
破絶現象の影響を受けたペットボトル。
特別収容プロトコル: SCP-3150-JPはシャンク-アナスタサコス恒常時間溝によって防護されたセルに収容されます。SCP-3150-JPに対するインタビューは成功するか否かに拘らずその危険性により一律で禁止されていますが、緊急時やその他例外的な状況の場合はその限りではありません。
説明: SCP-3150-JPは耶支亦姫神ヤシマタヒメという神格です。その異常性は、SCP-3150-JPの取る行動が断続的に変化して見えるという点にあります。変化する様がビデオを数秒スキップした時のように見えることからこれを『スキップ現象』と呼称する職員もいますが、SCP-3150-JPや大多数の職員は『破絶』という用語で呼称しています。
典型的な破絶現象の実例としては、以下の状況が挙げられます。
SCP-3150-JPが取ろうとした行動: 立ち上がり、遠くのものを手に取って元に戻る。
現象発生による影響: SCP-3150-JPが立ち上がった瞬間、時間が4.3秒間破絶する。次に時間を正しく認識した時、SCP-3150-JPは既に目的の物を手にしており、座った状態であった。
なお、破絶中の時間流を何らかの形で認識できた例はなく、本人含め「破絶現象が起きた」という結果を認識することで現象の発生を知るようです。
破絶現象は1日に700回程度発生しており、1回あたり2~15秒破絶します。現象は無作為に発生していると考えられ、例えば物を運ぶ、飲料を飲む、果ては単に呼吸している際にも現象の発生が確認されています。
補遺1: 発見
はじめ、SCP-3150-JPは財団エージェントが別件で岐阜県の井崎山を登頂している際に発見されました。発見当時、SCP-3150-JPは各所の破損した神話的な服飾を身につけていました。以下は発見時の記録抜粋です。
[抜粋開始]
エージェント: 東より生命反応。距離35m弱、人型。草むらに隠れました、しかしあれは目的の物体とは別です、専門部隊を寄越し
SCP-3150-JP: どなたですか?
(既にSCP-3150-JPはエージェントの目の前にいる。)
エージェント: なっ!?
SCP-3150-JP: 他の宗像四女神の皆は?ここは 貴方は、私を殺しに来たのですか?
[抜粋終了]
SCP-3150-JPは財団によって保護されました。しかし、上記の「宗像四女神」という発言が一般に知られている「宗像三女神」と比べて1体多いことから、収容関係者は何らかの改変が発生した可能性があると疑いました。
関係者は、SCP-3150-JPに関する過去改変が発生していないかを調査するよう時間異常部門に依頼しました。その結果、SCP-3150-JPが耶支亦姫神(ヤシマタヒメ)という神格であり、発見の2日前に改変によってその存在に関する記録が歴史から抹消されていたことが明らかになりました。
過去改変の前、ヤシマタヒメは宗像四女神の1体として君臨していましたが、改変によって宗像四女神に関する記録や伝承はすべて「宗像三女神」に変わり、ヤシマタヒメの名前は資料から抹消されました。
これは神格的特性の面からSCP-3150-JPにとって不利益な事象ですが、本人はこれを自覚し、そして受容しています。
補遺2: インタビュー
収容初期、SCP-3150-JPはインタビュー要請に対し応じない姿勢を取っていましたが、それと同時に日本神話に関する情報を求めていました。財団がこれに対し、情報を渡す代わりにインタビューに応じることを条件として提示したところ、SCP-3150-JPはこれを承諾し、自身の求める情報を得た後にインタビューに臨みました。
[記録開始]
山科博士: インタビューに応じてくださりありがとうございます。
SCP-3150-JP: まさか人が神に対し対等な交渉を仕掛けてくるとは思いませんでした。今の時代、神の影響力は落ちるばかりとは知っていましたが。
山科博士: すみません、貴方から情報を得ることは火急の任務でしたから。
SCP-3150-JP: いいでしょう。いずれにせよ、私の詠叙は奪われたままなので。
山科博士: “えいじょ”?それは何ですか?
SCP-3150-JP: ええと……例えば、私の一挙手一投足を記録したり、他者から見られること……でしょうか。
山科博士: “行動”のことですか?
