
SCP-3019-JP。宿主細胞の細胞間に菌糸を伸ばしている。
特別収容プロトコル: SCP-3019-JPは現在、野生絶滅したと推測されています。SCP-3019-JP-1の栽培は標準植物栽培プロトコルに従ってください。異常性発現の閾値を超える大規模栽培あるいは捕食実験にはセキュリティクリアランスレベル2以上の職員二名以上の許可が必要です。
説明: SCP-3019-JPはエピクロエ属(Epichloë)に属する真菌の一種です。生存しているSCP-3019-JPが██g/m3以上の密度で存在する場合、不明な機序によって水に対する引力を発生します。この引力はSCP-3019-JPの密度に比例して強くなり、後述するイネ科(Poaceae)植物との共生時においては生息地の地盤における地下水を緩徐に誘引して生育適湿の範囲を逸脱しない程度に根圏への継続的な水分供給を行いますが、財団による過密生育実験においては地下水の急激な誘引によって最大で2m程度の球状の領域で土壌中の水分が飽和しました。
エピクロエ属真菌はイネ科植物と内部共生するように進化しており、宿主の成長と同期して細胞間隙に菌糸を伸ばし、これによって宿主は病原体への抵抗性を獲得します。加えてエピクロエ属真菌は代謝産物として、草食動物に対する毒素あるいは摂食抑制剤1を産生し、宿主を食害から保護します。これらの非異常な利益に加えて、SCP-3019-JPと共生している植物は水への引力を獲得することで地下水を誘引することが可能となり、乾燥地帯や乾季において生存に有利となります。
SCP-3019-JPは共生するイネ科植物の他に、ハナバエ科 (Anthomyiidae)に属する一部のハエとも共生関係を構築します。ハナバエ科の一部のハエはエピクロエ属真菌の菌糸に産卵し、幼虫はこれを餌として生活しますが、この際成虫はエピクロエ属真菌の子嚢胞子を体に付着させるため、植物個体間の水平伝播を媒介します。SCP-3019-JPにおいてはこれによってハナバエに付着した胞子の一部はハナバエの体内で発芽し、成虫の体内での水分保持を助けます。
旧リヴィジョンにてSCP-3019-JPと指定されていた突発的な流砂の形成現象は、SCP-3019-JPが好適宿主でないニクバエ類に寄生した結果生じるものと確認されました。以下に旧リヴィジョンに記載されていた発生機序を転記します。
1. 鳥アスペルギルス症に類似した症状を呈したツバメが死亡する。
2. ニクバエ類と思われるハエが当該死体に集合し、産卵を行う。
3. ツバメの死亡から3時間程度経過すると、集合したニクバエ類およびその幼虫の蠢動と同期して死体の周囲の地盤が微細な振動を起こし、地盤が液状化し始める。
4. 地盤中の砂や泥を含んだ地下水が噴出し、ツバメの死体が沈没する。以降1時間程度をかけて流砂が形成される。
上記の現象は以下に述べる機序によって説明可能です。
SCP-3019-JPと共生したハナバエを肉食動物が捕食した場合、通常は消化管での分解あるいは免疫によってSCP-3019-JPは死滅しますが、免疫力の低下などの副次的な要因が存在する場合、SCP-3019-JPが生存した状態で細胞間隙に感染することがあります。1. における鳥アスペルギルス症を発症したツバメは免疫力の低下によりSCP-3019-JPあるいは他の真菌類によって感染症を発症した個体であり、SCP-3019-JPの中間宿主として働いているものと推測されます。
真菌の至適温度は20~30℃程度であり、多くの場合捕食者の体温はそれよりも高いため、感染したSCP-3019-JPが異常性発現に必要な量まで増殖することはありません。一方で当該捕食者が死亡し、体温が至適温度まで下がった場合にはSCP-3019-JPは増殖・胞子を産生します。この段階において、捕食者の死骸をニクバエが捕食した場合、ニクバエにSCP-3019-JPの胞子が付着しますが、この際SCP-3019-JPは好適宿主であるハナバエと異なり、盛んに発芽・増殖します。これによりニクバエの体内で過剰に異常性が発現し、水への強い引力が発生します。この段階でニクバエは動物死骸中に含まれる血液などの水分に引力によって固定され、正常に飛行することが困難となります。
