
SCP-3189-JP-A
アイテム番号: SCP-3189-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-3189-JPの発生が確認された場合、対象者及び周囲の人物に記憶処理を施した後、SCP-3189-JP-Aを回収し、その後適切な薬剤を用意してください。また、回収されたSCP-3189-JP-Aは簡易的な検査が行われた後処分されます。
説明: SCP-3189-JPは世界各地の病院、調剤薬局において発生することが確認されている異常現象です。この現象が発生する日時、対象者に統一性は見られませんが、年に30~50件ほど現象が発生していると考えられます。現象は主に医師や薬剤師などの医療従事者から薬剤を受け取る際に発生し、医療従事者と対象者の間に薬剤が置かれると、瞬間的に不特定のアルコール飲料(以下、SCP-3189-JP-A)に置換されます。この現象に関して、対象者や医療従事者、目撃者は違和感を抱きません。現象発生後、医療従事者及び対象者は一様に「それはアルコール飲料である」という認識を持ちますが、同時に「治療に必要な薬剤である」と確信します。結果として、対象者は医療従事者の指示に従い、用法用量を守ってSCP-3189-JP-Aを消費します。
味や匂い、成分などにおいて、SCP-3189-JP-Aは非異常のアルコール飲料と同等です。しかしSCP-3189-JP-Aを対象者が消費した場合酩酊することはなく、本来受け取るはずだった薬剤の効果が作用します。また、呼気からはアルコールは検出されず、血中アルコール濃度にも変化は見られません。なお、対象者以外がこのSCP-3189-JP-Aを消費すると、通常通りの反応を示します。
現象発生時に周囲の人物は違和感を抱かないことから、SCP-3189-JPの発見が遅れる事例が多く報告されています。これまで報告されているSCP-3189-JP事例のほとんどは、帰宅途中または帰宅後、第三者によって通報されることで発覚します。以下は監視カメラに記録された、SCP-3189-JP発生事例の一つです。
SCP-3189-JP発生記録
対象者: 今澤 奈央実 氏(24歳、女性、単身世帯)
記録場所: 岩手県盛岡市 はなびし薬局
記録日時: 2014/10/18 14:52
[記録開始]
今澤氏: すいません、薬を処方してほしいんですが。
薬剤師: 処方箋とお薬手帳はお持ちですか?
[今澤氏は処方箋とお薬手帳をカウンターに置く。]
薬剤師: ありがとうございます。それではお薬の用意ができるまで席にお掛けになってお待ちください。
[約23分間、今澤氏はスマートフォンを触りながら席に座って待つ。]
薬剤師: 今澤様、今澤様はいらっしゃいますか?
[今澤氏は席を立ち、カウンターに向かう。]
薬剤師: 私、薬剤師の大久保と申します。よろしくお願いいたします。改めて確認いたしますが、アレルギーや過去に合わなかったお薬などはございませんか?
今澤氏: はい。飲酒や喫煙もしません。
薬剤師: ありがとうございます。それではこちら、8日分の気管支拡張症のお薬になります。
[カウンターに薬袋が置かれる。その瞬間、ビール缶350ml24本3ケースに置換される。カルトンなどがビールケースの下敷きになる。]
薬剤師: お薬の名前は"アサヒスーパードライ"1、"ザ・プレミアム・モルツ"2、"キリン一番搾り"3で、"アサヒスーパードライ"、"ザ・プレミアム・モルツ"は去痰や鎮咳の効果がありまして、キリン一番搾りは解熱、鎮痛の効果があります。1日に3回、朝・昼・夕食の後にそれぞれ1缶ずつ服用してください。
今澤氏: 副作用にはどのようなものがありますか?
薬剤師: 副作用は食欲不振、下痢、腹痛、吐き気、過敏症状です。それに加えて、"アサヒスーパードライ"は発疹や発熱、"ザ・プレミアム・モルツ"は頭痛も挙げられます。もしそのような症状が続いた場合は直ちに受診していただきますようお願いします。
今澤氏: 分かりました。
薬剤師: お薬の説明は以上になります。ご質問等はございますか?
今澤氏: お酒苦手で全然飲めないんですが、何か良い方法はありますか?
