SCP-3193-JP
評価: +41+x
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ジョナタン・ラヴァンディエJonathan Lavandier
(1983年撮影)

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ダミアン・ラファランDamien Raffarin
(1979年撮影)

アイテム番号: SCP-3193-JP

脅威レベル:

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-3193-JP及びSCP-3193-P-A、Bが付着した物品は現在、サイト-Alephの低危険度異常物品倉庫に収容されています。

説明: SCP-3193-JPは、後述するSCP-3193-JP-A、B及びSCP-3193-JP-1~5の総称です。これらはいずれも芸術家団体である"レ・テュウール・デリLes Tueurs d'Éris"に所属していたジョナタン・ラヴァンディエ氏及びダミアン・ラファラン氏に紐づけられています。

SCP-3193-JP-Aは赤色の油絵具で、収容時は豚の膀胱袋1内に約30ml残存していました。成分は辰砂や乾性油などの通常の材料に加えジョナタン氏の血液が含まれていますが、経年等による劣化の兆候を示しません。SCP-3193-JP-Aを視認した対象は興奮状態かつ攻撃的姿勢を見せ、また暴力的行動をとるようになります。対象に行われた聴取では「急に怒りがこみ上げてきた」「暴行してストレスを発散したくなった」等の回答が得られました。

SCP-3193-JP-Bは緑色の油絵具で、収容時は1本のアルミニウム製チューブ内に約20ml残存していた他、SCP-3193-JP-Bで満たされたチューブが6本発見されました。成分は黄鉛、紺青、乾性油など通常の材料で、異常な材料は使用されていませんが、チューブの裏面には要注意団体"MoLOr"2のロゴが描かれています。SCP-3193-JP-Aを視認した対象は好戦的かつ攻撃的姿勢を抑制します。対象に行われた聴取では「苛々しているのが落ち着いた」「怒っているのが馬鹿らしくなった」等の回答が得られました。また、SCP-3193-JP-Bには3193-JP-Aによって増幅した好戦的かつ攻撃的な性格もある程度抑制することが確認されています。

これらの精神影響性はSCP-3193-JP-A、Bの量や比率によって変化します。例としてSCP-3193-JP-Bを10ml視認した対象のMMSS3が-3.9変動したのに対し、SCP-3193-JP-A、Bをそれぞれ10mlずつ視認した対象のMMSSは-0.8変動しました。また、これらの精神影響性は最短1時間、最長10時間ほどで回復します。

SCP-3193-JP-1~5はSCP-3193-JP-A、Bを用いて描かれた油彩画5点からなる連作です。これらは1977年から1992年にかけて、ジョナタン氏とダミアン氏の両者もしくは一方によって描かれました。SCP-3193-JP-1~5を視認した対象には、上記のSCP-2193-JP-A、Bの異常性により、それぞれの使用割合に応じた精神影響が発生します。この影響は直接的な視認だけでなく写真などによる間接的な視認によっても発生します。

補遺: SCP-3193-JP-1は1979年9月16日、SCP-3193-JP-2は1982年6月7日にそれぞれ開催されたジョナタン氏とダミアン氏合同の絵画展で公開されました。しかしこの時点では、2点の精神影響の影響が微弱であったため異常性が感知されず収容には至りませんでした。以下にSCP-3193-JP-1、2の情報をまとめます。なお視認による精神影響曝露を防ぐため、以下には使用されたSCP-3193-JP-A、B及びその他の油絵具の比率のみを記載しています。

SCP-3193-JP-1


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比率 比率 比率
SCP-3193-JP-A 10% 黄色 35% 黒色 14%
SCP-3193-JP-B 10% 青色 25% 白色 6%

題名: 開戦(Déclenchement de la guerre)

作者: ジョナタン・ラヴァンディエ氏、ダミアン・ラファラン氏

内容: 青空の下、黄色の花々が咲く草原の上を紺色の上衣に赤い袴を着用した軍人が多数歩いている。また、所々にフランスの国旗が掲揚されている。

MMSS変動値: -1.2

SCP-3193-JP-2


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比率 比率 比率
SCP-3193-JP-A 20% 黄色 5% 黒色 10%
SCP-3193-JP-B 20% 青色 40% 白色 5%

