発見現場でのSCP-2909-JP群の外観
アイテム番号: SCP-2909-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-2909-JPはサイト81██の標準低危険物収容室に収容されています。SCP-2909-JP-1に対する実験はセキュリティクリアランス2以上の職員の監督の下、Dクラス職員を用いて実施してください。また、SCP-2909-JP-2には健康観察及び心理セラピストによるカウンセリングを毎日実施し、容体に変化があれば各種医療措置及びAクラス記憶処理を実施してください。
説明: SCP-2909-JPは異常性を有する5個の仮設トイレ群です。SCP-2909-JPの外装および内装は破壊不能ですが、SCP-2909-JPを個々の仮設トイレに分離し輸送する事は可能です。
個室内にはそれぞれ共通の異常性を有する5体の人型実体(以下、SCP-2909-JP-1個体、またはSCP-2909-JP-1-A〜Eと表記)が便座に座った状態で静置されています。SCP-2909-JP-1個体の顔面は身元の特定が困難な程に削れており、眼球は除去されています。SCP-2909-JP-1-A〜Eの服装は性別・年齢に相応のものであり、また下半身の衣服および下着は足下にずらされており一般的な洋式トイレ利用時の格好を再現しています。ずらされた衣服および下着をSCP-2909-JP-1個体に履かせる試みはSCP-2909-JP-1群の有する異常性により失敗に終わっています。SCP-2909-JP-1-A〜Eは死体あるいは脳死患者の状態に相当すると推測されますが、皮膚には死体特有の乾燥や死斑、および腐敗の兆候は認められません。またX線撮影の結果、SCP-2909-JP-1個体には脳や腸管を除き内臓が存在しない事が判明しました。これらSCP-2909-JP-1個体を便座から脱離させる試み、及び生体試料を採取する試みはSCP-2909-JP-1個体の有する異常性により失敗に終わっています。
SCP-2909-JP-1個体に動物の素肌及びヒトの摂食可能な食品(以下、対象と表記)が接触した瞬間、対象は未知の手段により現場から消失します。動物及び食品を手に持った人物が持っている動物及び食品をSCP-2909-JP-1個体に接触させた際は持っている人物ごと消失しますが、持っている動物及び食品をSCP-2909-JP-1個体に投げたり落下させる形で接触させる、あるいはトングの様にヒトの摂食不可能な物体を介して間接的に動物及び食品を接触させる事により、実験者が転移する事なく転移現象を起こす事が可能です。
SCP-2909-JP-1個体の座る便器の隣にはスイッチ1が存在します。このスイッチを人為的に押す事は不可能ですが、前述の対象消失現象が起こった後に自律的に動きます。その後、SCP-2909-JP-1個体に触れて現場から消失した対象(以下、SCP-2909-JP-2と表記)が自身の接触したSCP-2909-JP-1個体の存在するトイレ個室の前に再出現し、対象を消失させたSCP-2909-JP-1個体が約10秒かけて排便します2。この一連の現象をイベント-2909-JPと呼称します。イベント-2909-JPは対象の消失から再出現まで最短で74秒、最長で約32日要します。
イベント-2909-JP 終了後、SCP-2909-JP-2は昏睡状態に陥っており、再出現後10~31時間後に覚醒します。昏睡中のSCP-2909-JP-2はレム睡眠時に近い状態となり、急速眼球運動や覚醒時同様の脳波が観測されますが、外部からの刺激によって覚醒することはありません。また、昏睡中のSCP-2909-JP-2は重度の精神的ストレス下に置かれており、度々うわ言を発します。
昏睡状態からの覚醒後、対象は重度の精神的苦痛を訴え、自傷行為の実施及び拒食症の兆候が認められます。これらの症状はクラスA記憶処理の実施により若干の緩和が認められますが、完治には至りません。この症状はイベント-2909-JPの際にSCP-2909-JP-2が経験したとされる体験に起因すると推測されています。
SCP-2909-JPは20██年2月頃に日本国内での著名人5名が突如行方不明となった事件を契機に財団の注目を集めました。その後20██年5月11日の午後1時34分、██県██市にて開催された野外イベントの会場にて参加者の米川 ██氏(11)が行方不明となり、通報を受けて捜査に及んだ警察官のうち3名もSCP-2909-JP-1個体に接触したため現場から消失した事件にて財団により回収されました。現場から消失した警察官は同日午後5時42分までに全員がSCP-2909-JP前に再出現しましたが、それ以前に行方不明となった米川氏の行方は未だ不明です。 研究記録を参照してください。
