一次報告:
候補異常2011-452: “来世薬”
主要調査員: エージェント・パトリス・ウォルターズ
提出日: 2011年9月8日要旨: エージェント・エラー(Ellers)と私はCA2011-452(来世薬)に関して調査を実施しました。当該アノマリーは医学的に新奇な効果を示し、開発者は超自然的な起源と機能があると主張しています。我々は彼らが製造を外注契約している場所のいくつかを訪ね、ナチュラル・ビジョン・サプリメンツの上層部数名にインタビューを実施しました。対象者には“チーフ・インスピレーション・オフィサー”かつハッピー・ヒアアフター・アフターライフピルの開発者とされるルーアン・ムーンチャイルド女史が含まれます。我々はまた、当時ハッピー・ヒアアフターの安全性に関する調査を実施していたFDAの審査官であるシュルティ・バナジー博士、ならびに財団の神経学者アンディ・ミハイ博士から助言を受けました。
ナチュラル・ビジョン・サプリメンツは異常な主張をしており、またCA2011-452はいくつかの説明されていない向精神的性質を示しています。しかしながら、精神医薬の分野においては作用機序が不明確であることは珍しくなく、さらなる証拠なしに異常な活動の証明とすべきではありません。バナジー博士は、FDAはサプリメントはもちろんのこと薬品の承認にも作用機序を求めることはないと述べ、CA-2011-452より不可解な確立された薬品の例を多数挙げました。ミハイ博士は彼女の分析に同意し、CA-2011-452の効果は練達した瞑想者が達成可能な「悟り」と呼ばれる状態に類似していると指摘しました。彼はまた、ありふれた薬品の副作用として一時的にこの状態を経験した人々の事例を発見しました。
ナチュラル・ビジョン・サプリメンツのオフィスは様々な詐欺的な超常物品で溢れていましたが、オフィスと製品の製造場所のいずれにも、あらゆる点で錠剤の異常な性質を示すものはありませんでした。ムーンチャイルド女史も企業同様であり、私のセキュリティ・クリアランスにおいて確認できる限りではひたすら不正確なことを述べて、長々と超常性を説明しました。彼女の主張するところによると、超越的再誕を確実にするために組み合わされる薬草を彼女に教えたのは処女神だそうです。
我々の評価ではムーンチャイルド女史はこの起源の所説を心の底から信じており、そのため不運にも、CA-2011-452は意図的な詐欺であるとして片付けることが不可能です。この特異な超常現象の報告は反証不可能である一方、あからさまな虚偽と共に提供されています。さらに、ムーンチャイルド女史は個人的な証言の他に証拠を示すことが出来ませんでした。捜査官を名乗る者(あるいは、報道によれば、宗教指導者らや懸念を抱いた顧客の親族たち)を目前にしてもです。もし、ナチュラル・ビジョン・サプリメンツの研究開発部門が取組んでいると請け負った来世の証拠を彼女が入手したならば、この評価は変わりますが、神秘のチベットクリスタルや占星術のチャートにあのベールを見透かす力があるかどうかは大いに疑問です。現時点では、CA-2011-452に対する調査を中断することを推奨します。
イベントログ:
2011年6月6日: 候補異常2011-452(“来世薬”)の事例確証。
2011年10月3日: 異常活動の証拠の不足によりCA2011-452停止。
2014年6月13日: ナチュラル・ビジョン・サプリメンツによる新たな主張および提供を鑑みて、CA2011-452を再開、CA-2014-335に再割当て。
2014年7月28日: CA2014-335と関連するアノマリーがSCP-2968に再分類される。
2014年11月10日: SCP-2968収容。
アイテム番号: SCP-2968
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2968-Aの実例は安全収容ロッカーに瓶詰めで保管されます。追加の実例は破棄しても、適切に収容しても構いません。SCP-2968-Aの製造手順は財団イントラネット内で暗号化された文書上で保存されるべきです。主任研究者の承認により試験目的で、あるいは倫理委員会の裁量により、追加の実例を生産することができます。一般社会でのさらなるSCP-2968-Aの使用を思いとどまらせるために、財団の要求に基づきFDAによる汚染の警告が発表されました。
