職員コードが認識されました。あなたの閲覧権限(レベル4セキュリティクリアランス)に応じた情報を開示します。
SCP-3028-JPに影響される霊的実体(識別番号:c-6254)の様子。霊子崩壊により霊的実体を中心とした周囲の現実定着性が低下している事が確認できる。上記画像はサイト-81██第3収容棟5階西渡り廊下にてハルトマン霊体撮影機を用いて撮影された。
アイテム番号: SCP-3028-JP
オブジェクトクラス: Thaumiel
特別収容プロトコル: 収容室を除いた全ての室内にスピーカーを取り付け、SCP-3028-JPの放送を可能にしてください。放送設備は一日に一度点検を実施し、万が一設備不良等により特定の部屋への放送が困難な場合は、3日以内に持ち出し式の簡易スピーカーを使用してSCP-3028-JPを放送してください。
説明: SCP-3028-JPは50種類の周波数から構成される約18秒間の音響です。構成要素の大部分は超音波が占めている為、人間がSCP-3028-JPを認識した場合には、しばしば「単調なメロディー」と評価します。
SCP-3028-JPが伝播し通過又は振動したクラスA未満の霊的実体は、自身を構成する霊子が互いに反発し、形状を維持する事が困難になります。この異常性は累積され、殆どの霊的実体は3度のSCP-3028-JPの発生によって完全に崩壊し消滅します。
SCP-3028-JPは2025/8/12に██博士を中心としたチームによって開発されました。当時、振動によって自身の性質を変容させる異常性を持った霊的実体のSCP-████-JPに対して、幾つかのランダムな周波数を発生させる事でSCP-████-JPに連続的な変容を促し半永続的なインターバルを確立させ、その間にサイト-81██への輸送を完了させるといった収容手順が計画されていました。しかし、道中で突如SCP-████-JPの頭部が半崩壊した事から、発生させた特定の周波数がSCP-████-JPに影響を与えた旨の仮説が提言されると同時にその有用性が指摘されました。その後、SCP-████-JPを含む複数の霊的実体を対象とした実験結果を基に奇跡論を主体とする視点から周波数の微調整が行われ、結果、現在のSCP-3028-JPが誕生しました。また、当初の推測通りSCP-3028-JPはSCP-████-JP以外の霊的実体にも効力を発揮する事が判明した為、SCP-3028-JPはO5評議会によって大いに有用性のあるアイテムだと認められ、無霊室設備及びサイト内衛生システムへの転用が決定しました。転用後のSCP-3028-JPは想定以上の効力を発揮し、試用期間中のみで約1120体の霊的実体を消滅させた事から、労働環境の向上に大きく寄与したとして██博士を始めとする数人が表彰されました。
現在、SCP-3028-JPはスピーカーを用いて毎朝07:30に3度、繰り返し放送されています。
事案1: 2025/9/29、██上級研究員がSCP-████-JP収容室前に設置されたスピーカーの配線を故意に断絶させました。これは室内の衛生性を損なわせ職員の安全を脅かす、財団に対する間接的な背信行為です。当該職員には2ヶ月の謹慎処分が言い渡されました。
事案6: 2025/11/12、Agt.██が第6収容棟一般廊下に設置されたスピーカー本体を故意に破壊しました。これは室内の衛生性を損なわせ職員の安全を脅かす、財団に対する間接的な背信行為です。当該職員には5ヶ月の謹慎処分が言い渡されました。
事案11: 2026/2/28、██上級研究員がSCP-████-JP収容室前に設置されたスピーカーの配線を故意に断絶させました。これは室内の衛生性を損なわせ職員の安全を脅かす、財団に対する間接的な背信行為です。当該職員には4ヶ月の謹慎処分と降格処分が言い渡されました。
事案15: 2026/5/3、██研究員が第2収容棟休憩室に設置されたスピーカーの配線を故意に断絶させました。これは室内の衛生性を損なわせ職員の安全を脅かす、財団に対する間接的な背信行為です。当該職員にはBクラス記憶処理が施され、その後3ヶ月の謹慎処分と降格処分が言い渡されました。
事案18: 2026/7/31、██博士がDクラス職員第3収容房に設置されたスピーカー本体を故意に破壊しました。これは室内の衛生性を損なわせ職員の安全を脅かす、財団に対する間接的な背信行為です。当該職員にはBクラス記憶処理が施され、その後7ヶ月の謹慎処分と降格処分が言い渡されました。
サイト-81██ 簡易取調室 2026/8/25 10:24〜
██博士: ささ、どうぞ座って。コーヒーを淹れましょう、インスタントにしては中々美味しいですよ。ミルクと砂糖は必要ですか?
██研究員: ミルクだけでお願いします。
██博士: ミルクだけね、了解。
[軋み音]
██博士: ██研究員は伝承部門に所属しているんでしたね。私はあまり詳しくないのですが場所系のオブジェクトが多いのでしょう?やはり調査でサイトを離れる事が多かったり?
██研究員: いえ、私はどちらかと言えば報告内容を纏めるデスクワークが殆どで、現場に向かう事はあまり無いです。勿論そういった業務はありますが大抵メンバーは決まった人ですね。
██博士: おや、そうでしたか。肌がよく焼けているのでてっきり外仕事が専門かと。……もう少し待ってくださいね。
[沈黙]
██博士: どうぞ、私特製のスペシャルコーヒーです。カップにコーヒーよりも先にミルクを入れるのがポイントで、その方が美味しく感じる気がするんです。
██研究員: はぁ、ありがとうございます。
██博士: "気がする"ですけどね。[笑い]
██研究員: 確かにそんな気がします。[笑い]
[沈黙]
██博士: さて、本題に入りましょうか。サイト内のスピーカーを破壊しSCP-3028-JPの放送を妨害する事案は貴方で20件目です。何故、このような事を?
