
イキマ島
特別収容プロトコル: SCP-2935-JPは一般社会から隠匿され、LoI-25554は人為的なミスによって地図上に生じた幻島として扱われます。歴史的な過程からLoI-25554は未然に幻島として膾炙されており、財団は特別な情報統制を行いません。
幻島同盟との連携よりもたらされた条約によれば、LoI-25554でSCP-2935-JPの調査を行えるのは、現在に至るまで財団の研究者のみです。幻島関係者の研究員(主にアンティリア王立大学・旧T字委員会などの構成員)ならびに「横道調査団」とされる実体群のLoI-25554への上陸は禁止されています。
LoI-25554へのアクセスを容易にするため、財団のエージェントが宮古島に常に滞在する決まりです。これらの人員はSCP-2935-JPと財団の相互の連絡の役割を持ち、有事の際には機動部隊を展開します。
説明: SCP-2935-JPは疑存海に位置している幻島「イキマ島」(LoI-25554に指定)に居住するプロトサーキックのコミュニティを指します。SCP-2935-JPはハプログループD1a2(Z3660)に属しており、2500年 - 3000年前から同地に居住していたと考えられています。さらに過去に遡れば、SCP-2935-JPの起源はアディトゥムの陥落にまでたどり着くと考えられています。SCP-2935-JPの文化的な背景は先頭諸島のものと(サーキックに良く見られるものを除けば)いくらか合致しており、無土器文化などの痕跡が確認されるなど台湾やスペインなどと類似するものも見られます。財団の歴史部門はSCP-2935-JPがどのようなルートで先頭諸島に到達したのかを解明しようとしています。
SCP-2935-JPの構成員(SCP-2935-JP-Aと指定)は部分的な身体の改変能力を有しています。これらは以下の要素を含みますが、それに限定されません。
- 手の指を著しく伸長させる。
- 手の指の頂点から放射状に「枝」を分岐させる。
- 指の単純な追加。
- 腕を新しく生やす/既存の腕から新しい腕を分岐させる。
- 硬質的な(爪と似た)部分の追加。
- 異常な関節の可動域の実現。関節の追加。
SCP-2935-JPの主な産業は漁業1と「肉の繁殖」です。「肉の繁殖」はLoI-25554の中央に存在する洞窟と密接な関係があります(詳しくは補遺2を参照)。この洞窟は琉球語池間島方言で元(ムトゥ)と呼ばれる氏神をまつる場所であり、真謝(マジャ)、上げ桝(アギマス)、前之屋(マイヌヤー)、前里(マエザト)の池間島で一般的に知られている4つの神聖なエリアに加えて、5つ目の「組ま屋(ンクマヤー)」2です。
SCP-2935-JPは遺伝的に聴覚障害の発生しやすい環境であり、構成員のほとんどがろう者で構成されています。2005年現在、SCP-2935-JPに健聴者3は1名しか存在していません。多くのSCP-2935-JP-Aは聴覚障害を「舌のない語り手」による真なる声を聴くための信仰の一部として捉えています。これは当地における祖霊信仰と著しく習合していたため、サーキックの伝説としては不明確ですが、おそらくは聖人であるクラヴィカル・ナドックスのことを指していると考えられています。
SCP-2935-JPはコミュニケーションに独自に発展した村落手話4を用います(SCP-2935-JP-Bと指定)。これは他に類例が見られない系統的に孤立した言語です。SCP-2935-JPの構成員は自身の身体的な構成を変化させることができるため、SCP-2935-JP-Bは通常の手話のそれとは根本的に異なっています。SCP-2935-JP-Bの研究はほとんど進んでいません。現段階では、SCP-2935-JPでよく知られているサーキックと祖霊信仰が習合した伝説と、SCP-2935-JP-Aらが行う簡単な会話の解読が進行中です。SCP-2935-JP-Bの注目すべき特徴として、身体の構成部位が拡大されることで実質的に無限大に意味を増大させることが可能である点が挙げられます。これは様々な伝説を一瞬で語り終えることが可能である一方で、自身の手の周辺の空間を占拠します。
