SCP-3030-JP
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コンテンツ警告: この記事には鬱病及び精神の病的な症状の描写が含まれています。



アイテム番号: SCP-3030-JP 収容クラス: Ticonderoga

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月。SCP-3030-JPの根源。


特別収容プロトコル: 1989/12/30のL4コマンド-収容プロトコルアップデートに伴い、SCP-3030-JP-1の収容措置は廃止され、アノマリーの収容クラスはKeterからTiconderoga1に再分類されました。この決定は以下の分析に起因します。

  • SCP-3030-JP-1の総数が膨大であり全体の収容が困難である。
  • SCP-3030-JP-1自体は異常の拡散をもたらさない。
  • SCP-3030-JP-1の症状は一見して通常の精神病と区別することが出来ず、収容コストに見合わないレベルの資産割り当てを必要とする。

アップデート以前に収容されていたSCP-3030-JP-1は記憶処理の後、解放されるか財団監視下のゲーテッドコミュニティで新たな身分を与えられました。これ以後、SCP-3030-JP-1を用いた実験は倫理委員会の指令によって制限されました。

現行収容プロトコルにおいては、SCP-3030-JPがもたらす影響の情報規制に対して焦点が当てられています。対応チーム"白夜令嬢"はSCP-3030-JPに関連した心理学/精神分析学説を監視し、対象の論文や研究結果を修正します。当チームは必要に応じて民間研究者への記憶処理適応が許可されています。

SCP-3030-JPの直接的収容は現在実現不可能かつ無意味と考えられており、収容の試みは検討されていません。しかしながら、SCP-3030-JPの影響を予防または減少させるための立案に関しては提言を"白夜令嬢"に行うことが可能です。

説明: SCP-3030-JPは月の光によって伝播する認識災害です。世界人口の0.068%の人物はSCP-3030-JPを直接的に視認することによって異常性に暴露します。この被影響者はSCP-3030-JP-1に分類されています。

SCP-3030-JPの症状の表れはSCP-3030-JP-1ごとに異なり、視認した直後に発現する場合もあれば影響に長期的な期間を経る可能性もあります。SCP-3030-JPの症状は典型的には以下のようなものが挙げられます。

  • 周期的な悪夢。
  • 突発的かつ急激なメランコリー。
  • スピリチュアル的な幻覚と幻聴、存在しない色彩や音の経験。
  • 様々な形式の妄想。
  • 希死念慮。
  • 抑鬱2

結果的にSCP-3030-JP-1の多くはその性質によって社会的に不安定な状態に陥るか、もしくは極端な場合には完全に孤立します。SCP-3030-JP-1の社会スタイルはしばしば何らかの形で危険性を伴います。例としてはアルコール中毒や過剰喫煙、刹那的な消費活動、暴力、自傷行為、強迫的なレベルの収集行為、特定のオブジェクトや概念への執着が存在します。失踪率及び自殺率の高さも顕著なものであり、統計的には非暴露者の5.6倍に上ります。

もう一方のSCP-3030-JP-1の異常な特徴として、月や月の光への芸術的関心が存在します。SCP-3030-JP-1が生涯の内に創作した文書や図像には月に関する言及と関連したモチーフが高い確率で含まれています。統計的な調査によればこれは個人の性質によるものではなく、SCP-3030-JP-1に共通して発現するものと推測されます。関連性は不明であるものの、SCP-3030-JP-1が満月の日に自発的にSCP-3030-JPに暴露する例も報告されています。

記憶処理治療によってSCP-3030-JP-1からSCP-3030-JPの影響を除去することは可能ですが、SCP-3030-JPへの再暴露によって容易に症状は再発します。Dクラス職員から選出されたSCP-3030-JP被験者の観察実験においては、被験者が頻繁に収容下からの脱走を試みる傾向が注目されました。被験者らの多くは月と収容サイト外の空間に強い固執を見せ、これらの欲求が満たされないことを確信すると深刻な鬱病や気分障害の症状が表れました。

人道的観点から新たなSCP-3030-JP-1の成形は収容プロトコルアップデートをもって禁止されました。

補遺.1: 以下は編纂された既知のSCP-3030-JP-1情報からの抜粋です。歴史的研究と分析のためにこれら暴露者の情報はアーカイブ化されています。アーカイブには失踪/死亡後にSCP-3030-JP-1であったと判明した人物の情報が含まれていることに留意してください。

名前: ジル・アラン・ジェレミー・エルヴェシウス(Jill Allan Jeremy Helvesius)
出身: フランス
生没: 1944 - 1986 ?
概要: エルヴェシウス氏はパリのアートコミュニティに所属する画家でした。彼は"湖畔夜景"や"月光の感覚"などの作品によってコミュニティの内外で著名な作家でしたが、同時に彼自身の短気な性格と重度のアルコール中毒であるという事実もよく知られていました。

