[以下はSCP-3011とのインタビューの録音と映像の転写]
インタビュー対象: 以下においてSCP-3011-1、SCP-3011-2、SCP-3011-3、SCP-3011-4と呼称されるSCP-3011の実例4体。
インタビュアー: カーソン博士
前書: SCP-3011の実例4体とのインタビューが実施された。これは最初のインタビューがSCP-3011の気まぐれな性質によって中断されているためにSCP-3011との2回目のインタビューの試みとなる。
<記録開始>
カーソン博士: あなた達はどこから来たのですか?
SCP-3011-1: あのな、オレたちゃウチから長い道のりを来たのさ、ボウズ。分かるか、荒ぶる海で生まれたんだよ。オカにゃ上がらねえ、少なくともそのつもりは無かったさ。
SCP-3011-2: そんで今ここにいるの。
カーソン博士: なるほど、ですがどうやってここまで?
SCP-3011-1: おメエらが連れてきたんじゃねえのか? 鉄とデンキの船で?
SCP-3011-2: 前はそこ。今はココ!
[SCP-3011の全実例が興奮した様子で踊っている様に見える。]
カーソン博士: ええ、あなたにとっての船ですね? ですが最初の質問に戻りますよ、我々があなた達を我々の「船」に乗せる前のことです。どうやってここまで来ましたか? この地上まで? 泳いで来たのですか?
SCP-3011-1: オレたちみんなが泳げるわけじゃねえのさ、ボウズ、でも航海はできる。
SCP-3011-2: その通り、航海よ!
SCP-3011-3: ボクらは長いこと航海してきたのさ。アンタが赤ん坊だったそれより前から。ママのオナカの中の卵だったその前からね。
カーソン博士: 航海ですね? 何に乗って航海したのですか? あなた達は航海するには小さすぎることはありませんか?
SCP-3011-1: 小さすぎる、だってよ。[SCP-3011-1が笑うのが聞こえる。]
SCP-3011-2: そういうでしょうね、カレは。「船長のお仲間」は海で生きるには軟弱すぎるわ。
SCP-3011-3: ボクらは航海してきたのさ! 丸太で。葉っぱで。浮き荷に投げ荷で。
SCP-3011-2: ボートでも、よ。ホントの船を忘れないでよ。
SCP-3011-3: そりゃ後で手に入れたものでしょ。ボートで始めたわけじゃないよ。
[全てのSCP-3011実例が互いに頷き合う。]
カーソン博士: ボートは後から手に入れたものだと? どうやってボートを手に入れたか説明できませんか?
SCP-3011-2: ワタシはまだ乗組員じゃなかったわ。アンタら知ってる? [他のSCP-3011実例の方を向く。]
SCP-3011-1: いんや。そりゃオレが海にいたときより前だな。
SCP-3011-4: ワシの時だな、兄弟。ワシらは最初のボートで航海してたときそこにおった。
[SCP-3011実例とカーソン博士の間に長い沈黙が流れる。]
SCP-3011-4: ワシらはそん時ただの若いトカゲだった。ほんの船乗り小僧さ。
SCP-3011-4: 冷てえ海藻のベッドで漂ってた。
SCP-3011-4: そこに、おメエのお仲間達が通り過ぎてった。海を漕いでってな。
SCP-3011-4: 密航ってヤツをした。そいつらの籠ン中に隠れた。
[SCP-3011-4は頷く。]
カーソン博士: ならこれをはっきりさせて下さい。あなた達は木で小さないかだを作り、それから実際の船に何とか乗り込んで籠に隠れたと…。籠から船まではどうやって行ったのですか?
[全てのSCP-3011実例が一斉に笑う。]
SCP-3011-1: オレ達は船は作らねえよ、ボウズ。航海する。船員なのさ。
SCP-3011-3: ボクらは海が持ってきたものに乗ってくんだよ。
SCP-3011-4: おバカさんに正直に言うとな。ワシの話にゃいくつか曖昧なとこがある。
SCP-3011-4: ワシらはカヌーに飛び乗り、鯨を探す捕鯨船を漕いでった。アレは間違いなく…。
SCP-3011-2: 航海の前かしら?
カーソン博士: あなた達の話はかなり興味深いですね。でも籠の中の隠れん坊から実際に航海してる船へ移ったか説明していませんよ。
[この時点で室内のドア付近に立っていた守衛が袖を直し、錨のタトゥーを露わにする。SCP-3011の全実例が気づく。実例達は激しく踊り始める。]
SCP-3011-1: オイオイ…見たか…。
SCP-3011-2: クジラを狩りに波に乗るわよ!
