アイテム番号: SCP-2912-JP |
Level 3/2912-JP |
オブジェクトクラス: Safe |
Classified |
セントラル・パーク 2001/09/11、異常次元に落下したマンハッタン市街より。
特別収容プロトコル
SCP-2912-JPはハドソン川協定第1条、第7条及び第53条に基づき、現在財団の収容下にありません。財団がSCP-2912-JPに関して認められる行為はSCP-2912-JPの報告書作成及び調査のみです。
SCP-2912-JPの実質的な管理はセントラル・パーク管理委員会及び国立セプテンバー11遺構管理センターによって行われます。これは景観保全、老朽化防止を目的としたものであり、財団は上記の組織からの要請があればフロント企業「Special Creative Park Organization」を通して活動の支援を行うことが許可されています。
説明
SCP-2912-JPはニューヨーク市マンハッタン区セントラル・パークに位置する巨大な機械構造体です。現在はひどく損壊した状態ですが、かつてSCP-2912-JPは大まかに人型を模した形状であったと判明しており、各部位ごとに異なる出自を持つと想定されています。このため、財団はそれぞれのSCP-2912-JP部位にSCP-2912-JP-1~-5までの個別のナンバーを割り当てています。
SCP-2912-JP-1: 胴体部・右腕部
GoI-014("プロメテウス・ラボ")の子会社であるプロメテウス・メカニクス社の戦闘用大型ヒューマノイド試作機、"ヘパイストスモデルRX-78-2"をベースとして改造されたと思しき機械構造です。改造は主に以下に示す多数の機械部品を溶接、ビス留めすることによって行われています。
- 心臓や大動脈を模したポンプ群
- 複合ギアボックス
- 圧力バルブ
- 大型チューブ
- パイプ
- 歯車
- 様式化された鎚と鑕の刻印プレート
これらの改造を実行・主導したのは、GoI-004("壊れた神の教会")の主要宗派の1つGoI-004A("壊れたる教会")のマンハッタン-スタテン合同教区に所属する神父、ネイサン・フィルモアとして知られる人物です。
また、ベースとなった試作機が自律制御のための人工知能を備えているにもかかわらず、SCP-2912-JP-1胸腔内には人間が搭乗することが意図された操縦席が存在します。これは設計段階から存在する由来不明の仕様であり、研究者からは奇跡論的駆動補助の効果増幅、AIで処理できない複雑な状況への対応策、緊急時のマニュアル操作用、設計ミスなどの仮説が挙げられています。
SCP-2912-JP-2: 左腕部
チタンとアルミニウムをベースに複数の希土類元素を混合した特殊合金による外装甲と、GoI-1115("アンダーソン・ロボティクス")製強化内骨格パーツを主な構成とする機械構造です。SCP-2912-JP-2内部には残弾の無い機関砲や小型ミサイルを格納していたと思しきスペースなど、複数の武装が搭載されていた形跡が残されています。
SCP-2912-JP-2の構造はGoI-8024("東弊重工")が過去に製作した汎用人型駆動兵器"TH-G Mk-II"との類似性が指摘されており、関連が調査されています。
また、装甲表面には意匠化された"&"の記号と以下の文章が刻印されています。
鮫を殴れ。
SCP-2912-JP-3: 右脚部
GoI-016("世界オカルト連合")が用いる超重装甲支援交戦殻"オレンジ・スーツ"の残骸によって構成された機械構造です。SCP-2912-JP-3を構成するオレンジスーツの残骸は明らかに自立が不可能であり、この機械構造を接続・補強しているのは不明な材質の外骨格です。これは外見的にはキチン質と思われ、サンゴに強い構造的類似性を示すにも拘らず概ねヒトに類似するDNAを含みます。
この素材はGoI-082("マナによる慈善財団")が現在建築素材として用いている異常物品が、おそらくは操血術ヘモマンシーと思われる手法によって混合されることで強度が高められています。
SCP-2912-JP-4: 左脚部
複数のジャンク部品、破損した金属製日用雑貨、大量のネジ・ナットなどが寄せ集まって構成された機械構造です。SCP-2912-JP-4を構成する素材の一部には"ザ・ファクトリーの資産"といった表記の金属タグや意匠化された"W"が彫られたプレートが取り付けられています。
SCP-2912-JP-4を単一の機械構造として成立させているのは、SCP-2912-JP-4表面に描かれている多種の魔術文様です。このうちいくつかの文様は、GoI-α-019("蛇の手")の構成員が過去に財団との戦闘で用いたもの、GoI-233("ハーマン・フラーの不気味サーカス")の公演跡地で発見されたものと一致しています。また、魔術的機構として唯一機能していない文言「俺たちはマジクールだったぜ」の意図については検証中です。
SCP-2912-JP-5: 頭部
SCP-2912-JPは頭部を欠いた状態であり、SCP-2912-JP-5は現在まで未回収です。プロメテウス・メカニクス社の設計では、頭部にはメインカメラやアンテナ、制御AIの負担を軽減するためのコ・プロセッサなどが本来位置していたとされています。回収された記録によればSCP-2912-JPの頭部は少なくとも2度損壊しており、プロメテウス・メカニクス社製でない2個目の頭部がSCP-2912-JP-5に指定されています。
補遺.2912-JP.1 > 発端
諸元 |
型式番号 |
ヘパイストスモデルRX-78-2 |
頭頂高 |
26.0m |
本体重量 |
63.2t |
全備重量 |
80.0t |
装甲材質 |
チタン合金、タングステン合金鋼(関節部) |
出力 |
6,380kW |
主機関 |
タロス原動機関、エバーハート共鳴エンジン(奇跡論的駆動補助) |
他 |
自律制御用BardeenタイプAI-Birdeve |
SCP-2912-JP-1のベースとなった"ヘパイストスモデルRX-78-2"は、プロメテウス・メカニクス社が開発した大型ヒューマノイドロボットです。試作機のためか設計上は明確な武装を備えてはいませんが、プロメテウスの内部文書によれば兵器利用を主目的として開発されたとされています。
当時、超常社会では冷戦を背景としたパラテック業界の急速な成長に伴い、軍事・製造・サービスなど様々な場面で労働力としてオートマトンなどが注目されていました。汎用人型オートマトンの開発は激化し、その潮流は後年アンダーソン・ロボティクスの高性能な小型ヒューマノイドである"ペレグリンシリーズ・ドロイド"及び"セイカーシリーズ・アンドロイド"が普及したことからも分かるように、小型化が主流となっていきます。
そのなかでプロメテウス・メカニクスは業界のニッチとして巨大機体の路線をとっていました。この過程で開発を進められていたのがヘパイストスモデルシリーズです。中でも最新作であったRX-78は、設計当初量産化を前提としていたにも関わらず当時のあらゆる同サイズのアンドロイドを性能面で遥かに凌駕する機体でした。
しかしながら、1991年のソビエト連邦の崩壊と冷戦の終結に伴うパラテック・バブル崩壊によってプロメテウスラボグループ全体が経営難に陥り、プロメテウス・メカニクス上層部はプロジェクトの中止を宣言しました。それに従い、RX-78-1、-2、-3の3機の試作機はプロメテウスラボ保有の倉庫に収蔵されていました。その後の記録は、1996年のプロメテウス・メカニクス社倒産時に一部文書が逸失したために不明瞭です。
次にRX-78が記録に登場するのは1999年のことです。イベント・ペルセポネ発生によるヴェール崩壊と、それに伴う第2次パラテックバブルにより、プロメテウスラボグループは大きく業績を回復しました。その際行われた財務整理の過程で、3機の試作機が倉庫内から盗難されていることが判明しました。
財団による後年の調査によって、プロメテウス・メカニクス社倒産後、同社に潜入していたGoI-012("マーシャル・カーター&ダーク株式会社")の構成員によって3機の試作機はブラックマーケットに流出していたことが判明しています。この3機のうち2号機に当たるRX-78-2を購入したのがPoI-2912-JP-Aです。残り2機の内、RX-78-1は東弊重工が保有していることが明らかになっており、東弊重工がRX-78-1をリバースエンジニアリングして"TH-G Mk-II"を作成したことがSCP-2912-JP-1とSCP-2912-JP-2の主要パーツが完全な互換性を持つ理由になっていると推測されています。残るRX-78-3の行方については購入記録などに不自然な改竄が施された形跡があり、現在も調査中です。
財団によるSCP-1518-JP発見以後、マンハッタン-スタテン合同教区は財団の完全な監視下に置かれていました。しかし、マンハッタン-スタテン合同教区の構成員は財団に発見されることなく、秘密裏にRX-78-2を入手し、マンハッタン島に存在する教会保有施設地下の格納庫に保管し改造を施していたとされています。またPoI-2912-JP-Aは購入・改造の目的として、「来たる"肉の禍"に対する備え」を挙げています。
Record 2001/09/19
インタビュー記録: Fillmore-1
対象: PoI-2912-JP-A(ネイサン・フィルモア)
最初にブマロ聖下が"肉の禍"を示した時から、我々は備えを始めました。中でも教会が早急に用意すべきだと考えていたのが、肉を寄せ付けず、神の力を身に纏う新たな巨像でした。あなた方の言うSCP-2912-JP-1ですね。
なぜわざわざ自分たちで製造せずそれを闇市で買ったのかですか? ……なんといっても、カリフォルニア湾はもはや私たちには遠すぎましたから。
[中略]
構築は順調に進みました。しかしながら困ったことも起きました。MEKHANEの信徒が秘儀による構築をした際にはままあることなのですが……。巨像に乗った人間は、少しばかり精神に異常をきたします。残念ながら、その影響は高位の神父達でも耐えきれないほどでした。幸い制御AIによって簡易な操作は可能なものの、この欠点が巨像をいましばらくの眠りにつかせる原因になりました。
補遺.2912-JP.2 > 事件 - 9月11日
SCP-2912-JPは2001年9月11日、GoI-003("カオス・インサージェンシー")の中核となる部隊が主導して発生させたマンハッタン次元崩落テロ事件に関連する一連の事件の最中成立したと考えられています。
