アイテム番号: SCP-3044-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3044-JPに対して活性化を阻害する技術は、現在も開発及び研究中です。阻害技術の開発に成功した場合、当該オブジェクトのクラスは技術の有効性が充分に実証された後、変更査定が行われます。
SCP-3044-JP-Aの出現が疑われる場合は、神話・民俗学部門の調査チームに協力を仰ぎ、速やかに対処して下さい。SCP-3044-JP-Aに何らかのプロセスで暴露した場合は、██研究室にて治療を受けて下さい。
説明: SCP-3044-JPは古典哲学に於いてプラトンが提唱した形而上世界1に存在しているイデアの1つです。当該オブジェクトは現象界にSCP-3044-JP-Aを出現させます。JP-Aは当該オブジェクトに存在証明を担保し、現象界に出現します。当該オブジェクトが正式に収容対象として登録される以前は、イデア-3044と呼称していました。それは暫定呼称であり、活性化したイデア-3044が想起に対して反ミーム性を発揮している事で、現段階では如何なるイデアであるか形容および特定出来ない事を表します。
SCP-3044-JP-Aは様々な霊的実体や、伝承に登場する物質に擬態します。
特に出現地域で土着している伝承および逸話を優先的に好んで擬態する傾向が確認されています。擬態が完了した当該オブジェクトは、オリジナルと同様の異常性や特性を発揮しますが、完全な模倣を行った事例は現在確認されていません。
SCP-3044-JP-Aは異常性ないし特性の完全な模倣を行わない代わりに、独自の異常性を獲得します。それは、出現地域の周辺で生活する民衆が、擬態した当該オブジェクトに対して持つ信憑性を高める契機として利用されます。これによって当該オブジェクトは、オリジナルと比較して欠如している自己を信仰によって補完し、より地域に土着する事を目指します。
発見経緯: SCP-3044-JP-Aの出現起因であるイデア-3044の発見は、要注意団体のMoon Eleder Industry(以下、MEIと記載)による活動が原因と判明しています。
以下の文書はMEIコミュニティに介入中の財団傘下組織を通して、本件に関係するMEIメンバーらに聴取を行った際の文書です。
Moon Elder Industry
あのイデアは『hyperon』の活動で発見した物で間違いない。
hyperonとは、MEIコミュニティ内で形成されている派閥の1つだ。私を含め、イデアの解析やサルベージが得意分野だ。姿を消していた物質や概念を現象界に再出現させる為に活動しているよ。
現象界に模像を落とさなくなっていたイデアに、我々はヌース2を再び注ぐ。それは堰き止められ、流れが止まっていた水路を解放するような作業になるのだが……
[作業手順の説明 中略]
私達の目的? 私達の目的は別にMEIコミュニティ全体が目指している事ではないよ。私の成果は幾人の友人達にだけ共有しているからね。
俗な言い方だけどサークル活動さ。
そんな私達の最大目標は、伝承の中だけとなってしまった失われた物質や生物を、再び現代に甦らせる事だよ。イデアを再活性化させるというアプローチで実現する訳だが、実際上手くいったよ。
最初に確認したのはメキシコだね。ヌース経路を辿れば、現象界の出現場所は直ぐに割れる。我々もまたメキシコに分身体を降ろしてイデアから出力された物の確認に向かった。
寂れた村外れの、雑木林が生い茂る中で出現していたのは、見上げる程に大きな白い結晶塊だった。
我々はそれはもう驚いた。何しろ想定していたのは、あのケツァルコアトルが現れると思っていたのだからね。
だから、その時になって初めて気が付いたよ。詰まる所、我々はケツァルコアトルのイデアを想起している“つもりだった” だけなんだ。あのイデアは、“ケツァルコアトルのイデアである”とコミュニティには言い伝えられていたし、その記録も確かに残っていた。しかし、それは勘違いでその実態は、現象界で古代アステカの金星に擬態していた過去を持つイデアだった。いいかい? つまり、私達は手違いで全く別のイデアを想起していたんだ。
だが、そうなるとおかしい。イデアは永遠不変なんだ。だから、別の何かに姿を変えて擬態するというのはイデアの在り方として矛盾する。
そこで考えてみたが、恐らくイデアそのものは変化していないという事だと思うな。
つまり、イデア界に居る真の姿イデアは永遠不変性を保ったままだが、現象界に居るその模像3だけは変幻自在に擬態出来るというのが我々の見立てだ。分かるだろうか?
