SCP-2945-JP
評価: +57+x
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財団記録・情報保安管理局より通達
— RAISA管理官、ヘンリー・ジョーンズ

当オブジェクトは絶滅種です。報告書の内容は常に不確定要素を含むことに留意してください。

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SCP-317-JP-EXの復元画

アイテム番号: SCP-317-JP-EX

オブジェクトクラス: Neutralized

特別収容プロトコル: SCP-317-JP-EXの化石は、AR-Area-03の進化生物学ラボ(Evo-██-AnTr)へ収蔵されます。新たに発掘された化石は、博物館を介し速やかに回収してください。

豪州の先住民族アボリジニは、SCP-317-JP-EXの歪曲された伝承を受け継いでいます。よって年1回アボリジニと接触し、情報漏洩がないか確認してください。過去に全アボリジニへの記憶処理がH.R.博士より提案されました。しかし当オブジェクトの歴史的影響を調査する必要性から承認されていません。

SCP-317-JP-EXの生存個体の捜索は、予算の都合から第12回を最後に凍結されています。以後の捜索はWWS豪州支部の管轄ですが、目立った成果は報告されていません。


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SCP-317-JP-EXの住居
経年劣化により半壊している

説明: SCP-317-JP-EXは体長80cm の絶滅したキノボリカンガルー属(Dendrolagus)です。いくつかの解剖学的特徴(約35%肥大化した大脳新皮質・新世界ザルのそれと類似した操作性の高い尾部など)を除き、SCP-317-JP-EXと現生のキノボリカンガルー属の間に有意な差異は確認されません。

SCP-317-JP-EXは概ね植物食でした。臼歯の摩耗具合から、丈の低いイネ科草本類が主食だったと考えられています。発掘サイト-██.Fのボーンベッドから、多数のSCP-317-JP-EXの化石に混ざりディプロトドン(Diprotodon)1の化石が発掘されました。ディプロトドンの大腿骨と肋骨からは鋭い裂傷が報告されており、これはSCP-317-JP-EXの推測される生態とは食い違っています。両者の因果関係は、Evo-██-AnTrでタフォノミーの観点から研究中です。

SCP-317-JP-EXの異常性は生態にあります。本種は現生のキノボリカンガルー属と異なり、編み込まれた草葉からなる住居を建築します。住居は平均して総重量1t に達し、主に地上から約10m の枝へ建築されました。住居の外形はドーム状をしており、内部には平均して3~4つの部屋が存在します。1個体につき1部屋ずつ割り当てられ、ここで休息や繁殖を行っていたと考えられています。建築時は鉤爪とノミ状の門歯、おそらく単純な石器や木製建具などが用いられました。



これらの住居は築100年を超えるものも多く、数世代に渡り相続されたと考えられています。中には増改築を繰り返した結果、総重量2.5tを超えるものも確認されています。住居は非常に頑強で、火災や水害以外では滅多に崩壊しません。20██年までに計██件の住居が発見されており、これらから当オブジェクトが一般社会へ露見する恐れがあります。そのため財団は特別な事情を除き、最低限のサンプルを確保した後、これらの住居を解体・焼却して対処しています。


非異常の有袋類は胚発生の都合上、脳を肥大化させにくい傾向があります。SCP-317-JP-EXの脳容量は有袋類としては顕著に大きいものの、前述の傾向から大きく逸脱してはいません。推定された脳化指数(EQ値)は、約1.4と旧世界ザル2と同等かやや下回るものでした。しかし住居の複雑さ、単純な道具類の使用といった行動は、本種の知能が少なくとも新石器時代のホモ・サピエンス(Homo sapiens)に匹敵することを示します。この矛盾に対し、以下3つの仮説が提案されました。

SCP-317-JP-EXのEQ値と文明水準の乖離に関する仮説
  • 主張: 既存の脳函標本は保存状態が劣悪なため、そこから推定したEQ値は誤っていると主張
  • 調査: 20██年にSCP-317-JP-EXの完全な頭蓋骨を発見。改めて推定がなされた
  • 結果: 仮説①は否定された。旧来の推定値と新たな推定値に大きな乖離はみられなかった

上記に基づき、SCP-317-JP-EXは確認される限り唯一の群知性および真社会性4を獲得した有袋類と考えられています。仮に真社会性を備えていた場合、SCP-317-JP-EXの知的活動は██~███%複雑化するとされ、住居の建造は円滑に遂行されたと考えられます。真社会性はフェロモンを介して維持されたと推測されており、これはSCP-317-JP-EXの脳に発達した嗅球5が存在したことと整合的です。フェロモンは個体間のコミュニケーションにも用いられたと推測されています。SCP-317-JP-EX由来とされる文字資料は報告されておらず、社会性に関する更なる推察は困難と考えられています。


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SCP-317-JP-EXの生息域(赤)

SCP-317-JP-EXの進化と絶滅
最古のSCP-317-JP-EX-Fは、更新世ジェラシアン(約250万年前)の██████層から産出しています。更新世の豪州は現代より南極点に近く、豊富な降水量が広大な森林を養っていました。当時キノボリカンガルー属から分岐したばかりのSCP-317-JP-EXは、短期間のうちにパプアニューギニア南部まで分布を拡大しています。同時代に進行した南北極冠の発達が海退を発生させ、海退が多数の島嶼を出現させたことでSCP-317-JP-EXの分布拡大を促したと推測されています。

