アイテム番号: SCP-3108-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3108-JPの出現が確認された段階で近隣のエージェントは即時の接触を図ることが求められます。これと並行して及び周囲への記憶処理ならびにSCP-3108-JP対象者を調査、特定し、隔離してください。SCP-3108-JPが撮影された機器は回収し、該当部分を複製の上削除してください。複製物は研究サイトへ移送することが求められます。SCP-3108-JP対象者には特別カウンセリングを行い、可能な限りSCP-3108-JPの出現に対し特殊な行動を行わないよう留意してください。
説明: SCP-3108-JPは特定の条件を満たした人物(以下、対象)を起点に出現する人型実体です。
現在までに対象として選定される条件は以下のものが確認されています。
- 周囲の気温が10℃以下である
- 周囲の天候が雨である
- 対象の周囲に群衆やガラス窓など、SCP-3108-JPに接近するための遮蔽物が存在する
- 対象がSCP-3108-JPの模す人物に対し嫉妬など負の感情を抱いている
上記の条件を満たした対象の周囲において、SCP-3108-JPは死亡した特定個人の後ろ姿として出現します。この特定個人は上述の条件にある通り、対象が負の感情を抱いた人物であることに留意してください。
SCP-3108-JPは対象が認知した段階でその場から離脱し、対象が見失う、第三者が能動的に接触するなどした時点で消滅します。この異常性により現在までSCP-3108-JPの確保は成功していません。SCP-3108-JPは周囲に第三者や監視カメラなどの撮影機器があった場合も同様に出現することが確認されており、SCP-3108-JPは全ての証言、記録において後ろ姿でのみ認識されていることに留意してください。
一度上記条件を満たした対象の周囲には不定期にSCP-3108-JPが出現します。これにより対象は非異常性の不定愁訴等を発症する傾向が確認されています。一方でSCP-3108-JP対象者と推測される人物の約3割においてSCP-3108-JP出現後、脳梗塞等、非異常性の原因により死亡している事が確認されています。この死亡時、軽微な現実改変が発生し、対象の頭髪が異常な伸長を見せていることが確認されています。これは頭髪を剃り上げている人物や、疾患等により頭髪を喪失している人物においても同様です。
以下は財団の調査下において初めてSCP-3108-JP対象となった種崎氏へのインタビュー記録です。
音声記録3108-JP-01 - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 赤松カウンセラー
対象者: 種崎 夕夏氏
≪再生開始≫
[事実確認のため省略]
赤松カウンセラー: では再度になり申し訳ありませんが、若山さんを目撃した状況について教えていただけますか?
種崎氏: はい。あれは寒い雨の日でした、会社から帰る途中で、人身事故か何かで最寄りの駅が凄く混んでたんです。運が悪いな、どこかでご飯食べて帰ろうかな、って思ってたら、ずっと先の人ごみに、牧絵がいたんです。他人の空似かと思いましたが、あの髪、歩き方、着ているコート、全部私の知る牧絵で。だからまさかと思って追いかけて。でも見失ってしまって。それから、雨が降るたびに牧絵が私の周りに現れるんです
赤松カウンセラー: それは大変だったでしょうね。気持ちが落ち着かないのも当然です
種崎氏: ホントに、なんで私のとこに。あの子はね、私よりずっと優秀だったんですよ。覚えも早いし、気が付くし、私にもずっと大切な友人だと慕ってくれて
赤松カウンセラー: 良い友人だったのですね
[5秒ほどの沈黙]
種崎氏: ハッ、良い友人、そう、そうですね、良い友人でした。すごく良い友人でしたよ。私と同じ場所にいなければ、きっと良い友人でいられましたよ。でも牧絵は私の隣にいたんです。友達の顔で、私よりずっと優秀で、顔も性格もいい女がいたんです。そうなればどうなるか分かりますか、先生。ずっと、ずっと比較されるんですよ
赤松カウンセラー: 種崎さんは若山さんと比較されていたと思われているのですね
種崎氏: 思ってるんじゃありませんよ。みんな、値踏みしてるんです、勿論声には出しませんよ? 私だって表には出しませんし、それが原因で牧絵をイジメるなんてことしません。……だから、牧絵は私のいい友人で、きっとそう見えてたんでしょ。……私には私の上位互換がいるように思えてならなかった。どこまで行っても牧絵が私より先に進んでいるように思えてならなかった
赤松カウンセラー: 落ち着いて、話を切り替えましょう。種崎さん、この質問を失礼だと思われたなら申し訳ありません。あなたは若山さんが既に死亡していることは理解されているんですね?
種崎氏: 当たり前です。葬式にも出たし、火葬場まで行きましたから
赤松カウンセラー: では、あなたの前に現れる若山さんをどのようなものだと考えておられますか?