LoI-25554と池間島の文化的な関係は密接であり、多くの文化的背景を同じくしています。SCP-2935-JP-Aへのインタビューでは、16世紀初め頃池間島・宮古島・LoI-25554の非サーキックおよびサーキック住民が共同で、互いに行き来するための石橋をかけました。この時、池間島と宮古島の間にかけられた石橋は、やがて砂が堆積しイーヌ・ブー(北の入り江)となりましたが、イキマ島と宮古島の間の石橋は何らかの紛争的問題によって破壊されています。これらを受けてサーキック住民と非サーキック住民の断絶が起こったと言われています。
補遺1: 歴史
LoI-25554の発見は最古の文献「中山伝信録」にまで遡ります。これにはLoI-25554は「太平山(宮古島)の東南」に存在したとの記録がありました。これは現在では本来宮古島の北西にある池間島が、中山伝信録の作者によって誤って認識されたことにより地図上に生じた「幻島」であるとされています。LoI-25554は賀田貞一作1885年「沖縄宮古八重山紀行」に付された「東京地学協会 日本沖縄宮古八重山諸島地質見取図 明治十九年二月 縮尺七十三万六千分之一」などの日本地図に掲載されましたが、横須賀に回船される戦艦香取が付近の海域を通過した際、その存在が確認できなかったことから公式な地図上からは削除されました。しかし、要注意人物柳田國男などの「海南小記」には記載され続けたことが確認されています。
しかしながら、現実にはこれが財団やその他の団体を恐れたSCP-2935-JP-Aによる、実存世界からの離脱であることは知られていません。ドワイト・F・ペイン博士(Ph.D Dwight F. Payne)と呼称される人物の著書『南部諸島の言語(Languages of Southern Islands)』から以下の内容を抜粋します。
言語と宗教が密接に結びついた例というのは確かに存在し、代表的なものとしては教会スラヴ語などが挙げられるだろう。これらの言語はなによりも正確性、つまりは昔から何も変わっていないことが重要であるため、必然的に言語もその古い形態を残していることが多い。先程の教会スラヴ語の例で云えば9世紀ごろのそれは開音節言語であり、すべての音節が母音で終わっていた。これには例外はない。ブルガリア・マケドニア方言などに移行した時、初めて変化があるのである(中略)
日本列島において、それは現在ではあまり見られない。多くの理由の1つとしては、移動能力が大幅に向上したことやメディアの存在のことなどが挙げられる。現在では、大阪方言のアクセントというよりかは、単に京阪式アクセントの首都方言という方が正しいような発音をする子供も珍しくはない。翻って我らの幻島同盟ではどうだろうか。アンソン多島海は日本語を多く話す地域であるが、アブレ・オジョス島などでは古いアクセントが保存されている。その一方で、これらは、「百鬼夜行の大亡命」をはじめとしてさまざまな時代の住民が断続的に流入してきた背景を持つため、相互に影響し合い、現在では日本列島で話されている言語とはかなり様相が異なっている。
また、時にはそれが手話という形態を取って保存されていることがある。南部諸島、実存海における先頭諸島に位置していた「イキマ島」で伝わる古代言語である。彼らはすべからく音声を聞く能力を失っており、島内には手話でのみ伝達されるコミュニケーションの素地というのが完成していた。彼らは第一に耳が聞こえないことを尊んでおり、それによって現在の手話が完成していることは興味深い。彼らは池間島や宮古島などでも話されている琉球語を基本としているのだろうか?私の想像もつかない遥か昔の言語がそれと混ざり、そこから手話となったのだろうか?この言語はどこから手話だったのか?現在、私が考えるにはあらゆる材料が不足している。まず、私は彼らと満足にコミュニケーションをとることすらできないのだ。5
