 |
事例3 | 42歳男性 | 弁護士資格を取得し、弱い立場の人を助けたい。 | 依頼された訴訟の和解金を横領したとして、弁護士資格を剥奪される。所属していた弁護士会の聴取に対し「事務所の運営費に困っていた。弱者を助ける活動ができなくなると思った」と供述。 |
事例4 | 32歳女性 | 女優として沢山の晴れ舞台を演じ、人々をアッと言わせたい。 | 以前交際していた男性に殺害される。女性には結婚詐欺の容疑が浮上しており、殺害の数日前に行われたマスコミのインタビューで「好意を持っていると見えるよう演じていただけ」と発言し、多くの非難の声が寄せられていた。 |
事例5 | 28歳男性 | 結婚して、幸せな家庭を築きたい。 | 結婚後、実子に児童虐待を行ったとして警察に逮捕され、裁判所から実子の親権を剥奪される。警察の取り調べに対し「実子が全然可愛くないように感じた。幸せな家庭を築くのに邪魔だと思った」と供述。 |
財団は一連の事例がSCP-2894-JP-Aの人格変化が進行したことに起因するものと結論付け、社会的混乱を引き起こす可能性が存在するSCP-2894-JP-Aの拘束を含む特別収容プロトコルの改定を決定しました。現在、収容されるSCP-2894-JP-Aの処遇を倫理委員会との間で協議中です。
補遺4: 203█年現在、SCP-2894-JP-Aの自殺率や精神疾患の発症率が非常に高い傾向にある事が確認されています。その多くに共通する点として、定年退職、事故、不祥事等といった理由により「将来の夢」を維持できなくなった、又は断念せざるを得なくなった人物という点が挙げられています。SCP-2894-JPの異常性との因果関係が存在するかは現在調査中です。