アイテム番号: SCP-2896-JP
オブジェクトクラス: Euclid Keter
特別収容プロトコル: 全世界における臓器移植機関および血液事業団体のデータベースは監視が行われ、「イサナギクラ」 不明なドナーからの提供臓器が発見され次第回収が行われます。確認されているSCP-2896-JP-Rは継続した監視が行われます。現在全ての臓器移植機関および血液事業団体を財団の傘下とし、AICによるSCP-2896-JP-A群の徹底した除去を行う計画が進められています。
説明: SCP-2896-JPは2015年以降主に臓器移植機関等に不定期に出現する多量の臓器および人体由来組織群です。財団はこれまで心臓、心臓弁、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球、精巣、皮膚、気管、血管、血液、骨、靱帯等400件を超えるSCP-2896-JPを確認しています。各臓器移植機関等にSCP-2896-JPの提供者に関するデータが保存されている場合、提供者の名前として「イサナギクラ」と記録されています。特筆すべき点として、SCP-2896-JPは同一のDNAを有しているにも関わらず、正常な人体に存在する数を超えた量の臓器が発見されていることが挙げられます。例として、2020年現在までにSCP-2896-JP実例である心臓は4個発見されています。
SCP-2896-JPは臓器移植機関や血液事業団体、外科医院に不明な経路で出現します。財団による監視から外れた、非認可の医療行為を行う個人や生化学研究機関、食人サークル等1においてもSCP-2896-JPが発生していることが認められています。
各臓器移植機関等の職員の多くは突如出現するSCP-2896-JPに対してその出処に疑念を抱かず移植に使用します。結果としてこれまで確認されたSCP-2896-JPの内8割は既に移植されています。移殖されたレシピエント (SCP-2896-JP-R) 内でSCP-2896-JPは臓器として問題なく働くことが確認されています。
補遺2896-JP.1: 「イサナギクラ」に関する調査
「イサナギクラ」という氏名の人物に関する網羅的調査の結果、一致する人物は2010年代島根県██町██小学校に在籍していた「日奉いさなぎ 蔵くら」の1名であることが確認され、SCP-2896-JPはこの人物由来の組織であると推定されています。この「日奉 蔵」については現在所在が明らかになっていません。
「日奉 蔵」は██小学校の4年次から5年次まで在籍していましたが、4年次末期から登校しておらず6年次になる前に退校手続きが行われています。以下は「日奉 蔵」の当時の担任教師へのインタビュー記録の抜粋です。
対象: ██小学校元担任教師 本田 ██氏
インタビュアー: エージェント・ハナ
[記録開始]
Agt.ハナ: それでは、日奉蔵さんについて教えて頂きたく。彼は4年生からこちらに転入されたそうですが。
担任: はい。日奉さんは体が弱くこれまでは自宅で教育を受けていたそうですが、通学できるくらいには回復したということで当人の希望でこの学校に入校いたしました。彼の家は隣村の擂弥村の有名なお屋敷でしたが、お子さんがいるのはそれまで知らなかったですね。
Agt.ハナ: 彼の学校生活はどのようでしたか?
担任: 勉強面に関しては全く問題はありませんでしたよ。体育に関しても体調が許す限りは参加していました。あまり上手とは言い難いものでしたが、何度も転びながらも楽しそうな様子でした。途中転入ということで特別仲良しと言える子は最後まで出来ませんでしたが、優しい性格で消しゴムを忘れた子に貸してあげるなどクラス仲は良好でした。学校に来るのが楽しい、そんな様子でしたね。
Agt.ハナ: 休み時間などは、どう過ごしていましたか?
担任: そうですね、彼は読書が好きで、図書室によく通っていましたよ。
Agt.ハナ: なるほど。どのような本を好んでいたんでしょうか?
担任: 何でも。ある本を片っ端から読んでいくような子でした。──あぁ、でも一度どの本が一番好きなの?と聞いたことがありました。ちょっと予想外だったんですけど。
Agt.ハナ: ほぅ?
担任: 『しあわせなおうじ』という絵本でした。ご存知ですか?
