SCP-3158-JP
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アイテム番号: SCP-3158-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: 現時点においてSCP-3158-JPは財団の収容下になく、収容計画も確立されていません。財団の設置した記録装置、およびSNS等にSCP-3158-JPに類似する存在が確認された際は該当箇所に空間転移オブジェクト確保専用機動部隊こ-10("オルフェウス")を派遣し、対象の確保と関係者の記憶処理、投稿文の削除を行います。

説明: SCP-3158-JPは未知の方法で空間転移する異常性を有している起源不明の人型実体です。SCP-3158-JPは異常性を利用して自殺を行おうとしている人物の前に出現し会話を試みると考えられていますが詳細は不明です。SCP-3158-JPが異常性を発揮して接触した人物は全員死亡していることと、主に人目につかない場所で接触していたと思われるため、SCP-3158-JPが異常性を発揮した状況を記録した資料は後述する資料を含めて3件のみ確認されています。

発見経緯: SCP-3158-JPは自殺する人物の前に突然現れる人型実体としてSNS上で話題となっており、財団エージェントが自殺の多発現場に設置した記録装置に異常性を発揮したSCP-3158-JPが撮影されたことで存在が確認されました。

記録抜粋:

日付: 2019/01/13

付記: 以下は異常性を発揮したSCP-3158-JPの出現から消失までを撮影したものです。財団エージェントが投身自殺の多発する東京都██区██ビル屋上に設置した装置より回収されました。
SCP-3158-JPと対話しているのは██ビル内の██商事で勤務していた伊佐 七海いさ ななみ氏です。以下は伊佐氏と表記します。


<記録開始>

(屋上落下防止フェンスの外側にいる伊佐氏。フェンスに背を預け空を見上げている。フェンス越しの伊佐氏の背後に喪服を着用したSCP-3158-JPが出現。)

SCP-3158-JP: この時間に身投げはオススメできません。

伊佐氏: きゃあっ!

(驚いてバランスを崩して落下しかける伊佐氏。)

SCP-3158-JP: おおっと、お気をつけください。今落ちては意味がありませんよ。

伊佐氏: な、なんですか! 止めても無駄ですよ! 私は死にますから!

SCP-3158-JP: ええ、ええ、ええ。このタイミングで声をかけるのは自殺を止めに来たと思われるでしょうが、そうではございません。私はあなたの最期を最高のものに演出させていただきたいのです。

伊佐氏: は、はあ……?

SCP-3158-JP: 私、こういうものです。

(胸ポケットから紙を取り出し伊佐氏に見せるSCP-3158-JP。紙の大きさから名刺と推察されている。)

伊佐氏: 自殺コンサルタント……ひ……よし?

SCP-3158-JP: 失礼。私、比良坂 黄泉ひらさか よもつと申します。皆様方が安心して死ねるように自殺をコンサルティングさせていただいております。

(紙を胸ポケットに戻すSCP-3158-JP。フェンス越しに名刺を渡せなかったためと思われる。)

伊佐氏: いや、誰ですか? 邪魔しないでください。

SCP-3158-JP: ええ、ええ、ええ。急に出てきて何を言っているんだとお思いでしょう。ですが、このタイミングで飛び降りては大変なことになってしまいます。

伊佐氏: 別に、私が死んでも誰も何とも思わないし……。

SCP-3158-JP: 何とも思うのは貴女の周囲の人間ではありません。貴女の墜落に巻き込まれる下の道を行く歩行者です。

伊佐氏: 巻き込ま……え?

