SCP-3000-JP
科学は何も解き明かさない。知れば知るほど、
世界はより深遠かつ幻想的になっていく。
オルダス・ハクスリー
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RAISA通達以下のファイルは1956年に作成されました。
今ではもはや古い表現・内容となっている事に注意してください。ファイル - 1956/03/25
SCP-3000-JP-1。
アイテム番号: SCP-3000-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3000-JPは発見場所に数百年単位で留まっており、収容難度の関係から、本人の意志で留まっている現状を維持すべきというのが現在の見解です。よって、SCP-3000-JPが現在地に留まり続ける事を目標とし、これを達成するために遠隔からの監視が行われています。SCP-3000-JPと直接関わる職員には、穏便な対話によって定期的に情報を得る事が指示されています。
説明: SCP-3000-JPは数十万年の寿命を持つと考えられる、フラヴィアという名の女性です。彼女の容姿は20代前半の人間に似ており、178cmの身長、クリーム色の長髪、青色の瞳、装飾のない白いワンピースを特徴とします。しかしながら人間の基準で考えられる思考体系とは異なる無感情の言動を取るため、彼女と関わった職員のほとんどが「考えを理解できない」という意を示しました。
彼女はSCP-3000-JP-1と定義されたネモフィラ属(Nemophila)に類似する花を生成する能力を持ちます。本人はこれを「ヴィトランシア」という魔法であると呼称しており、彼女がそうしたいと念じさえすれば広範囲にわたって生成できるようです。花弁に触れた者は異常な心理状態に陥りますが、この状態に陥った人物は、幻想的な光景を幻視したり、通常では起こりえない事象を体験したりします。
彼女は日本、石鎚山の、行き来困難な道を越えた未踏の土地におり、SCP-3000-JP-1が一面に咲いた場所で数百年ほど生活しているようです。その動機は明らかになっていません。
インタビュー
概要: SCP-3000-JPは研究補佐員エステリア・セリーヌによって発見され、その後すぐに対話が試みられた。
[抜粋開始]
(SCP-3000-JPは花園に座り、空を眺めている。エステリアが近付く。彼女は息を切らしている。)
エステリア研究補佐員: あなたは…
(SCP-3000-JPはエステリアを見つめる。)
エステリア研究補佐員: (英語で) え ― 英語は話せますか?それとも日本語は?
SCP-3000-JP: (英語で) 人間がここを訪れるのは数百年ぶりだな。何用だ?
エステリア研究補佐員: ええと…私はエステリア・セリーヌ、研究者です。あなたは?
SCP-3000-JP: 私の事は好きに呼ぶといい。困るなら「フラヴィア」と呼べ。人間は私をそう呼んでいる。
エステリア研究補佐員: なるほど、言い伝えは本当でしたか…後でランヴァルドの奴にも教えてやらないと。
SCP-3000-JP: 言い伝え?
エステリア研究補佐員: ええ。「遠き山脈を越えし所、蒼の花園に囲まれし地にフラヴィアなる長命の者在り」と。ここら一帯での伝承です。これだけの文ですが、数百年前から伝わっています。
SCP-3000-JP: それをお前は調査しに来た、と。1人で来たのか?
エステリア研究補佐員: 登山にあたって現地民の協力は得ていますが。
SCP-3000-JP: 「調査」を否定しないという事は、お前はただの物好きな探訪者ではないな。何らかの組織に属している。300年前と違うのは、武器も構えずに1人で来たという事か。
エステリア研究補佐員: ああ…その、ええ、確かに私は組織に属しています。1人で来たのは…あなたが本当に実在するのか分からず、そういった曖昧なものを調査するのに多くの人員を割けなかったからですよ。
SCP-3000-JP: ほう。正しい選択だ、正直な人間は嫌いではない。とはいえ人間の時間は早いものだ、言い伝えも随分と風化している。お前はこの花の事も知らないのだろう。
(SCP-3000-JPは眼前の花園からSCP-3000-JP-1を抜き取る。)
SCP-3000-JP: これは私の生み出せる花だ。人間に夢幻を見せられる。お前も触れてみるか?
エステリア研究補佐員: いえ、結構です。ですが生み出せるというのは…この花園はあなたが創り出したのですか?
(SCP-3000-JPが手のひらを地面に当てると、空間が歪曲し、地面からSCP-3000-JP-1が生成され、急速に生長する。)
エステリア研究補佐員: なるほど。おかしいですね…言い伝えにそんな逸話はありませんでしたが。このような不可思議で重要な事が風化するとは思えません。
SCP-3000-JP: 確かにな。先程「風化した」と言ったが、ああ、それは違うかもしれない。この花目当てで来る大勢の不届き者を私が全員殺してしまったからかもな。
エステリア研究補佐員: 人を殺した事を忘れていたとでも?
SCP-3000-JP: 人間よ、私とお前達の時間は異なる。私はこの悠久な人生において人間を100人屠ろうが、その者らの名や顔を覚える事はない。それが何を意味するか分かるか?
(沈黙。)
SCP-3000-JP: お前達人間にとって私との出会いはこの先の人生を変え得るほど大きな事だろうが、私にとっては落ち葉が風に揺られる事ほどに小さな出来事に過ぎない、という事だ。
エステリア研究補佐員: あなたにとって人間は何も特別な存在ではない、と?
SCP-3000-JP: その通りだ。お前を今ここで殺したところで何も変わらない。
エステリア研究補佐員: な ― なぜ私を脅すのですか?
SCP-3000-JP: お前は組織から来たと言っただろう。300年前、同じような事があってな。ある組織が、私のように特異な者を人間の制御下に置きたかったらしく ― あるいは私の甘美なる花を生み出す能力を欲しがってか ― 大勢の者が武器を携えてこの地へと赴いた。その末路は言わずとも分かるだろう。
エステリア研究補佐員: ええと…あなたの能力は花を生むものですよね?武器を持った者達をどうやって制圧したのですか?
SCP-3000-JP: まさかこの激動の時代を、可愛らしい花を生み出すだけの者が生き残れたと思うか?
エステリア研究補佐員: 理解しました。能ある鷹は爪を隠す、という事ですね。いいでしょう、あなたの本当の能力についてはお話しせずとも構いません。
SCP-3000-JP: 物分かりの良さは賢さの象徴だ。とはいえお前の属する組織もそうであるとは限らない。だから念のため公言しておこう ― 私はこの場所を気に入っている。私からこの地を奪おうとするなら、麓に広がる都市は地図と歴史から名を消す事になるだろう。
エステリア研究補佐員: 伝えておきましょう。ところであなたは随分と長く生きてらっしゃるようですが、どのくらいの寿命をお持ちなのですか?
