アイテム番号: SCP-310-JP-HW
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: 現在、SCP-310-JP-HWの範囲拡大を恒久的に阻止すべく、プロトコル310-Jack-o'-lanternが実施されています。影響範囲の周縁部(C-43区画を除く)で発見されたSCP-310-JP-HW-1個体は、即座に終了される事になっています。プロトコルの詳細については付属文書310-Jack-o'-lanternを参照してください。
緊急事態であるため、性質についての説明以外の記述は全て折り畳まれています。希望者はプロトコル完了後に閲覧してください。
説明: SCP-310-JP-HWは、時空間異常・情報災害・異常行動をもたらすハロウィンイベントです。影響範囲は現時点で██県内の五つの自治体にまたがっており、参加人数は14万人以上であると推定されています。SCP-310-JP-HWイベントは0時から翌日0時までの24時間で収束し、その発生間隔は1128日である事が確認されています。
SCP-310-JP-HWイベントが発生している間、影響範囲外への脱出および情報伝達の試みは全て失敗に終わります。また、全ての媒体が日付の表示に未知の暦を使用するようになり、現在の日付が"31月10日"である事を示します。このように年間の日数が大きく異なるにもかかわらず、影響範囲内の年は常に西暦と一致しています。
SCP-310-JP-HWイベント終了の際、"31月10日"に生じたあらゆる事象・記憶は消失し、本来の日付で何事もなく過ごしていたかのように改竄されます。現時点で、影響範囲外の人物との記憶の齟齬は確認されていません。また、消失した"31月10日"に関する記憶および記録は、次回のイベント発生時に復元されます。
SCP-310-JP-HW-1は、あらかじめ配布されたイベントプログラムに従って異常行動を取る住民の総称です。住民の行動を妨害する事は可能です。また、妨害に対して抵抗する事は一切ありません。イベントプログラムの詳細は下記の通りです。
- 9:00 "Look-so-lantern" 自身の眼球・鼻・唇・舌・耳を全て切除する。
- 9:30 "黙祷" 90分間、微動だにせず祈りを捧げる。
- 11:00 "ケーキ作り" 切除した部位とカボチャのチャームを埋め込んだバームブラックなど、体組織が混入したケーキを作る。
- 14:00 "パーティー・ゲーム"
- "小麦子斬り" 子供の全身に小麦粉をまぶし、頭にカボチャを乗せ、体を斬りつけていく。自分の番でカボチャを落とすと負けとなる。
- "ダック・パンプキン" 子供を水に浮かべ、カボチャを投げつける。自分の番で死なせてしまうと負けとなる。
- "バームブラック占い" 上述のケーキを切り分け、カボチャのチャームを引き当てた者に幸運が訪れるとされる占い。
- 15:30 "黙祷"
- 17:00 "菓葬パレード" 喪服姿で練り歩き、菓子類を集め畑に撒いていく。
- 20:30 "焚き皮" 菓子類の空き箱・包み紙などを燃やし、自身の体表面を焼く。
- 21:30 "黙祷"
- 23:00 "ハッピー・ハロウィン・クライマックス" 影響範囲の外側に向かって無言で歩き続ける。
23:00以降、全ての生存しているSCP-310-JP-HW-1個体は、最も近い影響範囲外の地点を目指して移動するようになります。目標地点までの距離が1mを下回った場合、影響範囲の一部が目標地点を含むように拡大し、目標地点が更新されます。この効果により影響範囲が際限なく拡大していくため、周縁部でのSCP-310-JP-HW-1個体の終了は最優先で行われます。
補遺1: 以下は、SCP-310-JP-HW-1個体へのインタビュー記録です。
対象: 40代男性のSCP-310-JP-HW-1個体
インタビュアー: エージェント██
付記: 早朝、舌や唇の切除が行われる前に接触した。エージェント██は以前に二回、SCP-310-JP-HWイベントを経験している。
<録音開始>
エージェント██: インタビューを開始します。この催しは何年前から行われているのですか?
SCP-310-JP-HW-1: ハッピーハロウィン!……よく覚えてないねぇ。
エージェント██: では、31月10日という日付について違和感を抱いた事はありませんか?
SCP-310-JP-HW-1: 違和感?そりゃあ特別な日だが違和感って表現はおかしくないか?
エージェント██: 特別な日というのはハロウィンの事ですね?ハロウィンは本来、10月の行事ではありませんか?
SCP-310-JP-HW-1: 余所の町ではそうなんだってねぇ。ありゃあ良くないよ……カボチャが可哀想でなぁ……
エージェント██: それはどういった意味でしょうか?
SCP-310-JP-HW-1: [8秒間の沈黙]……刃物で身を抉られ……遊びにも参加できず……[嗚咽]……お菓子だって貰えやしない……与えられるのは……蝋燭で炙られる苦痛だけ……[嗚咽]
エージェント██: 大丈夫ですか?話は続けられますか?
SCP-310-JP-HW-1: それが可哀想で可哀想で……!せめて俺達だけでもカボチャを救ってやろうって……昔みんなで……カボチャの墓の前で……そう誓ったんだ……!