SCP-3158-JP: この時間帯は近隣の会社の終業時間が重なっています。貴女は死体の早期発見を目的としているためこの時間にしたのかもしれませんが……人が多すぎます。53 kgの肉の塊が上空から落下してくれば、直撃を免れても衝撃で四肢が飛び散り被害を拡大させることでしょう。その場合の遺族に対する補償はお考えでしたか? 貴女の遺族だけではない、巻き込まれた人達の遺族に対する補償です。

伊佐氏: それは……。

SCP-3158-JP: 他人に迷惑をかけない。自殺者の最低限のエチケットです。……私はジチケットと呼んでいるのですが、どうですかジチケット。自殺という人生のゴールを目前にして、油断してこれを怠ってしまう人が多いこと多いこと。そこで、私の出番と言うわけです。自殺をする方が現世に後腐れ無く、胸を張って死ねるよう、最期の瞬間をコンサルティングさせていただくのでございます。

伊佐氏: ……本当に自殺を止めないんですか?

SCP-3158-JP: 止めてほしいんですか?

伊佐氏: それは!

SCP-3158-JP: 私は止めません。止めてほしければ警察を呼んだ方が早いです。この場では私の方が頭の先から爪先の天辺まで不審者ですので、取っ捕まえに来た警察に貴女も補導されますよ。それでよいのですか? 貴女の自殺をする意思はその程度のものなのでしょうか?

伊佐氏: ……どうすれば……迷惑にならずに死ねますか?

SCP-3158-JP: ええ、ええ、ええ。賢明な判断です。

伊佐氏: ……自殺の仕方を変えた方がいいんでしょうか?

SCP-3158-JP: ……失礼、私という存在が貴女の強い意思を揺るがせてしまったようですね。大丈夫です。貴女はこの高いフェンスを乗り越えた。それだけでも強い意思をお持ちです。自信を持って自殺ができる強い御方だ。投身自殺という選択からもそれが伝わります。

伊佐氏: そう……なんですか?

SCP-3158-JP: そうですね……自殺をする場合、大抵が自宅を最期の場所に選択します。首吊り、練炭、服毒。それは他者に迷惑がかかるからという理由もありますが、自宅は自殺者にとって安心できる場所だからです。誰にも邪魔されないように、静かに最期を迎えられるようにするための選択です。もっと静かに自殺をすることに特化したのが森の奥や海の底という人間社会から掛け離れた場所での自殺ですね。

伊佐氏: 練炭なら車の中じゃないんですか?

SCP-3158-JP: ええ、ええ、ええ。そんなイメージを持つ方もおられますね。一時期、インターネットで知り合った人々が車内で練炭自殺をすることが流行り、それをマスメディアが面白可笑しく報道していましたから、それの印象が強く残っているのでしょう。車で崖や海に飛び込むのが一般的ですね。車という選択も日常から遠く離れた場所へ逃避し、車体という壁で隔離した安全な場所を選んだということなのです。職場や学校でのトラブルであれば自宅を、家族に問題があれば家の外へ。自殺をする場所というのは、孤独な人が追い詰められた先にあるものなのですよ。

伊佐氏: 自殺する場所……。

SCP-3158-JP: その点、突発的に自殺を選択した人は場所を選びません。車や電車の前に飛び込む轢殺や……投身自殺がこれに含まれます。

伊佐氏: ……はい。

SCP-3158-JP: 全てに疲れ、自殺の準備をする気力も残っていない人がこの選択をします。ロープやら練炭やら、そんなもの買うのも面倒ですし、店員に感付かれて警察に通報されるかもしれない。ドアノブでの首吊りやリストカットもこちらの分類です。突発的に自宅にあるもので自殺しようと考えた結果、彼らは死ねたのです。そして、それよりも轢殺や投身は圧倒的に楽なのです。ただ、死へ向かって倒れるよう、迫り来る巨大な鉄の塊や、遥か遠くの地面に向かって……足の力を抜けばいい。その分、多大な迷惑を振り撒くことになるのですがね。

伊佐氏: それは……。

SCP-3158-JP: ですが……貴女は違う。

伊佐氏: (息を飲み、体が硬直する。)

