アイテム番号: SCP-3190
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3190の性質上、ドイル・イベントの結果は殆ど事後処理を必要としていません。主任研究員の裁量で、不要な情報漏洩と見做されるSCP-3190-A個体にはクラスB記憶処理を施すことができます。他の全ての個体はそれぞれ該当する司法制度を通すことが認められます。
財団AIのATLS-19およびGRGN-71は、SCP-3190が殺人事件の捜査に関与したという報告を検出するため、北アメリカの地方法執行機関事務所におけるコミュニケーションの送受信を全て監視します。SCP-3190の活動は機動部隊イプシロン-96(“ブラウン神父のファン”)によって監視されます。事案234以降、SCP-3190-A個体がSCP-3190の無力化を試みた場合、MTF E-96隊員はその場でクラスB記憶処理を施すことが認められています。
説明: SCP-3190は、40代後半~50代前半の男性に似たヒト型実体です。SCP-3190は一見、不器用で脅威とはなり得ない存在のように振る舞いますが、最大時速45kmの速度で走り、2メートルトン以上の重量を持ち上げる能力を示しています。その異常性質のため、これらの超人的能力による功績は — 発揮されることはごく稀ですが — SCP-3190-A個体以外のあらゆる人物からごく当たり前のものとして扱われます。最初の出現時、SCP-3190は最も近くにある地元警察署の刑事の服装規定と一致する身なりで現れますが、これらの衣服は粗末な、もしくは着古した状態にあります。SCP-3190は、SCP-3190-Bと称される1組の手錠と、直近の警察署に所属する警部補ルテナンであることを示す有効な身分証明書を所持しています。
SCP-3190-A個体は、現在のドイル・イベントの中心となっている殺人事件の加害者です。
SCP-3190-Bは、SCP-3190-A個体を拘束するためにSCP-3190が使用している時は、従来の手段で破壊できません。SCP-3190は所属先とされている警察署へSCP-3190-Aを護送し、その後間もなく消失します。SCP-3190が入手した全ての証拠品は、公式文書では他の捜査官が発見したものとされます。SCP-3190に関する全ての知識は、SCP-3190-A個体とSCP-3190の異常性を把握している者以外のあらゆる人物から失われます。
SCP-3190の主要な異常性はドイル・イベントの最中に発現します。ドイル・イベントは、被害者が加害者と顔見知りであった殺人にのみ発生することが示されています。被害者やSCP-3190-A個体が複数関与するドイル・イベントも確認されています。ドイル・イベントにおいて、SCP-3190は現在進行中の殺人事件の捜査に、通常は初期対応の瞬間から介入します。捜査の一環として、SCP-3190は殺人者と接触します。その後、SCP-3190はSCP-3190-A個体の捜査に重点を置き、しばしば尋問のために職場や自宅を訪れます。この尋問の過程で、SCP-3190-A個体は必然的に情報の一部を暴露するか、もしくは自身が加害者であることを指し示すような嘘を吐きます。特筆すべきことに、全てのSCP-3190-A個体は弁護士を同伴させずにSCP-3190の尋問に応じています。これがSCP-3190のみすぼらしい身なり(ひいてはそこから予想される劣った知性)のためか、異常な能力であるのかは不明確です。
全てのSCP-3190-A個体は実際に犯罪を犯したことが示されています。本稿執筆現在まで、計画的な殺人以外でのドイル・イベント発生は確認されていません。
事案234: 1985/4/3、自らの犯罪によって正式に告発されたSCP-3190-A-234は、SCP-3190に随伴していた警察官から銃を奪い取りました。SCP-3190-A-234は弾丸が尽きるまでSCP-3190を撃ち続け、SCP-3190の痛んだレインコートは床に落下しました。それ以上の痕跡を確認できない状態が正確に3秒間続いた後、SCP-3190はバスルームのドアから歩み出てコートを拾い上げ、現場の警察官たちに裏付けの詳述を続けました。
留意点として、SCP-3190-A-234を除く全ての人物は、銃撃やSCP-3190の消失と思しき現象に反応を見せませんでした。SCP-3190-A-234はこの出来事と自分以外の全員の無反応を受けて激しい苦悩を示しました。現地にいたMTF E-96隊員らは後ほど、SCP-3190-A-234にクラスB記憶処理を施しました。
SCP-3190によるSCP-3190-A-234への3回目の聞き取り調査からの抜粋
SCP-3190-A-234であったアンブローズ・レッティンガー博士は、後に同僚のアイヴァン・ラヴリシャ博士を殺害したとして有罪判決を受けている。聞き取り調査はペンシルベニア州立大学の古典学科棟にあるレッティンガー博士のオフィスで行われた。
SCP-3190はSCP-3190-A-234の机から小さな文鎮を拾い上げる。SCP-3190は文鎮を眺めているが、一見したところ偶然と思われる所作で取り落とす。
SCP-3190: ああ、やっちまった。すいませんね、先生。大丈夫だとは思いますけども。ほら、ご覧なさい。 [SCP-3190は床から小さなローマ兵を象った文鎮(今は2つに割れている)を拾う。] ね、この辺にこう、強力接着剤かなんか付けておけば、まぁ、ほら、新品同様ですよ。接着剤の効き具合ときたらまったく驚きますよ。実はつい先週なんですが、うちのかみさんがね—
SCP-3190-A-234: 申し訳ありません、刑事さん、しかし要点だけ言わせていただきたい。私は既に知っていることを全て話したと思うのですよ。私としては、あー、もっとあなたと話していたいのですが、職員会議にあともう、ああ、10分で出席しなくてはいけないのです。
SCP-3190: ああ、そんなに時間は取りません。もう幾つか訊ねたいことがあるだけです。あたしは時々こういうやり方をするんですよ。
SCP-3190-A-234: 気付いてます。
SCP-3190: ハハッ! だろうと思いましたよ、先生。黙るってことを知らないんだって、かみさんにもよく言われます。でもあたしはこういう性分ですから、ねぇ? いつも最後に何か引っ掛かっちゃう。夜寝る前なんかも、そういうつまんない些細な考えが気になって解決したくてしょうがないんです。そうだ、うちの甥の話になるんですが—
SCP-3190-A-234: 刑事さん、頼みますよ。
SCP-3190: おっと、勿論ですとも。すいません先生。お忙しいでしょうからね。 [SCP-3190は手を上げ、頭を掻きながら顔をしかめる。] 失礼なことを言うつもりじゃないですよ。ただね、あなたの言ったことはなんか妙だと思うんです。
SCP-3190-A-234: どういう意味ですか、刑事さん?
