注記
以下の資料は直近のパンタソス・プロトコル実行前後にサイト-81AM周辺で記録された映像・音声記録の内、注目すべきものを未詳資料/目録編纂室によって時系列順に抜粋、編纂したものです。実行までの経緯の理解を助けるため、関連文書を併せて掲載しています。
以上に留意したうえで当該資料群を参照してください。
— 未詳資料/目録編纂室:81管区室長代理、転眼式見
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SCP財団保安施設ファイル
正式名称: SCP財団 日本国 神奈川横浜 研究・収容施設
サイト識別コード: JPKNYK-Site-81AM
概要情報
LNG貯蔵施設に偽装されたサイト-81AM。
設立: 1964年12月
設立管理官: ████ █████ 教授
現サイト管理官: 白仲 祐明Siranaka Hiroaki 博士
場所: 日本国 神奈川県 横浜市 磯子区
サイト機能: 都市圏周辺管理、オブジェクト研究・収容
カバーストーリー: 南横浜火力発電所近傍に設置された液化天然ガス(LNG)貯蔵施設
説明: サイト-81AMは1964年、それまで横浜市域を管轄していた首都圏初期収容セクター-045の管理リソース逼迫に伴い、収容能力の拡張と司令部機能の移動を目的として建設された大規模収容施設です。日本有数の港湾・工業地域であり人口約370万人を擁する横浜では、SCP-134やSCP-261等を筆頭にアノマリーの発見例が多く報告されており、そうしたオブジェクトの収容や他サイトへの海上輸送を統括する施設としてサイト-81AMは多大な貢献を果たし続けています。
また、横浜市周辺地域には韓国・中国・台湾に跨る余剰次元的異常領域"廃桃源"への接続地点が存在しています。同領域は超常的犯罪を含む多様な非合法活動の温床となっており、横浜市内において各要注意団体(GoI)の活発な活動が確認される一因であると考えられています。それらの影響を監視・抑制することはサイト-81AMが担う主要な任務の1つです。
こうした異常活動の多発にもかかわらず、ここ数年の間サイト-81AMのインシデント発生件数は極めて低いものとなっています。これは他の人口密集地域に設置された収容施設と比較しても顕著な差であり、サイト-81AMが特筆すべき独自の収容ポリシーを採っていないことを鑑みても目覚ましい実績です。20██年には収容違反の発生件数ゼロを記念して日本支部理事会より表彰が行われました。
[…]
サイト-81AM: Cウィング カフェテリア内
[五水ごすい研究員がカフェテリアに入場する。通常の手続き通りに定食を受け取った五水研究員は、そのままトレイを持って幅木はばき博士が座るテーブルに対面する形で座る]
幅木博士: やあ、お疲れ。お互い少し遅めの昼食だね。
五水研究員: お疲れ様です。博士は午前の定期巡回終わりですか。
幅木博士: そうそう。やっぱり時間がかかるね、担当オブジェクトの確認だけとは言え。
五水研究員: ああ確かに、博士の担当と言えば……。
[五水研究員は、カフェテリアの壁に掲示された収容違反ゼロを讃える表彰状を見上げ、言葉を止める]
五水研究員: あの、幅木博士。少し気になったのですが、このサイトにはどれだけのアノマリーが収容されてるんでしょうか。
幅木博士: ん?ちょっと待ってね。[電子端末を確認する] ……231個かな。もちろん、私のクリアランスレベルで見られる範囲では、ということだけれど。
五水研究員: その中には、EuclidやKeterクラスのオブジェクトも含まれているんですよね?
幅木博士: もちろんそう。何か気になることでも?