SCP-3000-JP: たとえここに3000年滞在したとしても問題ないくらいには。
[抜粋終了]
収容提言
私、エステリア・セリーヌは、SCP-3000-JPの現地収容をここに提案します。
財団は過ちを繰り返してきました。繰り返し過ぎました。高尚な使命に囚われるように、財団は収容能わざるを収容しようとし、収容及ばざるを収容しようとしてきました。間近でそれを見てきた者として、見過ごすわけにはいきません。
SCP-3000-JPは社会に毒も薬も与える事なく、ただひとり、人智の届かぬ地で暮らしているだけのわきまえた能力者です。私達が不要な言動を取らない限り、彼女はこの先数百年間、あの場所に留まったままでいるでしょう。私達人間には耐えきれない事でしょうが、長命の彼女にとっては何の苦でもないようです。
特記すべき点として、彼女は私の事を一度も名前で呼ばなかったほか、表情の1つさえ見せませんでした。彼女にとって人間が取るに足らぬ存在である事の証左であり、そこには自身の能力への信頼と、人間との思考の違いが見て取れます。彼女は裁量次第で、私の首をも簡単に切り落とせるでしょう。そうしないのは彼女が敵意を向けられていないからに他ならず、それは「余計な事さえしなければこちらも何もしない」と暗に伝えていると言えます。これを最大限活かすべきです。
恐らく今の財団では、彼女を収容できません。彼女が花を生み出す時、空間が歪んでいました。これは人間をバースデーケーキに変えたり、収容室を大きなクッションに変えたりする現実変容者の能力と同じ類いだと推測できます。財団はこういった存在を制御下に置こうとし、何度も失敗してきました。
よって私は、彼女の真の能力を明らかにし、異常を科学的に解明し、そして収容技術が充分なレベルに達するまで、彼女の管理を遠隔監視のみに留める事を提案します。
SCP財団 サイト-8135 研究補佐員
エステリア・セリーヌ返信: 提案を承認する。君の言う通り、財団は現実変容者に対する収容技術を持っていないのに収容しようとし、そして失敗してきた。同じ過ちを繰り返すべきではない。収容できず、またその必要も無いのなら、警戒は万全にした上で無理に収容しないのも1つの決断だ。ただし、彼女の事を理解するための対話や調査は欠かしてはならない。その任は君に頼もう。
我々は旧い考えに囚われず、常に一歩先を征く。
SCP財団 サイト-8135 サイト管理官
御堂 雄介.
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インタビュー
概要: エステリア研究員はSCP-3000-JPの能力について知るための対話を行った。
[抜粋開始]
(SCP-3000-JPは花園に座り、空を眺めている。エステリアが近付く。彼女はやや緊張している。)
エステリア研究員: どうも。隣、失礼しても?
SCP-3000-JP: お前、どこかで会ったか。
エステリア研究員: エステリアです。
SCP-3000-JP: 確か組織の者だったな。今日も調査か?この山を越えるのは困難だろう。
エステリア研究員: ええ、ですがあなたの事をよく知るという任務が課せられましてね。その任を負ったおかげで研究補佐員から研究員になる事が出来ましたが。ランヴァルドは私より先に昇任した事を羨んでいました。
SCP-3000-JP: そうか。
(沈黙。)
エステリア研究員: …あなたは本当に表情が変わりませんね。感情が無いかのようです。
SCP-3000-JP: 私と会った人間は皆そう言う。私は数十万年を生きるから、その分、感情が薄く引き伸ばされたかのように乏しい。逆に人間は、たった50年しか生きられないから、凝縮された感情を爆発させる。まるで何かに迫られているかのように、火花が「もう少しだけ輝きたい」と煌めくように。
エステリア研究員: なるほど。いつかあなたから笑顔を引き出してみたいものです。
SCP-3000-JP: その野心も人間特有のものだ。私にはそれが分からないが、人間には必要なのだろう。それで、私の何を知りたい?それを調査しに来たのだろう?
エステリア研究員: えー…では、あなたの能力について聞きましょう。なぜあなたは花を生み出す能力を持っているのですか?
SCP-3000-JP: 能力というよりは魔法だな。千年近く前、私が世界各地を旅していた頃、ある者が私の生み出す花を見てそれを「魔法」と述べ、「ヴィトランシア」と名付けた。以来、私はこれをヴィトランシアという魔法だと述べている。人間は特別なものに名前が欲しくてたまらないらしい。
エステリア研究員: よく人前でその魔法を使っていたのですか?
SCP-3000-JP: 花は安心と美の象徴であり、そこにあるだけで場を和ませる。私のように特異な者が社会に受け入れられるには、このような手段が手っ取り早かった。
エステリア研究員: それに、その花は夢幻を見させられる。
SCP-3000-JP: ああ。野心と同じく、人間には夢が必要だ。奴らはどうやら、短く狭い人生の中では生活をおびやかす危機や悲観的な事にしか目を向けられないらしい。そんな者にとって夢幻を見せられるこの花は、もはや大人が目を向けられなくなった幻想を思い起こせる、良き手段だったらしい。
エステリア研究員: 研究用に何束か摘み取っても?
SCP-3000-JP: 好きにするがいい。直接触れた瞬間気を失うから、触れるなら周囲に危険物が無い状態にしておけ。
(エステリアは驚いた表情をしている。)
SCP-3000-JP: なんだその表情は?