証拠写真記録は███県警察に潜入していた財団エージェント・向井により抹消され、第一目撃者及びイベント-2909-JPを目撃した警察官を除く捜査担当の警察官にはAクラス記憶処理が施されました。またSCP-2909-JP-1個体に接触し消失・再出現を経験した警察官3名はSCP-2909-JP-2に指定され、昏睡中にサイト81██に輸送され経過観察対象となりました。昏睡状態から覚醒後、警察官は錯乱状態に陥っており、比較的心的外傷が軽微であった1名を除く2名は時間経過後も精神状態がインタビューに応対できる程には回復しませんでした。
以下、イベント-2909-JPを目撃した警察官・北野氏へのインタビュー記録になります。
インタビュー記録2909-JP-001 - 日付20██/5/14
対象:北野 ██氏
インタビュアー: Agt.向井
付記: 20██/5/11時点でサイト81██にてSCP-2909-JP-2として暫定的に収容し、経過観察中。事件当時は錯乱状態であったが、精神的苦痛が比較的軽微であり、インタビューに応対できる程度に回復している。
<録音開始, (20██/5/14 14:30)>
Agt.向井: インタビューへのご協力感謝致します。当事件に関して、可能な範囲でお教えください。不可解であったり異常だと思われる内容であっても差し支えありません。
北野氏: ……はい。信じられないと思うのですが、あの仮設トイレの中の人間に触ったらいきなり暗くてぬかるんだ場所に移動して……
Agt.向井: 暗い場所に移動、ですか。北野氏: はい…… その後懐中電灯で辺りを見回そうと思ったら、入れていたカバンごと無くなっていたのに気付いて、なのに辺りがやけに明るいなって思ったら…… 光ってたんです…… 自分が……
Agt.向井: あなた以外に光っていたものはありませんでしたか。例えば共同で捜査に当たった警察官とか……北野氏: ……分かりません。でも辺りで光っていたのは自分だけだった正直幻覚でも見てたのかと思いました。でも感覚はいたって正常で、むしろ冴えてる方だったと思います。そうしたら……
北野氏: だんだんと足元の水の量が増えていって、その水も何だか強い酸みたいに痛くて、熱くて…… 更に周りの壁や天井が狭くなっていって圧迫されて…… [呼吸が荒くなる]
北野氏: 次第に自分の身体が溶けて崩れ始めて…… なのにまだ感覚もあって……![嗚咽]
Agt.向井: 大丈夫でしょうか。無理のない程度で差し支えありません。
[9秒嗚咽]北野氏: ……ありがとうございます。そうして苦しんでたら…… いきなり視界が変わって……
北野氏: 自分がトイレの便器に流されている映像か何かが見えたんです…… その後は、済みません、覚えていません…… でも何か…… 目覚めてからずっと幻聴が聴こえたりして……! [嗚咽]Agt.向井: ……具体的にはどの様な幻聴が?
北野氏: 「まずい」って……北野氏: ずっと頭から離れないんです…… あと、口の中もずっと気持ち悪くて…… 何度口をすすいでも歯磨きしても取れないんです…… もう訳が分からなくて……
Agt.向井: ……ありがとうございます、参考になります。それでは、これにてインタビューを終了致します。ご協力ありがとうございました。<録音終了, (20██/5/14 14:36)>
終了報告書: インタビュー後、北野氏にクラスA記録処理が施されたが、前述の幻聴及び不快感の改善には至らなかった。また、口腔内の検査も行われたが特筆すべき異常は認められなかった。また、北野氏の証言曰く、同時期にSCP-2909-JP-1個体に接触した場合でも接触者の転移先は異なる事が示唆された。他の警察官2名は精神錯乱の症状が酷く3、インタビューが不可能であった事から、Dクラス職員を用いた検証を希望する。- Agt.向井
以下は研究記録になります。
実験は御園生みそのう博士監督の下実施されました。
実験記録2909-JP-001 - 日付20██/5/15~20██/5/19
被験者: D-2909-JP-1~5(全員GPS、ヘッドライト、無線ビデオカメラ、無線機を装備)
実施方法: D-2909-JP-1~5がSCP-2909-JP-1-A~Eにそれぞれ素手で接触する。
結果: D-2909-JP-1~4はそれぞれ実験現場から消失し、被験者の装備していた各種通信信号は途絶した。しかし、SCP-2909-JP-1-Eに接触したD-2909-JP-5のみ現場から消失しなかった。