題名: 激戦(bataille acharnée)

作者: ジョナタン・ラヴァンディエ氏、ダミアン・ラファラン氏

内容: 曇り空の下、8人の軍人が戦っている。地面には十数人の軍人が倒れており、黄色の花々は踏み潰されている。

MMSS変動値: -0.8

1982年6月7日に開催された絵画展ではジョナタン氏とダミアン氏両者によるスピーチが行われましたが、両者の意見、思想の相違により最終的に言い争いに発展し、フランス警察が介入する事態となっています。以下は当時のスピーチを書き起こしたものです。このスピーチの内容から、SCP-2193-JPの異常性と両者の思想に繋がりがあると考えられています。

発言者: ジョナタン・ラヴァンディエ氏、ダミアン・ラファラン氏

付記: このスピーチは司会者によって進行されています。


[記録開始]

司会: えー、それでは早速、この絵画展の主役であるお二人に登場していただきましょう。どうぞこちらへ。

[来場者たちに拍手で迎えられながら、展示されているSCP-3193-JP-2の前に両者が移動する。]

ジョナタン氏: どうも、ジョナタン・ラヴァンディエです。

ダミアン氏: ダミアン・ラファランです。本日は足元の悪い中私たちの絵画展においでくださりありがとうございます。

司会者: ダミアンさん、その額の傷は?

ダミアン氏: これは……ははっ、まあ、あまり気になさらないでください。

司会者: そうですか、わかりました。ええと、それではですね、今回の作品は「激戦」ということですが、これにはどういった思いが込められているのでしょうか。

ジョナタン氏: あー、前作はですね「開戦」ということで、そちらは「これから戦地へ向かう英傑たちへの賛美、未来への希望」をテーマにしていたわけですが、今作は「英傑たちの生き様、未来のための奮闘、転換期」をテーマに掲げています。

司会者: 「転換期」ですか。それはどういった意味で?

ジョナタン氏: 戦争が希望へ繋がるか絶望へ堕ちていくか、その丁度真っただ中なんですよ、この場面は。英傑一人一人がこの戦いを希望に導こうともがいているんです。どんなに自身の血が流れようと、どんなに仲間が地に伏せようと、決して心折れずに前へ進んでいる、その気迫、熱意がこの戦争の結末へと繋がっていく。そういった意味での「転換期」となっています。

司会者: そうなんですね。先ほど結末という言葉が出ましたが、現在「開戦」、「激戦」と続いてきてますよね。次回作や最終作、例えば「終戦」などといった構想はもう固まっているのでしょうか。

ダミアン氏: 実はまだ固まっていないのですよ。いえ、次回作の構想は決まっているんですがね。私とジョナタンの戦争に対する考えと言いますか、「この連作で何を伝えたいか」という思いにすれ違いがありまして、今二人で話し合っている途中です。

司会者: それは、戦争反対か賛成か、ということでしょうか。

ダミアン氏: 戦争には反対ですよ。ええ、私もジョナタンも戦争には断固反対です。しかし、どうやったらこの世界から戦争が無くなるかという、そのスタンスに違いがあるのです。私としてはこの連作を通して戦争は悲惨なものだ、悲しみしか生まないのだということをメッセージとして伝えたいのです。それが、画家である私たちにできることだと──

ジョナタン氏: そんなことでは戦争は無くならないと何度も言っているんですよ。今まで多くの哲学者、科学者、政治家が戦争の無意味さ、無常さを説いてきたにもかかわらず、今この時も戦争は無くなっていない。俺が思うに、必要なのは「経験」なんですよ。人というのは何事も、経験して初めてその物事を深く理解することができるんです。だから俺はこの連作では、あえて戦争の良い面を出すべきだと考えています。そうして少しでも戦争について様々な論争を起こし、論が武にすり替わっていく過程で実際に戦争の悪い面に気付いてもらう。そうすることで、この世から本当に戦争を無くすことができると思っています。