エステリア研究員: いえ…アドバイスしてくれるのが意外でした。てっきり、私がヘタを打とうと気にも留めないような方かと。
SCP-3000-JP: ただでさえ短い人生、いちいち怪我などしていたら時間のムダだろう。それに私も万年を生きる者だが、人並みに怪我を負って痛みを感じるし、それはお前達と同じだ。私だって、槍に刺されれば動けなくなる。刺さりさえすれば、だがな。
エステリア研究員: なるほど、あなたの事を少し理解できた気がします。
SCP-3000-JP: そうか、それは良かったな。
[抜粋終了]
付記: 彼女の事を理解できないと思う方もいるでしょう。しかしそう怯える必要はありません。彼女は単純に思考や営みが人間と違いすぎて、私達の思考や経験は彼女にとって興味も共感も喚起しないだけなのです。逆に言えば、例えば「痛み」のように人間と等しくあるものに対しては、アドバイスくらいはしてくれます。
彼女が共感してくれるものや共通点に目を向けてみましょう。そうすれば、もっと理解できるかもしれません。そのための一歩として、この花を研究しましょう。
実験記録
序: SCP-3000-JP-1と定義された“夢幻を見せる花”が人に対しどう作用するかを調査するための実験を行った。
実験内容: SCP-3000-JP-1を数々の職員に触れさせ、その結果を主観的に書き起こしてもらう。
被験者: D-308
結果:
気付けば俺は森林の壁にもたれかかっていた。せせらぎや鳥の鳴き声も聞こえないほど遠く暗い森林だったが、垣間見える青空が自分を見守っているようで、不思議と怖くは無かった。立ち上がって壁に触れると、それが壁などではなく、途方もなく大きな巨木であったと気付いた。見回すと、どの樹木も万年を生きたかのように巨大であった。
森を歩く。道など無かったのに、自然と足は正しい選択をした。やがて俺は1つの大きな切り株がある場所に辿り着いた。何の根拠も無かったが、そこが最果てなのだと確信した。
切り株の中心に何かがある。それは幼い頃に使っていたヘッドフォンだった。まだ鬱蒼とした森が怖かった頃、擦れ合う葉の音が怖くてヘッドフォンを付けていた事を思い出した。手に取ってよく見ると、それは壊れていた。自分は学の無い人間だが、その事が「森を恐れる必要は無い」と暗喩しているのだと理解した。ヘッドフォンはもう必要ないのだ、と。
そう理解してヘッドフォンをその場に置くと、幻は過ぎ去っていった。
考察: フラヴィアが述べたように、この花は確かに幻想的な夢を見せるらしい。昔の人間がこれを好んでいたのも頷ける。とはいえ興味深いのは、この幻が精神病の患者が見る支離滅裂なものではなく、ストーリーのようなものがあった点だろう。
被験者: D-1088(元レベル3研究員 アヒム・N)
結果:
それは虚無と呼ぶべき光景だった。一切の飾りも形もない無の中に、私は立っている。そこには自分の影も、地面と空の境目も、そしてその定義さえも無かった。見渡す限り白しかない光景は、何があるかも見えない暗闇よりも恐ろしく感じた。全てが見える、「何も無い」が見える、希望や可能性すら塗り潰す白、白、白…
私はそれが旧い同僚の見た光景だと直感した。レイラ、ヴィクター、シャオ、アルビア…危険なアノマリーの影響に曝され、もはや身体を動かせぬまま生かされる同僚たちを見て、それを終わらせなければと思った。彼らを秘密裏に終了するため、私は「存在をやめさせる」消却施設へと彼らを運び出し、除却機へ入れた。その時に彼らが見た光景が、これなのかもしれない。
事が露見して降格されても後悔は無かったが、心残りがあった。彼らが上手く旅立てたか。この光景を見て、もしかするとここで苦しんでいるのではと不安になった。狼狽していると、後ろから馴染みある声が聞こえた。
「お前の選択は間違ってなかったよ」
振り返った先には何もいなかった。ただその時、一瞬だけ虚無は白以外の色を見せたと、そう断言できる。
考察: 存在をやめさせる消却施設とは、今で言う玄妙除却施設の事である。彼の行為は規則に反していたが、人道には反していなかった。これが根拠の曖昧な幻想だとしても、そこで見た光景には彼にとって価値があったらしい。人生は時に、正しい事よりも、正しくないかもしれない事が救ってくれる。
とはいえこの花が見せる幻は、人生経験と紐づけられる傾向にある。この幻は、人生のわだかまりや不安を解決させてくれるようなストーリー、と言えるかもしれない。
被験者: ランヴァルド・ユウ研究員
結果:
それは未定義だった。その場所は、人類がまだ名を付けた事のない光景だった。
僕はそれを融彩界Polychromeldと名付けた。
考察: この異様な結果は何だ。この幻は人生経験に関係せず、そしてストーリーを欠いている。人類が名付けた事のない光景、というのも引っかかる。彼はその光景を「あらゆる色が複雑に混ざり合った世界」と述べた後、ただ一言「幻想的だった」と零した。アイツは微笑んでいた。
結論
27回の実験では、ランヴァルドを除いた全ての被験者が、人生経験に基づく物語的な幻を見た。しかし全員に共通したのは、どれもポジティブな効果を与えた事である。この点で精神病患者の幻覚とは異なるが、アフリカではしばしば「誰かが微笑みかけ、優しく話しかけてくる」といった幻覚を経験するケースがあり、そしてその経験者はそれにポジティブな印象を持っている。
SCP-3000-JP-1による幻覚も、そのような幻覚の類型だと解釈して良いだろう。報告書には何かと複雑に異常性が記載されているが、単純に「ポジティブな幻覚」と記載しても良いと思われる。古くなってきた事だし、正式に改稿を行う事とする。
特筆すべきはランヴァルドの事例だろう。明らかにこれのみが奇妙な幻覚だ。実験時期にも何度か赴いてはいたが、また改めて彼女に尋ねる事にしよう。
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RAISA通達以下のファイルは1971年に作成されました。
今ではもはや古い表現・内容となっている事に注意してください。ファイル - 1971/08/19
3/3000-JP LEVEL 3/3000-JPCLASSIFIEDItem #: SCP-3000-JPEuclid
SCP-3000-JP-1。
特別収容プロトコル: SCP-3000-JPはサイト-8135からの遠隔監視によって管理されています。SCP-3000-JPに看過できない変化が訪れた場合に備えて機動部隊がサイトに常駐しています。エステリア研究員は引き続き対話による情報収集の任を負っています。
説明: SCP-3000-JPは数十万年の寿命を持つと考えられる、フラヴィアという名の人型実体です。20代前半の人間に類似した容姿を持ちますが、人間とは極端に異なる経験によって得た異質な思考回路を持つため、会話はしばしば錯誤を生じる事があります。
SCP-3000-JPは、本人が「ヴィトランシア」と呼称する現実変容能力によってSCP-3000-JP-1を地面から生成できます。SCP-3000-JP-1はネモフィラ属(Nemophila)に類似する花で、その花弁に触れた者はポジティブな幻覚を経験します。大抵の場合それは人生経験に基づくものですが、例外もあるようです。
インタビュー
概要: エステリア研究員は幻覚の作用について知るための対話を行った。
[抜粋開始]
(SCP-3000-JPは花園に座り、空を眺めている。エステリアが近付く。彼女の足取りは軽やかである。)
エステリア研究員: こんにちは、ご機嫌はいかがですか。
SCP-3000-JP: 人間流の挨拶は要らないぞ、エステリア。
エステリア研究員: 私の事をやっと覚えてくれたみたいですね。
SCP-3000-JP: そう何度も訪れられては私だって覚える。だがそう喜ぶな、どうせ200年後には忘れているのだから。覚えていられるのはお前が生きている限りに過ぎない。
エステリア研究員: それは残念です、出来る事なら数万年後まで私を覚えていてほしいのですが。
SCP-3000-JP: 数万年もか?ずいぶんと貪欲な奴だ。
エステリア研究員: 何万年も生きる者に名前を覚えてもらえるなんて、これほど素晴らしい事がありましょうか。…それはともかく、本題に入りましょう。この幻を見せる花の事です。これを何人かに触れさせたところ、それぞれが幻想的な光景を幻視しました。
SCP-3000-JP: 昔の人間がこれを好んだのも頷けるだろう。必要ならいくらでも取っていけ。
エステリア研究員: ええ、ですが私の知人、ランヴァルドだけが妙な幻覚を見たのです。
(SCP-3000-JPはエステリアに目線を向けて迫る。)
SCP-3000-JP: 未定義の光景か?