ともかく話を戻すが、私達はケツァルコアトルではない何かのイデアを想起して、枯れ果てていた所を甦らせた。そして、メキシコに出現した。因みに、白い結晶塊が出現したと言ったが、実のところを言えば麻薬だったよ。コカインの塊だ。
出現したその村では麻薬に関係する信仰が強く根付いていたのだよ。いや、村というよりも市内全体を支配する麻薬カルテルが、強く信仰していたというべきだろう。彼等の信仰には麻薬に関する民間信仰があるようだ。だからなのか、わざわざ精製済みのコカインに擬態するとは驚いたよ。
何にせよ、私達は出来る限り現地で調査と研究を行うつもりで居たが、カルテルの彼等は自分の庭を良く把握しているようで、私達の存在に2日も経たず気づいた。莫大な利益を生む、まるで“鉱脈”のような結晶塊を欲する者たちは彼等だけではない。誰よりも早く手に入れたかったのだろう。
よって、私達は彼等がライフルをこちらに向けるより早く手を引くことにした。そんな彼等の動向を遠くから注目していた方が、安全に情報を得られると判断したからだ。
暫くして、彼等は崩した得体の知れないコカイン晶を村人に配り、わざと使わせた。そして、崩しても再生する上に、いつも売り捌いている商品と同じように扱える物と気付けば、広く世界に手を伸ばし始めた。
そこからは貴方達も知っての通り。この日本の裏市場にも大量に出回るようになり、貴方達の注意を引く原因になる。
財団が上記の情報を得たのは、日本のブラックマーケットにSCP-3044-JP-A由来の麻薬が十分に流通した後でした。
現在、メキシコに出現したSCP-3044-JP-Aは現地の財団支部によって確保収容済みです。メキシコ系麻薬カルテルの活動によって、覚醒剤として流通した当該オブジェクトは、形而上学的観点の組成にヌースが用いられているため、財団側に友好姿勢を示すMEIメンバーの協力で、判別方法が確立されました。現在も当該オブジェクト由来の麻薬は摘発が継続されています。
インシデント-3044-1: 20██年8月23日、SCP-3044-JP-Aと思われる霊的実体が、██県██市の一般県道██号、旧██トンネル内にて頻繁に出現しました。当初は旧██トンネルに関する、一般的な霊的実体発生の事案として対処されていました。しかし、鎮静化作業に効果を示さない霊的実体が複数発生していたため、財団が既知としないリスクの有無を考慮して専門の調査チームが派遣されました。
旧██トンネル
1930年3月31日竣工、20██年6月2日廃道
旧██トンネルは、██バイパス竣工と新トンネル開通に伴い廃道になりました。
旧██トンネルに対する近隣住民の認識は、“怪奇現象が多発するトンネル”であり、この認識は世代を超えて伝聞され続けています。現在は、財団の定める第2種霊的懸念建造物として登録されているため、定期的に神道準拠の祓いを執行し、霊的実体及び現象に対して鎮静化を行っています。
旧██トンネルの怪談について
旧██トンネルに関連した怪奇譚の中でも、“旧██トンネルの鏡写し”と通称される怪談が最も有名です。様々な派生や内容の差異があり、以下は周辺地域で最も口伝されている形の内容です。
Aさんが夜の暗い旧██トンネルの中を通る時、友人に似ている人物とすれ違った。思わず本人だったのか確認しようと振り返り、懐中電灯を向けると、その人は破れた衣服を着ていて脚を引きずりながら血を流していた事に気付いた。
「怪我をしているみたいですが、大丈夫ですか?」と気遣いの言葉を掛ける。
声に応えるように、ゆっくりとこちらに振り返ったその人物は、間違いなく友人その人だったが、顔は酷く潰れていて出血していた。顔が潰れているのにも関わらず、何故か友人だと思った事に気付いて、恐怖を抱いて堪らなくなったAさんは走ってその場を離れた。その後、無事に帰宅できたAさんは友人に電話を掛けた。受話器の向こうで元気そうな受け答えをする友人の様子に胸を撫で下ろした。
