[15:09]
D-99: OK、前方にトンネルが見える。
司令部: 了解した。接触を維持し、何が起きているかを我々に知らせ続けてくれ。
D-99: アンタたちはここで具体的に何が起きると予想してるんだ?
司令部: 分からない。そこがこの実験の重要な点だ。
D-99: あっそう。アンタみたいな科学系の奴らはいつでも俺たちを低能扱いするけどな、俺たちは馬鹿じゃねぇぞ。アンタたちが一部始終を明かさねぇ時はすぐ分かるんだ。
司令部: トンネルに入ってくれ。
D-99: はいはい。
SCP-3122: GPS信号が途絶しました。
D-99: ここまでは予想通りなんだろ?
約30秒の沈黙。司令部との接触はこの時点で途絶えており、再確立されなかった。
D-99: おーい? アンタたちとの連絡も途切れちまったみてぇだな。ま、もうすぐトンネル抜けるから別にいいけどさ。
SCP-3122: 接続が再確立されました。300m先、左折してヴィア・デッラ・コンシリアツィオーネに入ります。
D-99: おい、この先に曲がり角なんて無かったはずだ。それに… 今のはスペイン語か?
SCP-3122: 左折してヴィア・デッラ・コンシリアツィオーネに入ります。
D-99は指示に従って曲がる。留意点として、D-99との接触が途絶したトンネルを出た先の道路に左折できる場所は存在しない。
D-99: 妙な話だが、トンネルを出てから他の車を見てない。あと… 待った、別のトンネルが先にある。何だか、えー… さっきのトンネルとそっくりに見える。丘とか岩とか全部同じだ。
回収記録の視覚的分析は、第一トンネルと第二トンネルの外見が完全に一致することを確証した。
D-99: 中も同じっぽいな。今回は信号が途絶えてない。でもって俺は、アンタたちが手配してくれたこの素敵な自動車小旅行に変なクソが関わってないのを願ってるところだ。
[15:23]
D-99: 今気付いたけど、俺はもうこのトンネルを5分ぐらい走ってる。やっぱり変だよ。俺は専門家じゃないけど、ダービーシャーに長さ5マイルもあるトンネルが無ぇのは確かだと思う。それに未だに他の車と会ってねぇ。
SCP-3122: 1km先、時速180kmまで加速し、右折して[空電音]、その後左折してサンダーソン通り、その後道なりに下って咆哮する虚空に入ります。
D-99: こりゃいいや、カーナビまでイカレやがった。そもそもメートル法を使ってるからおかしいと思った。
[15:25]
SCP-3122: 時速180kmまで加速します。
D-99: 仰る通りですよ、キチガイコンピュータ様。でもこのポンコツにそんな速度が出せるか怪—
D-99の言葉途中で車両が唐突に時速180kmまで加速し、D-99は座席に押し付けられる。
D-99: ちょっと待て! 車が勝手に動いてるみてぇだ! ブレーキが利かねぇ! 一体何が—
車両は突然勢いよく右折し、トンネルの壁に向かって直進する。車両は如何なる影響も受けずに壁をすり抜け、同じようなトンネルの中に出現した後、先程と同様の急激な左折を行う。
D-99: ヤバい、吐きそうだ。おい、止まれこの — ファッ—
道路は途切れているように思われる。車両は約30秒間自由落下する。D-99の叫び声が聞こえる。車両は突然、砂漠の道路らしき場所に出現する。落下の衝撃は発生しない。D-99の荒い呼吸が聞こえる。
D-99: 何がどうなってやがるんだ、冗談じゃねぇぞ。OK、OK。俺は生きてる。大丈夫。
D-99は車両の窓から周囲を見渡す。
D-99: で、俺は今いったい何処にいる? 砂漠みたいだが、絶対ダービーシャーにこんな所は無ぇよな。この道以外には何も見えねぇ。かなり暑い、もう窓越しでも熱を感じるぐらいだ。
SCP-3122: 12,000km道なりです。その後、反時計回りに480°回転し、あなたの左腕を取り除きます。
D-99: なん… 知るか。俺は別の道を進むぞ。またこいつを運転できるようになったみたいだし、どの腕だろうと取り外す気はこれっぽっちも無ぇ。
D-99は道路上で車両を方向転換させ、運転し始める。
[17:01]
D-99: OK、何時間も運転してる気がする。 景色はさっぱり代わり映えしねぇ。自分が移動してるのが辛うじて分かる程度だ — 同じ砂漠が延々と続く。燃料ゲージは動いてるように見えねぇし、このネジのぶっ飛んだカーナビはうんともすんとも言わねぇ。思うに—
SCP-3122: 500m先、供給品のクジラ解体用ナイフであなたの皮膚の37%を取り除き、あなたの魂を捧げます。
D-99: 黙ってりゃ良かったかな。
D-99は座席上で目に見えて飛び上がり、正面から何かを拾い上げる。
D-99: 嘘だろ! 変な見た目のナイフがいきなり膝の上に出てきた! やってられるか!