[SCP-3011の全実例が激しく踊り続ける。SCP-3011-4は尻尾を切り落とす。]
SCP-3011-4: 籠は船の上にあった。んで船の上にワシらはずっといたのさ。カヌーに、イカダに、オール船に。
カーソン博士: 落ち着いて! どうか落ち着いて!
[SCP-3011-4の尻尾は落下し再生を始める。直後、SCP-3011の全実例が尻尾を切り落とすもすぐに再生し始める。SCP-3011由来の全ての”踊り”が激しくなる。SCP-3011の尻尾はすぐに新たなSCP-3011実例へ再生し始める。]
SCP-3011-4: 総員甲板へ集え! 総員甲板へ集え!
SCP-3011-3: 嵐が起こる! 嵐が来るぞ!
カーソン博士: [カーソン博士がSCP-3011の新たな脚を成長させる尻尾に口で反応し、立ち上がっている様子が聞き取れる。] クソ、クソ! こんなことファイルに無かったぞ!
[切り落とされた尻尾は今や完全にSCP-3011の新たな実例となっている。実例達はオリジナルの実例達の歌うコーラスに加わる。歌は正確に2分で止まる。航海に関する会話が後に続く。SCP-3011の第二世代から更に尻尾が落とされている。]
SCP-3011-4: [SCP-3011がカーソン博士へ話しかける。] 小僧、台風の目を通ったことはあるか?
カーソン博士: [カーソン博士が反応するまで数秒の沈黙がある。] …いや?
SCP-3011-4: おメエは凪いだ所に向かって雨、風、嵐のベールを通ってくのさ。静かな所だ。周りの世界の全てがうるさく吠えるがな。
[この時点で、SCP-3011-4が船乗りの口調では無くなったことが記録される。]
SCP-3011-4: そこには数時間いるかもしれない。数分かもしれない。
SCP-3011-4: だが出口は一つだけだ。
[SCP-3011の他の実例は踊り続ける。職員は状況を「渦巻く嵐の海の様だ」と述べた。実例達の背中の模様が様々な色を呈して光り始める。]
[SCP-3011の実例の多くは増殖を続け既に少なくとも部屋の半分を埋め尽くしている。]
SCP-3011-4: 小僧。聞いているか? [SCP-3011-4は他のSCP-3011実例のいない場所にいる事から、発言はカーソン博士へ向けられた様である。]
[カーソン博士は沈黙している。職務中の守衛がドアを開けようとしているのが見えるが、試みは失敗に終わる。]
SCP-3011-4: 小僧、聞こえるか。理解しているか?
[天井にいる他のSCP-3011実例から尻尾が落下し、SCP-3011の完全な実例となってカーソン博士の上に着地する。カーソン博士が払いのける時、実例がスペイン語で不明瞭な言葉を叫ぶのが記録された。]
SCP-3011-4: お前は嵐の目に来る必要がある。
[ドア付近で守衛が逃げ遅れたSCP-3011実例に向けて火器を使用し始める。]
SCP-3011-4: 泳がないなら沈むだけだ、博士。
[職員はこの時のSCP-3011-4がハリケーンの中の嵐の目の様だったと推測した。守衛はこの時点で群がるSCP-3011実例の重量のために押し潰されていた。]
SCP-3011-1-3: さあ吹いた、風だ嵐だ! 気の向くままに行くぞ。もう心地よい演奏会を聞くためにイギリスの岸にいることはない。1万マイル彼方の自分の本当の愛を目指しているからね。
[SCP-3011-4はカーソン博士に向かって這い上がる。]
SCP-3011-4: 泳げ、ボウズ、泳ぐんだ。
[カーソン博士がSCP-3011-4へ向けて歩いて行くにつれ、SCP-3011実例の話す言葉の断片が聞こえてくる。]
SCP-3011-???: 彼女がぶつかってくる前に港を
SCP-3011-???: 氷が多すぎる! いくら何でも―
SCP-3011-???: 風に吹かれて行こう! 風に吹かれて行こう!
SCP-3011-???: 座礁しているぞ!
[カーソン博士がSCP-3011-4の元へたどり着く。インタビュー用のテーブルがSCP-3011の大群の上に穏やかに”浮いて”いる。]
SCP-3011-4: しっかり掴まれ。まだこれを通り過ぎたわけじゃない。
[インタビュー室のドアの構造的完全性が崩れる。回収されていないカーソン博士を含め、結果として7名の犠牲者を出す収容違反となる。音声ログはSCP-3011の声にかき消された。]
<記録終了>
終了宣言: 結論: 当時職務中の守衛の検死で数体の死亡した、あるいは生存状態のSCP-3011実例が肺、咽喉、胃から発見された。