SCP-3158-JP: 貴女は自殺をするという強い意思を持ちフェンスを乗り越えた。運動になれていないその体でこの高いフェンスを乗り越えた。貴女にとってはロープや練炭を買うよりも何倍も大変だったはずです。それは何故か。それは……この場所で死ぬことに意味があるからだ。この場所で誰かに自分の死を見せつけることが目的だからです。

伊佐氏: ……はい。

SCP-3158-JP: いるのでしょう? 貴女の死を、その瞬間を記憶に刻み付けたい相手が。

伊佐氏: ……私の上司です。

SCP-3158-JP: ……どうぞ、貴女の想いを吐き出してください。死後の世界に持ち込むには重すぎる感情を受け止めるのも、コンサルタントの仕事です。

伊佐氏: (SCP-3158-JPから視線を外し、空を見上げる。)……上司は……最初は優しくて、私を愛してくれていたと……思ってたんです。でも、上司には奥さんがいて、不倫になるって気付いた時には上司とも深い関係になってて……。

SCP-3158-JP: (自身の腕時計に目を向ける。)

伊佐氏: 私は関係を止めようと言ったのに、上司は行為の最中の写真を見せてきて、社内にばら撒くぞって脅してきて……何度も、何度も!

SCP-3158-JP: (内ポケットから携帯端末を取り出し操作を行う。操作の内容については死角のため詳細は不明。)

伊佐氏: 私はあいつの子供まで妊娠して……中絶させられた!

SCP-3158-JP: (携帯端末の操作を止め、伊佐氏に視線を向ける。)……ほう。

伊佐氏: もう……子供はできなくなったと医者に言われました。失意のどん底にいたと思ったら、まだ底があったんですね。上司の奥さんから慰謝料の請求がありました。両親は裁判を嫌がって、それなのに恥知らずの娘には一銭も払わないって言われて、私が請求通りの額面を払いました。貯金はゼロになったどころかマイナスで……。これからは恋愛とかは忘れて仕事を頑張ろうと出社したら同僚はみんなよそよそしくて……上司が……奥さんに離婚させられて、不倫を会社にもばらされた上司が……例の写真を……社内のパソコンに共有して……私を道連れにしてっ! 私が! 私が何を! (フェンスを強く叩く。)

SCP-3158-JP: (自身の左耳に触れる。死角のため詳細は不明。)

伊佐氏: ……私にはなんにも無くなってしまいました。今日は上司が会社を辞める手続きをするそうで出社してるんです。私に見つからないようにコソコソと。だから、あいつが帰る前に死んでやろうって、死んで一生私の幽霊に怯えて生きればいいって……思って……。それなのに……あの人に愛されていた時の事ばかり思い出して……私はどうしたいのか……。

SCP-3158-JP: ……そうでしたか。(携帯端末を内ポケットに入れる。)

伊佐氏: 私、どこで人生間違えちゃったんでしょうか。学生時代は地味で、目立たなくて、クラスの華やかな、人生の主役は私ですって顔した人達が羨ましくって……。社会人になったら自分も主役になってやろうって、ダイエットもして、メイクもおぼえて……幸せな恋愛をするはずだったのに……どうして?

SCP-3158-JP: ……残念ながら、人生とは儘ならないものです。主役がいるならば、そのオーディションに落選した脇役も存在しなければならない。その脇役の重要性を理解できれば人生はまた別の楽しみ方があるのですが、主役の華やかさは人々の憧れを誘引する毒の華の様相です。

伊佐氏: ……所詮、脇役は脇役のままなんですよ。

SCP-3158-JP: だからこそ、私が演出するのです。

伊佐氏: え?