D-99は窓を開けてナイフを投げ捨てる。
SCP-3122: 沿道のエージェントが間もなく援助に参ります。
D-99: …嫌な事言うなよ。
遠くから甲高い叫び声が聞こえる。カメラは前方に何らかの形状を検出し、D-99も数分後にこれに気付く。
D-99: ありゃ何だ? 見た感じは… 馬? バカデカい馬に巨人みたいなのが乗ってて、どうも俺の方に真っ直ぐ向かってくるらしい。マジかよ、奴のせいで道路がひび割れてきてる。俺Uターンするわ、あんな野郎には近寄りたくねぇ。
D-99は車両を方向転換させる。彼が反対方向に運転し始めると、背中からヒト型の上半身が生えた巨大なウマ型生物が路上に出現し、完全に行く手を遮る。生物は甲高い叫び声を上げ、D-99は道路から逸れる。
D-99: 勘弁してくれ! 何だってんだ、ホントに何だってんだ、あのクソ野郎どもは俺を何処に送ったんだ、畜生。
D-99は背後を振り返る。カメラは実体と道路が両方とも消えている様子を映している。
D-99: OK、OK。まだ生きてる。あの化け物が何だろうと、道路無しのほうがまだマシだ。こっからは砂漠を運転することになるかな。
[20:31]
D-99: 数時間運転してる。何は無くとも時計だけはまだ動いてるらしい。少し涼しくなってきたが、太陽は低くなってねぇみたいだ。それとな、雲が全部、何かのシンボルの形をしてるのにさっき気付いた。どっかで見覚えがある。カーナビは時々変な音を立ててる。言葉っぽくは聞こえねぇ、適当な母音らしい何か。
SCP-3122: えぇぇ。あぁぁぁぁ。
D-99: まぁこんな感じだ。とにかく、俺は遠くに何か建物っぽく見えるもんを見つけたから、あまり良い思いつきじゃねぇなとは思いつつもそこに向かおうとしてる。
SCP-3122: おぉぉぉぉ。えぇぇぇぇぇぇ。
D-99: 分かった分かった。
SCP-3122: 100m先、交差点で停車し、契約を結んであなたの肉体を捧げます。
D-99: 畜生め、こいつの電源を切れたらどんなに良いか。俺たちは道路上にすらいねぇんだぞ、鉄クズ!
D-99はSCP-3122を殴打する。如何なる損傷も及ばない。
[23:01]
D-99: OK、どうも… あそこにあるのが何であれ、ちっとも近付いた感じがしねぇ。それにもう時間も遅い。時計によれば。太陽はまだ動かねぇんだ。ま、アンタら財団の連中も幾らか支給品を積んでくれる程度には親切だったらしいんで、俺はメシ食って寝る。多分マズいアイデアだろうけど、だからって永遠に運転なんかしてらんねぇし。
SCP-3122: ロータリーの12番出口から退出します。眠れる者が覚醒するでしょう。華麗な[空電音]が君臨します。
D-99: 運が良けりゃ、この野郎も寝ようとしてる間は静かにしてくれるんじゃないか。ああ! 雲のシンボル、ありゃこのクソったれカーナビに付いてるのと同じシンボルだ! 会社のロゴか何かだろ。まだ空に浮かんでるぜ、あの形の雲。大きさは全部違う。こいつの意味は、アンタら財団のドカチ頭どもの方が俺よりも良く分かってんだろうよ。
[05:47]
SCP-3122: 彼が待っています。彼が待っています。彼が待っています。彼が待っています。次の出口から退出します。
D-99: んなっ— ケッ、バカ機械め。朝6時? すると夜中に喰われたわけじゃなさそうだ。俺 — マジか…
D-99が車両の窓から外を覗いている様子が見える。外部カメラは多数の建造物が目前の領域に出現しているのを映している。停車以来、一切の動作は検出されていなかった。
D-99: 喰われなかったけど、引っ張られたらしい。俺は今何処に居るんだ、見た感じは町っぽいな? でもまだ砂漠の中だし、周りに人っ子一人見えねぇ。何だか… 古びてるというか。建物はどれもこれも相当傷んでそうだ。
SCP-3122: 300m道なりに進み、忘却を抱擁します。彼は滋養を与えられるでしょう。
D-99: あぁ、道路もしっかりあるな。人とか、誰かがここに居る気配みたいのが無いかどうか、ちょっと見てくる。
D-99はドアを開けようとするが、ドアはロックされているように思われる。
D-99: この… 止せよ、クソ。
D-99はドアのロックを外そうと試み、また他のドアや窓を開けようとする。車両から出る全ての試みは失敗する。
