アイテム番号: SCP-2910-JP | Level 3/2910-JP |
オブジェクトクラス: Keter | Classified |
特別収容プロトコル
SCP-2910-JP実例の収容にはサイト-310のタイプグリーン実体用の収容ユニットが用いられます。収容ユニットには3基のスクラントン-アンカーと6基のラング-サイフォンが設置されており、これらは規定の期間ごとに1基ずつ新品へと交換されます。実例には1日3回、標準的な成人ヒト型実体用の食事を1/4量にしたものが与えられます。実例が収容ユニットから外出することは禁止されます。
基底次元から接触可能な位置に滞在している未収容のSCP-2910-JP実例が捕捉された場合、現地にアクセス可能な位置の対現実改変実例部隊への通報が直ちに行われます。可能であれば確保が試みられ、それ以外の場合は遠隔からの即時終了措置が取られます。
ハドソン川協定第125条に基づき、物理的実体・ワームホール・その他の指定された形状を取るEVE表出能を持たない、軽度のタイプブルー・擬似タイプブルーが大衆社会において有するべき権利と義務のガイドラインが制定されました。これにより、旧SCP-2910-JP-A群は2001/10/31時点を以って特別収容プロトコルの適用対象から除外されました。現在、本報告書の表現は「SCP-2910-JP-A」という呼称を含まないものへと改定されています。
説明
SCP-2910-JPは食肉目の種々の小型哺乳類と類似する外見を有した異常存在であり、その容姿には強い個体差が存在します。また体組織構造は自然界に存在する如何なる生物とも一致せず、実例から採取された組織片は速やかに崩壊して灰へと変化します。
現時点で財団の収容下にあるSCP-2910-JP実例は1個体のみであり、当該個体は体長32cm・体重1.7kg、銀白色の被毛と青色の両眼を有します。財団は現時点までに少なくとも28体の異なるSCP-2910-JP実例の存在を記録しており、一部は未収容の状態で生存していると見られますが、それらが基底次元から接触可能な位置に滞在しているかは不明です。
SCP-2910-JPはヒト成人と同等の知能を有し、各個体ごとに明確な自己パーソナリティを保有しています。実例は不明な身体プロセスによる発話が可能であり、聞き手となる知性体が理解可能な言語を常に選択して用います。また実例間では何らかの不明なプロセスを経て遠隔での意思疎通を図ることが可能であると見られます。
SCP-2910-JPの主要な異常性の発露は、ヒト女性の個人に対して行われます。SCP-2910-JP実例と対象女性との間で意思疎通が試みられ、不明な一定の基準に従う合意が両者間で交わされた場合、対象女性1は 奇跡論に基づいた超常現象の限定的な制御能力を獲得し、擬似タイプブルーと呼称される状態となります。この対象はオントグリフ・キネトグリフや略式の儀礼具を用いた奇跡論的に適切な手法を介して、EVEの表出が可能となります2。ただし、触媒として何らかの物質を要求する高濃度EVEを対象が発現させた例は確認されておらず、行使可能な奇跡術は心理変調のみによって成立しうる水準の、実体を有しない光線・熱・斥力等の形態を取るものに限定されていると推測されます。表出時のバックラッシュは同伴するSCP-2910-JPによって肩代わりされ、実例が行使する現実改変により外部から認識不可能なスケールまで相殺されていると見られます。対象が影響下から脱出する手段は自身の死亡を除いて発見されていません。なお、実例が対象とした女性が生来のタイプブルーであった場合、実例が対象に対して行う改変の結果は行使できるEVE容量の増大として現れます。
SCP-2910-JP実例はタイプグリーンに分類されるヒト型実体と類似する現実改変能を保有しています。現時点までの観察において、実例は儀礼具として使用可能な箒・黒衣・杖の生成を自発的に行なっています。加えて、SCP-2910-JP実例は自身および対応する擬似タイプブルーの両者を対象として、視覚的・聴覚的な隠蔽作用の適用と一定以下の水準の熱エネルギーおよび力学的エネルギーを遮断する防護膜の展開を個別に実行することが可能であると見られます。SCP-2910-JPの現実改変能力の潜在的な限界は判明しておらず、現時点では追加の実験は許可されていません。SCP-2910-JP実例は自身が合意を交わした擬似タイプブルー実例に対し概して献身的であり、自身が致命的損傷を被るにもかかわらず対象を危機的状況から救った、または救おうと試みた例が複数確認されています。
補遺.2910-JP.1 > 9.11事件の映像記録より
2001/09/11、GoI-003(“カオス・インサージェンシー”)の中核となる部隊が主導して発生させたマンハッタン次元崩落テロ事件において、一時的に異次元空間に転移したマンハッタン市街の中でSCP-2910-JPは財団に発見されました。以下の記録は、2001/09/14〜15に財団-世界オカルト連合の合同部隊、ならびに境界線イニシアチブをはじめとする協力団体らにより実施されたマンハッタン奪還作戦の映像記録3の中から、種々のSCP-2910-JP実例の明確な関与が確認された部分を抽出したものです。事件現場にはこれらの映像に記録されていないSCP-2910-JP実例も存在していた可能性が高いことに留意してください。
なお、映像記録内で財団の職員と明確な交流を行った3体の実例を、便宜上それぞれSCP-2910-JP-1〜3と記載しています。各実例が自称する名前、異常性の対象とした女性、および現状に関しては下表の通りです。
番号 | 名前 | 対象 | 現状 |
---|---|---|---|
SCP-2910-JP-1 | “クエリ” | リータ・ハクスリー(ブルックリン在住の一般市民) | 実例は財団の収容下で健在。対象は解放済み。 |
SCP-2910-JP-2 | “リドル” | シビル・レイランド(“啓示されし者たちの軍”4所属エージェント) | 実例は2001/09/15に事件現場で死亡したものと考えられる。対象は健在。 |
SCP-2910-JP-3 | “ヘキサ” | PoI-4056(“アリソン・チャオ”) | 実例・対象ともに行方不明。 |
Record 2001/09/14 - 160011
機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 ルドルフ・パウゼマン
- オカルト部門主席研究員 ランドール・ハウス
- 機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)・Ζ-23(“バッカスの酒”)部隊員
【2001/09/14 20:37より再生開始】
[Ο-16・Ζ-23両部隊はバックドア・ソーホーからマンハッタン島内への進入を完了している。ソーホーを含む市街地の上空は濃紅色の雲に覆われ、カック灰の激しい降灰に晒されている]
Ο16-アルファ: 全隊員の装備、チェック完了。聖水タンクの残量、97%。
Ο16-デルタ: 防塵マスクと携行アンカーも問題なし。
Ζ23-アルファ: こちらも全隊員のチェックを完了した。多重次元移動による各種機器の損耗は想定の範囲内に留まっている。
パウゼマン: 宜しい。マンハッタン救援隊の中心となるΝ-7を含む第1隊は、南西のワールドトレードセンター(WTC)へと進軍している。第2隊である我々Ζ-23の担当は島の中央部のテロリストを制圧することだ。
Ο16-ベータ: 硫黄の臭いは、テロ初日の視察時そのままです…息が詰まる。ここには今も大量の悪魔がいるはずです。
ハウス: イエス。確認した通り、Ο-16の皆さんの主な仕事は、避難が完了していない住民をインサージェンシーが召喚した多数の悪魔実体から保護することです。
Ζ23-ベータ: それだけで済めばいいんだがな。顔をもっと上げてみろ。
[カメラが上方を向く。グリニッジビレッジ方面に体高90m程度の二足歩行する乳白色のエネルギー実体(UE5-1109-B6と指定)が闊歩する姿が見える。実例の頭部はウシの頭蓋骨に類似し、カメラとは反対側を向いている]
ハウス: ワオ、悪魔よりよっぽど戦闘力のありそうな奴がいますね。話には聞いていましたが、こうやって見ると迫力が違う。
パウゼマン: 呑気なことを宣うなハウス。テロリストはマンハッタンにこの世のありとあらゆる異常存在を持ち込んでいる。次元連絡口周辺の敵は先進隊が多大な犠牲の末に撃退済みだが、そこから先は訳の分からない連中が未だにウヨウヨしとるぞ。
Ζ23-アルファ: 我々はその全てから民衆を保護しなければならない。総員に告ぐ、常に周辺の状況を確認し、敵対行動をとりうる実体には先制攻撃を躊躇するな。
Ο16-ベータ: おや、あれは何でしょう?巨大実体の背後に何か見えますね。
[Ο16-ベータはUE-1109-Bの後方を指で示す。黒衣を身につけた3人の擬似タイプブルーが、UE-1109-Bの背後をつけるように飛行している。それらは不明な物体に跨っているように見え、視覚的に明らかな動力源は確認できない]
Ο16-ガンマ: あれは…魔女か。それも、かなり古典的な。21世紀に箒だなんて。
パウゼマン: 危険性の見積もりはできるか?
