SCP-3042-JP
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SCP-3042-JP

アイテム番号: SCP-3042-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-3042-JPはサイト-81GKの低脅威度収容ロッカーに納められます。SCP-3042-JPは研究と医療目的の利用が認められています。必要な場合は、セキュリティクリアランス3以上の職員に申請してください。

サイト-81GK特別権限で、財団外にSCP-3042-JPを所持する人物が存在します。該当人物は、定期的にAgt.比嘉が監視してください。 全ての事例は回収され、Agt.比嘉の任務も終了しました。

説明: SCP-3042-JPは赤く着色された木製容器です。合計7個の実例が存在します。放射性炭素年代測定法によれば、SCP-3042-JPの製造年代は500年以上前です。

SCP-3042-JPは、糖尿病の患者であるヒトが接触した際に異常性を発揮します(以下、接触者)。SCP-3042-JPは、接触者の体内に新規の代謝経路を増設します(Metabolic3042-JP)。Metabolic3042-JPは、3種の未知かつユニークな酵素(Enzyme3042-JP-A、B、C)が関与する解糖系と類似した代謝経路です。Metabolic3042-JPは、グルコキナーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼなどいくつかの酵素は解糖系と共有しているように見えますが、未知の酵素を想定しなければ、生化学的に矛盾した代謝経路を取ります。SCP-3042-JPの異常な点は、ヒトが通常持たないグルコースの代謝経路を全く新規に創設することにあります。

通常、ヒトの体内では膵臓のβ細胞からインスリンが分泌されます。インスリンは細胞内にグルコースを取り込むよう働きかけます。ヒトの細胞は血管内から取り入れたグルコースを解糖系1で分解することでエネルギーを取り出します。糖尿病は、インスリンの分泌システムが劣化するか、細胞がインスリンに対する耐性を持つことで引き起こされます。その結果、細胞の糖の取り込みが阻害されるため、症状が引き起こされます。先天的にインスリンの分泌システムに問題がある一型糖尿病は、現在の標準医療で完治できないことが知られていました。SCP-3042-JPは、グルコースを代謝し、血糖値を下げます。

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図. 通常の解糖系の代謝における最初のステップ。グルコキナーゼによって、グルコースはグルコース-6リン酸に代謝される。酵素は生体内において特定の化学反応を促進する性質を持つ。

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図. Metabolic3042-JPは3種の未知かつ異常な酵素を出現させる。Enzyme3042-JP-Aは、理論上存在するはずだが発見されていない。

財団の行った治験では、SCP-3042-JPの利用によって糖尿病の主症状を回避できました。Metabolic3042-JPは、身体の恒常性によって是正されます。その効果は、長くとも24時間です。永続的に症状を回避するためには、一日に一度、SCP-3042-JPを利用する必要があります。標準医療における糖尿病治療とは異なって、SCP-3042-JPはインスリンの作用に影響を与えていないことに留意してください。

SCP-3042-JPは2024年に沖縄県沖縄市で回収されました。所有者である家族、中野一家は先祖からSCP-3042-JPを受け継ぎました。詳細な形での記録は失われていますが、中野一家の先天的な遺伝子異常の形質と関連性がある形でSCP-3042-JPの性質は伝えられています。財団がインタビューを行った中野真琴氏は、母方の祖母も一型糖尿病の患者であったと証言しています。

SCP-3042-JPが歴史のどの過程で作成されたのかはわかっていません。

補遺-1: 歴史

SCP-3042-JPに関する財団文化人類学部門の調査が行われました。財団は、蒐集院の所蔵していた古代琉球の伝説的記録『離地おもろさうし』から、SCP-3042-JPを作成したとする存在の記述を発見しました。文献に記されていることが事実を反映していれば、SCP-3042-JPの起源は沖縄本島にかつて存在していた神格実体です。SCP-3042-JPの起源については、神格実体が「おもやいの君」と称される人物に対してSCP-3042-JPを作成し譲渡した、という経緯があったと推測できます。中野一家の現在の邸宅から数キロメートル離れた場所にある地点3284-JPから、500年以上前に発生したと推定される高濃度のアスペクト放射とSCP-3042-JPと類似したアイテムの破片が確認できました。研究者は、アスペクト放射の推定存在時間とSCP-3042-JPの起源期間が一致していることを指摘しています。現在では、類似する神格実体の痕跡は確認できていません。

『離地おもろさうし』の調査の結果、SCP-3042-JPの作成者である神格は、生化学的な理解に基づいてアイテムを作成したことがわかりました。暗喩を用いた専門用語の言い換えによって、『離地おもろさうし』の一部分は、SCP-3042-JPが酵素などをヒトに与えることによって血管中のグルコースを減少させる性質を持つことを表しています。この文献では、一般的に琉球神話の神秘的な力のバリエーションである「せぢ」という単語が「グルコース」として解釈できます。その他にも複数の専門用語が琉球神話における単語に言い換えられていますが、中でも重要なものは「掻きつるぎ」です。現在、この単語が表す化学物質は発見できていません。発見されました。

