アイテム番号: SCP-3138-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: 回収済みのSCP-3138-JPの種子、及び標本はサイト-81██で保管されます。未発見のSCP-3138-JP個体を所持していると思われる三沢誠治の捜索は現在進行中です。
説明: SCP-3138-JPは異常な果実を生成するウリ科(Cucurbitaceae)植物です。SCP-3138-JPは通常のウリ科植物と同様の成長・開花プロセス1を辿りますが、果実を生成するに伴い、その内部に人間の心臓を形成し、発達させます。心臓の周囲は人間の心嚢液2に近い物質を含む多汁質の果肉であり、本来であれば血管などに繋がる心臓の部位は果肉と合着しています。この心臓の生成・維持を可能にするほどの多量のエネルギー、並びに物質供給は植物体内部から検出されませんでした。
解析の結果、生成される全ての心臓のDNA型は、19██年に7才で死亡した三沢真白のものとほぼ同一であることが判明しています。当時の記録によると、三沢真白は先天性の拡張型心筋症3に罹患しており、それに起因する不整脈が突然死を引き起こしたと診断されています。しかし、SCP-3138-JPにより生成された心臓からは心筋症を含むあらゆる疾患の兆候が見受けられませんでした。
特筆すべき点として、三沢真白の父親である三沢誠治は過去に日本生類創研(GoI-8101)に所属していた経歴があり、後述する関連文書にも名前が記載されていることから、本件の重要参考人に指定されています。これにより三沢誠治の自宅に財団エージェントが派遣されましたが、いくつかの証拠隠滅の後に逃亡した形跡があり、現在もその足取りは掴めていません。
SCP-3138-JPは███の放棄された研究施設において発見・回収されました。その際、日本生類創研内部でのみ使用されていたと考えられる情報端末デバイスも回収され、メール送信履歴から以下の文書が発見されました。
関連文書3138-JP-1
FROM: 三沢誠治 ID: [編集済]
TO: 沼津孝久 ID: [編集済]
先日沼津博士に目を通していただいた被検体「ジゼル・フルーツ」の改良は順調に進んでいます。あの果実が娘の完全で新しい心臓に成るまであと一歩という所です。「移植用臓器を自在に設計できるバイオ技術」としての企画も上層部から高い評価を得ています。
とはいえ、無論私の最重要の目的は娘の心臓移植を滞りなく成功させることであり、同時にその真白の容態はいつ急変するかも分からない切迫した状況であることに変わりはありません。
あの子は闘病生活の毎日に疲れ切っています。生まれ持った弱い心臓のために、長い間楽しみにしているバレエ教室にも行くことができないのです。私は父親として、研究者として、あの被検体の完成を急がなければなりません。
そのためにも、植物開発の第一人者である沼津博士の知見を今後ともお借りしたいと考えております。ご多忙とは存じますが、何卒よろしくお願いいたします。
関連文書3138-JP-2
FROM: 三沢誠治 ID: [編集済]
TO: 沼津孝久 ID: [編集済]
お久しぶりです。無事息災であることを願います。
既に組織を抜けた私のIDからのメールは検閲され、沼津博士のもとに届く可能性は低いでしょう。それでも貴方にだけはどうしてもこの事をご報告しなくてはと思った次第です。
幾度の試行錯誤の末、ついに私の悲願が実を結ぶ日を迎えました。
娘が病気を克服し、新たな人生を踏み出せることの喜びを噛みしめるとともに、改良段階で度々理論を見直していただいた沼津博士への筆舌に尽くしがたい感謝の意をここにお伝えします。
メールの受信先の人物は、同じく日本生類創研の構成員である沼津孝久であると推定されます。沼津孝久は以前より植物型オブジェクト██件の開発等に関与していることが財団に認知されており、監視体制に置かれていました。よって直ちに沼津孝久の身柄を捕捉し、SCP-3138-JPに関するインタビューが実施されました。以下はその記録です。
インタビュー記録3138-JP 20██/██/██
対象: 沼津孝久
インタビュアー: エージェント██
<記録開始>
エージェント██: SCP-3138-JPについてお聞かせ願います。あなたの組織においてジゼル・フルーツと呼称されていた植物についてです。
沼津孝久: 今更あれを調べてるのか?……まあいい、どうせ終わった話だ。知っていることなら話そう。
エージェント██: ご協力感謝します。現状の調査では、SCP-3138-JPの開発は三沢誠治によるものと断定されています。明確にしておきたいのですが、あなたはこの開発に関わっていましたか?