Ο16-ベータ: 現状、彼女らはエネルギー実体の移動を注視しているように見えます。それとの関係性次第では、我々と敵対する可能性が十分考えられるでしょう。
パウゼマン: それならば話は決まりだ。我々の任務の一環として、2種類のアノマリーの追跡を行う。対象のサイズおよび空中での機動性を考えると、奴らを放置するといずれはWTC方面に手を出す可能性がかなり高い。Ν-7に余計な負担をかけさせるな。
ハウス: わかりました、パウゼマン。当面のところ、魔女たちの移動先は私たちの目的地と重なっているようです。悪魔の駆除を続けながら彼女らの動向を追いましょう。
Ζ23-アルファ: 了解した。これよりZ-23およびΟ-16はグリニッジビレッジへ移動を開始する。
Ο16-ゼータ: 抜かるなよ!一寸先には真っ赤な闇が広がってるからな!
[UE-1109-Bは擬似タイプブルーらと共にグリニッジビレッジを北進し続けている]
【中断】
Record 2001/09/14 - 160043
機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 ルドルフ・パウゼマン
- オカルト部門主席研究員 ランドール・ハウス
- 機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)・Ζ-23(“バッカスの酒”)部隊員
【2001/09/14 21:12より再生開始】
[Ο-16とΖ-23の両部隊はグリニッジビレッジのブロードウェイを北上中。周囲には多くの妖魔界実体が倒れており、UE-1109-Bはユニオン・スクエア付近で停止中]
ハウス: 悪魔の処理に関してはラスベガスの時よりは大分マシな感じですね。酒も娼婦もあそこと比べたら全然少ないですから。金はもっと多いかもしれませんけど。
パウゼマン: 我々は用意する装備をもう少しよく吟味すべきだったかもしれんな。わざわざフーバーダムの連中を急かす必要が本当にあったかどうか。
[進行中の両部隊の足元には夥しい血痕が残されている]
Ζ23-イプシロン: 先遣隊の戦闘の激しさが目に見えるようだ…悪魔共よりもっと悪辣な輩のせいだろう。彼らの犠牲を無駄にするわけにはいかない。
Ο16-デルタ: 遺体の全数が回収できているのは幸いだった。こんな降灰の激しい地帯に残していたら、何に化けて出るか分かったもんじゃないからな。
Ο16-ガンマ: 止まって!前から誰か出てきた。
[機動部隊から50mほど前方に、脇の路地裏からフラフラと歩き出た女児(リータ・ハクスリー)が映る]
ハクスリー: 誰かいないの?私、もう-
[ハクスリーの呟きは咳嗽によって中断される。彼女の衣服は一部が擦り切れている]
ハウス: 避難者でしょうか?
Ο16-イプシロン: 危ない!いま表に出たら-
ハクスリー: [悲鳴]
[道路の向かい、放棄されたバリケードの残骸の上から直径50cm程度の光球がハクスリーへと突進し、対象は路地裏へと吹き飛ばされる。ほぼ同時に、3発の銃声が記録される]
ハウス: まずい!襲われたか!
パウゼマン: 総員、現場へと向かえ!
[女児の立っていた歩道に2発の弾痕が認められる]
Ο16-ベータ: 狙撃されたようです。おそらく、CIの伏兵がこの辺りの建物の中にいるでしょう。
Ζ23-デルタ: 路地裏の様子を確認しないと-
[路地裏より不明なくぐもった声が記録される]
不明な音声: 今から、ボクが君を守るよ、リータ。
[路地裏より突如として強い光が発生する]
Ζ23-デルタ: なんだ!何も見えないぞ!
[強い発光の収束後、改めてΖ23-デルタが路地裏を確認する]
Ο16-ガンマ: どうだ?彼女は無事か?
Ζ23-デルタ: 分からん。光の玉だけが見える。確かに声は聞こえるんだが。
[光球は路地裏の5mほど上空まで上昇し、輝きを弱める。光が消えた時、そこには擬似タイプブルーとなったハクスリーが存在する。対象は擦り切れた衣服の上から黒衣を纏い、素朴な意匠の杖を握り、箒から斥力を発生させて浮揚しているように見える。対象の肩にはSCP-2910-JP-1が乗っている。実例はフェネックギツネに類似した外見を有し、銀白色の被毛に覆われている]
Ζ23-ベータ: 新たな魔女が生まれたのか?
[SCP-2910-JP-1がハクスリーと会話している]
SCP-2910-JP-1: 多分、あの空いてる窓に犯人がいる。教えた通りやってみて。
ハクスリー: クエリ、だっけ?ありがとう、私、やってみる。
[ハクスリーが時速12km程度の速度で飛行し、通りの向かいの建物の空いている窓へと突撃する。実例が杖を振ると、突風が吹き起こったように見える。窓から突き出したライフルの銃身が屋内へ吹き飛ばされる瞬間が映る]
ハウス: 確かに彼女は魔女として振舞っているように見えます。
Ζ23-ガンマ: 窓の中に何がいたかはっきりと確認できなかった。テロリストへの仕返しならまだ良いが、相手が一般住民だったらどうする気なんだ?
パウゼマン: おのれ!余計な敵対者候補が増えおったか。あれが巨大エネルギー実体と合流するようだと不都合だ。
Ο16-ベータ: どうします?北上を続けますか?それともあの魔女を?
ハウス: うーむ、悪魔の方は比較的落ち着いていますし、ここで二手に別れてもいいと思います。私たちΟ-16はあの子の方へ、パウゼマン他Ζ-23は怪物の方へ。どうですか?
Ζ23-イプシロン: 待て、数時間前に血みどろの戦闘があった場所で無闇に部隊を分けるのは危険じゃないか?
Ο16-ガンマ: 俺たちは避難民の保護を優先するべきだ。新しいアノマリーになったにしろ、彼女は明らかにかなり傷ついていた。見失うのは避けたい。
パウゼマン: 2部隊ともが両方のウサギを追うのは無理がありそうだな。ハウスの案を呑もう。…お前を見ていると不安だから予め言っておくが、くれぐれもアノマリーに肩入れするな。作戦の邪魔と判断したらさっさと撃ち殺せ。
ハウス: ええ、貴方なら絶対そう言うって思ってましたよ。勿論、それは守ります。
Ζ23-アルファ: よし、我々は引き続き巨大実体を追跡する。Ο-16は新たな魔女を追え。
Ο16-アルファ: 了解!必要時は直ちに連絡する。
[Ο-16はΖ-23と分かれ、チェルシー方面へ飛び去ったハクスリーを追跡して西へ進路を変更する]
【中断】
Record 2001/09/14 - 230086
機動部隊Ζ-23(“バッカスの酒”)による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 ルドルフ・パウゼマン
- “啓示されし者たちの軍”エージェント シビル・レイランド
- 機動部隊Ζ-23(“バッカスの酒”)部隊員
【2001/09/14 22:49より再生開始】
[Ζ-23は瓦礫に覆われたユニオン・スクエア近辺を北上し、UE-1109-Bから100m程度の位置へ到達する]
Ζ23-アルファ: 巨大実体への十分な接近に成功した。先ほどから実例は両腕で空を切るような行動を繰り返している。
Ζ23-ベータ: おそらく空中のターゲットを攻撃しているんだろうが、怪物がデカすぎるせいで上がよく見えないな。
[UE-1109-Bが振り回している腕の先端から、一過性に多量のカック灰が排出される。何らかの目標を破壊したものと推測される]
Ζ23-デルタ: 地上の被害はどうだ?
パウゼマン: 幸い、今のところ奴は足元には無頓着に見える- おい、何か接近してくるぞ!
[Ζ-23に向かって空中から複数の擬似タイプブルーが降下してくる]
パウゼマン: アノマリー風情が調子に乗りおって!迎撃態勢を取れ!
[Ζ-23は擬似タイプブルーに対し実弾射撃を行うが、対象の移動速度は低下しない。実例から2mほど離れた位置で実弾が破裂しているように見える。この時、UE-1109-Bが地表の存在を感知した様子を見せる]
Ζ23-イプシロン: 止められねえ!もうすぐ着陸するぞ!
[Ζ-23は射撃を停止する。擬似タイプブルーのうちの1人(シビル・レイランド)が地上へと降り立ち、パウゼマンの下へと進み出る。対象が伴っているSCP-2910-JP-2はイエネコに類似する外見であり、緑色の被毛を有する]
パウゼマン: ええい、こっちに来るのをやめんか!
レイランド: 急な押しかけになってしまってごめんなさい。貴方たちはマンハッタンの救援部隊?
Ζ23-アルファ: 先にそっちの素性を教えてもらえるか。
レイランド: 失礼。私はシビル・レイランド、“啓示されし者たちの軍”からやって来たの。それと、この小さいのはリドルよ。
SCP-2910-JP-2: どうも。顔も知らない相手にいきなり銃を向けるのは気に入らないね。
パウゼマン: フン、小さいくせに不平は一丁前だな。“啓示されし者たちの軍”ってことはイニシアチブの信心深い連中か?それがこんな魔女の仲間入りかい。火炙りにされたい願望でも?