被験者の消失終了後、 SCP-2909-JP-1全個体の座る便器の隣のスイッチが動き、イベント-2909-JPが発生。その後に消失した被験者が自身の接触したSCP-2909-JP-1個体の存在するトイレ個室の前に再出現した。再出現した被験者の順番と消失からの時間は以下の通り。
被験者 消失から再出現までの時間 D-2909-JP-3 8分13秒 D-2909-JP-2 47分47秒 D-2909-JP-1 約3時間 D-2909-JP-4 約4日 分析: 発見前の事件と同様、SCP-2909-JP-1個体に接触した人間は現場から消失し、再び現場に出現した。消失から再出現までの時間を決定する要因を今後の考察対象とする。またSCP-2909-JP-1-Eに接触しても消失現象が起こらなかった。SCP-2909-JP-1-E横のスイッチが押されているままである事から、イベント-2909-JPが現在も進行しているという事なのか。- 御園生博士
1回目の実験後、SCP-2909-JP発見当時にSCP-2909-JP-2に指定された警察官3名及び被験者となったDクラス職員の身元調査を行ったところ、精神錯乱の激しかった警察官2名、及び消失から再出現までの時間が相対的に長かったD-2909-JP-1とD-2909-JP-4では特に健診結果が低評価であり、食生活にも乱れが生じていた事が判明しました。またD-2909-JP-4は特に肥満の傾向が顕著であり、Dクラス職員雇用後も食事において他のDクラス職員に野菜料理を押し付けたり、肉料理や炭水化物料理を奪い取る等の独善的な行為を行っていた事が他のDクラス職員への聴取により判明しました。
実験2909-JP-001後、D-2909-JP-4が、昏睡状態から覚醒後にDクラス職員居室内にて意味不明な内容の叫び4や謝罪の内容の叫び5、及び自傷行為を行った後、自身の舌を噛み切って喉に詰まらせた事により窒息死しました。
実験2909-JP-001後、対象の消失から再出現までの時間を決定する要因の解明を目的として更なる実験が実施されました。
実験記録2909-JP-002 - 日付20██/5/29
被験者: マウス(15匹、マウスの種類を示したGPS機能を搭載した小型装置を各個体に装着)
実施方法: SCP-2909-JP-1-A~Eにそれぞれマウスを接触させる。接触させるマウスの種類は以下の通り。
- 乳成分を配合した飼料で飼育した生後10日マウス(以下、乳成分マウスと表記)
- 野菜成分を配合した飼料で飼育した生後10日マウス(以下、野菜成分マウスと表記)
- 乳成分と野菜成分を共に配合した飼料で飼育した生後10日マウス(以下、混合マウスと表記)
マウスがSCP-2909-JP-1-A~Eに接触し消失した後、各個体が再出現するまでの時間をGPSの信号の信号の途絶から回復までの時間から計測する。
結果: SCP-2909-JP-1-Eに接触したマウスを除き、SCP-2909-JP-1-A~Dに接触したマウスは実験現場から消失した。各マウス個体の消失終了後、 SCP-2909-JP-1全個体の座る便器の隣のスイッチが動き、イベント-2909-JPが発生。その後に消失した各マウス個体が自身の接触したSCP-2909-JP-1個体の存在するトイレ個室の前に再出現した。再出現した各マウス個体の順番と消失からの時間は以下の通り。

各マウス個体の消失から再出現までの時間
分析: 野菜成分を摂取し続けていたマウスは消失から再出現までの時間が相対的に短く、一方乳成分のみを摂取していたマウスは消失から再出現までの時間が顕著に長かった。SCP-2909-JPの異常性は対象の食生活の内容に密接に関係する事が判明した。また、SCP-2909-JP-1-Eにより行われていると推測されるイベント-2909-JPは未だに終了する気配が無い。 - 御園生博士
実験記録2909-JP-003 - 日付20██/5/30
被験者: D-2909-JP-6~10(全員GPS、ヘッドライト、無線ビデオカメラ、無線機を装備)
結果: SCP-2909-JP-1-Eに接触したD-2909-JP-10を除くD-2909-JP-6~9はそれぞれ実験現場から消失し、被験者の装備していた各種通信信号は途絶した。被験者の転移終了後、 SCP-2909-JP-1全個体の座る便器の隣のスイッチが動き、イベント-2909-JPが発生し、その後消失した被験者が自身の接触したSCP-2909-JP-1個体の存在するトイレ個室の前に再出現した。被験者の順番と消失からの時間は以下の通り。
実施方法: D-2909-JP-6~10がSCP-2909-JP-1-A~Eにそれぞれ素手で接触してイベント-2909-JPを発生させ、再出現した後、昏睡状態に陥っている被験者の脳波の測定データを基に脳情報デコーディング技術を用いたSCP-2909-JP-2の見る夢の可視化を実施する。
