インタビューログSCP-2918-カトー-1
当インタビューは、SCP-2918が異常性質を示した2日後の、20██/██/19に実施された。
質問者: ████研究員。元・軍人であり、近隣の空軍基地に駐留していた財団職員。
回答者: デレク・カトー機長、アメリカ空軍ドローンパイロット。
<記録開始>
████研究員: 貴方が2918の異常性質に最初に気付いたのはいつの事ですか?
カトー: はっきりとは分からん。
████研究員: 記録のために明確にお願いします。
カトー: いいかね、我々はこの仕事を1日に12時間以上手掛けている。それが何週間、時には何ヶ月も続くんだ。その内に、我々はドローンのことを、まるで人間であるかのように話の種にし始めた。
████研究員: 何故そのようなことを?
カトー: 退屈だな、主な理由は。何しろ1日12時間もGCSに釘付けだ。時間と共にマシンに慣れてくると、次は、あー…記憶を整理させてくれ。物事に人間的な特徴を当てはめて表現することを何と言ったかな?
████研究員: 擬人化?
カトー: そうだ。慣れてくると、次はそれを人のように扱い始める。例えばB2は翼に少し歪みがあったから、動作不能にはならないまでも、旋回させる時にはこちらで気を使う必要があった。だから我々は、それを不自由な足に例えて、B2のことを“頑固爺さん”と呼んでいた。
████研究員: つまり、貴方と仲間のパイロットたちは、ドローンに個性を割り当てていたということですか?
カトー: 意図的ではなかったがね。正直なところ、ある種の愚痴に過ぎないはずだった。ハッ。つまりはこうさ - A1に軽いラグが生じたぞ、あいつはまた自分の用事を優先したいんだろう。B1のカメラ映像が途切れた、彼女はきっとハッジーを追いかけるよりもこの夕陽を見て黄昏ていたいんだろう。
████研究員: 機体番号A2に割り当てられていた性格はどのようなものでしたか?
カトー: 純真さだ。どういう訳か、A2はいつも他のドローンに比べて行動を起こす回数が少なかった。だから我々は遂には彼女を、処女だとか、或いは小さい女の子に例えて冗談を飛ばし合うようになった。
████研究員: 今回の事件以前に、システム上に異常な性質は表示されましたか?
カトー: 先ほど言ったように、どの機体にも各々の問題があった。そして我々はそれが普通の範疇を越えたものだとは考えていなかったのさ。まぁ、我々が保守に十分な力を入れていなかった点を除けばな。殆どの隊員なら、翼の歪みやらタービンのラグやらをそう長くは放置しておかないだろう。だが我々はそれをただ作戦行動の忙しなさのせいにするばかりだった。大佐は我々が、実質的には毎日任務を受ける事を望んでいた。辛うじて眠って食べて給油するのに十分な程度の時間しかない。バックアップは後回しになった。
████研究員: 20██/██/17の事件について説明して頂けますか?
<インタビューのこの件において、カトー機長の態度は大きく揺れ動いた。機長は落ち着かない様子を示しつつも、無表情かつ厳格な“軍人的振舞い”を維持した。>
カトー: 分かった。17日に、我々は███████での夜間任務を請け負った。問題の地域における反乱軍リーダーの捜索だ。夜の監視映像はお粗末なものだったが、ついにターゲットが数名の民間人と共にいるのが見つかったように思われた。我々は任務内容の明確化を求め、民間人を無視して続行することを命じられた。当時、私はA2を操縦していた。そして彼女は発砲を拒否した。
████研究員: その“拒否した”というのは、つまり…?
カトー: 私は発砲のコマンドを出したが、機体A2は発砲しなかったんだ。システムはオールグリーンで、機械的な故障も無かった。私はもう一度発砲コマンドを出し、A2は再び拒否した。我々は担当を入れ替えて、彼女をメンテナンスのために帰投させ、狙撃をB2に任せた。B2は地上の死傷者を映し出した ― その時点で、我々は死者のうち数名が子供だという事に気が付いたんだ。
<カトー機長は言葉を切り、数回深呼吸する。着座した状態で背筋を伸ばそうとしているらしい旨が記録されている。彼の事案に関する証言は、司法公聴会における書面上での声明とほぼ逐語的に一致した。>
カトー: A2は帰路、コマンドが入力されていないにも拘らず、加速を始めた。加速は安全な飛行速度を超えて尚も続いた。我々が接近までに大体90分かかった道のりを、A2は45分で帰還したんだ。A2の帰還中、我々は地上映像を分析して、死傷者の中にターゲットがいないことに気付いた。この時点で我々は、そもそもターゲットが問題の場所に実際にいたかどうかすら疑い始めていた。 我々は更なる詳細とミッションの指示を求めるために司令部へ無線で連絡を取り、任務が完全な失敗に終わったと宣言しつつあるところだった ― そこにA2が、送信された減速コマンドを無視して帰投したんだ。
<カトー機長が過呼吸を起こし始める。████研究員はカトー機長に水のコップを渡し、もっと楽な姿勢で座っても構わないと伝える。カトー機長は水のコップを受け取ったが、緊張姿勢を崩すことは拒否した。>
カトー: A2はGCSにスティンガー・ミサイルを2発撃ちこんだ。一方はB2のコクピットを直撃したが爆発はせず、パイロットは即死した。もう片方は近くに命中して爆発し、B1パイロットの███少尉とA1パイロットの███████中尉を負傷させた。私は炎上し始めたGCSから仲間を引き出して、負傷者の診察を要求した。医療班と消火部隊がGCSを鎮火させて怪我の治療をしている間に、A2は一切の入力無しで滑走路に着陸していた。
<カトーは緊張姿勢を崩し、手で目を覆う。>
カトー: ███は生き延びたが、██████はダメだった。
████研究員: 今回の質問はここまでとします。ありがとうございました、機長。
<記録終了>
結: カトー機長はクラスB記憶処理を受け、間もなく軍からも名誉除隊した。直属の上官や彼の声明を読んだ軍職員も同様にクラスB記憶処理を施されている。███████准将が今後の任務において同種の性質を有する異変が起こらないかを監視し、発見された場合は財団職員へ通達することになっている。