SCP-3035探査記録
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以下の音声記録は、壊滅的収容違反を起こしたサイト-173との接触を再確立する財団の初期施行における、機動部隊ガンマ-3(“スリーウルフ・ムーン”)の関与した出来事を描写するものです。

<記録開始>

ムーン: これより点呼を取る。

ウルフ1: ウルフ1、こちらに。

ウルフ2: ウルフ2、ワオォォォォォォーーン!

ウルフ3: ウルフ3、クゥゥゥゥゥゥゥッ-キィーー-クリスプ!

ムーン: よし、おふざけはそこまでだ。司令部、受信できているか?

司令部: はっきりと聞こえる。

ムーン: 良し。それでは、これから入場する。

(空気の抜ける音と、金属の擦れる音。)

ムーン: 呼吸器を起動。気を抜くなよ。

ウルフ2: (えずく声) …ヤベェな。皮膚越しに臭いが嗅げそうなぐらいだ。

ムーン: 照明は暗い、床は… 何らかの汚物に覆われている。茶色がかった黒だ。そこら中にゴミがある — 潰れた段ボール箱、オフィス備品… うっ、これは — 腐敗した肉に見えるな…

司令部: 了解した。司令官、今回の主目的は偵察だということを忘れないように。可能ならば職員を救出して構わないが、君自身やチームを危険に晒す事はしないでくれ。

ムーン: 了解。畜生、吐き気がするような場所だ。ウルフ1、ドアの横で待機しろ。人間で無い物が出ようとしたら…

ウルフ1: 始末するんだな。分かった。

ムーン: 先へ進む。ウルフ2、ウルフ3、付いてこい。

ムーン: 反対側の制御盤には血塗れの手形が付着している。逃げ出そうとした者がいるようだ。

ウルフ3: ファック。

ムーン: 進むぞ。

ウルフ2: 前方注意!

ムーン: 手を上げろ! お前は人間か? 何とか言え!

不明: (くぐもった、遠くからの声) 助けて…

ウルフ2: 敵意は無いのか?

ウルフ3: 苦しんでいるようだぞ。

ムーン: 動くなよ。司令部… 15ヤードほど前方に、白衣を着た技術者らしき者がいる。膝をついている。身体に血が付着しているので、負傷者の可能性がある—

司令部: 気を付けてくれ。

ムーン: 接近中。おい! おい。ちょっと話を聞かせてくれ。お前をここから脱出させるために来たんだが、まずは話が先だ。

不明: (くぐもった声) やめてくれ…

ムーン: それよりはもう少し詳しく聞きたいね、兄弟。大丈夫か、落ち着け。手は上げたままだ。名前から聞かせてもらおう。何て名だ?

不明: (くぐもった声) お願い、いやだ…

ムーン: 嗚呼。嗚呼、クソッたれ。

ウルフ3: どうした? 大丈夫か?

ムーン: その場にいろ! 誰も動くんじゃない、そこで… じっとしてろ。司令部?

司令部: 聞こえている。

ムーン: 司令部、こいつはゴキブリのうちの1匹らしい。

司令部: 待て。君は先ほど研究技術者だと—

ムーン: 遠くからはそう見えた — だが、こいつの顔はまるで… キチン質の仮面だ。それで、こいつは…

司令部: そいつは何をしている?

不明: (歪み、くぐもった啜り泣きの音)

ムーン: 私が思うに… 見たところは… 命乞いか?

ウルフ2: 廊下の向こうだ!

(遠くで無線の信号音)

ムーン: クソッ — 奴らが2匹、デカい連中だ、奴ら—

(遠くで怒気を帯びた不明瞭な叫び)

(銃声)

ウルフ3: ファック!

ウルフ2: 交戦中! 交戦中!

ムーン: 身を隠せ!

(銃声が止む)

ウルフ1: 俺は現在地に留まりますか?

ムーン: そうだ、位置を保て — 皆、大丈夫か? 被弾した者は?

ウルフ3: いや、こちらは大丈夫。

ウルフ2: 俺たちは両方隠れている。

ムーン: ファック。ファック。一体いつから奴らは銃を—

(銃声)

ムーン: ファック!

(銃声が続く)

ムーン: …何だありゃ?

(銃声が続く)

ムーン: 何だ、ありゃ?

ウルフ3: 大丈夫か、ムーン?!

ムーン: そのまま待機。その場で待機してろ、お前たち2人ともだ。

(銃声が続く)

ムーン: (笑い) やれやれ、ようやく訳が分かったよ。

ウルフ2: あれは何なんだ?

ムーン: 忌々しいゴキブリさ。

(更に6発分、明白に大きく鮮明な発砲音)

(銃声が止む)

ムーン: 廊下、状況収束。

ウルフ3: 何が起こった?

ムーン: 奴らは銃を持ってない。手が銃の形になってる。それを振り回しながら発砲音を出してたんだ。

ウルフ2: 冗… 冗談だよな?

ウルフ3: 全く死ぬほど笑えるね。

ムーン: 全部聞こえたか、司令部? 助言求む。

司令部: 了解。慎重に進んでくれ。

ムーン: 前進する。ウルフ2、ウルフ3、こっちへ。

ウルフ3: ったく。こいつら、どうやってサイトを1つ制圧したんだ?

ムーン: 前方注意。見えるか?

ウルフ2: バリケードだ。

ウルフ3: 生存者か?