レイランド: 裁判にかけられるまで生きてたらね。私たちは決死隊で、もともと生還は度外視なのよ。
パウゼマン: 悪いが今の我々はアノマリーと長々交渉しているような暇はないんだ。早い所お引き取り願えないか。
レイランド: 私は他の魔女たちを怪物から守るために協力してくれる人々を探しているの。彼女らの多くは幼い子供たちなのよ。私はリドルと共に彼女らを守ろうとしているんだけど、まだまだ人手が足りないし、さっきまた一人失われたわ。このままじゃ持ちそうにない。
パウゼマン: ああそうかい、とりあえずあんたらにはその怪物とやらに気づかれた責任を取ってもらわんとな。わかったらさっさと散れ。
[UE-1109-Bが屈み込み、Ζ-23を睨みつけている。Ζ-23はUE-1109-Bと相対し、戦闘態勢を取る]
レイランド: 気分を害したようで申し訳ないわ。それじゃ私たちも行かないと。
SCP-2910-JP-2: 無理はするなよシビル。あんたの命が一番大事なんだから。
[レイランドは再び浮上し、空中の擬似タイプブルー群へと戻っていく。直後にUE-1109-Bの赤く発光した右腕が実例に向けて振り上げられ、実例群は高速で散開し飛び去る]
Ζ23-イプシロン: 奴に効きそうな武装はあるか?
Ζ23-アルファ: まずはメトカーフを投げて様子を見るぞ!直ちに投射準備を!
[Ζ-23はUE-1109-Bにメトカーフ非実体反射力場発生弾を投射する。Ζ-23へ腕を振り下ろそうとしていたUE-1109-Bは仰け反るように怯むものの、行動の束縛には至らない]
Ζ23-ベータ: 流石にこれだけで消えてくれるほどヤワじゃないか。非実体高エネルギー弾は行けるか?
Ζ23-アルファ: 危険だ。あれは指向性が無いから街が焼け野原になる。
[再集合した擬似タイプブルー群が、態勢を立て直そうとするUE-1109-Bに対し火炎放射による攻撃を試みる。熱エネルギーは奇跡術により生成されているように見える]
レイランド: 子供たちの保護者として、全力で仇を取らせてもらうわよ!
[UE-1109-Bの頭部が溶解を始め、実例の行動速度は有意に低下している]
パウゼマン: フン、アノマリー同士のケンカは気に入らん。ああいう光景はいつも最悪な状況の代名詞だった。それがこの島じゃ当たり前のように起こっとるわけだ。畜生め。
[UE-1109-Bは崩壊し、白色の煙へと変化する。煙は高速でΖ-23から遠ざかり、300mほど離れた位置で再びUE-1109-Bの姿へと変化する]
Ζ23-アルファ: 一時的な無力化は可能でも、高速移動してすぐに復活してしまうようだ。奴をのさばらせておくとマンハッタンの制空権が確保できない。効果的な抑制方法を探し出さなければ。
[擬似タイプブルー群はチェルシー方面へ飛んでいく。その行先の市街地から、全長不明の乳白色エネルギー実体(UE-1109-Cと指定)がゆっくりと起き上がる様子が見える]
Ζ23-ガンマ: 退かした先からどんどん新しいバケモノが出てきやがる。これが奴らのやり口か?
パウゼマン: 西にはΟ-16がいる。奴らはあっちに任せてひとまず怪物を先に追うぞ。
Ζ23-デルタ: 目的地、エンパイア・ステート・ビル!島のど真ん中の摩天楼だ、インサージェンシーが独り占めしないわけがない。ヘイ、紅色の闇はまだまだ深くなるぞ!
[Ζ-23はUE-1109-Bを追ってブロードウェイを進軍し、エンパイア・ステート・ビル方面へと向かう]
【中断】
Record 2001/09/14 - 160132
機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)による記録
メンバー:
- オカルト部門主席研究員 ランドール・ハウス
- 機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)部隊員
【2001/09/14 23:15より再生開始】
[Ο-16はハウスを先頭に、チェルシー市街の妖魔界実体を撃退しながら西へと進んでいる。住宅の壁には様々な種類の絵が書き殴られており、それらは背景しか描かれていないように見える]
Ο16-イプシロン: この辺には腕の良いアナーティストでもいたのかね?島中心部の地獄っぷりと比べると随分と静かだ。
Ο16-ガンマ: 願わくば、彼らが住民を守るために命を引き換えにしていないことを祈りたいな。
ハウス: ダメだ、息が持たない、全然追いつきません。彼女が速く飛びすぎです。
[ハクスリーがハウス他Ο-16から50mほど先を飛行しており、周辺の建物の空いた窓を無差別に攻撃しているように見える]
Ο16-ベータ: 彼女は本当にゲリラ兵を見分けられているんでしょうか?
Ο16-デルタ: どっちだったとしても現場には死体が残るだけだ。魔女にやられて死ぬか、その前からとっくに死んでるかは別としてな。
Ο16-アルファ: それはあり得る話だ。インサージェンシーは生きた人員のリソースを実弾狙撃のような雑用には割かないだろう。
ハウス: まだ小さい子供でしょう、本物の人殺しなんてとても- おっと!あれは別の魔女だ!
[Ο-16の前方30mの位置を左から右へと飛び去る1人の擬似タイプブルーが短時間カメラに映る。直後に当該人物を追跡する1台の超重交戦殻(オレンジ・スーツ)がカメラを横切る]
Ο16-ベータ: マンハッタンまで来てるってのに、彼らはここでも雑兵狩りに精を出すんですか。
Ο16-ゼータ: 奴は昼頃にデカブツにやられてたって連中の残党かね?憂さ晴らしなんかやってる暇あったらこっちを手伝ってくれってんだ7。
[超重交戦殻は擬似タイプブルーに向けて光弾を射出する。対象はそれによって撃墜され、Ο-16から100mほど離れた地点へと墜落していく]
ハウス: ジーザス。あの子ほどじゃないにしろ、まだ若そうだったのに。
Ο16-アルファ: ゴックスが今回の作戦に投入したオレンジスーツは少数だと聞いているが、彼らに追跡対象を先に処理されるのは喜ばしくない。前方の実例の追跡を強める。
Ο16-ベータ: 時間はかけられません。GOCが予告している時刻まで、残り12時間もありません。それを過ぎれば、彼らはテロの生存者の救助を打ち切り、更なる次元異常の拡大阻止のためピチカートを決行するはずです。
ハウス: どれかの部隊が仕損じれば私たちもあの子も島自体も全部吹っ飛ぶってことですか、末恐ろしい。ところで、魔女についてちょっと気になることがありました。
Ο16-ガンマ: というと?
ハウス: ええ、ここまでに何人かの魔女を見てきましたけど、どの人もかなり飛ぶのが不慣れな印象を受けますね。斥力エネルギーをEVEで賄うのは、タイプブルーの素質がない人にはちょっと難しすぎるでしょう。
Ο16-アルファ: とすると、やはりこれらの実例は即席で作られた擬似タイプブルーに過ぎないと?
ハウス: 恐らくは。そして仮にそうであれば、私たちは彼女らに対して真っ先に保護を行わないといけないと思います。あのまま飛ばせておくのは危険すぎる。
Ο16-ゼータ: 結局はオブジェクト確保の延長だろ?俺たちにとっちゃ、いつものことさ。…ここがゴックスのデカいロボなんぞを持ち出さなくて済む場所だったら、の話だけどよ。
[ハクスリーの前に乳白色の煙が降下してくる。煙は接地後に激しく変形し、その内部から頭足類を象ったUE-1109-Cが出現する。実例はエネルギー体の触腕を展開する]
Ο16-ベータ: ここにも巨大な怪物が!マンハッタンのあちこちに居るんでしょうか。
[ハクスリーは悲鳴を上げて急激に反転し、不安定な軌道を取り高度を上げてUE-1109-Cから逃走する。UE-1109-Cの触腕はΟ-16近辺を旋回していた超重交戦殻を最初に攻撃する。対象は瞬時に爆発し、多量のカック灰を噴出する]
Ο16-アルファ: まずい!我々の装備であれを相手取るのは危険だ。一度反転するぞ!
[UE-1109-CはΟ-16とハクスリーを低速で追跡し始める]
Ο16-イプシロン: 意外とトロいな!だが確かに発見されている。悠長には動けん。
[Ο-16の左前、北東方向から擬似タイプブルーの集団が飛来してくるのが見える。先頭はレイランドである]
レイランド: リータ!フラフラしないで!こっちよ!
ハクスリー: レイランドさん!他のみんなも!来てくれて助かったわ、もうダメかと。
SCP-2910-JP-2: さっき似たのを退治してきたから教えるけど、奴には火炎が有効だ。できるか?ああ、ちゃんと教えてくれてたか。
[SCP-2910-JP-1が伸び上がる仕草を見せる]
Ο16-アルファ: 逃げるべきか- 彼女らを守るべきか-
ハウス: 一人一人が非力でも、大人数であればある程度の時間は持つでしょう。ちょっと後ろめたいですが、私たち自身の安全を確保しないと守るものも守れませんよ。
Ο16-アルファ: 気を使わせて済まない、ハウス、ひとまずはここを後にしよう。
[擬似タイプブルー群が一斉に北側を見る]
ハウス: 良かった、彼女たちにもまだ援軍はいるようです。
[視線の先からは新たに1人の擬似タイプブルーが飛来してくる。当該実例は他の実例よりも有意に安定した飛行をしているように見える]
レイランド: アリソン!治療をお願いできる?全員で集まっていた方がみんなの安全を守れると思うわ。
[アリソンと呼ばれた人物(PoI-4056)は杖を掲げ、集合している全ての擬似タイプブルーらに奇跡術エネルギーを譲渡しているように見える。映像を拡大すると、譲渡元のエネルギーは実例の肩に乗っているSCP-2910-JP-3から発生していることが確認できる。実例は白と紫の混合した被毛を有し、概ねフェレットに類似する外見であるが、大きな耳介と赤い眼球が特徴的である]
PoI-4056: ありがとう、みんな。ここから先は、私たちは一緒よ。そうでしょう、ヘキサ。
[SCP-2910-JP-3は有意な反応を示さない。擬似タイプブルー群はPoI-4056を先頭とし、停止したUE-1109-Cに向け集団での攻撃を開始する。先刻と比較し、対象の多くは有意に安定した軌道を取って飛行するようになっている]
Ο16-ベータ: 先頭の人…だいぶ前にどこかで会ったような?