これらの推測は要注意団体・要注意人物・財団所有でない観測機器が提供した複数の記録によって導き出されたものです。
当報告書の作成においてもこの記録群が大きな割合を占めているため、閲覧する職員は以下の報告書に十分な信憑性が担保されておらず、脚色・誤謬・矛盾が含まれている可能性に留意して下さい。
— 記録・情報保安管理局(RAISA)管理官、マリア・ジョーンズ
マンハッタン・カオスの発端となる大陸横断路線の旅客機5機のハイジャックが発生した9月11日午前8時20分頃、マンハッタン-スタテン合同教区は、セントラル・パーク北東の新設された教会("ジェファーソン・ミラー教会")にてオープニングセレモニーを行っていました。このセレモニーでは壊れた神の教会の主要3宗派による合同式典、PoI-2912-JP-Aを筆頭とした神父による説諭、地域の安寧祈願が予定されており、地元住民も多く参加していました。この中に後述するPoI-2912-JP-Bが参加していたと考えられています。
Record 2001/09/19
インタビュー記録: Fillmore-2
対象: PoI-2912-JP-A(ネイサン・フィルモア)
事件が起こった時ですか? ええ、最初に倒れたのはマクスウェリスト達でした。彼らは何というか……繊細ですしね。最初は事態についてよく飲み込めていませんでした。WTCのことについて知ったのは第一教会が送ってきた蒸気砲の弾丸通信によって……。
はい、整教徒たちは電波によらない通信手段をいくつも持っています。今が21世紀とは信じがたいようなものも。とにかく状況が一早く分かったので、集まっていた皆さんに事情を説明し、できるだけ早く家に帰り、身支度を始めなさいと言いました。
残ったのは我々神父たちと、神の加護を信じる敬虔な信徒達、そして事情があって帰ることができないという人々でした。大方は島の南部に家を持つ人たちでしたが、ジュード……。あなた方がPoI-2912-JP-Bと呼ぶあの少年だけは、ただ「帰りたくない」と言いました。
発生直後から拡大を続ける異常次元への対応として、9月11日の夕方からマンハッタン島中部における一般市民の避難が開始されました。当時現場で提案された避難経路はマンハッタン島南東部から国際連合本部ビル付近を経由しクイーンズ区へ向かうものであり、ルートの安全性については概ね合意が得られました。この退避案に従った財団による避難誘導は鎮静目的の広域記憶処理展開と併せて一定の効果を上げました。しかしながら局地的な渋滞、暴動の発生は抑制できず、マンハッタン中部からの大規模な一般人避難は12日未明まで継続することになります。
中部からの避難民は北部に流入し、北部各地の公園や大学などの公共施設は簡易的な避難所として解放されました。この事態の中で、ジェファーソン・ミラー教会も壊れた神の教会の構成員を中心とした避難民の受け入れを開始しました。
補遺.2912-JP.3 > 襲撃 - 9月12日
9月12日の午前3時ごろ、マンハッタン一帯は大規模な停電に見舞われます。これはカオス・インサージェンシーがハーレムリバーヤード発電所などのマンハッタン島の各地周辺発電施設を攻撃したことが原因でした。財団は攻撃を予測し重要な電力関連施設に防御態勢を敷いていましたが、カオス・インサージェンシー構成員による散発的な自爆テロ、及び最終的に用いられたSCP-1068の連続爆撃によって、多くの発電施設がダウンしました。また、一部地域では同様の襲撃によって水道・ガスなどのライフラインの喪失が記録されています。
Record 2001/09/19
インタビュー記録: Fillmore-3
対象: PoI-2912-JP-A(ネイサン・フィルモア)
避難してきた人々の中には特殊な能力を持つ者も多く居ました。裏口が近いからでしょうね。火を吹くサーカスの男がいれば、雨を呼ぶ魔術師も。ジュードが持っていたのは電気を操る能力でした。知っての通りマクスウェリスト達には電気が必要不可欠です。厚かましくも彼らはジュードに、体の良い発電機になってくれと頼み込んでいました。
私を驚かせたのは、ジュードが嫌がりもせずに彼らの指示に従ったことでした。私はその理由を尋ねました。
「どうせ俺はギークでアノマリーだから、扱いが悪いのなんて当たり前なんだ」ジュードは自嘲するようにそう言いました。そのとき私は確かに、彼の心が錆び付き軋む音を聞いたのです。
私は彼に諭しました。己の感じる身分の高低に関わらず人はみな未完成の個であり、それが組み合わさって形作られる大いなる機械に比べれば、総じて微小な部品に過ぎないのだと。
私は彼の手を引き、地下格納庫への扉を開きました。広大な格納庫の中には大勢の信徒達がせわしなく作業を行っており、中央にはあの巨像が鎮座していました。はい、それがあなた方の仰るSCP-2912-JP-1です。ジュードはそこで、初めて年相応の驚きと喜びの顔を見せてくれました。
その時、奴らの来襲が始まりました。
9月12日正午頃、複数の敵性実体による最初の大規模攻勢が展開されました。これら敵性実体の中には悪魔実体、カオス・インサージェンシー戦闘員、パラテクノロジー兵器、既知/未知のオブジェクトが含まれ、一部はジェファーソン・ミラー教会を襲撃しました。PoI-2912-JP-Aを含む壊れた神の教会構成員は、交戦のため一時的にSCP-2912-JP-1から離れ地上に向かったと証言しています。以下はマクスウェリズム教会構成員による記録です。
Record 2001/09/12 - Maxwellism-1
メンバー:
- マンハッタン-スタテン合同教区 壊れたる教会派 "神父" ネイサン・フィルモア(PoI-2912-JP-A)
- マンハッタン-スタテン合同教区 歯車仕掛正教派 "ミリタント" メアリ・ストゥーシー
- マンハッタン-スタテン合同教区 マクスウェリズム教会派 マーカス・スパークス
【再生開始】
[視点からは教会に迫る複数の敵性実体が確認できる。異常実体の中には巨人型悪魔実体、猫足型悪魔実体、ジェイソン・ステイサムの巨大な頭部を模した悪魔実体、モンゴル騎馬兵などが含まれている]
メアリ・ストゥーシー: "鉄壁"を展開せよ!
[教会の前方路面からは弧を描くように鉄塊がせり出す。敵性実体の進行は一時的に妨害される]
PoI-2912-JP-A: ミリタント、"聖油"の用意が整いました。
[ジェファーソン・ミラー教会の構成員は、工業用の潤滑油と思しき高温の液体が充填された桶と柄杓をそれぞれ手にする]
メアリ・ストゥーシー: まだだ、よく引きつけろ。
[複数の敵性実体がバリケードを乗り越え始める]
メアリ・ストゥーシー: 今だ、聖油投射!
[ジェファーソン・ミラー教会の構成員は、一斉に潤滑油を敵性実体に投射する。神学的効果はさほど見られないが、おそらくはそれが高温であるために悪魔実体は苦悩する]
メアリ・ストゥーシー: 第二射用意!
マーカス・スパークス: おいまて、そんなバカスカ消費しないでもらえるか?ただでさえここの聖油備蓄は少ないんだ。
メアリ・ストゥーシー: ほう、技術師如きがこのミリタント・フェイスフルに無用な口出しか。それも先ほどまで耄けていた唸り屋が。
マーカス・スパークス: 管理を任せられているのは俺たちだ! そんな無駄にぶちまけるような使い方して、このままじゃ油ぎれで錆び付いちまうのはお前らだぞ。
メアリ・ストゥーシー: ここは倉庫では無く戦場だ!今出し惜しみしていては守るものも守れぬわ!
マーカス・スパークス: 効率の問題だ!もっと他に良い武器があったはずだろ!
[メアリ・ストゥーシーは体からオイルの混じった蒸気を吹き上げ、マーカス・スパークスはハム音とともに眼を赤く発光させる]
PoI-2912-JP-A: お2人とも落ち着いて下さい。今求められているのは不和では無く団結です。事態は混迷していますが、力を合わせればきっと
[電子音に似たドッドッドッという重低音に言葉がかき消される。音の発生源は発光する1m3の立方体の連なりで構成されたムカデに類似している大型実体である]
マーカス・スパークス: あれは……。まるでセンチピードだ。
PoI-2912-JP-A: 何か知っているのですか?
マーカス・スパークス: ああ、パラウォッチで見た都市伝説だ。これまで遊んできた子供たちの子供たちの魂を吸い取って、宿った悪魔を呼び出すゲーム筐体があるんだとか……。
メアリ・ストゥーシー: くそ、こちらへ向かって来るぞ。
[ムカデ型の敵性実体はジェファーソン・ミラー教会へ進行を始める。経路に存在した悪魔実体、瓦礫、鉄塊のバリケードはムカデ型敵性実体の顎に触れた瞬間ボクセル状に分解され、消滅するように見える]
マーカス・スパークス: 退避!総員退避しろ!
メアリ・ストゥーシー: 何を、ここで我らが引けば背後の信徒はどうなる!
マーカス・スパークス: 自分の部下を無駄死にさせるつもりか!
PoI-2912-JP-A: この、こんな時まで
[突如教会建屋が2つに分かれるように開放され、そこから現れた機械の腕が、迫るムカデ型敵性実体の胴体を掴み上げる。そのままゆっくりとSCP-2912-JP-1が教会から姿を現す]
マーカス・スパークス: こいつ、動くのか!?
メアリ・ストゥーシー: バカな。巨像が動いただと? 一体誰が乗っている!
[SCP-2912-JP-1は装甲表面から僅かに放電し、バチバチと火花を飛ばす]
PoI-2912-JP-A: ジュード……?
【再生終了】
Record 2001/09/12 - Maxwellism-2
【記録開始】
[注記: 当該記録はマクスウェリズム教会構成員を介したPoI-2912-JP-Aと制御AI-Birdeveの通信記録である]
[WANisGreat] コール: Birdeve
[Birdeve] 何か御用でしょうか、サー。
[WANisGreat] 状況を説明してくれ、なぜ勝手に動き出した?
[Birdeve] 現在、当機RX-78-2は電磁的な攻撃によって制御システムを強制操作されています。
[WANisGreat] くそ、では コマンド: 停止
[Birdeve] 不明な理由により、命令が実行できません。
[WANisGreat] コマンド: 停止 コマンド: 停止
[Birdeve] 不明な理由により、命令が実行できません。
[WANisGreat] なぜだ。
[?mAA] 邪魔をするな
[WANisGreat] 君か? ジュード。
[?mAA] そうだよ
[WANisGreat] なぜこんなことをした?