だが、Aさんの友人はその電話から1週間後に交通事故で亡くなった。乗っていたバイクに居眠り運転のトラックが衝突してくる事故だった。遺体の状態は、あの夜トンネルで見た姿そのもので、顔面が原型を留めていなかったという。
平時の鎮静化作業に当たっていた担当者が、突如として執行する祓いに、一定の効果を示さない霊的実体が複数出現している点を、リスクとして報告しました。この報告を受けて財団は神話・民俗学部門の調査チームを派遣しました。
現地にて調査チームは、神道以外に多種多様な浄化に係る儀式を試行しましたが、決定的な鎮静化には至りませんでした。そのため現地では後述の取組みをチームが行うまで、SCP-3044-JP-Aの発生が継続していました。
後日、新たな観点から調査を行うため、他分野の有識者が██名派遣されました。派遣された有識者の内、メキシコに出現したSCP-3044-JP-Aの調査に参加経験があった研究グループも含まれていました。よって、旧██トンネルに出現するSCP-3044-JP-Aがヌース由来の特殊実体であり、正しく霊的実体ではないことを発見し、指摘しました。この指摘に基づき、MEIコミュニティに協力を打診後、彼等の開発した儀式体系を用いて場の沈静化に至りました。
出現した霊的実体の容姿を周辺住民と照合した結果、同様の容姿をしている住民が██人存在していました。その内の約半数以上が、調査段階の時点で既に死亡していました。なお、生存していた住民の内1名に、準監視対象リストに登録されている人物が含まれていた事で、後述する宗教法人 “光輝の道” について財団の関心を高める契機となりました。
関連項目-3044-1: 先述の調査にて得た情報からインシデント-3044-1と少なからず関係性があると判断された事で、財団は周辺地域で広く信仰を持つ宗教法人 “光輝の道” を調査しました。以下は当該宗教法人の概要と調査報告です。
宗教法人 “光輝の道”
当該宗教法人は1982年に秋本幸之助氏が発足させたアロマセラピーサークル “交りの友” を母体としています。1985年に現在の “光輝の道” に改称後、1989年に██県知事から宗教法人として認証され、現在に至ります。
1980年代当時、関連書籍が多く売り出され始めるなどアロマセラピーは日本で流行し、注目を集めました。その流行を利用する形で発展してきた “光輝の道” は様々な教義および宗教観念を部分的に取り入れ、独自の解釈をもって纏め上げ、当該宗教法人のドグマとして確立しています。確立した教義は現人神信仰の側面が強く現れており、秋本幸之助氏を神として崇拝し、氏を絶対的な中心として組織を運営しています。
しかし、1999年に秋本幸之助氏が肺炎を患った事で組織運営を息子の秋本鷹之助氏に引き継ぎます。20██年現在、当該宗教法人は秋本鷹之助氏を中心に精力的な活動を続けています。
“光輝の道” は宗教法人の運営に留まらず、学校法人の運営や、福祉医療の投資などを通して社会と密接な関係を築いており、関連法人組織の運営が鷹之助氏に引き継がれた後も周辺地域と良好な関係を保っています。
しかし、その一方で反社会的組織との関係も根強く、裏社会でも広く周知される組織になりました。主に当該宗教法人の重要行事に位置付けられる、密教的儀式にて利用する幻覚剤の輸入に端を発した関係です。今後、より拡大する組織規模を鑑みて、財団は当該宗教法人を準監視対象リストに登録しています。
“光輝の道” 調査報告
以下は “光輝の道” に長期潜入中の財団職員が撮影した記録です。撮影終了後、眼鏡に搭載した小型カメラの映像データが破損していた為、出来る限りの修復を行なった結果、音声のみとなりました。