五水研究員: ええと……上手く言葉にできないんですが、なんだか平穏すぎる気がして。
[数秒の沈黙]
五水研究員: だ、だってそうじゃないですか?それだけのアノマリーを保管しているのに、収容違反がゼロなんてことあり得ますか?しかも、数年間に渡ってですよ。
幅木博士: 私たちの不断の努力によるものでしょ。当然、幸運の助けがあったかもしれないけどね。
五水研究員: 努力なら他のサイトでも尽くしているはずじゃないですか。そもそも、この81AMだって何年か前は頻繁にインシデントが
[五水研究員は不意に言葉を切り、辺りを見回す。幅木博士のみならず、カフェテリアに居るサイト職員すべてが動きを止め五水研究員に視線を注いでいる]
五水研究員: え、あの。
[サイト職員は五水研究員から視線を外し、各々の活動を再開する。周囲に喧騒が戻ってくる]
五水研究員: [正面に向き直って] あの、幅木博士……。
幅木博士: 五水君、その言い方は良くないと思うな。まるで収容違反が起きるべきだと言ってるようなものじゃない。人が大勢死ぬような大規模インシデントなんて無い方が良いに決まってるでしょ。
五水研究員: す……すみません。不謹慎でした。
幅木博士: それに、この平穏はサイトで働く皆の、そして君自身の功績でもあるんだから。あまり考え込む必要はないと思うよ。一人一人が果たすべきことを果たせば全て上手く行くようになってる。これまでも、そしてこれからもね。
五水研究員: そういう、ものでしょうか……。
幅木博士: そういうもの。さぁ、確か午後からはSCP-████-JPとの定期インタビューでしょ?もう時間無いし、トレイは私が片しといてあげるから早く行ってきなよ。
五水研究員: え、ええ。ありがたいです。それでは失礼します。
[五水研究員は慌ただしくカフェテリアから退出する。幅木博士はそれを見送った後、自分と五水研究員のトレイを返却口へ運ぶ。トレイに乗せられた料理には一切手が付けられていない]
サイト-81AM: Aウィング ヒト型実体収容エリア
[五水研究員が収容室に入室する。収容室は強化アクリル板で仕切られており、その向こう側にはSCP-████-JPが気だるげな様子で着席している]
五水研究員: よし、まず状況を整理しよう。君はかつて"十四Q"に所属していた。廃桃源を根城にしている中国系の超常ギャングだ。間違いないか?
SCP-████-JP: おう。
五水研究員: そして現在、君の身柄は僕ら財団の収容下にある。
SCP-████-JP: そうだよ……つーかこれ何回目?毎回言ってるけど、仲間のネタは絶対吐かないって。
五水研究員: 仲間との絆を大事にするのは結構だけれど、早く組織の情報を教えてくれたほうがお互い楽になれると思うんだ。その根気は続けても意味ないんじゃないかな。君が収容されてからしばらく経つけど、彼らが大事な仲間であるはずの君を一度でも助けに来たことがあったかい?
SCP-████-JP: 何度だって来てるはずさ。どうせ俺に伝わらないようお前らが隠してんだろ?
[五水研究員はあきれたように溜息を吐き、フォルダから1枚の書類を取り出す]
五水研究員: このサイトに発生した要注意団体の襲撃に関する過去数年間分のデータがここにある。残酷だけどね、僕らは真実を知って……。
[五水研究員は書類に目を落とし、言葉を止める。書類は何も記載されておらず、白紙である]
SCP-████-JP: あ?どうした?
五水研究員: あぁ……いや、つまりはゼロなんだ。このサイトは長らく要注意団体に襲撃されていない。もちろん、君のチーム十四Qにもね。
SCP-████-JP: マジかよ、信じらんねえ……。あり得ねえよマジで。
五水研究員: [かすれた小声で] 本当に、あり得ない。
SCP-████-JP: なんか言ったか?
五水研究員: い、いや、何でもない。そう言えば、君自身はどうなんだ?君は低レベルの現実改変能力を持っているわけだが。
SCP-████-JP: ああ、念じたことを実現できる力な。「どうなんだ」ってのは何のことだ。
五水研究員: その、仲間の助けを待たなくても自分で脱走しようと思わないのかってことだよ。収容された当初はいろいろ試していただろ?
SCP-████-JP: そりゃ最初は牢屋の鍵を作ろうとしたり、壁に穴開けたりしようとしてたさ。でもアレがあるわけだろ?しばらくしたら無駄な努力だって分かって、かったるくなってきてよ。
[SCP-████-JPは自身の背後に設置されたスクラントン現実錨(SRA)を指し示す]
五水研究員: そのために置かれているものだからね。あれが起動している限り、君は現実改変能力を行使することができない。収容室に閉じ込められたままだ。
SCP-████-JP: 分かってんならわざわざ言わせんなよ。趣味悪りいな。それに、今となっちゃあアレに加えてソレもあるじゃねえか。
五水研究員: それ?
SCP-████-JP: 嘘だろ、まだ気付いてねえのか?[五水研究員の背後を指さす] ほら、ソレだよソレ。
[五水研究員は背後を振り返るが、そこには壁だけしか存在しない。彼が前に向き直ると、SCP-████-JPは収容室内から消失している]
五水研究員: あ、え?