ムーン: かもしれん。行くぞ。

ウルフ2: 物資は、見たところ — ああ、ごく最近の物に見える。虫どもに対抗して砦を維持しようとしたんだ。

ウルフ3: おい! — 見ろよ、ありゃ —

ムーン: おいっ! お前、手を上げろ、まずは話を—

ウルフ2: ファック。逃げていくぞ—

ウルフ3: 生存者なのか? それとも—

ムーン: 畜生め… この明かりじゃはっきり見えない。トイレに入ったようだ。ウルフ2、私と一緒に来い。ウルフ3、入口を守ってくれ — 雪隠詰めにされるのは御免だからな。

ウルフ3: 了解。

ムーン: 気張らずにいくぞ…

(ドアを開く音)

ウルフ2: こりゃ酷い。

(静かな、くぐもった泣き声)

ムーン: おい。おい、そこにいるか? 私たちは人間だ。お前を家に連れ戻しに来た。手を上げて出て来てくれ、オーケイ…?

(泣き声が大きくなる)

ムーン: 奥の個室にいるようだ。

ウルフ2: ムーン、この個室には死体がある、ここ—

ウルフ3: おい! おい、お前だ! 手を上げろ! こっちに来い — 俺たちは救助隊だ! 俺た — クソがっ!

ムーン: ウルフ3? 何があった?

ウルフ3: ファック。ファック。今しがた — 誰かが廊下の向こうに見えた、バリケードのこっち側だ。そいつも俺を見て、走り去っていった—

ムーン: 人間か?

ウルフ3: だ… だと思うぜ、顔を見た、人間に見えた。でも逃—

ムーン: よし、ここは終了としよう、次に—

(耳を劈くような叫び声)

(何かを掴むような音、大声)

ウルフ2: ファック! ファック!

(2発の銃声)

ウルフ2: 野郎… ファック!

ムーン: 落ち着け。落ち着くんだ。ちょっと見せてみろ。

ウルフ2: これは… こん畜生め。

ウルフ3: お前ら大丈夫か?

ムーン: 個室の中にいたゴキブリだ。ウルフ2が刺されたが、致命傷には見えない。

ウルフ2: でもきっとここから感染する—

ムーン: リラックスしろ。ここを出るぞ。司令部、聞こえるか?

司令部: 聞こえている。

ムーン: メンバー1名、刺突により負傷。ゴキブリの1匹が… ナイフ形の手、のような物を生やしていた。これより退却を開始する。

司令部: 了解した。

ウルフ3: でもよ — 俺は誰かを見たんだぜ、あそこで—

ムーン: 別なゴキブリだろう。

ウルフ3: 間違いなくあれは—

ムーン: 別なゴキブリだったんだ、ウルフ3。分かったか?

ムーン: 分かったかと聞いたんだが?

ウルフ3: 了解。

ムーン: よろしい。これより退却する。さぁ、立つのに手を貸してやる—

(何かを掴むような音)

ウルフ2: ったく。

不明: 忌々しい… ゴキブリ…

ウルフ3: 聞こえたか?

ムーン: どこからの声だ?

不明: (複数名による詠唱) 忌々しい… ゴキブリ…

ウルフ3: 嗚呼… 嗚呼、クソが。ムーン、すぐそこを出るんだ。

(ドアを開く音)

ムーン: 一体 — 何てこった。

不明: (10名以上の声による詠唱) 忌々しい… ゴキブリ…

ウルフ3: 見ろよ、あれを… 爪と歯が—

(何かを叩く音と、物がカタカタと揺れる音)

ウルフ2: ファック! ファック、バリケードを叩いてるぞ—

ウルフ3: 奴らは何を模倣しやがったんだ?!

不明: (さらに数を増した詠唱) 忌々しい… ゴキブリ…

(叩く音が強まる)

ムーン: 射撃開始! 射撃開始!

(銃声)

ウルフ3: クソがっ!

ムーン: 手榴弾を投げるぞ! 伏せろ!

不明: 忌々しい… ゴキブリ…

(くぐもった爆発音)

ムーン: そのまま—(空電)

不明: 忌々しい… ゴキブリ…

ウルフ2: 刺されてる、刺され—(空電)

ムーン: ウルフ3、聞こえ—(空電)

ウルフ3: (短い悲鳴、空電で途切れる)

ムーン: 司れ—(空電)

ウルフ1: ファック! 今から突入するぞ! ムーン、聞こえるか?

ムーン: や—(空電)

司令部: ウルフ1、その場を動くな。ニュー-13が君を回収し、入口を確保するために向かっている。

ウルフ1: くたばりやがれ。俺は入るぜ。

司令部: 否だ、ウルフ1、その場で—

ウルフ1: くたばれって言ったろうが。

不明: (遠くから) 忌々しい… ゴキブリ…

ウルフ1: 何てザマだ。奴らは…

司令部: ウルフ1、そこを出ろ。

ウルフ1: 奴らはざっと100 — 待て、あれはまさか — ムーン、聞こえるか?

(空電)

ウルフ1: ムーン! 聞こえているか? ムーン、アンタなのか? ムーン!

(遠くからの不明瞭な叫び)

ウルフ1: あれは — ムーンだった、間違いなくムーンだったぞ、制服が見えた、きっとそうだ… ムーン! ムーン! 戻って来い! ムーン!

司令部: ウルフ1、戻れ。

ウルフ1: 冗談止せ… できるかよ — そこに — ムーン!

(銃声)

司令部: ウルフ1、戻れ。発砲しているのは君か?

不明: ムーン! 戻ってこい! ムーン!

(銃声)

司令部: ウルフ1、戻るんだ。

(銃声)

司令部: ウルフ1、聞こえるか?

(銃声)

司令部: ウルフ1、そこにいるのか?

ウルフ1: ここにいる。ムーンとウルフ2が一緒だ。こいつらの通信機はダメになった。ウルフ3、死亡。現在脱出の途上だ。

司令部: 了解。ニュー-13がそちらに向かっている。

<記録終了>

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