アイテム番号: SCP-3169-JP
オブジェクトクラス: Eucild
特別収容プロトコル: SCP-3169-JPおよびSCP-3169-JP-1は、サイト-81██の強化収容ロッカーに収容されます。
当該オブジェクトは戦術求解部門1によって管理されています。SCP-3169-JPおよびSCP-3169-JP-1を用いた実験は担当職員2名以上の許可が必要です
12種のペントミノとその名称
1組のペントミノで組める長方形の一例
説明: SCP-3169-JPは、1組12個のペントミノです。
ペントミノは、5個の合同な正方形(SCP-3169-JPにおいては1辺1cm)を辺が隣接するように組み合わせて作られる図形であり、反転・回転を無視すれば、図に示す12種類が存在します。これらは、組み合わせて図形を作成するパズルとして出題されます。図に示すように、それぞれのペントミノはアルファベットになぞらえて呼称されています。財団でも、それぞれのSCP-3169-JPを対応するアルファベットの枝番号に指定しています(SCP-3169-JP-F、-I、-L……-Zの12種)。
SCP-3169-JPは、5cm/s程度の速度で重力に反して浮上します。この浮上は一定以上の力を加えることにより阻止できるため、当オブジェクトは上面が強化された収容ロッカーで収容されます。現在、SCP-3169-JPは収容ロッカーの上部に張り付く形で収容されています。
なお、SCP-3169-JPからは未知の木材・接着剤の他にヤマネコ属(Lynx)、特にオオヤマネコ(Lynx lynx)に類似する成分が検出されています。これより「未知の木材・接着剤および生物由来の成分からなるパズル」という共通点を有するSCP-549-JP2との関連が指摘されています。
SCP-3169-JP-1に描かれているマス目
SCP-3169-JP-1は、SCP-3169-JPと共に発見された25cm×30cm×1cmの板です。破壊耐性を有しており、組成は不明です。SCP-3169-JP-1には図に示すような正方形のマス目が描かれています。このマス目についての詳細は不明であり、戦術求解部門により実験・考察が進められています。
一部の担当職員より、「SCP-3169-JPをこの形状に並べよ」というパズルの出題なのではないかという提言がなされています。しかし、ペントミノ1組の全部または一部を用いてこの形状を作ることは通常は不可能であり3、当該提言は疑問視されています。また、当該マス目がクロスワードやスケルトン(クリスクロス)の様なパズルである可能性についても指摘されていますが、パズルにおける「カギ」ないしそれに相当するものが発見されていないため、断定はされていません。
補遺: 以下は、戦術求解部門によるSCP-3169-JP研究における、特筆すべき音声ログの抜粋です。
<記録開始>
反田博士: さて、SCP-3169-JPについての研究を
木村研究員: [遮って]あの、一応確認なんですけど、このオブジェクトって十分に収容できてるんですよね? これ以上の研究が必要なんですか?
反田博士: ……多くのパズル系アノマリーにおいて、それを解くというのは何らかの変化に結び付く。例えば、解かれない限り自己増殖し続けるペグソリティアもあるし、逆に解くと空間転移する間違い探しもある。つまり、パズル系オブジェクトを解くというのは、オブジェクトの「未知の異常性」や「異常性の変化条件」を探るというのが目的。
木村研究員: 解いたら空間転移って、収容違反に繋がるかもしれない、ってことじゃないですか、なのに解くんですか!?
反田博士: 仮に解いてデメリットが生じても、「デメリットが生じる条件が判明する」のが重要。発生条件が判明したら、それを避けるような収容プロトコルを制定できる。それに、パズルを解くのが私たちの仕事。
木村研究員: なるほど、僕的には若干違和感がありますが……わかりました。でも、解き方が分からないどころか、「出題」すら分からないんですけどね。
反田博士: それを考えるための研究。
木村研究員: そうですね。ごめんなさい。
12個のペントミノとその名称(再掲)
反田博士: では、まず、オブジェクトの再確認。SCP-3169-JPはペントミノで、それぞれの形状に対応して-F、-I、-L、-N、-P、-T、-U、-V、-W、-X、-Y、-Zを付して呼称される。
木村研究員: このアルファベットって、財団が勝手に呼んでるんですかね?