D-99: 畜生。足を伸ばすこともできねぇ。こっから出られたら一番最初に会った財団野郎のアホ面をぶん殴ってやる。
D-99は重い溜息を吐く。
D-99: とにかく、道路だ。古そうだな。敷石か何かで出来てる。
D-99は約5分間道路に沿って移動し、小さな町または村のような構造の中を通り抜ける。住人の姿は無い。全ての建造物は砂漠の砂と同じ色合いの石材で作られている。
SCP-3122: [空電音]の御前に頭を垂れ、その後、次の曲がり角を右折します。
D-99: この道路は右にしか向かってねぇんだよ、クソの役にも立た — うわぉ。デカい像がある。
車両が角を曲がると、華美な頭飾りを付け、杖を持った上半身裸の人間男性の像が道路を見下ろしているのが視界に入る。像は高さ約90mと推定されるが、角を曲がる前には視認されなかった。巨像の前の道路にはより小さな一連の像(平均して高さ約5m)が並んでおり、それぞれ巨像と同じ服装をした異なる人物を表現しているように思われる。巨像のすぐ足元に立っている小像はPoI-30808に著しく似通っている。
SCP-3122: 頭を垂れます。頭を垂れます。頭を垂れます。3km道なりです。捧げます。
D-99: カーナビが喚いてんのはこの像のことじゃねぇかって思い始めてる。この男、何か嫌な感じがするぜ… また道路を離れようと思う。なんでその方が安全だと感じるのかはよく分かんねぇけど、カーナビが道路に沿って俺を進ませたいんだとしたら、俺は絶対そうしたくねぇ。
D-99は車両を運転して道路から離れる。
[06:34]
D-99: ハッ、間違いなく左側に山があったと思ってたのに、今はもう無くなってやがる。多分ただの蜃気楼か何かだったんだろう、そう思いたいよ。
SCP-3122: 500キュビト先、彼の抱擁に向かって道なりです。あなたの魂を捧げます。
[07:04]
D-99: もう1時間以上運転してるのにまだあの像が見える。遠ざかってねぇみたいだ。ここじゃ何もかもますます妙な感じになっていく、もしそんな事が有り得るとすればだけど。例の山はまた現れてからもう一度消えちまった。雲は突然変化してるらしい。あのシンボルになる時もあれば、適当な形の時もある。一度、右手に幾つか建物を見たのは確かなんだが、そいつも今はもう無くなってる。
SCP-3122: 1000年間道なりです。その後、左折して彼の抱擁に入ります。
D-99: そして、こいつのせいでマジで気が狂いそうだ。黙らせようとしたけどどのボタンを押しても反応しねぇんだよ。何回か試したが叩き壊すのも無理そうだ。
SCP-3122: 彼が来ます。次の出口から退出します。
D-99: 何だよ、暗くなってきたな。
日食が始まり、急激に光源レベルが低下する。15秒後、太陽の約90%が月で覆い隠される。
D-99: また車を運転できなくなった。自走してる。
車両が左折すると、一連の構造物が視界に入る。様々な劣化状態にある多数の柱が、野外寺院らしき空間を取り囲んでいる。寺院の中心に巨大な石棺がある。
D-99: 嫌だねこういうのは… 日食の最中に砂漠の寺院で良い事なんか起こりっこねぇっての。冗談きついぜ。
D-99は車両を強制的に方向転換させようと試みているが、成功しない。車両は寺院の中心に向かって進み続けている。
SCP-3122: あなたの魂を捧げます。あなたの肉体を捧げます。あなたの心を捧げます。捧げます。捧げます。捧げます。
SCP-3122は“捧げます”という言葉を繰り返し続ける。
D-99: 嫌だ! 出せよ、畜生!
D-99はますます必死に車両の制御を取り戻そうと試みるが、無駄に終わる。彼は窓ガラスを蹴り飛ばそうとするが、破壊できない。車両は石棺の正面で停車する。石棺の表面には無数のシンボルが彫り込まれている — 最も目立っているのは、中心部に彫られたエレヴィックス・エレクトロニクスの企業ロゴである。
SCP-3122: 目的地に到着しました。
D-99が話し始めるが、速やかにその声が途絶える。映像の分析で、黒い煙のような物質が石棺から発散され、真っ直ぐ車両に向かってくる様子が13フレーム映っていることが確認された。煙はルーフと窓をすり抜けて完全にD-99を包み込む。煙はその後、石棺に引き戻される — D-99は消えている。車両はバックして寺院から走り去る。