ダミアン氏: ジョナタン、これも何度も言ってることだが、経験で戦争が無くなるんだったら、大昔に一回戦争をしただけで人類は戦争をやめているはずだ。それが今はどうだ?40年近く前に世界を巻き込んだ大戦をしたばかりだというのに、この世界から戦争は無くなっていないじゃないか。今この時だってイランとイラク、ソ連とアフガニスタンが戦争しているし、今年にはフォークランドで戦争が始まったばかりだろう。人は経験からは何も学ばない。だったら、戦争の悲惨さを私たちが絵にしてこの先何十年何百年も後世に残す方がよっぽど有意義だと思うね。

ジョナタン氏: お前の今の例は逆に言えば、40年前のような大戦が起きていないという良い例だよ。人間は着実に経験を糧に学習している。なにしろ、更に昔には周辺諸国や大陸を巻き込む戦争が多く発生していたんだからな。戦争の火種は徐々に小さくなってきていると言えるだろう。大きな戦争を無くすために小さな戦争が起きるのは仕方ない、必要な犠牲だと割り切るしかない。

ダミアン氏: 正気か?本当に戦争を無くしたいと思っているのか、君は!

司会者: ちょっと二人とも、落ち着いて──

ジョナタン氏: 思ってるさ!でも、根絶するのは無理だ。人間っていうのはそういう生き物なんだよ!

ダミアン氏: それを言ったら元も子もないだろ!いいか、戦争に大きいも小さいも関係ない!どんな戦争にも被害者がいるんだ、戦争は悪しきものだ!

ジョナタン氏: 俺とお前の二人だけでもこんなに争うのに、この世界からすぐ戦争を無くせるとでも?夢物語を言い連ねるのもいい加減にしろ!

ダミアン氏: 夢物語だと!言って良いことと悪いことがあるぞ!

[ダミアン氏がジョナタン氏の胸倉を掴む。]

ジョナタン氏: ここでやる気か?よし、今度はお前の顎に傷をつけてやる!

[記録終了]


終了報告書: この騒動の約1ヶ月後、ダミアン氏はジョナタン氏との共同製作の解消を宣言し、また共同で作業していたアトリエからも撤退しました。以降ダミアン氏のメディアへの露出はなくなりました。

収容経緯1: SCP-3193-JP-5を除く4点は、1987年10月14日、フランスのリヨンで開催されたジョナタン氏の個展で発見、回収されました。この個展ではSCP-3193-JP-1、2を含む十数点の絵画の展示の他に、SCP-3193-JP-3、4の初披露も兼ねていました。午後2時、ジョナタン氏による数分のスピーチの後SCP-3193-JP-3、4は披露され、その直後これを見た個展来場者の多くが精神影響に曝露しました。この曝露は結果として集団ヒステリー暴行事件へと発展し、フランス警察によって鎮圧されるまでにジョナタン氏を含む17名の死者、他29名の重軽傷者を出すという被害を出しました。「当時のジョナタン氏は非常に興奮状態にあり、スピーチ中も過激な発言を繰り返していた」という当事者数名の証言から、ジョナタン氏自身もSCP-3193-JP-Aの異常性に曝露していたと推測されています。

以下にSCP-3193-JP-3、4の情報をまとめます。

SCP-3193-JP-3


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比率
SCP-3193-JP-A 80%
黒色 20%

題名: 血戦(bataille sanglante)

作者: ジョナタン・ラヴァンディエ氏

内容: キャンバス一面がSCP-3193-JP-Aで塗り潰されており、その上から、鎧を着た2人が剣を持って戦っている様子が描かれている。

MMSS変動値: +42.7

SCP-3193-JP-4


Picsart_23-11-13_20-25-30-059.png
比率 比率
SCP-3193-JP-A 90% 白色 5%
黒色 5%

題名: 敗戦(défaite)