反田博士: [5秒の沈黙]……一般的にもそう呼称される。
木村研究員: あっ、ごめんなさい。
反田博士: 戦術求解部門なら知っていて当然。
木村研究員: 勉強します。
反田博士: ……また、SCP-3169-JPは一定の速度で上昇する。更に、Lynx、より正確にはLynx lynxに類似する成分が検出された。
木村研究員: Lynxってヤマネコでしたっけ? なんというか、綴りが気持ち悪いです。
SCP-3169-JP-1に描かれているマス目(再掲)
反田博士: そして、SCP-3169-JP-1 謎のマス目と共に発見された。「一定の速度で上昇」「ヤマネコの成分」「ペントミノ」「謎のマス目」の関連性が希薄なのが不自然。大多数の人工的なオブジェクトではこのような関連性は分かりやすい筈。
木村研究員: ……いや、関連性はあるかもしれないですよ。ほら、「LYNX」って、ペントミノだけで作れる単語じゃないですか!
反田博士: ……確かに。
木村研究員: 他にもペントミノだけで作れる単語ってあるんですかね?
反田博士: ……UP上へ。FIX固定する。FUN楽しい。LIP唇。LUV愛。TUXタキシード。PUT置く。PYX聖体容器。WIZ名人。ZIPファスナー。FLUX流れ。LIFT持ち上げる。PUTZ馬鹿者。WILY狡猾な。FITLY適切に。FLINT火打石。NIFTY素敵な。UNITY統一。UNLIT光っていない。UNTILまで。VINYLビニール……
木村研究員: ……こんな、すぐに沢山思いつくものなんですか?
反田博士: 「リポグラム」みたいなもの4。練習しておいて損はない。
木村研究員: すごいですね あっ、UP上へとかLIFT持ち上げるとかって、このオブジェクトっぽくないですか?
反田博士: ……確かに。あと、LIFTUPリフトアップという単語もある。
木村研究員: そうなんですか。「LYNX」に「LIFTUP」……あっ。
反田博士: 何?
SCP-3169-JP-1に当てはめられた「LYNX」と「LIFTUP」
木村研究員: あの、SCP-3169-JP-1って、なんかクロスワードみたいなヤツだったじゃないですか。これに「LYNX」「LIFTUP」がはまりそうじゃないですか?
反田博士: ……なるほど。
木村研究員: というかこれ、もしかして、◯U◯◯っていう単語が作れれば、クロスワードのマスが埋められますよね? 残りの文字は……V、W、Zです。当てはめて何か単語になりませんか!?
反田博士: ちょっと辞書を……あ、「WUVZ」という単語を発見。
木村研究員: あるんですか! 意味は?
反田博士: 「ちゅきでちゅ」。
木村研究員: え?
反田博士: 「英辞郎 on the WEB」に、そう書いてあった。
木村研究員: どういう状況なんです?
反田博士: ……まず、「LOVE」のくだけた言い回しに「LUV」があるのは知っている?
木村研究員: あー、うっすらと聞いたことのあるような気がします。
反田博士: それと似た感じで、「LOVE」のおどけた/子供っぽい言い方として「WUV」がある。そして、その三人称単数現在形が「WUVZ」。
木村研究員: 三単現ってヤツですね。実質「LOVES」ってことか。
反田博士: しかし、原型ではない単語がクロスワードに登場することに違和感がある。
木村研究員: 三単現ってことは、文章なのでは? LYNX WUVZ LIFTUPヤマネコはリフトアップがちゅきでちゅ……いや、文法がめちゃくちゃですね。冠詞がないですし。
反田博士: いや、そうとも限らない。まず、LIFTUPは多分不可算名詞5。あと、LYNXも、場合によっては不可算になり得る。
木村研究員: 場合によっては、と言いますと?
反田博士: 鶏chickenは可算名詞で、鶏肉chickenは不可算名詞であるように、可算・不可算は物の状態的に数えられるかによって決まりがち。「木の中にLYNXの成分がある」状況では、不可算の状態にあるといえる。
木村研究員: じゃあ、LYNX WUVZ LIFTUPヤマネコはリフトアップがちゅきでちゅはあり得る!?
反田博士: ……断言はできない。私は英語のネイティブではない。でも、「不自然だけど文法的に誤りとはいえない」水準には達していると思う。
木村研究員: そうですか……ということは、このペントミノは、リフトアップがちゅきだから上昇しているのかなあ。
反田博士: リフトアップに対して、「好き」とか「嫌い」とかあるものなの?
