SCP-2937-JP
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アイテム番号: SCP-2937-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-2937-JP-1~4はハンガーラック1台を設置した収容室に収容されます。SCP-2937-JP-1~4各個体には1日に1度、衣類を1着ずつ与えて下さい。SCP-2937-JP-5は低脅威度物品用ロッカーに収容されており、異常性が失われたかの審議を行っています。

説明: SCP-2937-JPは5つの黒い衣類用プラスチック製ハンガーです。自律行動を行い、摂食行動を通して養分を得ることで生命活動を行う性質を持ちます。SCP-2937-JPの食性はヒトの生活様式に密接な関係を持ち、人工的に作り出された可能性があります。未収容のSCP-2937-JPが存在する可能性を踏まえて調査が進められています。

SCP-2937-JPは自律行動により空中を浮遊するほか、移動の際はフック部分を進行方向に向けて低速での飛行を行います。その他フック部分を支点として体を回転させるといった挙動が可能です。また自らのフック部分を横向きに設置された棒などに掛けて安定することを好みます。収容や実験に協力的であり、後述する食性から人間に対して友好的です。

SCP-2937-JPは目や耳などの器官が確認できないにも関わらず視覚等の感覚を有しています。発声器官についても確認できませんが、未知の手段により青年期から壮年期のヒトに酷似した声を発して会話が可能です。

SCP-2937-JPは衣類を与えられるとその衣類に潜りこみ、自身に吊り下げる行動を取ります。その後、自身に吊り下げた衣類に付着した物質を摂食します。SCP-2937-JPが摂食を行った衣類からは一般的に衣類の汚れと称される皮脂などの付着物や雑菌の付着数がわずかに減少します。これはSCP-2937-JPが衣類に付着した物質を摂食する性質によるものであり、SCP-2937-JPは衣類の汚れや雑菌を摂食していると思われます。

発見経緯: SCP-2937-JPは2020/08/02、奈良県██市にある「██アパート」の209号室で発見されました。同アパートの住民から現地警察に「どこかの部屋から悲鳴が聞こえる」という内容の通報がされ、捜査が行われました。その際、同アパートの209号室の住民である勝江 忍氏の断続的な叫び声を聞いた現地警察官および財団エージェントが209号室に突入し、勝江氏を攻撃しているSCP-2937-JP-1が発見されました。当時のSCP-2937-JP-1は興奮状態にあり、勝江氏に全身を回転させて体当たりを繰り返していました。勝江氏はその場で保護されました。

勝江氏を含む同アパートの各部屋住民および大家と捜査を行った現地警察官には記憶処理が行われ、カバーストーリー「悪質ないたずら」が適応されました。

SCP-2937-JP-1は財団エージェントからの逃亡を図りましたが飛行速度が遅かったため難なく捕獲され、収容に至りました。捕獲されたSCP-2937-JP-1は自身が収容される条件として衣類を1枚与えてほしいと懇願し、要求が許可されると鎮静化しました。衣類が与えられるとSCP-2937-JP-1は「209号室のクローゼットに自身と同種族の存在があと3体存在する」、「ベランダを見てほしい」という発言をしました。調査の結果209号室内のクローゼットから4体のSCP-2937-JP(SCP-2937-JP-2~4)が発見されました。SCP-2937-JP-2~4は収容され、それぞれに衣類が1枚ずつ与えられました。

また209号室のベランダの床から体の一部が折れたSCP-2937-JP(SCP-2937-JP-5)が発見されました。発見時のSCP-2937-JP-5は、ベランダの床面に設置されたエアコンの室外機の下に落ちている状態でした。財団エージェントが回収のため拾い上げるとSCP-2937-JP-5の体はわずかに震えた後、崩壊して細かな砕片と粉末になりました。

SCP-2937-JP-5に関して他のSCP-2937-JP群は「死んじゃった」および「間に合わなかった」と説明しており、生命活動を終えたと認識している模様です。収容後のSCP-2937-JP-5は現在も破損した体の再生や蘇生の反応を見せず、他のSCP-2937-JP群と異なり衣類にも反応しません。生命活動の兆候を見せていない現在のSCP-2937-JP-5が、元の異常性および異なる異常性を所持しているかは不明です。

インタビュー記録001<2020/08/04>

対象: SCP-2937-JP-1

インタビュアー: 粗炭博士

<記録開始>

粗炭博士: それではインタビューを開始します。

SCP-2937-JP-1: おはよう。今日はどうしたの?