SCP-2968-Bは収容不可能ですが、世界への非常に限られた影響により、直接の収容手順は許可されていません。SCP-2968-Bの収容は関連する知識の抑制によって構成されており、SCP-2968の収容前にその住民と接触した、十分に著名な人物に対する標準的信用毀損プロトコルによって達成可能です。
事件2968-4後、SCP-2968-Cの構成要素である備品はもはや機能しないため、低セキュリティ収容ロッカーに収容されます。SCP-2968-Aに関連する異常な活動も停止した可能性があります。その場合、活動の十分なメカニズムが財団あるいは外部の神経学者に発見された際、SCP-2968-AはSCP-2968-A-EXに再分類されます。
説明: SCP-2968は、合衆国を拠点とする代替薬製造業者であるナチュラル・ビジョン・サプリメンツによって市販された、ハッピー・ヒアアフター・オーガニック・ワン・ア・デー・アフターライフ・サプリメントに関連した異常の集合的呼称です。
SCP-2968-A実例は、一部薬草由来の化合物の混合物が充填された、2部式の植物性(ヒプロメロース)カプセルです。SCP-2968-Aの完全な原料リストは補遺2968-1を参照してください。 SCP-2968-Aを摂取した人物は、軽い生理学的効果を経験します。その中でも顕著であるのは血圧低下であり、既に低血圧である人物には害をなす可能性があります。カプセルは推奨される1日摂取量の約8倍のビタミンAを含有するため、長期の使用はさらなる健康被害をもたらすおそれがあります。SCP-2968-Aには顕著な向精神性があり、大半の使用者に内心の会話の有意な減衰あるいは停止をもたらし、多くの被影響者が精神からの分離、空虚さ、あるいは一部の例で至福と表される感覚を覚えます。人と服用量により、この感覚は1日から2週間継続します。
ナチュラル・ビジョン・サプリメンツは、SCP-2968-Aの効力下で死亡した者にはもれなく快い来世が訪れると主張し、2014年6月には、ハッピー・ヒアアフターの効力下で死亡した友人や親族と、テキストインタフェースによって交流できるサービスをリリースしました。接触を受けた人物は、絶え間ない平安と平静の状態にある、肉体のない精神であることを報告しました。彼らは死亡時の全知識とパーソナリティの大半を保持し、他のSCP-2968-Aの影響を受けた死者とコミュニケーション可能であると報告しました。この観察上、死後の生らしき状態はSCP-2968-Bに指定されました。
SCP-2968の収容が確立された際、SCP-2968-Bとのコミュニケーションに用いられる装置は、発見後SCP-2968-Cに指定されました。SCP-2968-Cは構造において、信号を解読する鉱石ラジオのコンポーネントを備えた衛星テレビ受信機に類似しています。完全な技術的図解は補遺2968-20を参照してください。
補遺2968-12: 当時治療不能の肺気腫により末期状態にあったサミュエル・ルディ博士が、SCP-2968の試験を志願しました。優れた業績、差し迫った死、比較的機密に関わる知識が少ないこと、ならびに現在のSCP-2968の研究主任であるウェイ・リン博士との良好な関係を鑑みて、彼は候補として理想的でした。 ルディ博士は2014年9月10日の死亡まで、指示に従い1日1錠を服用しました。
インタビュー2968-5:
インタビュアー: ウェイ・リン博士
対象: サミュエル・ルディ博士(死亡)リン博士: こちらウェイ。サム、そこにいるか?
ルディ博士: 聞こえるよ。太陽と緑の地での様子はどう?
リン博士: 積もる話はあるが、まずは安全第一。パスフレーズは?
ルディ博士: [編集済]。そちらもどうぞ。
リン博士: [編集済]。そちらはどんな場所か?
ルディ博士: ああ、ここは素晴らしいよ、ウェイ。ハッピー・ヒアアフターは良いものだった — もし我々がNVSを休業させなければ、おそらく代わりに政府がやるだろう — でもまだ僕には身体があった。一番悪い時にはほとんど忘れられなかった。ダブルHは助けになってはいて、自己が肉体とは違う、脳とすら別のものであることを理解させてくれたが、疼痛のせいで元の木阿弥だった。僕はここに自分の肉体があるとは考えていない。君の声が聞こえるように感じるが、確実に感覚入力はない。
リン博士: 私はこちら側ではタイピングしている。私の声がすると?