エステリア研究員: は…はい、その通りです。アイツは人間がまだ定義した事のない、あらゆる色の混じった世界を見て、それを融彩界と名付けました。
SCP-3000-JP: そうか。良い響きではないか。
エステリア研究員: …あなたがそこまで興味を示してくれたのはこれが初めてです。なぜ?
SCP-3000-JP: この花が見せる幻覚は、ほとんどが導きを与えるようなものだ。だが稀に、未知の光景を見る事のできる奴が現れる。前も言ったが、人間は特別なものに名をつけて定義したがる。私はそれを好んでいるのだ。
エステリア研究員: あなたに何か好きなものがあったとは意外でした。
SCP-3000-JP: 感情が薄いからといって信念や興味がない訳ではない。私がいつも空や星を眺めているだけだから、それが人間には見えないだけの事だ。
エステリア研究員: では、私はあなたの信念を知りたいです。あなたにとって人間の「定義」という営みにはどういう意義があるのですか?
SCP-3000-JP: 人間は理解できないものに神や運命という定義を与え、理解できる形に変えてきた。それはモノの無為さを損ね、在るべき姿を捻じ曲げる行為とも言える。すなわち、無為に名が与えられる事で人為となる。
エステリア研究員: その言い草だと否定的にも聞こえますが。
SCP-3000-JP: 否定的"だった"のだ。私は名前など必要ないと思っていた。お前達が木々の1本1本に名前をつけないように、私にとって人間も単に「人間」としか映らない。
(ため息。)
SCP-3000-JP: この世にある幻想の光景も、ただそこに在るだけでよいと思っていた。名前など付けたら、想像の余地をなくし、幻想性を失ってしまう、と。そんな想いとは裏腹に、私が世界中を探訪して見つけたあらゆる幻想も、やがては人々に発見され、名付けられた。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: 人間の定義によって幻想を失った地から離れては、まだ見ぬ幻想を独り発見する、そういう日々が続いた。そしてある日、遥か昔に幻想を失った、ある滝を数百年ぶりに訪れた。何の期待もしていなかった、ただの気まぐれだった。だがそこに生じていたものを見て、「名付けにより幻想が損なわれる」という考えが間違っていると知ったのだ。何があったと思う?
エステリア研究員: いえ…想像もつきません。
SCP-3000-JP: 「伝承」だよ。その滝にまつわる伝承が、名付けの由来と共に、何百年も各地で受け継がれていた。それは何の根拠もない話だったが、美しい物語だった。そこで初めて私は、名付けによって幻想が失われるのではなく、新しい幻想が生じるのだと気付いた。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: それ以来、私は世界が解釈される事を受け入れ、自分が定義される事に対する忌避をやめた。それ以降、私がそんな幻想を見たくなって夢幻の花を生み出すようになると、人間はその行為に魔法という定義と、ヴィトランシアという名前を与えた。
エステリア研究員: そして今、フラヴィアという名にも伝承がある。
SCP-3000-JP: ああ。名が与えられた事で、私も人々による語りの一部となった。人間には凝縮された感情があるからこそ、幻想を見て多彩な想いを爆発させ、それを言葉に出来る。私にはできない、美しい行為だ。
エステリア研究員: あなたは、人間が幻想に定義と伝承を与える様を見るのが好きなんですね。あなたの信念を初めて知る事ができました、実に…美しい事ではありませんか。
SCP-3000-JP: だが、1つ疑問に思っている事があるだろう。「なぜ、この花の見せる幻覚のほんの一握りしか、未知なる世界を見せてくれないのか」と。
エステリア研究員: ええ。能力を使う時、あなた自身の手で幻想の種類を操作できるのではと思っていました。
SCP-3000-JP: その答えはノーだ。理由としては、私の能力ではそれを操作するのに不十分なのか、あるいは。
(沈黙。)
エステリア研究員: あるいは?
SCP-3000-JP: 私がそれを望んでいるからなのかもしれないな。
(太陽は既に地平線の下に差し掛かっており、茜色の光が差し込み顔を滲ませている。SCP-3000-JPは太陽を眺めており、その表情を窺う事はできない。)
[抜粋終了]
付記: 彼女にとって、人間が幻想から伝承を生み出す事には大きな興味があるようです。彼女は人間には興味がないようですが、彼女にはできない人間の営みに対する渇望のようなものがあります。科学的な異常の解明と収容技術の上昇は着実に進みつつありますから、私は彼女の真の能力の特定と、心の理解を進めてみます。
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私信
ランヴァルド。財団に入った頃はどちらが先に昇任するか競い合っていたのに、今やあなたの方が遥かに上の立場になってしまった。博士としてやっていけてる?人類の誕生と滅亡サイクルについて調査してるらしいけど、それは順調?O5が研究成果を見に来た時は緊張しなかった?