Agt.ハナ: えぇと、確か銅像の王子が貧しい方々に自身の体についている宝石や金を分け与え、その行いが報われて最終的に天国へ行く……というような話だったかと記憶しておりますが。
担任: はい、概ねその認識で合っています。あとは王子を助けるツバメもおりますね。日奉さんは小学生にしてはかなり難しい本まで読んでいましたので、そのお話を選ぶのは少し意外でしたね。
Agt.ハナ: わかりました。では彼の体調について伺わせて下さい。体育に参加する位には元気な時期はあったんですよね?
担任: ええ、確か転入当初は特に具体的な症状は出ておらず、少し体力に難がある程度かなと思っていました。ですが彼が登校しなくなる数週間前、突然彼は眼帯をつけて登校してきたんです。いや、腕のギプスが先だったかな……?その頃から顔色も悪くなって、いつも青白い顔をしていました。
Agt.ハナ: ギプスとは。何か事故にあったとかではなく?
担任: 違うとは思いますが、彼は自身の体について隠そうとしていたので正直わかりません。最初包帯を巻いてきた時はクラスメートも心配して色々と聞き出そうとしていましたが、彼は大丈夫と言うばかりでした。周りを心配させないようにとわざと明るく振る舞ってすらいたように思えます。とはいえ子供たちはそういう態度に敏感です。壁を作られたように感じたのか段々と日奉さんとクラスメートとの距離が空いていきました。私もその状況は良くないと思って面談などしましたが、心配しないでと寂しく笑うばかりでした。結局詳しい病名などは聞けないまま、ある日登校できないという電話を境に彼は学校に来ることはありませんでした。
Agt.ハナ: その後の彼について伺ったことは?確か6年生に上がるころ退校の手続きがあったんですよね?
担任: ええ、手続きはお母さまがいらっしゃって行われました。それとなく彼の様子をお聞きしたのですが、教えてもらえず。ただ、お母さまの苦しそうな表情から良くなっていないだろうことは察しました。その後、彼に関する話は聞いておりません。
Agt.ハナ: なるほど。ちなみに、蔵さんのお母様と連絡はとることは可能ですか?
担任: 最近は連絡もありませんので、直接伺ってはいかがでしょうか。[住所を書いたメモを渡す] 擂弥村の方に、日奉家の平坂御殿はどこかと聞けばわかると思いますよ。
Agt.ハナ: ありがとうございます。最後に他に蔵さんに関してなにかあれば。
担任: 彼は、本当に優しい子でした。誰かを助けてあげてお礼を言われても、「代わりに他の誰かを助けてあげて」と言ったくらいで。短い間しか関われなかったのが残念です。
Agt.ハナ: 協力に感謝いたします。
[記録終了]
補遺2896-JP.2: 平坂御殿への調査
日奉蔵氏の居宅であったとみられる平坂御殿の調査が行われました。日奉家は擂弥村の大半を有する地主であり、平坂御殿と呼ばれる邸宅を構えていました。周辺への聞き込みの結果、平坂御殿では数ヶ月ほど人の出入りが確認されておらず、立ち入り調査では内部は無人でした。日奉蔵氏の母親である日奉真里氏の行方は不明であり、追跡を行っています。
内部調査において、日奉家で働いていたとみられる使用人2の日誌が発見され、日奉蔵氏とSCP-2896-JPに関すると見られる記載が存在していました。以下に該当する内容を抜粋します。
2006/1/15
真里様がとうとうご懐妊なされた。
ようやく跡継ぎができることは大変喜ばしい。
坊ちゃまはずっとふらふらしていて結婚をあきらめてすらいるのかと思ったこともあったが、真里様を捕まえたのは大正解だ。
2007/5/11
坊ちゃまが昨日から帰らない。
携帯にかけても繋がらない。
気丈に振る舞ってはいらっしゃるが、奥様の不安は相当なものだろう。
2007/9/5
真里様の陣痛が始まった。
産婆さんの手が空いていてすぐ来ていただいたのは助かった。
いったい坊ちゃまは真里様を置いてどこへ行ってしまったんだ。
2007/9/6
私たちは見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。