粗炭博士: 本日はあなた達のことを教えてほしくてお呼びしました。早速ですが、まずはあなた達が生まれた場所について教えて頂きたいのですが。

SCP-2937-JP-1: 正直なところ分からない。気付いたら大きな家の中1にいたのが最初の記憶かな。僕らがここに来る前にいた部屋じゃなくて、それより前に住んでいた場所なんだけど。

粗炭博士: 我々があなた達を発見する前に住んでいた場所ということですね。そこで過ごした記憶についてお聞かせ願えますか。

SCP-2937-JP-1: うん、といってもその家にはほんの少ししか住んでなかったんだけどね。ちょっと歳をとった女の人と男の人、あとはその子供1人の3人家族が住んでる家だったよ。この子供っていうのは僕らが見つかった部屋にいた人間のことなんだけど、伝わってるかな?

粗炭博士: 勝江 忍氏がその子供ということですね。あなた達が住んでいた部屋の住人です。

SCP-2937-JP-1: 合ってる。ありがとう。気付いたら僕は綺麗なシャツと上着を掛けられてあの家にいて、それからすぐに服を全部引っぺがされて箱に入れられた。僕と同じ姿の皆も同じ箱に入れられた。そして僕たちは箱ごとあの部屋に運ばれたって感じかな。

粗炭博士: あなた達は5体揃って勝江氏と共に209号室へ引っ越してきたのですね。あなた達があの部屋に引っ越してきたのは2020/03/25と聞いています。

SCP-2937-JP-1: それから君達に見つかるまではあの部屋で暮らしてたよ。僕らが飛んだり喋ったりしたら人間が驚くのは知ってたから普段は大人しくして、あの子供がいない時に服をこっそり食べたりしてね。あいつは日中に出掛けることがほとんどだったから、その間の僕らは部屋で好きにしてたよ。

粗炭博士: 食事といえばあなた達は未知の手段で衣類から養分を得ているようですね。あなた達は衣類に付着している物質を食べて生きる種族ということでよろしいでしょうか。

SCP-2937-JP-1: そうだね。服に付いているものなら大体何でも食べられるんじゃないかな。君達もあの部屋にあった服は見てると思うけど、あんな感じなら全然いけるよ。

粗炭博士: あなた達が発見された時、209号室内にあった服の多くは新品だったと聞いています。部屋自体も非常に片付いて清潔だったようですね。

SCP-2937-JP-1: あの子供はめちゃくちゃ掃除してる時があるからね。数日かけて盛大にやってる日もあったよ。ちょうど君達に見つかった日は、数日前に思いっきり掃除をしてたはずだから特に綺麗だったんじゃないかな。そういう時の僕らは大抵クローゼットの中にいるから詳しいことはほとんど見てないけど、新品の服が吊り下げられたのは知ってる。

粗炭博士: 話を戻しますが、あなた達が衣類から食事を行うプロセスについて分かる範囲でお聞かせ頂けますか。我々は収容後間もないあなたの話からしかその性質を把握できていませんので。

[SCP-2937-JP-1は体を右方向に傾ける]

SCP-2937-JP-1: ええと、なんて言ったらいいかな。生まれた時から持ってる感覚って説明しづらいんだけど。もしかして人間って自分が着る服に何が付いてるかなんて気にしないのかな。

粗炭博士: 我々も衣類に気を遣ってはいますよ。しかし身に着けた衣類に由来するものを食事替わりにする事に関しては理解できかねます。あなたは自身の収容にあたって衣類を要求しましたよね。

SCP-2937-JP-1: そうだね。シャツを貰って食べたと思う。

粗炭博士: 後日あなたは自分達について、自らに干された衣類に付着したものを食べて生きている種族だと説明しました。そのような機能は我々人間が持っていないものです。加えてあなたが食事を行った後のシャツは食事前と何も変わらないように見えました。あなたが食事を行ったことでシャツが持つ何かしらの性質が失われたわけではないように思われましたが。