また、脳情報デコーディング技術により可視化された夢の内容は以下の通りであった。
被験者 消失から再出現までの時間 D-2909-JP-7 7分43秒 D-2909-JP-6 32分20秒 D-2909-JP-9 46分38秒 D-2909-JP-8 約8時間
被験者 夢の内容 D-2909-JP-7 暗所にて拘束され、何者かにより解剖された後、便器内に自身を模した人形が流される映像が流れる夢。 D-2909-JP-6 赤熱した鉄板の上で数分焼かれた後、便器内に自身を模した人形が流される映像が流れる夢。 D-2909-JP-9 高さ推定10m以上の巨大なミキサーに入れられ、[編集済み]された後、便器内に自身を模した人形が流される映像が流れる夢。 D-2909-JP-8 「抜粋ログ2909-JP-001」を参照。 抜粋ログ2909-JP-001 - 日付20██/5/30
対象: D-2909-JP-8付記: SCP-2909-JP-2の見る夢の内容が単一でなく、時間の経過毎に変化した例。
《00:00:06》 D-2909-JP-8とされる人物(以下、D-2909-JP-8と表記)が瞼を開く一人称視点からイメージ映像は開始。
D-2909-JP-8: 何……だ……?どこだここ……?
《00:00:15》 D-2909-JP-8は自身の上体や腕を起こそうとする。
D-2909-JP-8: うんっ! ううんっ! ……くっ、何で起きられないんだ……?
《00:00:30》 視点が急に移り、磔にされたD-2909-JP-8のイメージ映像が映る。腹部から胸部にかけて切開された形跡が認められる。本来であれば致命傷であるはずであるが、依然としてD-2909-JP-8は発話を続ける。
D-2909-JP-8: ……何だよこれ! ……誰だ!!こんな事した奴は誰だ! おい!
《00:00:42》 謎の人物の声が反響する。
謎の声: ……お目覚めの様ですね。D-2909-JP-8: 誰だ!? 今喋った奴は! 出て来い! 説明しろよ!
《00:00:48》 黒服を着た人物がD-2909-JP-8の磔台の背後から現れる。
黒服: ええ。これは下準備です。 今から少しばかり貴方にプレゼンテーションをご覧になっていただきます。貴方の五臓六腑に再教育して差し上げましょう。プレゼンテーションが終われば治りますよ。それでは。
《00:00:50》 黒服が消失し、視点は再びD-2909-JP-8のものへと移る。映画館を彷彿させるスクリーンが出現する。D-2909-JP-8: ふざけんな! おい!! 逃げるな!
《00:01:00》 スクリーンに以下の映像が映し出される。

スクリーンに映し出された映像
《00:01:10》 黒服がナレーターとして語り出す。
黒服: 今日の人間の食卓において、肉料理はもはや主食に等しい存在として文字通り人口に膾炙かいしゃしています。しかしそれは本当に正当な文化なのでしょうか。 一時の気の迷いから生じた集団幻覚なのではないのでしょうか。それではある家庭の食卓を垣間見てみましょう。
《00:01:30》 映像が一般的な家庭の食卓を映したものに移る。
母親とされる実体: 今日は██6の大好きなハンバーグだよ。
息子とされる実体: やったー! ありがとうママ!
父親とされる実体: よく味わってな。
《00:01:51》 映像が一時停止し、黒服が画面外から歩いて登場する。
黒服: これではいけませんね。 本来はこうでしょう。
《00:02:20》 食卓に並べられたハンバーグ及びその他の肉料理が正体フルーツサラダの様な料理を載せた皿に変化する。
母親とされる実体: 傀儡、不慮の災禍によりその天恵を喪う。息子とされる実体: 時の満ち欠けを自問自答したが故の結末。
父親とされる実体: 無知蒙昧なる衆愚に鉄鎚を。
《00:02:29》 3体の実体がフルーツサラダの様な料理を口に運び、恍惚の表情を浮かべる。
3体の実体: アヒンサー7……
《00:02:35》 3体の実体の頭部が二股に割け、互いに樹木の様に絡み合った構造へと変化する。その後、変化した頭部からはバラ科植物の花卉かきが複数個形成される。
《00:02:50》 再び映像が一時停止し、黒服が画面外から歩いて登場する。
黒服: いかがでしたか。肉食から離れる事で、人は更なる幸福の境地に至れるのです。さて、次に進みましょう。
《00:03:04》 映像が昼のサバンナの風景を映したものに移る。ヒョウ(Panthera pardus)型実体に追いかけられる人型実体の様子が映される。人型実体: 地に満ちるには時期尚早です!