SCP-3158-JP: 右に二歩、動いてください。

伊佐氏: (右手側に移動する。)

SCP-3158-JP: (右手を上げ前方に向ける。)

伊佐氏: (前方に視線を向ける。)

(前方から光が差し込む。)

SCP-3158-JP: この時期、ビル群の隙間と向かいの病院の給水塔が、差し込む夕陽を一筋の光に収束させるのです。それはまるで、舞台の主役に降り注ぐスポットライトのように。

伊佐氏: ……綺麗。

SCP-3158-JP: 人生は理不尽です。山あり谷あり、思い通りの人生など有り得ない。人が産まれてから死ぬまで、決定事項というものは一つを除いて存在しません。どんな人生の成功者でも、自分の予期せぬトラブルで谷底まで転落することも少なくない。それでも、主役でも、脇役でも、死は平等に訪れます。死ぬ事だけは自分で選択することのできる人生の終幕。カーテンコールはありません。ただ、辛い人生を送ってきた人が心穏やかに次の人生という舞台を始められるように演出したいだけなのです。

伊佐氏: ……どうして私を気にかけてくれるんです?

SCP-3158-JP: ……昔、舞台女優志望の少女がいました。自分の夢を叶えるために悪い連中に唆され、そういった営業をしたにもかかわらず身体は酒と薬物でボロボロになり……そのまま夢の世界から目覚めることなく死にました……。そんな彼女を主役にできなかったと嘆き、他の苦しむ人を最期の瞬間だけは主役にしたいと足掻くだけの罪滅ぼしにもならない事をしている。哀れな同じ劇団の脚本家志望だった男がいただけの話ですよ。

伊佐氏: ……主役になるのって、本当に難しいんですね。

SCP-3158-JP: ええ。だからこそ、私は輪廻転生を信じています。死の瞬間だけでなく、次の人生は常に華やかな主役になってほしい。あの子も……もちろん貴女も。

伊佐氏: ……なれますかね、主役に。

SCP-3158-JP: なれますよ、主役に。

伊佐氏: ……ありがとう。あの人に告白されたこの場所で、暖かい光に包まれて死ねる。……最高の最期です。

SCP-3158-JP: (腕時計に目を向ける。)そろそろお時間です。この時間は帰宅ラッシュの空白時間帯。赤の他人に被害は出ません。

伊佐氏: そこまで計算して?

SCP-3158-JP: 勝手ながら時間稼ぎをさせていただきました。

伊佐氏: 最高のコンサルティングです。本当にありがとうございました。

SCP-3158-JP: ……急がないと、別の会社の帰宅ラッシュが始まります。名残惜しいですが、これで今生のお別れです。落ちるときは勢いをつけないで、そのまま真下に崩れ落ちるようにすればもっと被害は抑えられますよ。

伊佐氏: ……はい。

SCP-3158-JP: おやすみなさい。次の舞台の始まりまで、よい夢を。

伊佐氏: ありがとう……さよなら。

(屋上から飛び降りる伊佐氏。少し遅れて衝突音と無数の悲鳴が聞こえてくる。)

SCP-3158-JP: (内ポケットから携帯端末を取り出し耳に近付ける。)これはこれは奥様。 ……ええ、ええ、ええ。ご依頼の通り、貴女の旦那様を不倫相手の自殺に巻き込ませていただきました。呼び出した旦那様の真上に落ちるようタイミングと場所を誘導するのには苦労しましたが……ご覧いただけましたか?

(向かいの病院に向かって手を振るSCP-3158-JP。)

SCP-3158-JP: 不治の病に侵された貴女を放って不倫をする旦那も、その旦那に騙されて被害者振る頭も股も弛いバカな女も、貴女の最高の自殺には不必要な存在です。少しでも貴女の心が晴れたならばよいのですが。……ええ、ええ、ええ。義理の……お母様が……それはそれは、今回の件でも波乱がありそうですねぇ。貴女の最高の自殺のために全力で対応させていただきます。他にも何かありましたら気兼ねなく申し付けください。

(SCP-3158-JPがカメラに目を向ける。記録装置の存在に気付いたのかは不明。)

SCP-3158-JP: 誰にでも最高の最期を演出させていただきます。自薦、他薦は問いません。……それでは。

(SCP-3158-JPが消失する。)

<記録終了>

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