SCP-3190: いやぁ、あなたね、ラヴリシャ博士がパーティーから帰ったのは、あー、夜の7時30分だと言ったでしょ? それで彼は、こう、パーティーから帰った後、自分のオフィスの外で死んでるのを発見された。でもここからが興味深い所ですよ、先生。腕時計がね、襲われた時に壊れたんですな。それが7時27分で止まってたんです。面白い話だと思いません? ひょっとするとこの人は時計を少し遅めに合わせるタイプかもしれないぞ、とは思いました。うちのかみさんの側にいとこが一人いましてね、時計を45分も遅く合わせるんです。あれでよく時間に間に合うもんだと思いますよ。でもね、ここが重要なんです、先生。彼の奥さん、ラヴリシャ未亡人ですか、彼女が言うには、亡くなったご主人はある種の、何と言ったっけな、そう強迫症だったんです。彼は腕時計をミリ秒、ミリ秒ですよ、そこまで正確に合わせていた。勿論それが続くようにもしてました。腕時計は完璧じゃありません。ほんの少しずつズレていきます。だから彼はいつもそれが正確であることを確かめてた。毎日、仕事から帰る直前に確認していたそうです。5時30分に。
SCP-3190-A-234: 何を言っているんですか、刑事さん?
SCP-3190: 先生、あたしが言いたいのはね、腕時計は完璧じゃないけど2時間で何分も遅れたりはしないってことです。あなたの言う時間には食い違いがあるんです。仮に時計がいかれていたとしても、7時46分に清掃員から発見されるまでにオフィスに辿り着くなんてできやしません。証言通りの時間にあなたの家を離れたとすれば、オフィスに着くまでにはもっと時間が掛かる。そういうことです、先生。全く腑に落ちない。
SCP-3190-A-234: いや、それについては説明が付くと思いますよ。我が家の時計が狂っていたんでしょう。アイヴァンがパーティーから帰ったのは7時15分だったかもしれない。
SCP-3190: [SCP-3190は手を揉み合わせながら頷く。] 実はね、あたしも同じことを考えました、先生。でも確かめたんです。あなたの奥さんが家に上げてくれましてね、お宅の時計は全てぴったり合っていましたよ。メイドさんが合わせているというお話でした。
SCP-3190-A-234: そりゃ、私だって間違うことはあります。それでも、刑事さん、私がアイヴァンを殺したなんてありえません。招待客は私が7時45分に家にいるのを見ているんです。アイヴァンが7時27分に死んだとしてもですよ、17分で死体をそこに捨ててパーティーに戻るなんてできるはずがない。
SCP-3190は首を振り、再び手を頭に乗せる。SCP-3190は微笑む。
SCP-3190: どうか悪く取らんでください、先生。誰もあなたを何かで責めているわけじゃないんです。何もかもが上手い具合に辻褄が合うようにしたいだけですよ。あたしゃいつもこうなんです、先生、うちの甥が言うには—
SCP-3190-A-234: [急に立ち上がり、ノートパソコンとブリーフケースを机から片付ける。] お話しできて楽しかったですよ、刑事さん、しかし会議がありますので。
SCP-3190: いやいや、勿論です。 [SCP-3190はドアに歩み寄るが、指を1本立てて素早く振り返る。] すいません、先生。帰る前に、あともう一つだけ。私はこれを興味深い話だと思うんですがね。あなたのオフィスにあるあれやこれやを見てたらふと思い出しました。
SCP-3190-A-234: 早めにお願いしますよ、刑事さん。
SCP-3190: うちの甥はね、神話にかけちゃとにかく頭の回る子なんです。あたしには筋も分からない物語を色々と話してくれるんですよ。でもそうして話してくれた中の一つがね、ズンと心に触れたんです。ローマの、もしかしたらギリシャとごっちゃにしてるかもしれませんが、ネメシスって呼ばれてる女神です。アドレスティアって名前もあって、これは“避けられない事”を意味するんだとか。だけどネメシスはただの敵じゃないんです。ネメシスは避けられない存在だった、何故なら彼女は、あー、傲慢への代償を表していたからです。罪を犯した人々に対する正義を表していた。そしてね、殺人ってのは何より重い犯罪なんですよ、先生。
SCP-3190-A-234: 何を仄めかしておられるのですか、刑事さん?
SCP-3190: いやぁ、先生。あたしゃ何も仄めかしたりしてません。ただ、人間がね、悪い奴らが終いには報いを受けるってのを信じたがってるのはなかなか面白いもんだと思うわけです。あたしらの中にある自然な欲求ですよ。犯罪を解決したい。あたしゃいつだってそれに興味があるんです。まぁ要するに、自然の成り行きに従って、あなたのご友人を殺した奴を見つけ出すって話です、先生。必ずね。
SCP-3190-A-234は咳払いして頷く。
[転写終了]