Ο16-デルタ: 何か知ってるのか?
Ο16-ベータ: ああ…記憶違いでなければ、5〜6年前、サイト-17の面会受付所に来ていたのを見たことがあります。誰の家族だったのかは分かりません。…そして、どうして今、こんなところに居るのかも。
[Ο-16はユニオン・スクエアへと撤退する]
【中断】
Record 2001/09/15 - 911372
財団記録部隊 第1ヘリコプターによる記録
[09/15 03:57] 第1ヘリコプターはロックフェラーセンター上空からマンハッタン島の南部を撮影している。画面手前にはエンパイア・ステート・ビル、奥にはWTCのタワー群が映っている。1 WTCの頂上に糸塊様の形態を取る不詳有機物構造体(UE-1111と指定)が絡みついているのが観察できる。
[04:01] 画面右側(島の西部)から煙となったUE-1109-Cがエンパイア・ステート・ビルへと突撃してくる。それ以外のUE-1109実例群8は不定形の状態でビルの周囲を旋回している。UE-1109-Cを追跡する23人の擬似タイプブルーが確認される。映像を拡大すると、それらの実例は全員が個々に対応するSCP-2910-JPを同伴していることが確認できる。
[04:07] UE-1109実例群の煙がビルの上空で集合し、互いに融合を開始する。上空の紅色の雲からは落雷に類似する紅色のエネルギーが、ビルの上層部からは追加の乳白色の煙が、それぞれ実例群へと供給されている。
[04:12] 煙は瞬間的に散逸し、全長350m以上と見積もられる巨大エネルギー実体(UE-1109-Σと指定)が出現する。実例はこれまでに確認された全てのUE-1109実例の外見的特徴を併せ持っている。
[04:14] UE-1109-Σが行動を開始する。実例は頭部の2本の角の間に黒色のエネルギーを収束させ、実例の周辺を飛行している擬似タイプブルー群を吸引する。対象は統率の取れた曲線的な軌道で実例から遠ざかる。
[04:16] UE-1109-Σの第3・第4右腕が擬似タイプブルー群へと伸び、群れは高速で散逸する。腕は対象のうち3人に接触し、それらを観測不可能なサイズまで直ちに分解させたように見える。
[04:19] 擬似タイプブルーらは散開した状態を保ち、UE-1109-Σ実例の周囲を飛び回っている。UE-1109-Σが対象の1人を標的とし、触腕から赤色の光弾を発射する。この光弾は本来の標的から外れ、財団記録部隊の第6ヘリコプターを撃墜する。ヘリコプターは多量のカック灰に置換される。
[04:21] 殆どの擬似タイプブルーが高度を下げてビル群の間隙に入り、第1ヘリコプターから視認できなくなる。UE-1109-Σの胴体下部が細い煙の筋へと変化し、ビル群の間隙を埋めるように拡散していく9。
[04:24] 引き続き擬似タイプブルー群は低高度を維持して散開している。対象の1人がエンパイア・ステート・ビルから170m程度離れた位置に浮上するのが短時間のみ確認できる。当該人物は続いて上昇してきたUE-1109-Σの煙に飲み込まれ、消失する。
[04:28] 摩天楼の各所から個別に浮上してきた擬似タイプブルー群は、再び高高度を維持して集合を開始する。映像で確認できる人物は11人まで減少している。UE-1109-Σは煙状の胴体を巻き取っていく。
[04:30] 画面奥、WTC周辺の映像が乱れ始める。マンハッタン島の南端で新たな次元異常の発生が開始したものと見られる10。UE-1109-Σと擬似タイプブルー群の戦闘は継続している。
[04:33] 擬似タイプブルー群はUE-1109-Σから距離を取った場所に再集合し、第1ヘリコプターに接近する。PoI-4056を先頭にした擬似タイプブルーの集団が放出する奇跡術エネルギーは空中に収束していく。
[04:34] 収束したEVE塊から青色の光線が放出され、UE-1109-Σに直撃する。実例は怯み、光線を抑え込むためにユニオン・スクエア側へと後退し始める。擬似タイプブルー群はEVE塊を維持して前進する。
[04:36] 群れの先頭にいたPoI-4056が突如としてそれまでの最高速を超えた速さで移動を開始し、UE-1109-Σ実例の腹部へと突撃する。映像を拡大すると、当該人物は箒から落下し、他の不明な動力で飛行しているように見える。擬似タイプブルーのうち他の2人がそれに続く。EVE塊は消失し、光線は停止する。
[04:37] UE-1109-Σ実例は態勢を立て直している。PoI-4056は実例の腹部を貫通し、他2人の擬似タイプブルーは実例の左右を迂回してそれを追跡している。WTCは画面中央付近に見える第1タワーの一部(UE-1111を含む)を残して観測不能になっている。
[04:40] 視認不可能な距離まで遠ざかった3人の擬似タイプブルーの側へと方向転換したUE-1109-Σは、次元異常の存在を認知し、煙状に変化して1 WTCへと突進する。
[04:41] 完成した次元異常によってUE-1109-Σの1 WTCへの進入は阻止され、弾き返された実例はトライベッカ上空で再度実体化する。やや狼狽している様子が見受けられる。3人の擬似タイプブルーの行方は不明である。
[04:42] UE-1109-Σ実例は再び実体を失い、エンパイア・ステート・ビルへと引き返す。生存している8人の擬似タイプブルー群はレイランドを先頭に編隊を組んでいるが、最後尾にいるハクスリーが群れから徐々に遠ざかり始めている。
[04:46] UE-1109-Σが放った光弾が第1ヘリコプターへと飛来する。瞬刻のみ灰が舞い上がり、即座に映像が途絶する。
Record 2001/09/15 - 160267
機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)による記録
メンバー:
- オカルト部門主席研究員 ランドール・ハウス
- 機動部隊Ο-16(“ワルプルギス”)部隊員
【2001/09/15 05:01より再生開始】
[Ο-16はユニオン・スクエア周辺の避難民への接触を開始している]
Ο16-イプシロン: 現実崩壊は落ち着いてきたから良いものの。今の俺たちの余力じゃ、タダの火事でも全然収拾つかないぜ。
Ο16-ベータ: ええっと、グランマシー方面の生存者の中にパラヒューマンが何人かいました。ラミアの家族です。彼らも一般人と同じ避難所でいいんですか?
ハウス: 当面は。後援部隊に頼んでバックドア・ソーホーへ搬送してあげてください。
Ο16-アルファ: 避難を急げ。さもないとあのバケモノがまたこっちまで吹っ飛んでくるぞ。
[Ο-16は上空のUE-1109-Σの行動を注視している。UE-1109-Σはエンパイア・ステート・ビルの北側に移動中である]
ハウス: 十分な距離が取れているうちに行動しましょう- ストップ!あれは何だ?
[ハウスが北東の空を指す。直径2m程度の鈍色の球体が不安定な軌道を辿ってΟ-16へ向けて落下してくる]
Ο16-デルタ: 不明な飛行物体が接近中!隊長、直ちに迎撃態勢の準備を!
ハウス: いや- 待ってください。どうも様子が変です。もしかしたら魔女かも-
[Ο-16部隊員は銃を向けたまま待機する。鈍色の球体は部隊の3m上空まで接近した後に急停止する。球体が崩れ、内部には何らかの実体が見える]
Ο16-ゼータ: これは…深夜に追いかけていた…。
ハウス: やはり。…リータちゃん、ここはもう安全です。降りてきて大丈夫です。
[崩壊する球体から現れたハクスリーは箒から落下するが、先んじて着地していたSCP-2910-JP-1により落下時の衝撃を軽減される]
SCP-2910-JP-1: 君たちは…最初にリータを見つけてくれた人かな?
Ο16-ガンマ: そういうことになる。
SCP-2910-JP-1: 悪いけどさ、この子を安全な場所まで運んでくれないか。ボクだけじゃちょっと厳しそうだ。もう息も絶え絶えで。
[ハクスリーは呼びかけに反応しない。高度な気道障害を示唆する喘鳴を発しているが、意識はあるように見える]
Ο16-イプシロン: 良いだろう。取り急ぎすぐに酸素マスクを用意する。
ハウス: リータちゃんについて聴きたいこともありますので、貴方もついて来てもらえますか?