[五水研究員は立ち上がり室内を見回すが、SCP-████-JPの姿はどこにも発見できない。彼は次に収容室の設備を確認するが、SRAは正常に作動しており、カント計数機は現実改変の発生を意味する数値の変動を示していない]
五水研究員: 収容違反……!
[五水研究員は躓きながら収容室から廊下に走り出る。少し離れた先から飯森いいもり技術職員がこちらに歩いてきており、五水研究員は彼の側に駆け寄る]
五水研究員: しゅ、収容違反、SCP-████-JPが。
飯森技術職員: 一体……どうしたんだ?五水さん。
五水研究員: だからあの、収容室からオブジェクトが消えていて。
飯森技術職員: [溜息] とにかく落ち着いて。深呼吸できるか?
五水研究員: そんな場合じゃないんですよ!SCP-████-JPの収容違反です、早く保安部門オフィスに連絡を
飯森技術職員: えーと。いわゆる「ノリが良い」方ではないから、無粋な反応を返している自覚はあるよ。けど、そういった冗談は俺以外に仕掛けた方が良いんじゃないか。なんだっけ、████だっけ?そんなナンバーのオブジェクトはこのサイトに収容されてないだろ。
五水研究員: は?いや、だってそこの収容室で……。
[五水研究員が振り返るとそこに収容室の扉は無く、廊下の壁だけしか存在しない。彼は驚愕した様子でその壁を何度も撫でるが、壁に変化は見られない]
飯森技術職員: 俺はこのサイトの改修に何年も関わってるけどさ、そんなとこに収容室を作った覚えはないぞ。技術職員として胸を張って言える。
五水研究員: そんな。今まさに、僕はここで。
飯森技術職員: 確かにこのところ暇を持て余すくらいの平穏だけど、収容違反だなんて縁起でもないジョークはあまり感心しないな。せめて時と場所を選んだ方が良いよ。それじゃ。
[飯森技術職員は足早に歩き去る。五水研究員はその後ろ姿を見ながら、茫然とした様子で廊下に立ち尽くす]
From: Tech.iimori@scp.int
Bcc: Phantasos-Staff/81AM
Subject: 報告事項
現実構造の綻びを発見した。ヒト型収容室A26とA28の間に存在する明らかな欠落は、対象が標準プロトコル下の環境に疑念を抱き始めていることの反映であると思われる。上位スタッフ各位にパンタソスの適用を要請する。
From: tukasahabaki@scp.int
To: Tech.iimori@scp.int
Subject: Re. 報告事項
要請を受理しました。カフェテリアでの前兆も考慮し、パンタソス・プロトコルの即時適用を正式に宣言します。
サイト-81AM: カウンセリングルーム
[五水研究員がカウンセリングルームに入室する。お茶を運んできた布目ふめカウンセラーが彼をテーブルへ促し、両者は向かい合って着席する]
布目カウンセラー: お待たせ、それじゃあ始めていこう。事前にアンケートを答えてもらったわけだけれど……まずは、ここ。"日常に感じる違和感"について聞かせてもらえるかな?
五水研究員: は、はい。最初はあの、カフェテリアに飾られている収容違反ゼロの表彰を見た時だったんです、そうだったっけって。確かに、確かにですよ、ここのところは何事も起きていなかったけれど、そんな平穏が何年も続いていることってあり得るのかって。だっておかしいですよね。81AMには数百のアノマリーが、この世の物理法則を捻じ曲げる予測不能なあれこれが狭い敷地にひしめき合っていて、その全ての収容方法が確立されているわけでも無いのにですよ。あの、この不自然さ、解ってくれています?
布目カウンセラー: [メモを取りながら顔を上げて] 大丈夫、伝わっているからね。続けて?
五水研究員: ああ、よかった。みんな僕のことをおかしい者のように見てくるんです。いや、もちろん彼らの言うことも理解できるんです、サイトの中だけなら努力次第でインシデントを防ぐことだってできるかもしれません。でも、サイトの外は?他の連中は? "廃桃源"という大規模な異次元と隣り合っていて、市街にはGoIが暗躍しているこんな場所で、何事もないことなんてありえないじゃないですか。なんでみんなそれに違和感を持たないのか
布目カウンセラー: なるほど。それで、何でこのカウンセリングルームに来たんだい?