作者: ジョナタン・ラヴァンディエ氏

内容: 不明。キャンバス一面がSCP-3193-JP-Aで塗り潰されており、その上から、細い直線が黒色もしくは白色で数本描かれている。

MMSS変動値: +47.3

この個展での事件が発端となり調査が行われた結果、心理抵抗値71以上の財団エージェントによってSCP-3193-JP-1~4が回収され、SCP-3193-JP-1~4を掲載していた印刷物は全て処分されました。また、ジョナタン氏のアトリエからSCP-3193-JP-Aが発見され、同様に回収されています。アトリエの状況から、SCP-3193-JP-Aはジョナタン氏自身が作製していたと思われます。なお個展及びアトリエからは、SCP-3193-JP-Aが他に使用されている絵画は発見されませんでした。

アノマリーに関与している疑いからダミアン氏の捜索も行われましたが、自宅及び彼の所有するアトリエからは既に撤去した後であり所在不明でした。また親族及び近隣住民への聴取からも手掛かりは得られませんでした。

収容経緯2: 1992年1月25日、MoLOrの構成員であるギヨム・ジラールGuillaume Girard氏SCP-3193-JP-1~4の所在を各地の美術館などに幾度も質問していたことが財団に認知され、聴取が試みられました。事情聴取のためにギヨム氏の自宅を訪れたところ、ギヨム氏は自動車で逃走し、その最中に交通事故を起こし約2ヶ月の間意識不明の重体に陥りました。ギヨム氏の自宅からは、ダミアン氏と交わしたと思われる手紙が見つかりましたが、手紙を入れていた封筒には虚偽の住所が書かれており、ダミアン氏の所在は不明のままでした。

同年3月24日、意識を取り戻したギヨム氏に改めて事情聴取が行われ、シャルトリューズ山脈の麓に建つ、ギヨム氏が所有する小屋にダミアン氏を匿っていると証言しました。直ちに小屋の捜索が行われ、ダミアン氏の死体とSCP-3193-JP-B、ギヨム氏と交わした手紙群が発見されました。検死の結果、死因は栄養失調による餓死で死後2週間ほど経過していました。

その後も行われたギヨム氏への聴取では以下の点が明らかになっています。

  • ダミアン氏はMoLCo4の会員で、ダミアン氏がMoLCoの会員になった30年ほど前からギヨム氏と交流があり、当時からダミアン氏よりSCP-3193-JP-Bの作製依頼があった。
  • SCP-3193-JP-Bの製作が完了した1977年から、ダミアン氏はジョナタン氏とともにSCP-3193-JP-1を描き始めた。それからは定期的にダミアン氏にSCP-3193-JP-Bを提供していた。
  • ジョナタン氏との共同作製を解消した後、ギヨム氏はダミアン氏から相談を受け小屋を提供した。以降はダミアン氏と定期的に文通を行い、要求があればSCP-3193-JP-B含む各種油絵具及び食料品などを無償で提供していた。ダミアン氏への多くの支援について、ギヨム氏は「戦争の根絶のためにあらゆる支援も惜しまないのが私たちMoLOrの役目だから」と証言している。

以下は小屋とギヨム氏の自宅から回収された手紙を時系列順に並べ、その中で特筆すべき手紙を抜粋したものです。

文書1(1982/7/14)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 14 juillet 1982


親愛なる友へ
まず改めて、この小屋を提供してくれたことに感謝する。
ここはとても静かだ。車が走る音も、扉を開く音も、蛇口を回す音も、そしてあの男の叫び声も聞こえない。
とても良い。とても平和だ。君がここを薦めてくれた理由がとても分かる気がする。
この小屋のように、世界中が鳥のさえずり、草木のざわめき、人々の笑い声で包まれるような世界を目指して、キャンバスに向かおうと思う。
全ては戦争根絶のために。



D. R.

文書2(1982/7/22)

Guillaume GIRARD

Damien RAFFARIN

Marseille, le 22 juillet 1982


やあ、ダミアン
喜んでもらえて僕も嬉しいよ。
もし何か必要なものがあったらなんでも言ってほしい。僕たちの使命のためなら惜しまず協力しよう。
ああ、金銭面のことなら今は心配しないでくれ。これはとても皮肉なことだが、使命が果たされるその時まで、僕たちの収入が減ることはないからね。
だけど僕は、なにも裕福になるために活動しているわけじゃない。使命のためなら、僕はスラム街暮らしになっても構わないと思ってる。
どうか、悪しき戦争を永久に君の素晴らしい絵画の中に閉じ込めてくれ。期待しているよ。