SCP-2910-JP-1: ああ。リータは疲れ切っている。最後まできちんと見届けなきゃね。
ハウス: ご協力ありがとうございます。皆さん、念のためタイプグリーン相当と見積もって初期対応をしてください。
Ο16-アルファ: 了解。これよりアノマリーの確保を行う。
[Ο16-アルファはSCP-2910-JP-1にスクラントン携行アンカーを結びつける]
ハウス: いやー、しかし、皆さんの働きぶりは素晴らしいものでした。皆さんがいなければ、私たちもここまで多くの方を避難させられたかどうかわかりません。
SCP-2910-JP-1: それはボクたちに向けて言っているの?
ハウス: そうですよ。私たちは地上から見ていただけですが、狙撃兵や空の怪物からの被害を抑えられたのは間違いなく貴方がた魔女たちのお陰です。
SCP-2910-JP-1: ありがとう。そう言ってもらえるのなら嬉しいや。
Ο16-デルタ: オブジェクトとの不要な会話は慎んでくれよ、ハウス。まだ任務中だぞ。
ハウス: ハハ、すいません。
[Ο-16のうち2名がSCP-2910-JP-1およびハクスリーをソーホーへと移送するために南下していく]
Ο16-ベータ: もうすぐ朝日が昇る時間です。この雲の中で見えれば、ですけどね。
ハウス: そうです。そして万が一のことが発生すれば、それはマンハッタン島が見る最後の朝日になります。第1隊の幸運を祈り続けましょう。
[ハウス含むΟ-16は東の空を見上げる。空は引き続き紅色の雲と降り注ぐ灰に覆われている]
【中断】
Record 2001/09/15 - 230294
機動部隊Ζ-23(“バッカスの酒”)による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 ルドルフ・パウゼマン
- “啓示されし者たちの軍”エージェント シビル・レイランド
- 機動部隊Ζ-23(“バッカスの酒”)部隊員
【2001/09/15 05:53より再生開始】
[パウゼマンを含むΖ-23はエンパイア・ステート・ビルの中層部でGoI-003所属のパラヒューマン部隊と交戦中]
Ζ23-ベータ: ちくしょう!あまりにも相手の数が多すぎるぞ!それにまともな人間が見当たらねえ!
Ζ23-ガンマ: 蛇女だろうが一つ目だろうが片っ端から撃ち倒せ!俺たちの任務の総仕上げのつもりでな!
[Ζ23-イプシロンが単独の眼球を有する巨大人型実体に胸部を掴まれる]
Ζ23-イプシロン: 離しやがれ!
Ζ23-デルタ: この野郎、目ん玉をブチ抜いてやる!
[Ζ23-デルタが巨大人型実体の眼球を狙撃する。錯乱した人型実体はΖ23-イプシロンを投擲する。Ζ23-イプシロンは窓ガラスを突き破り、タワー外へロストする]
Ζ23-ガンマ: クソッ!亜人どもめ、ただじゃおかねえぞ!
[Ζ23-ガンマが投擲した手榴弾が、視界を失って倒れかけている巨大人型実体に命中し、対象は粉砕される。対象の体組織の破片が周囲のパラヒューマン部隊を吹き飛ばす]
Ζ23-デルタ: デカブツはデカイってだけで役に立つな、ええ?
パウゼマン: 落ち着けガンマ!後ろを取られるぞ!
[手榴弾の爆風に乗ってΖ23-ガンマの背後に回り込んだガス状の実体が、Ζ23-ガンマを飲み込もうとする]
Ζ23-ガンマ: しまった-
[Ζ23-ガンマの後方の窓ガラスが割れ、ビルの外側から何者かが突入してくる。それはΖ23-ガンマに衝突する。ガス状の実体は吹き飛ばされ霧散する]
Ζ23-ガンマ: 痛え!
パウゼマン: 危ないところだった。そしてあんたは、ああ、例の火炙り志願者だな?
レイランド: もう十分よ。私はもう炙られ済みだわ。
[立ち上がったレイランドの顔は灰色の煤によって汚れており、SCP-2910-JP-2の姿は確認できない]
パウゼマン: こりゃ失礼。あの小さいのがあんたの身代わりになったわけだ。
レイランド:「あんただけでも生き延びろ」って、リドルは燃え上がる炎の中から私を放り出したのよ。怪物が作り出した炎の中からね。
Ζ23-アルファ: 残念だ。巨大な怪物についての情報は何か掴めたか?
レイランド: 弔ってあげる暇はないってことね、いいわよ。…多分あれは何かを媒体として顕現しているように見えるわね。いくら一流のテロリストでも、あれだけのサイズの生きた実体を支配下には置けないもの。そして奴はこのビルを中心に動いている。ここに何かがあるはずよ。
Ζ23-ガンマ: このビルはテロリストの塊だぜ?上でどんなクソが寝息立ててるか知れたもんじゃねえぞ。
パウゼマン: ちょっと待ってくれ-
[パウゼマンが通信端末を取り出す]
パウゼマン: ……ふむ……貴様、ワシの忠告をガン無視しおったな……もういい、何でも勝手にやれ。ワシは知らん。
Ζ23-アルファ: ハウスの隊に何かあったのか?
[パウゼマンは端末をしまい、レイランドに向き直る]
パウゼマン: 大したことじゃない。…ハウスの野郎、あんたのお仲間を一人保護したらしい。
レイランド: 本当?私はあの子たちの一人でも多くが助かることだけが願いなのよ。
パウゼマン: 収容対象にむやみに増えられてもワシは嬉しくないがね。まあ、少なくとも地獄の島の中で財団が確保能力を未だに維持してるってのは一つの良い知らせだ。
[Ζ-23はレイランドを連れてビルの上層部へと向かう。その途中で先頭のΖ23-アルファが立ち止まる。先のフロアからは金色の光が漏れ出し、雑多な喧騒が聞こえる]
Ζ23-アルファ: 止まれ。ここに何かの大群がいる。…ジーザス、これは一体なんだ?
レイランド: 神に祈るのはこれで何度目なの?
パウゼマン: あんたが異教のネコなんぞに祈ってた回数よりはまだ少ない。
[Ζ-23はフロア入り口に集合し、内部の様子を観察する。フロア内の夥しい血痕が金色の光によって明るく照らされている。不明な人数の種々のヒトおよびパラヒューマンらが、殴打・斬撃・咬みつき等により相互に暴行を加えている。各人が負っている重度の損傷に反し、集団は行動を停止する兆候を見せない]
Ζ23-デルタ: 俺たちが当事者じゃない殺し合いを見るのは凄い嫌な気分になるな。
レイランド: 島の真ん中に聳えるビルの天辺で続く無限の殺戮、ね。まず間違いなく何かの儀式だと思うわ。
Ζ23-ベータ: 奇襲をかけられそうか?
Ζ23-アルファ: 対象がこちらを感知している様子はないが、既に相手の闘志と殺意とが全開になっている。むやみに飛び込むのは危険を伴いそうだ。
パウゼマン: 忌々しい儀式のための闘争なんだったら、儀式の核になっている物体を狙うのはどうだ?見えるか?
Ζ23-デルタ: もうちょっと中に入れそうだぞ。
[Ζ-23はフロアの天井に吊り下げられた不明な実体を確認。外見はリンゴに類似した巨大な金色の果実であり、UE-1109実例群と同質であると推定される乳白色の煙を放出している]
レイランド: 黄金の林檎…ディスコルディア…不和、争乱、そして混沌カオスの象徴ね。いかにも奴らがやりそうな方法だわ。
Ζ23-ベータ: なら目標はそれだな。レイランドの魔法は果実にも効くと思うか?
レイランド: リドルなしで使ったら結構なバックラッシュが出るわよ。貴方たちを危険に晒すのは良くないわ。
パウゼマン: ここまで来といてアノマリーに頼ることもあるまい。ワシらで十分やれる。
Ζ23-アルファ: 残りの徹甲埋没呪弾で仕留めにかかる。総員よく狙え!
[Ζ-23は果実に対して徹甲埋没呪弾を発射する。4本の矢状弾は果実を正確に射抜く。果実は天井から落下し、真下にいた2体の人狼を巻き込んで崩壊する。光源を失ったフロア内は闇に包まれる]
パウゼマン: よし突撃だ!1体たりとも逃すな-
[Ζ-23はフロア内に突入するが、中断した儀式に使用されていた犠牲者らは既に全数が倒れ臥している]
Ζ23-デルタ: ダメだこりゃ。とっくに全滅してる。
Ζ23-ベータ: 良いんだか悪いんだか。中に入っていいぞ、地獄を見物したいならな。
レイランド: 私は構わないわ。これまでにも数え切れないほど見た光景でしょうから。
[パウゼマンとレイランドがフロア内に入室する。窓の外でUE-1109-Σが激しく苦悶する様子が見える]
パウゼマン: あんたの予想は当たったらしい。どうやらこれでマンハッタンの空は我々のものになりそうだ。
[UE-1109-Σは頭部から崩壊していく。実例は再び6体のUE-1109実例群へと分裂し、低速でビルから離れていく。それらは衰弱の兆候を見せている]
レイランド: やったわ!これで残りの子供たちは無事に逃げられる!みんな、よく頑張ってくれたわ…。
パウゼマン: 化け物に決定的なダメージを与えたのはあくまで我々だ。あんたらの貢献は、まあ、ゼロとは言わんにしても、ほんの少しだけだぞ。
Ζ23-ベータ: 見ろ!空が晴れていくぞ!