[数秒の沈黙]
五水研究員: な、何でって、そんな。
布目カウンセラー: [カップを手に取り、お茶を飲み干す] 君の意見としては、おかしいのはこの現状に違和感を持たない周りの人間なんだろう。なら、君が懸念するべきはサイト全体に何らかの異常な影響、例えばミーム災害か何かが蔓延している事態じゃないのか?
五水研究員: そ……そんなこと。
布目カウンセラー: 珍しい話ではないよ?ミス1つで施設全てが奇妙な思想に支配された例なんてたくさんある。それこそ、致命的な「収容違反」が発生したせいでね。しかし、君はそうしたことを他サイトへ知らせるでもなく、自分の意思でこの部屋にやって来た。その理由を聞きたいんだ。
五水研究員: それは、その。目の前で消えたんです。
布目カウンセラー: 何が?
五水研究員: [荒い呼吸] 今までインタビューをしていたオブジェクトが、き、消えて、収容室まで消えて。しかも、誰もそんなナンバーは知らないって。そうなると、おかしいのは自分の頭じゃないかって、それで。
布目カウンセラー: "Atomosアトモス"。
[あらかじめ定められたコードワードによって、五水研究員は即座に硬直状態となり活動を停止する。布目カウンセラーは職員用携帯端末を取りだし連絡を行う]
布目カウンセラー: お世話になっております、布目です。はい、ええ。パンタソスの件で。対象を無力化しました。
[布目カウンセラーは通話中一時的に五水研究員から目を離す。その瞬間、五水研究員の身体は四方に伸び縮みするように激しく歪み、再構成される]
布目カウンセラー: 至急"守り神"へ、はい。
五水研究員: ……あの、誰と通話をしてるんですか?
布目カウンセラー: [驚愕した様子で振り向いて] し
[布目カウンセラーは消失する。五水研究員は焦点の合っていない目で布目カウンセラーがかつて存在した位置を見つめていたが、しばらくして困惑した様子で立ち上がる]
五水研究員: ここ、カウンセリング室?なんで僕は……。
[困惑した様子を見せつつ、五水研究員は目の前に置かれたティーカップに気が付く。彼はカップを流しに持って行き、水道水でゆすいで乾燥棚に置く]
五水研究員: えーと……失礼しました。一体何なんだよまったく……。
[五水研究員がカウンセリングルームを退室する。彼の背後で廊下の構造が激しく組み変わり、カウンセリングルームの扉は確認できなくなる。五水研究員はそれを認識していない]
サイト-81AM: 現実論研究室
[五水研究員が研究室に入室する。研究室内では迂多田うただ博士が机に置かれた機器の整備をしている]
五水研究員: 博士、少しよろしいですか。
迂多田博士: うん、ああ。[手を止める] 五水研究員か。何か用かな。
五水研究員: え、博士が僕を呼んだんじゃないんですか?誰にも見つからないでここに来るようにって。
[迂多田博士は眉間に皺をよせ、五水研究員の近くに詰め寄る]
五水研究員: ちょっ
迂多田博士: 静かに。いろいろと聞きたいことはあるだろう、だが、まずは私の質問に答えるんだ。君が入って来た時、この研究室の扉は何色だった?
五水研究員: え、えーと……緑、だったでしょうか。
迂多田博士: では確かめよう。
[迂多田博士は五水研究員を連れ、人目を気にしつつ研究室の外に出る。扉が暗い緑色に塗られていることを確認し、2人は研究室内に戻る]
迂多田博士: なるほど、だいぶ不安定になっているようだな。
五水研究員: 不安定って何のことです。何のテストだか知りませんが、扉は緑だったし、僕もちゃんとそれを覚えていたじゃないですか。
迂多田博士: では1から説明してやろう。君はこのサイトで異常な現象が起きていることに気づき、ここに来た。そうだな?ならば、それはどういった類いの異常だった?
五水研究員: ……最初に気が付いたのは、小さな違和感でした。このサイト周辺では、インシデント発生件数がゼロに近い。平穏すぎる。それに気が付いた時から、全部がおかしくなっていったんです。インタビューしていたオブジェクトが収容室ごと消えて、誰もそいつの事を覚えていなくて。気づけばカウンセリング室に……もう、訳が分からないですよ。
迂多田博士: ものが消える、記憶が消える。君の主観だとそうかもしれんな。だが正確には、それらは「元から無かった」という状態に改変されたのだ。現実の構造ごとな。
五水研究員: それは、現実改変ということですか?し、しかし、SCP-████-JPの収容室にはSRAがありました!現実性の変動を検知するカント計数機だって!