真里様がお産みになったのは化け物だった。ごつごつした歪の肌色の塊からは手や足が何本も生え、あちこちに目がついていて、何人もの赤ちゃんがいびつにくっついたような怪物。肌に開いたいくつかの穴は呼吸に使われているようだった。変な角度で手や足が生えているこれに比べれば、ベトちゃんドクちゃんは断然普通だ。
真里様は我が子を見るや悲鳴を上げて気絶した。お気の毒に。
産婆さんには口外しないよう口止めした。こんな化け物が生まれたなんて外には漏らせない。もっとも、よそでこんなことを話しても信じはしないだろうが。
2007/9/7
真里様は処分するように言われたが、これは生きている。私は東の土蔵の地下に化け物をかくまった。
どうやら化け物は5人分の人間の体がくっついて出来ているようだ。
手や足、目や鼻、色々数えたがちょうど5人分ある。
なぜそんな状態で生きているのかはわからない。
夜になると泣き出すので、ミルクを一つの口にあげた。勢いよく飲んでいた。
2007/10/5
化け物が少しふっくらして来た。
姿かたちは異形だが、行動は普通の赤ん坊と一緒だ。
泣いていたと思えば急に笑い出す。
なので意外と普通の子育てが通用している。
ただ、おむつをはかせることができないのは大変だ。
2007/11/15
真里様はふせったままだ。
食事の時以外は寝たきりで、いつも暗い顔をしている。
赤ん坊の話は気を使って誰も口に出さない。
そろそろ食費もかさんできている。
五人分のミルクも意外とバカにならない。
こっそり育てていることを明かしてどうにか援助をもらえないだろうか。
ずっと化け物と呼ぶのも何だから、土蔵の地下で育てているので"蔵"と呼ぶことにした。
2007/12/1
真里様が蔵を育てることを認めてくれた!
これで食費の問題も解決した。
真里様はいくら化け物であっても自分が生んだ子を捨てたことを後悔していたようだ。
私が育てていることを話したらうれし涙を流された。
ただやはり異形の姿はまだ受け入れられないようで、蔵にお会いすることはなく育てるのは一任された。
2008/5/12
おそらく普通の子供であればハイハイをするころなのだろうが、手と足をもぞもぞ動かしているだけで前に動いたりはできていない。
目や口があちこちにあるからわかりづらいが、何となく表情からキゲンが理解できるようになってきた。
2008/6/30
蔵が「まんま」としゃべった!一番最初にしゃべったのはたぶん右上の口だと思う。
それから程なくして、左下の口は「ばぁ」、真ん中の口は「バイバイ」としゃべった。
残りの口はまだだ。
初めて言葉を話すイベントを何回もできるのはすこしおトクかもしれない。
2008/11/5
前から5人分の体なら人格も5人分あったりするのだろうか?と思っていた。
少なくとも食事はどこの口からだけでも問題ないあたり内臓は繋がっているようだが、脳みそとかはどうなっているのかと。
赤ちゃんの喋ることだからはっきりとしたことは分からないがどうやら人格は1人分らしい。
この体で5人が喧嘩し出したらどうしようかと思ったがその心配はなさそうだ。
2012/10/8
最近は絵本が気に入っているようだ。
仲でも『しあわせなおうじ』がお気に入りで、何度も読んでくれとせがまれる。
出てくる王子様も辛い境遇だが、いくらか共感するところがあるのだろうか?
2013/3/25
体の割には手がかからない子に育っている。
簡単な読み書きや足し算を教えているが、飲み込みがとても速い。
親バカみたいだが、凄く賢い子になりそうだ。
学校でしっかりした教育を受けさせてあげたいが、叶わぬ願いだろう。
2014/11/10
真里様が急にお倒れになり入院することになった。
体調がよろしくないのは前からだったが、そこまで病状が深刻だとは知らなかった。
今はまだ大丈夫だが、ゆくゆくは腎移植も視野に入れる必要があるなんて。
暗い顔をしていたら蔵に気を使われてしまった。優しい子だ。
2015/4/30
手術が無事成功した!真里様はすぐに元気になるだろうというお医者様の太鼓判が有難い。
なんでもたまたま移殖用の腎臓が余っていたということだが、そんなことがあるのだろうか?何にしろ幸運に感謝したい。
2015/5/29
気のせいか、蔵の体が小さくなっている気がする。
左斜め上の手はもう少し上にあったような気がしたが。
痩せた?