[?mAA] 俺だって戦える
[WANisGreat] 馬鹿なことをするんじゃない。君は
[?mAA] バカだって? アンタはただ怖がってるだけだ
[?mAA] 俺のことを
[?mAA] どいつもこいつもそうだ
[?mAA] 誰も分かろうとしない
[?mAA] 俺には出来る
[WANisGreat] 待て
[?mAA] ケータイだけじゃないんだ
【記録終了】
Record 2001/09/12 - Maxwellism-3
【再生開始】
[00m00s-] SCP-2912-JP-1が、ムカデ型敵性実体を掴んだまま教会から姿を現す。
[00m04s-] ムカデ型敵性実体は身をよじり、顎でSCP-2912-JP-1を破壊すること、もしくは状況からの脱出を試みるが、SCP-2912-JP-1によって頭部を固定されているために失敗する。
[00m13s-] SCP-2912-JP-1の左上腕部に高出力レーザー光が照射され、SCP-2912-JP-1はうろたえるようにムカデ型敵性実体から目線を移す。カメラの視点がレーザー光の軌跡をたどると、サイバネティック強化を施されたモーリシャスドードー(Raphus cucullatus)の隊列が砲口をSCP-2912-JP-1に向けている。ドードーは全てカオス・インサージェンシーの文様がペイントされたローマ風の甲冑を装備している。
[00m39s-] ドードー達の背後から複数の人間、悪魔実体を隊列に含むマーチングバンドが出現する。マーチングバンドの発する音楽は認識災害効果を持ち、そのことを察知したと思しき周囲のカオス・インサージェンシー及びジェファーソン・ミラー教会の構成員は一時的に退避する。
[01m02s-] SCP-2912-JP-1はマーチングバンドにムカデ型敵性実体を放り投げ、隊列を崩壊させる。操縦者であるPoI-2912-JP-Bは認識災害の影響を受けていないようである。粉塵が舞い上がり、その中から中心に異常と書かれた旭日旗を背中に立てた巨大な甲冑を纏う実体が出現する。
[01m37s-] 甲冑実体は腰に備えた日本刀を構え、SCP-2912-JP-1に向かって突進を始める。SCP-2912-JP-1は回避の姿勢を取るが、避けきれず左腕で攻撃を受け、被攻撃部分が小規模破損する。
[01m53s-] SCP-2912-JP-1は右手部分から強力な電磁気を発生させる。電磁気は周囲の瓦礫に作用し、剣状の構造体を構築する。SCP-2912-JP-1は剣状構造体で甲冑実体に応戦するが、戦闘は甲冑実体が優位な状態で推移している。
[04m49s-] SCP-2912-JP-1は一度距離を取り、戦意を失い足下に寝転んでいたドードーを摘まみ上げレーザーを甲冑実体に向かって発射させる。発射されたレーザーは大部分が甲冑実体を外れるが、不明な理由によって甲冑実体の挙動が安定性を失ったものとなる。
[06m17s-] 不安定となった甲冑実体をSCP-2912-JP-1が剣状構造体で切断する。破壊された甲冑実体は分解されるように消失し、それを切っ掛けとして、周辺の敵性実体が撤退を始める。
[07m03s-] PoI-2912-JP-Aが進み出、SCP-2912-JP-1に対して帰還するように呼びかける。SCP-2912-JP-1はこれに中指を立てるジェスチャーで応答し、歩いて画面からフェードアウトする。
【再生終了】
補遺.2912-JP.4 > 孤立 - 9月13日
SCP-3216を通じた有線通信によって財団組織内でマンハッタン島外との連絡方法が確立されたのは、9月13日の午前8時頃でした。その際もたらされた戦況報告によれば、午前8時時点では敵性実体との戦線は一時的な膠着状態にあり、戦闘は続行されていたものの結果として限定的な平穏がもたらされていました。
Record 2001/09/13 - Maxwellism-4
【記録開始】
[注記: 当該記録はマクスウェリズム教会構成員を介したPoI-2912-JP-Aと制御AI-Birdeveの通信記録である]
[WANisGreat] コール: Birdeve
[Birdeve] 何か御用でしょうか、サー。
[WANisGreat] 今はどういった状況だ?
[Birdeve] 位置情報: 取得できませんでした。
[Birdeve] 当機RX-78-2は不明な地点にてスリープ状態にあります。
[WANisGreat] そうか……ジュードはどうだ?
[Birdeve] 見たところ、コクピット内にて睡眠状態にあるようです。
[WANisGreat] 自力で起動して戻ってこれるか?
[Birdeve] 制御システム: ロックされた状態です。
[Birdeve] 申し訳ありません。実行は困難なようです。
[WANisGreat] 分かった。その他に伝えることはあるか?
[Birdeve] はい。先ほどから"ジュード"と呼称される少年は、睡眠時頻繁に魘される傾向にあるようです。
[Birdeve] また、少年の頬の上に僅かな涙を検出しました。
[WANisGreat] ……分かった。何かあればまた報告してくれ。
[Birdeve] 了解しました。サー。
【記録終了】
午前9時20分頃、2度目の大規模攻勢が展開されました。初回の大規模攻勢と異なる点として、SCP-2911-JP指定領域の拡大加速に伴う悪魔実体の大幅な増加、及びUE-1109に指定される複数の巨大エネルギー実体による破壊活動が確認され、状況は財団勢力に対して不利へと傾きました。
Record 2001/09/19
インタビュー記録: Fillmore-4
対象: PoI-2912-JP-A(ネイサン・フィルモア)
敵はその数を増し、苛烈な勢いで私たちに襲いかかりました。見たことも無いような色の火の手が上がり、SWATのような服装の奴らはUFOもどきを投げつけ、カンガルーが地響きを立てながら跳ね回り、ビルは消し飛び、分厚い霧が辺りを凍り付かせました。そんな中に、再びジュードの巨像が姿を現したのです。おそらくは私たちを守ろうとして。
ですが……。あのとき突如として出現したあれを、なんと例えれば良いのか未だに分かりません。ヤツがそこに在るだけで、世界の何かが根本的に組み替えられてしまっていた。思考は塗りつぶされ、原初人類が感じた太古の闇への畏れにも似た震えが全身を駆け抜けました。きっと……どれだけ言葉を尽くしても、あの場に居た人間で無ければ私の視たものを理解することは出来ないでしょう。……もし、確かに一つだけ言えることがあるとするなら。
神とさえ見紛うその怪物は、ただ血のように赤かった。
Record 2001/09/13 - UIU-NY
連邦捜査局異常事件課による聴取記録
聴取人員:
エレイン・ショット 異常事件課捜査員
ハワード・パッカード 財団-FBI連絡員
ジェシカ・エッカート 民間精神測定能力者サイコメトリスト
聴取対象:
デレク・オブライエン 容疑者 (アメリカ合衆国沿岸警備隊、兵曹長)
連絡員注記: デレク・オブライエンにはカオス・インサージェンシーの協力者であった嫌疑が掛けられている。先日の取り調べの最中、デレク・オブライエンはCIによるミーマチック制御によって意識を喪失したため、得られた情報は僅かであった。今回の取り調べは深層記憶を探索し更なる情報を得るための試みである。
<記録開始>
オブライエン: [容疑者は睡眠薬によって意図的に夢遊状態にされ、ベッドに寝かされた状態である]
エッカート: では始めていくわ。基本的には私を通して彼にインタビューするという形で構わないのよ。余りに深く能力を使っているときの私は一種のトランス状態になるけど、その状態でもリクエストには逐次応えていくから。
ショット: 了解だ。では、聴取を始める。
パッカード: まずはそうだな……。オブライエンが運んだという荷物とその行き先について調べてくれ。
エッカート: [容疑者の額に手を当てる] 種類は雑多ね……。物だけじゃ無くて人も。彼は、マンハッタン島内への運び屋だったのね。
ショット: 人の詳細については先日調査した。物について詳しく頼む。
エッカート: 一般的な保温容器、アラビア風カーペット、武器──種類については詳しく分からない。一見普通のライフルみたいな物もあれば、炎のような形をした刃の刀剣まであるわ。後は燭台……。台座は暗赤色で、中国語かしら、何か文字が彫りこまれている──"火炬之子"? 図柄はあとでメモするわ。他には──待って、箱がある。
パッカード: 箱?
エッカート: そう。石で出来てるみたいだわ。
オブライエン: [容疑者は大量に発汗し始める]
エッカート: 彼はそれをどこに運ぶべきか聞いてみた……。けど誰もその箱のことを知らなかった。だから、彼、その箱に手を伸ばして──。
オブライエン: [容疑者は大きくうなり声を上げる]
ショット: 目覚めたのか?
エッカート: [容疑者の額から手を離す] いえ、これは彼にとって触れられたくない記憶みたいね。いや、自分でも忘れていたのかしら、封印していた、というのが近いかもしれないわ。
パッカード: ふむ、封印か。精神プロテクトとは違うのかい?
エッカート: そうね……。これはどちらかというとより原始的というか──うまく言葉で言えないわ。こんなタイプに出会うのは初めてですもの。ここから先を探るなら、深いサイコメトリーを使うことになる。無意識の感覚に触れることになるから、より抽象的な描写になるわ。
ショット: 問題は無い、言葉の解釈ならあとで白衣の連中がやってくれるだろう。
エッカート: 了解。では始めるわ。[容疑者の額に手を当てる]
エッカート: どこへ、箱は、見た目に反して温かい。人の体温? いえ、流れ出てきたもっと熱くすばらしい物。表面は脈動している……。もっと内部へ──[悲鳴]
オブライエン: [容疑者は同時に悲鳴をあげる]
ショット: これはまずい。止めた方がいい!
パッカード: オーケー、引きはがすぞ。
オブライエン: [容疑者はエッカートから引き離される] 赤い! 赤い! 血だ! あの箱は混凝土で押さえ込まれた血と骨と腱のものなのだ!
エッカート: 眼は大いなる深淵を見た。それは存在するべきではなかった。それは全てのもののためにも存在するべきではなかった。
ショット: どうなってるんだクソ──
オブライエン: 嗚呼!その咆哮はもはやあらゆる者を恐れず、全ての他を脅かす!
エッカート: それはあの"土星の雄鹿"も例外では無かった。万物は目前に迫る破滅に震え上がった。
[ショット・パッカード両名は応援要請のため取調室から退出する]
オブライエン: 壊れた欠片は塵となり、竜なる肉は貪られ、後に残るはただ一つの灯火のみ!
エッカート: 幾千の戦場を血で汚し、幾万の魂を誑かし、いま再び降り立つは偽りの森。
オブライエン: 何と喜ばしい! 人の手により作られた大仕掛けの庭園。自然を模倣する歪みよ!
エッカート: 王は万物を否定し破壊するだろう。その巨大な悪意によって。あらゆる秩序は混沌へ回帰するだろう。王の完全なる憎悪によって。
オブライエン: 古のKhahrahk、暗闇のKhnith-hgor、そして血であるShormaush Urdalよ! 姿を顕し給え!