きっと業務は忙しいのでしょう。私もそうだ、2つのKeter級アノマリーの収容研究に割り当てられて頭がこんがらがっている。これが無事終わったら昇任できるらしい。しかしやはり、お互い忙しすぎて、昔のように美しく輝くものを追い求める心は失ってしまったかもしれない。でも今回メッセージを送ったのは、その心を思い出してほしいからだ。
物語は書ける?あなたには、「融彩界」と名付けた光景をよく思い出して、それがどんな光景で、何があって、何を感じたかを描いてほしい。空想的な物語にしても、自伝のようにしてもいい。好きに書き連ねて構わない。フラヴィアにそれを送りたいんだ。
恐らく必要になるだろうから、花束を私が届けに行く。それを受け取ったら、お互い話をしよう。昔サイトのカフェでよく飲んだエスプレッソでも用意して、語るべき物語を語ろう。
融彩界は、一言で言うなら「この世全ての色が混ざり合った世界」である。水の混じった絵の具を混ぜたかのように、僕を取り囲む一面の色が蠢いていた。それは大きなパレットの球体であり、その中心に僕は立っていた。地面には色がなかった ― あるいは「透明」という名の色がそこにあった。
色の蠢く様がまるで藻搔いているかのようにも見え、僕は動揺した。それらの色は、見た事があるはずなのに、見覚えのないものだったからである。その色を表す言葉も、喩える言葉もこの世には無いと思えた。空しいことに、僕はそれを喩える語彙の1つも持ち合わせていなかった。
もう少しだけ見てもらいたいと言うかのように自己主張する色彩から圧を感じ、目を逸らそうとしても、逸らした先にはまた同じ光景が広がっているのである。しばらくのやるせなさを覚えた後、僕はこれらの色が「人類に忘れられた色」なのではないか、などと思った。
かつてこの世を構成していたが、何らかの理由で姿を消してしまった色彩。今の世界に使われている色彩に混じって、それは蠢動していたのだ ― 事実無根の考察に過ぎないが、僕はそんな物語を想起した。
その瞬間だけ、僕の色褪せた心は、鼓動と共にその輝きを取り戻したと思う。
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研究報告および通知
SCP-3000-JPの分析が進みつつあります。彼女の能力は「幻覚作用を持つ花の生成」ですが、最初の報告で「生成時に空間が歪曲していた」とあるように、そこには現実改変と似た要素が含まれています。当時の報告書には「現実変容力」と書かれていましたが、これはかなり昔の名称です。今ではこの分野の研究が進み、これは「現実改変」と名付けられています。近いうち、ファイルの改稿が必要でしょう。
それはさておき、彼女は現実改変能力者に分類できますが、これには2つの可能性があります。1つは、彼女が単純に花の生成しか出来ないのか。もう1つは、彼女が万能な現実改変者でありながら、それを「花の生成」のみに意図的に絞っているだけなのか。
会話から察するに、後者の可能性が高いでしょう。後者の場合、非常に強力な実体である事が予想できます。エステリア、あなたにはそれを探ってもらいましょう。彼女は能力を隠したがっていますから聞き出すのは難しいかもしれませんが、最も彼女と上手く付き合えているあなたにこの任を託します。幸い時間はたっぷりとありますから、別件の研究が終わってからで構いません。
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インタビュー
概要: エステリア博士はSCP-3000-JPの真の能力を知るための対話を行った。
[抜粋開始]
(SCP-3000-JPは花園に座り、空を眺めている。エステリアが近付く。彼女の足取りは落ち着いている。)
エステリア博士: こんにちは、フラヴィア。
SCP-3000-JP: お前か。見ない間に随分と肌の彫りが深くなったな。
エステリア博士: お久しぶりです。研究が忙しく、中々そちらに赴けませんでした。その代わり、使いの者に手紙は届けさせていましたが。ご覧になられましたか?
SCP-3000-JP: ああ。融彩界についての物語は非常に興味深いものだった。感情の変化に富む人間だからこそ書ける物語と言えよう。ところでエステリア、お前はこの花に触れた事はないのか?
エステリア博士: 立場上、私はそれが許可されていません。私も組織も若かった昔ならその可能性はあったでしょうが…
SCP-3000-JP: そうか。ところで今日はどういう用件だ?
エステリア博士: あなたの本当の能力についてお話しいただきたいのです。
(沈黙。)
エステリア博士: フラヴィア、あなたと初めて会った時、あなたは本当の能力を隠し、私達を脅しました。もう40年近く前の事ですから、覚えていませんか?
SCP-3000-JP: そんな事もあったか。脅しなど、私の性には合わないんだがな。
エステリア博士: あなたが脅してくれたおかげで、こちらも人材を失わずに済んだのですよ。
SCP-3000-JP: お前達のためではない。煩わしい争いなどに時間を割かれたくなかっただけだ。
エステリア博士: 分かってます。それで…あなたのような特異な存在を調査して解明する事が私のいる組織の目的だというのはあなたもお察しの通りです。その調査も終盤に差し掛かっています。
SCP-3000-JP: まだよく調査できていないのが私の真の能力、という訳か?
エステリア博士: はい。組織としてはそれをよく調査したい、との事です。どう切り出すか色々考えたのですが、あなたには遠回しな言い方も通用しませんからね。ストレートに伝える事にしました。
SCP-3000-JP: なるほどな。だがまだ時間はたっぷりある、そう急ぐ必要もないだろう。
エステリア博士: フラヴィア。私の手を見てください。
(エステリアは左手を覆っていた手袋を外す。)
エステリア博士: 若さを奪っていくように手の甲のシミは増え、枯れた花のように肌は萎んできています。それに薬指は…もうありません。これは義指です。別のアノマリーを研究していた時に潰されてしまいましてね。
(沈黙。)
エステリア博士: 人間の時間は短く、そして不変ではありません。あなたがこの花園で空と星を眺めている間に、私は随分と年老いました。指を失い、高い声が出せなくなり、薬が欠かせなくなりました。私には…時間が無いのですよ。
SCP-3000-JP: そうか。お前ももうじきこの地から去るのだな。
エステリア博士: 組織としての解明も大切ですが、私情として、私がここに来られなくなる前に、あなたの事をもっと知りたいのです。あなたの真の能力を教えてくださいませんか?
SCP-3000-JP: エステリアよ。私が人間の感情に左右される事はないと百も承知だろう。それなのになぜそのような事を言う?
エステリア博士: あなたが昔言った通りですよ、フラヴィア。寿命に迫られた人間は、もう少しだけ輝きたいと思うのです。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: お前は本当に年老いたのだな。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: いいだろう。大したものではないが、私の真の能力を見せてやる。
(SCP-3000-JPが手のひらを掲げると、山は地鳴りを始め、鳥が飛び立ち、空間は歪曲し、地面が揺れ始める。)
エステリア博士: これは…
(SCP-3000-JPの近くにある木々はねじ切れて空中に浮かび、発火し、マグマのような形へと姿を変える。それは氷になったり、小さなブラックホールになったり、巨大な瞳になったりする ― SCP-3000-JPが手を握りしめると、それは消滅する。)
SCP-3000-JP: モノの自然性を捻じ曲げ、姿形を自在に変え、創造し、消滅させる。それが私の本当の能力だ。
エステリア博士: …クラスIX現実改変。
SCP-3000-JP: 私はあまりこれを使わないようにしている。自然性を奪うのは本意ではない。
エステリア博士: あなたはこの「何でもできる」能力を、花を生み出すことのみに制限している、と?
SCP-3000-JP: その通りだ。その理由は色々あるが、やはり、ヴィトランシアのおかげかもしれない。言うまでもなく、この能力を使えば、ただのチューリップを生み出す事もできるし、悪夢を見せるバラを生み出す事もできる。昔の私は花を生み出す時、花の種類も効能も指定していなかった。
エステリア博士: 人間が「夢幻を見せるネモフィラに似た花を生み出す」行為にヴィトランシアという名前を与えたから、あなたはその名前に従い、特定の効能、特定の種類の花を生み出すようになった?