その音声を書き起こし、一部は撮影者の記憶を元にして再構成しています。
<場所, “光輝の道” 本部 大広間>
<撮影開始, 20██/07/01>
秋本鷹之助: これより[音声ノイズ]の儀を始める。
巫女: [祝詞]
[20分間に渡る舞の奉納]
秋本鷹之助: ██さん。前へ来なさい。
██さん: はい。
秋本鷹之助: では、これより[音声ノイズ]の儀を始める。
[鷹之助氏が神酒を飲んだ後、██さんに盃を渡す。██さんは盃から神酒と思われる液体を飲む。]
秋本鷹之助: では、██さん。力を抜きなさい。
[巫女による舞と祝詞]
██さん: [呻き声](座り込む。)
秋本鷹之助: 準備は成りました。では皆様、別室に移動して下さい。
[撮影者、別室に移動]
[約1時間後、再び大広間に戻る]
[大広間の中央に██さんが鎮座する]
幹部 ██氏: 御子様!儀を…!娘に御授け下され!どうか、どうか…!
秋本鷹之助: 分かっています。顔を上げて下さい。全てはこれからです。まずは御座り下さい。
幹部一同: [感嘆]
[鷹之助氏、大広間中央に鎮座する██さんの元まで移動。██さんの背中側に立つ]
秋本鷹之助: 巫女よ、始めます。
巫女: [短刀を手渡す]
[鷹之助氏、短刀を抜く。刀の先を自身の横隔膜下に向けて持つ]
巫女: 皆様、御手を合わせ下さい。
[巫女による祝詞]
(その後、鷹之助氏は横隔膜下を短刀によって開胸し、下側から肋骨を避ける様にして手を入れて、自ら心臓を摘出する様子が記録されます。)
██さん: [笑声](鷹之助氏の血が掛かる)
幹部一同: [拍手]
[この後、約1時間に亘って手を入れ続けている音、██さんの笑声、音声ノイズのみが修復出来ました]
<記録終了>
報告: この儀式は当該宗教法人で重要儀式として位置付けられており、教祖の秋本鷹之助氏と、幹部、巫女、儀式に携わる人物にのみ知らされている儀式です。財団は長期潜入の成果により、記録者が幹部構成員となった為、儀式の参加に成功しています。
秋本鷹之助氏は心臓を自ら取り出した後、暫く絶命する事なく1時間未満活動していました。その後、遺体は回収しましたが、異常は見られませんでした。
儀式に使われていた神酒にはコカインに類似した作用を示す薬物が混入されており、それはブラックマーケット上で流通するSCP-3044-JP-Aである事が検査にて判明しました。
この儀式は前教祖の時と大きく内容が異なっており、教祖継承後の秋本鷹之助氏による独自解釈に基づいた改修が施されていると推測されます。
関連項目-3044-2: 以下は20██年7月31日に発生した『██君16歳 行方不明事件』について、██君と交友があった人物の発言と██君の祖母の発言を記録した文書です。██君は関連項目-3044-1の儀式に参加していた██さんの嫡子である事が判明しています。
なお当時、聴取をしたのは警察官として在籍していた財団職員のエージェント██です。
友人である██君の発言
僕はあいつと幼い頃からの友人です。
最後にあいつと会ったのは行方不明になる前日で、あいつは家出したと言って僕の家に遊びに来ました。その時は冗談だと思っていましたが、1日だけでいいから泊めてくれと必死で言うあいつの顔を見て嘘じゃないと感じたのを覚えています。
なぜ家出をしたのか訳を教えてくれないと泊めてやれないと言ったら、あいつは渋い顔をしながら話し始めました。あいつは鍵っ子です。たまにしか親は帰ってこないと言っていました。それで、丁度その日が久しぶりに帰って来る日だったらしくて、学校が終わってから家に帰ると居間にあいつの母親がもう帰って来て座ってたみたいなんです。