3. で観測されたニクバエ類と地盤の振動の同期は当該ニクバエ類がSCP-3019-JPによって水への引力を発現していることに由来します。水への引力を発生している多量のニクバエが死骸の周囲で飛行・蠢動することにより、地下水の振動及び誘引が引き起こされ、これは当該地点において地盤の液状化現象を引き起こします。これにより流砂が生成され、砂を含んだ泥水が噴出すると、異常性を発現しているニクバエは水への引力により引き寄せられることで飛行して脱出することが出来ず流砂に沈没します。
この異常性はSCP-3019-JPが死滅するまで継続するため、沈没した多量のニクバエに寄生しているSCP-3019-JPによって流砂内の水が保持され、水の自然な流出が妨げられます。
発見経緯: SCP-3019-JPは旧リヴィジョンにおいて、鳥アスペルギルス症に類似した症状のツバメ(Hirundo rustica)が流砂生成現象の発生に関わっていると推測されたために行われた関連真菌類の過密生育実験において、流砂生成の直後に流砂内で採取されたニクバエ類が保有していたSCP-3019-JPに水への引力を発生させる異常性が確認されたため発見されました。その後の生育実験においてハナバエとの共生関係や低確率での捕食者への感染が確認され、隔離環境下での再現実験において上記の流砂生成機序が確認されました。
発見以降に行われた生育実験において、SCP-3019-JPは多種のイネ科植物と共生関係を構築することが確認されましたが、野生下の生息地は未特定でした。
流砂生成現象においてほぼ確実にツバメの死骸が発見されることから、ツバメの生息地あるいは越冬地に野生下のSCP-3019-JPが生息していることが推測されたため、2003年に大規模なツバメの追跡調査が行われ、インドネシアのスマトラ島南部において野生下のSCP-3019-JPが発見されました。当該地域ではイネ科植物の██%がSCP-3019-JPと共生していました。スマトラ島は5〜9月に乾季となるため、最も植物の成長に適した夏季に最も水分が不足します。SCP-3019-JPと共生する植物はこの期間に他の植物に比べて水分の獲得に有利になると推測されています。
特筆すべき点として、野生下のSCP-3019-JP生息地においては流砂生成現象は確認されませんでした。これはSCP-3019-JPが産生する毒素の影響と推測されています。SCP-3019-JP生息地に定住する肉食動物はSCP-3019-JPと共生する生物を捕食しないように学習しているため、SCP-3019-JPと共生する生物はツバメなどの渡り鳥に代表される移動性の高い鳥類2に捕食されます。これらの渡り鳥の内、ツバメは人間の居住地に好んで生息する習性を持ち、かつ個体数が多いために財団による監視が行われている地域での死亡数が多く、これがSCP-3019-JPによる流砂生成現象がツバメに由来すると推測された原因と考えられます。
生息地におけるSCP-3019-JPの収容は、SCP-3019-JPと共生している植物を簡易に判別する方法が存在しない点、生息地が広範囲に及んでいる点、生息地が民間人の居住地付近に広がっている点から極めて大規模な収容作戦を要すると想定され、発見年度での収容作戦実施は行わず、流砂生成現象の防止のためカバーストーリー「新種の鳥インフルエンザの懸念」を流布の上で生息地の近傍においてツバメの駆除を実施しました。
補遺: 2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震及びその後に起こった津波にSCP-3019-JPの生息地が被災し、当該地域の植物群衆は回復不能の被害を受けました。これはSCP-3019-JPの異常性によって津波に由来する海水が誘引及び保持されたことによって、深刻な塩害が引き起こされたことが原因と推測されています。

チガヤ草原、SCP-3019-JP生息地にて撮影。
加えて、上記の大規模な生態系の撹乱の結果として、SCP-3019-JPの生息地にはチガヤ(Imperata cylindrica)3が侵入し、同様に持ち込まれた他種の内部共生真菌によってSCP-3019-JPは淘汰されたと推測されています。
翌年に行われた調査において野生下のSCP-3019-JPが確認されなかったこと、2005年に確認された実例を最後に流砂生成現象が確認されていないことから、SCP-3019-JPは野生絶滅状態にあると推定され、オブジェクトクラスはSafeへ再分類されました。