種崎氏: 私の頭がおかしくなってる可能性も考えましたよ。でも他の人も見てる、それを考えると、……やっぱり幽霊ですよね。でも、なんで私の前に
赤松カウンセラー: 何か原因、もしくは兆候のようなものはありませんでしたか?
種崎氏: ないですよ。私と牧絵はただの良い友人なんですから。あの子は地元にもっと仲のいい友達もいるみたいだし、彼氏もいたはずです。だからなんで本当に私のところに、それもずっと、ずっと後ろ姿で、私が追いかけても逃げて、ああ、もう、訳が分からない。ねえ、なんでなんですか、先生。私があの子のことを嫌いだったからですか? あの子が車に撥ねられて死んだって聞いて、ホッとしたからですか? ねえ、先生
赤松カウンセラー: 一旦落ち着きましょう、種崎さん。急いで考える必要はありません。ゆっくり、自分のペースで考えていきましょう
≪再生停止≫
以下はこれまで確認されているSCP-3108-JP対象とSCP-3108-JPが模している人物の関係表を抜粋したものです。
付録3108-JP-01
| SCP-3108-JP対象 | SCP-3108-JPが模している人物 | 関係 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 種崎 夕夏氏 | 若山 牧絵氏 | 職場の同僚 | 同期入社であり友人関係にあった |
| 小口 湊氏 | 小口 梢氏 | 兄妹 | 同じ部活動で活動していた |
| 多摩 三太夫氏 | 安橋 天音氏 | 大学の教員と生徒 | 多摩氏のゼミに安橋氏が所属していた |
| 八幡 結弦氏 | 八幡 みるく氏 | 親子 | みるく氏は死亡時6才である |
| 酒巻 梓氏 | 湯河原 悠介氏 | 恋人 | 酒巻氏が湯河原氏を殺害していることが確認されている |
インシデントレポート3108-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、種崎氏への定期カウンセリング中、SCP-3108-JPが出現するインシデントが発生しました。以下はその際の映像記録です。
映像記録3108-JP-22 - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 赤松カウンセラー
対象者: 種崎 夕夏氏
≪再生開始≫
[事実確認のため省略]
赤松カウンセラー: 種崎さん、調子はどうですか
種崎氏: 先生、おかげさまで少し食欲は出てきました
赤松カウンセラー: それはよかったです。何か以前の面談と変わったことはありますか?
種崎氏: 変わったこと、……いくつか作業をしたり、カウンセリングを受けて、少し、言葉にできたことがあります
赤松カウンセラー: それを教えていただくことは可能ですか?
[30秒ほどの沈黙]
種崎氏: はい、私の前に牧絵が、現れたのは、何でかってことを
[音声に僅かなノイズが確認される]
赤松カウンセラー: 現れた理由、ですか
[音声に僅かなノイズが確認される]
種崎氏: あれは、私の前に現れる牧絵は、私が見ていた牧絵なんです。ずっと、私の先を行って、私の欲しいものを全部持ってて、私よりよっぽど幸せな、私の見たい牧絵
赤松カウンセラー: なるほど、興味深い見解です。いわば虚像というわけでしょうか
種崎氏: 虚像?
赤松カウンセラー: 理科の時間に実験をされたかもしれませんが、虫メガネを通して見える図はそれを見ている人にしか見えないでしょう? それが虚像です。実像はその逆、映画のスクリーンを思い浮かべればいいでしょうか。見ている人皆が見ることができるものですね
種崎氏: 虚像、そうか、私にしか、見えないはずなのに、……違う、違います、先生。私にしか見えなかったんじゃない、私は、私は後ろ姿しか見ようとしなかった。ずっと後ろ姿を追っていた
[音声に激しいノイズが確認される]
種崎氏: 私は、牧絵のことが嫌いで
[赤松カウンセラーが意識を喪失する。監視していた職員が緊急封鎖を行おうとするも失敗する]
種崎氏: でも、ずっと、羨ましかったんです。あの優しさが、あの強さが、私の後ろ姿にはないもの全てが
[雨音と類似する激しいノイズが発生し、カウンセリング室にSCP-3108-JPが出現する。種崎氏は驚いた様子を見せるが、遠ざかろうとするSCP-3108-JPに対し指を差す]
種崎氏: ああ、牧絵、牧絵、牧絵! 私はずっと、そうだ、アンタの後ろ姿を見続けて、追っていて、そうであることに安心していたんだ! ずっと、アンタの後ろ姿に指を差すことで、安心していたんだ! でも、羨ましかった、アンタが。……違う、違う、違うよ、ごめん、ごめん、ごめんなさい、牧絵。アンタは牧絵じゃないんだ、だって私は
[SCP-3108-JPが振り向き、種崎氏に接近する]