あいつは母親に「もう帰ってたの?」って声をかけたらしいんです。すると、あいつの母親が「喜びなさい、お前の兄弟ですよ。」て言って和室に繋がる襖を開けると、そこには全く知らない歳上の男が立っていたらしいんです。
それであいつはその男の顔を見て、恐ろしくなって堪らず逃げたと言っていました。「そんなに怖い顔をしていたのか?」って聞いたら、あいつは「男の顔が滅茶苦茶だった。失敗した福笑いみたいだった」と言っていました。僕は「見間違いじゃないのか?」と言うと、「それだけじゃなくて声も変だった。音を無理矢理、人間の声に似せたような感じでノイズみたいにブチブチ途切れるんだ」と言って、とても気分が悪そうでした。
段々と顔色が悪くなっていたので僕は「大丈夫か?」と聞くと、あいつは「死んだ親父の声に音が似てくるんだよ」と言ったっきり黙り込んでしまったんです。
あいつは落ち着くまで家に居て、「迷惑になるから1度家に帰って母親と話をしてみる。男の顔も見間違いかもしれない」と言って夕方には帰って行きました。それから1時間くらい経った後に、あいつの事が気になってあいつの家に電話を掛けたんです。
呼び出し音の後、受話器を持ち上げる音が聴こえて来て、それであいつの家の誰かが出たのは分かりました。でも、何度も「もしもし」と言っても受話器の向こうからはブツブツ途切れるようなノイズが聴こえて来るだけで、応答はありませんでした。心配になって僕はあいつの家に行ったんです。でも家には鍵も掛かってなくて、あいつも誰も居なくて、だから物凄く不安になりました。
その事を家に帰って僕の親に話をしてから色々あって、あいつのお婆ちゃんが捜索願いを出したそうなんです。
これ以上の事は僕も知りません。すみません。
祖母の発言
後悔しています。あの子の父親が亡くなってから、娘とは度々連絡を取っていましたが、怪しい宗教に傾倒していたとは露知らず。
あれから娘とは連絡が取れません。ですが……ああ、いえ。こんな事を言ってもおかしいとは思うのですけれど……ええ。でもこんな事は近所の誰にも言えなくて……
聞いて貰って、本当にすみません。その、あの子が居なくなって1週間経ってからの事なんですが、夜更けになってすっかり寝ていた時です。ふと途中で目が醒めたのですが身体が動かなくて、でも気配がして枕元の方に視線を向けるとあの子が座っていたんです。
私は声を出そうとしても全く出なくて……そしたらあの子が何か喋っている事に気がついたんです。
あの子は言っていました。「母ちゃん、言ったんだ。死んだ親父の忘形見だからって、俺の事、何があっても守るって言ってくれた。あの時は本当に嬉しかったなぁ。でも結局、母ちゃんじゃなくなった。おかしくなったんだよ」って繰り返し繰り返し同じ事を言うんです。それを聞いていて、ただただ私は守ってやれなくてごめんって謝りたくなって……すみません。些細な事でも話して下さいっていうのはこういう事じゃないですものね。ごめんなさい。忘れて下さい。
付記: 上記2名の発言は、後述するインシデント-3044-2及びインシデント-3044-3との関連が指摘されています。
インシデント-3044-2: 秋本鷹之助氏が死亡したと確認されたにも関わらず、20██/08/31に行われた “光輝の道” の集会において氏が姿を現し、説法を始めたとの報告がありました。
氏の死亡は同年7月1日に確認されました。遺体の検死と葬儀が行われた際にも、明らかな死亡が確認されていました。また、火葬後は██湾にて散骨した事も確認しています。
しかし、20██/08/31に行われた集会において氏が集会場に突如、生前同様の容態で参加者に説法を始めたとされています。集会終了後、財団は出現した秋本鷹之助氏と思われる実体を拘束する為、移動の目的で車両に搭乗していた氏を強襲しました。