迂多田博士: もちろんこのサイトの各所にも同じものが配備されているとも。だがね、それらが保護する現実領域には限界が存在するのだよ。例えばサイト全域に±600Hm以上の激甚な現実性濃度勾配が発生し続けている場合、1Hmの基準ラインそのものが狂わされ維持できなくなる。のしかかる大気の底で生活している私たちが秤を使っても、秤が気圧を測れないのと同じ理屈でな。結果として
五水研究員: ああそうですか、もう理論は十分です!つまるところこの異常現象は現実改変が原因だってことは理解できました。だったらなぜ、誰もその原因を解決しにいかないんですか。
迂多田博士: 解決している最中だからだ。パンタソス・プロトコルによってな。周りの職員が変な行動を取ってはいなかったか?彼らは君を監視し、捕えようとしていた。
五水研究員: 僕を……?
迂多田博士: ああ。なぜなら、君がこの改変現象を引き起こしている張本人だからだ。
[数秒の沈黙]
五水研究員: 何を言っているんですか。僕は。
迂多田博士: 張本人という言い方は語弊があったか。だが、中心人物であることは確かだ。君が違和感に気が付いた時から異変が起こり始めた、そう言ったな?なら考えてみろ、異常な現象が君を起点に起こっているという事実を。
五水研究員: 僕は何もしていない!
迂多田博士: 落ち着け。君が積極的に現実を攪乱しているとは言っていない。ただ望むと望まざるとにかかわらず、君はこの事態の中心になっている。
五水研究員: どういう意味なんですか。
迂多田博士: 君の背後には、君の無意識によって揺れ動く巨大なエネルギーがある。平穏を望むが、平穏すぎることを異常と感じるアンビバレンスな君の心の動きがこのエネルギーの状態に影響しているんだ。平穏な日常を望んでいる間、そいつはその願いをやりすぎるほどに叶える。だが一度君がその状況を「異常である」と考え始めてしまえば、もっとわかりやすい異常現象が起こり始める。逆正常性バイアスとでも言おうか。
五水研究員: エネルギー……。
迂多田博士: そう、現実を改変する巨大なエネルギーだ。1つ実証しよう。さきほど、この研究室の扉の色を答えてもらったな。
五水研究員: え、ええ。緑と。
迂多田博士: 緑は私の嫌いな色でね。
[迂多田博士は机に置かれていた機器の内部から1枚の写真を取りだす。その写真には、研究室の扉を灰色に塗っている迂多田博士の姿が写っている]
迂多田博士: この機械はスクラントン・ボックス。SRAよりも古い技術だが、ボックスはアンカーよりも情報保存においては優れている。……この写真を見るまで忘れていたが、どうも先週自分で緑から灰色に塗り直したらしいな。この研究室に普段寄り付かない君も当然知らなかった。だから扉は、君の記憶に合わせて色を改変されたんだ。
[五水研究員は疲れた様子で後ろによろめく。すると彼の背後に突如としてパイプ椅子が出現し、彼はそこに座り込む形となる。それを見て、五水研究員は頭を抱える]
五水研究員: ……わかりました、わかりましたよ。僕がこの事態を引き起こしてるってことは納得しました。けどわからないのは、なんでその巨大なエネルギーとやらが僕の無意識に影響されているかです。自分で言うのもなんですが僕、いままで平凡な人生を生きてきたんですよ?
迂多田博士: [小声で呟く] なるほど。これでもまだ思い出せないというわけだな。
五水研究員: 何と?
迂多田博士: いや何でもない。とにかく、私は君の味方だ。ここの監視カメラは切ってあるし、恐らくはまだ財団に勘付かれてはいないだろう。連中は次のプランを準備しているようだが、その前に君を逃がしてやる。
五水研究員: 逃げる!?それは流石に……。
迂多田博士: 財団がSRAで収容できない現実改変者を生かしておくと思うか?ベーグルを食べながら頭を吹っ飛ばされるより裏切り者になる方がマシだろう。
[迂多田博士が壁のレバーを操作すると研究室の別室に備え付けられた棚がスライドし、隠されていた鉄製の扉を露出させる]
迂多田博士: これを使おう。緊急避難用の地下通路だ。不便をかけるが、君が能力を制御できていない内はこの経路を選ぶしかない。
五水研究員: 博士、貴方は一体。
迂多田博士: ある要注意団体からの潜入スパイだ。"蛇の手"と言えば分かるか?さあ、逃げるぞ。
[五水研究員と迂多田博士が研究室内から退室する]
サイト-81AM: 緊急時用地下通路
[階段を駆け下り、五水研究員と迂多田博士が地下通路内へ入場する]
迂多田博士: こっちだ。封鎖されていないのは幸いだったな。
五水研究員: この通路は一体どこへ通じているんですか?
