財団記録・情報保安管理局より通達
当報告書は研究済オブジェクトとしてアーカイブされていましたが、新たな事案の発生に伴い復元・追記されています。
— 2045年12月4日 RAISA管理官
██牧場で放牧されていたSCP-3040-JP
アイテム番号: SCP-3040-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-3040-JPはサイト-81██の標準大型生物収容セルに収容されます。実験等の目的でSCP-3040-JPを繁殖させる際は、母牛にはカルシウム強化飼料が、仔牛には人工乳が与えられます。母牛から採取されたSCP-3040-JP-1は研究用サンプルを除き焼却処分されます。
説明: SCP-3040-JPは遺伝子改変されたホルスタイン・フリーシアン(Bos taurus taurus)1です。出産後のSCP-3040-JP実体から分泌された乳汁(以下、SCP-3040-JP-1)およびその非加熱加工品を人間が経口摂取した場合、急性の意識障害、呼吸不全、不整脈性心不全を発症し死に至ります。SCP-3040-JP-1の毒性については補遺2を参照してください。
発見経緯: 2003年6月15日~17日にかけての3日間で、北海道██町と██町の15家族67名が突然死しました。被害者の家族集積性が高いことから、警察および衛生当局が集団食中毒事件とみて家宅捜索を行ったところ、いずれの被害者宅からも██乳業から製造・販売された「まいにちいきいき!3.6牛乳」が発見され、事件との関連が疑われました。調査の結果、被害者宅にあった牛乳はいずれも██乳業の契約農家である██牧場から購入された生乳を使用しており、同牧場で飼育されていた乳牛がGoI-8101「日本生類創研」が事実上運営している████畜産研究所より販売されたものであったことが判明したため、警察に潜入していたエージェントからの報告により財団の知るところとなりました。当該乳牛はSCP-3040-JPとして確保・収容され、販売されていた「まいにちいきいき!3.6牛乳」は「集団食中毒」のカバーストーリーの下、SCP-3040-JP-1として回収されました。
補遺1: ████畜産研究所への立ち入り調査を行ったところ、すでに構成員は退去済みでした。研究資料の大部分も持ち出されたものと思われますが、大型生物を飼育していた痕跡や、█████を用いた遺伝子編集設備、遺伝子導入用のウイルスベクター製造設備が発見され、同研究所でSCP-3040-JPが開発・製造されていたことが確実視されています。下記は同研究所から回収された、SCP-3040-JP開発時のコンセプトメモと思われる書類です。
骨粗鬆症は現在1000万人の日本人が罹患していると推定されている国民病です。大勢のお年寄りの方々が骨粗鬆症による骨折のため、寝たきりでの生活を余儀なくされています。骨粗鬆症のリスク要因はカルシウム不足と加齢であり、医療技術の発展による平均寿命の延長によって、今後ますます増加するものと思われます。我々日本生類創研は骨粗鬆症の予防のため、画期的な乳牛の開発に着手します。国民のいきいきとした毎日のために、今こそ日本生類創研が培ってきた技術を最大限に活かす時なのです。
補遺2: 収容されたSCP-3040-JPを分析したところ、異常技術によると思われる複数の遺伝子改変が発見されました。下記はSCP-3040-JP-1の毒性に関与していると推定される改変遺伝子の概要です。
遺伝子改変されたカゼインタンパクの模式図。複数のカゼイン分子が重合することで奇跡論的配置を取る。
改変遺伝子1. カゼイン
カゼインは非異常性の牛乳にも豊富に含まれるタンパク質である。経口摂取すると胃酸で分解されカゼインホスホペプチドとなり、小腸におけるカルシウムイオンのリン酸との結合(不溶化)を阻害することでカルシウムの吸収を補助する機能を持つ。