エッカート: 願わくば全ての命を絶やし給え、穢れたる緋色の王よ。
<記録終了>
連絡員注記: この音声記録終了後、オブライエン・エッカート両名は意識不明の状態で拘留された。
観測異常報告
観測地点: セントラル・パーク周辺地域
異常種別: 計測値オーバーフロー
観測時刻: 9月13日 07:13 AM (現地時間)
脅威レベル判定: レッド ●
事象概要: 戦術的神学部門のブレナン-天佑神助カウンターによる定常観測が、セントラル・パーク周辺地域におけるアキヴァ放射の大規模ハレーションを計測した。観測機器の数値オーバーフローによって計測値は不明。同時に観測された空間ヒューム値の分布予測により観測異常の原点が神格実体に類する存在であることが示唆されたため、暫定的に当該存在はUE-1110に指定された。
Record 2001/09/13 - Maxwellism-5
注記:
【再生開始】
[00m00s-] UE-1110が出現する。実体は認識災害的光輝を放ち、周囲を7つの光条が軌跡を描くように取り巻いている。
[00m24s-] SCP-2912-JP-1が剣状構造体を構え、UE-1110に斬りかかる。しかしその攻撃は不規則に揺らめくように歪むUE-1110をすり抜け、空振りに終わる。UE-1110は幼児の笑い声に似た高音を発する。
[01m34s-] 再びSCP-2912-JP-1が剣状構造体を振りかぶるが、UE-1110は瞬間的にSCP-2912-JP-1の背後へと移動し、それに伴って発生した空間歪曲によって剣状構造体は破壊される。
[02m19s-] SCP-2912-JP-1は磁力を発し、瓦礫をUE-1110に投射する。瓦礫はUE-1110の表面をなぞるように逸れ、損害を与えたようには見受けられない。UE-1110は幼児の笑い声に似た高音を発する。
[01m48s-] UE-1110は鐘の音、もしくは唸り声に形容される低音を発しながら全方位に衝撃波を発生させ、SCP-2912-JP-1を含む周囲の構造物を破壊する。SCP-2912-JP-1の機能評価は目測で72%まで低下する。
[02m17s-] SCP-2912-JP-1は衝撃波によって倒された機体を直立させた状態へ回復させようと試みるが、おそらくは重力異常に起因する現象によって、左脚部を最上部として逆さづりされた浮遊状態に固定される。UE-1110は幼児の笑い声に似た高音を発する。
[02m40s-] UE-1110の周囲を旋回していた7つの光条が、概ね人の手を模した実体へと変化しSCP-2912-JP-1の左腕部、右脚部をもぎ取るように破砕する。SCP-2912-JP-1の機能評価は33%まで低下する。
[03m53s-] SCP-2912-JP-1は左脚部を最上部としてつり下げられた状態のまま、振り回される。左脚部と胴体部との接続部分が張力によって破損・分断され、SCP-2912-JP-1は画面外へと吹き飛ばされる。UE-1110は幼児の笑い声に似た高音を発し、残存した左脚部は放棄される。
[04m37s-] カメラが視点を変えると、SCP-2912-JP-1が駆動部分破損に由来する軋み音を上げながら横たわっている。燃料のエーテル霊素流体が漏出し、僅かに融解した機体表面からは煙が燻っている。この時点でSCP-2912-JP-1の機能評価は0%となり、完全に沈黙したものと見なされている。
[05m03s-] UE-1110が幼児の笑い声に似た高音を発する。
【再生終了】
Record 2001/09/13 - Maxwellism-6
メンバー:
- マンハッタン-スタテン合同教区 壊れたる教会派 "神父" ネイサン・フィルモア(PoI-2912-JP-A)
- マンハッタン-スタテン合同教区 歯車仕掛正教派 "ミリタント" メアリ・ストゥーシー
- マンハッタン-スタテン合同教区 マクスウェリズム教会派 マーカス・スパークス
- ジュード・クライヨット(PoI-2912-JP-B)
【再生開始】
[ジェファーソン・ミラー教会の構成員が破壊されたSCP-2912-JP-1を取り囲み、操縦席からPoI-2912-JP-Bを搬出している]
マーカス・スパークス: 乗っている奴は無事か!
メアリ・ストゥーシー: これだけ手酷くやられていては、肉の体が残っているのも不思議なくらいだがな。
PoI-2912-JP-A: [沈黙]
[PoI-2912-JP-Bが3人の前に連れ出される]
PoI-2912-JP-B: ……何だよ。
メアリ・ストゥーシー: さて少年、好き勝手やってくれたではないか。運良く助かった体をバラバラにされる覚悟は出来ているんだな?
マーカス・スパークス: 少し癪だが、これに関しては同意するぜ。手塩に掛けた巨像を勝手に乗り回したあげくこんな風にしちまってよ。
PoI-2912-JP-B: 何だよ!好きにやれよ!それで何とでもなるんだったら
[PoI-2912-JP-AがPoI-2912-JP-Bの頬を殴打する]
PoI-2912-JP-A: いい加減にしろ馬鹿野郎!1人で勝手に突っ走って、スーパーマンにでもなったつもりか!
PoI-2912-JP-B: え、え……。
PoI-2912-JP-A: いいか、お前はまだ子供なんだ。何で全部背負い込もうとする?俺たちがどれだけ心配したと……。
[PoI-2912-JP-Bは涙を流し始める]
PoI-2912-JP-B: 俺、俺、皆を守りたくて。このロボがあれば、守れると思って。でも、カッとなって、結局、結局、全部ダメに。俺のことも、Birdeveがギリギリで、緊急時システムってやつで助けてくれて。でも、でも……。
[PoI-2912-JP-Bが損壊したBirdeveのインターフェースを差し出す]
PoI-2912-JP-B: ごめん、ごめんなさい……。
[PoI-2912-JP-AはPoI-2912-JP-Bをハグする]
PoI-2912-JP-A: いいんだ、ジュード。おれはお前を許す。マーク、Birdeveを直せるか?
マーカス・スパークス: どれ……。なるほど、メモリーやCPUは無事だ。焦げたのはガワだけだよ。今はスリープ状態なだけで簡単に直せる。
メアリ・ストゥーシー: ふん。ともかく巨像を失ったからには、我らはアレに抗する手段を他に探せねばならない。
[メアリ・ストゥーシーはUE-1110を指し示す。UE-1110は巨大な鼓動音を発しながら、脈動とともに周囲の水蒸気、硫黄、卑金属、気化した低級アルコール、不明な生物の血液などで構成された赤い霧を継続的に吸収している]
メアリ・ストゥーシー: アレは育ちつつある。徐々に実体化し、こちらの世界に出でつつあるのだ。今は眠りについているとしても、いずれはあの揺籃を破り破滅をもたらすだろう。
PoI-2912-JP-A: 巨像の攻撃じゃうざったがられる程度だったってのか……。
メアリ・ストゥーシー: なに、問題は無い。起き抜けにきつい一発を食らわせてやれば良いだけのことだ。
マーカス・スパークス: なるほど……?よし、少し席を外す!
メアリ・ストゥーシー: おい、こんな時にどこへ行く!
マーカス・スパークス: おいミリタント、アンタも手伝ってくれ!あのレッド野郎にぶちかます方法が一つ思いついたんだ!
[マーカス・スパークス、メアリ・ストゥーシー両名は画面外へ立ち去る]
PoI-2912-JP-A: ……行っちまった。全くあいつらは本当に……。
PoI-2912-JP-B: ねえ神父さん。神父さんって、そんなしゃべり方してたっけ?
PoI-2912-JP-A: ん?……ああ、こっちが素なんだ。神父としては問題かもしれんが、父親の教育が悪くてな。
PoI-2912-JP-B: いや、そっちの方が良いよ。なんかあのしゃべり方胡散臭かったし。
PoI-2912-JP-A: はは。そうか。今度からこの口調で説教してみるかな。……もっとも、今度が来るかどうかは分からんが。
[PoI-2912-JP-AはUE-1110をにらみつける]
PoI-2912-JP-A: おれの家族は、ずっとこのマンハッタンで神父をやってきた。おれはここで育ったし、ここを誰よりも愛している。だからこそ、あんな野郎にでかい顔されるとむかっ腹が立つ。故郷のマンハッタンを守るために、絶対にヤツを倒さなきゃならない。メアリとマークも軽口を叩いちゃいるが心の中じゃ必死のはずだ。
PoI-2912-JP-B: で、でも、あのロボが一番強かったんでしょ?それなのに、どうやって……。
[PoI-2912-JP-Aはひとつなぎのように溶接された歯車で形作られた戦鎚を手に取る]
PoI-2912-JP-A: 簡単だ。諦めないことだ。最期の息を吐くまで、おれたちは希望を叫び続ける。
【再生終了】
9月13日の午後になると、財団・GOCの防衛部隊は明確な劣勢に立たされました。増援としてマンハッタン島外部からの突入作戦の準備が進行していたものの、物資、人員不足などを理由にSCP-2911-JPに指定された異常領域の拡大を効果的に抑制することに失敗し、悪魔実体の爆発的な増加とともにハドソン川沿岸地域に加えマンハッタン島の75%が異常領域に侵食。また神学的防護の要を担っていた境界線イニシアチブから、展開されていた大規模結界がUE-1110の出現によって崩壊した旨の通達がなされました。
こうした事態を受けて、防衛部隊はそれまで前線基地として機能していたセントラル・パークを放棄し、コロンビア大学やハーレム区といった地域まで後退することを決定しました。これは、それまで前線の後方にあったジェファーソン・ミラー教会が、敵対勢力の中で完全に孤立することを意味していました。
Record 2001/09/13 - Maxwellism-7
【再生開始】
[00m00s-] ジェファーソン・ミラー教会の構成員が、蒸気機関式の投石機と思しき兵器でUE-1110を攻撃するが、飛行する人頭を持ったカラス型悪魔実体たちに遮られ、失敗する。
[02m44s-] 周囲のビルからSCP-3008-2実体が複数出現し、「お客様、展示商品で遊ぶのはご遠慮下さい」というフレーズを叫びながら、投石機とその操作者に対して敵対的に接近する。
[03m34s-] 投石機を防護するため、戦鎚を装備したPoI-2912-JP-Aを含めたジェファーソン・ミラー教会の構成員がSCP-3008-2実体と戦闘を開始する。これにジェファーソン・ミラー教会に保護されていた避難民たちが協力し、投石機は維持される。
[06m49s-] 投石機がUE-1110に向けて瓦礫を投射する。瓦礫はUE-1110の表面に着弾した瞬間、歪曲し消滅する。UE-1110に変化は無く、ジェファーソン・ミラー教会の勢力は明確に落胆を示す。
[08m18s-] 不明な射出者によって黄色の信号弾が打ち上がる。SCP-3008-2の出現数が大幅に上昇し、ジェファーソン・ミラー教会勢力は徐々に後退を始める。
[013m37s-] 一帯に大型の巡航ミサイルが着弾し、爆発が発生する。この爆発は投石機の破壊、SCP-3008-2の過半数の消滅を引き起こし、PoI-2912-JP-Aを映像記録の視界の外へ吹き飛ばす。
【再生終了】
Record 2001/09/19
インタビュー記録: Fillmore-5
対象: PoI-2912-JP-A(ネイサン・フィルモア)
爆発で吹き飛ばされ、気がついた時にはどれだけ時間が経っていたかは覚えていません。ただ、目を覚ましたその時、私は背後からの突風を感じました。