P.S. 前から交流はあったから理解していると思うし早速利用してくれたようだから余計なお世話かもしれないが、手紙を送るときには"命の商人"協会専用の配達員を呼んでくれよ。僕たちの仕事柄、どんな内容でも外部に漏れるのは避けたいからね。簡単なものでもそこは怠らないように頼むよ。



Guillaume


文書3~127(1982/8/1~1987/10/8)
以降、両者の文通による交流は続き、その中で1ヶ月に1回の頻度でダミアン氏による画材、生活必需品の要求が行われている。重要度の低い内容のため省略。

文書128(1987/10/16)

Guillaume GIRARD

Damien RAFFARIN

Marseille, le 16 octobre 1982


やあ、ダミアン
今回も約束通り、絵の具と食料を送ったよ。ついでに僕の妻が作ったマカロンも入れておいた。君の口に合うと良いのだが。
それと、今の君には必要ないことかもしれないけど、今朝発行されたばかりの新聞も入れておく。君の相棒だったジョナタンが死んだニュースが載ってる。
詳しいことは書かれていないけど、どうやら個展の最中暴徒たちに襲われてしまったらしい5。彼の思想は危ういものだったけど、それでも戦争根絶のために真摯に向き合った偉人の一人だ。とても悔やまれるよ。



Guillaume

文書129(1987/10/22)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 22 octobre 1987


親愛なる友へ
はじめに、今回も色々送ってくれてありがとう。早速マカロンを食べてみたが、程よい甘さでとても美味しかった。君の奥さんはとても料理上手だね。
そして、ジョナタンのことは非常に残念だ。ジョナタンの描く絵はどれも直情的で、それでいてとても繊細さのある絵ばかりだった。私も今までジョナタンの絵から多くのインスピレーションをもらった。
私は、ジョナタンと袂を分けたことを後悔してはいない。彼の思想ではこの世から戦争を無くすことは絶対にできない。私とジョナタンは出会ったときから喧嘩別れする運命だったんだ。
だがジョナタンは、きっと彼にできることを尽くして死んでいったんだろう。それはとても素晴らしく、そして羨ましいことだ。
私も後悔のないように、私にできることを尽くすとここで改めて誓おう。
全ては戦争根絶のために。



D. R.

文書130~163(1982/8/1~1989/3/28)
以降、両者の文通による交流は続き、その中で1ヶ月に1回の頻度でダミアン氏による生活必需品の要求が行われているが、1988年からは画材の要求は3ヶ月に1回の頻度に落ちている。
重要度の低い内容のため省略。

文書164(1989/4/2)

Guillaume GIRARD

Damien RAFFARIN

Marseille, le 2 avril 1989


やあ、ダミアン
君に小屋のアトリエを提供してから6年以上経ったけど、最近の絵の進捗はどうかな。
君のことだから心配はいらないと思っているけど、最近画材を送る頻度が少なくなっているのが気になってね。
もちろん、完成に近づいているならなんの問題もない。ただ、もしスランプに陥ってるとか、描く意欲が無くなっているようなら気兼ねなく言ってくれ。



Guillaume

文書165(1989/4/10)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 10 avril 1989


親愛なる友へ
心配をかけてしまって申し訳ないと思う。
正直に言うと、かなり行き詰まってしまっている。こんなことはジョナタンと一緒に描き始めてからは一度もなかったことだ。
描く意欲はある。あるんだが、最近キャンバスに向かっても思うように筆が進まない。
スランプなんだろうか。でも、描きたいアイデアはちゃんと頭の中で描き終わっているんだ。ただ、それを現実に出力するのに時間がかかってしまっているのが現実だ。
申し訳ないが、もう少し待ってくれないか。必ず、君の満足するような絵を描き上げてみせる。



