SCP-3195-JP
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アイテム番号: SCP-3195-JP

オブジェクトクラス: Euclid Nagi1

特別収容プロトコル: 現在SCP-3195-JPは日常生活に復帰しています。医療従事者に扮した担当者はSCP-3195-JPに適切な食事の摂取及び制吐薬の服薬を継続させたうえで監視を続けてください。

説明: SCP-3195-JPは収容時点で34歳のモンゴロイド男性で、戸籍上は北海道札幌市在住、本名は棚橋 雅貴と記録されています。棚橋氏は後述するSCP-3195-JP-Aの生成及び給餌のため日常的に過食嘔吐を繰り返しており、収容当時は糖尿病、胃酸過多、逆流性食道炎、マロリーワイス症候群2、酸蝕症3、胸部食道癌を併発していました。また、SCP-3195-JP-Aによってつけられた熱傷が全身に──特に口唇部、手の平、生殖器に集中して──広がっていました。

SCP-3195-JP-Aは主に棚橋氏の嘔吐物で構成された人型実体です。棚橋氏が嘔吐したあと、その嘔吐物の量に応じた大きさに変形し、以降は嘔吐物を経口摂取する形で体内に吸収しすることでその体積を拡大させていきます。実体は人間女性の姿を取っており、嘔吐物で構成されているにもかかわらず皮膚や毛髪、眼球などの外見的特徴が再現されているものの、脳や心臓などの臓器は存在していません。また、実体は不定期に嘔吐し、体積も縮小します。この嘔吐物を吸収することはなく、最終的に再び棚橋氏の嘔吐物に戻る形で活動を停止します。

棚橋氏は2024年10月1日、勤務している職場で嘔吐、吐血し病院へ搬送されました。その際SCP-3195-JP-A実体が出現したことで混乱が生じ、財団の注意を引き発見されました。目撃者にはクラスA記憶処理が施され、棚橋氏はカバーストーリー「緊急入院」を適用した上で財団に保護されました。検査した結果、棚橋氏に上記の病気が発見されたことから当日中に食道全摘及び胃管再建手術が施され、容態が安定したあと聴取が行われました。

聴取ログSCP-3195-JP


聴取日時: 2024/10/3 15:12

聴取場所: 東和病院

聴取対象: 棚橋 雅貴 氏

聴取担当: エージェント・柳


[記録開始]


[重要度が低いため前半省略]

柳: あなたの嘔吐物が女性に変化するようになったのはいつからですか?

棚橋氏: 正確な日付は覚えていないですが、確か4か月ほど前です。仕事で大きな失敗をしてしまってストレスでヤケ食いをして、そのとき人生で初めて吐きました。しかもその場で。そしたらゲロが赤ちゃんの姿に変わりました。

柳: 通報などはしようと思わなかったんですか?

棚橋氏: 信じてもらえないでしょうから、しませんでした。それにそのときはお酒もたくさん飲んでいたので、きっと幻覚か何かだろうと思い込んで、その日は寝ることにしました。

柳: でも幻覚じゃなかったんですよね。

棚橋氏: はい。目が覚めても赤ちゃんはいました。誰かに電話しようとしましたけどその前に二日酔いで吐きそうになって、急いでトイレに駆け込もうとしました。でもそのとき赤ちゃんが足を掴んできて。ああいうときって、ちょっとでも止まると我慢できなくなるんですね。またその場で吐いてしまって。慌ててティッシュで片付けようとしたら、赤ちゃんが私のゲロを食べ始めて……

柳: その後は?

棚橋氏: 赤ちゃんが急に成長して、いや、成長って表現が合ってるか分からないですけど、ともかく大きくなって、だいたい3歳くらいの女の子になりました。ハイハイだったのが足で立ってよちよち歩きするようにもなって。

柳: そんなに大きくなっても通報はしなかったんですね。

棚橋氏: なんというか、愛着が湧いてしまって。私のゲロを食ったとはいえ、見た目は普通の女の子でしたから。私が通報したら多分警察に保護されることになるじゃないですか。どうしても、いたたまれない気持ちになってしまって。

柳: しかし子どもを匿うというのは──

棚橋氏: 犯罪ですよね、分かってます。でも、元はと言えば私のゲロから産まれたようなものですから、自分の子どもと言えるんじゃないかなって。それにお恥ずかしい話ですが、実は2年ほど前に妻と離婚して、娘とも離れ離れになってしまったので、寂しかったというのも理由で……すみません、退院したらしかるべき罰は受けますので。

柳: いいえ、私はあなたとその女の子のことを聞きたいだけですから。それからもあなたは嘔吐物を与え続けたのですね。

棚橋氏: はい。最初は普通の食べ物を与えようとしたんですが全然食べなくて。どうしようか迷っていたら急にえずき始めてそのまま吐いてしまったんです。大きさも赤ちゃんくらいに戻ってしまって、もしかしてと思ってゲロを吐いてみたら、また食べて大きくなりました。でも1回だと、すぐまた吐いて小さくなっちゃうんです。それが怖くて。

柳: 怖い?

