████/██/██の2200、D-2672 (心理的背景にこれといった特徴が無いDクラス) がSCP-3267に進入するよう指示されました。この実験は、SCP-3267の取得を巡る状況の再現を目的としていました。D-2672にはビデオレコーダー・フラッドライト・無線音声トランシーバーを装備させ、警備員2名を入り口の外に待機させました。
留意点として、D-2672はSCP-3267やクーパー家に関する知識をこれまでに表明していません。
[ログ開始]
司令部: D-2672、SCP-3267に進入してくれ。
D-2672: なあ、何で今なんだ? 真っ昼間でやりゃいいじゃん。こんなところにいたくねえし、アンタらの厄介事なんざもう見飽きてるよ。
司令部: D-2672、SCP-3267に進入するんだ。指示への違反は即時終了の根拠となるぞ。
D-2672: 分かった、分かったよ。けどマジで言うけどさ、安全に越したことはねえって。
D-2672がSCP-3267に進入する。照明は消されている。
D-2672: おいおい、マジで暗いな。今までえげつねえヤツをいくらか見てきたが、それでも怖えな、クソったれ。
ゴボゴボという音やもがく音から、棒状石鹸がD-2672の口内に出現したと見られる。D-2672が口内から棒状石鹸を取り出すことに成功する。
司令部: D-2672、汚い言葉を使うのは控えてくれ。
D-2672: (荒い息遣い) 今度からは入る前に言ってくれねえかな?
司令部: すまない。D-2672、照明制御装置を見つけてくれ。そこからずっと左にあるはずだ。
D-2672が照明制御装置へと歩き、スイッチを入れ始める。
D-2672: 点かんな。
司令部: 分かった。持っているフラッドライトを点けてくれ。
D-2672がフラッドライトを作動させる。光は最大で約5 m先に到達している。
D-2672: ちゃんと点いてねえようだ。普通の明かりでもこんなんよりかは明るいだろうよ。
司令部: そうか。図書館内を進んで、何か異常に気付いたら知らせてくれ。
D-2672: あいよ。
D-2672がSCP-3267内を進む。異常はしばらくの間検出されなかったが、2234に紙がめくれる音を音声トランシーバーが拾い上げる。被験者はこれに気付いていないように見受けられる。
司令部: D-2672、止まっていいぞ。
D-2672: えっ、これで終わりか?
司令部: いいや、まだだ。左の棚に向かい、どれか1冊本を取り出してくれ。
D-2672が██████ ██████████著『██████のビジネス & マネーの手引き』という題の書物を手に取る。手書きの名前は██████ ███である。
D-2672: 速攻稼ぎ術か。銀行強盗する前にこういうのを読んどくべきだったんだろうな。
司令部: それを開いて、何か異常を見つけたら知らせてくれ。
D-2672: んー、どれどれ。見たところ普通だな。(休止) 待て、何だよク…… こりゃ?
司令部: D-2672、何が見えるのか説明してくれ。
被験者がビデオレコーダーを本に向ける。当該ページに複数の文字が太字で書かれており、観測可能なパターンは見られない。この現象は他の同書物では観測されておらず、当該書物に特有のものなのか、SCP-3267-1に由来する異常なのかは現時点では不明である。
D-2672: この本を書いた奴は泥酔でもしてたのか? なあ、これマジで不快なんだけど。それによ、好きな時に罵声を浴びせられないとかますますストレスが溜まるだろ。
司令部: D-2672、太字の中から単語を見分けられないか?
D-2672: ちょっと待ってろ。"近頃は読者がいない"、だろうか。この本はそこまで売れなかったみてえだな?
司令部: 他のページにそのような異常はあるか?
D-2672: (ページをめくる) これだけだ、他には見当たらねえな。
司令部: ありがとう。ではその本を元の位置に戻して、右の棚からどれか1冊本を取り出してくれ。
D-2672が著者名███ █████の『PAPILIO VITAE』(ラテン語、日本語訳: 蝶の一生) という題の書物を手に取る。
D-2672: 適当に取ったぞ。(ページをめくる) おかしな点は見当たらねえな、ただの蝶に関する本だ。いや待て、またあったぞ! "まあ、僕たち長い間ここにいるし"、か。これを書いた奴らは相当暇を持て余してたようだな。
司令部: ありがとう。その本を元の位置に置いて、再び図書館内を進んでくれ。
D-2672: はいはい。
D-2672が歩き続けてから49秒後、紙がめくれる音を音声トランシーバーが拾い上げる。被験者が音に気付き、振り返る。
D-2672: 聞こえたか? ここには俺だけだって思ってたんだけど?
司令部: 今建物内には君以外にいないはずだ。音源を特定できるか?
別の紙がめくれる音を音声トランシーバーが拾い上げる。
D-2672: あれだ! 今ひとりでに閉じたぞ!
司令部: その本を手に取って、何か異常が無いか知らせてくれ。
D-2672が件の本を開く。これまでの本に見られたのと同じ現象が観測できる。
D-2672: またかよ。"もう関係無いような気がする"。俺の考えだと、これらは互いに関連してるのかもしれん。その場合、暇を持て余してんのは司書のほうだな。
司令部: そうか。次は [中断]
軋む音が静かながらも聞こえる。D-2672が振り返る。ビデオ映像は何も異常を映していない。
司令部: D-2672、慌てるな。何を見たのか説明してくれ。
D-2672: 誰かいる。ここはアンタらが板張りにしてるから風なわけがねえ。
D-2672が棚をいくつか通過し、ドアを見つける。ドアの上部には "司書の部屋" と書かれた標識がある。
D-2672: 絶対誰かいる。ドアが開いてるんだ。入ったほうがいいか?