D. R.

文書166(1989/4/15)

Guillaume GIRARD

Damien RAFFARIN

Marseille, le 2 avril 1989


やあ、ダミアン
問題ない。僕は君のことを信頼している。いつまでも待とう。
でも、僕も君ももういい歳だ。いつ天国の使いが降りてきてもおかしくない。実際、僕の同志たちが何人も平和な世界を見ることなく先立ってしまった。かく言う僕も、最近は動悸息切れが激しくなってきた。君もそうなんじゃないかな。
天国で絵を完成させるのも一興だけど、それだと天国の戦争しか無くすことができない。そもそも天国に戦争なんてものがあるか分からないけどね。
とにかく、生きている今の世界から戦争を無くすために、どうか納得のいく絵を仕上げてくれ。僕も僕にできることを全力でこなすと約束する。



Guillaume

文書167~202(1989/5/10~1990/12/18)
以降、両者の文通による交流は続き、その中で1ヶ月に1回の頻度でダミアン氏による生活必需品の要求が行われているが、この間、ダミアン氏による画材の要求は行われていない。
重要度の低い内容のため省略。

文書203(1990/12/15)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 25 décembre 1990


親愛なる友へ
ギヨム、君からは今まで数え切れないほどの支援をしてもらってとても感謝している。老い先短い私では、この恩を全て返そうと思ってもとても返しきれないだろう。
だから突然こんなお願いをするのはとても心苦しいのだが、ジョナタンが使っていたあの赤色の絵の具を作ることはできるだろうか。
あの絵の具はただの絵の具じゃなかった。私はジョナタンがことあるごとに血を混ぜて絵の具を自作していたのを知っている。傷をつけた手首を押さえながら、キャンバスにがむしゃらに向かっていたジョナタンの背中を覚えている。
ジョナタンが塗り広げる赤色を見るたびに、私に流れる血の身体が焼けれる感覚があった。その熱を冷ますように、私もジョナタンの横でキャンバスに向かっていた。
暖炉にくべるものを探していたときに君が数年前にくれた新聞を見つけて、そのことを思い出した。
今の私に足りないのは、ジョナタンを象徴するあの赤色だ。そう思うんだ。
どうか、ジョナタンの赤色を再現してくれないだろうか。よろしく頼む。



D. R.

文書204(1991/1/4)

Guillaume GIRARD

Damien RAFFARIN

Marseille, le 4 janvier 1991


やあ、ダミアン
何度も言っているが、支援のことなら気にしなくて良いよ。残念なことに未だにこの世から戦争は無くなっていないから、僕が死ぬまでお金に困ることはないだろう。
そして絵の具の件だが、正直言ってかなり難しいだろう。もちろん手を貸したいのは山々だが、不思議なことに彼の絵は、個展が終わった後所在が不明なんだ。それに彼のアトリエも、何者かの手によって全ての物が持ち去られてしまった。彼の血があれば再現できたかもしれないが、彼はもう土の中で血の通ってない骨になってるからね、今の僕には、君の求める絵の具を再現することができない。
君なら、画集なり写真なりを持っているんじゃないか?もし持っているようなら、提供してくれれば再現できるかもしれない。生きてるうちにできるとは約束できないがね。
僕にできることを全力でこなすと言ったのに、本当に申し訳ないと思っている。
お詫びと言ってはなんだが、種類の違う赤色をいくつか送ることにする。もし彼の使っていた絵の具に近いものがあれば良いのだが。



Guillaume

文書205(1991/1/14)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 14 janvier 1991


親愛なる友へ
再現できないのはとても残念だ。だが君のことを責める気は一切ない。元々無理を承知でお願いしたのだから。
しかし、ジョナタンの絵もアトリエもそんなことになっていたとは驚きだ。この小屋から見えるだけの風景の変化ばかりに気を取られて、大事なものの変化に気付けていなかった。
ジョナタンの画集や写真なら、こっちに来るときにあらかた処分した。当時の私はジョナタンに対する怒りに溢れていたから、そのような短絡的なことをしてしまった。後悔先に立たずだな。
君から送ってもらった絵の具は全て試してみたが、納得のいく色はなかった。
悔やまれることだが、ジョナタンの赤色は諦めることにしようと思う。手を尽くしてくれてありがとう。



