特別収容プロトコル: 鯨類(Cetacea)が生息する海域に無人海底探査ドローンを派遣し、鯨骨生物群集の発生を監視してください。調査結果を元に海底探査船を誘導し、天然の鯨骨生物群集の発見および有人探査を妨害してください。大規模な海難事故が発生した際は推定される沈没地点に無人海底探査ドローンを派遣し、SCP-3011-JP-1が発見された場合機動部隊-み-6("エイハブ船長") を派遣して収容してください。民間人の居住地域付近に鯨類が座礁した際、当該個体が瀕死である場合には近海での死亡を妨害するため必要に応じて殺処分してください。死体は埋設あるいは海洋投棄を行い、死亡地と死体の距離を確保してください。
説明: SCP-3011-JPは鯨骨生物群集における霊体環境です。後述する事案記録以前にはSCP-3011-JPに生息するイカの一種が当番号に指定されていましたが、事案記録を受けて行われた実験記録-07を受け、鯨骨生物群集における特異な霊的および生物的環境を包括してSCP-3011-JPと再割当てし、鯨骨生物群集に特有の生物種の内異常性を持つものをSCP-3011-JP-a群と再分類しました。
SCP-3011-JP-1は鯨類1を由来とするクラスCレベルⅢ2以上の霊的実体群の総称です。生物を元とした霊的実体は元となった生物が消費する物体や生物の霊体をエネルギー源とする他、活動量に比例してエネルギーを消費するため、クジラのような大型生物がレベルⅢ霊的実体として活動することは極めて難しいと考えられています。これにはカルマ則によって大型肉食生物であるクジラの霊体は巨大になり、巨大な霊体を活動させるために必要なエネルギー量が莫大になることも影響します。SCP-3011-JP-1は自らが死亡した後に形成される鯨骨生物群集の海棲動物に由来する霊体を捕食することで存在を維持しています。これについては財団海洋学部門より以下の説明がなされています。
霊体学畑の研究者と話す機会に頻出する質問に、日光が届かない無光層には霊的実体が多数生息しているのではないか?というものがあります。日光を忌避するエクトプラズムの性質を考えれば当然の疑問です。意外に思われるかもしれませんが、無光層にはほとんど霊的実体は見られません。
これは海棲型霊的実体は餌が豊富な環境で選択的霊体化を起こす傾向にあるためです。つまり、日光が届かないために基礎生産者が不在で、霊体が宿ることのないデトリタス3に支えられている無光層の海棲生物は霊体化を起こしたとしても霊体生物ピラミッドの最下層を欠いた状態となり、すぐに消失してしまうということです。
この例外となりうるのが熱水噴出孔や鯨骨生物群集といった莫大な栄養源です。これらの周囲には無光層には稀となる量の生物群が集まることで、霊的実体のエネルギー循環が活発になり、頂点捕食者の霊体を支えられるだけの霊体ピラミッドが形成されると考えられます。
しかし天然の鯨骨生物群集は発見例がわずか8件しかないため財団による充分な観察を経ておらず、人工的に作成された鯨骨生物群集も既に死亡した座礁クジラを利用するため霊体の発生地と離されており、SCP-3011-JP-1の発見につながることはありませんでした。
SCP-3011-JP-a-1はホタルイカモドキ科(Enoploteuthidae)に属するイカの一種です。既知の鯨骨生物群集に特有の生物種の内、2015年時点で唯一確認されている異常性を持つ生物です。SCP-3011-JPの性質から他に異常性を持つ生物が存在する可能性を鑑み、異常性を持つ生物種を包括してSCP-3011-JP-a群として指定されています。SCP-3011-JP-a-1は眼発光器の霊的発光を用いて霊的実体を探知でき、霊的実体からの逃走反応を見せたことから敵対的な霊的実体からの逃走を目的に霊的実体を探知する能力を進化させたと推測されていました。事案記録を受けSCP-3011-JP-a-1はSCP-3011-JP-1からの逃走を目的として進化したと考えられています。