沼津孝久: いや、私はあの品種の改良段階でいくつか助言を求められただけに過ぎない。あれは三沢君一人の研究だった。ただ、元々彼は植物専門というわけでもなかったから、その手の専門家として古い知人である私を頼ったというわけだ。……しかし、子を救おうとする親の執念というのは大したものだよ。あの日彼が持ってきた被検体はその時点で既に完成に近かった。私の助言など必要ないくらいにな。
エージェント██: ではやはり、三沢誠治は娘の命を救うためにSCP-3138-JPの開発に着手していたと?
沼津孝久: ああ、その通りだ。彼の幼い娘、……確か真白ちゃんと言ったな。彼女は生まれつき重度の心臓病を抱えていて、当時は心臓移植だけが延命の唯一の方法だった。だが、彼女に適合するドナーは一向に見つからず、三沢君は過去の実験で偶然発見していた「ヒト組織を記憶し再現する植物」、つまり後のジゼル・フルーツの開発に掛かった。……時に、君はジゼルというバレエ作品は知っているか?生まれつき心臓の弱い娘の物語だ。彼から聞いた話では、真白ちゃんの将来の夢はバレリーナになることだったらしい。まあ、名前の由来など知ったところで、番号で呼ぶ君たちには関係のない話だろうが。とにかくあの研究は、三沢君が他ならぬ娘のために捧げたものであったということだ。
エージェント██: しかし、実際のところ三沢誠治の娘は既に……病死しています。
沼津孝久: ああ。完成を目前にして真白ちゃんは容態が悪化し、急死してしまった。研究の目的を失った三沢君はその後間もなく組織を抜け、以来彼とは連絡を取っていない。結局私はあの研究の助けにはなれなかったし、最愛の娘を失った彼にどんな言葉をかけていいかも分からなかった。情けない話だよ。
エージェント██: 組織離脱後の三沢の動向についてはご存知ないのですか?我々の調査によれば、彼はその後もSCP-3138-JPの開発を続けていたようです。それについて何か思い当たることはありませんか?
沼津孝久: さあな。私が知っていることは全部話した。思えば彼と連絡を取っていたデバイスも、組織内の人間としかやり取りできない特殊なセキュリティの物だった。今の私が何かを送信しても届くことはない。……しかしそうか、彼があの研究を続けていたとはな。生真面目な彼のことだ、かつての自分たち親子のように、移植用臓器を待ち望む人々の救いになりたいと考えている可能性はある。あのジゼル・フルーツは更に精度を高めれば、あらゆる人体組織を完全に、しかも病害を取り除いた形で再現できる代物だからな。
<記録終了>
補遺: 三沢誠治の新たな潜伏場所と思われる███郊外の家屋が特定され、直ちに財団エージェントが派遣されました。しかし、家屋内はいくつかの研究機材、生活用品を残した状態で無人であり、指紋などが粗雑に拭き取られた形跡があることから、三沢誠治はエージェントの到着寸前に逃亡したものと見られています。また、家屋内からは特筆すべき以下の物品が回収されました。
- ████社製バレエシューズの空き箱。サイズなどから女児用と推測される。
- SCP-3138-JPのものと思しき種子が入った保存容器4点。全ての種子は劣化により発芽能力を失っていた。容器のラベルにはそれぞれ、"膵臓"、"左眼球"、"胸椎"、"右下腿4〜爪先"と書かれている。
- 冷凍保存されたSCP-3138-JP果実の残骸。状態が良く、防腐処理の形跡も確認された。その中に果実の内容物は含まれておらず、何が生成されたかは不明であるが、通常のSCP-3138-JPよりも明らかに肥大した果実であったことが窺える。また、果肉の多汁質部分からは人間の羊水に似た物質が多量に検出された。