《00:03:12》 人型実体がヒョウ型実体の攻撃を受け、倒れる。
人型実体: あなや!
《00:03:24》 ヒョウ型実体が人型実体を捕食する。
ヒョウ型実体: うむ、水気が多い。 クリエイターはユーザーのニーズをアンダースタンド?
《00:03:30》 映像が一時停止し、黒服が画面外から歩いて登場する。
黒服: いいですか、搾取とは元来こういうものです。覚悟無きものは去りなさい。それでは次に進みましょう。
《00:03:40》 映像が夜の祭壇と思われる場所を映したものに移る。祭壇に白い布を纏った少女が現れる。少女: どうか…… どうか加護をお与えください…… 私めの命が代償に足るなら……
《00:03:49》 祭壇前に巨大な白い蛇の様な実体が出現し、祭壇に居る少女を牙で噛み殺し、飲み込む。
蛇の様な実体: 阿鼻叫喚の巷に在りながら、沼池しょうちにて咲く蓮の花の如き赤褐色のティラミスの神髄を見た。カレールーへの造詣の深さよ。
《00:04:00》 映像が一時停止し、黒服が画面外から歩いて登場する。
黒服: 「あなたが食べられる事で共同体は救われる」と知った時、あなたはその身命を捧げられますか?《00:04:11》 映像が工場の様な場所を移したものに移る。ベルトコンベアー上に衣服を着た人型実体が直立した状態で多数流れてくる。
人型実体: コンパイル。コンパイル。コンパイル。[以下繰り返し]
《00:04:18》 ベルトコンベアー上の人型実体がロボットアームにより衣服を除去され、その後別の機械を通過し体毛が除去される。
人型実体: コンパイル。コンパイル。コンパイル。 [以下繰り返し]
《00:04:31》 その後、肥満体形や痩せ過ぎな体形、及び皮膚疾患や腫瘍を有する人型実体がロボットアームによりベルトコンベヤー上から排除される。
排除される人型実体: 浄土か地獄か、辺獄か……
排除されなかった人型実体: さらば此岸…… いざ行かん……
《00:05:15》 その後、ベルトコンベアー上に残存した人型実体は各種処理を受け、各部位ごとに解体される。
《00:06:00》 映像が一時停止し、黒服が画面外から歩いて登場する。
黒服: 「あなたを食べたい誰かがいる」と知った時、あなたはその身命を「誰か」も知らない存在に捧げられますか?
《00:06:12》 映像が再び家庭の食卓を映したものに移る。しかし、テーブルを囲んでいるのはそれぞれ頭部がウシ(Bos taurus)、ブタ(Sus scrofa domesticus)、及びニワトリ(Gallus gallus domesticus)の3体の人型実体である。ウシ: さあ皆、恵をいただきましょう。
ブタ: 森羅万象に感謝。
ニワトリ: 天地神明に誓願を。
《00:06:25》 3体の実体がテーブルに盛り付けられた料理を口に運ぶ。料理はヒトの骨盤に盛られたシチュー、頭蓋骨に盛られたピラフ等。使用具材は不明。3体の実体: う……うっ!
《00:06:30》 3体の実体が激しく嘔吐し、吐瀉物によりテーブル上の料理を流し去る。
ウシ: 訴訟。
ブタ: ゆるさない。
ニワトリ: 天地が返っても決して。
《00:06:40》 映像が一時停止し、黒服が画面外から歩いて登場する。
黒服: 命を消費された挙句非難される、その不条理にも耐えられますか?《00:06:45》 映像が磔にされたD-2909-JP-8を映したものに戻る。
黒服: いかがでしたか。肉食とは搾取の極みなのです。すぐにでも我々人類が脱却しなければならないフェイズなのです。ご理解いただけましたか?
D-2909-JP-8: 承知の助、消沈!