司令部: 少し待ってくれ。警備員に知らせているところだ。
5分間の沈黙。
エージェント ███: Dクラスを見つけました。
司令部: D-2672、エージェント █████、ドアを通ってくれ。エージェント ███、君はそこに残って、他に誰かいたら知らせてほしい。
エージェント ███: 了解。
エージェント █████がドアを開けると、薄暗い階段が露わになる。特筆すべき点として、この階段はこれまでのSCP-3267の探索において一度も発見されていない。D-2672がフラッドライトを持ってドアを通る。進入直後、ドアが大きな音を立てて閉まる。
D-2672: おい! ふざけてる場合じゃねえだろボケが! さっさとドアを開けろカス! (注記: この暴言はSCP-3267の異常効果を引き起こさなかった)
エージェント █████: 司令部、問題が発生しました。ドアがひとりでに閉まり、開けたら中が事務室になっていました。階段もありません。
司令部: 分かった。こちらではD-2672との通信は途絶えていない。別のチームを既に送っている。到着まで、階段の形跡が他に無いか探してみてくれ。
エージェント ███: 了解。
司令部: D-2672、ドアを開けられるか?
D-2672: ロックされてんだよ畜生! あのクソどもに開けるよう伝えろ!
司令部: 無理だ。君はどうやらポケットディメンションか、空間的アノマリーの中にいるらしい。君を見つけ出そうと努めているところだ。一先ず階段を進んでくれ。
D-2672: クソったれが! 俺が死んだら絶対てめえらをぶっ殺してやるからな。
D-2672が4階分の階段を下った後、踊り場に辿り着く。ビデオ映像に、書き物机と書棚が存在するひどく損傷した部屋が映し出される。机の上には羽ペン・インク瓶・火が付いた蝋燭・黒い筆記帳がある。筆記帳には "デイビッド・ウィリアムズ" という名前が書かれている。
D-2672: クソが。まるで千年前から誰も出入りしてねえみたいじゃねえか。
司令部: D-2672、その本を手に取って何か異常が無いか知らせてくれ。
D-2672が前述の筆記帳を手に取って開く。内面に濃い赤インクで名前が書かれている。
D-2672: ハッ。有名人ってか。"デイビッド"。
D-2672が書物とビデオレコーダーを落とす。
司令部: D-2672、何を見たのか説明してくれ。
D-2672: (動揺) スティーブン? スティーブンは何処だ? お前は誰なんだ? 答えろ!
司令部: D-2672、落ち着くんだ。詳しく述べてくれ。
D-2672: スティーブンは何処だ? 私の息子に何をした? ここは一体何だ?
司令部での議論を経て、件の名前にはそれを大声で読み上げた人物に影響を及ぼすミーム効果があると理論付けられた。
司令部: 落ち着いて。我々は息子さんを探しています。貴方の素性を述べてください。
D-2672: 私はデイビッド・ウィリアムズ、スティーブンの父親だ。お前は何者だ?
司令部: 我々は警察です。貴方の息子さんが巻き込まれた事件の調査をしています。
D-2672: 嘘をつくな! 事件だと? 何の事件だ? 私は息子と四六時中一緒にいたんだぞ! 私の息子に何をした?
ビデオ映像が、無数の書物が本棚から落下して人型を形成する様子を捉える。恐らくはSCP-3267-2が出現したものと思われる。
D-2672: エリザベス? アイツらは君にも何かしたのか?
ページがめくれる音。
D-2672: 何だって? 何が成功したんだ?
ページがめくれる音。
D-2672: スティーブンは何処だ? スティーブンと一緒にいたのに気づいたらここにいた。
ページがめくれる音。
D-2672: どういう意味だ? スティーブンも連れ帰っている途中だって? (ギョッとする) クソが! おい司令部、何が起こったんだ? こっち来んじゃねえ、さもないと燃やすぞ! (光の移り変わりから、D-2672が蝋燭を手に取ってSCP-3267-2の方に向かっているものと思われる)
D-2672との通信が途絶える。
司令部: エージェント █████、ドアの所に戻ってD-2672を見つけ出すよう努めてくれ。
エージェント █████: 了解です。
エージェント ███: 待て█████、聞こえるか?
警備員との通信が途絶える。
[ログ終了]
通信が途切れてから約1分後の2258に、SCP-3267の入り口が、10,191冊のSCP-3267-1実例の力を受けて勢いよく押し開かれました。対応チームが即座に送られ、当インシデントを解決しました。幸運にも目撃した民間人はいなかったため、当インシデントはガス爆発として隠蔽されました。
D-2672は瓦礫の中から発見され、意識不明の状態でありながらも生存していました。D-2672の身体には黒いインクで様々な題辞が書かれていました。この題辞は多種多様なSCP-3267-1実例からの引用であり、その多くがD-2672の近辺で発見されたものでした。これらの引用はほとんどが救助を要請するものでしたが、"デイビッド" という名前が書かれた実例もいくつか発見されました。インクは非異常であると判明し、正常に除去されました。D-2672は4日後に回復したものの、書物を開いてからの出来事の記憶が欠落していました。警備員も同様に瓦礫の中から発見されましたが、軽傷にとどまっており、異常も確認されませんでした。
その後の調査では問題の時空間異常を発見できませんでした。スキャンでは階段とその先にある部屋の位置を特定できないことが示されており、問題のノートブックも回収されていません。
付記: アルベルト・クーパーは、デイビッド・ウィリアムズとスティーブン・ウィリアムズがそれぞれエリザベス・クーパーの夫と息子であると認めています。エリザベスとデイビッドは18██年に離婚し、その後デイビッドは息子と共に███の███ ██████へ移り住みました。両者ともに19██年の自動車事故で死亡しています。