薬剤師: 炭酸が苦手な場合は、缶で飲むのではなく一度グラスに移していただいて箸などでかき混ぜれば早く炭酸を抜くことができます。また苦みが苦手な場合は、お飲みになる30分ほど前に氷水でしっかり冷やしていただければ苦みが抑えられます。あとは例えばこちらの服薬補助ゼリーと一緒にお飲みいただければかなり楽だと思いますよ。
今澤氏: 分かりました。ではそちらのゼリーも買います。
薬剤師: ありがとうございます。それではお値段、2,687円になります。
[ビールケースを持ち上げカルトンを取り出し、ビールケースの上に乗せる。今澤氏は料金をカルトンに乗せる。]
薬剤師: 2,687円丁度いただきました。こちら、レシートになります。それではお気を付けてお帰りください。
今澤氏: はい。[今澤氏はビールケースを持ち上げようとする。]あの、すみません。重くて持てないので、車まで運ぶのを手伝ってもらうことはできますか?
薬剤師: ええ、もちろんです。お車までお持ちいたしますね。
[記録終了]
付記: 帰宅後、今澤氏は薬剤師の指示に従ってSCP-3189-JP-Aを消費していました。しかし10月20日、今澤氏の友人が訪問した際に異常に気付き通報、発見に至りました。その後、今澤氏への聴取及び検査を行ったあと今澤氏及び友人に記憶処理を施しました。
補遺1: 以下は、現象発生時の記録は残されていないものの、その後の通報等で発見されたSCP-3189-JP事例の抜粋です。
SCP-3189-JP発見事例#1
対象者: ゴールデン・レトリーバー(3歳、オス)
発見日時: 2016/6/28 15:09
本来の薬剤: アポキル錠5.4mg(アレルギー性皮膚炎によるかゆみ)
SCP-3189-JP-A: 獺祭 一升瓶(1,800ml)
用法用量: 1日2回 50ml
発見経緯: 2016年6月28日、ゴールデン・レトリーバーの飼い主が獺祭の一升瓶を持って診療室から出てきたところを多くの通院者に発見され通報に至りました。
SCP-3189-JP発見事例#2

SNSに投稿された画像(編集済)。
対象者: 玉崎 一華 氏(3歳、女性、母子世帯)
発見日時: 2017/3/4 12:31
本来の薬剤: ムコダインDS50%(小児滲出性中耳炎の排液)
SCP-3189-JP-A: 金麦 350ml 24缶1ケース
用法用量: 朝・昼・夕食後 1缶
発見経緯: 2017年3月4日、玉崎氏の母親がSNSに「お薬ちゃんと飲めて偉いね」という文言とともにSCP-3189-JP-Aを消費している画像を投稿し、多くの批判が寄せられました。直ちに財団によって画像は削除され、プロトコルに則って収容措置が行われましたが、母親に対する批判はしばらく続きました。
SCP-3189-JP発見事例#3
対象者: 塚谷 哲人 氏(36歳、男性、核家族世帯)
発見日時: 2019/4/21 19:44
本来の薬剤: 塩酸プロカルバジンカプセル50mg「TYP」(悪性リンパ腫)
SCP-3189-JP-A: 赤ワインボトル(750ml) 4本
用法用量: 1日1~2回 100ml
発見経緯: 2019年4月21日、SCP-3189-JP-Aを消費した塚谷氏が動悸、皮膚紅潮、結膜紅潮、頭痛などを訴え、病院に搬送されました。調査の結果、塚谷氏は夕食でチーズを摂食しており、本来の薬剤の効果であるMAO阻害作用4によりチラミン中毒を引き起こしたと判明しました。
SCP-3189-JPはその異常性から、多くの対象者が現在も生存していますが、死亡者が出た事案も発生しています。以下はその事案の一例です。
SCP-3189-JP事案記録
対象者: 田野倉 弘樹 氏(27歳、男性、単身世帯)
発生日時: 2022/7/1 22:00
付記: 田野倉氏はYouTubeで雑談配信を行っていました。
[記録開始]
あー、皆さんこんばんは。しばらくお休みしててすいません。3ヶ月ぶりくらいですかね。ちょっとお酒のことで病院行ったり、実家に帰ったりしてたもんで。そう、皆さんのご想像通り、アルコール依存症と診断されまして、まあ療養と言うか断酒と言うか、少しゆっくりしてました。ええ、今日からまたぼちぼち配信始めていきたいと思います。今日はそこら辺のことも話しながらだらだら雑談していけたらなと、はい。
[以降26分間、田野倉氏は視聴者のコメントに反応しながら雑談する。重要度が低いため省略。]
そうそう、あのアニメ面白かったよね。高校生くらいのときに漫画は読んでたけどさ、もう一回読み返したくなったわ。
[お茶を飲もうとコップを持つ。しかし手が震えており、お茶が少しこぼれる。]