2015/8/2
蔵の目が一つ無くなった。
慌てて問い質すと蔵はにんまり笑って「あげた」と言った。
「僕はいらないから、困っている人に届くように」って。
真里様に移植された腎臓も、もしかしてそういうことなのか?
2016/9/8
蔵の体はだんだんと小さくなっていく。
顔のパーツは上部に収まり、腕も4本まで減っている。
3本の足で不格好ながらも立って歩くことができるようになった。
ひょっとすると、と期待してしまう自分がいる。
2016/12/25
ついに蔵様の体が普通の人間の体になった。
一人で地下蔵からお出になった時は涙を抑えることが出来なかった。
真里様と蔵様が抱きしめ合う日が来るとは思いもよらなかった。
最高のクリスマスプレゼントになった。
2017/4/3
今日、蔵様が小学校に転入なさる。
初めての学校だが教育に関してはしっかり教えてきたので問題ない。
最近は走るのも上手くなってきた。
4年生なのに新品のランドセルを背負っているのは少し可笑しいだろうか?
2017/4/13
学校に行けて蔵様は毎日楽しそうだ。
真里様に今日あったことを嬉しそうに話している。
それを聞く真里様の笑顔はここ何年か見られなかったものだ。
かけっこで転んだという話すらほほえましい。
2017/5/26
蔵様が普通の体になって何か月も経つが未だに信じがたい。
それで毎朝真里様と蔵様が一緒に楽しく食事をする光景を見てホッとする。
こんな幸せな日が続くなんて、奇跡は本当にあるんだなと思う。
2017/10/30
左うでから先がない
どうして
手記を基に平坂御殿内にある倉庫内部を探索した結果、地下に続く階段が発見されました。地下は複数の牢屋で構成されており、うち一つの牢屋内部で脈動するヒトの心臓が発見されました。この"心臓"はSCP-2896-JPとDNAが一致しており、日奉蔵氏の心臓であると判定されました。
補遺2896-JP.3: 調査終了報告
回収された"心臓"が消失したことが確認されました。これまで確認されたSCP-2896-JPは一般男子5人分の90%にあたる分量が把握済みです。手記から日奉蔵氏は5人分の人体からなる実体でしたが、その構成部位は2015年頃から臓器移植機関等に転移していたことが判明しています。よって最後の臓器である心臓が消失したことでSCP-2896-JPの発生がこれ以上起こりえず、追跡の必要性も低いとみられることから追加のSCP-2896-JPに対する調査は不要と判断されました。SCP-2896-JPの出現が長期間見られないことが確認され次第、SCP-2896-JPはNeutralized認定が行われる予定です。
補遺2896-JP.4: 要観測事例の発生
日本臓器移植ネットワークに検体者が"イサナギマリ"とされる肝臓が登録されました。入手手段はSCP-2896-JP同様明らかとなっておらず、DNA鑑定から日奉蔵氏の母親である日奉真里氏のものであると確認されています。
補遺2896-JP.5: 再発
過去にSCP-2896-JPを移殖したSCP-2896-JP-Rが失踪し、その臓器 (以降、SCP-2896-JP-1) が不明な経路で臓器移植機関に提供されている例が多数報告されています。SCP-2896-JP-Rは財団が把握していないものも含め500人ほど存在することが考えられます。
SCP-2896-JP-Rに移殖されたSCP-2896-JPの除去や、SCP-2896-JPである血液を輸血されたSCP-2896-JP-Rの全身血液交換を試みましたが、SCP-2896-JP-Rの失踪およびSCP-2896-JP-1の出現阻止には至っていません。
補遺2896-JP.6: 伝染
過去にSCP-2896-JP-1を移殖した人間が失踪し、その臓器 (以降、SCP-2896-JP-2) が不明な経路で臓器移植機関に提供されている例が報告されました。これまでSCP-2896-JP-1であると判明した臓器の移殖や輸血例は10000に上っています。