SCP-2937-JP-1: おそらくこれは僕らが人間と共生するための食事の作法なんだよ。もっとも、生まれつき持っている事を作法なんて言うのは傲慢かもしれないけどね。僕らは服に付いたものしか食べて生きていけないけど、その服を用意することはできない。やれることといえば自分の体にぶら下げることだけなんだ。人間から服を貰わなければ生きていけない。だから服を用意してくれる人間から良いものを奪うことはしないようにしてるし、僕ら自身の体もそういう風にできてるんだと思う。僕たちが食べた後の服はちゃんと食べる前と同じ状態のはずだよ。

<記録終了>

終了報告書: 他のSCP-2937-JP個体にも同様のインタビューを実施しましたが、各個体がほぼ同じ内容の発言を行いました。

以下はSCP-2937-JPに条件の異なる衣類を与えた実験とその結果です。

実験内容 結果 考察・補足
実験記録0001 <2020/08/05> LサイズのTシャツ1枚(新品、未洗浄)をSCP-2937-JP-2に与える。 SCP-2937-JP-2は30分後に摂食行動を終えたと報告した。 発見時のSCP-2937-JPが摂食していたと思われる新品の衣類を用いた実験。
実験記録0002 <2020/08/05> 実験記録0001で使用したTシャツをSCP-2937-JP-3に与える。 SCP-2937-JP-3はTシャツを吊り下げたが「これは既に誰かが食べたものだ。食べられないわけじゃないけど」と発言し、Tシャツを返却した。 SCP-2937-JPは他のSCP-2937-JP個体が摂食した衣類を判別し、他のSCP-2937-JPが摂食後の衣類を摂食することを避ける傾向にある。
実験記録0003 <2020/08/06> XLサイズのTシャツ1枚(新品、未洗浄)をSCP-2937-JP-2に与える。 SCP-2937-JP-2は35分後に摂食行動を終えた旨を報告した。SCP-2937-JP-2は「食べ応えがあった」と発言した。 与えた衣類が大きいほどSCP-2937-JPが摂食行動を終えるまでに要する時間は増加する。
実験記録0004 <2020/08/07> LサイズのTシャツ1枚(新品、未洗浄)を水に濡らしたものをSCP-2937-JP-2に与える。 SCP-2937-JP-2は25分後に摂食行動を終えたと報告した。 衣類が濡れているとSCP-2937-JPが摂食行動を終えるまでに要する時間は短くなる。
実験記録0005 <2020/08/08> LサイズのTシャツ1枚(干崎研究員が1日着用したもの)をSCP-2937-JP-2に与える。 SCP-2937-JP-2は20分後に摂食行動を終えたと報告した。SCP-2937-JPはTシャツに皮脂と少量のケチャップが付着していると話した。 衣類が汚れているとSCP-2937-JPが摂食行動を終えるまでに要する時間は短くなる。またSCP-2937-JPは衣類に付着した汚れの種類を判別できる。
実験記録0006 <2020/08/09> LサイズのTシャツ1枚(枯草研究員が1日着用後に3日間放置したもの)をSCP-2937-JP-2に与える。 SCP-2937-JP-2は10分後に摂食行動を終えたと伝えた。 衣類の汚れが深刻であるほどSCP-2937-JPが摂食行動を終えるまでに要する時間は短くなる。

追記: SCP-2937-JP-3が摂食行動に移らなかった実験記録0002を除く全ての実験において、SCP-2937-JPが摂食したTシャツが保持している雑菌の付着数や水分量、皮脂およびケチャップなどの汚れの付着量は実験前のデータと比較してわずかに減少しました。各実験の摂食行動後、SCP-2937-JP-2は「十分満足した」と発言しました。

SCP-2937-JPが摂食行動を終えるまでに要する時間は衣類の汚れが多く深刻であるほど短縮され、摂食行動毎に衣類に付着した雑菌および汚れがわずかに減少する傾向が見られていました。そのためSCP-2937-JPは皮脂などの汚れがより多く付着した衣類を好む性質があると考えられていました。

しかし同時にこの実験結果は以前のインタビューでのSCP-2937-JPによる「SCP-2937-JPが食べた後の服は食べる前と同じ状態であるはずだ」という発言と食い違うことが指摘されていました。そのためSCP-2937-JPの発言に信憑性が薄い、もしくは財団がSCP-2937-JPの異常性を誤認している可能性が存在していました。