エルヴェシウス氏は1977年に酒場で他の芸術家から自身の"自然と動植物の美的価値"を侮辱され、同人物に対して暴力行為に及びました。この事件を機にコミュニティ内の主要人物は彼をサロンから追放することに決定し、彼自身も自らの意志でパリから永久的に去ることとなりました。

母親と兄夫婦が居住する実家に戻ったエルヴェシウス氏は家の空き倉庫にアトリエを造り絵画を描き続けました。しかし、母親の死が基となり数年の内にエルヴェシウス氏の精神状態は悪化しました。芸術活動にも顕著に悪影響が現れ、エルヴェシウス氏は創作以上に兄夫婦の家業の手伝いに時間を割くようになりました。エルヴェシウス氏はこの時期の手記において"人間の自然の模倣は構造的に汚染を伴う"という旨のことを頻繁に書き記しています。

エルヴェシウス氏は1986年の6月に兄に対し、"もう戻る"と言い残し家を出ました。エルヴェシウス氏はこの日家に帰ることはなく、兄夫婦は警察に捜索を申し出ました。その後、家から2km程度離れた森の入り口でエルヴェシウス氏の衣服の一部が発見されました。エルヴェシウス氏のその後の行方は知られていません。

名前: ユーセフ・ムハンマド=サダト(Youssef Muhammad-Sadat)
出身: エジプト
生没: 1956 - 1993
概要: サダト氏はレジャイナにて小規模な映画館を経営していました。元々、学生時代から外国映画への強い興味を抱いていた彼は、早逝した両親が残した金銭的遺産を元に1978年にカナダに渡りました。サダト氏は現地の清掃業社で働きながら、独学で映像機器の撮影技術や物語の脚本、役者の雇用の方法について学びました。1982年には74分の中編映画"三日月、赤い毛皮"を発表し、これがいくつかの有力な評論家の目に留まることとなりました。

デビューを収めたサダト氏は貯金を切り崩し、買い取った空き家を映画館に改装しました。映画館では既知の作品と同時に、彼が初期に構想していた短編映画複数が上映されました。サダト氏の経営者としての技量もあり映画館は商業的に成功していましたが、彼は自身の作製した作品の評価について思い悩むようになりました。彼自身の作品も比較的評価はされていましたが、観客が最も好んでいたのは著名な映画監督の作品でした。サダト氏はこの頃から悪夢に悩まされ始めました。

1989年には鬱病の深刻化によって運営が困難となり、サダト氏は映画館を民間企業に売り払いました。これ以後、サダト氏は煙草と向精神薬に依存し始めました。サダト氏が個人的に作成した脚本は支離滅裂な内容に変わっていき、この間に執筆された文書には粗雑な満月の挿絵が付随するようになりました。

サダト氏は1993年に自室で不可解な死体として発見されました。発見時、サダト氏の部屋及び内部の物品は強い損傷が加えられており、野生動物によるものを連想させる痕跡が残されていました。警察はサダト氏が事件に巻き込まれた可能性を疑いましたが、入念な調査によってこれは自傷行為に起因するショック死であると結論付けられました。

名前: 神日 奈幸(Kanbi Nayuki)
出身: 日本
生没: 1978 - 2012 ?
概要: 神日氏は広島の家電工場で働く傍ら個人作家として多数の文芸作品を執筆していました。彼女は少なくとも1983年の頃から"月夜の国"を題材にした自作の詩と長編小説を執筆していました。神日氏は中学校と高等学校時代から軽度の鬱病の症状と妄想癖から周囲の人物と上手く関わることができませんでした。

高校卒業後、神日氏は地元の工場に就職し働き始めました。しかしながら、依然として神日氏が最も重要と見做していたのは執筆活動でした。神日氏は数年間の内に少なくとも70以上の様々な長さの詩と小説を執筆しました。これらは彼女の他の作品から舞台設定や一部のキャラクター積極的に引用していることが特色であり、後書きに見られる文章からも神日氏が"自己完結した神話的体系"を創造しようとしていたことが伺えます。

神日氏は2004年10月頃からインターネット上の文芸サイトへの投稿を行い始めました。サイトへの継続的な投稿により、神日氏はサイトに参加している他の執筆者とインターネットを通じて交流を持つようになりました。この出来事がきっかけとなり、神日氏は2006年に執筆者の一員として幻想小説に関連の文芸同人誌に寄稿を行いました。神日氏は2010年までいくつかのの雑誌や媒体に寄稿を続けましたが、2011年の9月に突如として執筆者らと一切の交流を断ちました。

2012年の2月、職場に数日間に出社していない神日氏を憂虞した工場職員が警察に通報を行いました。警察の捜査によって神日氏が行方不明になっていることが判明しました。捜査に伴い、神日氏が居住していたアパートの一室からは大量の原稿用紙及び日記が発見されました。詳細は補遺.2を参照してください。

