SCP-3091-JP
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アイテム番号: SCP-3091-JP

オブジェクトクラス: Neutralized

特別収容プロトコル: SCP-3091-JPは所定の期間、無力化済物品倉庫にて保存されます。

SCP-3091-JPの作成者と目される永井氏について、当人の異常性の有無を含めた身辺調査が継続中です。

説明: SCP-3091-JPは木片を繋ぎ合わせて作られた、全長約2.3mの粗雑な構造物です。初期収容時には視認性の認識災害が見られましたが、現在は異常性を喪失しています。

SCP-3091-JPは大分県大分市に位置するアパート、「ドリーム19」205号室の屋根裏にて非常に痩せた男性の死体(永井 聡一氏、享年30歳)が発見された事件において、警察機関に潜入していたAgt.堀により回収されました。後述の記録及び初期の実験では認識災害が確認されたものの、収容下で急速に減弱し、回収から3ヶ月後にNeutralized指定に至りました。SCP-3091-JPの205号室への移送、永井氏の死体との接触といった試行は有意な結果を示しませんでした。

以下は回収時の記録です。

日時: 2020/12/4
備考: 永井氏の隣人による「連夜続いていた激しい物音が最近止み、ダクト越しに腐臭がするようになった」との通報を受けての捜査。Agt.堀は1名の警官と共に「ドリーム19」205号室へ突入した。


[再生開始]

[Agt.堀は玄関ドアを激しくノックする]

Agt.堀: 永井さん! いらっしゃいますか? 警察の者ですが、少しお話を伺えないでしょうか!

警官: 堀さん、ソレ意味あります? 永井聡一でしたか。多分もう……。

Agt.堀: [沈黙] まあ、な。

[Agt.堀はマスターキーを用いて玄関ドアを開ける]

Agt.堀: うお、何だこりゃあ。

警官: 死体の臭い、ですね。

Agt.堀: それもだが、散らばってるのは……木くずか? よくあるゴミ屋敷じゃない、妙な荒れ方だ。ズボラなガレージって感じの。

[部屋の奥へ進む]

[2名が床に倒された状態のSCP-3091-JPを発見する]

警官: これは階段……いや、梯子……?

Agt.堀: 梯子だな。

警官: ああ、梯子ですね。

[2名は同時に上を見上げる]

Agt.堀: 天井を壊して抜け出したってことか。確かに、梯子を掛けるにはここしか無い。

警官: 成る程。彼はどうやってやり仰せたのでしょうか?

Agt.堀: ああ、不可能だった筈だ。しかし、彼はともかく梯子を為した。そして登った。

警官: はい。そして彼は梯子を捨てた。故にもう、述べるべきことはありませんね。

Agt.堀: ちょっと手伝ってくれ。

[Agt.堀は警官にSCP-3091-JPを持ち上げさせ、天井の穴に立て掛けさせる]

Agt.堀: お、意外と安定してるな。

警官: 彼は踏み外さなかった。

[Agt.堀はSCP-3091-JPに足を掛け、天井裏まで登っていく]

警官: 今、僕は無意味です。

Agt.堀: そうだな。……お、仏さんを見つけたぞ。良かった。

警官: 良かったですね。

Agt.堀: ああ、良かった。

[再生終了]


補足: Agt.堀と警官は記録終了後3時間に渡り、屋根裏と室内にそれぞれ留まり続けた1。その後205号室を後にした2名に不審な様子は見られなかったが、スクリーニング検査により認識災害の痕跡が確認された。

205号室内には机や本棚と思われる残骸が散乱しており、永井氏はこれを材料にSCP-3091-JPを作成、205号室の天井板を破壊して屋根裏へ侵入したと見られます。室内及び天井裏から発見された文書の内容からは、永井氏が何らかの理由で外出を不可能視していたこと、SCP-3091-JPの作成及び天井板の破壊によって205号室からの脱出を試みていたことが示唆されています。

文書-3091群

「私が外へ出る為に」

部屋から出られない。理由はわからない。
私は、この部屋と私自身以外になにも知らない。外を知らない。
外に出る方法が無い訳はない。方法を見つける為には何が必要なのか?

今の私に出来ること
考えること
見ること

では考えよう。見えるものから論理立て、梯子を一段ずつ踏みしめるように。
世界に論理を立て掛けるのだ。

私はどこにいる? 当然ここに。部屋の中、床の上、天井の下。
私は存在する。私は一人、世界に存在する。

今の私にできること
存在を述べること。
存在は独立だ。独立とは疑う余地が無いということだ。
論理は存在から導かれる限り、同様に独立となる。
しかしこれ以上何を導ける?

この息詰まる部屋はそのまま、論理の限界だ。梯子を組むには狭すぎる。
壁と床と天井は私を導くだけで、それ以外の何をも語り得ず、循環するのみだ。

では疑うほかない。その余地が無くとも。

事実の一覧
私は 永井聡一は部屋の中にいる。
永井聡一以外は部屋の中にいない。
部屋は

部屋を疑えるか?

部屋が存在しないならば、永井聡一が存在するとは言えない。
故に永井聡一の存在を留保すれば、論理の限界は消失する。
ナンセンスだ。

永井聡一がすべきこと
梯子を組むこと。部屋の外まで登ってゆくため。

梯子を組むためすべきこと
永井聡一を留保すること

足場を留保しては、梯子が立つ筈もない。

循環に行き詰まるか、ナンセンスに堕すか。いずれにせよその原因は明瞭だ。
存在から不在へは至れない。既知から未知へは至れない。その逆もまた。

事実と論理の一覧
部屋が存在しないならば、それは未知である。
足場たる部屋が未知ならば、梯子もまた未知へ至る。
しかし部屋が存在しないならば私は もういい。

梯子の用を為すのだ。
用が為されれば、梯子は これも無為だ。
私は梯子を登る。私はこれを述べる。述べることは無意味だ
私はこれを述べる、と私は述べた。故に 私は梯子を登る。

注記: 下記の2文書は205号室の屋根裏から発見されました。

未知は拓かれた!

部屋の外は存在した。それ故梯子の先は既知へ変じた。
故に部屋は存在する。私は存在する。
梯子は確かに立て掛けられている。

ナンセンスも循環も、梯子で以て登り切られた。
故に、梯子は最早無為となった。

梯子を捨て去り、私の最後の証明が成る。

此処で、私は、全てを述べられる。
しかしもう語るべきことは残されていない。 だから何だ?

心臓と肺と胃は滑稽にも、苦痛で以て私を証明しようとしている。
脳髄は既にそれを終えたと言うのに。

薄暗い屋根裏。埃にざらついた皮膚。咳の音。
眼下の部屋と梯子は遥か遠く、懐かしい。それらは確固に在り、既に無意味。
私は為した。私は成った。私は在った。

これで良い。

上記の文書群はSCP-3091-JP及び永井氏の調査における参考資料として保存されています。論理的考証の必要性は提言されていません。

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