SCP-3000-JP: ああ。もし私が無秩序に何かを生み出したり消滅させたりしていたら、人間はそれを定義できず恐れていただろうな。人間は定義できないものを理解できない。定義できたから、当時の奴らも受け入れてくれたのだろう。
エステリア博士: …ふと思ったのですが、あなたはなぜここにいるのですか?聞く限り、数百年前までは幻想を求めて世界中を旅していたのですよね?どうして今はここに留まっているのでしょう?
SCP-3000-JP: 少し前、人間が未知に名前をつけて定義し、理解可能なものにする、という事について語っただろう。私はその行為によって生じる美しい幻想の伝承が好きだった。だが、人間の変化は早い。この世を理解するために神や運命という伝承に頼っていた人間は、いつしか神に代わって科学や理論というものを使い始めた。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: 科学は幻想を理論的に解き明かしてしまう。私はどうにも、その変化についていけなかった。虹が差し、月が欠け、星が消える、ただそこにあるだけで充分なものに体系的な理由がついてしまう事に耐えられなくなり、私は人の世界から離れたのだ。それを決断した地が偶然ここ、日本だったに過ぎない。
エステリア博士: ではあなたは…もしかすると、私達の組織のことも…
SCP-3000-JP: 大丈夫だ、今の人間にはそれが必要なのだと知っている。異常とやらを解明し、理解する試み。お前が私と試行錯誤しながら話すのもその一環だと分かっている。だが覚えておくと良い、理解できないものを理解できないと受け入れる事も時には重要だ。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: 私の寿命が永いこと、私が花を生み出せること。お前達がそれをどう解釈するかは自由だ。だが私は、それに意味なんていらないと思っている。ただそこにある、それだけで充分だ。
エステリア博士: 心に留めておきましょう。ですが…それでもやはり、私のいる組織は解明の試みをやめないでしょう。人生が無意味だと誰もが受け入れられないように、人間は意味のないものを受け入れられないのです。人間には理由が必要で…幻想は、この世界の不可解を理由付けるにはもはや足りないんです。
SCP-3000-JP: そうか。幻想もいつか終わる。
(風の音が止み、静寂が流れる。雲が太陽を覆い隠すと、SCP-3000-JPは空を眺めてため息をつく。)
SCP-3000-JP: 淋しくなるな。
[抜粋終了]
収容提言
SCP-3000-JPの現実改変は、今ではスクラントン現実錨という装置で制御できる異常性です。極端に言えば、現実錨で取り囲んだ収容室に彼女を連れ込めば収容は可能です。当初の目的である「真の能力を明らかにすること、収容技術が充分なレベルに達すること、異常を解明すること」、このうち前2つが達成できる状態になったと言ってもいい状況でしょう。
ただ、私はそれでも、収容すべきではないと思っています。その理由はやはり、収容の必要性が薄いからという一点に絞られます。彼女は花を生み出す以外に能力を使っておらず、人間と関わる事もなく、あの花園に居たがっているだけです。収容できるからという理由だけでそれを奪ってしまって良いのでしょうか?
収容という行為は、これまで培ってきた信頼関係を破壊し、相互理解から程遠い不信の状態にしてしまいます。この50年、私達は遠隔監視のみで実質的な野放しの状態に彼女を置いていました。それで何も問題が生じなかったのですから、このままで良いとは思いませんか?
もちろんタダでとは言いません。花園の周りにいつでも起動できる現実錨を埋め込むなどの措置をとった上で、です。私はここに、現地管理の継続を提言します。
SCP財団 サイト-8135 博士
エステリア・セリーヌ返信: 時に、収容のジレンマは重要な議論の的となる。収容せずとも問題のない生物を収容すべきなのか。「今は問題なくとも後に問題になるかもしれない」と述べる者もいれば、「収容する事で友好関係を失い、その生物が持つ固有の知や文化を知る機会を失くす」と述べる者もいる。
どちらも正しい。収容しないリスクも、収容するリスクも、どちらも容認しがたい。こういった議論が紛糾した結果、どちらに絞る事もできず、今では「時と場合によって対応を変えるべき」という言説が支配的になった。
収容の必要性に疑問を抱くようになった財団はやがて、ArchonやTiconderogaといった収容の不必要性に関連するオブジェクトクラスを開発するようになった。つまり、今の財団には君の提言を承認できるだけの土壌があり、そして私にはそれを決める権限がある、という事だ。
結論から述べよう。私はもう既に、何層もある官僚機構の向こう側にいるO5達と話し合い、君の提言を承認させた。私は収容しないリスクよりも収容するリスクの方が大きいと判断した。彼女の述べた幻想性は、科学で理解能わざるを理解しようとする私達が忘れてはならない概念であり、彼女からそれを奪ってしまえば、私達は世界に根差す重要な何かを1つ失う事になるからだ。
これを承認できるのも、収容せずとも問題なく管理できるような技術力の向上による恩恵が大きい。収容技術の向上が収容以外の選択肢を開拓してくれたというのは興味深いが、ともかくその恩恵に感謝しなければらなないだろう。
それに私達サイト-8135の人間は、他の者に遅れを取ってはならないのだ。前時代的な考えから脱却し、新しきを求める。「我々は旧い考えに囚われず、常に一歩先を征く」という先代管理官の教えを、私は受け継がねばならない。
SCP財団 サイト-8135 サイト管理官
ランヴァルド・ユウ
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RAISA通達以下のファイルは2010年に作成されました。
最新のバージョンです。ファイル - 2010/11/19
SCP-3000-JP-1。
特別収容プロトコル: SCP-3000-JPの住む花園を取り囲むようにして待機中のスクラントン現実錨が12機埋め込まれたほか、上空には現実改変妨害波を照射できる財団衛星が回遊しており、有事の際はサイト-8135の判断でこれらが起動される事となっています。
説明: SCP-3000-JPは数十万年の寿命を持つと考えられる、フラヴィアという名の女性です。SCP-3000-JPは万能型クラスIX現実改変能力者ですが、普段はその能力をSCP-3000-JP-1、幻覚作用のある花の生成のみに絞っています。
私信
時が過ぎるのは早いもので、私はいつしか、"異常を追って解明する研究者"から、"その者らを監督する責任者"の立ち位置になってしまった。フラヴィアとも最近会えていない。異常性の解明がもう間近に迫っているし、私自身も年老いてしまったから、会う機会も無くなってしまった。
ここ最近、ずっと彼女の言葉を反芻している。「私の寿命が永いこと、私が花を生み出せること、それに意味なんて要らない」。彼女にとって世界の幻想はただそこに在るだけで良い、しかしそれは財団の理念に真っ向から反している。彼女の想いとは裏腹に、私は研究プロジェクトの長として、寿命の永さに、花の創造に、科学的な解明を主導している。
それは仕方のないことだ。だが、科学が幻想を解き明かしてしまったと聞けば、彼女は悲しむだろう。ランヴァルドよ、私に何か出来ないものか?