ハルトマン霊体撮影機によって撮影されたSCP-3011-JP-1
事案記録: 201█年2月7日、ホエールウォッチングを行っていたクルーザー船████が沈没し、20名が死亡しました。「ザトウクジラの幽霊が襲ってくる」という内容の無線通信に興味を抱いた財団が現地を調査した際、推定体長25mのザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)に類似したクラスCレベルⅣ4霊的実体を確認しました。当該実体はnPDNを用いて成功裏に収容され、船舶事故に対してはカバーストーリー「飲酒運転による事故」を流布しました。
この事案を受け当該海域の調査を行った結果、海底にザトウクジラの死体および鯨骨生物群集の形成を確認した他、SCP-3011-JP-a-1が多数確認されました。SCP-3011-JP-a-1が鯨骨生物群集に特有の種である可能性および鯨骨生物群集の特異な環境が選択的霊体化を促進する可能性を鑑みたSCP-3011-JP収容チームは人工的に鯨骨生物群集を形成する実験を提案、承認を受けて以下の実験を行いました。
実験記録: 鯨骨生物群集におけるSCP-3011-JP-a-1の生態観察および鯨骨生物群集の霊的環境の観察のため、成体のザトウクジラを海底に沈設しました。
実験記録-07
目的: 鯨骨生物群集におけるSCP-3011-JP-a-1の生態観察および鯨骨生物群集の霊的環境の観察
実験内容: 成体のザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)のヒレを切除し、海底約300mに沈設する。
結果: ザトウクジラの死亡が確認された直後、ザトウクジラを由来とするクラスAレベルⅠ霊的実体5を確認しました。当該実体は鯨骨生物群集の形成までは活動性を見せませんでしたが、腐肉食期の鯨骨生物群集が形成され、多種の小型霊的実体の発生とともに捕食行動6を開始、実験開始から█ヶ月後、クラスCレベルⅢへの霊体変質を確認しました。クラスCへ至った当該実体は獲得した作用力を用いて周囲の生物を殺害し、殺害した生物の霊体を捕食する行動を見せています。現在鯨骨生物群集は化学合成期に至っており、当該霊的実体はエネルギー源となる霊体の不足により弱体化を見せています。死体に残された有機物の消費によって懸濁物食期に至った場合、当該霊的実体のエネルギー不足による消失につながると考えられています。
実験開始から█日後、腐肉食期の鯨骨生物群集の形成とともに多数のSCP-3011-JP-a-1を確認しました。主に腐肉食性の端脚類(Amphipoda)を捕食している様子を確認されています。前述の霊的実体からは明確に逃走する様子を見せています。
考察: SCP-3011-JP-a-1の霊視能力は鯨類の霊体からの逃走のために進化したと推測されました。これを受けて鯨骨生物群集における霊的環境の特異性が財団海洋学部門の関心を引き、鯨骨生物群集における霊的環境は包括してSCP-3011-JPと再分類され、SCP-3011-JPにおける鯨類由来の霊的実体をSCP-3011-JP-1に分類しました。
補遺: 実験結果を受け事案記録を精査した結果、当該事案におけるSCP-3011-JP-1が実験時よりも有意に大型かつ攻撃的であったことが発覚しました。これを受けて行われた調査により、事案記録の█日前に死者█名の海難事故が付近の海域で発生しており、SCP-3011-JP-1はこれによって発生した人型霊的実体を捕食することで霊体変質を引き起こしたと考えられています。
カルマ則によって霊体の質量は、その所有者が持つ利己本能・自己保存本能の強度を反映し、ヒトの霊体質量が全生命体の中で最大であることからSCP-3011-JP-1にヒトの霊体が捕食された場合、生存に必要な量を大幅に上回るエネルギーを獲得し霊体変質を引き起こすことで危険な霊的実体の発生が予測されます。これを受けて特別収容プロトコルを改訂し、SCP-3011-JP-1とヒト霊体の接触を防止しています。