前述の住居は、猛禽類や赤道特有のスコールから身を守るのに有用でした。結果ハンディキャップ理論6も相まって、SCP-317-JP-EXはより大きく頑丈な住居を構えるように進化したと考えられています。当初住居は直径1m程度の陣笠状構造物に過ぎませんでしたが、内室の作成・分化といった複雑化が推し進められました。こうした文化的成長に伴いSCP-317-JP-EXも多様化し、約180万年前には約10種の亜種が誕生していたことが化石記録により示唆されています。うち2~3種は不明な経路を通じてウェーバー線・ウォレス線7を突破し、インドネシア領・フローレス島へ進出していた可能性があります。フローレス島の梁武(リャンブア)洞窟から発見された断片化石がこれを示唆しますが、確実な証拠は挙がっていません。

オーストラリア本土では、SCP-317-JP-EXが全土へ分布域を拡大しました。更新世チバニアン(約50万年前)に、西部パース~北部ブリスベンかけての水郷地域では、大小100前後の住宅が密集した大規模村落が形成されました。特に大規模なのがマレー川沿いに形成された通称"イガグリの森"です。"イガグリの森"からは、財団の第3次発掘調査により、推定重量4t・全高25mの大型建造物の遺構が発掘されました。建造物内には5~6つの部屋があり、うち1つは成人男性が横になれるほどの容積を有しています。直前(約55万年前)の大規模村落でさえ、最大の建造物は推定重量2t・全高12mだったため、上記の建築技術の向上はあまりに突発的であり、その経緯は判明していません。

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サイト-██.█で発掘された石器類。左から順に杵・杭・包丁・槌と推測されている

完新世ノースグリッピアン初期(約8200年前)、SCP-317-JP-EXは絶滅しました。直接的な原因は"8200年事件"8による旱魃です。しかし当時のSCP-317-JP-EXは既に衰退傾向がみられ、旱魃は最終的な決定打に過ぎないと考えられています。より重要とされるのが、後期更新世の約12~5万年前に豪州へ入植したアボリジニでした。地上で流動的な狩猟採集を営むアボリジニと、樹上で定住生活を営むSCP-317-JP-EXは、本来ならば競合しえない存在でした。むしろ現代のアボリジニに伝わる民族伝承は、両者の交易すら示唆しています9。ところが約4万5千年前を境に両者の関係性が一変しました。発端は豪州メガファウナ10の壊滅と、森林火災の頻発化および砂漠の拡大だと考えられています。アボリジニは食料源、もしくは競合相手としてメガファウナを狩猟しました。対抗手段を持たなかったメガファウナは数を減らし、約4万5千年前には大部分が絶滅したと考えられています(GIFFORD H.MILLER et al. 2006)。主要な食料源を失ったアボリジニは、次なる獲物にSCP-317-JP-EXを選びました。当時の狩猟には火が用いられており、乾燥化も相まって森林火災が頻発するようになりました。SCP-317-JP-EXが好んだ建材のユーカリは、引火性物質テルペンを保持しており、これらの相乗効果がSCP-317-JP-EXの村落へ壊滅的な被害をもたらしたと推測されています。例えばサイト-███からは13体のSCP-317-JP-EXが発掘されており、全ての標本に高熱によって炭化した痕跡がありました。SCP-317-JP-EXの生息域は次第に縮小し、約2万年前には豪州南部ビクトリア州を残すのみとなったことが、20██年の第5次発掘調査から判明しています。

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SCP-317-JP-EXの前肢の復元
樹上では有用だが、道具を扱うには不向きである

SCP-317-JP-EXの社会は高度かつ複雑でしたが、同時期の人類と比べてもより限定的でした。出現から数百万年経ちながら、SCP-317-JP-EXの前肢は依然として祖先のキノボリカンガルー属と変わらず、登攀用の先の丸い鉤爪と対向性のない手を保持していました。これらはSCP-317-JP-EXが船舶の建造のような複雑な作業が不得手だったことを示しています。また食料を近辺の植物に頼ったため、人類における新石器革命11も発生しませんでした。極端な分業・カースト制度が前提の真社会性は、安定した環境では継続した繁栄をもたらしました。しかし僅か数万年のうちに激変する環境では、各個体の自由選択の乏しさから、革新的な急成長や転換が望めず、不利な状況へ陥ったと考えられています。SCP-317-JP-EXの衰退は決定的となり、約1万年前までに全SCP-317-JP-EX個体の95%が死滅したと考えられています。以後は大規模村落できないまま約2000年ほどかけて衰退していきました。

以上の経緯を経て、豪州本土のSCP-317-JP-EXは"8200年事件"をもって完全に絶滅したと考えられています。タスマニア島やパプアニューギニア諸島のSCP-317-JP-EXもまた、入植した現生人類に端を発した淘汰圧に屈し、約4000年前には絶滅したと考えられています。なお18~19世紀の白人入植に際し、東南アジア~オセアニア州の森林にて跳ね回る奇怪な獣の目撃例が何件か記録されました。これらがSCP-317-JP-EXの残存個体だった可能性はありますが、それらは散発的な記録に過ぎず、信憑性も決して高くないことに留意してください。いずれにせよSCP-317-JP-EXが現代まで生存していることを示す明確な証拠はなく、必然的にオブジェクトクラスはNeutralizedと指定されました。


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ログイン資格を提示せよ: 要レベル4/ SCP-317-JP-EXクリアランス

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