《00:07:00》 D-2909-JP-8の頭部が二股に割け、互いに樹木の様に絡み合った構造へと変化する。その後、変化した頭部からはバラ科植物の花卉が複数個形成される。
《00:07:30》 便器内にD-2909-JP-8を模した人形が流される映像が流れ、画面中央に大きく「終」の字が表示される。
分析: 被験者に確認した結果、夢の内容はイベント-2909-JP中に被験者自身が体験した内容と同様であったと証言していた。それにも関わらず被験者は五体満足で現場に再出現するが、その機序を解明するのはGPSやビデオカメラ通信等の信号が途絶するため容易ではないと推測される。
また、タイトル映像における"Black-Clad Anticarnism"は準要注意団体「 黒服のアンチカーニズム8」を指し、SCP-2909-JPは当団体の作品である可能性が高い。- 御園生博士
今後のデータ採取の可能性を考慮し、イベント-2909-JPによる心的外傷からの自殺を防止するため、D-2909-JP-8は冷凍冬眠装置にて保管する事となりました。
事案2909-JP
20██年6月6日の午前6時21分、SCP-2909-JPの発見当時(20██年5月11日)以来行方不明とされていた米川 ██氏(11)がSCP-2909-JP-1-Eの座る個室トイレの正面に昏睡状態で出現しました。消失から再出現までの期間は異例の26日間となった例です。
それまでの研究結果より、米川氏が覚醒した際はイベント-2909-JPに起因する極度の心的外傷により不測の事態が発生する事が懸念されたため、昏睡状態の内に脳情報デコーディング映像を採取しその後は冷凍冬眠装置にて保管する運びとなりました。
実験記録2909-JP-003 - 日付20██/6/6
実験対象: 米川 ██(イベント-2909-JPを経て昏睡状態)
実施方法: 脳波の測定データを基に脳情報デコーディング技術を用いた米川氏の見る夢の可視化を実施する。
結果: 「抜粋ログ2909-JP-002」を参照。
抜粋ログ2909-JP-002 - 日付20██/6/6
対象: 米川 ██
付記: 消失から再出現までの期間が異例の26日間となった例。
《00:00:06》 米川氏とされる人物(以下、米川氏と表記)が瞼を開く一人称視点からイメージ映像は開始。
米川氏: ここは……? どこ……?《00:00:15》 米川氏は自身の上体や腕を起こそうとする。
米川氏: 何で起きられないの? 何でだ?
《00:00:20》 黒服の声が反響する。
黒服: おや、目が覚めたようですね。
《00:00:30》 視点が急に移り、磔にされた米川氏のイメージ映像が映る。米川氏の腹部から胸部にかけて切開された形跡が認められる。本来であれば致命傷であるはずであるが、依然として米川氏は発話を続ける。
米川氏: うわっ、なにこれ!? 何でこうなってるの? 何で僕は平気なの!?
《00:00:40》
黒服: 安心してください。 これは下準備です。今から貴方に素晴らしいプレゼンテーションをご覧になっていただきます。貴方の五臓六腑に再教育して差し上げましょう。プレゼンテーションが終われば治りますよ。それでは。
《00:00:50》 黒服が消失し、視点は再び米川氏のものへと移る。映画館を彷彿させるスクリーンが出現する。その後「抜粋ログ2909-JP-001」の《00:01:30~00:06:40》における各場面が5回繰り返し流れる。
《00:26:40》 映像が最初の場所を映したものに戻る。黒服: 何故君にはこれほど念入りに「再教育」を施すのか分かりますか?これからお教えしましょう。君には貪食の血が流れているのです。
米川氏: うっ……! [6秒間嘔吐]
黒服: 血は争えないものです。罪深き芽は早急に摘んでおかねばなりません。《00:26:50》 SCP-2909-JPが登場。その中のSCP-2909-JP-1-Eの座る個室に黒服が向かい、ドアを開けて中を見せる。
米川氏: あ…… え…… お父さん……?
黒服: いかにも。君のお父様、米川 ██9ですとも。
《00:27:00》 映像が米川氏の父とされるSCP-2909-JP-1-Eが瞼を開く一人称視点に移る。
SCP-2909-JP-1-E: ……何だ?ここはどこなんだ……?
《00:27:15》 SCP-2909-JP-1-EがD-2909-JP-8や米川氏同様に起き上がろうとするも失敗する。
SCP-2909-JP-1-E: 何だよこれ……? 縛られてるのか?
《00:27:28》 複数人の黒服が集まって作業を行っている。
黒服: これはハツ…… 次はレバーと……
SCP-2909-JP-1-E: おい、お前ら!何をやってるんだ!黒服: おや、目が覚めたようですね。そういえばあなたの好きな肉の部位は何処でしたか?