迂多田博士: サイトの外へ。上手く脱出出来たら廃桃源に入ろう。仲間がいるし、あそこを抜けさえすればどこへなりとも逃げられる。
五水研究員: あともう少しで
[五水研究員は息を切らしながら通路の壁に手をついた後、不審がる様子でその手を置いた場所を凝視する]
迂多田博士: どうした。
五水研究員: いえ、ここに……何かが。
[五水研究員が手を除けると、そこには手の跡が残っている。彼は自分の手のひらを見つめるが、そこには何も付着していない]
五水研究員: この手形、血か何かの跡に見えます。それに、僕の手と全く同じ大きさだ。
迂多田博士: どこかで怪我でもしたのか?
五水研究員: いえ、僕はここに来るまで怪我していないし、この跡は完全に乾いている。[手のひらと手形を見比べる] ……これ、手のしわまでまるっきり僕のと同じだ。
迂多田博士: ここに入ったことがあるからだろう。
[迂多田博士が五水研究員へ向き直り、彼の目を覗き込むように見つめる]
五水研究員: そんな、こんな場所なんて僕は。
[五水研究員は後ずさりする]
迂多田博士: ……いや、君はここに入ったことがあるし、怪我をして手に血液が付着している。そうだろう?五水研究員。
五水研究員: 何を……博士が言ったんでしょう、ここは緊急避難用の地下通路だって!このサイトでは収容違反が起きていないから、こんなところを僕が使うことなんて
迂多田博士: ここはサイト外へ通じてなんかいないし、避難するための通路じゃない。この緊急時用地下通路を使って、君はやるべきことがあるはずだ。認証コードは覚えているだろう?そう、"Atomosアトモス"、だ。
[迂多田博士の言葉を聞いた瞬間、五水研究員は硬直し震えだす。身体は四方に伸び縮みするように激しく歪み、細かい粒子状に分解された後に再構成される。再構成された彼の服や体には血が飛び散っている]
五水研究員: そうだ……早く起動しに行かないと。もう僕しかいないんだ。
迂多田博士: ああ、行くといい。
[五水研究員は迂多田博士に衝突し、そのまま博士の身体を通り抜ける。彼は迂多田博士を認識していない。五水研究員はそのまま地下通路から退場する]
標準財団施設最終保安フェイルセーフポリシー(1964年版)
全ての主要な財団サイトは、敷地内に核弾頭を設置するものとします。大規模な収容違反が発生して、異常存在が大量に放出され、ベースライン人類に不可逆の影響を及ぼすと考えられる場合は、この核弾頭を起爆することによって、財団の使命の継続的な成功を確保します。
個々の弾頭は遠隔起爆機能を備えており、適切な認証コードがあれば、どの主要な財団サイトでも作動させることが可能です。しかしながら、収容違反によって通信障害が発生する可能性を鑑み、全ての弾頭は現地の手動操作で起爆できる仕組みになっています。弾頭を手動起爆する場合、そのサイトでは深刻かつ回復不可能な収容違反が発生していると見做され、カウントダウンは行われません。
サイト-81AM: 地下████████
[認証コードをたどたどしく打ち込み、五水研究員が████████に入室する。室内にはアナログの制御盤とブラウン管モニターが並んでおり、正面の窓からはミサイルサイロに似た深い縦穴の空洞が確認できる]
五水研究員: [荒い息遣い] やるんだ。みんなのために。
[五水研究員は制御盤の埃を払い、最終起爆ボタンの小さなプラスチックカバーを持ち上げる]
五水研究員: さよなら。
[目を瞑り、五水研究員は一滴の涙を零す。彼はボタンに親指を掛け、息を吸って押し込む]
[正面の窓で激しい閃光と爆風が発生した瞬間、それらは時間的静止場に固定される。破損した窓のガラス片と五水研究員は、衝撃波で吹き飛ばされた直前の状態で静止している]
幅木博士: [扉を開けて] 終わったようです。
[幅木博士に促され、迂多田博士と白仲しらなか管理官が████████に入室する]
白仲管理官: よし。すぐに済ませてくれ。
[防護服を着用した複数のパンタソス・プロトコル担当職員らが入室し、空中で静止している五水研究員を捕捉して担架に乗せ退室する。幅木博士がモニターを操作すると、暫くして縦穴の底に移動した防護服の職員らの姿が画面に映る]