Enzyme3042-JPの正体は現在も未判明です。財団は定性的な調査でこれらを分離できていません。

追記(2035/8/14) チュラキナーゼ

財団によるSCP-3042-JPの収容が行われた後も、沖縄本島に住む中野真琴氏(25)は生活上の理由でSCP-3042-JPを所持していました。中野家の一族は、遺伝的に一型糖尿病を発症しやすい環境にありますがSCP-3042-JPを引き継いでいくことで通常の生活を維持してきました。財団はAgt.比嘉による監視を行うことを条件に、SCP-3042-JPを所持し続けることを許可していました。

2035年、財団外の研究者である中野貴史氏は、Metabolic3042-JPと関連する酵素、チュラキナーゼを分離することに成功しました。チュラキナーゼは2種類の補酵素と関わり、Metabolic3042-JPの中の酵素として糖を代謝します。中野博士は、生体内での機能が不明であった遺伝領域からチュラキナーゼが転写/翻訳されることを発見しました。チュラキナーゼのmRNAは通常の方法で転写されず、またチュラキナーゼが酵素として活性化する際にも特殊な補酵素が必要です。この2つの要因から、チュラキナーゼはこれまでヒトの体内で機能せず、財団の調査でも感知されていませんでした。

Enzyme3042-JP-A/Bは、チュラキナーゼに活性を与える補酵素の1種です。チュラキナーゼは独立で酵素の活性を有しません。Enzyme3042-JP-AとEnzyme3042-JP-Bは、異なる活性を持ち、同時にホロ酵素を構成しません。財団が複数の酵素による化学反応作用と考えていたものは、同じ酵素が他の補酵素とホロ酵素を構成することによって、異なる効果を発揮していたものでした。

Enzyme3042-JP-Cは、現在ではチュラキナーゼの転写制御を行う正の転写制御因子であると考えられています。チュラキナーゼの遺伝領域は正常なヒトの体内では発現しません。Enzyme3042-JP-Cの作用によって、生体内で該当領域のmRNAが転写され、チュラキナーゼが翻訳されます。人為的に転写を開始させる措置が開発されたため、チュラキナーゼの有効活用は非異常の技術において可能です。ヒトはSCP-3042-JPとは無関係にチュラキナーゼを獲得したと推定されます。一説によれば、血液中にグルコースが過剰になる状態に対する適応です。

酵素の正体が判明したことによって、一型糖尿病の薬理的な治療方法も確立しました。この詳細は、ファイル「チュラキナーゼとダリ現象の相互補強」を参照してください。

2035/7/19、財団は中野真琴氏に対してサイト-81GKの予算で一型糖尿病の治療を提供しました。真琴氏はSCP-3042-JPを財団に譲渡し、SCP-3042-JPの研究チームは全ての実例の収容を完遂しました。以下はAgt.比嘉が行った真琴氏のインタビュー記録です。

インタビュー記録
サイト-81GK記録部門


インタビュアー: Agt.比嘉。Agt.比嘉はSCP-3042-JPが初めて収容されてから14年間に渡り真琴氏の監視を続けてきた。

対象: 中野真琴氏。沖縄市在住、一型糖尿病の既往患者。幼少期からSCP-3042-JPを用いて生活してきた。現在、一型糖尿病は寛解している。


[二人は雑談をしている。真琴氏は幼少期のことを話し始める]

真琴氏: 小さい頃はいつもあの赤い酒器と一緒でした。アレに酒を入れて飲ませられたことがあります。親戚の叔父さんです。アレがあるから大丈夫だろって言われましたね。

Agt.比嘉: 子供に、糖尿病の患者に、二重で良くないじゃないか。

真琴氏: アレがあるから大丈夫だろって、親戚の人間全員が思ってたってことですね。私としてもそうなんですよ。私が自分が糖尿病だったことを思い出すのは、夕方のほんの少しだけです。夕方にアレを触って、それだけでケロッと治ってしまう。

Agt.比嘉: ……思い出した。だから泣いていたな。

真琴氏: 昔のことですよ。でも大人になっても罪悪感がなかったわけじゃありません。テレビ番組で自分と同じ病気の子が大変な生活をしていることを知って、わんわんと泣きました。自分だけが大丈夫なことに、足元がぐらついたように思えて恐ろしくなったんです。

Agt.比嘉: 貴史君……いや中野博士が研究者を目指したのも確かあの時だな。

真琴氏: 貴史君でいいですよ、頭だけ良くなって、心は全く成長してないんだから。こないだも寝食忘れて本に集中していました。それで倒れてちょっとした騒ぎになったんですよ。

Agt.比嘉: 相変わらずだ。もしかしたら一番おもやいの君と神のことを理解しているのは、彼かもしれない。自然を理解しているよ。

真琴氏: おもやいの君?

Agt.比嘉: いや、こっちの話だ。すまない。それにしても申し訳ない。せっかく貴史君が頑張ったのに、その末路はSCP-3042-JPを回収するということになってしまった。上にも掛け合ったんだが。財団職員として失格だが、中野家の伝統に終止符を打つことになってしまったのはショックだ。

真琴氏: 終止符? そんなことありません。これで世界中に病気を治す方法が広がるようになった。私と同じ人たちも助かります。だから、これは『始まり』ですよ。

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