対象: 毛利博士
インタビュアー: 阿賀佐研究員
付記: インタビューはSCP-3071-JP‐1隔離施設内に設置された尋問室で行われました。なお、毛利博士はSCP-3071-JP‐1の中で唯一正常な会話が可能な個体として収容されており、本インタビューはSCP-3071-JPの詳細分析を目的に行われました。
<再生>
インタビュアー: 博士、ご気分は。
毛利博士: 最悪だよ。毎晩うなされている所為かよく眠れないんだ。いつも、あの中の光景が夢に出てきてね。
インタビュアー: 中とはSCP-3071-JPのですか。
毛利博士: ああ。それを聞きに来たんだろう? 恐らく、私は唯一まともに会話ができるSCP-3071-JP‐1の1人だ。あれを認識しかつ、自らで掘削作業を完了する事が完全な暴露の条件なのだろう。私はD‐882が掘り起こした場所を見ただけだからね。重症化していないのがその証拠だ。
インタビュアー: では、始めます。
毛利博士: ああ。よろしく頼む。
インタビュアー: まず、博士と毛利 健太さんとの関係を教えてください。
毛利博士: 息子だよ。一人息子だ。
インタビュアー: 息子さんの現在は。
毛利博士: 死んでる。10歳の時だ。
インタビュアー: 息子さんの死因などは?
毛利博士: 交通事故による全身打撲と頭蓋骨陥没。わき見運転をしたダンプカーに撥ねられたんだ。即死だったよ。
インタビュアー: 何故、息子さんは。
毛利博士: 私が息子を叱ったからだ。
インタビュアー: 叱った?
毛利博士: あの日、私はあの子のテストの点数について言及したんだ。何をやってた、恥ずかしくないのか。今考えても、心無い言葉の羅列だったと思う。あの頃の私はね、自分の家柄だとか周囲の評価を特に気にしていてね。ここに来る前はそこそこ学会で名の知れた研究者ではあったから、息子にはそれに恥じない態度を取ってほしかったんだ。だが、結局は全て私のプライドだ。私の子供に限って勉強が出来ないなんてあり得ない。その苛立ちを彼にぶつけていただけだ。
インタビュアー: それで、息子さんは。
毛利博士: 家を飛び出した。限界だったんだろう。私に対しても、周囲の期待にも。
インタビュアー: 追いかけたりはしたんですか?
毛利博士: 普通ならそうすべきだったんだろうな。だが、あの日の私は……。私は馬鹿な、この世で一番馬鹿な父親だよ。
インタビュアー: あの、気を悪くしないでほしいのですが。
毛利博士: 構わない。何でも訊いてくれ。
インタビュアー: 本当に事故だったんですか?
毛利博士: ドライバー曰く、ふらふらと道路に飛び出したそうだよ。今となっては、それが故意だったのか、不注意だったのかは定かじゃない。
インタビュアー: す、すいません。出過ぎた質問でした。
毛利博士: いや良いんだ。良いんだよ、もう。
[2秒間の沈黙]
インタビュアー: あの日、SCP-3071-JPの実験でD‐882が博士の息子さんの事が語りましたが、その原因は分かりますか?
毛利博士: 完全な憶測だが、あれは一種の隠し場所もとい保存場所なんじゃないのかと私は思っている。
インタビュアー: 保存場所?
毛利博士: 本来、SCP-3071-JPは反ミーム特性により人類からの干渉を受けない。根本的な原因や原理は不明だが、要は隠しているんだ。世間から。
インタビュアー: なるほど
毛利博士: それと、あの下には大量の死体が埋まってる。
インタビュアー: 死体?
毛利博士: 今も目に焼き付いて離れない。大量の子供の死体だ。あそこは酷く冷たくて、まるで永久凍土の様な場所だった。一種の冷凍保存のつもりなんだろう。それの余波が地上にも現れている。そして、その奥に奴がいる。あの、異常性の根幹だ。
インタビュアー: それは、何かしらの実体がいたという事ですか?