ルディ博士: いや、君の声の記憶を想起したんだと思う。僕の方も実際声を出している訳じゃない。ただのメタファーに過ぎないんだろう。そのうち消えていると皆言っている。
リン博士: 皆? SCP-2968-B内にいる他の人間とコミュニケーションができる?
ルディ博士: ああ、かなりやってる。悟りは多くの物を取り去るが、好奇心は僕の本分だからね。ここにはかなり大勢の人がいて、通常の空間と言語の障壁は存在しない。
リン博士: 彼らも全員、死亡時にハッピー・ヒアアフターの効果を?
ルディ博士: 大半はね。でも面白いことに — 何人かの僧や瞑想マニアもいる。
リン博士: つまり、悟りを得たであろう他の人物もということか。ならばこれは、その状態にあった人々全般の死後の世界ということ? 私は仏教の専門家ではないが、転生のようには思えない。
ルディ博士: おそらくは。あるいは涅槃? 僧侶たちに聞いてみよう。しかしそう話は単純じゃなさそうだ。NVSはダブルHを何年作ってたんだ、5年?
リン博士: そう、じきに5年。彼らはSCP-2968-Aを2011年初頭にリリースした。
ルディ博士: ここに何者かが至った最古の時期は2009年。この場所、SCP-2968-Bは — 僕が思うに、新しい何かなんだ。
リン博士: 興味深い。あるいは最古の魂には、5、6年を超えて滞在しなくなる何かが起きている?
ルディ博士: 可能性はある。内なる声や外の肉体なしでも、まだ僕の生活パターンは残っている。そのうちなくなるかもしれない。もしかしたら、ここには数千年間人が来続けているが、最古の魂は僕には未だ見えない展望を見つけたのかもしれない。
リン博士: サム、大丈夫か?
ルディ博士: ああ。もちろん。僕の認識は鮮明だ。君に話しかけている最中すらも、沈黙がある、空が……あまりいい話には聞こえないかもしれないが、でも僕は解き放たれているんだ、ウェイ。僕の頭の中で — 頭は存在しないが — しゃべくり続ける雑念はもうない。僕はただ自分自身で、いまここに — ここが何であれ — いる。解放され、安らいで、そしてとても幸福だ。永遠にこのままいられる。そしてそうなるだろう。
リン博士: 分かった。でも何か変化があったら、退屈が問題になったら、教えてほしい。再度接触する。
ルディ博士: ウェイ、こんなことは続けられないのは分かっている — どんなに良かろうと、我々は財団で、これは明白に異常だ。でも、どうか瞑想を試してみて欲しい。もしそれがぼくがあったのと同じ状態を実現可能なら、君はここへ、うーん、異常な薬物を使って死ぬ段階を飛ばして来る事が可能になる。そしてもしこれが真に悟りを得た者の死後の世界で、NVSがどうにかして拵えたものでないとしたら? ウェイ、君もこっちに来られる!
事件2968-4: 2014年11月22日午後1時25分(グリニッジ標準時)に、財団のエージェントは成功裡にナチュラル・ビジョン・サプリメンツに踏み込み、活動停止させました。さらなる詳細については作戦報告2968-3を参照してください。関連して、エージェントらは襲撃に先んじて通信遮断に成功しており、SCP-2968-Cを通じたものを含め、一切の通信は送信されなかったと考えられています。
午後4時13分(グリニッジ標準時)、月の裏におけるかなり大規模な爆発と、財団の月面基地の観測者によって光に覆われた大きな円錐形の物体と形容されたものの急加速による地表からの離脱が、超常現象2014-505として登録されました。SCP-2968との関連は、インタビュー2968-10が直後、11月22日午後4時30分(グリニッジ標準時)に実施された際に明らかになりました。
インタビュー2968-10:
インタビュアー: ウェイ・リン博士
対象: サミュエル・ルディ博士(死亡)リン博士: こんにちは、サム。やったぞ。ナチュラル・ビジョンが閉鎖された。さらに人が来るかどうか様子を見よう。
リン博士: 忘れていた。[編集済]。
リン博士: サム?