白仲管理官: なかなか良いアドリブだった。地下通路へ向かわせる"再演"のお膳立てはもちろん、蛇の手を名乗るとはな。とっさに出た理由付けとしては上出来だろう。
迂多田博士: いや、恥ずかしい限り。とはいえSCP-1915の例もしかり、自覚が無い現実改変ほど手の付けようがない。ちゃんと説明の段階を経ずに布目カウンセラーの失敗と同じ轍を踏むことになると良くないだろうと思ってね。
白仲管理官: そう言ってやるな。彼もこれまであの方法で上手くやって来た。今回は直前の揺さぶりが甘かっただけのことだ。
[防護服の職員らは、担架を縦穴の底の中央に置く。静止したままの五水研究員を取り囲むように職員らは円形に並び、頭を下げ手を合わせる。直後、五水研究員は静止場に固定された爆炎と光の中に浮上していく]
幅木博士: 仰る通り、もっと上手くやるでしょうね。我々に次があるなら。
[五水研究員が縦穴を上昇していくと制御室のモニターが切り替わり、縦穴を見上げるような構図で捉える。地下にもかかわらず天井は明るく輝いており、その終端が無いように見える。果ての無い明かりの中に、重度被曝が原因の放射線熱傷を受けた無数のヒト型実体が浮遊していることが判る]
幅木博士: [溜め息] 何度活性化サイクルを体験してきても慣れません。現実の構造が撓み、捩じれ、骨抜きになる。夢と現の境界がなくなり、明日どころかこの「今」さえ拠り所が無い。あまり正面から向き合いたくないところです。
白仲管理官: みな嫌気がさしているとも。救いは、もうすぐにこれが終わることだけだ。
迂多田博士: 一時的にだがね。
幅木博士: ええ。未来や現在がどうだろうと、この過去だけは消せない。
[五水研究員は上昇し続け、ヒト型実体の塊の中に突入する。その瞬間、塊は急速に渦巻き始め、爆発の炎と光は逆転し、縦穴の底の一点に凝縮されていく]
白仲管理官: せめて"守り神"よ。どうか、その夢幻から永く目覚めぬことを。
[押されていたボタンが元に戻る]
[サイト-81AMは成功裏にT minusへと回帰する]
特別収容プロトコル: SCP-3131-JPはサイト-81AMと不可分の状態となっているSCP-3131-JP-AとSCP-3131-JP-Bにより構成されます。SCP-3131-JP-Aは発見地点であるサイト-81AM地下においてそのまま管理され、SCP-3131-JP-Bは職員ID:243776の身分を表向き維持する一環としてサイト-81AM職員としての雇用が継続されます。担当職員はSCP-3131-JP-A,-B双方の常時監視について、それを達成するための権限と責任を負うものとします。
サイト-81AM職員はSCP-3131-JP-Aの"覚醒"抑制のため、「サイト-81AMにおいて特筆すべき異常は起きていない」とのカバーストーリーによりSCP-3131-JP-Bを欺瞞することが求められます。加えて活性化ごとの各サイクルにおいて、SCP-3131-JP-Bがその収容環境下に疑念を持たないよう振る舞ってください。SCP-3131-JP-Bの不安定化によりこの体制が破綻した場合、担当職員によりパンタソス・プロトコル(別紙参照)が即時実行されます。
SCP-3131-JP類似オブジェクトの発生防止のため、日本支部理事会指令ニ-11号に基づき2000年以降に財団81管区において新設された財団施設では緊急時最終保安プロトコルとしての核弾頭の設置義務が廃止されています。またそれ以前に設立された施設についても、サイト-81KKにより採用された次元遷移型隔離設備など、核弾頭に依存しない手法へと段階的に移行することが決定されました。
説明
SCL-3/81AM EYES ONLY
補遺Ⅰ - 最終保安プロトコル実行(1999)
SCL-4/81AM EYES ONLY
補遺Ⅱ - Thaumiel指定(2009)
SCL-4/81AM EYES ONLY
補遺Ⅲ - 提言