2020/08/10、SCP-2937-JP-2に運動機能と活動量の低下が見受けられ、面談を行ったところSCP-2937-JP-2は軽度の倦怠感を訴えました。このSCP-2937-JP-2の状態は実験記録0003〜0006による何らかの影響を受けたものと考えられました。SCP-2937-JP-2には新品のTシャツが与えられ、SCP-2937-JP-2はTシャツを自らに吊り下げて摂食行動を取りました。その後SCP-2937-JP-2は回復の兆候を見せ、翌日の2020/08/11には各状態が改善されました。

SCP-2937-JP-2に発生した現象は低栄養状態のヒトに生じる症状に類似しており、SCP-2937-JP-2は栄養失調による軽度の衰弱状態にあった可能性が浮上しました。この事態から財団がSCP-2937-JPの異常性を誤認している可能性が高いと判断されました。以下はSCP-2937-JPの異常性の調査のために行われた実験です。

実験記録0007 <2020/08/14> LサイズのTシャツ1枚(一般的な衣料用洗剤を用いて洗浄後、日光下で十分に乾燥させたもの)をSCP-2937-JP-3に与える。 SCP-2937-JP-3は20分後に摂食行動を終えたと伝えた。 SCP-2937-JPは汚れのない清潔な衣類を与えたにも関わらず、実験記録0001より早く摂食行動を完了させた。
実験記録0008 <2020/08/15> Lサイズのシルク製ブラウス1枚(財団フロント企業のクリーニング店により適切な洗浄やアイロン掛けなどの手入れをされたもの)をSCP-2937-JP-3に与える。 SCP-2937-JP-3はブラウスを自身に吊り下げると奇声を発した。その後SCP-2937-JP-3は2分後に摂食行動を終えたと伝えた。 SCP-2937-JPが摂食行動を終えるまでの時間が大幅に短縮された事例。

追記: 全ての実験において、SCP-2937-JP-3が摂食した衣類が保持している雑菌の付着数や柔軟性などのデータは実験前と全く同じ数値を示しました。各実験の摂食行動後、SCP-2937-JP-3は「とても美味しかった」と発言しました。

また実験記録0008において、摂食行動を終えたSCP-2937-JP-3は摂食済みのブラウスをしばらく吊り下げていたいと発言しました。要求は許可され、2020/08/16にSCP-2937-JP-3はブラウスを返却しました。その際SCP-2937-JP-1~4は同時に飛行し、それぞれが空中に自身の軌跡で「ありがとう」の文字を描くという行動を見せました。

以下はSCP-2937-JPの異常性の追究のために行われたインタビューの様子です。

インタビュー記録002<2020/08/16>

対象: SCP-2937-JP-4

インタビュアー: 粗炭博士

<記録開始>

粗炭博士: インタビューを開始します。

SCP-2937-JP-4: 今日はどうしたんだ博士。何かあったのか?

粗炭博士: あなた達の持つ異常性について再度お聞きしたいのです、SCP-2937-JP-4。あなた達は自分に吊り下げた服に付着したものだけを食べる性質がある。あなた達は服を食べることでその服の性質を変化させない。ここまで合っていますか?

SCP-2937-JP-4: そうだぞ。あとは今みたいに飛んだり喋ったりもするな。

粗炭博士: あなた達SCP-2937-JPには不可解な点が複数存在します。まずはつい先日、SCP-2937-JP-3に行われた実験はご存じですよね。

SCP-2937-JP-4: ブラウスを貰ってたやつか?見せてもらったがあれはいい服だぞ。俺達だけが貰うのは勿体ない。1日吊り下げてたいっていう頼みも聞いてくれたわけだし、あれはあんた達人間も着た方がいいぞ。

粗炭博士: その実験に関することなのです、SCP-2937-JP-4。あのシルク製ブラウスはあなたの言う通り品質の良い服です。加えて一般的な洗濯機での洗浄が難しい2ので専門業者に手入れを頼んだ物でもあります。

SCP-2937-JP-4: ああ、なるほど。そういえばあんた達が3って呼んでる奴がそんなことを言ってた気がするな。これはすごいとかやばいとか。

粗炭博士: SCP-2937-JP-4、あなたはSCP-2937-JP-3が何故あのブラウスを2分という短時間で食べ終えたのか理解できますか?SCP-2937-JP-3自身にもインタビューしてみたのですが、「あの服は特別だ。あんな服にはなかなか出会えない」と恍惚として言うばかりでして。

[SCP-2937-JPは3秒間沈黙する]

SCP-2937-JP-4: あいつはまあ、そう言って当たり前だと思うんだが。

粗炭博士: あなた達にとって当然の発言だと?