氏とされる人物は拘束後の各種検査に於いて、ヌース由来の特殊実体である事が判明しました。その後、検査によって看破された事を契機にした崩壊が発動し、氏に扮する特殊実体は霧散しました。
この特殊実体の出現はSCP-3044-JP-Aの伝説及び伝承に擬態する異常性が原因と推測されます。理由として、宗教法人 “光輝の道” には死後の復活に係る教義が存在します。この教義の為、当該宗教法人は教祖死亡後も熱心な信仰を保ち続けており、インシデント-3044-1を契機として土地に定着を始めたSCP-3044-JP-Aが、これら信仰を下地に異常性を発揮した可能性が有力視されています。
なお、氏を拘束する際、特別構成員による抵抗を受けました。特別構成員とは所謂、秋本鷹之助氏の実質的な親衛隊であり、それらは特徴として鼻や口、また目などの器官が乱雑に配置された顔面をしています。
特別構成員なる信者は、20██/07/31日に最初の信者が確認されてから徐々に人数を増やしており、現在では██名の所属が確認されています。特別構成員は組織内部で幹部を凌ぐ影響力を持ち、秋本鷹之助氏が亡き後の “光輝の道” に於いて、氏の代理として儀式を執り行っていました。特に関連項目-3044-1と同様の儀式は、月に3回の頻度で行うようになり、儀式で死亡した特別構成員の遺体は火葬して██湾に散骨しています。
20██/09/20 財団は “光輝の道” が持つ肥大化した影響力や危険性を鑑み、法人解体作戦を決行しました。なお、この作戦はSCP-3044-JPの起こした様々な異常性が、組織内に対して及ぼした影響を調査する目的も含まれています。作戦は組織内の主要幹部暗殺や、全ての特別構成員の拘束を行い、約5ヶ月の期間をもって完了しました。作戦後、当該宗教法人は財団によって管理下に置かれ、現在も存続しています。
インシデント-3044-3:
20██/12/20から、██市では奇形児の出産が頻発するようになりました。財団の詳細な調査により、奇形児から██ppmのSCP-3044-JP-A由来と見られる物質が検出されました。これは、“光輝の道” による██湾への散骨が遠因であり、食物連鎖を経て人体に生物濃縮していた結果と推測されています。
このように、SCP-3044-JP-Aに暴露した奇形児の成長速度は、通常の乳幼児と比べて非常に早く、誕生から約1ヶ月で18歳前後相当に成長します。
補遺: SCP-3044-JP及びSCP-3044-JP-Aを収容するにあたって、協力関係にあるMEIメンバーから以下の意見を得ています。
Moon Elder Industry
例のイデアが我々の住まう現象界に、影たる模像を落とす。これを防ぐ為には、もう1度あのイデアを眠りに導かなくてはならない。
我々が引いてきたヌースの流れ道を再び堰き止める他にない。
だが、あのイデアはヌースとの繋がりが極めて強い。今や流れ道は我々が引いたときよりも太くなっており、断つだけでも難しくなっている。そればかりか、あのイデアは我々の想起を拒む。
一体、何のイデアを甦らせてしまったのだろうな。
あのイデアは何か目的があるような気がする。一見、宗教や伝承に取り憑いているだけのように見えるが、私は文化を喰らうのが目的のように感じる。
宗教や伝承を持つということは、文化を持つという事でもある。謂わば、人間が人間たらしめる重要な要素の1つではないかと思う。あのイデアが降ろす模像はそれに擬態し、信仰を通して日常に染み込む。
我々の文化は知らず知らずの内に別の意味を孕むようになるだろう。それは日々の挨拶や、礼拝や、学びを得る事にさえ、別の意図が込められるようになっていても、気付く事さえ難しくなるという意味だ。
あのイデアが何であるかを語る事は慎重に行わなくてはならないと思う。わざわざ我々から化けの皮を見繕う必要は無いのだから。