振り返ると地下への階段があり、風はそこから吹いてきていることに気がつきました。ええ、確かにそれだけでは何の不思議も無いでしょう。しかし、毎日のように見る景色の中で、一度だってその場所にそんな階段が有るはずがありませんでした。いつの間にか存在していた……いや、忘れていたのか? ……すみません。あのときは混乱していたのかもしれませんね。だっておかしいでしょう。有るはずのないものに、懐かしさを覚えたなんて。
その階段は埃にまみれていて、薄暗く、唯一の明かりは頼りなく点滅していました。私が目をこらすと、階段の先、通路の奥に、見えたのは金属のハッチでした。もっとよく見ようとしましたが、その試みは襲いかかってくる悪魔の叫び声によって中断されました。
私がその階段に気を取られていたうちに、周りは様々な悪魔によって囲まれていました。もう一度立ち上がるため私が戦鎚に手を伸ばしたとき、轟音が響きました。それは先ほどの階段から聞こえてくるようであり、もっと具体的に言えば、ハッチが内側から強大な力で叩かれているようでした。
悪魔達もひるんだように階段の方向をみつめていました。やがてひときわ大きな音が響くと、ハッチは上空へ吹き飛びました。それからの出来事はほんの短い時間でしたが、はっきりと覚えています。ハッチから出てきたのは金髪灰眼の痩せた白人男性でした。男は僅かな布と鉄の装身具のみを身につけ、露出した肌には一面に悪魔の顔のような入れ墨がありました。男は周囲にいた悪魔を、自らの影から剣のような物体を取り出して切りつけ、あるいは素手で引き裂き、一掃しました。全てが一瞬で終わったとき、吹き飛ばされたハッチがようやく地面に落ちて、金属音を響かせました。
ハッチにはただ一言、エイブルAbleと書かれていました。
Record 2001/09/13 - Maxwellism-8
[注記: 以下の文章は歯車仕掛け正教の蒸気砲通信に混入していた紙片に記載されていたものの転写である。なおこの紙片は不明な原理によって自動的に焼失した]
こんにちは、親愛なる新しき人々。私は"協会"のギャラント。出来れば私のことは超常科学者としてDr.ギャラントと呼んでほしい。
率直に言おう。私はあなた方を助けようとしている。魔人の棺はちゃんと届いただろうか? 露払い程度には役に立ったと思うのだが。
世界は不安定へと無限に加速を続け、人々はその変化を恐れる。しかし、"恐怖は決して答えとはなり得ない"。だからこそ私たちは、まさに今このマンハッタンで恐怖に挑んでいる。狂ったように見える世界でも、愛と勇気、そしてほんのちょっとでも未知と手を取り合おうとする理解さえあれば、世界は正義へと弧を描くだろう。
古い伝手に当たってすでに手配は済ませた。明日には準備が整うはずだ。もう一度立ち上がろう。共に、この世界を今ある姿よりも少しだけ良くするために。
補遺.2912-JP.5 > 団結 - 9月14日
注記
正直に言って、ここから情報の矛盾がひどくなってくる。時系列通りに整理すると、4.5tある鉄くずが10km以上の距離を2分で移動している計算になったり、一人の人物がある視点からは描写されているのに、ある視点からはそもそも存在するはずがないことになる。問題は当時のマンハッタンではその矛盾が成立しうることだ。異次元と接続してるわ、願いを叶える悪魔はうようよ居るわ、次元工学者と妖術師が多方面からポータルを開けまくって現実構造がガタガタだわ……。要は何が起きてもおかしくなかった。全てが不安定で、揺らいでいた。
ただ、結果としてSCP-2912-JPは再び立ち上がった。それだけは確かだ。
— 未詳資料/目録編纂室 編纂官、アンドリュー・スティングス
SCP-2912-JP-2(左腕部)の出自に関係すると考えられている実体が初めて目撃されたのは、9月13日午前6時頃のマンハッタン島西部沖合です。当時その地点ではマンハッタン島外への別次元浸食に歯止めをかけるため、一定間隔で停泊した財団艦船が艦載スクラントン-アンカーを同調稼働させることで不安定現実の中和作業に従事していました。また、同じく島外へ侵攻を試みる魚型悪魔実体の対処もこれら財団艦船の任務でした。
Record 2001/09/14 - 060338
メンバー:
- 財団艦隊司令部 ドナルド・クロスマン
- SCPSプロヴィデンス乗組員 ジョニー・クロサカ
【再生開始】
[注記: この通信の10分18秒前に、SCPSプロヴィデンスから魚型悪魔実体の大群と交戦状態に入ったとの連絡あり]
SCPSプロヴィデンス: こちらプロヴィデンス。司令部、応答されたし。
財団艦隊司令部: プロヴィデンス、何が起こった。
SCPSプロヴィデンス: あー、増援だ。
財団艦隊司令部: プロヴィデンス、増援要請には応じられない。
SCPSプロヴィデンス: いや違う、増援が来た。
財団艦隊司令部: こちらはまったく感知していない。プロヴィデンス、その艦の外観を説明してくれ。
SCPSプロヴィデンス: えー、艦というよりも、漁船だ。
財団艦隊司令部: すまないプロヴィデンス、もう一度繰り返してくれ。
SCPSプロヴィデンス: 大量の漁船が魚型悪魔サファギンと戦っている。
[SCPSプロヴィデンスの映像記録: 小型・中型の漁船の船上に立つ人間が投網や釣り針を魚型悪魔実体に投げつけ捕獲を試みている。いくつかの漁船の側面には"フルトン超常漁業組合(FPFA)"というペイントが施されている。漁船群の先頭に位置する船はイカ釣り漁船と思われるが、照明を除き全てが黒色に塗られている]
財団艦隊司令部: 一般人の戦闘被害を避けるために警告を行ってくれ。
[SCPSプロヴィデンスの映像記録: 黒色の漁船の舳先には和服を着た男性が立っている。男性の背中には「闇」の漢字一文字が白く染め抜かれている。男性を捕食するため、魚型悪魔実体が水中から飛び上がる]
不明な男性: キエェェェェイ!
[男性は懐から取り出した包丁で素早く魚型悪魔実体を切断する。この動作は"3枚おろし"と呼ばれる魚の捌き方の一種に類似している]
SCPSプロヴィデンス: 司令部、彼らが一般人かどうかについては大いに議論の余地があるな。
[SCPSプロヴィデンスの映像記録: 宴龍とペイントされたジャンク船は明らかに奇跡術を使い、高温の油を空中に浮かべ魚型悪魔実体を素揚げにしている。Ambroseとペイントされた屋形船に類似する和船は船内で他の漁船が釣り上げた魚型悪魔実体を不明な客に振る舞っている。また、"JOICLE魂~JOICLEのEは情熱(Emotion)のE~"と表記された大漁旗を掲げる漁船は、クロマグロ(Thunnus orientalis)と思しき実体を海面に投げ込み爆発させ、魚型悪魔実体を牽制している]
SCPSプロヴィデンス: あれらの漁船はなにか、船体を包む鱗のようなものでサファギンから身を守っているようだ。
[SCPSプロヴィデンスの映像記録: 漁船群の背後から巨大な戦艦が姿を現す。この戦艦はブリッジの左側に白抜きで「S.P.C」と塗装されている]
SCPSプロヴィデンス: 司令部、さすがに戦艦は止めた方が良いだろうか。
財団艦隊司令部: 当たり前だ。所属と目的を質問してくれ。
SCPSプロヴィデンス: 了解。(無線を切り替える)こちらSCPSプロヴィデンス。この一帯は我々財団が利用している。貴船は速やかに所属を明らかにせよ。
不明な戦艦: 我々は"センター"である。
SCPSプロヴィデンス: 何の目的を持ってこの一帯に近づいたのか回答せよ。
不明な戦艦: ここに鮫がいるからだ。
SCPSプロヴィデンス: 鮫? いや、ここにいるのは鮫では……
[SCPSプロヴィデンスの映像記録: プロヴィデンス前方に巨大な魚型悪魔実体が出現する。それに応じ戦艦の甲板が開き、SCP-2912-JP-2と思しき"拳を握りしめた左腕"を模した実体が出現する]
不明な戦艦: 鮫だ。殴る。
[SCPSプロヴィデンスの映像記録: 戦艦が射出したSCP-2912-JP-2は、ロケット噴射により推進し巨大魚型悪魔実体に突き刺さり、粉砕する]
【再生終了】
SCP-2912-JP-3(右脚部)は世界オカルト連合の排撃班9999 "Max Damage"部隊員、Howが着用していた超重交戦殻8号機"ハーディング"の残骸から形成されました。Howが9月14日正午過ぎ頃の敵性実体の掃討を目的とした戦闘で行方不明となったにもかかわらず、以下の記録はSCP-2912-JP-3の形成が戦闘開始の約2時間前に行われたことを示唆しています。
Record 2001/09/14 - 090301
サイト-28前線指揮所による記録
メンバー:
- 排撃班9999 "Max Damage"部隊員 How
注記: 当該記録はHowが所持していた世界オカルト連合標準録音機器によって記録された音声記録である。録音機器はHowを発見した財団機動部隊によって回収された。
【再生開始】
ST9999-How: ハウよりステーション・コマンド。排撃班フォーナイン、聞こえているか、どうぞ。
ST9999-How: ダメか、通信がイカれてやがる。
ST9999-How: 現在地点不明。おそらくはチャタム・ストリートではなく、どこかの小規模ポータルに突っ込んだ結果、ここに飛ばされた。ビルの谷間で悪魔は見当たらないが、VERITASを通して見る限りまだマンハッタンの中ではあるみてえだ。くそったれ。
ST9999-How: 幸運なことにまだ死んでねえ。オレンジ様様ってところか。ただ胸から下がずたずたで感覚がない。APSPPとSSFCのおかげで痛みに泣き叫ばねえでこうして喋っていられる。
ST9999-How: 頭もクールなもんで、この出血なら後どれくらいで俺がくたばるかってのも計算できる。情けない話だぜ。
[Howによる証言: それからしばらくの間、Howは超重交戦殻からの脱出・怪我の治療・救助要請のための信号弾の使用などに労力を費やす。これらの試みは全て失敗に終わる]
ST9999-How: 繰り返す。この通信が聞こえているなら救援を頼む。早めに。ついでにさっきから録音も作動させてるんで、もし拾った奴がいたら婚約者のアナベス・ハリスに「来週のウエディングをめちゃくちゃにしてすまないと
不明な女性: ん、ここにおったわ。
[Howによる証言: 通りの角から3名の人間が姿を現す。3人はそれぞれ"グレーのスーツを着たヨーロッパ系の中年男性"、"和服を着て眼鏡をかけたアジア系の女性"、"何らかの宗教的シンボルを頬に入れ墨した青年男性"である。(当報告書では不明な中年男性、不明な女性、不明な青年男性と記載する)]
不明な中年男性: なるほど。時間転換には成功したが空間軸についての調整がうまくいかなかったようだ。遅くなってすまない、ハワード・マッケンジー。
ST9999-How: あんた、何で俺の名前を……。
不明な中年男性: ジェラルド、彼を引きずり出してくれ。ヨモギはハワードの治療を。
不明な青年男性: 了解。
[Howによる証言: 不明な青年男性はHowを超重交戦殻から除去した後、所持していた物品と超重交戦殻を操血術ヘモマンシーによってSCP-2912-JP-3に構築していく。その間、不明な女性は背負っていた軍用背嚢から4本のメカニカルアームを展開し、それを補助としてHowに対する外科的治療を開始する]
ST9999-How: てめえ、人の体をすっぱすっぱと切りやがって……。
不明な女性: それだけ文句が言えりゃあまだ持ちそうじゃな。まず血を補わなければ。
不明な青年男性: おいイサナギ! こっちにはまだ輸血パックの余りがあるぞ。
不明な女性: 喧しい! ワシらはそんな汚れた血など扱わんわ!