棚橋氏: だって、彼女が吐くたびにこの世から少しずついなくなっていくんですよ。だから私は、彼女が吐くのがとても怖くなったんです。彼女が吐いて死んでしまうくらいなら私が吐いて育てたほうが何倍もマシだと思ったんです。それからです、彼女のために吐くようになったのは。

柳: しかしそのせいで、あなたの体はボロボロです。何故そこまでして?

棚橋氏: 多分、娘とどこか面影を重ねてたんだと思います。目がクリクリしていて可愛いところとか。娘とは別れたっきり会ってませんから愛おしくなったんです。まあ、会おうとしても面会拒絶されてるので無理なんですけど。それに、当時の私は仕事と夜遊びばかりで妻のことも娘のことも後回しにしてしまっていて、それをいまだに後悔しているんです。だから、今度はちゃんと育てようと──

柳: それなのにあなたは、その女の子と性行為に及んだんですか?

棚橋氏: は、はは、一体何を言ってるんですか。そんなことをするわけないじゃないですか。

柳: では何故、あなたの生殖器に熱傷があるんですか?その熱傷は高温のものに触れたのではなく強酸、嘔吐物に含まれる胃酸によるものですよね?

棚橋氏: [溜息]バレてるんですね。だって彼女に服を着させてもすぐ溶けちゃうから、ほぼ全裸で生活してるんですよ。年頃のかわいい女の子が全裸で家の中をうろついていたら誰だって──いや、これはただの言い訳ですね。こんなんだから離婚することになったんでしょう。彼女よりもゲロに近い存在ですよ、自分なんか。

柳: そこまでは言っていませんが……念のため、どういった感触だったかお答え願いますか?

棚橋氏: ……え、それって必要なことですか?

柳: はい、できるだけ情報が必要なものですから。

棚橋氏: そうですか……えっと、妻としたときとは全く違いましたね。柔らかくて、湿っていて、でもピリピリ痺れて熱くなるのが癖になるというか……あの、もう良いですか?自分が悪いとはいえ、流石に恥ずかしいです。

柳: ええ、結構です。ではこれで──

棚橋氏: 待ってください。私からも一つ聞きたいことがあるんですが。

柳: はい、なんでしょうか。

棚橋氏: 彼女はまだ生きてるんですか?成人くらいまで大きくなっても、仕事から帰ってくるといつも小学生くらいまで小さくなっているんです。丸1日入院していたら、どれほど小さくなっているか。もしかして、もういなくなってるんじゃないかって不安で。

柳: それは──ええ、大丈夫ですよ。

棚橋氏: 本当ですね?信じて良いんですね?彼女に愛情を吐き出せなくなる生活なんて堪えられないんですよ、私は。


[記録終了]


補遺1: 棚橋氏が病院に搬送された当日、棚橋氏の自宅を捜索したところ、自宅内はいたる所が嘔吐物に含まれる酸性物質によって腐食していました。また居間で乳児程度の実体を発見し、直ちに近くの収容サイトへの移送を試みましたが、途中で嘔吐し全身が嘔吐物に変化したことで活動を停止しました。

補遺2: 入院中、棚橋氏は過食しなくてもSCP-3195-JP-Aを想起することで嘔吐し、実体を生成するようになりました。診断の結果、棚橋氏は心因性嘔吐症を発症していることが判明しました。仮にこの状況が続けば棚橋氏の容態が更に悪化し、最終的に死亡する可能性があります。収容担当及び上層部による協議の結果、異常性保護より棚橋氏の生命維持を優先し、クラスA記憶処理によってSCP-3195-JP-Aの記憶を取り除くことが決定、そして実行されました。以降棚橋氏はSCP-3195-JP-Aを想起することはなく、また通常の治療を施されたことで順調に回復に向かいました。現在は特異なことがない限り嘔吐する可能性はないと判断されたため、日常生活への復帰が許可されています。しかし再び異常性が発現しSCP-3195-JP-Aが生成される可能性を考慮し、Nagiクラスに分類された上で現在も治療、監視が続けられています。




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