██研究員: ……海に行ったんです。
██博士: 海?
██研究員: 私はあまり泳ぎたくなかったんですけどね。インドアですし、肌を出したくないから水着も着たくなかった。でも、彼女がたまには泳いでる魚を見たいっていうから。
██博士: 彼女とは、例の?
██研究員: はい。太陽がこれでもかってほどぎらついてて、最悪な事に絶好の海水浴日和でした。本当に暑くて辛くて、今すぐにでも帰りたかった。それでもあの人は、飽きもせずにずっと泳いでて、楽しそうに私に笑いかけてくるんです。私より年上の癖に、まるで子供みたいだった。
██博士: 落ち着いて話してくださいね、██さん。頭痛が酷ければ一度休憩しましょう。
██研究員: それで、日が沈みかけて、そろそろ帰ろうって言ったんです。あの人は海から上がる前に、一度、頭まで潜って。なんだろうと思ってたら直ぐに顔を上げて、「これ、プレゼント」って綺麗な、小さい貝殻を2つ、私に手渡したんです。本気で私が喜ぶと思ってるんですよあの人は。ありえないでしょう?
██博士: 可愛らしい。[笑い] それで?
██研究員: い、一応上司ですし、「ありがとうございます」って受け取りましたよ。捨てたかったけど、流石に悲しむでしょうから。家に持って帰ってもどうせすぐに失くしそうだったんで、紐を通してブレスレットみたいにします?って聞いたら、ほんと、子供みたいに。
██博士: なるほどなるほど、とても仲が良かったようで。
██研究員: 他の方よりは、比較的に。
██博士: ですがね、██さん。だからといって騒ぎを起こす正当な理由にはなりませんよ。財団は死のリスクと隣り合わせです。先週顔を合わせた職員と今週末に葬式で出会う、なんて話はざらにあります。それほどこの仕事は死人──殉職者が多いんですよ。分かりますか?
██研究員: 分かっています。理解しています。勿論です。
██博士: では聞きますね。SCP-3028-JPが放送されなければどうなりますか?
██研究員: [沈黙] サイトに、しょ、職員たちの
██博士: 職員たちの?
██研究員: 幽霊が、溢れかえる。
██博士: はい、正解です。以前のようにサイト内が職員らの地縛霊で埋めつくされれば、業務どころではない──正に収容違反の基。作業を円滑に行う為に、収容を維持する為に、施設を綺麗にする為に、アレが必要不可欠なのはよくお分かりのようで。でしたら貴方の行為がどれほど危険かも分か──
██研究員: [遮って] それでも!あの人の顔を見たら消滅させる事なんて、出来なかったんです。あぁ、だって!
██博士: 落ち着いてくださいね、コーヒーは飲みすぎないように。……それで、██さんも数少ない"見える人"でしたね。彼女は泣いていましたか?
██研究員: [嗚咽] 私、私を見ていました。確かに目が合ったんです!あの人は助けを求めていた。"見える"私に!あの人を私が救わないと!
██博士: [咳払い] 良いですか██さん、それでも死んだ人間は人間じゃないんです。今は大人しくてもこの先ずっと友好的だとは限らない。何かの拍子に敵対的になるかもしれないし、そのせいで殉職者が増えるかもしれないんです。
██研究員: だから無害だったあの人も見殺しにしろと言うのですか!
██博士: 人では無いと言っているでしょう?あれは霊的実体です。我々が守るべきは、異常ではない、異常を知らない一般人である事を忘れないでください。それに……
██研究員: それに?
██博士: 霊的実体なんて存在するだけで人類に悪影響を及ぼすのですから、研究する価値が薄い雑多な実体を消滅させるのは至極当然です。例えソレが大人しくても、友好的であったとしても、無力で無害な霊的実体なんて存在しないんですから。死者の霊は生者から生気を奪う事、財団に入る前からでも怪談などでよく耳にしたでしょう?現に貴方、目の下に隈が出来ていますよ。
██研究員: デタラメを言わないでください。そんなの人として、あぁ、人道的じゃありません。わ、私たちは散々財団に、人類に尽くして、どれだけ頑張っても陽に照らされること無く、それでも歯を食いしばって危険な業務に耐えているのに!し、死んだら「貴方は用済みですさようなら」って、そんなの、そんなのあんまりじゃないですか。貴方も良心があるのなら、彼女たちの尊厳を守ってください!
██博士: [溜息] 彼女らの尊厳を守る為に消滅させるのです、██研究員。異常物体をヴェールで隠し、陽に照らされる事が無いよう押さえ込んできた彼女らが、死して異常物体になるなんて皮肉な話だとは思いませんか?だから我々は、倫理的に、人道的に、彼女らにピリオドを打つのです。同情を誘われても財団を裏切るような事はできませんよ、普通の職員はね。
██研究員: それでも!
██博士: それでも?
██研究員: [沈黙] それでも、ブレスレットを渡したかったんです。あの人、右目しか残らなかったから。
██博士: ……もう少しミルクを足しましょうか、██さん。気が楽になりますよ。
追記: ██研究員にはBクラス記憶処理が施され、その後6ヶ月の謹慎処分と降格処分が言い渡されました。
補遺1: 度重なる職員らの職務規律違反から、SCP-3028-JPに精神の脆弱性を強める異常性があるとの仮説が提唱されましたが、調査の結果、そのような異常性は確認されませんでした。これにより、職員らの異常行動は非異常性である事が確定し、更なる違反を防止する為に上層部にて対策が練られました。
現在、SCP-3028-JPの報告書は偽造され、一定のセキュリティクリアランス以上の職員にのみ正しい報告書が開示されています。