ST9999-How: あんた、そのティーンエイジャーみたいな容姿は何なんだ? 医療技術と見合ってねえぞ。
不明な女性: ワシか? 見た目よりは長う生きとるかもしれんな。昔にちいとした実験をされたことがあって
不明な青年男性: それでこのババア、惚れてたそこのトンチキな医者に歳をとらない体にされちまったんだってよ。泣ける話じゃねえか?
不明な女性: この[罵倒]!
不明な中年男性: そこまでにしておけヨモギ。ジェラルド、準備は完了したのか?
不明な青年男性: もちろん。これで立派な脚になったと思うぜ。
不明な中年男性: では、これを既定の空間弦へと転送する。少し離れていろ。
[Howによる証言: 不明な中年男性は詳細不明の機器をSCP-2912-JP-3に取り付ける。SCP-2912-JP-3は振動し、"空間に吸い込まれるように"消失する]
不明な青年男性: ……これで、破滅の未来は変えられたんだな?
不明な中年男性: ああ、「機械の成立」及び「ハワード・マッケンジーの生存」は達成され、因果のレールは切り替わった。ダエーバイト文明の復活と光芒の再臨は歴史上発生しないことになる。
不明な女性: ひとまず一件落着ということで良えかの。
不明な中年男性: あとはこの時代に任せるのみだ。我々は帰還しなければならない。
ST9999-How: ちょ、ちょっと待ってくれよ! あんたら一体何者なんだ? ワケがわからん!
不明な青年男性: 聞きたいか?この方の名前は
不明な中年男性: かつてはタデウス・シャンク。だが、今の私は何者でもありはしない。
[Howによる証言: 3人はSCP-2912-JP-3と同様の挙動で消失する]
【再生終了】
SCP-2912-JP-4(左脚部)はブライアント公園にてその作成過程の一部を撮影されています。この映像記録は現場に残されていた型番不明のTV用撮影カメラ内の記録を財団が回収したものであり、撮影者は判明していません。ある証言では同様のカメラを所持している青いジャケットを着た男性と緑のスーツを着た女性が目撃されていますが、詳細は不明です。
Record 2001/09/14 - 102309
サイト-28前線指揮所による記録
注記: 当該映像記録は軽度の認識災害効果をもつため、書き起こしの形式で記載される。
【再生開始】
[00m00s-] カメラは、開けた場所に積み上がった大量の複数のジャンク部品、破損した金属製日用雑貨、大量のネジ・ナットなどが積み上がった金属構造体を映す。
[00m04s-] 視点は、その周りを取り囲み協力してSCP-2912-JP-4を構築している人々に移る。作業を主導する集団は明らかにサイオニック能力による意思疎通を行っている。
[00m34s-] 5番街のマンハッタン第一第五教会方面からクモヒトデ型の実体が多数出現する。実体の腕には星型に配置された5個の眼があり、その眼の中にはさらに[削除済み]、実体の周囲にはピンク色の煙が漂っており、その中に浮かぶ発光人面様物体は"何らかの歌"を合唱している。この歌は認識災害効果を持ち、SCP-2912-JP-4構築作業に悪影響を与える。
[01m09s-] クモヒトデ型実体の群れが上空から高速飛来する無数の冷蔵庫によって押しつぶされる。着弾地点の周囲には愛国歌Aegukkaが響き渡り、クモヒトデ型実体の歌が事実上無効化される。
[01m18s-] 冷蔵庫の飛来は前触れ無く終了する。カメラが上空へ向くことで、空中に浮かぶ巨大な構造体によって冷蔵庫の飛来が遮られていることが明らかになる。構造体はおおむねヨーロッパ風の城を模しており、"エレクトリカルパレード"に酷似したアップテンポの曲を響かせ続けている。多くの飛行悪魔実体が内部へ吸引されていき、構造体は悪魔一体を吸引するごとに、音楽に合わせて「楽しもうね!」という合成音声を発する。
[01m37s-] カメラが視点を地上に戻すと、冷蔵庫の残骸をSCP-2912-JP-4の構築材料とする試みが取られており、「早くしないと日没に間に合わないぞ」という声が上がる。
[01m40s-] 南西方向からの由来不明な絶叫。反対の方向から画面を横切り、白装束の集団が通過していく。この集団の服に共通して見られるシンボルはオルトサンの神話および宗教的信念に関連している。
[02m03s-] 流れ続けていた城型構造体からの音楽が徐々に低音になり、やがて音楽は"We Will Rock You"の特徴的なリズムへと収束していく。振動は城型構造体を傾け、降下させていく。落下を予測した周囲の悪魔実体は逃走する。
[02m17s-] 城型構造体の落下は42番街を高速で走行してきた大規模オフィスビルとの衝突で中止される。オフィスビルには体節がある機械仕掛けの脚10本が接続されている。2つのオブジェクトは衝撃により画面外へ吹き飛ばされ、打ち上げ花火に似た大爆発を起こす。
[02m33s-] カメラが視点を42番街に向けると、陶磁器製の仮面を付けた集団が列を成してこちらに向かってくるのが分かる。集団には悪魔実体や蘇生した死体が含まれており、集団の背後の空は黄色の空と黒い星で構成されているように見える。同時刻に42番街方面のニュー・アムステルダム劇場にてSCP-701が無観客で公演されていたとの報告があるが関連は不明。
[02m41s-] SCP-2912-JP-4の周囲空間が歪み、20~30体の観光客風の服装をした実体が出現。観光客風実体の先頭に立っているスーツ姿の女性は上腕部に「如来」を意味する梵字がプリントされた腕章を巻いている。女性は以下に示される一連の言葉を発する。
さあ、皆さん。やってきたのは西暦2001年のマンハッタンでございます。現在ここでは歴史に残るマンハッタン・クライシスのまっただ中。この激戦を生身で体験できるのは我が社がお送りするタイムトリップ大事変巡りツアーのみでございます。皆様にはすでに出発時点で不滅化処理を施しているため、怪我や病気、ミーム感染などの心配をせずにこのツアーをお楽しみ頂けますが、万一気分が悪くなった等の問題がおありでしたらすぐにお近くのスタッフにお知らせ下さい。
ではここからはお待ちかねの自由行動でございます。撮影・略奪・各種破壊活動は許可されますが、集合時間だけは厳守して頂くようにお願い申しあげます。では皆様、行ってらっしゃいませ。
[03m27s-] 女性の言葉を合図に、観光客風実体達は走り出し仮面を付けた集団を襲い始める。恐らく撮影者が観光客風実体と接触し不明な原理で弾き飛ばされたことにより、「ここWi-Fi無いんだけど」という声を最後に映像は終了する。
【再生終了】
SCP-2912-JP-5(頭部)の出自は未だ明らかになっていません。後の記録ではSCP-2912-JPが頭部を備えた状態で観測されているため、いずれかの時点でSCP-2912-JP-5が修復もしくは置換されたことは確実視されています。しかし目撃情報や観測記録は発見されておらず、追跡調査は大きな成果を上げていません。
Record 2001/09/14 - Sk9⁇m55Mj
████による記録
注記: 記録と同日、一丸情報社とCOQO("量子的観測者の教会")が共同開発中だった試作小型量子コンピュータが盗難されている。犯人はスーツ姿の2人組で、1人はアフリカクロトキ(Threskiornis aethiopicus)の特徴を保持していた。当該記録はプライバシー保護のため、音声のみを提供。
【再生開始】
声-1: 懐かしいなロサンゼルス! 昔オリンピックがここでやってたろ。あのときは父さんがワシのマスコットに化けて女性選手を
声-2: 社長。天空神の話はともかくここはマンハッタンです。まあどちらもアメリカ大陸の中ですが。
声-1: ああそうだったそうだった。おっトートあれを見ろ。デーモン達が宴会してるぞ。
声-2: おお本当だ。あれは酩酊区画でしょうか。マナハクタニエンクは伊達じゃないということですね。
声-1: 楽しそうだなぁ、桜も咲いていて良い風情じゃないか。ちょっと混ざってこようか。
声-2: 何を言ってるんですか。もう配送時刻ぎりぎりなんですよ? そんな風だから我が社の運送事業はMC&D物流にシェアをどんどん奪われて……。もう社名から"トランスポーテーション"外しません?
声-1: えー、せっかく久しぶりにキビシス持ち出してきたのに。
声-2: そもそもこの案件は社長が持ちこんできたんでしょう。しっかりして下さいよ。
声-1: 「エリスを連れ戻し、頭を届ける」……。あのオネイロスに頼まれたらむげに断れないだろう? 伝令の大先輩だぞ。まったくギリシャでのごたごたさえ起こらなければ……。ちょっと待てよ、もうこんな時間か! 飛ぶぞトート!
声-2: だからそう言ってるじゃないですか! 一体何があるんです!?
声-1: 急げ急げ、新たな神が産まれるぞ!