通告
現実改変についての通告です。現実改変はこれまで一部の組織にのみ通用する単語として存在していましたが、今や現実改変に関連する知識は体系的にまとめられ、制御可能で、技術として転化できるモノとしての意義を強めています。ここ最近は、一般社会の学者も自力で現実改変の論理に辿り着くケースがあり、それを封殺するのも無視できないコストになっているほか、封殺する事それ自体の意義が疑問視されています。
そこで私達は、今後50年以内に、現実改変を解明済み科学として正式に公開する事を取り決めました。混乱を招かないために数十年かけて一般社会に明かしていく予定ですが、この取り決めにより400以上のSCPがExplainedクラスアノマリーに再分類されるでしょう。
研究報告
SCP-3000-JP-1についてです。この花の構成物質はある程度分かっていましたが、なぜ幻覚作用があるのかはこれまでよく理解されないままでした。
しかし先日、SCP-3000-JP-1の花弁にある、現実改変によって生じる特殊な微粒子が、人間の皮膚に吸着すると幻覚を見せる電気信号を与える、という機序が明らかになりました。人によって幻覚の種類が異なるのも、その電気信号と対象の脳との相互関係によるものでした。少し前に現実改変が解明済み科学となるという話がありましたが、それに照らし合わせるとSCP-3000-JP-1は科学的に解明できたものとなるので、ナンバリングが解除されることになりそうです。
となると、今後はこれを“幻覚作用のある花”と呼ぶことになりそうですが、これは何とも風情がないとは思いませんか。特別な花に名前が無いというのも変な話ですから、名前を付けてあげるのはどうでしょう?
博士、最も長くこの花と付き合ってきたあなたにこそ、名前を付けてもらいたいです。
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私信
エステリア。確かに科学はいつか全ての幻想を解き明かしてしまうかもしれない。でも僕の仮説では、そうはならない。正式に公開していない仮説だが、君だけにそれを送るよ。
[暗号化済メッセージ,閲覧権限なし]
僕が正式に財団情報誌にこれを公開したら、これはフラヴィアに言ってもいいが、どうだろう?彼女の全てがもうじき解明されるからこそ、これを伝えることには大きな意義があるんじゃないか?
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研究報告
SCP-3000-JPの寿命に関する研究報告です。現実改変者はその能力を用いて身体を若く保っている例があるため、彼女もその一例だと思ってこれまで研究が続けられていました。しかしそれは誤りだったようです。
彼女の肉体は普通の人間とは異なる特殊な細胞で構成されており、周期的に一定の状態へ自己修復する性質を有している事が分かりました。これを可能としている細胞内構造体がペルシオームという液状の物質なのですが、これはエルフや妖精、ドラゴンのような長命種にのみ見られるものです。
要するに彼女は現実改変で長命を得ている訳ではなく、他の長命生物と同じ方法で長命になっているだけです。更に言えば、人間とは異なる知性種族については混乱を招くため一般社会には存在を公開していませんが、公開していないというだけで、ペルシオーム関係の知識は非異常なものです。
つまりSCP-3000-JPの長命は、全く異常ではない原理によって成立しています。
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私信
ランヴァルド、あなたに頼って正解だった。あなたの美しきを見る心は未だ色褪せてなどいない。
私も最後の火花を輝かせようではないか。
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評議会より通達
エステリア・セリーヌ殿
SCP-3000-JPに関する研究プロジェクトの指揮、大変お疲れ様でした。半世紀以上にもわたる研究は財団でも稀なものであり、その道は前途多難であった事でしょう。あなたの忠誠と能力に感謝します。
さて。私達O5評議会が少し前に、現実改変を含むいくつかの超常知識を解明済み科学として一般社会に公開していくと取り決めたことはご存知かと思います。この取り決めは、一般科学の進展および収容資産の逼迫を主な要因としますが、ともかくこの事項により、決して少なくない数のSCPがExplainedクラスに再定義される事になりました。
それに関し、先月あなたから送付された研究報告書には、SCP-3000-JPの長命や現実改変能力は将来的に非異常となる科学で説明可能であるとの旨が記載されていました。よってSCP-3000-JPを今後Explainedアノマリーとして再分類し、3000-JPスロットを空けることをここに通告します。また、将来公開される予定となる改訂報告書の草稿を近日中に作成し、RAISAによる審査を受けることを指示します。
SCP財団 評議会員
O5-8.
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私信
彼女に会う。これで最後だ。
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インタビュー
概要: なし。
[抜粋開始]
(SCP-3000-JPは花園に座り、空を眺めている。エステリアが近付く。彼女は車椅子に座っており、若い男が車椅子の持ち手を握って前へ動かしている。)
エステリア博士: お久しぶりです、フラヴィア。
SCP-3000-JP: エステリア。
エステリア博士: いつ来てもあなたは変わらないですね。こうやって歳を取ると、あなたと私は違うのだと実感します。
SCP-3000-JP: 急にどうしたのかは知らないが、まあいい。今回の要件は何だ?
エステリア博士: 何もありませんよ。
SCP-3000-JP: ほう?
エステリア博士: ただあなたに会いに来ただけです。少し歩きませんか?
SCP-3000-JP: いいだろう。
(歩き始める。しばらく両者の間には沈黙が流れ、風の音だけが響いている。)
(風が止む。)
エステリア博士: 私がまだあなたの事をよく知らない若い頃、雑談を試みたのを覚えていますか。
SCP-3000-JP: 話が噛み合わなかったな。あれやこれやと話をして、結局お前は「人間とは経験や思考が異なるから雑談が通じない」と結論付けた。
エステリア博士: ええ。ですが今日はまさに…その“雑談”をしにきたと言っても良いでしょう。今日の目的は研究や対話ではない。
SCP-3000-JP: 雑談ともまた違うだろう。お前の表情を見ると、何か伝えたいことがあるように感じる。
エステリア博士: …あなたはやはり、何でもお見通しのようだ。ええ、実は今日、あなたにお別れを告げるために来たんです。
SCP-3000-JP: そうか。
エステリア博士: 私はもう70歳を超えています。最初の頃は異常なものに引き裂かれて死ぬのかと思っていましたが、幸運にもそんな事はなくこの歳まで過ごすことが出来ました。ですがもう老いて足は思うように動きませんし、若い人たちより生産的には働けません。まだ流暢には話せますがね。
(沈黙。)
エステリア博士: 私はキリのいいところで一線を退き、隠居することにしました。最後の仕事を終わらせたら、あなたに会うことも無くなる。ですから、挨拶を済ませておくことにしました。…ええ、分かっていますよ。あなたは私が挨拶に来ようが来まいが気にしないでしょう。ですが人間にとってはそうではありません。人間にとって今生の別れとは、言葉を交わすべき出来事なのです。
SCP-3000-JP: 人間は面倒な生き物だな。
エステリア博士: 全くです。しかし、私達にはそれが必要なのでしょうね。
(やがて、夕日のよく見える位置に辿り着く。)
SCP-3000-JP: ところで、最後の仕事とは何だ?
