E-3176 - 芳原 万智
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勤務中のE-3176

職員番号: E-3176

エンプロイメントクラス: Euclid

特別就役プロトコル: E-3176はサイト-8159のクライオ処理チャンバー内にて、恒久的な冷凍睡眠下に置かれます。緊急時プロトコルの発令に伴い、E-3176の就役区画は隔壁の閉鎖が実施されます。E-3176を利用した更なる実験やインタビュー、解放の試みは許可されません。E-3176と財団の間で結ばれた労働契約は、冷凍睡眠下にある対象との再交渉が実質的に不可能である為、無期限に延長されます。

説明: E-3176はサイト-8159のDクラス職員として運用される予定であった、32歳のアジア系女性である芳原 万智です。同氏は配偶者の男性と実子を殺害した罪により加古川刑務所で服役中でした。当時の刑務官の証言では、同氏の受刑態度は良好であり、“自らの罪に真正面から向き合っていた”とされています。

E-3176は財団との司法取引を通してサイト-8159に身柄の引き渡しが行われた後、以下に列挙する余罪の存在が判明しました。なお、下記に示す犯罪件数は同氏の余罪が発覚した時点での数値になります。

  • 48件の逮捕・監禁罪
  • 363件の殺人罪
  • 263件の窃盗・強盗罪
  • 92件の強要・脅迫罪
  • 87件の強姦・強制わいせつ罪
  • 104件の詐欺罪
  • 19件の放火・失火罪

E-3176の身辺整理を担当した渉外部門の職員は、その非現実的な余罪の多さを理由に何らかの異常が介在する可能性を警告しました。財団の服務規律に従い、初期対応としてE-3176を対象にインタビューが行われたものの、以下の返答が得られた後は此方からの問い掛けに黙秘を貫きました。

こんなに罰を受けたのに、背負った罪は消えないんですね。

E-3176は女性であるにも関わらず、過去の強姦被害者が同氏の子供を妊娠している事例があったことや、発生から30年以上が経過した殺人事件にまで同氏の深い関与を示す証拠が見付かったことから、これらの余罪そのものが何らかの異常によって後天的に付与された可能性を指摘されています。

補遺1: サイト-8159へのE-3176の移送が完了した直後に、同サイトにて雇用されていたDクラス職員57名が“自らの罪の潔白”を主張し、各々の居住房に立て籠ることでストライキを決行しました。速やかに事態の沈静化を図るため、駐在していた機動部隊が対応に当たりましたが、双方の本格的な衝突が発生する直前にDクラス職員側の全人員が投降しています。

その後、事後処理の為に行われた取り調べでは、財団の調査官が当事者らに対してストライキに至った経緯の説明を求めました。しかしながら、あらゆる手段を行使したにも関わらず、原因の解明に繋がる有力な情報を得ることは出来ませんでした。

ただ1人、本事案の首謀者と断定されたD-6425はストライキを企図した動機について問い質された後、涙を流しながら次のように答えました。

あの時だけは間違いなく、俺たちは真人間だったからだ。

今回のストライキに於けるDクラス職員の投降と、E-3176の“Dクラス職員としての労働契約の終了”が成立した時刻は殆ど一致しています。D-6425の発言内容も含めて、E-3176とDクラス職員のストライキには何らかの関連性があるものと予想されています。

また、ストライキの収束後、本来の職務に復帰したDクラス職員の精神状態が著しく悪化しました。心理カウンセリングや記憶処理薬の投与では治療の効果が全く見られず、最終的には約7割の人員が機能不全と判断されたことで終了処分を受けています。

補遺2: E-3176のDクラス指定が解除され、収容オブジェクト登録の手続きが進められていたタイミングで、同氏の余罪に関する記録データが変化していました。当該インシデントに於いて、外部からの改竄などが行われた痕跡は見付かっていません。

  • 478件の逮捕・監禁罪
  • 684件の殺人罪
  • 532件の窃盗・強盗罪
  • 787件の強要・脅迫罪
  • 1243件の動物愛護法違反
  • 18954件の薬機法違反
  • 3件の背任罪

上記の変化が確認された短い期間に、E-3176は“Dクラス待遇ではない財団職員”として扱われていた事実は特筆に値します。この点を踏まえ、改めてE-3176を対象に追加のインタビューが実施されましたが、以前と同様に1度だけ言葉を発したのみでした。

あなたは光に照らされたから、罪の代わりに影があるのね。


E-3176はサイト-8159の管理官及び過半数を越える研究者らの強い意向により通常のオブジェクト指定を免除され、特別就役プロトコルの遂行を条件に “Eクラス職員”としての採用が認められました。財団渉外部門人事課の精査によって、この決定の妥当性は既に証明されています。

同氏の就役以降、サイト-8159の収容・研究面でのルーチンワークに然したる問題は報告されていません。

E-3176の余罪は、常に増え続けています。

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