O5評議会より通達
現在進行中のXK-クラス:世界終焉シナリオの阻止に寄与する可能性を鑑み、当該オブジェクトの収容に対する特例措置を施行します。当報告書に記載される情報は2050年7月22日現在の状況を反映しており、インシデント終了時点で特別収容プロトコルの改定が行われます。
特別収容プロトコル: 進行中のXK-クラス:世界終焉シナリオの阻止に寄与する可能性を鑑み野生下のSCP-3203-JPは収容されません。既知のSCP-3203-JP生息地に対し適切なカバーストーリーを流布し民間人の接近を防止してください。
各地の採石場を利用したSCP-3203-JP専用サイトを設置し、隔離環境下での大規模栽培を継続しています。SCP-3203-JPは5℃から-15℃までを生育適温とするため、標準温度管理設備は敷設されません。SCP-3203-JP栽培に関わる職員は栽培地に応じた適切な化学防護服を着用の上で、沿岸地域での栽培は標準耐塩性植物栽培プロトコルに従い、内陸地での栽培では融雪剤として塩化ナトリウムを散布した上で同様のプロトコルに従ってください。
説明: SCP-3203-JPは同一の異常性を持つ植物群の総称です。2050年7月現在SCP-3203-JPは██種確認されています。これは大きく2つに大別され、内陸部や海岸などにはクズ(Pueraria lobata subsp. lobata)に類似するつる性の草本類(以下SCP-3203-JP-aと表記)、塩湖周辺や干潟などの湿地にはヒルギ科(Rhizophoraceae)に類似する木本類(以下SCP-3203-JP-bと表記)が生息しています。
SCP-3203-JPは極めて高い繁殖力及び再生力を有し、切断された茎や根の一部からでも再生することが可能です。SCP-3203-JPは生育に極めて高い塩化ナトリウム濃度を要求するほか、土壌ではなく石灰岩に好んで定着します。このためSCP-3203-JPは塩湖、海岸の岩場、珊瑚礁によって形成された干潟などに生息します。これらの土地が植物の生育に適さないことに加え、現在進行している大規模な気温低下によって競争相手となる他の植物の多くが枯死しているため、高い確率で生息地における優占種となります。また、生息地で発生しているSCP-2203-JPに対してはSCP-3203-JP-aはつるによる巻き付き、SCP-3203-JP-bは高さによりSCP-2203-JPの上部を覆うように成長することで日光を確保しています。
SCP-3203-JPは胃の壁細胞に類似するプロセスによって塩酸を生成します。SCP-3203-JPの根は耐塩性植物によくみられる発達したNa+/H+交換輸送体を持ち、Na+/Cl-共輸送体によって根から吸収したNa+をH+と交換することで、体内のナトリウム濃度を低下させるとともにH+とCl-を吸収し、これらを主根の塩酸分泌部位に存在するプロトンポンプとCl-チャネルで体外へ分泌することによって塩酸を生成しています。
主根から分泌された塩酸は生育地の石灰岩を溶解し、生じた隙間を利用してさらに主根が掘進します。この際石灰岩及び土壌に含まれる栄養塩がH+により土壌溶液に溶脱するため、これを利用することでSCP-3203-JPは成長します。また、石灰岩の溶解によって生じたCa2+も併せて吸収され、植物体内のイオン濃度を高めることによって凝固点降下を利用して耐冷性を高めています。
根から分泌された塩酸が石灰岩を溶解し、それにより形成された空間へ更に根が伸長することでSCP-3203-JPが定着している石灰岩は高確率で破砕されます。定着していた石灰岩の破砕によってSCP-3203-JPは切断されますが、前述の再生力のため残された破片から再生し、破砕された石灰岩へ再度定着します。
財団生物学部門によるゲノム解析により、SCP-3203-JPのDNAには複数の日本生類創研製作物との類似点が存在することが判明しました。これには既知のアノマリー及び通常の生物に由来する遺伝子のほか、由来及び機能が未解明な遺伝子を多数含みます。
発見経緯: SCP-3203-JPは各地の採石場を始めとする石灰岩質の土地において、「氷点下にも拘らず異常に繁茂している雑草」の通報が多数なされたことにより発見されました。以下は発見地で見つかった日本生類創研の文書の抜粋です。
SCP-3203-JP発見から██日経過した2050年3月時点で大気中二酸化炭素濃度は2049年平均の280ppmから4██ppmまで上昇しており、わずかながら気温の上昇が確認されている他、顕著に氷床の発達速度が遅延していました。これを受けて、財団渉外部門より以下の提言が提出されました。
財団渉外部門はSCP-3203-JPを利用した一時的な気温低下の遅延を提言します。
現在進行中のXK-クラス:世界終焉シナリオはSCP-2203-JPによる地球環境のリセットによるものです。これは科学技術が惑星の環境を激変させるほど発展した際に、温室効果ガスを減少させられる白色の生命体が惑星規模で発生することで全球凍結を引き起こしほぼ全ての生物を虐殺する現象で、発展しすぎた科学技術を葬り去るための防衛機構だと推測されています。現在発生しているノコギリソウ属に似た花も一例に過ぎず、並行宇宙での観測においては円石藻(Gephyrocapsa oceanica)による白潮や複数の白変種動物の大量発生も観測されています。これを回避するためには現在人類が保有している科学技術を一部放棄する必要がありますが、現状財団内外での調整の目途は付いていません。
財団は気温低下を阻止する技術を開発することはさらなるSCP-2203-JPの発生とそれによる気温低下を加速させると考え、財団内外での科学技術一部放棄に向けての計画及び交渉と全球凍結後に人類文明を存続させる方法の研究に資源を集中させていましたが、気温低下速度が当初の想定より早く、全球凍結までに対抗措置の実施が間に合わない可能性があります。
SCP-3203-JPは現時点で財団に利用可能な資産では最も費用および時間対効果の高い気温低下遅延手段であり、財団宇宙物理学部門の試算では、全球凍結までの猶予を█年程度遅延出来ると見積もられています。加えてSCP-3203-JPは生息地が限定されているため隠蔽が容易であり、科学技術放棄の目途が立つまでの時間稼ぎとして利用可能です。
この提言はO5評議会により承認され、各地の採石場を利用したSCP-3203-JP専用サイトが敷設されました。一部科学技術の放棄によるSCP-2203-JP発生抑制、あるいは全球凍結下での人類文明存続計画が確立するまで、SCP-3203-JPを大規模に栽培し、気温低下の遅延を図っています。状況終了後の収容のため、未収容のSCP-3203-JPはマッピングされます。
通達: 2051/1/7 12:17 (UTC) にあなたが閲覧中の報告書が更新されました。最新版を閲覧するにはこちらをクリックしてください。