SCP-2937-JP-4: なあ博士。その、これはもしかすると価値観の違いからくる失礼な質問かもしれないんだが。

粗炭博士: なんでしょう。

SCP-2937-JP-4: もしかして人間は不潔な服の方が好きなのか?博士もいつもは清潔な服を着てるけど、実はそれは熟成中の品だったりするのか?

粗炭博士: 待って下さい。何を根拠にそういう話になるんですか。

SCP-2937-JP-4: いや、博士と俺達は違う存在だからな。そういう趣味や価値観があってもいいと思うぞ。否定はしないから安心してくれ。あっ [合点がいったように] そういえば前に住んでた部屋にいた黒くて小さい生き物は汚いのが好きだった記憶があるぞ。人間もそうなのか?

粗炭博士: 本当に一旦待って下さい、SCP-2937-JP-4。なんですか、それではあなた達は不潔な衣類が好きなわけではないと?

SCP-2937-JP-4: ああ、物心ついてから今までずっとそうだぞ。

粗炭博士: ですがSCP-2937-JP-2は今まで実験で皮脂や食べ溢しが付いた服を食べていましたよね。あれはどういうことなのです。

SCP-2937-JP-4: そりゃあ、食べるものがそれしか無かったからだと思うぞ。ここに来る前はあんな服ばかり食べてたから今更何とも思わないしな。俺達は数日何も食べなくても死なないくらいはタフだし、汚れた服でもなんとか食べられるだけだ。綺麗な服ばかり食べられたのは最初の頃だけで、洗った服なんかそうそうお目にかかれない代物だったぞ。たまに汚い服が新品に取り換えられて一緒に洗濯された服が少し入ってきたくらいだな。とはいえ汚れの多い服なんて一時しのぎで腹が膨れるだけで不味いし栄養もないから、あんなのばかり食べてたら普通に死ぬけど。博士もベランダに落ちてた奴のことは知ってるだろ。

粗炭博士: SCP-2937-JP-4。質問があります。あなた達の好物を教えて頂けますか。

SCP-2937-JP-4: 洗って干してふかふかの服に付いてる、めちゃくちゃ最高の着心地だが。俺、やっぱり変な事でも言ってるか?

<記録終了>

終了報告書: SCP-2937-JPが好む衣類は清潔かつ十分に乾燥された衣類だと判明しました。またSCP-2937-JPは清潔な衣服が保有する「着心地」と呼ばれる感覚を好んで摂食する性質を持つことが明らかになりました。

実験記録0007と0008において洗浄および乾燥済みの衣類から柔軟性や雑菌量が変化しなかったのは、この性質のためだと思われます。インタビュー1におけるSCP-2937-JP-1の「SCP-2937-JPが食べた後の服は食べる前と同じ状態であるはずだ」という発言内容ともこの実験結果は一致します。SCP-2937-JPは清潔な衣類が持つ着心地を人間も好むものと把握しており、その感覚を失わせないように摂食行動を行っていたと思われます。

SCP-2937-JPは汚れの付着した衣類を摂食することは可能であり満腹にはなるものの、十分な栄養を得ることはできないことが判明しました。このため汚れた衣類のみをSCP-2937-JPに与え続けると栄養失調を起こし、最終的には死亡すると思われます。

SCP-2937-JPの本来の食性が判明したことから調査を行ったところ、2020/07/30に勝江氏の両親が209号室を訪問し大規模な室内の清掃と衣類の洗濯を行っていた事実が判明しました。

この清掃および洗濯を行う以前の209号室は極めて乱雑かつ不衛生な状態であり、室内に散在していた衣類も異臭3を放つ物品のみでした。勝江氏の両親は209号室内に存在した衣類のほぼ全てを撤去し、汚れが比較的軽度であった衣類を洗濯すると共に新品の衣類を与えていたことが明らかになっています。このような清掃は勝江氏が209号室へ住み始めてから数か月ごとに行われていました。2020/08/01に勝江氏の両親は不衛生な衣類をまとめた袋と共に209号室から退室し、帰宅しています。この清掃の結果、SCP-2937-JPが発見された2020/08/02当時の209号室内は非常に清潔な状態であり、クローゼット内に掛けられていた衣類もほぼ全てが新品でした。