あー、ごめん、ちょっと待ってて。
[机の横に置かれた冷蔵庫から"焼酎ハイボールドライ下町缶350ml"を取り出し飲み始める。「お酒飲んでるじゃん」等のコメントが流れる。]
いや、お酒じゃないよ。これ薬。病院で処方してもらったのとは少し違うんだけどさ、ほぼ同じやつが近くのお店で売ってたから、これで良いかなって。嘘じゃないって!えっと、ちょっと待っててな。
[離席し画面外へ移動する。缶同士がぶつかる音とともに田野倉氏の独り言が不明瞭だが記録される。約2分後、田野倉氏が戻ってくる。]
これこれ、これが処方された薬ね。レシートは見つけられなかったけど。えっと名前がね、"焼酎ハイボールドライシークヮーサー350ml"5ってやつで、離脱症状っていうんだっけ、そう、手の震えとか汗かいたりとか抑えてくれるんだってさ。これとあとね、お酒飲みたいって気持ちを抑える薬も出されてて、それがこの"焼酎ハイボールレモン下町缶350ml"6って薬なんだけど。どっちも2週間分ずつ出されて、それで通院してまた薬を貰っての繰り返しなんだよ。これで確か7回目の薬かな。前は錠剤だったんだけど、薬変わったっぽくてさ。それで"レモン"はね、まだ余ってるんだよ。ちゃんと食後だけに飲んでるから。でもこっちの"シークヮーサー"が、手震えるたびに飲んでたらもう切れちゃって。だいたい3日くらいで使い切っちゃったんだよね。
[多くの困惑のコメントが流れている中、「また病院行ってきたら?」等のコメントが流れる。]
嫌だよ。あそこの先生怖いっていうか高圧的なんだもん。来週は来いって言われてるから流石に行くけどさ、その前に行って「薬飲みすぎて無くなったのでまた下さい」って言ったら何言われるか分かったもんじゃないじゃん。だから市販薬でどうにかならないかなって思って調べてみたんだけど、やっぱりね、処方薬しかないんだよね。それで途方に暮れてたところに見つけたのがこの"ドライ下町缶"よ。ほとんど名前同じでしょ?病院で貰ったやつはね、なんか沖縄でしか買えないみたいだから、一応Amazonで注文はしといたけど一旦これ試してみようと思って。そんで、飲んでみたら見事に手の震えが収まってさ。味も薬と同じでほぼお酒だから飲みやすいし。だからこれ飲んでんの。
["焼酎ハイボールドライ下町缶350ml"を完飲する。しかし、いまだに手が震えている。]
でもさ、毎日たくさん飲んでるもんだから、もう身体がだいぶ薬に慣れてきちゃって。1缶じゃ足りなくなっちゃったんだよね。いやあ、依存症ってマジできついわ。皆も気を付けてな。
[再び冷蔵庫から"焼酎ハイボールドライ下町缶350ml"を取り出し飲み始める。]
[雑談を再開する。重要度が低いため省略。]
[約2分後、"焼酎ハイボールドライ下町缶350ml"を完飲する。再び冷蔵庫から"焼酎ハイボールドライ下町缶350ml"を取り出し飲み始める。]
[雑談を再開する。重要度が低いため省略。以降、約30分の間に12缶の"焼酎ハイボールドライ下町缶350ml"を完飲するが、依然として手の震えは収まらない。その間、呂律は次第に回らなくなり、最終的に発言を聞き取るのが困難になる。時折、口元を押さえてえずいている。]
[配信開始から約59分後、口元を押さえ離席しようとするが、その場で嘔吐する。]
[胸元を押さえ、呼吸の回数が著しく速くなる。約6秒後再び嘔吐する。]
[約9秒後、机にうつ伏せで倒れこむ。約2分間痙攣し、以降、田野倉氏が動く様子は見られない。]
[記録終了]
付記: 田野倉氏の住所を知る視聴者によって通報され直ちに救急隊が到着し病院へ搬送されましたが、急性アルコール中毒により死亡しました。田野倉氏の配信中の言動についてはカバーストーリー「アルコール依存による錯乱」が適用されました。なお、配信内で田野倉氏が非異常のアルコール飲料を消費しても手の震えが収まらなかった原因について、セルシン錠の過剰摂取による薬物依存状態になっており、その結果離脱症状が出ていた可能性がありますが、これは推測の域を出ていません。
上記時案と同様に、SCP-3189-JP-Aを全て消費したあと代替品として非異常性のアルコール飲料を購入、消費し、結果としてアルコール飲料の多量摂取によるアルコール依存症や急性アルコール中毒になる事例はこれまで56件報告されており、その内死亡事案は13件です。より効率的な収容方法が検討されていますが、日本国内の調剤薬局だけでも6万施設を超えており、その全てを常に監視するのはほぼ不可能です。そのため現在は、通報等による発見及び対応に留まっています。