改変されたカゼインも同様の機序で人体におけるカルシウム吸収を補助する。これに加え、胃酸での分解を免れて小腸に達したカゼインは、重合することによってアミノ酸が奇跡論的配置を取り、確率操作によりカルシウムイオンの量子力学的ふるまいを調整する。これにより、リン酸との結合をほぼ完全に阻害するとともに、カルシウムイオンの小腸粘膜への吸着を促進する。
結果として、SCP-3040-JP-1を摂取した際のカルシウム吸収率は約98%2に達する。
遺伝子改変されたカルシウムポンプの模式図。核融合によって得られたエネルギーで、カルシウムイオン(緑)を細胞内(図下部)から細胞外(図上部)に輸送する。
改変遺伝子2. カルシウムポンプ
カルシウムポンプは正常の細胞表面にも存在する、イオン輸送機能を持つ細胞膜貫通型タンパク質の一種である。
改変されたカルシウムポンプはSCP-3040-JPの乳腺上皮細胞に高発現しており、非異常性のカルシウムポンプよりも高効率・高頻度でカルシウムイオンを細胞内から細胞外の乳汁に輸送する。また、局所的な現実改変を引き起こすことで細胞内の炭素原子2個と酸素原子1個を核融合させ、カルシウム原子1個を生成する。この際生成されるカルシウムは細胞外への輸送量と比較すると少量だが、核融合反応によって得られる大量のエネルギーを利用することにより、細胞内よりもはるかにカルシウム濃度の高い乳汁へ向かってカルシウムイオンを強制的に輸送していたものと推定される。
結果として、SCP-3040-JP-1のカルシウム濃度は30~50mg/ml3となる。
上記の遺伝子改変の結果、SCP-3040-JP-1を摂取すると数十分以内に小腸から多量のカルシウム吸収が行われます。仮に50mlのSCP-3040-JP-1を摂取したとすると、1500~2500mgのカルシウムが短時間で吸収されるため、循環血液量4500ml4の人間では単純計算で33~56mg/dlの血中カルシウム濃度の上昇が引き起こされることとなります。
正常な人体ではホメオスタシス5によって血中カルシウム濃度は8.8~10.4mg/dlと極めて狭い範囲内にコントロールされていますが、これは細胞内と血液中のカルシウム濃度の差異を利用して神経伝達や筋収縮が制御されているためです。一般的に、血中カルシウム濃度が12mg/dlを上回ると情緒不安定、錯乱、昏睡などの中枢神経症状を発症し、18mg/dlを上回ると不整脈によって死亡する場合があります。
SCP-3040-JP-1摂取時に予想される、33~56mg/dl以上という非常に高度かつ急激な血中カルシウム濃度の上昇が起きた場合、神経伝達阻害による昏睡、骨格筋収縮阻害による呼吸不全、過剰な心筋収縮による不整脈が同時に発生し、短時間で死亡するものと推測されます。
SCP-3040-JP-1分泌中のSCP-3040-JPは、カルシウム強化飼料を与えられなければ過剰なカルシウム分泌によりカルシウム欠乏を起こします。一方、██牧場で飼育されていたSCP-3040-JPはカルシウム強化飼料を与えられていなかったにもかかかわらず、カルシウム欠乏の兆候が見られませんでした。SCP-3040-JPからは上記の2つ以外に13の遺伝子改変が発見されましたが、いずれも異常なカゼインおよびカルシウムポンプ遺伝子を保持したままSCP-3040-JPが生存するために導入された非異常性の遺伝子改変であり、授乳期のカルシウム欠乏を回避する機能はないことが判明しています。██牧場で飼育されていたSCP-3040-JPにカルシウム欠乏の兆候が見られなかった理由は不明です。
補遺3: 2004年9月現在、新たなSCP-3040-JP-1による被害は確認されていません。日本生類創研は現在もSCP-3040-JP製造に関する技術を保有していると推定されるため、依然として厳重な監視・情報収集が必要ですが、SCP-3040-JP-1の拡散は終息したものと思われます。
財団記録・情報保安管理局より通達
以上の文書は2003-2004年に作成され、アーカイブされていた報告書です。新たな事案の発生に伴い復元・追記されました。事案についての詳細は、下記の「SCP-3040-JP 追記事項」を参照してください。
— 2045年12月4日 RAISA管理官