[エンパイア・ステート・ビルから見える暗紅色の雲が徐々に薄れていき、東の白む空が見え始める。カック灰の濃度が急激に低下している]
Ζ23-アルファ: 我々は引き続きビル内の制圧を続行する。勝利は近い!
[数人の擬似タイプブルーが、明るさを取り戻し始めるマンハッタンの空を四方へと飛び去っていくのが見える11]
【中断】
Record 2001/09/15 - 072733
機動部隊Ν-7(“下される鉄槌”)による記録
メンバー:
- マンハッタン救援隊 第1部隊長 アルト・クレフ
- 機動部隊Ν-7(“下される鉄槌”)-アルファ
- PoI-4056
【2001/09/15 06:34より再生開始】
[1 WTCの上層部で、オフィスの窓際にもたれかかるクレフが映されている。窓の外にはカック灰の嵐が吹き荒れており、それらはタワー頂上のUE-1111から発生しているものと思われる]
クレフ: 確かに奴さんのケーキを食うのは俺の仕事だった。だがな、奴さんを食うのはコイツの仕事だってのは変わらねえ。
[クレフは咳き込みながら手持ちのショットガンを撫でる。クレフの口元には多量の煤が付着している]
Ν7-アルファ: 今のまま火傷を放置しているとお命に関わります。しかし、奴らはもう間もなくここまで上がってきます。どうかご決断を。
クレフ: わかってるさ。俺様がやらずに誰がやるってんだ。[咳嗽] ただ状態を立て直したいだけさ。
Ν7-アルファ: どうすれば…。
[カメラが窓の外に現れた人影を映す。それは灰が降り注ぐ中を浮遊しており、何らかの口論をしているようである]
不明な女性: どうして落ちていったみんなを助けようとしないのよ?ヘキサ?ここまで私たちを信じてついてきてくれたのに?どういうこと?
不明な実体: 私たちの目標は次元崩壊の波及の阻止。そのためには今そこにいる男を治療することが必要だ。それで私は君をここまで連れて来た。アリソン、今こそ君の魔法を見せる時だ。
クレフ: あ…?アリソン…?
[会話の内容はカメラに映る影がPoI-4056とSCP-2910-JP-3であることを示唆するが、両者の鮮明な近影は撮影できない]
PoI-4056: この人が?今にも死にそうに見えるけど、他のみんなより大事なの?顔も知らないのに?
SCP-2910-JP-3: 私は彼をよく知っている。君の父、そしてこの世界を救うために彼の命がまだ必要とされていることを。
PoI-4056: そう、パパのために…ね。
Ν7-アルファ: 待て!隊長に何をする気だ!
クレフ: 下がんな。爆弾を食ったせいで耳がイカれたんでなけりゃ、そいつは俺のダチの娘だ。
[クレフに制止されたΝ7-アルファはPoI-4056に向けた銃口を下ろす。PoI-4056は僅かに高度を下げ、クレフは窓の外へ身を乗り出している。映像撮影角度の関係上、クレフがPoI-4056およびSCP-2910-JP-3と交わした交流の記録は音声のみに留まる]
SCP-2910-JP-3: それで良い。これで救済は成った。
クレフ: 顔を合わせたのがこんな悪夢の日でなけりゃな。お前さんの首根っこを引っ掴んでチャーリーに突き出してやるのに。
PoI-4056: パパを知ってるの?パパは今どこに?
[灰の嵐が僅かに弱まる]
クレフ: 今は時間がねえ。だがな、俺はお前さんが元気にしてるってちゃんと伝えとくからよ。生きてさえいりゃ、どっかで会えるさ。
[PoI-4056は突風に乗ってクレフの下を離れ、高度を上げてタワーから飛び去っていく。UE-1111が灰の生成を中断したため、窓の外には次元異常を通じて微かに見える朝日が映る。映像記録にはPoI-4056のシルエットのみが残される]
Ν7-アルファ: 何をされていたのですか?
クレフ: ああ…そりゃ俺にも分からん。だが俺は確かに生き返った。脳天をブチ抜いちゃいけない姫君がここに少なくとも一人いる、仕事の理由はそれで十分だ。さ、戻るぞ。
[クレフは反転し、タワー内へと戻る。カメラは後を追う]
【中断】
補遺: 2001/11/15現在、クレフ博士は1 WTC上層部、並びにUE-1111を含む不詳な異常実体と共に行方不明となっています。追記.2910-JPを参照してください。
補遺.2910-JP.2 > 擬似タイプブルーに関する報道
マンハッタン島は2001/09/15を以って異常次元から切除され、基底次元への復帰を果たしました。現地に取り残されていた報道陣からの通信が回復したことを受けて、世界各地の報道機関は財団の検閲能力を超える量の速報を行い12、その中にはSCP-2910-JPの影響を受けた擬似タイプブルーが関与するものが含まれていました。以下の映像記録は、同日13時よりCNNインターナショナルが放送した番組の一部です。
Record 2001/09/15 - CNN-INT
CNNインターナショナルによる報道
【前略】
アナウンサー: …引き続き、マンハッタン島の被害状況と生存者情報の速報を行なっています。…えー、新しい追加の速報が入ったのでお伝えします。先ほど、マンハッタン島の生存者の一人から、本日午前8時ごろの避難所の様子を録画したVTRが届きました。繰り返しお伝えします、先ほどマンハッタン島の生存者から避難所の様子を録画したVTRが届きました。これよりVTRをお送り致します。
[VTRの再生が開始する]
[00m00s-] ビデオカメラは明るさを取り戻しつつある空の下、セントラル・パーク内に作られた屋外避難所に集まっている民衆を映している。何らかの機械の残骸と見られる多数の歯車の集合体13が、避難所の柱の代替物として用いられている。周囲にカック灰の堆積が認められないのは特筆すべき点である。
[00m23s-] 避難所の民衆の中に混ざっている1人のトロールが、周囲の人間から徒手で攻撃を受けているのが映る。トロールは相手を制止しようとして狼狽している。音声はトロールが避難所において占有する面積が広いことに対して人間が不満を述べていることを示している。
[00m38s-] 避難民のうち何人かが怯えた表情を見せ、遠方を指差す。その先へと向いたビデオカメラが、避難所へ向けて進行中のUE-1109-Bを映す。しかし実例は明らかな衰弱を見せており、動きは緩慢である。
[00m52s-] 避難民のうち別の何人かが空を見上げて指差す。ビデオカメラが空を向くと、遠方から2人の擬似タイプブルーが避難所へと飛来してくるのが映る。両者は数ヶ所を負傷しているように見え、共にSCP-2910-JPを同伴している。
[00m57s-] 2人の擬似タイプブルーはUE-1109-Bを一瞥するが、それを無視して避難所へと降り立つ。避難民からはどよめきの声が上がる。
[01m08s-] 彼女らはトロールに暴行を加えている人間への仲裁に入ったように見える。人間は当初は彼女らに対し不平を述べていたが、次第に説得を受け入れ、攻撃を停止する。トロールは2人に礼を述べる。この時点でUE-1109-Bは停止する。
[01m41s-] 2人の擬似タイプブルーは改めて避難民らの前へと進み出る。ビデオカメラは引き続き2人を中心に捉えている。
[02m00s-] 2人はそれぞれ「アンジェリーナ・ピカリング」「マリエッタ・メイウェザー」であると名乗り、避難民らに以下のような呼びかけを行う。避難民はそれを傾聴する。
ピカリング: 私たち2人は皆さんと同じ避難民です。あなた達と同じように、私たちは多くの存在と協力してきました。
メイウェザー: 私に魔法の力をくれた小さな妖精、同じ力を得た多くの魔法使い。そして、マンハッタン島に生きる全ての人たち。恐ろしい事件の中で、姿かたちの違いを超えて全てが一つにまとまった。
ピカリング: 先ほど「空の怪物を倒した英雄が来た」と声援を受けました、ありがとうございます。ですが、それも一人二人の力ではなくて、全ての魔女、いや島を守ろうとしたもっと多くの人に支えられてのことでした。
メイウェザー: 姿の違い、力の違いは関係ない。団結すれば、どんな世界でも生き抜けるって分かったんです。団結こそが私たちを守るのです。
ピカリング: 私たちは他の避難所の方々にもこのメッセージを伝えに行きます。あと少し、皆さんどうかご無事で生き残ってください。
[02m57s-] 避難民から歓声が上がる。「団結」というワードを多くの人々が叫ぶ。その中にはトロールも居る。
[03m03s-] ビデオカメラは「団結すれば神にもなれるって、神父14も言っていた!」という声を録音する。カメラに近い位置の避難民が発した言葉だと思われる。
[03m08s-] UE-1109-Bは苦悩を示し、反転して避難所から遠ざかっていく。実例の動きはさらに緩慢に、弱々しいものになっている。
[03m17s-] 2人の擬似タイプブルーは避難所を離れ、多くの声援を受けながらUE-1109-Bを追い越して空へと飛び去る。
[VTRの再生が終了する]
アナウンサー: 以上、現場から届いたVTRよりお送りしました。私たちからも呼びかけます。皆さん、マンハッタン島の生存者の皆さんと共に、団結してこの事態を乗り切りましょう。私たちは引き続き、マンハッタン島の被害状況と生存者情報の速報を行なっています。次の速報は…。
【後略】
補遺: UE-1109-Bは当該VTRの撮影から1時間以内には完全に消失したものと推測されます。ピカリングとメイウェザーの両名はマンハッタン島の復帰後にイーストビレッジの避難所で保護されましたが、その時点で両名は既にSCP-2910-JPと離別していました。彼女らに同伴していた2体のSCP-2910-JP実例は、現在に至るまで財団による捕捉を受けていません。
この報道が抑制不可能な状態で一般世界に拡散した結果、コロンビア=カヴンをはじめとする世界各地のタイプブルー互助会団体、ならびにパラヒューマン擁護団体の多くが、「世界の団結」を名目とした公民権運動を激化させる旨の声明を発表しました。米国政府はこれに迎合し、メキシコ湾体制におけるパラヒューマンおよびタイプブルーの部分的な権利・義務の策定を財団および連合に強く要求しました。一方で、UE-1111による精神影響下から脱した多数の妖魔界実体は財団に投降し、マンハッタン島の復興にかかる各種の労役を提供する旨の契約を財団法務部門へ持ちかけました。以上の要素が複合した結果として、2001/09/20に実施されたハドソン川協定の締結にあたり、財団-連合間におけるパラヒューマン・タイプブルーの収容/粛清方針は大幅な転換を余儀なくされることとなりました。
補遺.2910-JP.3 > インタビュー記録
以下は、財団の収容下にある1体のSCP-2910-JP実例、およびその異常性の対象となった女児に対し、2001/09/19に個別に実施されたインタビュー記録です。
Record 2001/09/19
インタビュー記録:SCP-2910-JP-A15
対象: リータ・ハクスリー
インタビュアー: アーノルド・ナガセ(奇跡論研究部門 上席研究員)
注記: インタビュー時点では、ハクスリーは「SCP-2910-JP-1-A」としてサイト-310のタイプブルー収容ユニット内に保護されていました。彼女はカック灰の吸入による呼吸器障害の治療を受け、回復の途上にありました。
【前略】
ナガセ: SCP-2910-JP-1-A、これから貴方にいくつか質問をします。喉に無理のかからない話し方でいいので、落ち着いて答えてください。9.11事件の発生時に貴方はどこにいましたか?