SCP-3150-JP: そうかもしれません。すみません、まだ現代の日本語には精通していない部分もあるもので。
山科博士: 構いません。
SCP-3150-JP: ……言った矢先申し訳ないですが、やはり“行動”とは違う気がします。私達は神話も“詠叙”と呼びますから。詠叙とは、私達のする行いを誇大的に表現し、他の者を畏怖させたり、楽しませたりするものの事です。今の日本語にそれと準ずる単語はありますか?
山科博士: ああ、それならいい言葉がありますよ “物語”。今の時代、私達はそれを物語と言います。
SCP-3150-JP: 物語。いい言葉ですね。
山科博士: ですが詠叙を、つまり物語を奪われているとはどういう事ですか?
SCP-3150-JP: それは私の過去に関わってきます。話しても?
山科博士: どうぞ。
SCP-3150-JP: 私は過去、宗像四女神という姉妹の1人でした。姉達も私も、宗像に住まう人間から信仰されて生きてきました。旧い時代、私達は宗像の民から出される供物を対価に、水害や国を跨ぐ脅威から彼らを守った事があります。
山科博士: 古事記にも記載がありますね。「連日の暴雨を見かねた宗像の三女神が、日照りを取り戻した」と。
SCP-3150-JP: それが詠叙です。詠叙とはこう書
(SCP-3150-JPは既に紙と鉛筆を持っており、紙には“詠叙”と書かれている。時間が破絶した事に気付く。)
SCP-3150-JP: ……ええ。詠叙とは、私達の取る行動やそれによる結果を、人々に楽しませるように描くことです。先程貴方が述べた描述も史実は異なります。私達はただ星占いをして「明日は晴れる」と予知しただけなのに、まるで私達が直接干渉したかのように「日照りを取り戻した」と語っているのです。
SCP-3150-JP: ですが、人々は詠叙を、物語を求めてます。それに事実とは異なろうが、誇大的に語ってくれるのは信仰を必要とする私達にとって悪い事ではない、そうでしょう?
山科博士: そうですね。しかし……貴方の名前は資料から消し去られ、初めから宗像には三女神しか居なかったかのように歴史が改竄されています。いったい何があったのですか?
SCP-3150-JP: 神と人の関わりが遠くなった現代で、私は天高津あまのたかつという、神々の住まう都にいました、姉たちと共に。私があんな事さえしなければ、私の存在が消されるような事にはならな
(時間が破絶する。)
山科博士: 今日はよく時が飛びますね。大丈夫ですか?
(SCP-3150-JPは不安がる。)
SCP-3150-JP: ……え、えぇ。大丈夫です、話を続けましょう。私はある者の怒りを買いました、ここでは“彼女”と言う事にします。彼女は都で最も優れた力を持つ者でした。権力という意味でも、実力という意味でもです。
SCP-3150-JP: 恥ずかしながら、私は宗像四女神の中では最も下位に位置する神でした。上手く人々に信仰されるよう振舞うのが下手で、周囲は私を支援してくれましたが、それでも不得手でした。
SCP-3150-JP: 神々と人が近しい時代だった頃、他の神が信仰される端で、私は周囲のお情けで生きのびる事もありました。それは非常に屈辱であり、そして苦痛でした。神が神として振舞えず、名ばかりになっている事がどれほど苦しい事か
(時間が破絶する。)
SCP-3150-JP: な……何かおかしいです。いくら何でもこんな頻繁に起こるなんて。
山科博士: まるで貴方が話すのを誰かが邪魔しているかのような
(2人は目を見合わせる。)
山科博士: (通信機へ)時間流計測器を!使い物にならないだろうが、現実固定器も。(向き直って)こんなに頻繁に時が飛ぶのは初めての事です。何か心当たりはありませんか?
(SCP-3150-JPは周囲を見回す。そこには何もいない。)
SCP-3150-JP: わ、分からない。でも何かおかしい。話を……話を続けましょう。私は力のある神を羨みました。財力も、実力も、権力も、私にはありませんでした。だ、だから……私は、それを持つ彼女の家に忍び入り、彼女の神力を壊してやろうと思いました。
山科博士: 神力を壊す?どうやって?