財団が収容する中で最も強大な現実改変者であったSCP-239は、常に体表から特殊な放射線を発していた。中性子線を通して現実強制因子を伝達する仕組みを解明したスクラントン博士は、現実錨の初期モデルにプルトニウムを用いていた。GOCはチェルノブイリ原発事故で発生した"象の足"を使い、対Type Green実体用の人造の現実改変者を作った。
それでも、このようなことが起こるとは誰も予測していなかった。
確かにあの1999年、サイト-81AMは手ひどい失敗をし、SCP-3131-JPはそれを逆転させた。0916事件において急速に進行した廃桃源への横浜市域崩落を食い留めているのも、SCP-3131-JPが疑似的に巨大な現実錨として機能しているからだということは承知している。だから、81AMにとっては"屈辱"そのものであるThaumiel指定も飲み込んだ。
だが、もう限界だ。
あの日滅ぶはずだった横浜と引き換えに、サイト-81AMは6.4kgのプルトニウム塊が見る夢の中に生かされている。SCP-3131-JPの覚醒サイクルは年々早まり、一瞬にして永遠の午睡はいつ覚めるかもわからない。9メガトンの爆発はたった1人の人柱によって支えられるには巨大すぎる。彼が完全に破綻した時、2度目の奇跡は起こらないだろう。
もはやこれを続けるべきではない。
— サイト-81AM施設管理官、白仲祐明 2011年5月8日
日本支部理事会による審議の結果、提言は却下されました。SCP-3131-JPは横浜市域の正常性維持に不可欠となっており、「代替となる現実性強靭化システム」及び「SCP-3131-JPの確実な無力化を達成する手段」の両方が開発されるまでの間、現状体制の継続こそが最善の手段として支持されています。
白仲管理官は、この決定について再度の反論を行いませんでした。
From: tukasahabaki@scp.int
Bcc: Phantasos-Staff/81AM
Subject: 終了報告
ロストした人員とサイト全域の現実領域への帰還が確認されました。現時点を以って、今回のパンタソス・プロトコルを終了します。
皆さん、お疲れさまでした。五水研究員の再出現が確認された際は、またよろしくお願いいたします。
文書改訂履歴(Rev.64 - 65)
追記削除
SCP財団保安施設ファイル
正式名称: SCP財団 日本国 神奈川横浜 研究・収容施設
サイト識別コード: JPKNYK-Site-81AM
概要情報
LNG貯蔵施設に偽装されたサイト-81AM。
設立: 1964年12月
設立管理官: ████ █████ 教授
現サイト管理官: 白仲 祐明Siranaka Hiroaki 博士
場所: 日本国 神奈川県 横浜市 磯子区
サイト機能: 都市圏周辺管理、オブジェクト研究・収容
カバーストーリー: 南横浜火力発電所近傍に設置された液化天然ガス(LNG)貯蔵施設
説明: サイト-81AMは1964年、それまで横浜市域を管轄していた首都圏初期収容セクター-045の管理リソース逼迫に伴い、収容能力の拡張と司令部機能の移動を目的として建設された大規模収容施設です。日本有数の港湾・工業地域であり人口約370万人を擁する横浜では、SCP-134やSCP-261等を筆頭にアノマリーの発見例が多く報告されており、そうしたオブジェクトの収容や他サイトへの海上輸送を統括する施設としてサイト-81AMは多大な貢献を果たし続けています。
また、横浜市周辺地域には韓国・中国・台湾に跨る余剰次元的異常領域"廃桃源"への接続地点が存在しています。同領域は超常的犯罪を含む多様な非合法活動の温床となっており、横浜市内において各要注意団体(GoI)の活発な活動が確認される一因であると考えられています。それらの影響を監視・抑制することはサイト-81AMが担う主要な任務の1つです。
こうした異常活動の多発にもかかわらず、ここ数年の間サイト-81AMのインシデント発生件数は極めて低いものとなっています。これは他の人口密集地域に設置された収容施設と比較しても顕著な差であり、サイト-81AMが特筆すべき独自の収容ポリシーを採っていないことを鑑みても目覚ましい実績です。20██年には収容違反の発生件数ゼロを記念して日本支部理事会より表彰が行われました。
[…]
記録 終了