種崎氏: 牧絵みたいになりたかったんだから
[種崎氏の頭髪が異常な伸長を見せ、表情を覆い隠す。SCP-3108-JPが重なり合うように覆いかぶさり、種崎氏諸共倒れ込む]
≪再生停止≫
インシデント後、これを感知した管理職員による緊急令を受け、臨時機動部隊が構成され、カウンセリング室内部へ強硬侵入しました。侵入に際しSCP-3108-JPは確認されず、各種クリアリングを行った後。種崎氏と赤松カウンセラーの回収を行いました。赤松カウンセラーは直後に後遺症無く復帰したものの、種崎氏は回収直後に死亡が確認されました。
後続事案報告: インシデント後、微細な現実改変の兆候が確認されました。これは旧来頭髪の成長に応じて発生するものであると推測されていたため、再度詳細な調査を行ったところ、SCP-3108-JPが模していた若山氏の生存が確認されました。各種記録、事象も若山氏が生存し、生活していたものであると改変されています。これによって関連する人物に記憶の齟齬が発生しましたが、財団による記憶処理によって、関係者の記憶影響は軽度に留まっています。
これと同時に若山氏が死亡したとされていた日時に発生した事故で、種崎氏が死亡していることが確認されました。ここからSCP-3108-JPは旧来の異常性に付随し、過去改変を引き起こすと推測されました。しかし、改変の起点を調査したところ、事故のタイミングと大まかに一致すること、種崎氏の死体から現実改変の兆候が確認されたことから、発生した事象は過去改変ではなく現実改変であり、死亡した種崎氏によって死亡した時点から"種崎氏が生存し、若山氏が死亡した過去を経由した現在"に改編し続けていた可能性が指摘されています。
これらの後続調査によりSCP-3108-JPは単独の異常実体ではなく、死亡した人物を基点として発生する改変事象に付随する実体、もしくは現象である可能性が示唆されています。
以下は若山氏に対するインタビュー記録です。
映像記録3108-JP-22 - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 赤松カウンセラー
対象者: 若山 牧絵氏
≪再生開始≫
[事実確認のため省略]
赤松カウンセラー: 辛い思い出を話させてしまって申し訳ありません
若山氏: いえ、話すことは気持ちの整理になるので心配しないでください。でも、本当に夕夏がいなくなったなんて、今でも嘘みたいで
赤松カウンセラー: とてもいい友人同士であると伺っていますが、どうでしょうか
若山氏: はい、すごくいい友達だったと思ってます。ただ、夕夏はそう思ってたかまでは少し自信がないんですけどね
赤松カウンセラー: なにか思われることがあったのでしょうか?
若山氏: なんというか……、いつも気が引けていたような、そんな気がします。多分、私と比べられていたと思ってたんじゃないでしょうか。確かに私の方ができることはありますけど、夕夏は私にできないことができました。料理も上手でしたし、旅行の予定を立てるのも上手でした。私より本や漫画にも詳しかったし、ずっと、私は自分のこと夕夏よりバカだと思ってて
赤松カウンセラー: 要領がよく、知識に溢れた人だったのですね
若山氏: はい。だから死んだとき凄く落ち込んで、ずっと引きずってたんですけど。……先生、今から言うこと秘密にしてくださいね
赤松カウンセラー: もちろんです
若山氏: 私、この前夕夏を見たんです。寒い雨の日でした。人ごみの向こうに、後ろ姿だけですけど。他の人かもと思いましたけど、絶対夕夏だと思うんです、近づいて、捕まえて、話をしたかったけど、でも、夕夏は私なんて置いていくよって感じで。ずっと後ろ姿で進んでいくんです。私、それを見て、ああ、お別れなんだって、もう、二度と会えないんだって。私を置いていくよって、追いついちゃいけないよって夕夏が言ってるような、そんな気がして
[音声に雨音のような僅かなノイズが確認される]
若山氏: だから、夕夏に背を向けました。振り返っても、私の顔が見えないように、分かってるって伝えるために
≪再生停止≫
SCP-3108-JPと現実改変の因果関係及び発生要因は現在調査中であり、不慮の改変事象が与える影響を考慮する意見から、一定の結論が出るまでSCP-3108-JP対象者には特別カウンセリングを行い、SCP-3108-JPについて考察することを可能な限り妨げ、逃避あるいは自己の正当化に向かうよう誘導が行われます。若山氏の目撃した人物がSCP-3108-JPであるという判断は調査段階に留まっています。若山氏には現在も継続して監視が行われていますが、現在段階でSCP-3108-JPの出現は確認されておらず、監視停止が議論されています。