ハクスリー: 私はブルックリンから、チェルシーの友達の家に遊びに行ってたの。あの時は酷かったわ- 家も街並みも、何もかもが揺れて、青空はみるみるうちに赤黒くなって。でも、それは始まりに過ぎなかった。暫くは家にこもっていたんだけど、2日目には家に悪魔がやってきて、私たちはバラバラに追い出されたのよ。
ナガセ: 続けてください。貴方が救助されるまでの4日間について、何か覚えていることを。
ハクスリー: 私は、とにかく走って逃げたわ。悪魔から、ゾンビから、大きな鳥から。広い場所の方が、危ない敵を見つけやすいって思って、ワシントン・スクエア・パークに暫く居たりもした。でも、爆発するカップケーキの雨が、空から降ってきたのを見て。それからは、とにかく灰の中を路地裏から路地裏へと逃げて、隠れて- 私、今でも、あんなに長い時間を、なんで倒れずに動けていたのか、不思議に思うくらいだわ。
ナガセ: なるほど。では、SCP-2910-JP-1、つまりクエリという名前の存在に出会うまでは、貴方は一人ぼっちだったというわけですね。
ハクスリー: そうよ。あの時、クエリに出会えてなかったら、私、とっくに殺されちゃってたはず。
ナガセ: とても大変な出来事でしたね。次は、クエリのことについて詳しく聞かせてください。彼は貴方にどんな力を与えたのですか?
ハクスリー: 私が、マンハッタンを生きて出られますように、ってクエリに頼んだの。そうしたら、クエリは私のことを守ってくれるって。気がついたら、私は魔法使いになっていたの。まるで、ハリー・ポッター16みたいな。私、あのお話がとても好きだったのよ。
ナガセ: ふむ。「魔法」の使い方はすぐわかったのですか?
ハクスリー: クエリが簡単なものを選んで教えてくれた。怖さとか、悲しさとか、怒りとか、そういう心の動きが、私とクエリの魔法なの。きっと、ハリーたちもこんな風にして、魔法を使ってたのね。クエリのおかげで、私も絶対に魔法を使える、使ってみせる、って思えたわ。
ナガセ: その魔法を使って、窓に隠れているテロリストを攻撃して回っていたと?
ハクスリー: そうよ。クエリは目も耳もいいから、窓の先に何がいるか、全部お見通しだった。
ナガセ: ありがとうございます。そうであれば、狙いは常に正確だったということですね。事件現場を確認しましたが、確かに彼の判断に誤りはなかったことをお伝えしておきます。では、貴方が白い大きな怪物に出会ってからのことをお聞かせください。
ハクスリー: あれは、とても大きくて、そして恐ろしかった。実際、あれに何人もの仲間がやられたわ。みんな私くらいの年で、多分私と同じで魔法使いになったばかりの人たちだったと思う。
ナガセ: …お辛いようでしたら、暫く休んでも大丈夫です。
ハクスリー: いや、もう少しだけ話させて…レイランドさんやチャオさんみたいな、強い人が先頭になって、他の仲間たちと協力して、怪物と戦っていたけど…私はとにかく、自分の身を守ることで精一杯だった。危ないところを、何度も何度もクエリに救われてた…と思うわ。怪物が出す煙の触手から逃げるために、ビルとビルの間を猛スピードで飛び回ってた辺りから、もう限界になってて、記憶にないかも。
ナガセ: 大変な経験でしたね。ですが、貴方が無事に私たちの下に辿り着いてくれて本当に安心しました。
ハクスリー: 他の人たちは?あの後、どうなったの?
ナガセ: それは…そうですね、貴方はとても幸運な人だった、とはお伝えしておきましょう。ですが、我々には少なくともレイランドを含む3人の無事が確認できています17し、おそらくはさらに何人かがマンハッタンの地を後にすることができただろうと信じています。…今は、貴方自身が無事に戻ってこられたことを喜びましょう。私たちも出来る限りの支援はします。
ハクスリー: 私は、この後どうなるの?
ナガセ: …SCP-2910-JP-1-A、今からする話をよく聞いてください。魔法を使えるようになった人々は、普通の人々が暮らす世界からは切り離されます。私たちのような闇夜に生きる人々の社会に組み込まれ、本来の家族とは永遠に別れることになる…。
ハクスリー: そんな…。
ナガセ: …というのが、今までにおける私たちの中での常識的な対応だった、のですが…。恐らく、貴方はそうはなりません。
ハクスリー: えっ。
ナガセ: 3年前のポーランドで起きた事件から大きく様変わりし始めている世界は、今回のテロ事件で更に大きな転機を迎えようとしています。貴方たちのような魔法使いがテロの鎮圧に果たした功績の大きさは、私たち超常社会の所属者だけでなく、それを現場で、あるいは報道で見た多くの一般社会の方々からも評価を得ています。
ハクスリー: 本当?私たちが、世界の人たちに?
ナガセ: その通りです。私の上に立っていて一般と超常の橋渡しをしている方たちは、ヒトと少し異なる色々な種族の人々と共に、貴方のような魔法使いを「軽度超常者」として定義し直し、一般社会の枠組みの中へと加え入れることを検討中です。近いうちに、貴方はその軽度超常者として、ご家族の下へと戻れる日が来ることでしょう。私たちとしては複雑な心境ですけどね。
ハクスリー: そうなんだ、それを聞いてとっても安心したわ。じゃあ、その日までは、よろしくお願いします。
ナガセ: ええ、ハクスリーさん、貴方の社会復帰のために私たちは万全なサポートを行うことを約束いたします。
【後略】
Record 2001/09/19
インタビュー記録:SCP-2910-JP
対象: SCP-2910-JP-1(“クエリ”と自称する個体)
インタビュアー: ランドール・ハウス(オカルト科学部門 首席研究員)
【前略】
ハウス: 事件の時はお世話になりました。お陰でリータは私たちの下で元気に過ごしています。
SCP-2910-JP-1: やだなあ、畏まらなくたっていいよ。ボクらは彼女たちを守るために呼ばれてたんだからさ。ただ仕事をしただけだよ。
ハウス: 呼ばれていたんですか。それはどなたに?
SCP-2910-JP-1: ヘキサ(SCP-2910-JP-3)にだよ。アイツったら物凄く人使いが荒いんだね。知ってたら協力してなかったなあ。
ハウス: なるほど。少し、ヘキサのことについてお聞かせ願えます?
SCP-2910-JP-1: わかったよ。アイツがボクらの故郷に来たのは、ここの時間でいうと多分4年前だ。アイツは最初はボクらじゃなくて、君たちみたいな姿をしてた。
ハウス: 元々は彼は人間であったと?