毛利博士: そうだ。奴は迷子になった子供を集めてる。恐らく、健太と似たような境遇の子供達を連れ去っているんだ。
インタビュアー: その目的などは予想できますか。
毛利博士: 流石に全ては分からない。だが、あれは……。私からすれば何もかもが邪悪だ。あんなに沢山の子供を集めて、あいつは……。
インタビュアー: その実体は一体何を?
毛利博士: 改造だよ。
インタビュアー: 改造?
毛利博士: あいつは彼らを好き勝手に弄り、もてあそんでいる。それに何の意味がるのかはさっぱり分からない。でも、あれだけは……。あれだけは絶対に許せない。許しちゃいけない。善意なんかじゃない。絶対に悪意だ。じゃなきゃ、健太をあんな姿になんかする訳がない。 あれが健太の筈がない。絶対に違う。
インタビュアー: 博士……。
毛利博士: 私が、見つけてやるべきだったんだ。あの日、すぐにあの子の後を追いかけていれば……。
[3秒間、毛利博士の鼻を啜る様な音が続く]
インタビュアー:落ち着きましたか?
毛利博士: あ、ああ。すまんね、取り乱して。
インタビュアー: いえいえ。
[2秒間の沈黙]
インタビュアー: 博士、私からもよろしいでしょうか? 自分なりの考察があるんです。
毛利博士: ああ。聞かせてくれ。
インタビュアー: 博士は、あれが邪悪な所業だと言いました。
毛利博士: ああ。
インタビュアー: それは、本当にそうでしょうか。
[2秒間の沈黙]
毛利博士: それは、どういう……。
インタビュアー: 博士の言い分こそ、ただのエゴなのでは?
毛利博士: お、おい。阿賀佐君。何を言って……。
インタビュアー: あれ自体を、子供たちが望んでいるとしたら? そう思ったことは無いんですか?
[何かが倒れる音]
インタビュアー: 知ってますか? 博士。家を飛び出した子供が一番嫌ってるものが何か。環境? 親? 全然違う。違いますよ。世の大人は勝手に予想を立てますが、全く違う。それは何か。自分です。自分が何より嫌いなんです。叱られた自分、不甲斐ない自分、出来損ないの自分、自分自分自分。だから僕らは身を寄せ合って、自分から変わるんです。
毛利博士: お、お前、誰だ……!? 何者だ……!
インタビュアー: 可哀そうに。博士。
毛利博士: よせ、止めろ!
インタビュアー: 可哀そう可哀そう可哀そう。健太君可哀そう、お父さん可哀そう、寂しい寂しい寂しい。
毛利博士: 来るな……! 来るな!
インタビュアー: 行こ? 一緒に行こ? 来い。来い来い来い来い。
[5秒間、物が倒れる等の音が続く]
毛利博士: お、お前は一体何なんだ!? 何者なんだ!
[複数人の子供の笑い声]
毛利博士: やめろ! やめてくれ!
[複数人の足音(尋問室内を走り回っていると思われる)]
毛利博士: 何で……! 何でこんな……! お願いだ! 頼む! 私が悪かったんだ! 全部、全部私の所為だ! だから! だから健太を……! 健太を返してくれ!
[複数人の子供の笑い声]
毛利博士: 健太……! お父さんが悪かった……! お父さんは……!本当に、お前の事を……!
[突如、周囲の音が停止する]
[2秒間の沈黙]
毛利博士: や、奴は何処に。
Unknown(観測されていない子供の声): お父さん。
[1秒間の沈黙]
Unknown: お父さん。
毛利博士: やめろ。
Unknown: ただいま、お父さん。
毛利博士: 違う。
Unknown: お父さん。
毛利博士: 違う違う違う。違う! お前は健太じゃない!
Unknown: お父さん。
毛利博士: 違う!
[3秒間の沈黙]
インタビュアー: また、彼に理想を押し付けるんですね。
毛利博士: 来るな……! 来るな……!
[複数人の子供の声]: おかえりー!
[毛利博士の叫び声]
<停止>
終了報告書: この記録を最後に毛利博士は失踪しました。なお、阿賀佐研究員に関してはこのインタビューが行われる直前に何者かによって頭部を殴打された際の脳震盪が原因で医務室に運ばれていたことが確認されています。現在、このインタビューを行った実体の調査も継続しています。