補遺.2: 以下は神日氏によって筆記された日記からの抜粋です。当該情報はSCP-3030-JPの未確認の異常性を描写している可能性があります。

昨夜、久しぶりに綺麗な下弦の月を見た。雲一つない夜空に浮かぶ月ではなかったが、むしろその方が私の好みだった。

空に浮く氷晶に顔を覆い隠すお月様。恥じらいか、怒りか、何を思って隠れているの? 誰から顔を逸らしていらっしゃるのだろう。一人燃える、従者を知らぬお月様。


小雨降る朧げな空だ。星々たちも暇を持て余すのだろうか。私自身も今日はあまり筆が進まないような気がする。

だが、見えなくとも月夜の姿に思いを馳せることはできる。私は一生かかっても、あの景観を"美しい"という平凡な言葉でしか語れないのかもしれない。まさしく月並み。泥の中で恋い焦がれるスッポンだ。

月は紺の世界に君臨する女王であり、幾ら望んでも到達することのできない終端でもある。月があるからこそ私は頭の中に渦巻く物事を文字に出来る。あの日の月光は炎のようだ。私の中の凝固した塊を熱で溶かし、言葉に変えてくれた。

こんな空模様だからこそ、想う景色もあるのかもしれない。明日は晴れるだろうか。


澄んだ空気の下で三日月を見ている。今日は何者にも遮られず、あの凛とした光にたまらない程の熱を感じる。寒いのに確かな熱さを伴う夜。嫌な感覚ではない。だけど、私の心に仕舞うには余りも強すぎる。目に毒だ。

今の私では可能であるかすら分からないが、やはりあの景色を形にしてみたいものだと最近は四六時中思っている。熱病に罹ったかのように、その考えばかりが思考を焦がす。

写実は実際には全く意味をなさない。物事の表面をあるがまま模したものは、硬直した現実をインクや絵の具に投棄しただけであると私は考える。私のような人間がするべきことは、自然状態が持つ滑らかな皮膚にメスを入れ真の臓を取り出すことだ。表面の中で波打つものは上部を崩すことでしか得られもせず、成しえることも出来ない。

私は一生の内に必ず成す。誓います。いつか貴女の中で流れ、液滴るそれを掴み出し貴女に見せます。


晩の内に風が窓を割ってしまいそうだ。今日も空全体が単一の黒によって塗りつぶされている。小さな明かりの一つも見えやしない。

貴女以外のせいで眠れないのは心底気分が悪い。ここ数日見えるのは、色のない雨と冷えたままのそれ。貴女を見たい。

ずっと、心から納得いくものが書けない。今までは溢れてきた言葉と情景を難なく形成することができていたはずだったのに。変わったことに気付いたのは二ケ月前だと思う。練って固めてきたものが泥のように溶け離れてていき、焼こうとしたものが炉の中で冷たい灰になる。掴もうとしたものが落ちていく、床の隅へと流れていく。

何も思い浮かばない。


この日記以外の文字は読みたくない。病院で好きなことをしろと言われたから、それが正しいんだと思う。説明できない。感じるものが酷く不快だ。


薬は飲んだ。もうすぐ良くなると思う。


[ページ全体に文字の上から雑に線が書かれており、判読できない。綴じの跡から数ページが切り取られているのが分かる。]


頭の中でとぐろを巻いている。摘出。

脳のパイプ? からドーパミンが流れているのだと思う。実際には何が不足しているのかは知らない。脳を捨てたい。別のものになりたい。

[小さな血痕。]


[ページ全体がしわついている。雑に記号が走り書きされている。]


丸一日寝た。薬か睡眠のどちらが上手く効いたのか分からないが、ともかくまた文章を書くことが出来ている。

綺麗。


貴女を見て泣いている。あの涙は悲しさや苦しさから来るものではない。ならば、絶望している? おそらく違う。

心の外側が凍っているようだ。脳と心臓に広がる凍傷が、確かな痛みを伴っているのが分かる。だけど、私はしっかりとあの満月を見て泣いている。ずっと涙さえ出てこなかったのに。奥底が熱く、心地よい。

ずっと終わりそうもない不快な感覚が拭えなかった。見るもの、聞こえるもの、触れたもの、あらゆる破片が突き刺さった。今は何も感じない、貴女を除いて全てが透明。乾いた目に映る貴女の姿のみが内側まで響く。

今日はここまでにしておく。もう、書き始めなくては。


落ち着いているように感じていたが、実際は昂っているのだろう。手も足も震えてはいない。でも、臓の奥底のマグマ溜まりが不規則に震えている。私には分かる。

とてつもなく静かな晴夜だ。これから、向こうの山にまで行こうと思う。今ならば確実に到達できる。

私は諦めない。これから来る行き詰まりも、永い寒さも私は乗り越える。絶対に貴女の中身を昇華する。それがもはや言葉でも文字でもなかったとしても。だけど、この夜ばかりはしたいことがあるのです。

今はただ、貴女に向かって遠吠えしたい。

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