エステリア博士: あなたに関する情報の更新です。私達があなたを解明しようとしている事はご存知でしたよね。それがもう終わり、情報も更新しなければならなくなりました。
SCP-3000-JP: 終わったのか。私にとっては短い間だったが、お前達にとっては一生をかけた試みだったようだな。しかしそうか、解明してしまったか。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: 科学は幻想を解き明かしてしまう。それが私にはどうも受け入れられない。前もこの話をしたよな。
エステリア博士: ええ、よく覚えていますよ。残念なことに、あなたの寿命が永い理由も、花を生み出せる理由も、花が幻覚を見せる理由も、私達は科学的にひも解いてしまいました。あなたについての調査もここで終わりです。
SCP-3000-JP: そうか。
(沈黙。)
SCP-3000-JP: 幻想の時代は終わったのだな。
(SCP-3000-JPは目を瞑って腕を組む。風が吹き、そして止む。)
エステリア博士: …今日はまさにそれを話したかったのです。幻想はまだ終わらないという事について。
SCP-3000-JP: 何?
エステリア博士: ランヴァルド=ユービス仮説、通称「60000年仮説」についてお話しましょう。
(沈黙。)
エステリア博士: これは、ある時期に存在していた人物が死んだ後、顔も髪色も、性格も姿も言語も名前も、完全に同一と言っていいほど同じ人物が1人生じるまでに6万年かかる、という説です。知っての通り、私達の社会は常に変わり、言語は数百年で刷新され、肉体の形も性格も時代によって変わっていきます。
(沈黙。)
エステリア博士: 私達の社会が今のままならば、同一と見做せる人物は何万年経っても生じ得ません。しかし、そうではないのです。数千年も経てば、いつか人類の数は減り、姿形を変え、地球から去るか、電脳化するか、あるいは滅亡することで地球の支配種から去ります。そして猿が人類へと進化するなどの形で別の種が地球を支配し、社会を形成し…つまり、ループするという事です。
SCP-3000-JP: 人類の誕生、支配、滅亡が周期的な現象だ、と?
エステリア博士: その通りです。それを何度も繰り返して6万年経った時点でやっと、6万年前にいた人間と同一の存在が1人だけ生じるのです。あなたのその永い永い人生なら、6万年後の私に出会えるかもしれません。
SCP-3000-JP: しかし、その確率は天文学的なものだろう。ただでさえお前と同一の人間が生まれる確率が何兆分の一であるし、そして更にその人間が私の元を訪れる確率となると想像を絶する確率だ。ほぼ0と言っていい。それをお前は信じているのか?
エステリア博士: これはもう幻想の領域にある話で、私がそれを信じない事はお分かりでしょう。ですが、それを私が信じないからといって、あなたにも信じて欲しくない訳ではありません。
SCP-3000-JP: なるほどな。
エステリア博士: それに重要なのは、その6万年の間に体系化してきた言葉は消え失せ、私達が現実改変と呼んできたあなたの能力が再び「魔法」と呼ばれる時代がやってくる、ということです。幻想はまだ終わってなどいません。
SCP-3000-JP: そうか。
エステリア博士: 信じるかどうかはあなたに委ねます。ともかく、あなたにはこれを伝えておきたかった。科学は幻想を解き明かすのではなく、幻想の先にある深遠なものを見せてくれるのだ、と。それだけです。
(沈黙。)
(SCP-3000-JPは何かに気付いたのか、ため息をついて夕日を眺める。)
SCP-3000-JP: お前の意図が分かったぞ。狡いやつだ、今生の別れだと言っておきながら。謀ったな。
(エステリアは微笑む。)
エステリア博士: 人間はずる賢い生き物ですから。
(風が強くなり、目を細めながら夕日を眺め、鳥の鳴き声をただ聞いている。やがて夕日は地平線の下へと差し掛かる。)
エステリア博士: まだ夕日が沈んでほしくないと思うのも、私だけなのでしょうね。ですがたとえ伝わらないとしても…想いを口に出すことに意義があると、最近になって気付きました。
SCP-3000-JP: 何も言うまい。私が何を言っても、興醒めなだけだな。
(エステリアは微笑んでいる。夕日の半分が地平線の下へと沈み、夜の雰囲気が次第に醸し出されていく。)
エステリア博士: そろそろ行きます。次にあなたの元を訪れてお話しするのは、車椅子を引いている私の部下になるでしょう。レンディールと言います、宜しくしてあげてください。
(若い男、レンディール研究補佐員は深く頭を下げる。)
SCP-3000-JP: 分かった。
(レンディールは車椅子を動かし、帰り道の方向へと向ける。SCP-3000-JPは2人の方を向く。)
エステリア博士: 数十年間、ありがとうございました。それでは。
(車椅子が動き、その場から離れ始める。)
エステリア博士: さようなら。Good-bye.
SCP-3000-JP: ああ。
(踵を返す瞬間、SCP-3000-JPは笑みを浮かべた。)
SCP-3000-JP: さよならだ。See you.
[抜粋終了]
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RAISA通達以下の文書は審査中です。
審査通過後、財団内に公開されます。
SCP-3000-JP-EX
アイテム番号: SCP-3000-JP-EX
オブジェクトクラス: Explained
特別収容プロトコル: SCP-3000-JP-EXは石鎚山に留まることを望んでおり、それを尊重しつつ一般社会から隔離するため、バリケードと待機中の現実錨に囲まれています。サイト-8135はSCP-3000-JP-EXを監視しています。
説明: SCP-3000-JP-EXはフラヴィアという名の、数十万年の寿命を持つクラスIX現実改変能力者です。これらの異常性は解明済み科学によって説明可能なものであることから、Explainedクラスに再指定されました。
SCP-3000-JP-EXは能力の範囲を、幻覚作用を有する花の生成のみに絞っており、その花が一面に咲いた花園の中心で空や星を眺めることを好んでいるようです。
エステリア・セリーヌ博士は、この花を啓密花Unveilabloomeと名付けました。
啓密花。
啓密花。