SCP-2909-JP-1-E: ……どこでも食うよ。 強いて言えばタンだけど…… そんなのいいから早く離せ!
黒服: 成る程、タン、と。 口うるさくされるのも困りものなので取ってしまいましょうか。
SCP-2909-JP-1-E: おい、や、やめろ!おい!![9秒悶絶]
《00:27:40》 黒服によりSCP-2909-JP-1-Eの舌が摘出される。
黒服: さて、次はミノですか。
《00:28:00》 映像が解剖台の上で内臓を摘出されるSCP-2909-JP-1-Eの様子を映したものに変化する。既に心臓や肝臓は摘出済みであるが、何らかの異常性によりSCP-2909-JP-1-Eは生命活動を維持している。
SCP-2909-JP-1-E: [10秒間絶叫]
《00:28:15》 映像が一時停止し、黒服が画面外から歩いて登場する。
黒服: 何故肉食を憎んでいる我々が、「ハツ」や「ミノ」といった肉食用語を用いているかって? ……皮肉に決まっているではありませんか。
《00:28:30》 映像がSCP-2909-JPの試験運用を行う黒服の一人称視点の者に変化する。黒服がSCP-2909-JP-1-Eの座る個室の扉を開く。
黒服: さあ、ご飯時ですよ。やはり肉を味わうには舌が無いと、と思い舌を治して差し上げましたよ。《00:28:40》 映像が、SCP-2909-JP-1-Eから摘出した臓器をトングにより保存用のタンクから取り出す黒服を映したものに変化する。
黒服: 拒絶反応など示さないはずですよね?なんせ貴方から取り出した内臓ですから。
《00:28:50》黒服により臓器がトング越しにSCP-2909-JP-1-Eに接触し、消失する。SCP-2909-JP-1-Eの表情は歪んでいる。
黒服: 肉食を愛した大喰らいの男が、死してなお肉食を愛する。美談ではありませんか。取り合えず動物でない対象を転移させる実験は成功としましょう。次です。
《00:29:00》 黒服がヒトとされる被験者を出現させる。被験者は出現直後激しく抵抗するも、黒服が未知の手段により身体の自由を奪う。
黒服: 次は「再教育」のテストです。さあ、どうぞ。《00:29:13》 黒服が喋り終えた後、被験者が未知の手段により滞空し、SCP-2909-JP-1-Eに向かって移動し接触する。接触した被験者は消失する。被験者が消失した後、SCP-2909-JP-1-Eの表情は完全に苦痛で歪んだものとなり、目には涙を浮かべていた。手元のタブレット端末の映像を確認しつつ黒服が呟く。
黒服: おや…… 転移には成功したものの、いちいち顔がうるさいのは厄介ですね。後で処理を行うとしましょう。
[8分経過]《00:37:39》 被験者がSCP-2909-JP-1-Eの前に昏睡状態で再出現。映像はノーカットであり、消失から再出現までの時間は約8分となる。SCP-2909-JP-1-Eは失神しながら排便している。
黒服: 「教育者」が果てるとはいかがなものでしょうか。やはりお仕置きも兼ねて処理を行いましょう。そうしましょう。《00:37:45》 映像が磔にされた米川氏を映したものに戻る。
黒服: ……いかがでしたか。肉食とは搾取の極みなのです。肉食を快楽や道楽の手段として唆す悪魔の様な存在は罰せられるべきです。すぐにでも我々人類が脱却しなければならないフェイズなのです。ご理解いただけましたか?
《00:37:55》 米川氏の憔悴した表情が映る。
米川氏: ……嫌だ。
黒服: はい?米川氏: 絶対に嫌だ。 お父さんに託されたんだ。諦めるなって。屈しちゃ駄目だって。
黒服: ほう。 まだまだ「再教育」のカリキュラムならありますが……?
米川氏: お前らのやり方は間違ってる。間違ってるんだ。黒服: ……まあいいでしょう。夢の中くらいは幸せに過ごさせてあげましょうか。ただし、起きたら最後!夢と見紛う「再教育」の幻惑が、あなたをアンチカーニズムへと誘うでしょう!もう二度と今までと同じ物は食べられません!