補遺2: インタビュー
財団はSCP-2935-JPで唯一の健聴者である高島膿滿たかしまうみにインタビューを試みました。対象は琉球語池間島方言で会話が可能であり、 以下の記録には日本語の翻訳と池間方言のひらがな表記を両方掲載しています。
補遺3: SCP-2935-JP-B 分析
高島膿滿の協力のもとに財団はSCP-2935-JP-Bの解読を試みました。その結果、SCP-2935-JP-Bは以下のような特徴を持つ言語であることが判明しました。以下はその内容について具体的な説明をした言語学部門のレポートです。
未知言語詳細記録
言語学部門作成
名称: イキマ島手話/SCP-2935-JP-B/「手で示す」
使用領域: イキマ島/LoI-25554
言語系統: 村落手話(アディタイト語・琉球語池間方言と関係が指摘されている)
使用者数: 約50人
言語コード: ikima525
イキマ島手話は幻島「イキマ島」で用いられている手話言語。日本のろう者の間でよく用いられる日本手話とは文法・語彙的に完全に異なっており、村落手話の1つとして発展してきたと考えられる。
話者は肉体の構成要素の変換を言語表現に頻繁に用いるため、手の形は表意文字のようにして機能する。また、それらは基本通常の他の形では再現が不可能である。その自由性から、日本語訳で1万文字以上ある物語の一部を、場合によっては1つの手の形──とはいえ非常に複雑な150以上の指とそれからさらに枝分かれした構造を──用いて表現することができる。それらの構成は、指の相対的な場所と種類が厳密に意味に関わっており、時には環状にループした多くの指を含む可能性がある。これらのことから、イキマ島手話の意味を判断するのは困難である。長い文章をやり取りする場合、話者は単一の手形で表すことを好む傾向がある。
イキマ島は幻島同盟でも日本語話者が大多数を占めるアンソン多島海に位置している。イキマ島の島民は全員琉球神道とプロト・サーキックが習合した宗教を信仰する池間民族であり、そのため、イキマ島手話においても彼らの先祖が話していたアディタイト語の影響が多々見られる。遺伝子的には、最初アディタイト語を話していた集団がアディトゥムの陥落を期に「永い流浪」を得て、ハプログループDの集団に合流していた可能性がある。細かい系統関係は不明であるが、台湾に居住していたO1aの集団との関連も疑われており、部分的には文化的種類もそれを支持する。
イキマ島手話がどのようにして発展してきたかについては証拠がないため多くのことがわかっていない。また、どこでイキマ島手話の話者になる集団が「聴覚障害を是」とする信仰に変化したのかは不明である。
補遺4: 注目すべき伝承
以下に示すのはSCP-2935-JPで伝わる神話的伝説の翻訳です。現在、SCP-2935-JP-Bの理解は十分に進んでおらず、この翻訳は高島膿滿によって説明されたものであることに留意してください。
肉蛇さま
1: 前文
肉の世界には肉の世界がある
蛇の世界には蛇の世界がある
そこには物がある
それはあることと
ないことが両方あった
親は子を産み子は孫を生む
子孫代々と繰り返されてきた
私の子供達よ
伝承することを忘れないでくれ
同じことを繰り返し保ちつつあれ
2: 舌のない語り手
まずあなた方が忘れてはいけないのは
知性と英知と知覚
それを表す英雄
舌がないのに語り
そこに目はないのに見る
あなたがもし
言葉で語らないようになっても
この文字だけは残せ
彼は賢者
懲罰を受けし者
そして救済者の到来を予期せし者
一度「ぬわんだーん」8に落ち
石を投げられた
かつては元々1つであった
あなた方はそれをゆめゆめ
忘れてはならない
ダエーワの煽動と
僧侶たちの集会で
アディトゥムが陥落した
「産めよ増やせよ地に満ちよ」
カルキストイオンは6本の指でそう語る
「あなたのために」
救世主は舌のない語り手に
言われた