SCP-2910-JP-1: どうやったのか知らないけど、いつのまにかその人間は居なくなってて、代わりにボクらに似た姿だけどその人間にそっくりな喋り方をする奴が現れた。だから、多分彼は何かボクらの知らない方法を使ってボクらに化けたんだと思うよ。
ハウス: ふむ、それは興味深い話です。では自分たちの仲間じゃないことが分かっていて、それでも君たちは彼に協力したんですか?
SCP-2910-JP-1: まあ、何というか、彼の人望は本物だったからね。いつも理路整然としたことしか言わないし、まるで未来が見えてるかのようにボクらに的確なアドバイスをしてくれてたし。良くも悪くも、カリスマはあったと思うね。
ハウス: それで、今回の事件では彼に呼ばれたと。
SCP-2910-JP-1: そうさ。元々ボクらの居る世界はここから遠く離れた場所なんだけど、ヘキサはボクらの故郷からここまでの道順を完璧に見切って、ボクらに伝えてきたんだ。あまりにも道が長すぎて忘れちゃったけど、最後が「赤白青3色のシャフトを7区画だけ逆走する」18だったことは覚えてるよ。とっても窮屈だったからね。
ハウス: マンハッタン島に出てからは、君たちは色々な女性にアプローチしたのですよね。
SCP-2910-JP-1: そうだね。ヘキサは「少しでも多くの人々を救いたい」って言ってたから、ボクらはマンハッタン中を駆け回って、今にも危険な目に遭いそうになってる人だったり、何か戦闘慣れしてそうな人だったりに交渉を持ちかけてたんだ。とにかく人手が必要だと思ったから。
ハウス: それで君はリータに出会ったのですね。
SCP-2910-JP-1: ちょうどいい人がなかなか見つからなくて結構焦ってたね。でも、リータのことを助けたいって思ったのはホントだよ。
ハウス: 彼女を守るために、君は魔法を教えたんですよね。
SCP-2910-JP-1: 「教えた」って言うか、まあそうだね、ちょっと予定外なことがあったけど。ここの世界の人たちって魔法を使うの随分下手なんだね。ちょっとした心の動きを生む情緒さえあれば、大体どんな魔法でも使えるって思ってたんだけどなあ。
ハウス: 感情だけで使える奇跡術の強度には限界がありますね。私たちが知る大魔法には、大抵は血液などのエネルギー供給源が必要です。
SCP-2910-JP-1: なんだい、魔法を使うのに材料が必要なの?ボクらの世界でそういうことやると随分と低い位置の人に見られるよ。文字通りね。
ハウス: はあ。
SCP-2910-JP-1: ともかく、リータがその場で出来そうな範囲の魔法を覚えさせるために、一応できる限りの努力はしたつもりだよ。ここの人間が持ってるステレオタイプな魔法のイメージをヘキサから聞いてたんで、とりあえずオモチャのローブと杖と箒を持たせてみたりさ。他の組も大体似たような感じだったなあ。ホントはあれ全部いらないんだけどね。まあ、魔法のコツは気分の持ちようだし、ムードは大事なんだな、って改めて分かったよ。
ハウス: リータが持っていた魔女のイメージに揃えるために色々と工夫してたんですか。君はなかなか配慮の効く妖精なんですね。
SCP-2910-JP-1: ボクらはみんな、自分の主人として振舞うことを許してくれた人のことは命をかけてでも守る、って信条があるからね。まあ、ボクらを呼んだ人がどう思ってたかは知らないけど。
ハウス: ヘキサは違った、ということですか。
SCP-2910-JP-1: そうさ。怪物の腹をめがけたあの特攻ダイブを見たかい?あんな危険な真似は主人を守るって発想からは絶対出てこないよ。アイツだけは心のどこかでアリソンのことが気に入ってなかったんだと思う。あれを見て、奴はやっぱりボクらとは別物だった、って改めて思い直したね。
ハウス: ええ、あとで映像を確認しましたが、あれはかなり無茶なタックルでした。というより、魔女が完全に箒を放棄してました。…ともかく、更なる次元異常に飛び込んだ人たちとは、あの後も連絡は取れていたんですか?
SCP-2910-JP-1: 全然無理だね。
ハウス: ふむ。…君はヘキサがまだ生きていると思いますか?
SCP-2910-JP-1: 少なくとも、ボクが同じことやったら絶対死んでたね。でもアイツのことだから、何だかんだ生き残る算段があるような気がする。多分、ボクらの誰も知らない道を使って、ずっと遠くの見知らぬ世界まで行ってるんじゃないのかな。
ハウス: 君たちが来た道はヘキサに教わったと言ってましたよね?彼は他にも道を持っていたんでしょうか?
SCP-2910-JP-1: ヘキサが新しい道を作れたかは分からないけど、主人のアリソンの方はもしかしたらできたかもしれない。立ち振る舞いを見るに、彼女は昔から本物の魔女だったみたいだから。
ハウス: なるほど…あの魔女と妖精の組だけは、根本的なポテンシャルからして他の組とは別物だった、という可能性があるのですね。
SCP-2910-JP-1: 確かに、そうとも言えるね。
ハウス: ありがとうございます。最後になりますが、君はヘキサが本当にやりたかったことについて何か思い当たることがありますか?
SCP-2910-JP-1: 彼のことを色々と見てきて感じたことだけど、彼は主人とか避難民とかそういう括りじゃなくて、もしかしたらマンハッタン島のあるこの世界そのものの方に興味があったんじゃないかな?何か得体の知れないことを考えてそうな感じが強かったよ。
ハウス: なるほど。実を言うと、私たちのマンハッタン奪還作戦の最後の方でヘキサが重要な役割を果たしていたことが後から分かりました。そう言う意味で、彼が世界を救うために行動していた、というのは確かに筋が通る印象を受けます。
SCP-2910-JP-1: でもね。もともと遠く離れた場所から来てるはずの彼が、君たちの世界を救うことになぜ興味を示したのか?これがボクには全く理解できないんだ。
ハウス: 彼の主人は私たちの世界の人間のようなので、そのせいでは?
SCP-2910-JP-1: でも、その割に主人を思い切り無碍に扱ってたからなあ。彼の行動原理を見る限り、少なくとも彼女のために動いてるって感じではないと思うよ。
ハウス: うーむ、そうなると、謎はどんどん深まっていきそうですね。
SCP-2910-JP-1: まあ、ヘキサのことを不安に思うのもいいけど、ボクはそれよりもアリソンの方が心配だよ、仮にまだ生きてるとしたらだけど。アイツと一緒にいたら、あの子、死にはしないにしてもさ、死ぬような目には今後も遭いまくると思うなあ。可哀想に。
【後略】
ハウス研究員が行ったインタビューより得られた情報から推論する限りでは、SCP-2910-JPが棲息していた本来のタイムライン上では、「魔法」の在り方は私たちの世界のそれとは原理を大きく異にしているものであると思われます。加えてSCP-2910-JP-3およびその相方となったPoI-4056は、他のSCP-2910-JP群とも更に異なる独立した法則に基づいて、様々な異常現象を引き起こしていたと見られます。以上より、マンハッタンの地において発生した魔法のうちどの範囲までがSCP-2910-JPに由来していたのかを正確に同定することは、極めて困難だと言わざるを得ません。しかしながら、奇跡論における相似の法、「相似なるものは相似なるものを生ず」に基づけば、SCP-2910-JPに影響を受けたハクスリーを含む女性たちが行使した力も、奇跡術の類型から逸脱しないと見なすことができます。従って、彼女たちを擬似タイプブルーと定義する現在の分類は、明確な誤謬を孕んでいるものではないと考えて良いでしょう。
ナガセ研究員
追記.2910-JP > クレフ博士のメッセージ
以下は、サイト-17に勤務していたギアーズ博士が2001/11/12に受信した、PoI-4056に関連する情報を含むメッセージです。送信者はマンハッタン奪還作戦時に行方不明になったクレフ博士であると見られます。メッセージ内容より、クレフ博士の現在地は基底次元に対する強度不明の時間流断裂を伴う異常領域であると推測されます。2001/11/15時点で、財団が発信した如何なるメッセージに対してもクレフ博士からの応答が確認された例はありません。
To: Charles Gears - サイト-17管理官
From: Alt Fxxx H Clef
Subject: 娘さんが見つかった
チャーリー、あんたの娘さんは今も元気だ。真っ赤なお空を箒でビュンビュン飛び回れるくらいにはな。娘さんは今でもあんたのことを探してるみたいだぜ!健気さに俺は泣いちゃったね。あんたのところに娘さんが帰ってきたら、まずはちゃんと抱きしめてやんな。そうすりゃあんたの死んだ目にもちょっとは光も戻るってもんだろうよ。
P.S. 司令部が異次元に直通するまともな通信回線を持ってないらしいんで、念のため伝言を頼む。モスラの駆除が終わり次第すぐにトンボ返りして、俺を生贄扱いしたクソ野郎全員から1本ずつ追加でコニャックの大瓶を巻き上げてやるから、帰り道のWTC跡地はそのまま維持しておけ。以上、司令部の連中に伝えといてくれ。
クレフ — イカレ国立公園のクソ冒険者、スーパーマン、哀れな生贄、涙が出るほど家族想い