【再生終了】
05提言
今一度、財団職員諸君に問いたい。「世界を守ろうとするのは本当に財団や連合だけなのだろうか?」
確かに多くの超常組織の活動は世界の不安定化をもたらすだろう。しかし、少なくともこのマンハッタンにおいては、財団の「確保」も「収容」も「保護」も、何もかも必要とせず、そうした組織が立ち上がり団結した。
財団が正常性の守護者として必要とされなくなる「いつかやってくる日」は、すでに来ているのかもしれない。備えよ。
— 05-C、この"C"は"Collaboration合作"の意
SCP-2912-JP全体の構築が完了されたのは、9月14日の午後10時頃だと考えられています。PoI-2912-JP-Aと複数の目撃者の証言によれば、それまでにUE-1110との戦闘準備、及びSCP-2912-JPの最終調整が行われました。
注記: 当該文書記録は、後年に発表された壊れたる教会聖典の抜粋に基づくものである。
壊れたる巨像の書
第12巻:如何にして巨像は再び大地に立ったのか
- そしてあるべき五体が一つの場所に集まり、組み立てられようとしていた。
- 第一の欠片は胴と右腕。砕かれた戦士の駆体と鎧。
- 第二の欠片は左腕。あらゆる怪物を砕く怒りの拳。
- 第三の欠片は右足。破壊の橙に染まる血戦の脚。
- 第四の欠片は左足。魔術によって残骸より形造られた不壊の脚。
- 第五の欠片は頭脳。叡智と直感をもたらす未元の演算機。
- 欠片を捧げ持ち、司祭ネイサン・フィルモアは唱えた。
- 「祝福あれ、これより構築されるは我らが神の似姿。」
- 「我らの成せる業はけして完全ならず。されど永遠ならずとも、今ひとときに奇跡の御業を下し給え。」
- 信徒と良き市民により、欠片は彼の手を離れ、構築され始めた。
- 呪術者、異教徒、毛皮や鱗を持つ者、その場に居た全ての人が分け隔て無く鎚と鑕をとり、血と汗を注いだ。
- 信仰はその者の持つ肉体に束縛されず、あらゆる魂がそれを許される。
- なれば気高き精神もまた、地に生きるあらゆる者が持つのだろう。
- それを見たある者が語った。「敵対者カオスは肉体のみに注視し、人類としての正常を規定するだろう。しかし、それは暗黒の時代の再来であり、人々を迷わせる無知の霧をもたらす徒な探求である。」
- 「人を人たらしめるのは誇り高き精神のみ。世界を素晴らしいものに修復しようとする誇り高き精神である。」
- 欠片は組み合い、巨像の姿をとった。
- 聖霊-Birdeveはマクスウェリズムの信徒により巨像にはめ込まれ、目覚めた。
- そこには古代の力と現代の叡智が、噛み合った歯車のように宿っていた。
- 聖霊は感謝を述べ、巨像の完成について次のように慶ばしく述べた。
- 「この偉業は個のものではなく、携わった全ての者の尽力によるものであろう。」
- 「神を修復することは神には出来ず、構築者が欠けることは神を綻ばすこととなる。1人が欠けてもこの素晴らしきことは成せなかった。祝福があらんことを。」
- 巨像に雷が宿ると、全ての者はそこに奇跡を見た。
- そして、巨像の心なる原動機は唸りを上げ、再び大地に立った。
Record 2001/09/14 - Maxwellism-9
メンバー:
- マンハッタン-スタテン合同教区 壊れたる教会派 "神父" ネイサン・フィルモア(PoI-2912-JP-A)
- ジュード・クライヨット(PoI-2912-JP-B)
【再生開始】
[ジェファーソン・ミラー教会の構成員と避難民によってSCP-2912-JPの修復作業が進められている。その前にPoI-2912-JP-A、-Bが立っている]
Birdeve: Birdeveは正常にシステムを回復しました。新しいコ・プロセッサにより処理速度の220%上昇を確認。絶好調です、サー・フィルモア。
PoI-2912-JP-A: 了解した。よし、最後に整理しよう。あの赤い奴は成長を続けていて、放っておくとマンハッタンの北側は更地になるかもしれない。そしてくそったれの赤野郎に対抗できそうなのは巨像だけで、いまこの巨像に乗り込み戦えるのはジュード、お前しか居ない。
PoI-2912-JP-B: うん。
PoI-2912-JP-A: だが、本当にそうかは誰も分からない。もしかしたらあの繭はドラキュラで、放っておいても夜明けとともに灰になっちまうかもしれない。巨像しか対抗手段が無いというのも思い込みで、ここに居る連中の力を合わせれば案外何とかなるかもしれない。そもそも、巨像で戦ったって勝てるかどうかは分からない。
PoI-2912-JP-B: うん。
PoI-2912-JP-A: そして……。何よりおれが言いたいことは、求められるままに生きるなということだ。神父のおれが言うのも可笑しなことかもしれないが、教義や使命なんてくそ食らえだ。そんなことに潰されて一生を棒に振るな。好きに生きろ。
PoI-2912-JP-B: うん。分かってる。
PoI-2912-JP-A: ジュード。それしか方法が無かったとしても、お前が嫌なら嫌だと言え。例えポーランドに出たあの蝉の神みたいな相手に「世界を救うためにお前の命を捧げろ」と言われたって、中指たててトンズラする権利がお前にはある。
PoI-2912-JP-B: うん。
PoI-2912-JP-A: あー、つまりだな、……本当に乗るのか?
PoI-2912-JP-B: ああ、それが俺のやりたいことだから。
PoI-2912-JP-A: 真実を話せば、おれはこれ以上お前に戦ってほしくない。子供を頼りに最前線に立たせる大人の情けなさが分かるか? ……だが、お前がそれを望むんだな。
PoI-2912-JP-B: うん。
PoI-2912-JP-A: なら、好きにやれ。己の心臓が刻む音に従って生きるんだ。そうすることで、おれたちは神に近づいていける。……行ってこい!
PoI-2912-JP-B: ああ、行ってきます!
【再生終了】
補遺.2912-JP.6 > 決戦 - 9月14日
9月15日の午前10時頃、サイト-28前線指揮所は不審な通信記録を傍受しました。この通信は後の調査により、GoI-0853("恋昏崎新聞社")の構成員、ジョージRと広末 孝行によるものだと判明しています。広末 孝行は9月13日に、財団の制止を振り切り手漕ぎボートでマンハッタン島へ接近。近距離での異常空間撮影を試みたものと思われますが、そのまま行方不明となっていました。同様の行動が財団エージェントの喪失を招いたにも関わらず、広末 孝行が生存していた理由は不明です。
Record 2001/09/14 - 040309
サイト-28前線指揮所による記録
【再生開始】
広末 孝行: もしもし! もしもし! えっ留守電!? やっと繋がったのに! えーとメッセージ……ジョージあのね、今こっちはセントラル・パークの方にいるんだけど、特ダネが撮れたから回線が復旧し次第に速報打てるように準備しといて!あと家内とサマンサたちにもまだ生きてるって連絡お願い!こっちはやたら死にたがるおっさんと一緒に居るんだけど、あ、あとエマっていう女の子と、彼女が作ったあの~、移動用に乗っかる……ソファーみたいな犬? と空撮用に作ってくれたバルンガみたいなやつとも一緒に居るんで、その分の迎えも用意してほしい!えーとあと……あ、あと[通信途絶]
【再生終了】
この記録を受けた財団による広末 孝行を確保する試みは失敗に終わりました。また通信内で示唆される同行者についても詳細は判明していません。以下は後日恋昏崎新聞社が公開した映像記録です。
Record 2001/09/14 - Koigarezaki-1
【再生開始】
[00m00s-] UE-1110は巨大な鼓動音とともに、赤く輝きながら脈動している。UE-1110の体積は、出現時から目測で128%ほど増加している。
[00m17s-] UE-1110付近の複数地点において、当時の気象条件に対し不合理的な落雷が発生する。落雷地点にはネジやナット、バネやゼンマイといった機械部品が生成されている。
[00m54s-] SCP-2912-JPが高電荷を帯びた状態で出現する。SCP-2912-JPの周囲には激しい放電現象が発生しており、SCP-2912-JPが何らかの不明な方法によって機体内に電気を蓄蔵していることが示唆される。
[01m09s-] UE-1110が幼児の笑い声に似た高音を発すると、周囲の7つの光条が概ね人の手を模した実体へと変化し、SCP-2912-JPへ急速に接近する。
[01m18s-] SCP-2912-JPが右手を掲げ、振り下ろす。それと同時に落雷が発生し、7つの光条を霧散させる。
[02m37s-] UE-1110は瞬間的にSCP-2912-JPの右後方へ移動するが、SCP-2912-JPが同時に、落雷によって生成された機械部品から磁力によって巨大な戦鎚を構築し、UE-1110の移動予定領域に振り下ろしたことで、UE-1110の表面に初めて亀裂が入る。
[03m24s-] SCP-2912-JPは落雷によってUE-1110に追撃し、活動が低下したUE-1110に対し再び戦鎚を用いて効果的な攻撃を試みる。
[03m33s-] UE-1110が鐘の音、もしくは唸り声に形容される低音を発しながら全方位に衝撃波を発生させ、SCP-2912-JPの攻撃を抑止させる。
[03m37s-] UE-1110は人の手を模した7つの光条を再構築し、自身の表面に発生した亀裂に7つの手を掛け、引き破る。
[03m53s-] UE-1110が骨と牙、そして複数の臓器と血管によって構成された頭部の無い上半身のみの人型実体へと姿を変化させる。
[05m11s-] UE-1110が瞬間的にSCP-2912-JPの前方に移動し、両腕で空間歪曲と重力変動を伴う連続殴打攻撃をSCP-2912-JPに与える。SCP-2912-JPの戦鎚を用いた防御体勢は一定の効果を示すものの、最終的なUE-1110による戦鎚の破壊をもたらす。
[06m47s-] UE-1110は幼児の笑い声に似た高音を発する。
[07m01s-] 上空から照射された高エネルギー光子ビームがUE-1110に直撃する。
【再生終了】
Record 2001/09/14 - Maxwellism-10
メンバー:
- マンハッタン-スタテン合同教区 歯車仕掛正教派 "ミリタント" メアリ・ストゥーシー
- マンハッタン-スタテン合同教区 マクスウェリズム教会派 マーカス・スパークス
【再生開始】
[ジェファーソン・ミラー教会中庭にて、真鍮製の粗雑なパラボラアンテナに接続したマーカス・スパークスが、排熱ファンを轟音を立てて稼働させている]
マーカス・スパークス: っしゃあ!見たか!ペンタグラムの置き土産の威力を!
メアリ・ストゥーシー: ハッキングだかなんだか知らんが、国防総省の人工衛星を乗っ取るとはよくやるものだ。2発目までどれほど掛かる?