SCP-3150-JP: 神の中には、何らかの“媒体”を元手に力を発揮できる者がいます。それは鏡であったり、金属であったりします。そういったものは大抵どこかで祀られており、そしてそれを破壊したり穢すことで力を適切に作用させなくさせる事ができます。私の場合は逆恨み
(時間が破絶する。博士の手には既に複数の機器が持たれており、ドアの閉じる音が聞こえる。)
SCP-3150-JP: やっぱり間違いない。ち、近くにいる。
山科博士: 何が近くにいるんです?
SCP-3150-JP: 彼女です。彼女が私に近付いている気がします。
山科博士: 今のところ誰かが近付いているという情報はありません。ですが貴方の直感が正しいなら、その“彼女”は貴方に何かをしようとしているのですね?今すぐインタビューを中止しましょう。
SCP-3150-JP: いえ、いえ、続けさせてください、続けられるうちに。わ、私は彼女の力の源である[削除済]を壊そうとして、そしてそれが露見しました。私には余罪もありましたから、彼女は私を罰するためにヤシマタヒメの名を歴史から消し去り、地上へと幽閉しました。これは、彼女から私に与えられた罰
(時間が破絶する。時間流計測器は明らかな異常値を常に出し続けている。)
SCP-3150-JP: そして、この「破絶」という時が飛ぶ現象も、彼女から与えられた枷です。天高津では私と同じようにこの枷をかけられた人が何人かいます。このように時が幾度も飛べば、詠叙を正しく記録することが出来ませんから。一挙手一投足を記録し、表現することを「詠叙」と呼ぶなら、今の私は詠叙を奪われている状態なのです。
(時間が破絶する。)
山科博士: まだ話は続けられそうですか?
(SCP-3150-JPは周囲を見回す。)
SCP-3150-JP: 分かりません。今、今彼女はすぐそばで私の話を聞いています。彼女にはそれが出来るんです、誰にも姿形を認識させずに話を聞くことが。
山科博士: 彼女の目的は分かりますか?
SCP-3150-JP: 私達の話を聞くこと、それ以外には、まだ。ただ、私を「警告」しているのかもしれません。何を警告しているのかは分かりませんが、どうやら私達には時間が無いようです。彼女は今のところ私達が話すのを許してくれていますが、いつまでそうさせてもらえるか。
(SCP-3150-JPはドアの方向を見てひどく動揺する。)
山科博士: では、話せるうちに質問に答えてください。貴方はどこか神話から逸脱した存在のように思えます。“破絶”、“詠叙”、そして“天高津”。これらの言葉は神話には存在していません。どういう事でしょうか?
(SCP-3150-JPは左の方向を見てひどく動揺する。)
SCP-3150-JP: 日本神話や古事記は神の世界すべてを正しく描写している訳ではありません。天高津は貴方がた人間が知らない“裏の”神話領域であり、そしてそこには表では語られない、悍ましい詠叙と神格が存在しています。
山科博士: 天高津はどこにあるのですか?
(SCP-3150-JPは山科博士の横を見てひどく動揺する。)
(時間が破絶する。空間が一瞬歪曲する。)
(破絶により、SCP-3150-JPが何を話したのか知ることができない。)
山科博士: “彼女”はこれを答えさせてくれないみたいですね?
(時間が破絶する。)
山科博士: 天高津には
(時間が破絶する。)
(時間が破絶する。)
(SCP-3150-JPは目の前を見てひどく動揺する。)
山科博士: これが最後の質問になりそうです。“彼女”とは、誰なんですか?
SCP-3150-JP: 彼女の名前は
(空間が歪み、何かがSCP-3150-JPの髪を引っ張る。)
[破絶]
SCP-3150-JPが“彼女”の名前を述べようとした瞬間、時間が3分破絶しました。次に正しく時間を認識した時、記録装置は破損し、2人は気絶していました。後に2人にインタビューが試みられましたが、山科博士は記憶を失っており、またSCP-3150-JPに関しては、話を聞こうとすると時間が一定周期で破絶するため不可能であるという結果に終わりました。
これは“彼女”からの干渉であると共に、インタビューを試みる財団への警告の意義を暗に示していると推測されました。このため、SCP-3150-JPに関する詳細調査は現在保留中です。
“彼女”と呼称された存在の名前は未だ判明していません。