木村研究員: 好きなものは好きなんですって! それに、リフトアップが好きだと仮定すれば、このヤマネコの異常性を上手く説明できますし!
反田博士: ……まあ、でも、現時点ではまあまあ有力。
<記録終了>
なお、木村研究員の「ヤマネコはリフトアップがちゅきだから上昇している」という推測については、クロスワードの盤面より、有力視する声が上がっています。一方で、「クロスワードの盤面や英文についての解釈が強引である」という指摘もなされています。異常性と「LYNX WUVZ LIFTUP」の関連は断定できるものではありません。
作成された長方形。中空を黒で示している。
補遺2: 後に行われた反田博士の実験により、SCP-3169-JPを用いて「SCP-3169-JP-1に描かれているマスと同形状の中空を有する長方形」が作成されました。これにより、この形状にSCP-3169-JPが並べられている場合、SCP-3169-JPが浮上する異常性が喪失することが判明しました。SCP-3169-JPのオブジェクトクラスはSafeに再指定されます。
当該事実より、SCP-3169-JPおよび-1は「SCP-3169-JP-1のマス目の中空を有すようにペントミノを並べよ」というパズルの出題であったことが示唆されます。なお、「ペントミノで囲われる形」を考えるパズルは「ペントファーム」と呼ばれています。SCP-3169-JPは、SCP-3169-JP-1の形状を囲うペントファームであった可能性が指摘されています。
また、「LYNX WUVZ LIFTUP」がクロスワードとして成立していた事象は、偶発的なものであり異常性の起源とは無関係と推測されます。
以下は、ペントファームとしての性質が判明した後に行われた、担当職員による会議の音声ログです。
<記録開始>
反田博士: ……結果として、「中空部分で例の形を作る」のが安定した収容手順だった。
木村研究員: うーん、例の形と「LYNX WUVZ LIFTUP」は関係なかったんですかね。
反田博士: まあ、偶然出来上がっただけと思う。そもそも「WUVZ」はおろか「LIFTUP」さえ一般的な単語ではない。こんなマイナーな単語を使っていいなら、いくらでもこじつけができる。しかも文法も怪しい。
木村研究員: でも「ヤマネコ」は偶然じゃないでしょう!? 「LYNX」が作ることができ、かつヤマネコ成分も含まれている、こんなに関連性が
反田博士: ペントミノの12文字で作れる単語はあんなに沢山あるし、「LYNX」はそのうちの1つに過ぎない。仮にFLYハエやIVYツタやNUT木の実が含まれてても同じことを言う?
木村研究員: ……分かりましたよ! ああ、オブジェクトの真相を掴んだような気になって大興奮してたのに、残念です。なんか、徒労でしたね。
反田博士: いや、そうとはいえない。
木村研究員: どうしてです?
反田博士: そもそも、どうして「中空部分で例の形を作る」というのを私が思いつけたのか。「LYNX WUVZ LIFTUP」である例の形を囲って封じ込めたら、それこそ「収容」に繋がるのではないかと考えたから。
木村研究員: あー、なるほど、「ペントミノで例の形を囲って封じ込める」ことが、結果的に「ペントミノの中空部分で例の形を作る」ことになるのか。
反田博士: もしかしたら、「LYNX WUVZ LIFTUP」を封じ込めたことによって収容が達成されたのかもしれない ペントミノで作られる「異常性を表現した文章」をペントミノで囲うことが、異常性を封じ込めることを意味する、ということ。
木村研究員: 僕が言うのも何ですが、それこそこじつけでは?
反田博士: その通り。でも、結果的に、これら2つのこじつけが収容へと導いた。だから、「LYNX WUVZ LIFTUP」という偶然を発見したのも、決して無駄ではなかった。
木村研究員: ……そうですか。まあ、そう思うことにします。
<記録終了>
反田博士の「ペントミノで作られる『異常性を表現した文章』をペントミノで囲うことが、異常性を封じ込めることを意味する」という推測については、有力視・解釈の強引さの疑問視が双方上がっています。異常性と「文章をペントミノで囲う行為」の関連は断定できるものではありません。