エージェント██: ……それがあの残酷な催し事を行っている理由ですか?
SCP-310-JP-HW-1: 残酷だと?!カボチャがお前ら余所者から受けた仕打ちに比べたら……あぁ……辛かったろうなぁ……
エージェント██: そこまでカボチャの事を思いやる理由は何なのですか?
SCP-310-JP-HW-1: [5秒間の絶叫]貴様らは[罵倒]![罵倒]!!
エージェント██: インタビューを終了します。
SCP-310-JP-HW-1: [罵倒]!!ハッピーハロウィン!!
<録音終了>
補遺2: 以下は、エージェント██の覚え書きです。
俺が最初に31月10日を迎えたのは、もう20年以上前の事だ。そこら中にテーブルとイスが並べられ、人間の代わりにカボチャが座っていた。そしてすれ違う全ての人間が、目も鼻も耳もない異常な姿で笑っていた。財団へ連絡を試みるが、一向に繋がる気配がない。その後俺は斬り殺される直前の子供を庇い、そのまま命を落とした。そしていつも通り、フロント企業での業務をこなし家路についた。
二回目の31月10日、俺はあの悪夢のような光景を思い出した。俺が過ごした退屈な月曜日は、トチ狂ったハロウィン祭りの開催日でもあった。外には出られない。外の連中は気付けない。ランタン顔の住民達は嬉しそうに菓子を捨てて回り、やがてあちこちから肉の焦げる臭いが漂ってきた。対照的に、着飾ったカボチャ達には傷一つ、血の一滴すら付いていなかった。俺は、同じく巻き込まれた夜勤仲間のエージェントと共に、この地獄絵図を収容する為の手掛かりを探して回った。そしていつも通り、フロント企業での業務をこなし家路についた。
三回目の31月10日、住民に話を聞いてみた。どうやら俺達はカボチャを虐待する極悪人らしい。しばらくして、前回より影響範囲が広がっている事に気付いた。このクソッタレパーティーは、何らかの手段で会場を広げているらしい。カラクリを暴いたのは日付が変わる直前だった。次からはあのランタン野郎共を殺して回らなければならない。無かった事になるとはいえ、奴らを野放しにしておく訳にはいかない。財団施設がパーティー会場になった時、24時間後に全てが元通りになる保証など決して無いからだ。俺は決意して、フロント企業での業務をこなし家路についた。帰り道に、傷だらけのカボチャが一つ落ちていた。
四回目と五回目の31月10日、俺と同僚達はランタン殺しに明け暮れた。だが範囲の拡大は抑えきれなかった。あまりにも数が多すぎる。俺の苦労など知る由もなく、俺は呑気にフロント企業での業務をこなし家路についていた。
六回目の31月10日、偶然にも居合わせた機動部隊と連絡が取れた。一部始終を説明し、手が空いているうちに収容プロトコルを考える事にした。日が暮れ始めた頃、武装サイト-8186への拡大範囲の誘導という案を閃いた。あそこは山奥にあるKeterクラスオブジェクトを取り囲むように建設されたサイトで、戦力は十分に揃っている。向こうの職員には悪いが、今後安定した戦力を確保し続けるにはこうする外にない。オブジェクトの収容区域が影響範囲内に含まれないよう、慎重に誘導しなければ。次だ。次のイカレハロウィンで決着をつけてやる。そう誓った。
七回目の31月10日、俺はランタンに化ける前の男を車に詰め込み、武装サイトを目指してカッ飛ばした。男がシートベルトの金具を使って、自身の耳を切り落とそうとしている。抵抗しないからと縛っておかなかった事を今更ながら後悔する。あと3時間はコイツと過ごさなければならないのだ。だが、人生最悪のドライブは15分も経たない内に終わりを迎えた。"行き止まり"だ。影響範囲は拡大しなかった。徒歩である事が条件なのだろうか?車から降ろしてみたが、やはりダメだった。23時以降にもう一度試してみた結果、徒歩でのみ範囲の拡大が見られた。ふざけやがって。このペースだと武装サイト到着まで40年は掛かる計算だ。俺はいつまで続けられるだろうか。
十一回目の31月10日。向こうの俺は来年、転属する事が決まった。もう俺が31月10日を迎える事は無いだろう。
時折考えていた事がある。俺は31月10日の始まりと共に生まれ、終わりと共に消えていく存在なのではないかと。あの日退屈な月曜日を過ごしていた俺は、捏造された過去などではなく、正真正銘本物の俺であって、ここにいる俺こそが紛い物だったのではないかと。
紛い物の俺はここで、異常な連中を退治して回った。魔除けのように。
紛い物の俺はここで、歩き続ける連中を誘導してやった。道標のように。
紛い物の俺がここを去ったところで、天国にも地獄にも行く事はないだろう。あの哀れな男のように。
──ジャック・オ・ランタンのように。
ページリビジョン: 12, 最終更新: 13 Aug 2022 05:47