マーカス・スパークス: 最初ほどじゃない。ルーン補助無しの軌道計算にまた少し手間取るが……最高でも5分程度あればあのクソッタレレッドにもう一発ぶちかませる。
[マーカス・スパークスが顔の向きを変える。視線の先では鉄塊のバリケードに高腐食性物質を吐きかける二足歩行のニワトリ(Gallus gallus)型実体の集団に、ジェファーソン・ミラー教会構成員が対処している]
マーカス・スパークス: あー。もちろん、それだけの時間が稼げればだけど。
メアリ・ストゥーシー: ふん、お前は自分の職掌を果たせ。半世紀そこらも生きていない者に心配されるほど私の防衛部隊は落ちぶれていない。
マーカス・スパークス: そいつは野暮でどーも。けどよ、ちょっとまずそうなヤツも来てるぜ。
[複数の木製自動人形が左腕部の斧によって二足歩行のニワトリとバリケードを破壊する。自動人形の外見はSCP-1063に酷似しているが、装身具と見られるものは赤字に白円と黒鉤十字が描かれた腕章のみである。この実体については1999年に発生した、チリにおける蔓の聖教会に対するオブスクラ軍団の襲撃との関係性が指摘されている]
メアリ・ストゥーシー: ほう、樹木の軍隊か。久しいな。昔、宣教師として渡った中国で花狂いどもと渡り合ったことを思い出す。
[メアリ・ストゥーシーは口から蒸気を吐き出し、彼女が身に纏っていた長衣から両手を抜き出す。表面の配管が赤熱して輝き、両手はチェーンソーの刃を持つ3対の機械腕に置換される]
メアリ・ストゥーシー: 根こそぎに伐採してやろう、おがくず野郎ども。
マーカス・スパークス: ……頼もしいこと。
[マーカス・スパークスは高度情報処理プロセスに移行したことを示す1600万色に発光し、メアリ・ストゥーシーは木製自動人形に向かってチェーンソーのエンジンを稼働させる]
マーカス・スパークス: それじゃあ背中は任せた、化け物ババア。
メアリ・ストゥーシー: 任されてやる、若造!
【再生終了】
Record 2001/09/15 - Koigarezaki-2
【再生開始】
[07m01s-] 光子ビームによってUE-1110は明確に苦悩する。
[07m04s-] SCP-2912-JPは回し蹴りに類似する動作を行い、左脚部をUE-1110の側腹部に衝突させる。UE-1110はこの攻撃によって体勢を崩すが、重力異常を引き起こすことでSCP-2912-JPを浮遊させようと試みる。
[07m27s-] UE-1110の試みは背後に着弾したGOC式磁気流体爆裂弾MAHEMのダメージによって妨げられる。
[07m39s-] UE-1110は金切り音、もしくは悲鳴に形容される高音を発しながらSCP-2912-JPに対して指向性の衝撃波を発生させ、SCP-2912-JPを3kmに渡って吹き飛ばす。
[08m38s-] SCP-2912-JPは吹き飛ばされて崩れた体勢を立て直すと、その周辺に立っていたクレオパトラの針を引き抜き、槍のように構えてUE-1110に向かい走り出す。
[10m27s-] SCP-2912-JPがクレオパトラの針を持ち向かってくることを確認したUE-1110は、明らかに動揺、困惑を示し、空間歪曲による瞬間移動を試みるが、再び照射された光子ビームによって妨害される。
[11m40s-] SCP-2912-JPはクレオパトラの針をUE-1110に突き立て、引き抜き、再び突き立て横なぎに薙ぎ払う。UE-1110は地表に倒れ、活動を停止したように見える。
[14m13s-] SCP-2912-JPは更なる追撃として、倒れたUE-1110にクレオパトラの針を構え、再び突き刺そうと試みる。しかし、UE-1110は唸り声とともに瞬間的にSCP-2912-JPの上空へ移動し、巨大な肉塊と形容される体積・質量を直径1.5km推定質量66tにまで急速に増大させた高エネルギー体に変化し、落下の軌道を辿り始める。
[15m17s-] SCP-2912-JPは落下してくるUE-1110に対して、拳を握りしめた左腕を掲げる。
[15m33s-] SCP-2912-JPの左腕がロケット噴射によって加速し射出され、時空現実構造の大規模歪曲と共にUE-1110を粉砕する。
【再生終了】
9月15日の0時15分頃、セントラル・パークにおける高次アキヴァ放射、異常ヒューム値、高レベルEVE反応は消失し、当時の財団は「UE-1110は何らかの理由により自然消滅した」と結論づけました。
Record 2001/09/14 - Maxwellism-11
【記録開始】
[注記: 当該記録はマクスウェリズム教会構成員を介したPoI-2912-JP-Aと制御AI-Birdeveの通信記録である]
[WANisGreat] コール: Birdeve
[Birdeve] 何か御用でしょうか、サー。
[WANisGreat] ジュードに繋いでくれ。
[Birdeve] 了解しました。
[?mAA] よう。
[WANisGreat] やったな。
[?mAA] ああ
[?mAA] 神父さんのおかげで
[WANisGreat] 正真正銘お前の手柄だ。
[WANisGreat] 早く戻ってこい。
[?mAA] いや
[?mAA] 教会には戻らない
[?mAA] これだけ派手にやったら、さすがにケーサツか財団かが俺を捕まえに来る
[?mAA] 迷惑は掛けたくない
[?mAA] 俺はこっそり逃げる
[?mAA] 出来るだけ俺の痕跡を残さないように、Birdeveも連れて行く
[Birdeve] 了解です、サー・ジュード。
[WANisGreat] 分かった。
[WANisGreat] 「計画は精神のものではなく、人がその小さな叡智で成し遂げられるより単純な真実についてのものだ。この計画はまた別の計画を生む。それがまた別の計画を生む。正確に成し遂げられたならば、それらの後により多くのものが生まれる。そしてついに最終巻が理解された時、精神は復活するだろう。」
[?mAA] なにそれ
[WANisGreat] 破片の書第12巻21節だ。
[WANisGreat] つまりは、お前とおれのこの出会いも未来に繋がる一つの歯車だということだ。
[WANisGreat] 例え進む道が別れたとしても、その出会いが決して無になったわけではない。
[?mAA] 良いこと言うね
[WANisGreat] 神父だからな。
[?mAA] LOL
[?mAA] それじゃあ、また
[WANisGreat] ああ、また。
[Birdeve] また会いましょう。サー。
[Birdeve] 状態: 接続されていません。デバイスを再接続して下さい。
【記録終了】
この通信を最後にPoI-2912-JP-B及び制御AI-Birdeveの明確な足跡情報は発見されておらず、実行された確保作戦は失敗に終わっています。そのためPoI-2912-JP-Bは重要参考人としてPoI-6870に再指定され、現在まで財団諜報機関とAIADによる合同捜索が続行されています。
補遺.2912-JP.7 > 評価
9月15日をもってマンハッタン周辺地域は基底次元へと復帰し、財団は9月19日までにマンハッタン・カオス被害状況の全貌を把握しました。その結果SCP-2912-JP及び関連記録群の存在が明らかになり、財団内ではSCP-2912-JPを移転後、適切なサイトに収容する案が提出されました。しかし、メディアによるSCP-2912-JP関連報道とそれに伴う強い一般社会の反発、加えてSCP-2912-JP自体の脅威度の低さから、収容案は撤回され最終的に現在の収容プロトコルが制定されました。
世論の潮流がSCP-2912-JP収容に反発することとなった背景として、以下の理由により財団の一般社会に対する求心力が低下したことが指摘されています。
- ヴェール崩壊を切っ掛けとして、ウィルソンズ・ワイルドライフ・ソリューションズを筆頭とする小規模な超常組織が大衆に支持され、従来の超常組織間パワーバランスが変動しつつあったこと
- テロの主犯であるCIが財団の分派を由来とする組織であったこと
- 財団及びGOCの対応について、合衆国政府が不信感を表明したこと
- 報道の中でPoI-2912-JP-Aを始めとする財団外の人物の活躍がクローズアップされたこと
- SCP-2912-JPに関連する一連の記録が、"公的機関に頼らず自力で事態を解決する"市民像を提供し、広く受け入れられたこと
SCP-2912-JPは9.11復興モニュメントの1つとして保存されることが決定され、現在は"マンハッタンズ・メカニクス"という名称で知られるニューヨーク有数の観光名所となっています。以下の記録は、SCP-2912-JPに対する調査が終了し、初めてマンハッタンズ・メカニクスが一般公開された際のセレモニーにおけるPoI-2912-JP-Aのスピーチ記録です。
今日、このような場を頂けたことに感謝致します。
今あなた方の目の前にあるのは、かつて実際に動いていた機械の残骸です。もしかしたらみなさんの中には勘違いしておられる方が居るかもしれませんので、最初に言っておきます。これは撤去されずに残った避難所のガラクタじゃありませんよ?
[笑い]
ええ、あなた方は完全に間違っているというわけではありません。確かにこの機械構造の一部はジャンクパーツなどから組み立てられています。そして、この事実は1つの興味深い意見を導くことが出来ます。すなわち、ガラクタであっても、集まれば英雄のように戦うことが出来るということです。
人間にもこの意見を当てはめることができるでしょう。もしかすると、私たちは自分のことをガラクタと思い込んでいるだけなのかもしれません。「他人と比べれば、自分という人間はなんと取るに足らないちっぽけな存在なのだろう」と考えたことはありませんか? 万物は世界を構成する部品です。他人とあなたの差はほとんどありません。どちらも世界を構成する1つの部品であることは変わらないのですから。
人はみな、未完成の「個」に過ぎません。単体では様々な形の微小な部品に過ぎないものが、団結することで激変する環境を生き抜いてきたのが人類の歴史です。
今、我々の世界は人類史上未曾有の脅威にさらされています。神格の暴走、テロリズム、各種の災害、異常な疾患。どれも解決することが困難であり、これからも付き合っていかねばならない問題でしょう。別たれたままでは、人類はこうした脅威による滅びを免れません。今こそ、大いなる敵に立ち向かうため、団結すべき時です。
それは不可能なことでしょうか? MEKHANEの信奉者は、終末の時までサーカイトといがみ合い続けるのでしょうか。いいえ、私はそう思いません。皆さん、もう一度目の前に注目して下さい。このマンハッタンズ・メカニクスはすでに壊れた機械に過ぎません。しかし、これは全ての愛と平和、そして自由を信じる人々が、組織や信仰、利害という垣根を越えて団結することができるという壊れざる精神の象徴なのです。
助け合いましょう。そうすれば我々に不可能はありません。
[拍手]
ありがとうございます。最後に、ここに来るであろう未来の人々に一言。
人種と存在のるつぼ、マンハッタンへようこそ。あなたがどのような個であろうとも、我々はあなたを歓迎します。
[更に大きな拍手]
2001/09/15、基底次元に復帰したマンハッタン市街 セントラル・パークより。