《00:38:10》 米川氏の身体が灰に変化し、霧散する。《00:38:20》 便器内に米川氏を模した人形が流される映像が流れ、画面中央に大きく「終」の字が表示される。この際、約0.5秒高音のノイズが発生した。
分析: D-2909-JP-8と異なり、米川氏は夢の中で黒服に抵抗を貫いたのが特筆すべき事項である。また、映像の最後に発生した高音のノイズの解析も課題である。 - 御園生博士
実験2909-JP-003により得られた脳情報デコーディング映像の最後に発生したノイズを財団音声解析チームにより解析した結果、ある音声を高速で再生したものである事が判明しました。以下はその内容です。
実験2909-JP-003後、特上の牛の焼肉をSCP-2909-JP-1個体に提供した際の反応を調べるために実験2909-JP-004が実施されました。
実験記録2909-JP-004 - 日付20██/6/6
実験材料: 牛肉(A5ランク)、焼肉用タレ(サイト内の厨房にて利用されているものを調達。)
実験対象: SCP-2909-JP-1-A~E
実施方法: SCP-2909-JP-1-A~Eにそれぞれ焼いた牛肉をタレに浸してから接触させ、SCP-2909-JP-1個体による発話の内容を記録する。
結果: 焼肉を接触させた後、イベント-2909-JPが発生。その間SCP-2909-JP-1は皆無言であったが、目元から涙を流出させていた。イベント-2909-JP終了後、SCP-2909-JP-1個体による排便は認められず、代わりに収容室内の室内監視用ハルトマン霊体撮影機によりSCP-2909-JP-1上空に5体の霊体が浮上し、その後収容室内に霧散した様子が確認された。この現象の後SCP-2909-JP収容倉庫内にて改良版カーデック計数機11により霊的発光を調べたが、霊体は観測されなかった。また、SCP-2909-JP-1個体に焼肉を接触させる、Dクラス職員により素手で接触させる等の操作を実施したところ、消失現象が発生しなくなった事が判明した。しかし、便槽内の異常空間及びSCP-2909-JPの破壊不能性は残存している事が判明した。
分析: SCP-2909-JP-1に焼肉を提供した事により、俗に言う「成仏」に相当する現象が起こったと推測される。当オブジェクトのAnomalousアイテムへの再分類を検討する。 - 御園生博士
実験2909-JP-004後、当オブジェクトはAnomlousアイテムに再分類され、同サイトの大型低危険度物品収容倉庫にて保管される運びとなりました。
また、異常性喪失後のSCP-2909-JP-1-A〜Eの生体試料を分析した結果、SCP-2909-JP-1-A〜Eは過去に日本国で行方不明になっている人物の遺体を利用したものであった事が判明しました。以下はSCP-2909-JP-1個体に利用された人物の情報です。
SCP-2909-JP-1個体 | 氏名(年齢) | 主な経歴 |
---|---|---|
SCP-2909-JP-1-A | 橋本 ██ (54) | 地域おこしの一環で地元の特産物の牛肉を取扱ったイベント「ベコフェス」を企画し、成功に導いた。 |
SCP-2909-JP-1-B | 島 ██ (52) | 有名ハンバーグチェーン店創業者。メディア出演多数。 |
SCP-2909-JP-1-C | 小野 ███ (34) | プロレスラー。自身のキャッチフレーズ「肉は資本」が20██年流行語大賞30語にノミネートされた。大の肉好きで知られる。 |
SCP-2909-JP-1-D | 高橋 ██ (32) | 女優。有名ファーストフード店のイメージキャラクターを長年担当。 |
SCP-2909-JP-1-E | 米川 ██(35) | 大食い系タレント。テレビ番組やYouTube等で活動。 |
後日、各遺体は財団フロント企業の葬儀社により葬儀が行われました。事前にSCP-2909-JP-1-A~Eの各人の事務所にて財団エージェントにより企画書等の文書改変が行われ、関係者にはクラスC記憶処理12が施される事でカバーストーリー「合同ロケ中での事故死」が展開されました。
補遺1:
実験2909-JP-004時のSCP-2909-JP-1の異常性喪失に伴い、SCP-2909-JP-2の精神的苦痛や口腔内の不快感、及び精神錯乱症状が解消された事が判明しました。また、それを受けてD-2909-JP-8や米川氏の冷凍冬眠処理を解除し覚醒させた後、精神錯乱症状を発症する事無く無事である事が確認されました。一般市民の元SCP-2909-JP-2指定者にはクラスC記憶処理及びカバーストーリー「食中毒により入院」の説明が実施された後、財団により社会復帰支援が行われました。
補遺2:
20██年6月10日、SCP-2909-JP-1-A~Eの葬儀会場にて「黒服のアンチカーニズム」を名乗る差出人による不審な文章が発見されました。以下はその写しになります。