勝江氏はベランダをほぼ使用しておらず、室内と比較して清掃の必要性が少なかったことが判明しています。SCP-2937-JP発見時のベランダには多くの衣類が干された状態4でした。室外機が洗濯物の影に隠れたことやベランダまで清掃の手が回らなかったことでSCP-2937-JP-5は廃棄されず収容に至ったと考えられています。

SCP-2937-JP全個体はミーム的影響および認識災害のどちらも有していないと判断されています。2020/07/30時点での209号室の状態にはSCP-2937-JPの異常性は関与していないと推測されており、勝江氏の元来の性質が起こしたものではないかと考えられています。

これらの状況を受け、SCP-2937-JPが摂食し栄養失調を起こさない衣類の条件を把握するための面談や調査が行われました。SCP-2937-JPが好み、十分に養分を得ることが可能な衣類の条件は以下の通りです。

  • 皮脂や食べ溢しなどの汚れが付着していない。また雑菌5の付着数が少ない。
  • 一般的な衣料用洗剤や洗濯機などを用いて適切に洗浄した後、日光下や60℃以上の温風を当てた状態で十分に水分を乾燥させている。上記の細菌を死滅させて繁殖を防ぎ、洗浄後の衣類を清潔に保つ効果によるものと思われる。洗浄後に乾燥せず放置した衣類は好まない。新品かつ未洗浄の衣類は汚れや雑菌が付着していないことから摂食可能だが、洗浄された清潔な衣類の方が好ましいとSCP-2937-JPは発言している。
  • 肌触りが良い。構成する素材自体が良い肌触りを持っている衣類のほか、一般的な柔軟剤を用いた衣類はSCP-2937-JPがより好む状態になることが判明している。

上記の条件を満たした衣類をSCP-2937-JPが摂食した際、摂食後の衣類が持つ雑菌の付着量や柔軟性、表面温度などのデータは摂食前と全く同等の数値を示します。洗剤による芳香等も摂食前と同等の状態を示しており、これらの条件はSCP-2937-JPが「着心地」として認識しているものだと考えられます。SCP-2937-JPが衣類を摂食した際、SCP-2937-JPが着心地として認識しているものが失われない理由は不明です。

実験記録0001~0006において新品および汚れた衣類をSCP-2937-JPが摂食した際に雑菌の付着数や汚れの付着量が減少した理由についても明らかになっていません。この理由についてSCP-2937-JP-1~4は「少しでも衣類を清潔にして自分達の生存率を上げようとしているのではないか」、「何でもいいから食べて生きようとしているだけだと思う」といった理由を挙げています。

また実験記録0001~0006において衣服の汚れが多くなるほど摂食に要する時間が短縮されたのは「不味い食事は早く済ませたかったから」、実験記録0007~0008で清潔かつ丁寧な処置をされた衣類ほど摂食に要する時間が短縮されたのは「美味しくて夢中で食べたら早く食べ終えてしまったから。特にブラウスはすごかった6」とSCP-2937-JP-3は説明しています。

柔軟剤を用いて洗浄した衣類や実験0008で使用したブラウスなどは、一般的な衣料用洗剤と洗濯機を用いて洗浄後に乾燥した衣類と比較してSCP-2937-JPから「手の込んだ食べ物」および「ぜいたく品」や「高級で美味しい食べ物」として扱われます。またSCP-2937-JPはそれらの極めて良い着心地を持つ衣類を財団職員などの人間にも着るように勧める傾向があります。この現象を受けてDクラス職員がSCP-2937-JPの摂食後の衣類を着る実験を行ったところ、問題なく着用することが可能だと判明しています。

SCP-2937-JPに関して想定していた性質は真逆だったことが明らかになった。SCP-2937-JPは意外にも我々と近い清潔感を持っており、それが食事にも適応されていたのだ。我々が気付かぬままSCP-2937-JPが衰弱死する前にSCP-2937-JPの本来の異常性が判明して良かったと言える。しかし柔軟剤を加えた程度で喜ぶとは。収容以前の生活の質が伺える。 - 粗炭博士

インタビュー2以前からSCP-2937-JP各個体には1日に1度新品のTシャツを与えていました。インタビュー2以降は特別な理由がない限りSCP-2937-JPに汚れが付着した衣類を与えることを避け、実験記録0007と同様に一般的な洗剤と洗濯機を用いて洗浄を行った後、十分な乾燥を経た衣類の提供が行われています。

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