ルディ博士: それでは証拠として[編集済]。それはよかった。
ルディ博士: 聞いているよ。それと先週よりも気分がよくなっている。
リン博士: 前回の会話より反応が遅い。立ち入りの最中にそのような事をもたらすような出来事があったとは思えない。そちらに気が散るような事でも?
ルディ博士: 変だな。僕の側では何も感じない。君の方が遅れているように聞こえる。
リン博士: OK、簡単な試験をする。これを見たら即座にとても短く返信すること。
ルディ博士: 和
リン博士: 10秒。
ルディ博士: 即座に送ったよ。ここの時間は奇妙だ、心拍も外部に参照すべき物もないが分かる。接続を遅くする何かがあるのだろうか?
リン博士: サム……気になる事がある。もしSCP-2968-Bが物質的な場所で、遠ざかっているとしたら? SCP-2968-Cが衛星アンテナ状であることは把握している、もしあれが文字通りそうだったらどうなる?
ルディ博士: ウェイ、僕に考えがある。これは光速による遅延か?
ルディ博士: 今君のメッセージを受信した。フッ。互いの見解からするに、どちらもその発想が最初に来たみたいだ。
リン博士: こうなるとは思っていなかった。私があなたを引きずり込んだ
リン博士: サム、申し訳ない
ルディ博士: 構わないよ。僕は恐怖を克服している。
リン博士: 重大問題だ! 私には君の行き先が分からない。体はファーンウッドにあるだろうが、大事な部分はまだ
リン博士: 考えたくない。これが財団なんだ。君が安全だと言えるほど十分死んでいないと言える程度には悍ましい物事を見てきた。
ルディ博士: 僕はまだ危険からは開放されていない、多分。しかし恐怖や苦痛はどうだろう? そんなものは語りのトリックでしかなく、それなら僕は影響を受けない。空を見渡して探してみて欲しい、でも僕には何の問題もない。
ルディ博士: ウェイ、また時間を測ろう。僕はいくらでも待てる。
リン博士: 反応して
ルディ博士: 即!
リン博士: 38秒。
リン博士: おもきいってやってみるよう背中を押したのは私だった。我々は死んだ後のDをコントロール出来ない。 テープの、最初の質問の後、単に何かを発見しただけの連中だと思っていた。馬鹿馬鹿しいことに、あのLZの曲の題名をつけたレポートまであった。サム、あなたは死につつあった。あなたを救えると思っていた。
リン博士: あなたのせいじゃない。
ルディ博士: ウェイ、君はやったんだよ。
ルディ博士: いや、僕は前より良くなっている。穏やかで、何も欲さず、現世では決して得られなかった安らぎがある。ハッピー・ヒアアフターのせいだろうがこの場所の非肉体的性質のせいだろうが、僕は全き己自身であり、ただ真なる自己なんだ。感謝している。
ルディ博士: 通信は長くは保たないだろう。遅延もあるし、信号のデコヒーレンスも起こるだろう。2968-Cは非異常性の技術と大差ない。
リン博士: サム、行かないでくれ。葬儀で話をした時には君が死んだと思っていなかった。君がよりよい場所に行ったと言った時、内心笑っていたよ。私には君が今からどこへ行くのか分からない。健やかでいてくれ。お願いだから。
ルディ博士: これが即座の返信だ。
リン博士: 5分。ほぼ火星だ。
リン博士: 月から何かが打ち上がった報告があった。多分それが君なんだと思う。
リン博士: サム?
リン博士: さようなら
この交信の後、以下のメッセージが数時間に渡ってSCP-2968-Cにより受信されました。伝送品質は低下していますが、サミュエル・ルディ博士からの最後の発信であると考えられています。
ルディ博士: 他の者たちの一部が静かになった。
ルディ博士: ウェイ、僕らはロケット燃料なんだと思う。
ルディ博士: 恐れないでくれ。僕は平気だ。