「あなたは民のことを見まもり」
「あなたは常に語り続けなさい」
子は親の手を切り
これを覚えなさい
子はいつかそして
自らの子に手を切り分ける
3: 永い流浪
永い流郎は苦しみであった
血は乾き、そして絶えた
肉は萎えて、そして消えた
我らはイオンを願い続けた
我らは旅を続けた
「あの槍の届かないところにいこう!」
「もう2度と災禍に遭わないよう」
「どうか助けてください」
「これでは道がわかりません」
「あなたの声で道を示してくれませんか」
民は迷いつつあった
あの肉の都はもう自分らの
場所にない
その場所は肉を萎えさせた
たくさんの子供が死に
何にも役に立たないものに変わった
肉を願っている
その男はこう言った
「もし、私のもとに洞窟一杯の肉があれば」
「私がまず犠牲になりましょう」
「私が死ねば、次に私の子供が犠牲になります」
「その子供が死ねば、孫が犠牲になります」
「そうして洞窟の肉を絶やさないうちに」
「あなたがもう一度現れるのを待っています」
4: 肉の視点
流郎の果てに
海を渡る
肉が脈動する時間を一として
それが一晩に起きる時間は万となる
それをさらに一とした時
万くり返された
そうして海を渡り
肉のある洞窟を見つけた
初めて肉になるとき
それは言われた
「あなたが肉になるとき」
「あなたの視点が違うことに気をつけなさい」
「肉には肉の視点が」
「人には人の視点が」
「虫には虫の」
「魚には魚の」
「群をなすものには群の」
「村を作るものには村の」
「強きものには強きものの」
「弱きものには弱きものの」
いかなる言葉を用いても
それは説明できない
なぜならば、肉は物語を語らない
肉は自らに明らかである
肉は蠢くだけである
しかし、あなたは肉になるとき
心がけていなければならない
それを中心とした時、それは外側にある
個体として全であれ
個体であり全であれ
補遺5: イベント「ミャークヅツ」
財団は2006年9月LoI-25554で行われるミャークヅツを確認しました。ミャークヅツは4日間に及ぶ祭であり、LoI-25554以外でも池間島や宮古島などで行われます。SCP-2935-JPにおける祭祀集団は「ンクマヤムトゥ」です。これは「マジャムトゥ」よりさらに歴史の深いムトゥであり、非常に長い間存在していたとされています。一説によれば、すべてのムトゥの起源はンクマヤムトゥであり、そこからマジャムトゥやアギマスムトゥが派生したとも言われます。これが正しければ、池間民族の文化はサーキックの儀式に文化的な源流を持つこととなります。
通常のミャークヅツは音楽を伴いますが、SCP-2935-JPのミャークヅツは無音の中行われました。楽器のようなものもLoI-25554内には存在しません。SCP-2935-JP-Aは池間民族に伝わる踊りを行いながら、自身が「聞いていること」をわかりやすく説明するために、SCP-2935-JP-Bを用いました。これらのSCP-2935-JP-Bの意味については解読ができていません。高島膿滿はこれを「音として表現できない音楽を聴いている」と説明しました。

肉の洞窟
このイベントで2名のSCP-2935-JP-A個体が肉の洞窟に入りました。2名はともに150歳を超えており、彼らは「もっとも声を聞いた」ために名誉的な死を持つことが可能であると高島膿滿からは述べられました。洞窟の壁は繊維状になったSK-BIO タイプ007が張り付いており、粘液で覆われています。ミャークヅツに全般的な文化として長男が先行するというものがあるため、長男が先に洞窟の奥に進んでいきます。洞窟の奥に2名が沈んでいくと儀式は終了しました。
その翌日に肉の洞窟から、6体の幼児が生じました。これは繁殖方法に全般的なものではなく、ここから産まれた人物はSCP-2935-JP内で比較的地位が高いことに留意してください。SCP-2935-JP-Aの強い抵抗に合うことから、この洞窟から「カルキスト・イオン」が生じる可能性についての実験は延期されています。9