D. R.

文書206(1991/1/20)

Guillaume GIRARD

Damien RAFFARIN

Marseille, le 20 janvier 1991


やあ、ダミアン
望みの色がなかったのは残念だ。
君は諦めると言ったが、僕は諦めないよ。戦争をなくすためにはその絵の具が必要なんだろう?
君はどうかそのままキャンバスに向かって満足のいく絵を描いてくれ。望みを叶えるのは僕の仕事だからね。
とは言え、最近は僕も病院通いすることも増えてきたから、見つけるまでに時間がかかると思う。許してほしい。
とりあえず、新しく見つけた絵の具を送っておくよ。だけど、恐らくこの色も納得はいかないことだろう。



Guillaume

文書207(1991/1/25)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 25 janvier 1991


親愛なる友へ
君にはどれだけ感謝してもしきれない。本当にありがとう。
送ってもらった絵の具だが、君の予想通り納得のいくものではなかった。ジョナタンの赤色は相当変わったものだったらしい。
どうか無理はしないでくれ、私の友よ。長生きして、一緒に戦争のない平和な地球をこの小屋から眺めようじゃないか。君はあまり覚えていないのかもしれないが、この小屋からの景色は中々良いものだよ。
私も諦めずに、最高の絵を仕上げるために精一杯努力しよう。
全ては戦争根絶のために。

P.S. そろそろ食料が尽きそうだ。また発送をお願いしたい。



D. R.

文書208(1991/2/10)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 10 février 1991


親愛なる友へ
食料が送られてこないから再び手紙を送ろうと思ったら、配達員から君が交通事故に遭って意識が戻っていないと聞いた。
とりあえず手紙は、君が戻ってくるまで配達員のほうで保管してくれるらしいが、食料の供給は管轄外だからできないと言われてしまった。冷徹だと思ったが、むしろ君が今まで優しすぎたのだと気付いた。普通に考えれば、町中で新聞屋さんにご飯を買ってきてくれと頼んでも買ってきてくれる人は少ないだろう、あの配達員の反応は至極当然だ。それに加えて、君たちの仕事はかなり特殊なようだからね。
恐らく君に甘えていたツケが回ってきたのだろう。
仕方がないから、残りの食料と野草で耐えしのぐとする。みっともない話だが、私は一文無しのほぼ無名の画家なのでね。



D. R.

文書209(1991/2/22)

Damien RAFFARIN

Guillaume GIRARD

Chambéry, le 26 février 1991


親愛なる友へ
なんとか絵を完成させることができた。
正直に言うと、この絵が君のお眼鏡にかなうものかは分からない。しかし私にとっては、これ以上の平和はないという作品だ。ジョナタンの赤色を使えなかったのは残念だが、少なくともこれは私の人生の最高傑作だ。
君が意識を取り戻す前に私が死んでしまっても良いように、絵はこの手紙と共に配達員のほうで保管してもらえることになった。やはり君たちの配達員は優秀だ。どうかこの手紙を受け取ったのなら、感想を知らせに小屋まで来てくれないか。もちろん豪勢な食事を持って、ね。



D. R.

その後、ギヨム氏の身柄の解放と引き換えにSCP-3193-JP-5を回収しました。以下にSCP-3193-JP-5の情報をまとめます。

SCP-3193-JP-5


Picsart_23-11-13_20-26-15-856.png
比率 比率 比率
SCP-3193-JP-B 40% 黄色 10% 白色 5%
赤色6 20% 青色 25%

題名: -(記載がないため不明。)

作者: ダミアン・ラファラン氏

内容: 小屋の外でジョナタン氏とダミアン氏が談笑している人物画。ジョナタン氏は赤色で、ダミアン氏はSCP-3193-JP-Bでそれぞれ描かれている。また、背景には様々な色で山と街の風景が描かれている。

MMSS変動値: -27.7






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